説明

ステアリングホイールの芯金及びステアリングホイールの芯金の製造方法

【課題】スポーク部芯金によりリム部芯金を鋳ぐるむ際のリム部芯金の変形を抑制させることができるステアリングホイールの芯金を提供する。
【解決手段】リム部芯金16は、スポーク部芯金18にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部25のスポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が、スポーク部芯金18の射出方向と対向する方向に凸状となるように予めかしめられて凹み部30が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員が操作するステアリングホイールの芯金及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールでは、環状のリム部と、このリム部の略中央に配置されるボス部と、このボス部から径方向外側に延びてボス部とリム部とを連結するスポーク部が備えられている。また、リム部には環状のリム部芯金が配置されており、このリム部芯金の一部をスポーク部のスポーク部芯金の先端側で鋳ぐるんでステアリングホイールの芯金が形成されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記のステアリングホイールの芯金は、リム部芯金の一部をスポーク部のスポーク部芯金にて鋳ぐるむ場合に、ボス部芯金側から溶解させた例えばアルミニウム合金等の金属(溶湯)を圧入し、リム部芯金側に向けて射出することでスポーク部芯金が成形される。このため、リム部芯金、スポーク部芯金及びボス部芯金が一体となったステアリングホイールの芯金が得られる。
【特許文献1】特開平5−672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ボス部芯金側から溶解させた金属を射出する場合、リム部芯金の厚みや材質の強度等の条件によっては、鋳ぐるむ際の射出圧に耐えられずリム部芯金が潰れて変形したり、最悪の場合亀裂が発生し、リム部芯金内部に溶解させた金属が流入してしまう虞がある。特に、リム部芯金内にステアリングホイールの振動を減衰させるダイナミック・ダンパ等を設ける構成のステアリングホイールでは、リム部芯金の径を広げつつ、径方向の厚み(肉厚)を薄くする必要があるため、亀裂の発生が起きやすくなる。これにより、リム部芯金内部に溶解させた金属が流入してダイナミック・ダンパの性能を発揮できないことが考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、スポーク部芯金によりリム部芯金を鋳ぐるむ際のリム部芯金の変形を抑制させることができるステアリングホイールの芯金及びステアリングホイールの芯金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ステアリングシャフトと連結されるボス部芯金を有するボス部と、円環状のリム部芯金を有するリム部と、前記ボス部から前記リム部側に延びて連結されるスポーク部芯金を有するスポーク部とにより構成され、前記スポーク部芯金の溶湯が前記ボス部芯金側から前記リム部芯金側に向けて射出されるとともに前記リム部芯金の一部が前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれてなるステアリングホイールの芯金であって、前記リム部芯金は、その中心軸と直交する方向に切った断面が中空の円形状をなすものであり、前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部の前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が、前記スポーク部芯金の射出方向と対向する方向に凸状となるように凹み部を形成することをその要旨とする。
【0007】
この発明では、リム部芯金は、その中心軸と直交する方向に切った断面が中空の円形状をなすものであり、スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部のスポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が、スポーク部芯金の射出方向と対向する方向に凸状となるように凹み部が形成される。つまり、スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる前に、射出方向側に凸状となるように形成することで、スポーク部芯金の溶湯の射出圧による応力を受けにくい(逃がす)形状とすることができる。そのため、スポーク部芯金によりリム部芯金を鋳ぐるむ際のリム部芯金の変形を抑制させることができる。