説明

ステント

【課題】薬剤などの放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御し得ると共に、薬剤などの剥離・脱落を防止し、優れた生体適合性を有しつつ、所望の機械的特性を容易に得ることができるステントを提供する。
【解決手段】本発明のステント1は、生体の管状器官の内腔部に挿入・留置して使用され、複数の開口10が形成された網目構造を有すると共に全体として筒状をなすものであり、その外表面の軸線方向での少なくとも一方の端部における領域に、カーボンナノチューブ21が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用のステント、特に、血管などの管状器官に挿入・留置して使用されるステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体の管状器官(例えば、血管、気管、食道、胆管など)の内腔部に挿入・留置し、管状器官を内側から支持するためのステントが知られている。
【0003】
このようなステントは、通常、全体として円筒形状をなしていると共に、網目構造を有している。そして、このようなステントは、前記網目構造を構成する複数の線状部によって画成された開口部を縮めて縮径状態として管状器官の内腔部に導入され、内腔部を移動させた後、留置部位において、前記開口部を広げて拡径状態とすることにより固定(装着)される。
【0004】
このようなステントを利用した治療方法の一つとして、ステントに薬剤を担持させ、このステントを管状器官の治療部位に装着し、薬剤を放出させることによって、局所的な薬理学的治療を行うことが考えられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1では、このような治療を行うステントとして、緻密な金属のみで構成されたステント本体に、薬剤を含浸させるためのポリマーを被覆させたものが提案されている。
【0006】
この種のステントでは、ステントが管状器官の内腔部に装着されると、ポリマーに含浸させた薬剤が徐々に体液中に放出され、その治療効果が一定期間持続する。
【0007】
【特許文献1】特開2002−345972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1にかかるステントでは、ポリマーからの薬剤の放出は、ポリマーに含浸させた薬剤が体液に拡散することによって生じるものであり、その放出箇所を微少部分に限定したり、薬剤の放出量や放出速度を精密に制御することが難しい。このため、このポリマーを使用したステントでは、十分な治療効果が得られないといった問題がある。又、このポリマーを、薬剤放出後に長期に亘って管状器官の内腔部に放置するのは、生体適合性の観点からあまり望ましくない。
【0009】
又、ステント本体が緻密な金属のみで構成され、これに比較的強度の低いポリマーが被覆されているに過ぎないため、その弾性や強度等の機械的特性を調整するためには、ステント本体の寸法や金属の種類を変えなければならず、その結果、所望のステントを得ることが難しかった。又、ステント拡張時又は留置後のポリマーの剥離・脱落等の問題も発生する。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するものであり、その課題は、薬剤などの放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御し得ると共に、薬剤などの剥離・脱落を防止し、優れた生体適合性を有しつつ、所望の機械的特性を容易に得ることができるステントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題点を解決するために、本発明のステントは、生体の管状器官の内腔部に挿入・留置して使用され、複数の開口が形成された網目構造を有すると共に全体として筒状をなすステントであって、
その軸線方向での少なくとも一方の端部における外表面の領域に、カーボンナノチューブが形成されていることを特徴とする。この発明によれば、カーボンナノチューブの中空部及びカーボンナノチューブ同士の間に薬剤等の充填物を充填すると、ステントの使用状態時に、その充填物をステントの外部へ徐々に放出できる。
【0012】
特に、本発明では、カーボンナノチューブを、ステントの軸線方向での少なくとも一方の端部における外表面の領域に形成する。一般に、ステントは、管状器官の内腔部に留置したとき、その軸線方向での端部において他の部分より負荷がかかり、このステントと管状器官の内面との接触部分で、管状器官の損傷や炎症が生じ易い傾向がある。そこで、ステントの前記領域に、カーボンナノチューブを形成し、充填物として例えば抗炎症剤や内皮治癒促進剤を充填すれば、管状器官に損傷や炎症が生じるのを防止又は低減、若しくは症状を改善でき、長期に亘ってステントを管状器官に留置できる。
【0013】
又、カーボンナノチューブの外径、長さ及び配向方向などの形態パラメータと、カーボンナノチューブの密度に応じて、薬剤等の充填物の放出量、放出速度及び放出部位や、ステントの弾性や強度などの特性を調整できる。さらに、カーボンナノチューブを構成材料として使用しているので、長期に亘って優れた生体適合性を発揮できる。
【0014】
又、ステントの外表面にカーボンナノチューブを形成するので、ステントの外周側に凹凸が形成され、ステントの使用状態時に、管状器官の内面に対する滑りが防止され、ステントを管状器官の内腔部により確実に固定できる。
【0015】
特に、本発明では、ステントの端部の外表面に、カーボンナノチューブを形成するので、ステントは、端部において管状器官に固定される。このため、管状器官の撓みに対しての追従性に優れたものとなり、管状器官に対する位置ずれや変形が生じ難い。
【0016】
本発明において、前記カーボンナノチューブは、前記領域内にて1mm2当り、5000個以上200000個以下の範囲で存在していることが望ましい。この発明によれば、ステントの使用時に必要な強度を確保しながら、必要十分な量の薬剤等の充填物を確実に収容・保持できる。
【0017】
本発明において、前記カーボンナノチューブの平均長さは、50nm以上50μm以下の範囲であることが望ましい。この発明によれば、ステントの使用時に必要な強度を確保しながら、必要十分な量の薬剤等の充填物を確実に収容・保持できる。
【0018】
本発明において、前記カーボンナノチューブの平均外径は、5nm以上20nm以下の範囲であることが望ましい。この発明によれば、ステントの使用時に必要な強度を確保しながら、必要十分な量の薬剤等の充填物を確実に収容・保持できる。
【0019】
本発明において、前記カーボンナノチューブは、化学気相成長法によって形成されたものであることが望ましい。この発明によれば、適正な形態パラメータを有するとともに、適正な密度でカーボンナノチューブをステント線状部に密着性良く形成することが容易である。
【0020】
