説明

ステアリング装置用トルク伝達装置

【課題】構成部材に衝撃的なトルクが加わった場合に、その事を運転者が容易に認識できるステアリング装置を得られるステアリング装置用トルク伝達装置を実現する。
【解決手段】ヨーク10の雌スプライン部14とシャフト11の雄スプライン部16との係合部に、互いの歯17、18aが周方向のがたつきを生じる事なく係合している第一領域と、互いの歯17、18が周方向の隙間を介して係合している第二領域とを設ける。衝突事故等により前記ヨーク10と前記シャフト11との間に、閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わる事に起因して、前記第一領域で前記各歯17、17の一部分が脱落する等に基づき、前記ヨーク10と前記シャフト11とが、前記第二領域に存在する周方向の隙間の分だけ相対回転可能となる様にする。この結果、ステアリングホイールの遊び量が増大する等の変化が生じる為、前記衝撃的なトルクが加わった事が分かる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両(自動車)の操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、通常は前輪)に舵角を付与する為のステアリング装置を構成して、ステアリングホイールの動きをステアリングギヤユニットに伝達するトルク伝達装置の改良に関する。具体的には、衝突事故や、運転操作の誤りにより操舵輪を縁石に乗り上げる等により、前記ステアリングギヤユニットの側から、前記ステアリング装置の構成部品の損傷に結び付く様な衝撃が加わった場合に、運転操作を可能にしつつ、この様な衝撃が加わった事実を運転者に分かる様にするものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置として、例えば図11に示す様な構造が、広く知られている。このステアリング装置は、車体1に支持された円筒状のステアリングコラム2の内径側にステアリングシャフト3を、回転自在に支持している。そして、このステアリングコラム2の後端開口よりも後方に突出した、前記ステアリングシャフト3の後端部分に、ステアリングホイール4を固定している。このステアリングホイール4を回転させると、この回転が、前記ステアリングシャフト3、自在継手5a、中間シャフト6、別の自在継手5bを介して、ステアリングギヤユニット7の入力軸8に伝達される。この入力軸8が回転すると、このステアリングギヤユニット7の両側に配置された1対のタイロッド9、9が押し引きされて左右1対の操舵輪に、前記ステアリングホイール4の操作量に応じた舵角が付与される。
【0003】
上述の様なステアリング装置には、前記ステアリングホイール4から前記入力軸8までの間に、それぞれが操舵の為のトルクを伝達する部材同士の結合部が、複数箇所存在する。例えば、前記両自在継手5a、5bを構成するヨークの基端部と、これら両自在継手5a、5bにより結合されるシャフトの端部(前記ステアリングシャフト3の前端部、前記中間シャフト6の両端部、前記入力軸8の基端部)との結合部も、上述の様な結合部に該当する。この様なシャフトと自在継手のヨークとの結合部に関しては、従来から、これらシャフトの先端部とヨークの基端部とを、締り嵌めによる嵌合、セレーション嵌合、溶接、かしめ、これらの併用等(例えば特許文献1、2参照)により、回転方向の相対変位を完全に阻止した状態で、トルク伝達可能に結合している。
【0004】
上述の様なステアリング装置を搭載した車両が衝突事故を起こしたり、運転操作の誤りにより操舵輪を縁石に乗り上げたりした場合、前記ステアリングギヤユニット7の側から前記ステアリング装置の構成部材に、衝撃的なトルクが加わる場合がある。そして、この様な衝撃的トルクに基づいて、この構成部材の全部又は一部が損傷し、継続的な安全運行に支障をきたす可能性がある。この様な場合に、使用者が当該車両を修理工場に持ち込んで、直ちに検査、修理を受ければ良いが、一部の使用者は、特に異常を感じないで、そのまま車両の使用を継続する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−291679号公報
【特許文献2】特開2007−40420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、構成部材に衝撃的なトルクが加わった場合に、加わった事実を運転者が容易且つ確実に認識できるステアリング装置を得られるステアリング装置用トルク伝達装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のステアリング装置用トルク伝達装置は、互いに同心に配置されてトルクの伝達方向に関して互いに直列に接続された、第一、第二両トルク伝達部材を備える。そして、ステアリングホイールの動きをステアリングギヤユニットの入力軸に伝達するトルク伝達機構の途中に設けられて、前記ステアリングホイールとこの入力軸との間でのトルク伝達に供される。