また、リム部芯金の変形を抑えることで亀裂の発生も抑制することができるため、リム部芯金の内部にスポーク部芯金の溶湯が流入されることが抑制されるため、スポーク部芯金の溶湯の使用量を抑えることができ、より安価にステアリングホイールの芯金を提供することができる。また、ダイナミック・ダンパ等の制振機構をリム部芯金内部に設ける構成のステアリングホイールであっても、亀裂の発生を抑えてスポーク部芯金の溶湯の流入が抑制されるため、制振性能を発揮することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のステアリングホイールの芯金において、前記凹み部は、前記被鋳ぐるみ部の前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が凸状となるその両側に形成されることをその要旨とする。
【0009】
この発明では、凹み部は、被鋳ぐるみ部のスポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が凸状となるその両側に形成される。これにより、リム部芯金側に射出されるスポーク部芯金の溶湯を2つの凹み部にて分散させ、その凹み部及びリム部芯金にかかる応力を分散させることができるため、リム部芯金の変形をより好適に抑制させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のステアリングホイールの芯金において、前記凹み部は、前記スポーク部芯金の射出方向に延びて前記リム部芯金の中心軸を通る直線に対して対称となるように形成されることをその要旨とする。
【0011】
この発明では、凹み部は、スポーク部芯金の射出方向に延びてリム部芯金の中心軸を通る直線に対して対称となるように形成される。これにより、2つ形成される凹み部にかかる応力を均等とすることができ、例えば、一方の凹み部だけに応力がかかるということを防止でき、より好適にリム部芯金の変形及び亀裂の発生を抑えることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のステアリングホイールの芯金において、前記凹み部は、前記スポーク部芯金の射出方向と直交し前記リム部芯金の中心軸を通る直線よりも射出方向の下流側に亘って変形されて構成されることをその要旨とする。
【0013】
この発明では、凹み部は、スポーク部芯金の射出方向と直交しリム部芯金の中心軸を通る直線よりも射出方向の下流側に亘って変形されて形成される。つまり、スポーク部芯金の射出方向と直交しリム部芯金の中心軸を通る直線よりも射出方向の下流側に亘って変形されるような凹み部とすることで、凹み部を射出方向に対して緩やかな傾斜形状とされるため、凹み部にかかる応力を受けにくい形状となり、より好適にリム部芯金の変形を抑制させることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のステアリングホイールの芯金において、前記被鋳ぐるみ部は、前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状において、射出方向の上流側の一部を含む変形部位と、射出方向の下流側の一部を含む非変形部位とで構成されることをその要旨とする。
【0015】
この発明では、被鋳ぐるみ部は、スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状において、射出方向の上流側の一部を含む変形部位と、射出方向の下流側の一部を含む非変形部位とで構成される。つまり、射出方向の上流側のリム部芯金を中心として変形させ、射出方向の下流側は非変形とし、下流側については特に加工を行わない簡易な構成においても射出される溶湯によりかかる応力を逃がす形状とすることができる。そのため、リム部芯金の変形を抑制させることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、ステアリングシャフトと連結されるボス部芯金を有するボス部と、円環状のリム部芯金を有するリム部と、前記ボス部から前記リム部側に延びて連結されるスポーク部芯金を有するスポーク部とにより構成され、前記スポーク部芯金の溶湯が前記ボス部芯金側から前記リム部芯金側に向けて射出されるとともに前記リム部芯金の一部が前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれてなるステアリングホイールの芯金の製造方法であって、前記リム部芯金は、前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部の前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が、前記スポーク部芯金の射出方向と対向する方向に凸状となるように、鋳ぐるむ前に予めかしめて凹み部を形成することをその要旨とする。
【0017】