本発明において、前記カーボンナノチューブの中空部及び前記カーボンナノチューブ同士の間には、充填物が充填されていることが望ましい。この発明によれば、ステントの使用状態時に、ステントから充填物を徐放できる。
【0021】
本発明において、前記充填物は、薬剤を含有していることが望ましい。この発明によれば、ステントの使用状態時に、ステントから薬剤を徐放して、治療を行える。
【0022】
本発明において、前記薬剤は、抗血栓剤、抗血小板剤、免疫抑制剤、細胞増殖抑制剤、抗炎症剤、内皮治癒促進剤のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものを主たる成分とすることが望ましい。この発明によれば、ステントの使用状態時に、目的に応じた治療効果を得ることができる。
【0023】
本発明において、前記充填物は、前記薬剤を保持する機能を有するポリマーを含有することが望ましい。この発明によれば、ポリマーの種類や量を調整することにより、ステントの使用状態時に、ステントからの充填剤の放出速度や放出量を所望のものとすることができる。又、ポリマー自体も、カーボンナノチューブの中空部やカーボンナノチューブ同士の間に充填されるので、ステントから脱落し難い。
【0024】
本発明において、前記ポリマーは、生体吸収性ポリマーを主たる成分とすることが望ましい。この発明によれば、ステントの使用状態時に、ステントからの充填剤の放出速度や放出量を所望のものとしながら、生体に対する安全性に優れたものとすることができる。
【0025】
本発明において、ステントは、Au、Pt、Ta、Rh、Ru、Pd、Nb、Os、Ir、Agよりなる群から選択された少なくとも1種又はこれらのうち少なくとも1種を含む合金を主材料として構成されていることが望ましい。この発明によれば、バルーン型ステントに好適に適用できると共に、留置後の生体適合性にも優れ、生体内における特性低下・分解を最少化できる。又、ステントの構成材料として貴金属を使用すれば、X線造影性を優れたものとすることができる。
【0026】
本発明において、ステントは、Ni・Ti合金を主材料として構成されていることが望ましい。この発明によれば、自己拡張型ステントに好適に適用できると共に、留置後の生体組織適合性にも優れ、生体内における特性低下・分解を最少化できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、薬剤などの剥離・脱落を防ぎながら、放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御し得ると共に、優れた生体適合性を有しつつ、所望の機械的特性を容易に得ることができるステントを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明に係るステントの実施形態について詳細に説明する。
―――第1の実施形態―――
先ず、本発明のステントの第1の実施形態を説明する。
【0029】
図1において、ステント1は、生体の管状器官の内腔部に挿入・留置して使用されるものであり、全体形状がほぼ筒状をなしている。
【0030】
ステント1は、複数の線状部11を有し、これらが連結するようにして網状構造を形成している。そして、複数の線状部(ストラット)11で囲まれる部分に開口10が形成されている。
【0031】
このようなステント1は、ステント1の外径を収縮(縮径)させた状態(以下、「縮径状態」と称す。)で、管状器官の内腔部の目的部位まで移送(搬送)される。そして、この目的部位において、ステント1自体の復元力により、又は外力を付与することにより、ステント1の外径が、縮径状態の外径より大きくなるように拡大(拡径)し、この状態(以下、「拡径状態」と称す。)で目的部位に固定(装着)される。
【0032】
線状部11同士は、交点111にて180°未満の角度で互いに連結され、これにより、各開口10は、多角形形状(この実施形態では、4つの線状部11で囲まれることにより菱形形状)をなしている。この構成により、ステント1は、十分な剛性や強度を確保しながら、径方向の柔軟性に優れたものとなる。又、十分な剛性や強度を確保できることから、ステント1は、放射支持力に優れたものとなる。
【0033】
ここで、本明細書中、「径方向の柔軟性」とは、図2(a)中の矢印方向、すなわち、中心軸から外側に向かう方向における柔軟性のことを言う。又、「放射支持力」とは、拡径状態において管状器官の形状を保持する力のことを言う。又、本明細書中、「軸方向の柔軟性」とは、図1中の矢印方向への柔軟性(撓み易さ、すなわち可撓性)のことを言う。
【0034】
線状部11の横断面形状は、図2(a)及びその部分拡大図である図2(b)に示すように、ほぼ四角形(直方形)をなしている。
【0035】
線状部11の平均横断面積は、ステント1の構成材料などによっても若干異なるが、1×10-5mm2以上0.1mm2以下の範囲であることが望ましく、1×10-4mm2以上0.01mm2以下の範囲であることがより望ましい。線状部11の横断面積が小さ過ぎる(線状部11が細すぎる)と、ステント1の剛性が低下する場合があり、線状部11の横断面積が大き過ぎる(線状部11が太過ぎる)と、ステント1の軸方向の柔軟性(可撓性)が低下する場合がある。
【0036】
又、線状部11の横断面形状は、ステント1の各部において異なっていてもよいが、図1に示すように、ステント1のほぼ全体に亘って、ほぼ一定であることが望ましい。これにより、ステント1の軸方向の柔軟性が各部において不均一となるのを防止できる。
【0037】
なお、線状部11の横断面形状は、図2に示すような四角形(直方形)の他、例えば、円形、楕円形、正方形、菱形、三角形、五角形、六角形などの多角形でもよい。
【0038】
図示されていないが、ステント1(線状部11)の縁部は、丸みを帯びていることが望ましい。これにより、ステント1の留置操作時や留置後などにおいて、管状器官の内壁を不本意に傷付けてしまうのを防止できる。又、ステント1を血管内留置ステントに適用した場合には、血栓形成を防止するのにも役立つ。
【0039】
このような線状部11は、図2(b)に示すように、その外表面に、カーボンナノチューブ21で構成される表層2が形成されている。この表層2は、図1に示すように、ステント1の軸線方向での両端部に設けられている。すなわち、第1の実施形態のステント1は、その軸線方向での両端部における外表面(以下、単に「両端部の外表面」とも言う。)に、カーボンナノチューブ21が形成されている。
【0040】
カーボンナノチューブ21は、いわば蜂の巣構造のメッシュシートを筒状に巻いた如き構造を有するものであり、その筒の中空部及び筒同士の間が、薬剤などの充填物を収容する収容部として機能する。
【0041】
カーボンナノチューブ21は、単層ナノチューブ、多層ナノチューブのいずれでもあってもよいが、単層ナノチューブであることが望ましい。単層ナノチューブは、その外径、長さ及び配向方向などの形態パラメータを比較的容易に制御できることから望ましい。又、カーボンナノチューブ21を構成する六員環の配列も特に限定されず、ジグザグ型、カイラル型、アームチェア型のいずれであっても構わない。
