説明

ステレオ顕微鏡

【課題】観察光路の起点の調節が、複雑な調節メカニズムを使わずに達成可能なステレオ顕微鏡を提供すること。
【解決手段】観察光路を規定し、検査すべき対象上の光線の起点を決定する主対物レンズを有するステレオ顕微鏡であって、主対物レンズから来る観察光路を偏向する1以上の偏向要素が配設される。1以上の偏向要素は可変式鏡面を有し、該偏向要素は可変式鏡面を調節するためのコントロールユニット(32)に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオ顕微鏡に関する。特に本発明は、観察光路を規定し、検査すべき対象上の光線の起点を確定又は決定する主対物レンズを有するステレオ顕微鏡に関する。観察光路には、ズームシステム及び1以上の偏向要素が配設されている。偏向要素は、主対物レンズから来る観察光路を偏向する。
【背景技術】
【0002】
独国の出願公開DE10255960A1には、主観察者と補助観察者のための双眼鏡筒を有するステレオ顕微鏡が開示されている。さらに、他の観察者のための他の観察ポートも配設されている。全ての可能性のある観察者に対象の像を提供するため、ステレオ顕微鏡内に観察光路のための複数の偏向要素が配設されている。
【特許文献1】DE10255960A1(特開2004−185004号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
対象表面の観察光線の起点を変更する場合、ステレオ顕微鏡全体を移動させる必要がある。この目的のための移動メカニズムは、ステレオ顕微鏡の大きな重量を移動させるため、構造的に大がかりないし堅固である必要がある。
【0004】
ライカ(Leica)社で販売される外科用顕微鏡タイプM690は、モーター駆動の水平移動メカニズムを備えている。X/Yカップリング機構により、この顕微鏡の調節範囲は58×58mmの広さ(窓)を達成している。調節装置は、例えば足で操作するスイッチを用いて制御されうる。この水平移動は確かにいくつかの利点はあるが、X/Yカップリング機構により不利な点もある。すなわち、システムの重量が増加し、重量バランスをとることが大がかりとなることである。また、外科用顕微鏡は、X/Y調節で発生する力による衝撃から、保護されなければならず、そのためには構造的に大がかりとなる(かつ高コストになる)。さらに、機械的な水平移動メカニズムはスペースをとる。
【0005】
本発明の課題は、観察光路の起点の調節が、複雑な調節メカニズムを使わずに達成可能なステレオ顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本課題は、請求項1の特徴を持つステレオ顕微鏡により解決される。即ち、本発明は第1の視点において、観察光路を規定し、検査すべき対象上の光線の起点を決定する主対物レンズと、該観察光路内に配設されるズームシステムと、該主対物レンズから来る該観察光路を偏向する1以上の偏向要素とを有するステレオ顕微鏡であって、該偏向要素の少なくとも1つは可変式鏡面を有する鏡であり、該少なくとも1つの偏向要素が該可変式鏡面を調節するためのコントロールユニットに接続されていること、を特徴とするステレオ顕微鏡を提供する(基本構成・形態1)。
【0007】
1以上の偏向要素が、可変式鏡面を有する鏡であり、そしてその偏向要素が可変式鏡面を調節するためのコントロールユニットに接続されていると有利である。
【0008】
対象表面の光線(ビーム)の起点のX/Y調節は、鏡面の適切な変形によって達成される。鏡面のX/Y調節は、ステレオ顕微鏡の光路に配置された2つの別々の鏡面によっても達成することができる。この場合、X方向の調節は一方の鏡で、Y方向の調節は他方の鏡で調節されることが有利である。対象側から見ると、1つの偏向要素は主対物レンズの背後に配設され、第2の偏向要素はズームシステムの前面に配設されることができる。2つの偏向要素は両方とも可変式鏡面を装備することが好ましい。
【0009】
可変式鏡面は、ステレオ顕微鏡の光路内で異なる偏向要素に配置しうる。本質的に、可変式鏡面はズームシステムの背後に配設されることが有利である。この場合の「背後」とは、主観察者又は補助観察者から見て、光路は最初にズームシステムを通り、その後可変式鏡面に達することを意味する(観察対象からの光の進行方向で見ると、「前置」)。
【0010】
少なくとも1つの偏向要素に配設された可変式鏡面は、マイクロミラー配列により構成される。マイクロミラー配列は、複数の個別マイクロミラー(鏡エレメント)の2次元的配列として構成できる。
【0011】
本発明の他の有利な視点(ないし実施形態)は従属請求項に記載している。
以下に本発明の有利な実施形態を示す。
前記ズームシステムは、前記可変式鏡面を備えた前記1つの偏向要素に前置される(形態2)。
前記主対物レンズに後置される偏向要素と、前記ズームシステムに前置される偏向要素のそれぞれが、可変式鏡面を備える(形態3)。
1以上の偏向要素に配設される前記可変式鏡面が、マイクロミラー配列として構成される(形態4)。
前記可変式鏡面が、複数の個々のマイクロミラーが2次元的に配列されたマイクロミラー配列から構成される(形態5)。
前記鏡面の調節又は変形が前記コントロールユニットによってなされ、それ自身は足で操作するスイッチで、又は手動操作卓で、又は遠隔制御で、又は音声制御で、又はアイトラッキングシステムで、駆動できる(形態6)。
前記ステレオ顕微鏡は外科用顕微鏡である(形態7)。