この発明では、リム部芯金は、スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部のスポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が、スポーク部芯金の射出方向と対向する方向に凸状となるように、鋳ぐるむ前に予めかしめられて凹み部が形成される。つまり、スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる前に、射出方向側に凸状となるように予めかしめを行うことで、スポーク部芯金の溶湯の射出圧による応力を受けにくい(逃がす)形状とすることができる。そのため、スポーク部芯金によりリム部芯金を鋳ぐるむ際のリム部芯金の変形を抑制させることができる。また、リム部芯金の変形を抑制させることで亀裂の発生を抑えることができるため、リム部芯金の内部にスポーク部芯金の溶湯が流入されることが抑制されるため、スポーク部芯金の溶湯の使用量を抑えることができるため、より安価にステアリングホイールの芯金を提供することができる。また、ダイナミック・ダンパ等の制振機構をリム部芯金内部に設ける構成のステアリングホイールであっても、亀裂の発生を抑えてスポーク部芯金の溶湯の流入が抑制されるため、制振性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0018】
従って、上記記載の発明によれば、スポーク部芯金によりリム部芯金を鋳ぐるむ際の亀裂の発生を抑制させることができるステアリングホイールの芯金及びステアリングホイールの芯金の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、車両の運転席の前方には、後側ほど高くなるように傾斜した状態でステアリングシャフト11が回転可能に設けられており、このステアリングシャフト11の後端部にステアリングホイール12が取付けられている。ステアリングホイール12は、円環状をなすリム部(リング部と呼ばれる場合もある)13と、リム部13の略中央位置に配置されるボス部14と、リム部13及びボス部14を連結する複数本(図1では3本)のスポーク部15とを備えて構成されている。
【0020】
尚、リム部13における周方向の位置を特定するために、本実施形態では、車両が直進しているときの状態(中立状態)を基準に、ステアリングシャフト11の軸方向視で「上」、「下」、「左」、「右」を規定するものとする。
【0021】
ステアリングホイール12の上記構成部材(リム部13、ボス部14及びスポーク部15)の各内部には、鉄、アルミニウム、マグネシウム、又はこれらの合金等の金属材料によって形成されたステアリングホイール12の芯金12aが配設されている。ステアリングホイール12の芯金12aはステアリングホイール12の骨格部分をなすものであり、図2に示すように円環状のリム部芯金16と、リム部芯金16の略中心部分に位置し、上記ステアリングシャフト11に対し一体回転可能に取付けられるボス部芯金17と、リム部芯金16及びボス部芯金17を連結するスポーク部芯金18,19,20とを備えている。
【0022】
リム部芯金16は、鉄製のパイプ材(丸パイプ、つまりパイプの中心軸線CL2と直交する方向の断面形状が中空の円筒に形成されたパイプ材)21を加工することにより形成され、ステアリングシャフト11の軸線CL1に直交する断面において円環状(円形)をなしている。上記パイプ材21の周方向についての両方の開口端21A,21B(図3参照)は溶接により相互に接合されており、リム部芯金16は無端状をなしている。
【0023】
図2に示すように、スポーク部芯金18〜20は、アルミニウム合金等の比較的比重の小さな金属材料を用い、例えばダイカスト成形鋳造法により一体に形成されている。より詳しくは、スポーク部芯金18〜20は、例えば図示しない成形型にリム部芯金16及びボス部芯金17をセットし、ボス部14側から溶解したアルミニウム合金(溶湯)が圧入されるとともに、リム部芯金16の所定位置に向けて射出され、リム部芯金16がスポーク部芯金18〜20の先端の鋳ぐるみ部22〜24に鋳ぐるまれて成形される。
【0024】
図2において二点鎖線で示すように、リム部芯金16の一部(上部)には、ダイナミック・ダンパからなる制振機構Dが組み込まれている。制振機構Dは、リム部13の周方向及び上下方向の各振動を抑制するための機構である。ここで、車両の走行中、タイヤにバランスウエイトの脱落等によって回転アンバランスが生ずると、その回転アンバランスに起因する振動がステアリングシャフト11を介してステアリングホイール12に伝達される。この伝達によりリム部13に発生する振動が、上記リム部13の周方向の振動(フラッター振動)である。また、上記リム部13の上下方向の振動は、車両のアイドリング時等において、エンジンからステアリングシャフト11等を介してリム部13に伝達される振動である。
【0025】
