説明

ステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法

【課題】ガラスリボン挿入にステンレス鋼製金網がばたつくことなく、マス目形状が揃いステンレス鋼製金網入りガラスリボンを裁断する際、廃棄部位が少ないステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼製金網1を、溶融した状態で進行するガラスリボンにステンレス鋼製金網がなすマス目の対角線がガラスリボンの進行方向に平行および直交するように挿入し封入内在させてなるステンレス鋼製金網入りガラス板Gの製造方法において、鋼線の引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲であり、金網の両端部より内側に2.0〜40.0mmの位置に、径0.35〜0.8mmの炭素鋼線9を溶接固定し、端部付近を結合させたステンレス鋼製金網1を、ガラスリボンの両端部より内側に、10.0〜240.0mmの範囲に挿入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用窓ガラスに用いられるステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金網入りガラス板は、破損時にガラス片が飛び散りにくく飛散防止に優れ、割れたとしても金網に支えられ崩れ落ちることがなく、火災時に類焼を防ぐ働きがあり建築用窓ガラスとして広く用いられる。現在まで、軟鋼線(鉄製)に腐食防止のためにニッケルメッキ、クロムメッキまたはスズメッキを施した金網を封入内在させた金網入りガラス板が主に用いられてきた。しかしながら、窓ガラスのサイズに裁断した際に、ガラス端部の切断面に軟鋼が露出し腐食することによるガラス内での軟鋼線の体積膨張によりクラックが発生することがあり、腐食に強いステンレス鋼製金網入りガラス板のニーズが強まっている。
【0003】
金網入りガラス板には、(1)ガラス板中の金網のマス目形状が正方形、あるいは正方形に近い菱形であること、(2)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、金網入りガラス板に使用する金網用金属線材には(3)長期間に亘って錆びないこと、(4)切断し易いこと、(5)磁性を有することが求められ、ステンレス鋼製金網入りガラス板において、(1)〜(5)の要件を全て満足することが好ましい。(1)〜(5)の要件ついて、以下に説明する。
【0004】
最初に、(1)の要件について説明する。金網のマス目が正方形、あるいは正方形に近い菱形でないと金属線が密になり、窓ガラス本来の開放感が妨げられるばかりか、デザインとして見栄えがよくない。加えて、ガラス面積に対して必要以上に金網を使わなければならず不経済である。また、通常、窓ガラスは矩形であるので、金網が正方形、あるいは正方形に近い菱形でないとステンレス鋼製金網入りガラス板に方向性を生じ窓ガラスの大きさに切り出す際、使わない端板が生じる公算が高い。よって、市販の網入りガラス板の標準品も、マス目は正方形、あるいは正方形に近い菱形である。
【0005】
次いで、(2)の要件について説明する。金網入りガラス板は、割れたとしても金網に支えられ崩れ落ちにくいので、火災時に類焼を防ぐ働きがあり、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格した金網入りガラス板は、防火ガラスとして建築物の窓等に広く用いられている。金網をなす金属線の径が大きいほど、金網のマス目が小さいほど、前記評価試験に合格し易い。
【0006】
次いで、(3)の要件について説明する。金網に軟鋼線(鉄製)を用いる場合には、軟鋼線にクロムメッキ、ニッケルメッキまたはスズメッキ等を施したものが使用される。しかしながら、メッキしたとしても、切断した際のガラスエッジ部の軟鋼線の切り口は、鉄が露出するので錆び易く、軟鋼線が錆びることによる体積膨張で金網入りガラス板がエッジ部より割れることがある。
【0007】
次いで、(4)の要件について説明する。金網入りガラス板は、連続したガラスリボンに金網を挿入した後、所定の大きさに切断して使用するため、金属線には切断しやすいことが求められる。
【0008】
最後に、(5)の要件について説明する。金網入りガラス板を破砕しカレットとしてリサイクルする際に、金属線が磁性を有しないと、カレットより金属線を磁力選別できないのでリサイクルが困難となる。
【0009】
続いて、金網入りガラス板の製造方法について説明する。
【0010】