【0008】
特に、本発明のステアリング装置用トルク伝達装置に於いては、前記第一トルク伝達部材の一部に形成された結合孔と、前記第二トルク伝達部材の一部に形成されると共に、この結合孔の内側に挿入された結合杆部とを備える。このうちの結合孔の内周面には、周方向に関して凹凸に形成された、孔側凹凸部が設けられている。又、前記結合杆部の外周面には、周方向に関して凹凸に形成され、前記孔側凹凸部と凹凸係合した、軸側凹凸部が設けられている。又、これら孔側、軸側両凹凸部同士の凹凸係合部には、これら孔側、軸側両凹凸部同士が周方向のがたつきを生じる事なく凹凸係合した第一領域と、同じく周方向の隙間をあけて凹凸係合した第二領域とが存在している。そして、前記第一、第二両トルク伝達部材は、これら第一、第二両トルク伝達部材同士の間に閾値を超える大きさのトルクが加わる事に起因して、前記第一領域で前記孔側、軸側両凹凸部の少なくとも一部分が塑性変形若しくは脱落(分離、欠損)する事に基づき、前記第二領域に存在する前記周方向の隙間の分だけ、相対回転可能になる。又、前記閾値は、車両が停止した状態で前記ステアリングホイールを操作した場合にこのステアリングホイールから前記入力軸に伝達される、平常時最大伝達トルク以上の大きさに設定されている。
【0009】
この様な本発明を実施する場合には、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記孔側、軸側両凹凸部のうち、何れか一方の凹凸部を構成する各凸部の高さを総て等しくすると共に、他方の凹凸部を構成する各凸部のうち、前記第一領域に存在する凸部の高さを、前記第二領域に存在する凸部の高さよりも低くする。これにより、それぞれが前記第一領域に存在する、前記孔側、軸側両凹凸部を構成する各凸部の周方向側面同士の接触部である、第一接触部の面積を、それぞれが前記第二領域に存在する、前記孔側、軸側両凹凸部を構成する各凸部の周方向側面同士が接触する場合の接触部である、第二接触部の面積よりも狭くする。これにより、この第二接触部よりも前記第一接触部で、前記一方の凹凸部を構成する各凸部に塑性変形若しくは脱落が生じ易くなる様にする。
【0010】
又は、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記孔側、軸側両凹凸部のうちの何れか一方の凹凸部を構成する各凸部のうち、前記第一領域に存在する凸部の周方向幅を、前記第二領域に存在する凸部の周方向幅よりも小さくする。これにより、この第一領域に存在する凸部が、この第二領域に存在する凸部よりも脱落し易くなる様にする。
【0011】
本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記第一、第二両トルク伝達部材同士の間に、前記結合孔から前記結合杆部が抜け出る事を防止する為の抜け止め構造部を設ける。
又、本発明を実施する場合には、請求項5に記載した発明の様に、前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接する事もできる。
この場合に、好ましくは、請求項6に記載した発明の様に、前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接している溶接部の強度を、前記平常時最大伝達トルクでは破損せず、前記ステアリングギヤユニット側から前記第一、第二トルク伝達部材同士の間に加わる、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクにより破損する大きさとする。
【0012】
又、本発明を実施する場合の具体的形態としては、例えば請求項7に記載した発明の様に、前記第一トルク伝達部材と前記第二トルク伝達部材とのうちの一方のトルク伝達部材を自在継手のヨークとし、前記結合孔をこのヨークの基端部に形成する。同じく他方の部材をシャフトとし、前記結合杆部をこのシャフトの端部に設ける。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に構成する本発明のステアリング装置用トルク伝達装置によれば、このステアリング装置用トルク伝達装置を搭載した車両が衝突事故を起こしたり、或いは運転操作の誤りにより操舵輪を縁石に乗り上げたりする事で、ステアリング装置の構成部材に、閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わった場合に、加わった事実を運転者が容易に認識できる。