【0042】
このようなステント1は、表層2(カーボンナノチューブ21)が管状器官の内壁(内面)に接触するように、管状器官の内腔部に挿入・留置される。
【0043】
ステント1が内腔部に挿入・留置されると、カーボンナノチューブ21の中空部やカーボンナノチューブ21同士の間に充填(収容)された薬剤などの充填物が、ステント1の外部へ放出され、この薬剤などの放出が停止するまで、その治療効果などが持続する。このステント1では、ステント1の使用状態時に、管状器官の内壁に充填物を優先的(直接的)に付与できる。
【0044】
このようなステント1では、薬剤などの放出量及び放出期間(放出速度)が、カーボンナノチューブ21の外径、長さ及び配向方向などの形態パラメータや、カーボンナノチューブ21の密度(配設密度)を調整することによって精密にコントロールできる。又、特にカーボンナノチューブ21の外径(直径)は、ナノオーダーと微小であることから、これによって充填物の放出量及び放出速度を極めて精密にコントロールできる。
【0045】
なお、カーボンナノチューブ21を形成する領域を設定することで、薬剤の放出部位を管状器官の特定の部位に限定(限局)できる。従って、この場合、治療目的とする部位においてより高い治療効果などが期待できる。
【0046】
さらに、このステント1では、外表面にカーボンナノチューブ21が形成されているので、長期に亘って優れた生体適合性を発揮できる。又、カーボンナノチューブ21は、引っ張り強度が大きく、柔軟性に富んでいるため、優れた機械的特性を発揮できる。
【0047】
又、カーボンナノチューブ21は、反応性(活性)が低いため、カーボンナノチューブ21の中空部やカーボンナノチューブ21同士の間に、薬剤などの充填物を長期に亘って安定した状態で収容できる。
【0048】
このように、このステント1の充填物の放出量及び放出速度は、カーボンナノチューブ21の外径、長さ及び配向方向などの形態パラメータや、カーボンナノチューブ21の密度とによって制御される。従って、これらパラメータは、薬剤などの所望の放出量及び放出速度に応じて適宜設定されるが、以下に示すような範囲とすることが望ましい。
【0049】
カーボンナノチューブ21は、これが形成される領域内にて(ステント1の端部の外表面)1mm2当り、5,000個以上200,000個以下の範囲で存在していることが望ましく、70,000個以上150,000個以下の範囲で存在していることがより望ましい。
【0050】
又、カーボンナノチューブ21の平均長さは、50nm以上50μm以下の範囲であることが望ましく、500nm以上20μm以下であることがより望ましい。
【0051】
又、カーボンナノチューブ21の平均外径は、5nm以上20nm以下の範囲であることが望ましい。
【0052】
各条件(パラメータ)をこのような範囲とすることで、ステント1の使用時に必要な強度を確保しながら、必要十分な量の薬剤等の充填物を確実に収容・保持できる。
【0053】
これに対し、カーボンナノチューブ21の外径や長さが小さすぎる、あるいはカーボンナノチューブ21の密度が大きすぎると、ステント1の治療目的などによっては、収容される薬剤等の量が不十分となることがある。一方、外径が大きすぎる、あるいは密度が小さすぎると、ステント1を構成する材料の種類や、厚さなどによっては、カーボンナノチューブ21が形成された状態のステント1全体としての強度不足を招くことがある。
【0054】
なお、カーボンナノチューブ21の外径、長さ及び配向方向などの形態や、カーボンナノチューブ21の密度などは、ステント1のほぼ全体に亘って、ほぼ一定でなく、異なる箇所が存在しても構わない。
【0055】
カーボンナノチューブ21の中空部やカーボンナノチューブ21同士の間に充填(収容)する充填物としては、薬剤、細胞、及び生物由来物質のうちの少なくとも1つが使用できる。
【0056】
薬剤としては、ステント1を留置する管状器官の種類などに応じて選択されるが、例えば、抗血栓剤、抗血小板剤、抗炎症剤、内皮治癒促進剤、鎮痛・鎮静剤、抗増殖剤(細胞増殖抑制剤)、抗癌剤、免疫抑制剤などが使用できる。
【0057】
抗血栓剤としては、例えば、ヘパリンナトリウム、ヘパリンカルシウム、低分子量ヘパリン、ヘパリン様物質(低分子デキストラン)、ヒルジン、組み換えヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタグランジンE1、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン同族体、アスピリン、スルピリン、ジピリダモール、アンチトロンビンIII、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベータ、プロウロキナーゼなどが使用できる。
【0058】
抗血小板剤としては、例えば、アスピリン、チクロピジン、ワーファリン、ジピリダモールなどが使用できる。
【0059】
抗炎症剤としては、例えば、トラニスト、デキサメタゾン、ミクロスポリンなどが使用できる。
【0060】
内皮治癒促進剤としては、例えば、エストラジオール、トラフェルミンなどが使用できる。
【0061】
鎮痛・鎮静剤としては、例えば、ペンタゾシン、塩酸ブプレノルフィン、酒石酸ブトルファノール、塩酸トラマドール、塩酸アヘンアルカロイド、塩酸モルヒネ、塩酸ペチジン、ペチジン・レバロルファン、クエン酸フェンタニール、フェンタニール・ドロペリドールなどが使用できる。
【0062】
又、抗増殖剤(細胞増殖抑制剤)としては、例えば、ソマトスタチン又はその同族体、ニトロプルシド、コルヒチン、魚油(ω3系脂肪酸)、ステロイド剤、セロトニン拮抗剤、カルシウム溝阻止抗体、ヘスタミン拮抗剤、酵素阻害剤(例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、プロスタグランジン合成酵素阻害剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、チオールプロテアーゼ阻害剤、メトトレキサート)、増殖因子拮抗剤(例えば、繊維芽細胞増殖因子拮抗剤、血小板由来増殖因子拮抗剤)、酸化窒素などが使用できる。
【0063】
