説明

スティフナー及び鋼板補強方法

【課題】離型紙を不要として磁力だけで補強シートを鋼板に仮止めすることができるようにし、貼着位置の修正を容易にし、位置修正後のずれ落ちや剥離を防止して正確な位置にとどまるようにする。
【解決手段】ゴム系合成樹脂にバリウムフェライト、添加剤として硫黄、硬化剤、発泡剤を混合して厚さ1.0mmのシート1に成型し、厚さ0.2mmのメラミン樹脂で処理したガラスクロスを拘束層2とした。この磁性シート1を磁力のみによって鋼板3の所定位置に貼り付けて仮止めし、加熱融着する。磁力により仮止めするため、従来必要であった離型紙が不要となり、作業性の向上、廃棄物の低減化に寄与できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドア等に用いられる薄板鋼板を補強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、主に鋼材で構成されており、軽量化のためドアやルーフを構成する鋼板は薄板を使用しており、剛性を向上させるため補剛材(スティフナー)がスポット溶接や接着剤により貼り付けられている。しかしながら、補剛材を使用すると重量が重くなるうえ、スポット溶接の工程を必要とすることから、樹脂シートを鋼板に貼り付け固定する補強方法が提案された。
【0003】
樹脂シートは、熱硬化性樹脂の未硬化物を主体とし、ガラスクロスの拘束層が樹脂シート面に貼着されて補強がなされている。鋼板部材への取り付けは、粘着性を有する未硬化熱硬化性樹脂シートを鋼板に貼り付けて仮止めし、鋼板の塗装焼き付け時の熱を利用して熱硬化性樹脂を硬化させて鋼板に強固に固定するものである。
しかし、場合により熱硬化性樹脂の粘着性が低下したときには、仮止めした樹脂シートが、加熱焼き付けに到るまでの湯洗及び化成処理工程の間に鋼板の所定の位置からずれたり、脱落するおそれがあった。
【0004】
この樹脂シートの仮止め性能を向上させる目的で、特許文献1(特開平5−152117号公報)に示されるように、熱硬化性樹脂中に磁性粉末と発泡剤を添加する提案がなされた。
【特許文献1】特開平5−152117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の補強用磁性シートは、未硬化状態の熱硬化性樹脂と発泡剤、及び磁性粉末からなるものである。熱硬化性樹脂は、粘着性を有しているので、シート同士の付着や、保管中にシート表面にごみが付着して粘着性が低下するのを防止するため、離型紙を表面に貼り付けておき、使用時にこの離型紙を剥がして補強対象の鋼板に貼り付けるという作業手順であった。
【0006】
離型紙を剥がすという手順を必要とするため作業員への負荷となり、また、離型紙はシート貼着作業までの仮の部材であって貼着後は不要であるので剥がした離型紙が廃棄物として発生していた。
また、離型紙をシートから剥離し、一旦鋼板に仮止めしたものを貼り付け位置の修正のために剥がして貼り直すと、熱硬化性樹脂の粘着力が弱まっているため、溶融固着するまでの間にずれたり落下することがあった。
この発明は、離型紙を不要として磁力だけで補強シートを鋼板に仮止めすることができるようにし、貼着位置の修正を容易にし、位置修正後のずれ落ちや剥離を防止して正確な位置にとどまるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ゴム系合成樹脂に磁性粉末を混合した鋼板補強シートを磁力によって鋼板面の所定の位置に貼り付け仮止めし、加熱融着する鋼板補強方法である。
ゴム系合成樹脂は、ポリブタジエンゴムが好ましく、特に1,2−ポリブタジエンゴムが好ましい樹脂である。
拘束層は、ガラスクロス、カーボンファイバー、有機繊維系不織布、金属箔のいずれかから選ばれる少なくとも一種以上の材料からなるものである。
樹脂層の端部を斜めにカットして面取りすることによって、鋼板に生ずる歪を更に低減することができる。
【0008】
補強用磁性シートを構成するゴム系合成樹脂は、ポリブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、クロロプレンゴム、イソブチレン−イソプレンゴム等の共役ジエン系重合体が挙げられる。特に−OH、−COOH、−NH2、−NCO、−CH=CH2等の官能基を有するゴムが好ましく、ポリブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソブチレン−イソプレンゴムが好ましい。
【0009】