図3は、溶融した状態で進行するガラスリボン2に金網1を挿入する際の説明図である。金網入りガラス板は、ガラス溶融窯3中の高温の溶融ガラス4をガラス溶融窯3から連続的に出し、溶融ガラス4が固まらず柔らかい状態、言い換えれば、溶融状態で進行するガラスリボン2に、ロールに巻かれた長尺状の金網1を挿入して製造される。通常、正方形または菱形のマス目を形成してなる金網1を、溶融した状態で進行するガラスリボン2に金網1がなすマス目の対角線がガラスリボン2の進行方向に平行および直交するように挿入し封入内在させる。
【0011】
図3に示すように、ガラス溶融窯3で加熱し溶融状態のガラス4を、連続したガラスリボン2として流出させつつ引き出し、ガラスリボン2の厚みを一対の圧延ロ−ル5、5´によって調整しつつ、厚みが一定になるように成形する。金属線を矩形あるいは菱形のマス目に編んだ金網1をロ−ルに巻き、該金網1は網送りロール6に引っ張られつつ、一対の圧延ロ−ル5、5´の直前に形成されるガラス盛り上がり部7より挿入される。金網1が挿入されたガラスリボン2´、言い換えれば、リボン状の金網入りガラス板は、キャリアロ−ル8により平面となるように水平に成形および徐冷しつつ搬送され、連続成形され固化した後で表面研磨する。このようにして得られた金網1を挿入し封入内在させたガラスリボン2´を、窓ガラス等の所定の寸法に切断して、金網入りガラス板として出荷する。
【0012】
図4は所定の形状に切断後の金鋼製金網入りガラス板の一例の斜視図である。
【0013】
(1)の要件を満たすためには、マス目の形状が正方形の金網を用い、ガラスリボンに挿入する際の送り速度をガラスリボンの進行速度と同じにすることが考えられる。
【0014】
しかしながら、金網の送り速度をガラスリボンの進行速度と同じにして金網の張りを弱くすると、ガラス挿入前の金網のマス目の形状をガラス挿入後に正方形に保てるが、挿入時の金網の張りが弱いため、金網が蛇行し易い。蛇行すると、ガラスリボンの厚み方向の金網の封入内在位置、言い換えれば、深さが不揃いとなり、製造後の金網入りガラスの表面に凹凸が発生する。このため、ガラスリボンに挿入する際に金網の十分な張りを確保し、ガラスリボンの厚み方向の金網の位置を一定とするために、ガラスリボンの進行速度に対し、金網の送り速度を遅くすることが好ましい。このようにすると、挿入時にマス目の形状が正方形であれば、金網をガラスリボンに挿入する際にマス目は伸ばされ菱形となる。製造後の金網入りガラス板の見栄えをよくするため、マス目を正方形、あるいは正方形に近い菱形となるように挿入するには挿入前の金網のマス目の形状および挿入時の送り速度を調整する必要がある。その際、金網の送り速度の調整不足等でマス目が過度に伸ばされ所定の形状に保てなくなることが起こりえると言う問題があった。
【0015】
特許文献1において、菱形状金網帯の両側端部に位置する菱形鋼製素材の各屈曲点を、金網帯の長手方向に線材で結合した網入りガラス板製造用金網が開示されている。金網入りガラス板の生産ラインにおいて、金網をガラスリボンの進行方向と同じ方向に送りつつ、ガラスリボン中に挿入して封入する際に、金網の長手方向を溶接等の手段で結合させた線材がピンと張ることで、挿入時に金網がばたつかず、言い換えれば、振動せず、また、挿入時の金網の曲がりが抑制され、金網のマス目に正方形が得られる。しかしながら、金網の端部の屈曲点を溶接すると、ガラスリボンに金網が反って挿入されたり、挿入後に溶接が外れたりすることがあった。特に、ステンレス鋼製金網入りガラス板の製造において、顕著である。ステンレス鋼製の網が挿入された網入り板ガラスについて、例えば、特許文献2が国際公開されている。
【特許文献1】実公昭53−7441号公報
【特許文献2】WO2003/028919
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
金網入りガラス板の製造において、金網をガラスリボンの進行方向と同じ方向に送りつつ、ガラスリボン中に挿入して封入する際に、金網の送り方向に平行な両端部を溶接等の手段で結合させた線材があれば、ガラスリボンに金網が引張られ、線材がピンと張ることで、挿入時金網がばたつくことなく、また、金網の伸びや曲がりが抑制され、金網のマス目に正方形または菱形が得られる。
【0017】
ガラスリボンに金網を挿入した後に、線材のみでなくガラスリボンが金網を引っ張る力があり、金網の引張り強度にばらつきがあり不揃いのため、金網のマス目形状が揃わない、特にマス目のガラスリボンの流れ方向に直交する対角線の長さが揃わないという問題があり、軟鋼製金網に比べ、熱間での引張強さが小さいフェライト系ステンレス鋼線からなるステンレス鋼製金網入りガラス板の製造において、このことは顕著である。フェライト系ステンレス鋼線はガラスリボンに挿入される際、高温により、引張り強さが急速に低下する。そのため、ガラス内でマス目が伸ばされ、マス目のガラスリボンの流れ方向に直交する対角線の長さが揃わず、マス目形状が不揃いになると思われた。