又、抗癌剤としては、例えば、メクロルエタミン、ナイトロジェンマスタード N-オキシド(ナイトロミン)、シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブシルなどのナイトロジェンマスタード類、トリエチレンチオホスホラミド、カルボコン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミドなどのエチレンイミン類、ブスルファンなどのアルキルスルフォン酸類、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンなどのニトロソ尿素類、ダカルバジンなどのトリアゼン類、8-アザグアニン、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン、6-メルカプトプリン リボシッド、6-クロロプリン、アザチオプリンなどのプリン代謝拮抗物質、5-フルオロウラシル、5-フルオロデオキシウラシル、テガフール、シタラビン、アンシタビン、アザウリジンなどのピリミジン代謝拮抗物質、メトトレキサート、アミノプテリンなどの葉酸代謝拮抗物質、アザセリン、DON(6-アジド-5-オキソ-L-ノルレウシン)などのグルタミン代謝拮抗物質、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド、VM26、VP16-213などのエピポドフィロトキシン誘導体、コルヒチン、デメコルチンなどのコルヒチン誘導体、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質などが使用できる。
【0064】
又、免疫抑制剤としては、例えば、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ステロイド類、シクロホスファミド、ブスルファン、クロランブシルなどのアルキル化剤、6-メルカプトプリル、アザチオプリンなどのプリン代謝拮抗物質、ペントスタチンなどのアデノシン脱アミノ酵素抑制薬、6-アザウラシルなどのピリミジン代謝拮抗物質、メトトレキサートなどの葉酸代謝拮抗物質、アゾトマイシンなどのグルタミン酸代謝拮抗薬、ダウノマイシン、アドリアマイシン、ミタラマイシンなどの抗生物質、サイトカラシンBなどの細胞分裂阻止物質などが使用できる。
【0065】
前述したような薬剤を使用する場合には、充填物は、薬剤を保持する機能を有するポリマーを含有することが望ましい。このようなポリマーが薬剤と共に充填物に含有されていると、ポリマーの種類や量を調整することにより、ステント1の使用状態時に、ステント1からの薬剤の放出速度や放出量を所望のものとすることができる。又、ポリマー自体も、カーボンナノチューブ21の中空部やカーボンナノチューブ21同士の間に充填されるので、ステント1から脱落し難い。
【0066】
前述のポリマーは、生体吸収性ポリマーを主たる成分とするものであることが望ましい。生体吸収ポリマーを用いることにより、ステント1の使用状態時に、生体に対する安全性に優れたものとすることができる。
【0067】
又、細胞としては、例えば、適用する管状器官の内壁を構成する細胞、又は、この細胞に分化する前の幹細胞、組み換えプラスミド(組み換えベクター)が導入された宿主細胞などが使用できる。
【0068】
又、生物由来物質としては、例えば、ヌクレオチド、cDNA、RNAなどの核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などが使用できる。
【0069】
ステント1は、図3に示すように、管状器官(例えば、血管)900の内腔部に留置すると、その軸線方向での端部において他の部分より負荷がかかり、このステント1と管状器官900の内面との接触部分で、管状器官900の損傷や炎症が生じ易い傾向がある。そこで、ステント1の軸線方向での端部における外表面に、カーボンナノチューブ21を形成し、充填物として例えば抗炎症剤や内皮治癒促進剤を充填すれば、管状器官900に損傷や炎症が生じるのを防止又は低減、若しくは症状を改善でき、長期に亘ってステント1を管状器官に留置できる。
【0070】
なお、本発明では、ステント1の外表面にカーボンナノチューブ21が形成されていることでステント1の外表面側に凹凸が形成されるので、ステント1に、使用状態時における管状器官の内面に対する滑り防止の機能も付与できる。
【0071】
特に、本発明では、ステント1の両端部の外表面に、カーボンナノチューブを形成するので、ステント1は、その軸線方向での両端部において管状器官に固定される。このため、管状器官が撓んだ場合でも、この撓みに対して追従性し易く、管状器官に対する位置ずれや変形が生じ難い。
【0072】
このようなステント1は、後述するような方法により、各線状部11が一体的に形成されている。これにより、ステント1全体としての強度がより向上する。
【0073】
ステント1の構成材料には、その種類に応じて、次のようなものを使用することが望ましい。
【0074】
ステント1をバルーン拡張型ステントに適用する場合、ステント1は、拡径状態において、管状器官から受ける圧縮応力に対して変形しない必要がある。このため、ステント1の構成材料には、拡張による塑性変形により加工硬化し、拡張後、比較的剛性が高くなる材料を使用することが望ましい。又、生体組織適合性や化学的安定性の高い材料を使用することが望ましい。
【0075】
このような材料としては、Au、Pt、Ta、Rh、Ru、Pd、Nb、Os、Ir、Agなどのうちの1種又はこれらのうち少なくとも1種を含む合金を主材料とするものが使用できる。
【0076】
これらの中でも、特に、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、Os、Irのうちの1種又はこれらのうち少なくとも1種を含む合金を主材料とするものが望ましく、Au、Pt、Rh、Ru、Irのうちの1種又はこれらのうち少なくとも1種を含む合金を主材料とするものがより望ましい。これらは、拡張による塑性変形により加工硬化する特性(加工硬化性)が付与できると共に、生体組織適合性やX線造影性にも優れる。又、このような合金は、その組成比により、加工硬化性を容易に制御できるという利点がある。
【0077】
このため、これらの材料でステント1を構成することにより、例えば、ステント1を血管内留置ステントに適用した場合には、血栓形成を効果的に防止できる。又、ステント1を管状器官の内腔部内に留置する操作をX線透視下にて行えるので、その留置操作をより円滑且つ正確に行える。
【0078】
一方、ステント1を自己拡張型ステントに適用する場合、ステント1は、その形状を自発的に復元し得る必要がある。このため、ステント1の構成材料には、超弾性合金、形状記憶合金や比較的弾性の高い材料を使用することが望ましい。
【0079】
このような材料としては、例えば、Ni・Ti合金、Au・Cd合金、Cu・Zn合金、Cu・Al合金、Fe・Pt合金、Mn・Cu合金、Ni・Al合金、Cu・Cd合金、Cu・Al・Ni合金、Au・Cd・Ag合金、Ti・Al・V合金などを主材料とするものが使用できる。
【0080】
これらの中でも、特に、Ni・Ti合金(以下、NT合金ともいう)を主材料とするものが望ましい。これは、特に高い弾性を示し、さらに形状記憶特性にも優れる材料だからである。
【0081】
又、これらの材料は、その表面を貴金属等でメッキ処理することにより生体組織適合性に優れると共に、X線造影性にも優れたものとなる。このため、これらの材料でステント1を構成することにより、例えば、ステント1を血管内留置ステントに適用した場合には、血栓形成を効果的に防止できる。又、ステント1を管状器官の内腔部内に留置する操作をX線透視下にて行えるので、その留置操作をより円滑且つ正確に行える。