磁性粉末は、フェライト粉末(例えばバリウムまたはストロンチウムフェライト粉末)、更には、希土類コバルト磁石粉末、アルニコ磁石粉末等が挙げられ、単独若しくは混合して使用する。磁性粉末の混合量は、磁性粉によって得られる磁力と補強磁性シートの重量に応じて定められるものであるが、合成ゴム樹脂100重量部に対して200〜600重量部、好ましくは250〜450重量部である。
【0010】
発泡剤は、公知の無機あるいは有機発泡剤が使用できる。具体的には、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ジニトロソテレフタルアミド、アゾブスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、スルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド等である。これらの発泡剤に尿素、尿素誘導体等の発泡助剤の併用も可能である。好ましい発泡剤は、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミンの単独使用、あるいは、併用であり、尿素、尿素誘導体等の発泡助剤と組み合わせることも可能である。
発泡剤の配合量は、合成ゴム樹脂100重量部に対して3〜12重量部、好ましくは5〜10重量部である。3重量部未満の配合量の場合、発泡効果が十分得られず、また、12重量部を超えて配合した場合、発泡剤から発生するガスにより良好な外観が得られない場合がある。
【0011】
本発明において、合成ゴム系樹脂層に積層される拘束層としては、軽量で、薄膜であり、合成ゴム系樹脂層に強靭性を付与でき、しかも密着一体化しやすい材料が好ましい。具体的には、ガラスクロス、カーボンファイバー、有機系合成樹脂繊維不織布、アルミニウムやスチール、各種金属の合金類等の金属箔等である。これらのうち、コスト、重量、密着性、強度を勘案すると、ガラスクロス、アルミニウム箔が特に好ましい。
【0012】
補強用磁性シートは、ゴム系合成樹脂、磁性粉、及び発泡剤等の配合物をディゾルバー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、オープンニーダー、真空ニーダー等の公知の混合分散機によって分散混練後、カレンダーロール、押出成形機等の加工機械によってシート状に加工して製造する。通常、補強用磁性シートの厚みは1.0mm前後に設定する。
拘束層と合成ゴム系樹脂層とを備えてなる鋼板補強磁性シートは、合成ゴム系樹脂層と拘束層とを積層接着し、鋼板に貼着後に、合成ゴム樹脂層を発泡させる。
予じめ、合成ゴム樹脂層を発泡させ、得られた発泡樹脂層と拘束層とを積層接着してもよい。
【0013】
補強用磁性シートを適宜の大きさに切断して使用する場合、ガラスクロスにほぐれが生じやすい。このため、ガラスクロスを使用する際にはガラスクロス自体にフエノール樹脂ないしはメラミン樹脂等の耐熱性樹脂で目止め処理をしたガラスクロスを使用することによって、補強用磁性シートの貼り付け作業性を向上させると同時に、切断時におけるガラスクロスのほぐれを防止している。目止め処理に用いる耐熱性樹脂は、フエノール樹脂、メラミン樹脂等以外にエポキシ樹脂、アクリル樹脂等が使用可能である。
なお、ガラスクロス等に代えてビニロン、ナイロン等の有機繊維、銀、ステンレス等の金属繊維等を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0014】
この発明の補強用磁性シートは、ゴム系合成樹脂と磁性粉末を含有させたものであり、鋼板への仮止め時には、粘着性樹脂を利用したシートのように離型紙を剥がす必要がなく、補強用磁性シートを真空吸着器で保持して鋼板の所定の位置に押し当て、吸引を停止することによって所定の位置への貼りつけが完了するので、ロボット化が容易である。
【0015】
また、位置ずれがあっても、貼着位置を正しい位置に戻すことが容易であり、そして、磁力のみによって補強用磁性シートは鋼板に付着しているので、位置修正前後でも付着力が変化せず、熱融着するまでの間の工程で補強用磁性シートの位置がずれたり、組み立て時に脱落することがなく、鋼板への補剛材の取り付けが効率よく行われる。
補強用磁性シートの端部を斜めにカットして面取りしたので、樹脂層の収縮による鋼板表面の歪の発生を抑制することができ、仕上が綺麗であるので、歪み取りの作業が省略され、生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施例
ゴム系合成樹脂として1,2−ポリブタジエンゴム、磁性粉としてバリウムフェライト、更に添加剤として硫黄、硬化剤、発泡剤を表1に示す割合で混合して厚さ1.0mmの補強用磁性シート1に成型し、厚さ0.2mmのメラミン樹脂で処理したガラスクロス2を拘束層とした。各配合における磁性シートの諸元を表2に示す。
【0017】
【表1】