【0018】
よって、本発明は、フェライト系ステンレス鋼線からなるステンレス鋼製金網をガラスリボン中に封入して内在させる際、封入後の金網のマス目形状が揃うことを目的とし、引張り強さを調整したフェライト系ステンレス鋼線からなるステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
加え、前記(2)〜(5)の要件を満たすステンレス鋼製金網入りガラス板を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、ガラスリボンへ挿入した後の金網の伸びをより抑制できる手段として、歪取焼きなましによって、引張強さを調整したステンレス鋼線からなるステンレス鋼製金網を用い、正方形もしくは正方形に近い菱形等、所定の形状のマス目を有するステンレス鋼製金網入りガラス板を得られる製造方法である。歪取焼きなましによって、フェライト系ステンレス鋼線の引張強さを大きくしておくことで、高温のガラスリボン内で引張り強さが著しく低下するまでに時間がかかり、ガラスリボン内でマス目が伸ばされることが抑制され、マス目のガラスリボンの流れ方向に直交する対角線の長さが揃わず、マス目形状が不揃いになることが防止された。
【0021】
常温での引張強さに優れるフェライト系ステンレス鋼線は、所望とする線径にするため伸線工程を経る。伸線工程後の加工において硬化し内部応力が残留するため、通常、内部応力の除去や軟化を目的に光輝一本焼鈍炉により焼きなましが実施される。この焼きなましにおける管理項目は炉温、徐冷勾配、滞在時間などがあり、焼きなましにより、引張強さの低下を僅かなままで鋼を軟化させて、且つ内部応力が相当程度に除かれる。
【0022】
通常、市販のフェライト系ステンレス鋼線またはフェライト系ステンレス鋼製金網は、完全焼きなましの操作で、常温での引張り強さが300N/mm以上、600N/mm未満の範囲としたフェライト系ステンレス鋼線を編網したステンレス鋼製金網である。
【0023】
本発明において、前記市販のフェライト系ステンレス鋼線に歪取焼きなましの操作を行い、フェライト系ステンレス鋼線の常温での引張り強さが、600N/mm以上、800N/mm以下の範囲となるようにした後に編網したフェライト系ステンレス鋼製金網を、ステンレス鋼製金網入りガラス板の製造時にガラスリボンに潜入させることで、正方形もしくは正方形に近い菱形等、所定の形状のマス目を有するステンレス鋼製金網入りガラス板が得られた。
【0024】
本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法において、ガラスリボンに金網を挿入した後に、線材のみでなくガラスリボンが金網を引っ張る力があり、金網の引張り強さにばらつきがあり不揃いのため、金網のマス目形状が揃わないという問題が本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法によって解決された。
【0025】
本発明において、ステンレス鋼製金網入りガラス板を製造する際、ガラスリボンへのステンレス鋼製金網の挿入時にステンレス鋼製金網がばたつくことがないよう、挿入前後でマス目が過度に伸ばされないように、長尺状のステンレス鋼製金網の送り方向に平行な両端部に沿って、少なくとも一対の炭素鋼線を、ステンレス鋼製金網の端部付近に溶接にて連続して固定し金網両端部を結合させてなるステンレス鋼製金網を用いることが好ましい。詳しくは、ステンレス鋼製金網の端部付近に鋼線を溶接にて固定し両端部を結合させる際、高温での引張強さがフェライト系ステンレス鋼線より大きい線材を用いることが好ましく、例えば、線材成分のカーボンが1.7wt%以下の炭素鋼線が挙げられ、価格が安く汎用の網入りガラスを製造するにコスト的にも有利であり、ステンレス鋼製金網の端部付近に溶接する鋼線は炭素鋼線を用いることが好ましい。
【0026】
また、リボン状ステンレス鋼製金網入りガラス板を製造した後、窓ガラスの大きさに裁断して使用する。その際、廃棄部位が少なく効率よく窓ガラスを得るためには、ガラスリボン状のステンレス鋼製網入りガラス板中のステンレス鋼製金網の位置、および、ステンレス鋼製金網の送り方向に平行な両端部付近において炭素鋼線を溶接する位置が重要である。加えて、ステンレス鋼製金網をガラスリボンに挿入する際のステンレス鋼製金網のばたつき、ステンレス鋼製金網の挿入前後での伸びを抑制するためには、長尺状のステンレス鋼製金網の送り方向に平行な端部付近に連続して溶接し固定し金網の端部付近を結合させる炭素鋼線の固定位置および径が重要である。