【0082】
なお、ステント1の形状は、上述のものに限られない。例えば、この実施形態では、開口10の形状は、菱形形状をなしているが、これに限定されず、例えば、三角形、長方形、正方形、五角形、六角形、その他の多角形などでもよい。
【0083】
又、この実施形態では、線状部11同士の連結部(交点111付近)が屈曲する形状をなしていたが、例えば円弧状(U字状)など湾曲する形状をなしていてもよい。
【0084】
次に、このステント1の使用方法について、バルーン拡張型ステントを、血管の狭窄部に適用する場合を一例に説明する。
【0085】
(I) 先ず、血管(管状器官の内腔部)内に、周知のセルディンガー法により、案内カテーテルを経皮的に挿入し、その先端部を狭窄部(目的部位)の近傍に到達させる。
【0086】
(II) そして、バルーン付カテーテル先端部のバルーンの外周に、薬剤を含浸させたステント1を縮径状態で装着しておき、このバルーン付カテーテルを上記案内カテーテルを通して血管内に導く。
【0087】
(III) 次に、バルーン付カテーテル内に挿入したガイドワイヤをガイドにして、バルーン付カテーテルをさらに押し進め、その先端部に装着したステント1を狭窄部にまで移送し、配置する。
【0088】
(IV) この状態で、バルーン付カテーテルを通して生理食塩水などの液体をバルーン内に注入し、バルーンを膨らませる。これにより、ステント1の外径が徐々に拡径していく。
【0089】
(V) さらに、バルーンを膨らませ拡張させると、ステント1は、その外径がさらに拡径し(拡径状態に至り)、血管の内壁に当接し、内壁を押圧する。
【0090】
(VI) ステント1を十分に拡径させた後、バルーン内の液体を抜き出してバルーンを萎ませ、バルーン付カテーテルをステント1の内周から引き抜く。これにより、ステント1を血管内に留置できる。
【0091】
以上のようにして、ステント1により血管の狭窄部を拡張させて、心筋梗塞や脳梗塞などの予防や、治療を行える。又、このようにして血管内にステント1が挿入・留置されると、カーボンナノチューブ21の中空部やカーボンナノチューブ21同士の間に収容された薬剤がステント1の外部へ放出され、薬剤の放出が停止するまで、その治療効果などが持続する。
【0092】
次に、ステント1の製造方法について説明する。なお、ここではステント1の主材料として、金属を使用する場合を例にする。
【0093】
なお、図5及び図6は、カーボンナノチューブ21が形成された部分におけるステント1の横断面(図1に示すA-A線での断面図)を示している。
【0094】
(1A) 先ず、図4に示すように、ほぼ円柱状の芯材3を用意する。なお、芯材3はほぼパイプ状をなすものでもよい。
【0095】
芯材3は、比較的硬質であり、且つ、後述の工程(1E)にて比較的容易に除去できるものが望ましい。
【0096】
この芯材3の構成材料としては、ステント1の構成材料などに応じて選択されるが、例えば、金属材料などが使用できる。この場合には、芯材3の構成材料として、Ni及びNi合金、Cu及びCu合金、Fe及びFe合金などのステント1を構成する金属材料と比較して、自然電極電位的に卑な金属材料などを使用することが望ましい。
この芯材3の横断面(一部横断面)は、図5(a)に示すような状態となる。
【0097】
(1B) 次に、図5(b)に示すように、芯材3の周面に、金属を主材料として構成された金属層4を形成する。なお、後述の工程(1C)で相互拡散を防ぐために、芯材3と金属層4との間に、拡散防止被膜処理を施しておく。
【0098】
金属層4の形成方法としては、その構成材料などに応じて適宜選択されるが、例えば、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法などのPVD法(物理気相成膜法)、又、熱CVD法、プラズマCVD法などのCVD法(化学気相成膜法)、更に、電解メッキ、無電解メッキなどのメッキ法、又、金属材料を含む液状材料(溶液又は分散液)の付与(塗布)による方法のような液体成膜法などのうちの1種又は2種以上が使用できる。これらの中でも、特に、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、メッキ法のうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることが望ましい。これにより、均一な金属層4を比較的容易に得ることができる。
【0099】
又、後述の工程(1C)で、カーボンナノチューブ21として主に単層ナノチューブを成長させる場合には、金属層4は、触媒金属を含有することが望ましい。これにより、金属層4上に、単層ナノチューブが効率よく成長する。なお、触媒金属としては、Ni、Fe、Coなどのうち1種又は2種以上が使用できる。
【0100】
これら触媒金属を金属層4に混入する方法としては、金属層4を形成するための原料に、予め触媒金属を添加しておき、この原料を用いて金属層4を形成する方法、金属層4を形成した後、この金属層4の外表面に、触媒金属よりなる触媒層を形成し、触媒層の触媒金属を金属層4に拡散させる拡散処理を行う方法などが使用できる。
【0101】
(1C) 次に、図5(c)に示すように、金属層4の外周面にカーボンナノチューブ21を成長させてナノチューブ層5を形成し、金属層4とナノチューブ層5とが積層した積層体6を得る。なお、金属層4の両端部の外表面(カーボンナノチューブ21を形成すべき領域)を除く部分に、例えば金属層を形成することなどによりマスキングを行っておく。又、この金属層と金属層4とが本工程で相互拡散を防ぐために、これらの間に、拡散防止被膜処理を施しておく。
【0102】
ナノチューブ層5の形成方法(カーボンナノチューブ21を成長させる方法)としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法などのうち1種又は2種以上が使用できる。これら方法では、例えば次のようにしてナノチューブ層5を形成する。
【0103】
アーク放電法では、放電管内にグラファイト電極を陽極とし、金属層4を陰極として、これら電極間に直流電圧を印加してアーク放電を生じさせ、これによって陽極側から蒸発した炭素を、金属層4上に凝縮、堆積させる。
【0104】
金属層4が触媒金属を含有しない場合、この金属層4上には、主に多層ナノチューブが成長する。又、陽極として、グラファイト電極の代わりに、触媒金属を含有するグラファイト電極を使用するか、あるいは金属層4に触媒金属を含有せしめると、陰極側の堆積物中に、主に単層ナノチューブが成長する。なお、触媒金属を含有するグラファイト電極を使用する場合、触媒金属としては、Ni、Fe、Coなどのうち1種又は2種以上が使用できる。
【0105】
このアーク放電法において、放電管内の雰囲気は、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガス雰囲気であることが望ましい。