また、図3(a)に示すように、リム部芯金16は、スポーク部芯金18の鋳ぐるみ部22,23,24により鋳ぐるまれる被鋳ぐるみ部25において、予め、所定量のかしめを行い凹み部30を例えば鋳ぐるみ部22,23,24により鋳ぐるまれる被鋳ぐるみ部25のそれぞれに3つずつ形成し、図3(b)に示すようにリム部芯金16の射出方向に切った断面形状がスポーク部芯金18(アルミニウム合金を溶解させた溶湯)の射出方向に対向する凸状となるよう形成されている。凹み部30は、スポーク部芯金18(溶湯)の射出方向に延び、リム部芯金16の径方向の中心軸線CL2を通る直線L1に対して対称となるように形成されている。また、凹み部30は、スポーク部芯金18の射出方向と直交しリム部芯金16の中心軸線CL2を通る直線L2よりも射出方向の下流側に亘って変形されて形成される。尚、凹み部30は、射出方向に切った断面形状において、上流側を中心としてリム部芯金16の径方向の中心軸線CL2側にかしめて変形させ、被鋳ぐるみ部25の射出方向に切った断面形状においてその下流側は非変形部位に構成されている。
【0026】
このように、リム部芯金16の一部をスポーク部芯金18側に凸状とすることで、スポーク部芯金18をダイカスト成形する際に、その射出圧によりリム部芯金16及び凹み部30にかかる応力を逃がす形状とすることができる。
【0027】
尚、図示はしないが、リム部芯金16の全体、及び鋳ぐるみ部22〜24は、断熱性、弾性等に富んだ合成樹脂等によって取り囲まれ、さらにその外側に皮革等からなる表皮が被せられている。
【0028】
次に、本実施形態のリム部芯金16の形状について、図4〜図6を用いて本実施形態以外の形状と比較して説明する。
本発明者は、スポーク部芯金18の鋳ぐるみ部22,23により鋳ぐるまれる被鋳ぐるみ部25(凹み部30)の効果的な形状を設定するにあたり、先ずかしめ量及びそのかしめによるリム部芯金16にかかる応力の分布について、シミュレーションにより調査した。しかしながら、図3に示すように、軸線CL1と直行する断面が環状のリム部芯金16であることから調査する領域が若干の円弧状領域となり計算が煩雑となることを避けるため、調査する領域をその円弧状領域と近似する矩形状領域、つまりリム部芯金16の一部を直線円筒状に設定してシミュレーションを行った。
【0029】
図4(a)には、本実施形態のリム部芯金の形状を示し、細線にて凹み部30を形成した際のリム部芯金16の応力分布を示している。図5(a)及び図6(a)には、比較例としてのリム部芯金の形状を示し、図4(a)同様に細線にて凹み部30を形成した際のリム部芯金16の応力分布を示している。尚、リム部芯金の応力分布の段階は、小さい方から順に「A1」、「A2」、「A3」、・・・「A8」、「A9」、「A10」までの10段階となっており、これら記号を図4(a)、図5(a)、図6(a)に適宜付している。
【0030】
本実施形態のリム部芯金16の断面形状は、リム部芯金16の周方向においてその大半が中空の円形状となっているが、スポーク部芯金18の先端の鋳ぐるみ部22,23により鋳ぐるまれる被鋳ぐるみ部25(凹み部30)を径方向中心(リム部芯金16の中心軸線CL2)側にかしめられるかしめ代40が5mm程度、且つ、そのかしめた凹み部30の凹み部径Rが半径10mm程度となるようにかしめてスポーク部芯金18(ボス部14)側に凸状となるように変形させている。尚、凹み部30以外のリム部芯金16の断面の直径41は19.1mm程度であり、リム部芯金16の肉厚部42は1.2mm程度とし、図5(a)及び図6(a)においても同じである。
【0031】
また、図5(a)に示す比較例の凹み部30を径方向中心(中心軸線CL2)側にかしめられるかしめ代50が7.53mm程度となるようにかしめ、凹み部30を90度異なる位置に4つ(図中2つのみ図示)形成し、その断面が中空無しの十字状となるように変形させている。また、図6(a)に示す比較例の凹み部30を径方向中心(中心軸線CL2)側にかしめられるかしめ代60が3.6mm程度となるようにかしめ、凹み部30を90度異なる位置に4つ(図中2つのみ図示)形成し、図5(a)に示す比較例よりも中空で断面が十字状となるように変形させている。
【0032】
ここで、図4(a)、図5(a)、図6(a)から分かるように、かしめ量が大きいほどそのリム部芯金16にかかる応力が大きくなり、例えば図5(a)の様な断面十字状の場合では、広い領域に亘って変形しており、領域の端部側では「A3」の応力となっている。また、図4(a)及び図6(a)では、図5(a)と比較してリム部芯金16の応力は小さく、領域の端部側では「A1」、「A2」といった比較的小さな応力となっていることが分かる。尚、凹み部30の周方向幅部43を10mmとなるようにかしめた場合、図4(a)の条件においてはリム部芯金16の周方向変形部44が周方向に90mm程度変形し、図5(a)の条件においてはリム部芯金16の周方向変形部51が周方向に100mm以上変形し、図6(a)の条件においてはリム部芯金16の周方向変形部61が周方向に35mm程度の変形となっている。そのため、例えば図5(a)の条件においては、周方向に変形しているため、特に溶湯を射出させてリム部芯金16を鋳ぐるむ際の周方向幅が長くなり、所謂バリの発生量が増える傾向にある。その一方で、図6(a)の条件においては、図5(a)と比較した場合に、周方向に変形する範囲が狭いため、前述したバリの発生量が抑えられる傾向にある。