前記可変式鏡面は、前記対象上の前記光線の起点をX軸方向及びY軸方向に変更するよう構成される(形態8)。
【0012】
なお、本願の特許請求の範囲に付記した図面参照符号は、専ら理解を助けるためのものであり、本発明を図示の態様に限定することを必ずしも意図するものでない。
本発明の主体は図面によって図解され、以下に各図を参照してより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は数人の観察者20、20a、20b、20c、20dのための複数の観察ポート10、10a、10b、10c、10dを持つステレオ顕微鏡1の概略構造図である。ここには、1以上の主観察者と1以上の補助観察者が存在しうる。観察ポート10は、軸回転式偏向要素30で構成しうる。ステレオ顕微鏡1は、対象16を観察することができる主対物レンズ2を持つ。ステレオ顕微鏡1は、特に外科用、例えば眼科用顕微鏡として用いることができる。主対物レンズ2は、対象16上の光線の起点16aを確定(ないし固定)する観察光路を規定する。主対物レンズに加えて、ステレオ顕微鏡1の内部の観察光路内にズームシステム7が配設されている。第1の偏向要素5が、主対物レンズ2とズームシステム7の間に配設されている。必要に応じ、ズームシステム7の下流側にいくつかの他の偏向要素6a、6b、6c、6d、6e、6fを配設しうる。偏向要素6a、6b、6c、6d、6e、6fは、観察光路の一部を対応する観察ポート10、10a、10b、10c、10dに向ける働きをする。観察光路内には他の光学部材8a、8b、8cも配設されており、これらはフィルター、結像光学要素、あるいは制御可能なシャッターないし絞りでありうる。
【0014】
ステレオ顕微鏡1内には照明装置3が配設されており、これは検査対象16に追加照明として光3aを照射する。図示外の照明光源からの光3aは、光ファイバー12を通じて提供できる。照明装置3からの光3aは、偏向要素3bを介し、主対物レンズ2を通して対象16上に照射できる。この照明装置は、いくつかの可能な照明方法のうちの1つの可能性である。従って、照明光源を顕微鏡内に統合することも考えられる。
【0015】
2つの主観察光線束22a及び22bは、実質的に主対物レンズ2を鉛直に通過する。観察光線束11a、11b、11c、11dもまた主観察光線束22a及び22bに沿って導かれ、これらの観察光線束11a、11b、11c、11dはそれぞれの観察ポート10a、10b、10c、10dに導かれ、ここを通して補助者20a、20b、20c、20d又は追加的観察者に対象16の像を提供する。光線束は、偏向要素6dを通して主手術者20に提供される。主手術者20は、望むように軸回転できる軸回転式偏向要素30を通して対象16を観察する。
【0016】
偏向要素5、6a、6b、6c、6d、6e、6fのうちの1以上は可変式鏡面に構成されている。図1に示す実施形態においては、第1の偏向要素5が可変式鏡面として配設されている。第1偏向要素5は、鏡面を調節するため、コントロールユニット32に接続されている。好ましい実施形態において、第1偏向要素5すなわち可変式鏡面は、マイクロミラー配列40(図2参照)として構成されている。コントロールユニット32は、例えば、足で操作するスイッチとして、又は手動操作卓として、又は遠隔制御として、又は音声制御として、又はアイトラッキングシステムとして構成されるスイッチ要素33にも接続される。コントロールユニット32は、マイクロミラー配列40を望みどおりに調節するためにスイッチ要素33により駆動されうる。マイクロミラー配列を適切に調節することにより、対象16上の観察光路の光線の起点16aの位置が変更される。選択された設定に従い、光線の起点は対象16上のX/Y平面内で調節できる。こうして、1以上のユーザー(観察者ないし観察者以外の操作者)が表面上の光線の起点を、ステレオ顕微鏡1を移動させずに変更できる。
【0017】
図2は、複数の小型鏡(マイクロミラー)401,1、401,2、・・・、401,n、・・・、40m,nからなるマイクロミラー配列40の概略図である。小型鏡401,1、401,2、・・・、401,n、・・・、40m,nは2次元的配列に並べられている。個々の鏡401,1、401,2、・・・、401,n、・・・、40m,nは、コントロールユニット32で制御され、問題となっている鏡の角度配置が変更される。こうして、マイクロミラー配列40の個々の鏡が調節できることにより、偏向面のこの領域(それぞれ所定角度だけ変更した領域)に照射する光は他の方向へ偏向される。その結果、上述のとおり、対象16上の光線の起点16aが対応して所定距離だけ移動するのである。
【0018】
図3は、図2のA−A線でのマイクロミラー配列40の断面図であり、いくつかの個々の小型鏡が調節された状態を示す。中央部の3つの小型鏡は、基準鏡面に平行であり、それから離れるに従い、左側、右側にそれぞれに制御された角度をもって変更されている。図示の変更配列は、角度が変更されることを図式的に示す一例にすぎず、その都度のX、Y偏向量ΔX、ΔYに応じて各小型鏡の角度は調整される。
【0019】
図4は、数人の観察者20、20a、20b、20c、20dのための複数の観察ポート10、10a、10b、10c、10dを持つ、本発明の他の実施形態によるステレオ顕微鏡1の概略構造図である。ここでは、可変式鏡面は主(第1)偏向要素5には配設されていない。この実施形態においては、可変式鏡面50は第2偏向要素6a又は第3偏向要素6bに配設されている。第2、第3偏向要素6a又は6bのどちらに可変式鏡面を配設するかは、ステレオ顕微鏡1の全体的な設計による。もしも可変式鏡面が第2偏向要素6a又は第3偏向要素6bに配設される場合、ズームシステム7は第3偏向要素6bと第4偏向要素6dの間に配置することがより好ましい。従って、ズームシステム7は可変式鏡面50に後置される(vorgeordnet)ことになる。