【0106】
又、グラファイト電極と金属層4との距離は、0.1mm以上10mm以下の範囲であることが望ましく、0.7mm以上5mm以下の範囲であることがより望ましい。
【0107】
又、電極に供給する電流は、20A以上150A以下の範囲であることが望ましく、50A以上100A以下の範囲であることがより望ましい。
【0108】
以上のような条件を使用することにより、カーボンナノチューブ21が適正な形態パラメータを有すると共に、適正な密度を有するナノチューブ層5が得られる。
【0109】
レーザー蒸発法では、電気炉内に挿入された石英管内に、グラファイトターゲット、レーザー光源及び金属層4が形成された芯材3を設置し、グラファイトターゲットに、レーザー光を照射することによって炭素を蒸発させ、金属層4上に堆積させる。金属層4が触媒金属を含有しない場合、この金属層4上には、主に多層ナノチューブが成長する。又、グラファイトターゲットの代わりに触媒金属を含有するグラファイトターゲットを使用するか、あるいは金属層4に触媒金属を含有せしめると、金属層4上には、主に単層ナノチューブが成長する。なお、触媒金属を含有するグラファイトターゲットを使用する場合、触媒金属としては、Ni、Fe、Coなどのうち1種又は2種以上が使用できる。
【0110】
レーザー光源としては、例えば、YAGレーザー、CO2レーザー、銅蒸気レーザーなどが使用できる。
【0111】
このレーザー蒸発法では、電気炉の温度、石英管内に導入するガス圧力、レーザー光強度などのパラメータを容易に制御でき、これらパラメータを制御することによって得られるカーボンナノチューブ21のパラメータを容易に調整できる。
【0112】
このレーザー蒸発法において、電気炉の温度は、500℃以上3000℃以下の範囲であることが望ましく、1000℃以上1800℃以下の範囲であることがより望ましい。
【0113】
石英管内の雰囲気は、例えば、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガス雰囲気であることが望ましい。
【0114】
又、石英管内に導入するガス圧力は、1×103Pa以上1×106Pa以下の範囲であることが望ましく、1×104Pa以上1×105Pa以下の範囲であることがより望ましい。
【0115】
レーザー光強度は、200W以上2000W以下の範囲であることが望ましく、750W以上1500W以下の範囲であることがより望ましい。
【0116】
以上のような条件を使用することにより、適正なカーボンナノチューブ21が適正な形態パラメータを有するとともに、適正な密度を有するナノチューブ層5が得られる。
【0117】
化学気相成長法では、チャンバー内に、金属層4が形成された芯材3を設置し、炭素供給源となるガスを導入して、このガスの熱分解によって放出された炭素原子を、金属層4上に堆積させる。金属層4が触媒金属を含有しない場合、金属層4上の堆積物中に、主に多層ナノチューブが成長する。又、金属層4に触媒金属を含有せしめると、金属層4上の堆積物中に、主に単層ナノチューブが成長する。
【0118】
炭素供給源となるガスとしては、熱分解して炭素を放出するものであればよく、例えば、メタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガスなどのうち1種又は2種以上が使用できる。
【0119】
又、熱分解温度は、350℃以上1800℃以下の範囲であることが望ましく、500℃以上1100℃以下の範囲であることがより望ましい。
【0120】
以上のような条件を使用することにより、カーボンナノチューブ21が適正な形態パラメータを有するとともに適正な密度を有するナノチューブ層5が得られる。
【0121】
これら方法のうち、ナノチューブ層5の形成方法には、化学気相成長法を使用することが望ましい。化学気相成長法は、適正な形態パラメータを有するとともに、適正な密度でカーボンナノチューブ21を形成することが容易である。
【0122】
(1D) 次に、図6(d)に示すように、積層体6の所定の部分を除去して開口10を形成する。これにより、積層体6が網目構造を有するようにパターン形成される。
【0123】
この開口10の形成方法(積層体6を部分的に除去する方法)としては、例えば、ドライエッチング法、ウェットエッチング法、レーザー加工、マシニングセンターなどによる機械加工、彫刻機などによる彫刻加工などのうちの1種又は2種以上が使用できる。
【0124】
(1E) 次に、図6(e)に示すように、芯材3を除去する。又、このとき、マスキングも除去することが望ましい。
【0125】
この芯材3の除去方法としては、芯材3の構成材料などによって適宜選択されるが、例えば、ステント1を溶解又は膨潤させず、芯材3を選択的に溶解可能な溶剤に溶解させる方法、ケミカルエッチング又は、電気化学的手法により芯材3を選択的に溶出させる方法などが使用できる。
【0126】
(1F) 次に、必要に応じて、積層体6に対し、熱処理を施す。積層体6に熱処理を施すと、例えば、金属層4が合金化及び固溶体化させたり、カーボンナノチューブ21と金属層4との密着性を向上させたりできる。
【0127】
この熱処理を行う場合には、加熱雰囲気は、非酸化性雰囲気、すなわち、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気であることが望ましい。
【0128】
又、加熱温度は、700℃以上1300℃以下の範囲であることが望ましく、900℃以上1100℃以下の範囲であることがより望ましい。
【0129】
又、加熱時間は、0.5時間以上3時間以下の範囲であることが望ましく、1時間以上2時間以下の範囲であることがより望ましい。
【0130】
なお、芯材3の材質によっては、前述したような芯材除去工程(1E)を工程(1F)に統合し、芯材3の除去、加熱処理を工程(1F)で一括して行える。すなわち、工程(1E)、(1F)を別々の工程としなくとも、工程(1F)が工程(1E)を兼ねるようにして、芯材3の除去、加熱処理を1工程で行える。これにより、ステント1の製造工程の短縮を図り得る。
【0131】
又、カーボンナノチューブ21(ナノチューブ層5)の形成工程に加熱処理を含む場合には、芯材3の材質によっては、前述したような芯材除去工程(1E)及び/又は加熱処理工程(1F)を、工程(1C)に統合し、芯材3の除去及び/又は加熱処理を、工程(1C)で一括して行える。すなわち、工程(1C)、(1E)、(1F)を別々の工程としなくとも、工程(1C)が工程(1E)、(1F)を兼ねるようにして、カーボンナノチューブ21(ナノチューブ層5)の形成、芯材3の除去、加熱処理を1工程で行える。これにより、ステント1の製造工程の短縮を図り得る。
【0132】
その後、必要に応じて、ステント1(表層2を含む)の縁部に丸みを付ける加工を施してもよい。
【0133】
この加工方法としては、例えば、バフ研磨加工、バレル研磨、電解研磨、化学研磨、ホーニング加工、電磁バレル研磨などが使用できる。
以上のようにして、図1、2に示すステント1が得られる。