【0033】
次に、スポーク部芯金の成型時の射出圧による凹み部30の断面形状においての変化について、シミュレーションにより調査した。尚、射出圧の条件を600kgf/cm(約58.8MPa)とし、リム部芯金16に対して所定方向から約10mm×40mm(面積400mm)の射出面積で射出を行った場合のシミュレーションである。
【0034】
図4(b)には、図4(a)のリム部芯金16(凹み部30)に対して所定の射出圧で応力をかけた場合のその応力によって変形した断面形状を示し、細線にて射出圧によりリム部芯金16(凹み部30)の応力分布を示している。図5(b)には、図5(a)のリム部芯金(凹み部)に対して所定の射出圧で応力をかけた場合のその応力によって変形した断面形状を示し、図6(b)には、図6(a)のリム部芯金(凹み部)に対して所定の射出圧で応力をかけた場合のその応力によって変形した断面形状を示し、それぞれは細線にて凹み部30を形成した際のリム部芯金の応力分布を示している。また、各図において、破線にて変形前の凹み部30の断面形状を示している。尚、リム部芯金の応力分布の段階は、小さい方から順に「B1」、「B2」、「B3」、・・・、「B8」、「B9」、「B10」までの10段階となっており、これら記号を図4(b)、図5(b)、図6(b)に適宜付している。
【0035】
ここで、図4(b)では、図6(b)と比較して分かるように、例えば応力分布が最高の「B10」(黒く塗りつぶされた箇所)であるその面積が小さいためリム部芯金に加わる応力が小さく、スポーク部芯金成型時の射出圧によるリム部芯金の亀裂の発生が抑制されるという結果が得られた。これは、図4(b)における凹み部30の凹みの量(かしめ量)自体は図6(b)と比較して大きいものの、図4(b)における凹み部30の断面形状(凹み部径41)が半径10mm程度の円弧状、つまり図4(b)における凹み部30は射出方向に対して緩やかな傾斜形状に変形されていることにあり、射出によってかかる応力を逃がす形状にされているためである。
【0036】
一方、図5(b)では、図4(b)及び図6(b)と比較して分かるように、応力分布の主体が「B3」〜「B6」(ドットで網掛けされた箇所)であり、比較的小さいことがわかる。これは、中空構造であるパイプ材から構成されたリム部芯金16の凹み部30を形成する際に、中空(隙間)部分が限りなく無くなるように変形させており、そのため、リム部芯金16の剛性を高くでき、変形を起こしにくい構造となっている。しかしながら、凹み部30の形成時に中空部分を無くそうとすると、凹み部30において中心軸線CL2と直交する方向の長さが短くなり、例えばリム部芯金16の外周をウレタン等の合成樹脂等で被膜する際に凹み部30にも合成樹脂を充填しなければならず、その樹脂の使用量が増すこととなる。これに比べ、図4(b)の構成では、中空部分を有しているため、凹み部30に充填する合成樹脂の良は図5(b)の条件と比較して使用量を極力抑えることが可能となる。
【0037】
上述したことから、本発明者は、材質が鉄、直径41が19.1mm、肉厚部42が1.2mmとされたリム部芯金16に対し、溶解させたアルミニウム合金を約600kgf/cmの射出圧で約10mm×40mmの面積に射出する場合において、リム部芯金16の径方向中心(リム部芯金16の中心軸線CL2)側にかしめられるかしめ代40が5mm程度の凹み部30を設けるとともに、その凹み部30を射出方向に切った際の断面形状(凹み部径R)が半径10mm程度の円弧状となるようにかしめて断面のおおまかな形状がスポーク部芯金18(ボス部14)側に凸状となるような構成を最も効果的な構成として採用している。尚、凸状の詳細の構成としては、材質、寸法及び射出圧等の条件の変更によって変更され、シミュレーション条件により適宜変更されるものである。
【0038】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)リム部芯金16は、その中心軸線CL2と直交する方向に切った断面が中空の円形状をなすものであり、スポーク部芯金18にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部25のスポーク部芯金18の射出方向で切った断面形状が、スポーク部芯金18の射出方向と対向する方向に凸状となるように予めかしめられて凹み部30が形成される。つまり、スポーク部芯金18にて鋳ぐるまれる前に、射出方向側に凸状となるように形成することで、スポーク部芯金18の溶湯の射出圧による応力を受けにくい(逃がす)形状とすることができる。そのため、スポーク部芯金18によりリム部芯金16を鋳ぐるむ際のリム部芯金16の変形を抑制させることができる。また、リム部芯金16の変形を抑えることで亀裂の発生を抑えることができるため、リム部芯金16の内部にスポーク部芯金18の溶湯(アルミニウム合金を溶解させたもの)が流入されることが抑制されるため、スポーク部芯金18の溶湯の使用量を抑えることができるため、より安価にステアリングホイール12の芯金12aを提供することができる。また、ダイナミック・ダンパ等の制振機構Dをリム部芯金16内部に設ける本実施形態のステアリングホイール12であっても、亀裂の発生を抑えてスポーク部芯金18の溶湯の流入が抑制されるため、制振機構Dの制振性能を発揮することができる。