【0027】
即ち、本発明は、正方形または菱形のマス目を形成してなるステンレス鋼製金網を、溶融した状態で進行するガラスリボンにステンレス鋼製金網がなすマス目の対角線がガラスリボンの進行方向に平行および直交するように挿入し封入内在させてなるステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法において、編網されたフェライト系ステンレス鋼線の引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲であり、金網の両端部より内側に2.0mm以上、40.0mm以下の位置に、径が0.35mm以上、0.8mm以下の炭素鋼線を溶接固定し端部を結合させてなるステンレス鋼製金網を、ガラスリボンの両端部よりガラスリボン内側に、10.0mm以上、240.0mm以下の範囲に挿入させることを特徴とするステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法である。
【0028】
更に、本発明は、フェライト系ステンレス鋼線に伸線加工後に歪取焼きなましを行い、引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲としたことを特徴とする上記のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法である。
【0029】
また、正方形または菱形のマス目を形成してなるステンレス鋼製金網を、溶融した状態で進行するガラスリボンにステンレス鋼製金網がなすマス目の対角線がガラスリボンの進行方向に平行および直交するように挿入し封入内在させてなるステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法において、ガラスリボンへのステンレス鋼製金網の挿入時に、金網が交差する交点を溶接することによって、マス目の形状が大きく乱れることはない。
【0030】
更に、本発明は、フェライト系ステンレス鋼線を交差させてなる交点が溶接されているステンレス鋼製金網を用いることを特徴とする上記のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法である。
【0031】
また、(2)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格することの要件を満たすためには、用いるフェライト系ステンレス鋼線の線径、ステンレス鋼製金網のマス目の大きさ、形状が重要となる。
【0032】
更に、本発明は、ステンレス鋼製金網をなすフェライト系ステンレス鋼線の径が0.35mm以上、0.64mm以下であることを特徴とする上記のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法である。
【0033】
更に、本発明は、マス目の1辺の長さが16.0mm以上、21.0mm以下であるステンレス鋼製金網を用いることを特徴とする上記のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法である。
【0034】
更に、本発明は、菱形のマス目における鋭角部の角度が83度以上、90度以下であることを特徴とする上記のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法である。
【0035】
更に、本発明は、上記のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法で製造されてなるステンレス鋼製金網入りガラス板である。
【発明の効果】
【0036】
本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法により、溶融した状態で進行するガラスリボン中にステンレス鋼製金網を挿入し封入内在させる際に、金網の両端部に炭素鋼線を溶接固定したことでガラスリボンがばたつくことなく、また、引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲のフェライト系ステンレス鋼線で編網された金網を用いることで、ガラスリボンへの挿入前後でステンレス鋼製金網のマス目の伸びがばらつき、ガラス板中の金網のマス目の形状が不揃いとなることなく、正方形、あるいは正方形に近い菱形としたステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法を得ることができた。加えて、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法により製造したリボン状のステンレス鋼製金網入りガラス板を裁断し窓ガラスとする際、廃棄部位が少なく効率よく窓ガラスを得られる。