即ち、本発明の場合、初期状態では、孔側凹凸部と軸側凹凸部とが第一領域で周方向のがたつきを生じる事なく係合している為、これら孔側凹凸部と軸側凹凸部との係合状態が、周方向のがたつきを持たない係合状態になっている。これに対し、第一、第二両トルク伝達部材同士の間に前記衝撃的なトルクが加わると、前記第一領域で孔側凹凸部と軸側凹凸部とのうちの少なくとも一方が塑性変形若しくは脱落する事に基づいて、第二領域に存在する周方向の隙間の分だけ、前記第一、第二両トルク伝達部材が相対回転可能となる。言い換えれば、前記孔側凹凸部と前記軸側凹凸部との係合状態が、周方向のがたつきを持たない係合状態から、周方向のがたつきを持った係合状態に変化する。この結果、このがたつきの分だけ、ステアリングホイールの遊び(操舵輪の舵角変化に結び付かない操作範囲)が増加すると共に、場合によっては、前記がたつきに基づいて生じる振動が前記ステアリングホイールに伝わったり、このがたつきに基づいて生じる異音が車室内に響いたりする様になる。この様な状況の変化は、運転者が容易に感じ取れる為、運転者は、この様な状況の変化に基づいて、前記衝撃的なトルクが加わった事実を容易に認識できる。この為、運転者に、修理を促す事ができて、損傷した車両の運行を継続する事に伴う危険を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、シャフトとヨークとの結合部の断面図。
【図2】図1のa部拡大図。
【図3】図1の拡大b−b断面図。
【図4】図3のc部を、衝撃的なトルクが加わる事により雌スプライン歯の一部が欠損等する前の状態(A)と欠損等した後の状態(B)とで示す拡大図。
【図5】図4の(B)に示した状態から、ヨークとシャフトとが片側に相対回転した状態(A)と他側に相対回転した状態(B)とを示す図。
【図6】本発明の実施の形態の第2例を、衝撃的なトルクが加わる前の状態で示す、図1のb−b断面に相当する図。
【図7】同じく、衝撃的なトルクが加わる事により雄スプライン歯の一部が根元から破断した後の状態で示す、図6と同様の図。
【図8】本発明の実施の形態の第3例を示す、図2と同様の図。
【図9】同第4例を示す、図2と同様の図。
【図10】同第5例を示す、図1と同様の図。
【図11】従来から知られているステアリング装置の1例を示す部分切断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
図1〜5は、請求項1、2、4、7に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例は、自在継手を構成するヨーク10とシャフト11(ステアリングシャフト又は中間シャフト)との結合部に本発明の構造を適用した例である。尚、前記ヨーク10を含む自在継手の構造及び作用に就いては、従来から周知であるから、図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0016】
第一トルク伝達部材である、前記ヨーク10の基部12の径方向中央部に、結合孔13を、軸方向に形成している。この結合孔13の内周面に、孔側凹凸部である、雌スプライン部14を設けている。一方、第二トルク伝達部材である、前記シャフト11の先端部に、基端寄り部分に比べて外径が小さくなった、結合杆部15を形成している。この結合杆部15の外周面に、軸側凹凸部である、雄スプライン部16を設けている。そして、前記結合孔13の内側に前記結合杆部15を挿入する事により、前記雌スプライン部14と前記雄スプライン部16とを凹凸係合させている。
【0017】
本例の場合、これら雌、雄両スプライン部14、16同士の係合部に、これら雌、雄両スプライン部14、16同士が周方向のがたつきを生じる事なく係合した第一領域と、同じく周方向の隙間をあけて係合した第二領域とが存在する。この様な第一領域と第二領域とを設ける為に、本例の場合、前記雌スプライン部14を構成し、周方向に等ピッチで配置された複数の歯17、17の歯厚(周方向幅)を、総て等しくしている。これに対して、前記雄スプライン部16を構成し、周方向に等ピッチで配置された複数の歯18、18aのうち、径方向反対側に存在する2つの歯18a、18aの歯厚を、残りの各歯18、18の歯厚よりも大きくしている。そして、これら2つの歯18a、18aを、前記雌スプライン部14に対し、それぞれ図4の(A)に詳示する様に、周方向の締め代を持たせて、周方向のがたつきを生じる事なく係合(噛合)させている。