【0134】
なお、前述の説明では、加熱処理を施す前の積層体6(金属層4上にナノチューブ層5を形成したもの)に対し開口10(ステント1の網目構造のパターン形状)を形成したが、開口10の形成は、加熱処理を施す前の積層体6、加熱処理を施した後の積層体6のいずれに対し行ってもよい。
【0135】
加熱処理を施す前の積層体6に対し開口10の形成を行った場合、比較的容易に加工できる。
【0136】
加熱処理を施した後の積層体6に対し開口10の形成を行った場合、比較的高精度に加工できる。
【0137】
又、この実施形態では、芯材3の周面に金属層4を形成したが、金属層4には、芯材3を用いずに、予め金属層4と同様の形状に成形された筒状体を用いてもよい。
【0138】
―――第2の実施形態―――
次に、本発明のステントの第2の実施形態を説明する。なお、前述した第1の実施形態と同様の構成に関しては、その説明を省略する。
【0139】
第2の実施形態のステント101は、図7に示すように、線状部11の外周側の略中央部に、その長手方向に沿うように溝部8が形成され(線状部11が横断面において凹字状をなし)、この溝部8内に表層2(溝部8の内側面及び底面に沿ってカーボンナノチューブ21)が形成されている。
【0140】
なお、図7、図9及び図10は、カーボンナノチューブ21が形成された部分におけるステント1の横断面(図1に示すA-A線での断面図に対応)を示している。
【0141】
このようなステント101は、カーボンナノチューブ21に薬剤等の充填物を充填(収容)すると、ステント101の使用状態時に、管状器官の内壁に充填物をさらに優先的に付与することができる。
【0142】
このステント101は、網目状の溝31を形成した芯材3の周面に、金属層4及びナノチューブ層5(カーボンナノチューブ21)を形成し、これらの溝31内に収容された部分を残すように、それ以外の部分を除去した後、芯材3を除去することにより製造できる。
【0143】
(2A) 先ず、図8(a)に示すように、前述した工程(1A)と同様、ほぼ円柱状の芯材3を用意する。
【0144】
(2B) 次に、図8(b)に示すように、芯材3の周面に、ステント101の線状部11に対応する形状、すなわち網目状の溝31を形成する。
【0145】
溝31の形成方法としては、例えば、冷間・熱間鍛造、ダイキャスト、射出成形、レーザー加工、切削加工、彫刻加工、転造加工などが使用できる。
【0146】
この実施形態においては、溝31の横断面形状が角部を有しているので、比較的簡単に、芯材3に溝31を形成できる。なお、前記角部が丸みを帯びていることが望ましい。こうすることにより、別工程で加工を施すことなく、得られるステント101の縁部が丸みを帯びるようにできる。
この芯材3の横断面(一部横断面)は、図9(c)に示すような状態となる。
【0147】
(2C) 次に、図9(d)に示すように、芯材3の外周面に、前述した工程(1B)と同様に、金属を主材料として構成された金属層4を形成する。なお、金属層4は、芯材3の外表面に、溝31の深さ方向の一部を埋めるように形成されていればよい。すなわち、金属層4の層厚は、溝31の深さよりも小さいものとなっていればよい。なお、後述の工程(2D)での相互拡散防止目的にて、芯材3と金属層4との間には、拡散防止被膜処理を施しておく。
【0148】
(2D) 次に、図9(e)に示すように、金属層4の外周面に、前述した工程(1C)と同様に、カーボンナノチューブ21を成長させてナノチューブ層5を形成する。
【0149】
なお、金属層4の両端部の外表面(カーボンナノチューブ21を形成すべき領域)を除く部分に、例えば金属層を形成することなどによりマスキングを行っておく。又、この金属層と金属層4とが本工程で相互拡散を防ぐために、これらの間に、拡散防止被膜処理を施しておく。
【0150】
(2E) 次に、図10(f)に示すように、金属層4及びナノチューブ層5のうち溝31内に収容された部分を残すように、それ以外の部分を除去することにより、金属層4及びナノチューブ層5を前記網目構造をなすものとする。
【0151】
この除去には、例えば、レーザー加工、切削加工、彫刻加工、研削加工などが使用できる。
【0152】
(2F) 次に、図10(g)に示すように、前述の工程(1E)と同様に、芯材3及びマスキングを除去して、積層体106を得る。
【0153】
(2G) 次に、必要に応じて、前述した工程(1F)と同様に、積層体106に対し、熱処理を施す。
【0154】
なお、カーボンナノチューブ21(ナノチューブ層5)の形成工程の加熱温度が充分な場合には、前述したような加熱処理工程(2G)を、工程(2D)に統合し、加熱処理を、工程(2D)で一括して行える。すなわち、工程(2D)、(2G)を別々の工程としなくとも、工程(2D)が工程(2G)を兼ねるようにして、カーボンナノチューブ21(ナノチューブ層5)の形成、加熱処理を1工程で行える。これにより、ステント101の製造工程の短縮を図り得る。
【0155】
このようなステント101の製造方法によれば、芯材3に形成された溝31に対応した形状でステント101を得ることができるため、網目構造による開口10を、加工装置の加工精度を超えたものとして形成できる。その結果、比較的簡単に、縮径状態時における外径を十分に小さくできる。
【0156】
なお、前述した2つの実施形態では、ステント1の外表面にのみカーボンナノチューブ21を形成したが、さらに、ステント1の内表面及び開口10に臨む面(開口10の内周面)にカーボンナノチューブ21を形成してもよい。以下、この例について説明する。
【0157】
―――第3の実施形態―――
次に、本発明のステントの第3の実施形態を説明する。なお、前述した第1の実施形態と同様の構成に関しては、その説明を省略する。
【0158】
第3の実施形態のステント201は、図11に示すように、線状部11の外周を覆うように、表層2が形成されている。すなわち、第3の実施形態のステント201は、その外表面、内表面及び開口10に臨む面、かつ、その軸線方向での両端部に、カーボンナノチューブ21が形成されている。
【0159】
なお、図11〜図13は、カーボンナノチューブ21が形成された部分におけるステント1の横断面(図1に示すA-A線での断面図に対応)を示している。
【0160】
このようなステント201は、表層2に薬剤等の充填物を充填(収容)すると、ステント201の使用状態時に、管状器官の内壁及び内腔部に充填物を付与できる。
【0161】
次に、ステント201の製造方法について説明する。
このステント201は、芯材3の周面に、網目構造を有する金属層4(ステント201)を形成した後、芯材3を除去し、網目構造を有する金属層4の周囲にナノチューブ層5(カーボンナノチューブ21)を形成することにより製造できる。
【0162】
(3A) まず、図12(a)に示すように、前述した工程(1A)と同様、ほぼ円柱状の芯材3を用意する。
【0163】
(3B) 次に、図12(b)に示すように、芯材3の周面に、前述した工程(1B)と同様に、金属を主材料として構成された金属層4を形成する。