【0037】
加えて、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法により、製造されたステンレス鋼製金網入りガラス板は、(1)ガラス板中の金網のマス目形状が正方形、あるいは正方形に近い菱形であること、(2)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、(3)長期間に亘って錆びないこと、(4)切断し易いこと、(5)磁性を有すること、(1)〜(5)の要件を全て満足する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
最初に、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法に使用するステンレス鋼製金網について説明する。
【0039】
本発明に使用するステンレス鋼製金網は、引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲のフェライト系ステンレス鋼線で編網される。
【0040】
市販されているフェライト系ステンレス鋼線は、完全焼きなましが行なわれており、通常、引張り強さが常温で300N/mm2以上、600N/mm2未満の範囲である。該フェライト系ステンレス鋼線に完全焼きなましを行わず、歪取焼きなましを行うと、フェライト系ステンレス鋼線の引張り強さは、常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲となり、編網することで所望のステンレス鋼製金網が得られる。
【0041】
歪取焼きなましの操作において、歪取焼きなましの条件である加熱時の昇温時間、昇温カーブ、加熱後の保持温度および保持時間、冷却時間、冷却カーブを選択することで、言い換えれば、炉温、徐冷勾配、滞在時間等を調整することで、フェライト系ステンレス鋼線の引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲が得られる。
【0042】
例えば、引張り強さが常温で530N/mm2であるフェライト系ステンレス鋼線(SUS430製)は通常1050℃で保持温度を設定し、完全焼きなましを行うことによって得られる。それに対して、850℃で保持温度を設定し、他の前記歪取焼きなまし条件を調整することで、引張り強さが常温で730N/mm2近辺のフェライト系ステンレス鋼線となる。
【0043】
歪取焼きなまし操作を行いフェライト系ステンレス鋼線の引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲となるようにしたステンレス鋼製金網は、ガラスリボンを挿入した後、徐冷し、両面を研磨し凹凸がなきように仕上るデュープレックス法によるステンレス鋼製網入りガラス板、型板ガラスを用いたステンレス鋼製網入りガラス板について、ともに有効であり、マス目の形状が揃った、特にガラスリボンの流れ方向に対しての直交方向の対角線長さが±8.0%以内に揃ったステンレス鋼製網入りガラス板が得られた。型板ガラスとは、片面にさまざまな型模様をデザインしたガラスであり、光を拡散するとともに視野をさえぎる機能を持つ。
【0044】
歪取焼きなまし行うと、ステンレス鋼製金網のフェライト系ステンレス鋼線の引張り強さがガラスリボン挿入に対して所望の範囲、常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下に入り、挿入時に金網面内の伸びが均一になり、ガラスリボンの流れ方向に対しての直交方向の対角線長さが±8.0%以内となり、形状が揃った正方形および矩形のマス目がステンレス鋼製金網入りガラス板に得られた。
【0045】
焼きなましとは、適当な温度に加熱したのち、適当な速度で冷却する操作をいい、通常、変態点(再結晶温度)を数十度上回る温度に加熱保持してから炉内でゆっくり冷却する。言い換えれば、再結晶温度に加熱、保持の後、普通炉冷によりゆっくり冷却する操作である。焼きなましの目的は、鋼の軟化、内部応力の除去、言い換えれば残留応力の除去、結晶組織の調整、冷間加工性および切削性の改善、機械的性質の向上等であり、その種類に完全焼きなまし、歪取焼きなまし等がある。
【0046】
歪取焼きなましは、鋼を変態点以下の温度に加熱保持して、圧延、鍛造、機械加工、溶接等で生じた内部歪、言い換えれば残留応力を除去する操作である。