これにより、前記2つの歯18a、18aと前記雌スプライン部14とが係合した部分を、それぞれ前記第一領域としている。又、前記雄スプライン部16を構成する残りの各歯18、18を、前記雌スプライン部14に対し、それぞれ図4の(A)に詳示する様に、これら各歯18、18の周方向両側に所定の大きさの隙間を介在させた状態で係合させている。これにより、これら各歯18、18と前記雌スプライン部14とが係合した部分を、それぞれ前記第二領域としている。更に、本例の場合、前記雌スプライン部14に関しては、前記各歯17、17の歯丈(径方向高さ)を総て等しくする一方で、前記雄スプライン部16に関しては、前記2つの歯18a、18aの歯丈(径方向高さ)を、前記残りの各歯18、18の歯丈よりも小さくしている。
【0018】
又、本例の場合、上述の様に結合孔13の内側に結合杆部15を挿入した状態で、この結合孔13から突出した、前記雄スプライン部16の先端縁部分に、径方向外方に突出するかしめ部19を、プレスかしめ加工により形成している。そして、このかしめ部19と、前記結合孔13の先端側の開口部の周囲部分に存在する段部20との係合に基づいて、前記結合杆部15が前記結合孔12から基端側に抜け出る事を防止できる様にしている。本例の場合には、これらかしめ部19と段部20とが、特許請求の範囲に記載した抜け止め構造部に相当する。
【0019】
又、本例の場合、前記ヨーク10と前記シャフト11との間に閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わる事に起因して、前記各第一領域で、前記雌スプライン部14を構成する各歯17、17のうち、前記雄スプライン部16を構成する2つの歯18a、18aの周方向両側面と対向する部分である、図4の(A)に斜格子を付して示す、これら両歯18a、18a毎に1対ずつのα部分が、それぞれ同図の(B)に示す様に、塑性変形して凹むか若しくは脱落して、凹部21、21が形成される様にしている。例えば、前記衝撃的なトルクが加わった場合に、先ず、前記1対のα部分のうちの何れか一方のα部分の少なくとも表層部が、前記各歯18aの周方向側面から強い衝撃荷重を受ける事で、塑性変形して凹むか若しくは脱落し、その後、前記各第一領域で周方向のがたつきが生じる事に基づいて、前記両α部分のうちの残部が、それぞれ前記各歯18aの周方向側面から強い衝撃荷重を繰り返し受ける事で、徐々に塑性変形して凹むか若しくは脱落し、前記各凹部21、21が形成される様にしている。この結果、図5の(A)(B)に示す様に、前記ヨーク10と前記シャフト11とが、前記各第二領域に存在する、前記各歯17、18同士の間の周方向の隙間の分だけ、相対回転可能となる様にしている。
【0020】
又、本例の場合、前記閾値は、車両が停止した状態で行うステアリングホイール4(図11参照)の操作である、据え切り操作時に、このステアリングホイール4からステアリングギヤユニット7の入力軸8(図11参照)に伝達される、平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値としている。又、本例の場合には、この様な閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わる事に起因して、前記両α部分が的確に塑性変形して凹むか若しくは脱落する様にすべく、前記雌、雄両スプライン部14、16に関する、素材となる金属の種類、切削や鍛造等の加工方法、熱処理方法、歯丈や歯幅等の各部の寸法や形状等を適宜選択する事により、前記各歯17、18aの強さ、硬さ等の機械的性質を相互に規制している。特に、本例の場合には、上述した様に、前記各第一領域に存在する、前記2つの歯18a、18aの歯丈を、前記各第二領域に存在する、前記残りの各歯18、18の歯丈よりも小さくしている。これにより、前記2つの歯18a、18aの周方向側面と前記各歯17、17の周方向側面との接触部である、各第一接触部の面積を、前記残りの各歯18、18の周方向側面と前記各歯17、17の周方向側面とが接触する場合の接触部である、各第二接触部の面積よりも狭くしている。これにより、前記各第一接触部の面圧を、前記各第二接触部の面圧よりも高くする事で、前記衝撃的なトルクが加わる事に起因して、前記各第一接触部で前記雌スプライン部14の一部分(前記各α部分)に塑性変形若しくは脱落が生じ易くなる様にし、且つ、前記各第二接触部で前記雌スプライン部14に塑性変形や脱落が実質的に生じない様にしている。
【0021】