基本的に、ステレオ顕微鏡1内に配設されるどの偏向要素5、6a、6b、6c、6d、6e、6fも、可変式鏡面を装備することができる。
【0020】
図5は、2つの可変式鏡面が異なる偏向要素に配設されたステレオ顕微鏡1を示す。この実施形態においては、主対物レンズ2の背後に配設された第1偏向要素5と、ズームシステム7の前面に配設された第2偏向要素6aのそれぞれに可変式鏡面50が装備されている。こうして、第1偏向要素5の可変式鏡面50により、光線の起点16aは例えばX軸方向Xに偏向され、第2偏向要素6aの可変式鏡面50により、Y軸方向Yに偏向される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】補助観察者のためのいくつかの観察ポートを持つ、本発明の実施形態によるステレオ顕微鏡の概略構造図である。
【図2】複数の小型鏡からなるマイクロミラー配列の概略図であり、これによって偏向面を構成する。
【図3】図2のA−A線でのマイクロミラー配列の断面図であり、いくつかの個々の小型鏡が調節された状態を示す。
【図4】補助観察者のためのいくつかの観察ポートを持つ、本発明の実施形態によるステレオ顕微鏡の概略構造図である。
【図5】補助観察者のためのいくつかの観察ポートを持つ、本発明の他の実施形態によるステレオ顕微鏡の概略構造図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ステレオ顕微鏡
2 主対物レンズ
3 照明装置
3b、5、6a、6b、6c、6d、6e、6f 偏向要素
7 ズームシステム
8a、8b、8c 光学部材
10、10a、10b、10c、10d 観察ポート
11a、11b、11c、11d 観察光線束
12 光ファイバー
16 対象
16a 光線(ビーム)の起点
20 主手術者(観察者)
20a、20b、20c、20d 観察者
22a、22b 主観察光線束
30 軸回転式偏向要素
32 コントロールユニット
33 スイッチ要素
40 マイクロミラー配列
50 可変式鏡面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察光路を規定し、検査すべき対象上の光線の起点を決定する主対物レンズと、該観察光路内に配設されるズームシステムと、該主対物レンズから来る該観察光路を偏向する1以上の偏向要素とを有するステレオ顕微鏡であって、
該偏向要素の少なくとも1つは可変式鏡面(50)を有する鏡であり、該少なくとも1つの偏向要素が該可変式鏡面(50)を調節するためのコントロールユニット(32)に接続されていること、
を特徴とするステレオ顕微鏡。
【請求項2】
前記ズームシステムは、前記可変式鏡面(50)を備えた前記1つの偏向要素に前置されることを特徴とする、請求項1に記載のステレオ顕微鏡。
【請求項3】
前記主対物レンズに後置される偏向要素(5)と、前記ズームシステムに前置される偏向要素(6a)のそれぞれが、可変式鏡面(50)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のステレオ顕微鏡。
【請求項4】
1以上の偏向要素に配設される前記可変式鏡面(50)が、マイクロミラー配列(40)として構成されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一に記載のステレオ顕微鏡。
【請求項5】
前記可変式鏡面(50)が、複数の個々のマイクロミラーが2次元的に配列されたマイクロミラー配列(40)から構成されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一に記載のステレオ顕微鏡。
【請求項6】
前記鏡面の調節又は変形が前記コントロールユニット(32)によってなされ、それ自身は足で操作するスイッチで、又は手動操作卓で、又は遠隔制御で、又は音声制御で、又はアイトラッキングシステムで、駆動できることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一に記載のステレオ顕微鏡。
【請求項7】
前記ステレオ顕微鏡は外科用顕微鏡であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一に記載のステレオ顕微鏡。
【請求項8】
前記可変式鏡面(50)は、前記対象上の前記光線の起点をX軸方向及びY軸方向に変更するよう構成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一に記載のステレオ顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−148409(P2007−148409A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318148(P2006−318148)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(500056219)ライカ ミクロジュステムス(シュヴァイツ)アーゲー (42)
【Fターム(参考)】