【0047】
次いで、ステンレス鋼製ガラス板の製造方法について説明する。
【0048】
図1は、金網の端部を切断していない本発明に用いるステンレス鋼製金網の一例の正面図である。図2は、金網の端部を切断した本発明に用いるステンレス鋼製金網一例の正面図である。図1および図2は、金網の端部近縁を示し、残りは省略線によって省略した。
【0049】
図1または図2に示すステンレス鋼製金網1は伸線加工後に歪取焼きなましを行い、常温での引張強さを、600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲としたフェライト系ステンレス鋼線で編網されてなる。
【0050】
炭素鋼線9はステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、ステンレス鋼製金網1の両端部10付近に連続して溶接固定し、ステンレス鋼製金網1の両端部10付近を結合させる。即ち、溶融状態で進行するガラスリボンに挿入するために長尺状のステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、炭素鋼線9を、ステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10付近に連続して溶接固定し、ステンレス鋼製金網1の端部10付近を結合させる。
【0051】
図3は、溶融した状態で進行するガラスリボンに金網を挿入する際の説明図である。
【0052】
ステンレス鋼製金網1をなすフェライト系ステンレス鋼線を、歪取焼きなましにより、常温での引張強さ600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲とし、温度、900℃以上、1200℃以下、好ましくは1000℃以上、1150℃以下のガラス盛り上がり部7からガラスリボン2に挿入することで、図3に示すように、ステンレス鋼製金網入りガラス板を製造する際、溶融した状態で進行するガラスリボン2へのステンレス鋼製金網1の挿入時に、ステンレス鋼製金網1においてマス目が過度に伸ばされることがなく、正方形もしくは正方形に近い菱形等、所定の形状のマス目を安定的に得られた。更に、ガラスリボン2´中に挿入されたステンレス鋼製金網1の封入内在位置、言い換えればガラスリボン2´中の深さ位置も一定となった。本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法において、ガラス盛り上がり部7の温度が900℃より低いと、ガラスの粘度が高く、上手く挿入できない。1200℃より高いと、ステンレス鋼製金網1をなすフェライト系ステンレス鋼線を、歪取焼きなましにより、常温での引張強さ600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲になるように調整したとしても、ガラスコブ7に挿入された後、フェライト系ステンレス鋼線の引張強さが即座に低下しマス目のガラスリボン2の流れ方向に直交する対角線の長さが揃わず、マス目形状が不揃いとなった。好ましくは1000℃以上、1150℃以下である。
【0053】
また本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法において、ガラスリボン2に挿入する際のステンレス鋼製金網1の送り速度は、ガラスリボン2の進行速度に対して遅く、93.0%以上、99.0%以下の範囲となることが好ましい。93.0%未満であると、ガラスリボン2挿入時にステンレス鋼製金網1が伸ばされ過ぎて、マス目のガラスリボン2の流れ方向に直交する対角線の長さが揃わず、マス目形状が不揃いとなる。99.0%より大きいとガラスリボン2挿入時にステンレス鋼製金網1が張ることなく、ステンレス鋼製金網1がばたつく。ガラスリボンの流れ方向に対しての直交方向の対角線長さが±8.0%以内となり、形状が揃った正方形および矩形のマス目がステンレス鋼製金網入りガラス板に得るには、93.0%以上、99.0%以下の範囲となることが好ましい。
【0054】
歪取焼きなましを行った後のステンレス鋼製金網をなすフェライト系ステンレス鋼製線材の常温での引張強さが600N/mm2未満であると、ガラスリボン2へ挿入された後に、フェライト系ステンレス鋼線の引張強さが急激に低下するので、編網したステンレス金網1にガラスリボン2の一定の引っ張り力が掛かり、ガラスリボン2´に封入されたステンレス鋼製金網1のマス目が不揃いになり正方形が得られ難い。好ましくは、焼きなました後のフェライト系ステンレス鋼線の常温での引張強さが670N/mm2以上にすることで、ガラスリボン2´に封入されたステンレス鋼製金網1のマス目形状が揃い、所望の正方形が得られステンレス鋼製金網入りガラス板が安定生産される。歪取焼きなました後のフェライト系ステンレス鋼線の常温での引張強さが800N/mm2を超えると、伸線工程で生じた残留内部応力による線癖により所望のマス目形状が得られない。好ましくは、焼きなました後の線材の常温での引張強さは、770N/mm2以下の範囲内である。