(配合は重量部)
【0018】
【表2】

【0019】
試験方法
(1)歪は、0.8mmの鋼板にサンプルを貼り付け、180℃で30分加熱して鋼板に固定した後、室温まで冷却し、鋼板の歪を目視で観測したものである。
鋼板表面が滑らかと目視で認められたものを○とし、歪の線が観測されたものを×とした。
(2)補強性(単位:N)引張り試験機を使用し、スパン100mmの楔型試料台の上に、鋼板が上に、鋼板補強用磁性シートが下になるように設置し、スパンの中央部から同じく楔型の測定器を降下させ、鋼板に接する状態とした。この状態から測定器を1mm/minの速度で降下させ、補強用磁性シートを貼着した鋼板の試料が1mm変位したときの荷重を測定し、これに重力加速度を乗じて補強性とした。
(3)外観は、目視で平坦であるかを確認したものである。
(4)鋼板密着性は、0.8mmの鋼板の上端が曲率半径5mmの逆U字型断面図に形成された2枚の垂直平板(長さ50mm)を、上端間の距離を100mmに保って支持台上に平行に配設した試験台の垂直平板間に試験片を架け渡し、架け渡された部分の中央部に、上部から曲率半径10mmのU字型断面を呈する垂直平板(長さ50mm)で荷重を加えて鋼板からズレるかを観測した。
(5)磁力は、焼付前の磁性シートの磁着面と焼付後の拘束層表面で計測したものである。更に、図1に示すように鋼板補強用磁性シートを鋼板3に貼り付け、加熱融着した状態でA、B、Cの各点での磁力を測定した。その結果を表3に示す。
【0020】
【表3】

【0021】
鋼板3の表面に磁性シート1を貼り付けると、融着の際に鋼板の端部が引張られて歪が生じ、鋼板表面に薄い線が発生することがあるので、図2に示すように磁性シートの端部を斜めにカットして面取りをおこなったところ、歪の発生を防止することができた。磁性シートの厚さは1〜2mmであるが斜めカットが歪の発生防止に有効であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明における補強用磁性シートは、ゴム系合成樹脂に磁性粉末を混合したもので樹脂自体に粘性を有せず、鋼板への仮止め時には、磁力によってのみ付着して所定の位置に保持され、塗装焼き付け工程に至るまでに鋼板から脱落するという不具合が生じず、また、従前のように離型紙の剥がし作業がなくなって生産効率を上げることができ、離型紙の処分がなくなったため、廃棄物の発生がなくなる。
塗装焼き付け等の加熱によって、ゴム系合成樹脂は鋼板に融着され、添加された発泡剤によって発泡して樹脂が膨張して体積が増大する。その結果、鋼板と反対側の磁性シートの面では、磁力が1/10以下に低減し、電子機器や人体に対しても磁力の影響が及ばない。
また、樹脂シートの端部を面取りすることによって、樹脂の熱収縮による鋼板に対する歪みの発生を防止した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】磁性シートを鋼板に貼り付け、磁力の測定点を示す断面図。
【図2】磁性シートの端部の面取り状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0024】
1 磁性シート
2 拘束層
3 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム系合成樹脂に磁性粉末を混合した補強シートを磁力によって鋼板面の所定の位置に貼り付けて仮止めし、加熱融着する鋼板補強方法。
【請求項2】
請求項1において、ゴム系合成樹脂がポリブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソブチレン−イソプレンゴムのいずれかから選ばれる少なくとも1種類以上である鋼板補強方法。
【請求項3】
請求項1または2において、鋼板補強シートの表面に拘束層が設けてある鋼板補強方法。
【請求項4】
請求項3において、拘束層が、ガラスクロス、カーボンファイバー、有機繊維系不織布、金属箔のいずれかから選ばれる少なくとも一種以上の材料からなる補強材を有するものである鋼板補強方法。
【請求項5】
請求項3または4のいずれかにおいて、樹脂層の端部が斜めにカットされて面取りしてある鋼板補強方法。
【請求項6】
ゴム系合成樹脂に磁性粉末を混合してシート状とした鋼板の補強に使用するスティフナー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−315216(P2006−315216A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138073(P2005−138073)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【Fターム(参考)】