【0164】
(3C) 次に、図12(c)に示すように、金属層4に対し、前述した工程(1D)と同様に、その一部を除去して開口10を形成する。これにより、金属層4が網目構造を有するようになる。すなわち、ステント1が得られる。
【0165】
(3D) 次に、図13(d)に示すように、前述した工程(1E)と同様に、芯材3を除去する。
【0166】
(3E) 次に、図13(e)に示すように、網目構造を有する金属層4の周囲に、前述した工程(1C)と同様に、カーボンナノチューブ21を成長させてナノチューブ層5(表層2)を形成する。
【0167】
なお、金属層4のカーボンナノチューブ21を形成すべき領域を除く部分に、例えば金属層を形成することなどによりマスキングを行っておく。又、この金属層と金属層4とが本工程で相互拡散を防ぐために、これらの間に、拡散防止被膜処理を施しておく。
そして、ナノチューブ層5を形成した後、マスキングを除去して、積層体206を得る。
【0168】
(3F) 次に、必要に応じて、前述した工程(1F)と同様に、積層体206に対し、熱処理を施す。
【0169】
なお、カーボンナノチューブ21(ナノチューブ層5)の形成工程の加熱温度が充分な場合には、前述したような加熱処理工程(3F)を、工程(3E)に統合し、加熱処理を、工程(3E)で一括して行える。すなわち、工程(3E)、(3F)を別々の工程としなくとも、工程(3E)が工程(3F)を兼ねるようにして、カーボンナノチューブ21(ナノチューブ層5)の形成、加熱処理を1工程で行える。これにより、ステント1の製造工程の短縮を図り得る。
【0170】
なお、本発明のステントは、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは無論である。
【0171】
上述の実施形態では、カーボンナノチューブをステントの両端部の外表面に形成するものとして説明したが、カーボンナノチューブは、ステントの一方の端部の外表面に選択的に形成してもよい。
【0172】
又、本発明のステントは、板状の金属を用い、これに対し網目構造やカーボンナノチューブを形成すると共に、筒状とすることによっても製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明に係るステントの第1の実施形態を示す側面図。
【図2】図1中に示すA-A線での断面図。
【図3】図1に示すステントを管状器官の内腔部に留置した状態を示す模式図。
【図4】図1に示すステントの製造方法を説明する図。
【図5】図1に示すステントの製造方法を説明する図。
【図6】図1に示すステントの製造方法を説明する図。
【図7】本発明に係るステントの第2の実施形態を示す断面図。
【図8】図7に示すステントの製造方法を説明する図。
【図9】図7に示すステントの製造方法を説明する図。
【図10】図7に示すステントの製造方法を説明する図。
【図11】本発明に係るステントの第3の実施形態を示す断面図。
【図12】図11に示すステントの製造方法を説明する図。
【図13】図11に示すステントの製造方法を説明する図。
【符号の説明】
【0174】
1,101,201……ステント
10……開口
11……線状部(線材)
111……交点
2……表層
21……カーボンナノチューブ
3……芯材
31……溝
4……金属層
5……ナノチューブ層
6,106,206……積層体
8……溝部
900……管状器官
910……病変部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の管状器官の内腔部に挿入・留置して使用され、複数の開口が形成された網目構造を有すると共に全体として筒状をなすステントであって、
その軸線方向での少なくとも一方の端部における外表面の領域に、カーボンナノチューブが形成されていることを特徴とするステント。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、前記領域内にて1mm2当り、5000個以上200000個以下の範囲で存在していることを特徴とする請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの平均長さは、50nm以上50μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のステント。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの平均外径は、5nm以上20nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のステント。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、化学気相成長法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のステント。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブの中空部及び前記カーボンナノチューブ同士の間には、充填物が充填されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のステント。
【請求項7】
前記充填物は、薬剤を含有していることを特徴とする請求項6に記載のステント。
【請求項8】
前記薬剤は、抗血栓剤、抗血小板剤、免疫抑制剤、細胞増殖抑制剤、抗炎症剤、内皮治癒促進剤のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものを主たる成分とすることを特徴とする請求項7に記載のステント。
【請求項9】
前記充填物は、前記薬剤を保持する機能を有するポリマーを含有することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のステント。
【請求項10】
前記ポリマーは、生体吸収性ポリマーを主たる成分とすることを特徴とする請求項9に記載のステント。
【請求項11】
ステントは、Au、Pt、Ta、Rh、Ru、Pd、Nb、Os、Ir、Agよりなる群から選択された少なくとも1種又はこれらのうち少なくとも1種を含む合金を主材料として構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のステント。
【請求項12】
ステントは、Ni・Ti合金を主材料として構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−67924(P2008−67924A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249772(P2006−249772)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(393024186)株式会社ホムズ技研 (35)
【Fターム(参考)】