【0039】
(2)凹み部30は、被鋳ぐるみ部25のスポーク部芯金18の射出方向で切った断面形状(図3(b)参照)が、凸状となるその両側に形成される。これにより、リム部芯金16側に射出されるスポーク部芯金18の溶湯を2つの凹み部30にて分散させ、その凹み部30及びリム部芯金16にかかる応力を分散させることができるため、リム部芯金16の変形をより好適に抑制させることができる。
【0040】
(3)凹み部30は、スポーク部芯金18の射出方向に延びてリム部芯金16の中心軸線CL2を通る直線L1に対して対称となるように形成される。これにより、2つ形成される凹み部30にかかる応力を均等とすることができ、例えば、一方の凹み部30だけに応力がかかるということを防止でき、より好適にリム部芯金16の変形及び亀裂の発生を抑えることができる。
【0041】
(4)凹み部30は、スポーク部芯金18の射出方向と直交しリム部芯金16の中心軸線CL2を通る直線L2よりも射出方向の下流側に亘って変形されて形成される。つまり、スポーク部芯金18の射出方向と直交しリム部芯金16の中心軸線CL2を通る直線L2よりも射出方向の下流側に亘って変形されるような凹み部30とすることで、凹み部30を射出方向に対して緩やかな傾斜形状とされるため、凹み部30にかかる応力を受けにくい形状となり、より好適にリム部芯金16の変形を抑制させることができる。
【0042】
(5)被鋳ぐるみ部25は、スポーク部芯金18,19,20の射出方向で切った断面形状において、射出方向の上流側の一部を含む変形部位と、射出方向の下流側の一部を含む非変形部位とで構成される。つまり、凹み部30にて射出方向の上流側のリム部芯金16を中心として変形させ、射出方向の下流側は非変形とし、下流側については特に加工を行わない簡易な構成においても射出される溶湯によりかかる応力を逃がす形状とすることができる。そのため、リム部芯金16の変形を抑制させることができる。
【0043】
(6)スポーク部芯金18により鋳ぐるむ前に、リム部芯金16をかしめて凹み部30を形成することで、リム部芯金16としての剛性を高めることができる。
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
【0044】
・上記実施形態では、凹み部30をリム部芯金16の周方向に3つ形成したが、2つ以下若しくは4つ以上凹み部30を形成してもよい。
・上記実施形態では、凹み部30を被鋳ぐるみ部25のスポーク部芯金18の射出方向で切った断面形状(図3(b)参照)が、凸状となるその両側に形成される構成としたが、これに限らない。つまり、凹み部30をスポーク部芯金18の射出方向で切った断面形状において2つ形成して凸状とするのではなく、1つ形成して凸状としてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、図3(b)に示したように、凹み部30を被鋳ぐるみ部25のスポーク部芯金18の射出方向で切った断面形状が、直線L1に対して対称となるような構成としたが、これに限らない。つまり凹み部30を直線L1に対して対称とならない構成としてもよい。
【0046】
・上記実施形態では、図3(b)に示したように、リム部芯金16(被鋳ぐるみ部)溶湯が射出される射出方向の下流側の一部を非変形部位とした簡易な構成を採用しているが、下流側の一部を変形させた構成を採用してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、鋳ぐるみ部22〜24を3つ(3本スポーク)で構成したが、これに限らない。また、鋳ぐるみ部22〜24により鋳ぐるまれる被鋳ぐるみ部25の全てに凹み部30を設ける構成としたが、これに限らない。
【0048】
・上記実施形態では、凹み部30をかしめにて形成する構成としたが、かしめ以外の方法を用いて凹み部30を形成してもよい。
・上記実施形態では、スポーク部芯金18の材質としてアルミニウム合金を用いたが、これに限らず、マグネシウム合金やその他金属を用いてもよい。
【0049】
・上記実施形態では、ダイナミック・ダンパからなる制振機構Dを設ける構成としたが、設けなくてもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