【0055】
炭素鋼線9は、好ましくはステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10より内側に、2.0mm以上、40.0mm以下の位置、より好ましくはステンレス鋼製金網1の両端部10より内側に、3.0mm以上、29.0mm以下の位置に、更に好ましくは13.0mm以上、25.0mm以下の位置にステンレス鋼製金網1の両端部10に沿って、両端部10の内側にスポット溶接等の手段で固定して、ステンレス鋼製金網1の両端部10付近を結合させる。
【0056】
炭素鋼線9を溶接固定した位置が、ステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10より内側に2.0mm未満の範囲であると、図4に示すガラスリボン2へのステンレス鋼製金網1の挿入時に、ステンレス鋼製金網1がガラスリボン2へ挿入される際、ステンレス鋼製金網1の両端部10のみが垂直方向に反る、挿入後に溶接が外れることが起こりやすく、このことが原因で、ステンレス鋼製金網1がガラスリボン2内の所定の位置に封入内在されないことがある。好ましくは、炭素鋼線9の溶接位置を、ステンレス鋼製金網1の両端部10より、13.0mm以上、内側にすることでステンレス鋼製金網1の端部10のみが垂直方向に反る、即ち挿入後に溶接が外れる懸念がなくなる。また、炭素鋼線9の溶接位置が、ステンレス鋼製金網1の両端部10より内側に40.0mmを越えると、ステンレス鋼製金網入りガラスリボン2´を裁断して、窓ガラス等に利用する際、廃棄部位が多くなり、言い換えれば、採板する面積が少なくなり、利用効率が悪く、不経済である。好ましくは、溶接位置は25.0mm以下の範囲内である。以上の理由より、炭素鋼線9を溶接する最適位置は、ステンレス鋼製金網1の両端部10より内側に18.0mmである。
【0057】
また、ガラスリボン2´中のステンレス鋼製金網1の位置は、ガラスリボン2´の進行方向に平行な両端部より内側に10.0mm以上、240.0mm以下である。後工程の窓ガラスサイズへの裁断において作業し易いように、ステンレス鋼製金網1は、ガラスリボン2´の両端部より飛び出ないようにガラスリボン2´中に内在させることが好ましい、ガラスリボン2´よりステンレス鋼製金網1の端部10が飛び出すと、ステンレス鋼とガラスの熱膨張率の差異およびヒートショック等により、徐冷中にガラスリボン2´に亀裂が走ることがある。よって、ガラスリボン2´中のステンレス鋼製金網1の位置は、ガラスリボン2´の両端部より内側に10.0mm以上の範囲とすることが好ましい。またガラスリボン2´中のステンレス鋼製金網1の位置が、ガラスリボン2´の両端部より内側に240.0mmを越えると、ステンレス鋼製金網入りガラスリボン2´を裁断し窓ガラス等に利用する際、廃棄部位が多くなり、言い換えれば、採板する面積が少なくなり、利用効率が悪く不経済である。
【0058】
また、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法において、ステンレス鋼製金網1に溶接し固定する炭素鋼線9の径は、0.35mm以上、0.80mm以下である。炭素鋼線9の径が0.35mmより細いと、ステンレス鋼製金網1の両端部10を補強する効果に薄く、ステンレス鋼製金網1をガラスリボン2中に挿入する際のバタツキをなくす効果が少ない。また、炭素鋼線9の径が0.80mmより太いと、ステンレス鋼製金網入りガラスリボン2´を窓ガラスのサイズに裁断する際、ガラスリボン2´の両端部10付近が切り難く作業性の低下に繋がる。
【0059】
また、ステンレス鋼製金網入りガラス板において、ステンレス鋼製金網の種類によっては、そのまま表面処理しないでガラスリボンに挿入し封入内在させると、ステンレス鋼とガラスの熱膨張率の違いにより、ステンレス鋼製金網とガラスの界面で微細なクラックが生じ界面剥離することが原因で、窓ガラスとした際にステンレス鋼製金網にギラツキ感が生じることがある。その抑制のために、界面の緩衝用にステンレス鋼製金網にニッケルメッキ、クロムメッキ、スズメッキを施すこともある。特にニッケルメッキにその効果がある。本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板においても、使用するステンレス鋼製金網にニッケルメッキしたフェライト系ステンレス鋼線を編網したステンレス鋼製金網を用いることが好ましい。