上述の様に本例のステアリング装置用トルク伝達装置の場合、初期状態では、図3及び図4の(A)に示す様に、前記雌スプライン部14と前記雄スプライン部16を構成する2つの歯18a、18aとが、前記各第一領域で周方向のがたつきを生じる事なく係合している。この為、これら雌、雄両スプライン部14、16同士の係合状態が、周方向のがたつきを持たない係合状態になっている。これに対し、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って、前記ヨーク10と前記シャフト11との結合部に、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わると、このトルクに起因して、図4の(A)→(B)の順に示す様に、前記両α部分が塑性変形して凹むか若しくは脱落し、凹部21、21が形成される。これにより、図5の(A)(B)に示す様に、前記ヨーク10と前記シャフト11とが、前記各第二領域に存在する前記各歯17、18同士の間の周方向の隙間の分だけ、相対回転可能になる。言い換えれば、前記雌、雄両スプライン部14、16同士の係合状態が、周方向のがたつきを持たない係合状態から、周方向のがたつきを持った係合状態に変化する。この結果、このがたつきの分だけ、前記ステアリングホイール4の遊び(操舵輪の舵角変化に結び付かない操作範囲)が増加すると共に、場合によっては、前記がたつきに基づいて生じる振動が前記ステアリングホイール4に伝わったり、このがたつきに基づいて生じる異音が車室内に響いたりする様になる。この様な状況の変化は、運転者が容易に感じ取れる為、運転者は、この様な状況の変化に基づいて、前記衝撃的なトルクが加わった事実を容易に認識できる。この為、運転者に、修理を促す事ができて、損傷した車両の運行を継続する事に伴う危険を回避できる。
【0022】
尚、上述した実施の形態の第1例では、相手スプライン部と周方向のがたつきを生じる事なく係合し、衝撃的なトルクが加わった場合に相手スプライン部の歯を塑性変形若しくは脱落させる、歯丈を小さくした歯(18a)を、雄スプライン部側にのみ設ける構造を採用した。但し、本発明を実施する場合、当該歯丈を小さくした歯は、雌スプライン部側にのみ、或いは、雌スプライン部と雄スプライン部との双方の側に設ける事もできる。又、当該歯丈を小さくした歯と相手スプライン部との係合部が存在する領域である、第一領域は、周方向に関して3箇所以上に設けても良い。何れにしても、これら各第一領域は、周方向に関して等間隔に設けるか、若しくはバランス良く設ける(例えば、この第一領域の数を、2つ、4つ、6つ等の偶数とする場合、2つずつの第一領域の組を作り、これら各組毎に、それぞれ2つの第一領域を径方向反対側に設ける)事が好ましい。
【0023】
[実施の形態の第2例]
図6〜7は、請求項1、3、4、7に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、ヨーク10aの結合孔13aの内周面に設けた雌スプライン部14aと、シャフト11aの結合杆部15aの外周面に設けた雄スプライン部16aとの構造が、上述した第1例の場合と異なる。本例の場合、前記雌スプライン部14aは、径方向反対側となる2つの範囲に、それぞれ複数の歯17、17を周方向に関して等ピッチで配置すると共に、周方向に関してこれら両範囲に挟まれた残りの2つの範囲に、それぞれ周方向幅が十分に大きい幅広溝22を1つずつ配置して成る。一方、前記雄スプライン部16aは、径方向反対側となる2つの範囲に、それぞれ複数の歯18、18を周方向に関して等ピッチで配置すると共に、周方向に関してこれら両範囲に挟まれた残りの2つの範囲に、それぞれ前記各歯18、18に比べて歯厚(周方向幅)が十分に大きい幅広歯23を1つずつ配置して成る。
【0024】
そして、前記結合孔13aの内側に前記結合杆部15aを挿入する事により、図6に示す様に、前記雌スプライン部14aと前記雄スプライン部16aを凹凸係合させている。具体的には、前記複数ずつの歯17、18同士を、周方向の締め代を持たせた状態で、周方向のがたつきを生じる事なく係合(噛合)させている。これと共に、前記両幅広溝22、22と前記両幅広歯23、23とを、それぞれ周方向両側に所定の大きさの隙間を介在させた状態で係合させている。本例の場合には、前記各歯17、18同士の係合部が、それぞれ第一領域となり、前記両幅広溝22、22と前記両幅広歯23、23との係合部が、それぞれ第二領域となる。
【0025】
又、本例の場合、前記ヨーク10aと前記シャフト11aとの間に閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わる事により、図6→図7の順に示す様に、前記雄スプライン部16aを構成する各歯18、18の根元部分が破断し、これら各歯18、18が前記結合杆部15aから脱落(分離)する様にしている。この結果、前記ヨーク10aと前記シャフト11aとが、前記両幅広溝22、22の周方向両内側面と前記両幅広歯23、23の周方向両外側面との間に存在する周方向の隙間の分だけ、相対回転可能となる様にしている。