【0050】
(イ) 請求項1〜4に記載のステアリングホイールの芯金の外表面を外皮材により被覆して構成したことを特徴とするステアリングホイール。
これにより、請求項1〜4に記載の効果と同様の効果を奏することができるステアリングホイールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態におけるステアリングホイールを示す正面図。
【図2】同上におけるステアリングホイール内の芯金を示す正面図。
【図3】(a)(b)同上におけるリム部芯金及びその断面形状を説明するための説明図。
【図4】(a)(b)は、リム部芯金のシミュレーション結果について説明するための説明図。
【図5】(a)(b)は、リム部芯金のシミュレーション結果について説明するための説明図。
【図6】(a)(b)は、リム部芯金のシミュレーション結果について説明するための説明図。
【符号の説明】
【0052】
11…ステアリングシャフト、12…ステアリングホイール、12a…芯金、13…リム部、14…ボス部、15…スポーク部、16…リム部芯金、17…ボス部芯金、18,19,20…スポーク部芯金、22,23、24…鋳ぐるみ部、25…被鋳ぐるみ部、30…凹み部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトと連結されるボス部芯金を有するボス部と、円環状のリム部芯金を有するリム部と、前記ボス部から前記リム部側に延びて連結されるスポーク部芯金を有するスポーク部とにより構成され、前記スポーク部芯金の溶湯が前記ボス部芯金側から前記リム部芯金側に向けて射出されるとともに前記リム部芯金の一部が前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれてなるステアリングホイールの芯金であって、
前記リム部芯金は、その中心軸と直交する方向に切った断面が中空の円形状をなすものであり、前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部の前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が、前記スポーク部芯金の射出方向と対向する方向に凸状となるように凹み部を形成することを特徴とするステアリングホイールの芯金。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリングホイールの芯金において、
前記凹み部は、前記被鋳ぐるみ部の前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が凸状となるその両側に形成されることを特徴とするステアリングホイールの芯金。
【請求項3】
請求項2に記載のステアリングホイールの芯金において、
前記凹み部は、前記スポーク部芯金の射出方向に延びて前記リム部芯金の中心軸を通る直線に対して対称となるように形成されることを特徴とするステアリングホイールの芯金。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のステアリングホイールの芯金において、
前記凹み部は、前記スポーク部芯金の射出方向と直交し前記リム部芯金の中心軸を通る直線よりも射出方向の下流側に亘って変形されて構成されることを特徴とするステアリングホイールの芯金。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のステアリングホイールの芯金において、
前記被鋳ぐるみ部は、前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状において、射出方向の上流側の一部を含む変形部位と、射出方向の下流側の一部を含む非変形部位とで構成されることを特徴とするステアリングホイールの芯金。
【請求項6】
ステアリングシャフトと連結されるボス部芯金を有するボス部と、円環状のリム部芯金を有するリム部と、前記ボス部から前記リム部側に延びて連結されるスポーク部芯金を有するスポーク部とにより構成され、前記スポーク部芯金の溶湯が前記ボス部芯金側から前記リム部芯金側に向けて射出されるとともに前記リム部芯金の一部が前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれてなるステアリングホイールの芯金の製造方法であって、
前記リム部芯金は、前記スポーク部芯金にて鋳ぐるまれる位置である被鋳ぐるみ部の前記スポーク部芯金の射出方向で切った断面形状が、前記スポーク部芯金の射出方向と対向する方向に凸状となるように、鋳ぐるむ前に予めかしめて凹み部を形成することを特徴とするステアリングホイールの芯金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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