【0026】
又、本例の場合、前記閾値は、据え切り操作時に作用する平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値としている。本例の場合には、この様な閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わった場合に、前記各歯18、18の根元部分が的確に破断する様にすべく、前記雌、雄両スプライン部14a、16aに関する、素材となる金属の種類、切削や鍛造等の加工方法、熱処理方法、歯丈や歯幅等の各部の寸法や形状等を適宜選択する事により、前記各歯17、18の強さ、硬さ、脆さ等の機械的性質を相互に規制している。特に、本例の場合には、上述した様に、前記各第二領域に存在する前記幅広歯23、23の歯厚を十分に大きくする一方で、前記各第一領域に存在する前記各歯18、18の歯厚を比較的小さくしている。これにより、前記衝撃的なトルクが加わる事に起因して、前記各歯18、18の根元部分が破断し易くなる様にし、且つ、前記各幅広歯23、23に塑性変形や脱落が実質的に生じない様にしている。
【0027】
上述の様に本例のステアリング装置用トルク伝達装置の場合、初期状態では、図6に示す様に、前記雌スプライン部14aを構成する各歯17、17と前記雌スプライン部16aを構成する各歯18、18とが、前記各第一領域で周方向のがたつきを生じる事なく係合している。この為、これら雌、雄両スプライン部14a、16a同士の係合状態が、周方向のがたつきを持たない係合状態になっている。これに対し、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って、前記ヨーク10aと前記シャフト11aとの結合部に、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクが加わると、このトルクに起因して、図6→図7の順に示す様に、前記各歯18、18の根元部分が破断する。これにより、前記ヨーク10aと前記シャフト11aとが、前記各第二領域に存在する前記両幅広溝22、22と前記両幅広歯23、23との間の周方向の隙間の分だけ、相対回転可能になる。言い換えれば、前記雌、雄両スプライン部14a、16a同士の係合状態が、周方向のがたつきを持たない係合状態から、周方向のがたつきを持った係合状態に変化する。従って、本例の場合も、運転者は、この様ながたつきの存在に基づいて、前記衝撃的なトルクが加わった事実を容易に認識できる。その他の構成及び作用は、上述した第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0028】
尚、本発明を実施する場合、衝撃的なトルクが加わる事に起因して根元部分が破断する歯、及び、幅広歯を、雌スプライン部側に設ける構成を採用する事もできる。
【0029】
[実施の形態の第3例]
図8は、請求項1、2、4、7に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、シャフト11bを、円管状としている。これと共に、このシャフト11bの先端部に設けた結合杆部15bの先端縁部分を、ローリングかしめ加工により外径側に曲げ起こす事で、この曲げ起こした部分を、抜け止めの為のかしめ部19aとしている。その他の部分の構造及び作用は、前述の図1〜5に示した第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略する。
尚、上述の様なかしめ部19aを設けた構造は、上述の図6〜7に示した第2例の構造にも適用できる。
【0030】
[実施の形態の第4例]
図9は、請求項1、2、4、7に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、ヨーク10の結合孔13の内側に、シャフト11cの結合杆部15cを挿入するのに先立って、この結合杆部15cの外周面の先端部に、大径雄スプライン部24を設けている。この大径雄スプライン部24のピッチ円直径は、前記結合杆部15cの外周面の中間部乃至基端部に設けた雄スプライン部16のピッチ円直径よりも、少しだけ大きくしている。本例の場合、前記結合孔13の内側に前記結合杆部15cを挿入する際には、前記シャフト11cに大きな圧入荷重を加える事によって、前記大径雄スプライン部24を、雌スプライン部14の内側に圧入し、更にこの雌スプライン部14の内側を通過させる。そして、図示の様に、この雌スプライン部14と前記雄スプライン部16とを係合させると共に、前記大径雄スプライン部24の全体を、前記雌スプライン部14の外側に配置した状態とする。この様な構成を有する本例の場合、前記結合孔13の内側から前記結合杆部15cが抜け出る傾向となった場合には、前記大径雄スプライン部24の基端縁と前記雌スプライン部14の先端縁とが、軸方向に関して機械的に係合する。これにより、前記結合孔13の内側から前記結合杆部15cが抜け出る事を防止される。本例の場合には、これら大径雄スプライン部24の基端縁と雌スプライン部14の先端縁とが、抜け止め構造部に相当する。その他の部分の構造及び作用は、前述の図1〜5に示した第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略する。
尚、上述の様な大径雄スプライン部24を設けた構造は、上述の図6〜7に示した第2例の構造にも適用できる。
【0031】
[実施の形態の第5例]
図10は、請求項1、2、4〜7に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合には、ヨーク10の基端面の内周部分とシャフト11の外周面の先端寄り部分とに溶接金属25を掛け渡す状態で、これらヨーク10とシャフト11とを溶接している点が、前述の図1〜5に示した第1例の場合と異なる。この溶接金属25の強度は、据え切り操作時に作用する平常時最大伝達トルクでは破損せず、衝突事故や操舵輪の縁石乗り上げに伴って作用する、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクにより破損する大きさとしている。この様な構成を有する本例の場合には、据え切り操作時を含めて、平常運転時には、前記ヨーク10と前記シャフト11との間でのトルク伝達を、主として前記溶接金属25を介して行う。その他の部分の構造及び作用は、前述の図1〜5に示した第1例の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略する。
尚、ヨークとシャフトとを溶接する構造は、前述の図6〜7に示した第2例の構造にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明を実施する場合、前記第一領域で塑性変形若しくは脱落を生じさせるトルクの範囲を定める閾値は、平常時最大伝達トルク以上の大きさであれば良く、設計の条件等により、自由に設定できる。即ち、上述した各実施の形態では、前記閾値を、平常時最大伝達トルクよりも少しだけ大きい値に設定したが、この閾値は、平常時最大伝達トルクに対し、より大きい値に設定する事もできる。この様に設定する事により、例えば、操舵輪が縁石に軽くぶつかった程度では、前記第一領域で塑性変形若しくは脱落が生じない様にする事もできる。
又、本発明を実施する場合で、第一、第二両トルク伝達部材同士を溶接する場合、この溶接部の強度も、設計の条件等により、自由に設定できる。即ち、この溶接部の強度は、前記閾値よりも少しだけ大きい値の衝撃的なトルクによって破損する大きさとする事もできるし、前記閾値よりも十分に大きい値の衝撃的なトルクによらなければ破損しない大きさとする事もできる。
又、本発明は、シャフトと自在継手のヨークとの結合部に限らず、ステアリング装置を構成して、ステアリングホイールに加えられたトルクをステアリングギヤユニットの入力軸に伝達する部分であれば、何れの部分でも実施できる。例えば、ステアリングシャフト或いは中間シャフトを構成するインナシャフトを軸方向に2分割し、これら両分割シャフトの端部同士の結合部に、本発明の構造を適用する事もできる。
【符号の説明】
【0033】
1 車体
2 ステアリングコラム
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングホイール
5a、5b 自在継手
6 中間シャフト
7 ステアリングギヤユニット
8 入力軸
9 タイロッド
10、10a ヨーク
11、11a、11b、11c シャフト
12 基部
13、13a 結合孔
14、14a 雌スプライン部
15、15a、15b、15c 結合杆部
16、16a 雄スプライン部
17 歯
18、18a 歯
19、19a かしめ部
20 段部
21 凹部
22 幅広溝
23 幅広歯
24 大径雄スプライン部
25 溶接金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心に配置されてトルクの伝達方向に関して互いに直列に接続された、第一、第二両トルク伝達部材を備え、ステアリングホイールの動きをステアリングギヤユニットの入力軸に伝達するトルク伝達機構の途中に設けられて、前記ステアリングホイールとこの入力軸との間でのトルク伝達に供されるステアリング装置用トルク伝達装置に於いて、前記第一トルク伝達部材の一部に形成された結合孔と、前記第二トルク伝達部材の一部に形成されると共に、この結合孔の内側に挿入された結合杆部とを備え、このうちの結合孔の内周面に、周方向に関して凹凸に形成された、孔側凹凸部が設けられており、前記結合杆部の外周面に、周方向に関して凹凸に形成され、前記孔側凹凸部と凹凸係合した、軸側凹凸部が設けられており、これら孔側、軸側両凹凸部同士の凹凸係合部に、これら孔側、軸側両凹凸部同士が周方向のがたつきを生じる事なく凹凸係合した第一領域と、同じく周方向の隙間をあけて凹凸係合した第二領域とが存在しており、前記第一、第二両トルク伝達部材は、これら第一、第二両トルク伝達部材同士の間に閾値を超える大きさのトルクが加わる事に起因して、前記第一領域で前記孔側、軸側両凹凸部の少なくとも一部分が塑性変形若しくは脱落する事に基づき、前記第二領域に存在する前記周方向の隙間の分だけ、相対回転可能になるものであり、前記閾値は、車両が停止した状態で前記ステアリングホイールを操作した場合にこのステアリングホイールから前記入力軸に伝達される、平常時最大伝達トルク以上の大きさに設定されている事を特徴とするステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項2】
前記孔側、軸側両凹凸部のうち、何れか一方の凹凸部を構成する各凸部の高さを総て等しくすると共に、他方の凹凸部を構成する各凸部のうち、前記第一領域に存在する凸部の高さを、前記第二領域に存在する凸部の高さよりも低くする事により、それぞれが前記第一領域に存在する、前記孔側、軸側両凹凸部を構成する各凸部の周方向側面同士の接触部である、第一接触部の面積を、それぞれが前記第二領域に存在する、前記孔側、軸側両凹凸部を構成する各凸部の周方向側面同士が接触する場合の接触部である、第二接触部の面積よりも狭くする事で、この第二接触部よりも前記第一接触部で、前記一方の凹凸部を構成する各凸部に塑性変形若しくは脱落が生じ易くなる様にした、請求項1に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項3】
前記孔側、軸側両凹凸部のうちの何れか一方の凹凸部を構成する各凸部のうち、前記第一領域に存在する凸部の周方向幅を、前記第二領域に存在する凸部の周方向幅よりも小さくする事により、前記第一領域に存在する凸部が、この第二領域に存在する凸部よりも脱落し易くなる様にした、請求項1に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項4】
前記第一、第二両トルク伝達部材同士の間に、前記結合孔から前記結合杆部が抜け出る事を防止する為の抜け止め構造部が設けられている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項5】
前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接している、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項6】
前記第一、第二トルク伝達部材同士を溶接している溶接部の強度が、前記平常時最大伝達トルクでは破損せず、前記ステアリングギヤユニット側から前記第一、第二トルク伝達部材同士の間に加わる、前記閾値を超える大きさの衝撃的なトルクにより破損する大きさである、請求項5に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。
【請求項7】
前記第一トルク伝達部材と前記第二トルク伝達部材とのうちの一方のトルク伝達部材が自在継手のヨークであって、前記結合孔がこのヨークの基端部に形成されており、同じく他方の部材がシャフトであって、前記結合杆部がこのシャフトの端部に設けられている、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載したステアリング装置用トルク伝達装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−43516(P2013−43516A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181604(P2011−181604)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】