【0060】
ステンレス鋼製金網1をなすフェライト系ステンレス鋼線には、ガラスリボン2に挿入し封入内在させた後、フェライト系ステンレス鋼線とガラス界面の密着性を向上させ、界面剥離によるギラツキ感の発生を抑制するために、ニッケルメッキ、クロムメッキ、錫メッキ、または銅メッキ等のメッキが施される場合は、ステンレス鋼製金網1の両端部10付近に固定する炭素鋼線9も同種のメッキを施しても構わない。尚、メッキが施される場合は公知のメッキ法、電気メッキ法、化学メッキ法によって行うが、均等な厚みを得るには電気メッキ法を用いることが好ましい。
【0061】
また、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法に使用するステンレス鋼製金網1において、フェライト系ステンレス鋼線が交差した交点11がスポット溶接等により固着し相互に固定されてなることが好ましい。交点11をスポット溶接等で固着させることにより、ステンレス鋼製金網1において、マス目の形状が大きく乱れることはない。交点11が外れることのないよう強度を得るには、スポット溶接を用いることが好ましく、電気溶接にて行うことが好ましい。
【0062】
ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは、図4に示すようなマス目に形成するよう、フェライト系ステンレス鋼線を交差させ、マス目の形状を正方形あるいは菱形にしたステンレス鋼製金網1がステンレス鋼製ガラス板Gに挿入されてなる。本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gの製造方法に使用するガラスの種類としては、窓ガラス用に通常使用されているソ−ダライムシリケ−トガラス等が挙げられる。
【0063】
次いで、本発明のステンレス鋼製金網入り板ガラスGにおけるステンレス鋼製金網1の形状について説明する。
【0064】
金網入りガラス板および金属線入りガラス板は、割れた時にガラス片が飛び散りにくく飛散防止に優れ、特に金網入りガラス板は、火災時等に熱でガラスが割れたとしても金網に支えられ窓自体が即座に崩れ落ちることがないので、類焼を防ぐ働きがあり防火性能に優れるため、JIS R 3204−1994の防火性試験に合格して、建築用窓ガラスに防火目的で広く用いられている。
【0065】
火災時にステンレス鋼製金網入りガラス板Gよりなる窓ガラスが熱により割れた際、割れたガラスの重みにより即座に崩落しないように、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gの製造方法において、ステンレス鋼製金網1を形成するフェライト系ステンレス鋼線の径は、0.35mm以上であることが好ましい。より好ましいのは0.45mm以上である。フェライト系ステンレス鋼線の径が0.35mmより細いと、ステンレス鋼製金網自体が脆弱でガラスリボン2への挿入時、ステンレス鋼製金網1がばたつき、振動が大きくなり、ガラスリボン2´の厚み方向におけるステンレス鋼製金網1の挿入位置が不揃いとなり、所定のステンレス鋼製金網入りガラス板Gが得られない。加えて、ステンレス鋼製金網1の挿入位置が揃わないことにより、得られるステンレス鋼製金網入りガラス板Gの表面に凹凸が発生する。尚、ステンレス鋼製金網1の交差部11を溶接しないと、このステンレス鋼製金網1のガラスリボン2への挿入時のばたつきにより、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gの表面の凹凸発生は一層顕著になるばかりか、ガラスリボン2にステンレス鋼製金網1が挿入し得ないこともあり得る。
【0066】
ステンレス鋼製金網1を形成するフェライト系ステンレス鋼線の径が0.64mmより太いと、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gの切断が容易ではなくなるので、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gの生産のし易さを考慮し、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、フェライト系ステンレス鋼線の径は0.64mm以下であることが好ましい。本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するフェライト系ステンレス鋼線の径が0.35mm以上、0.64mm以下の範囲内であれば、フェライト系ステンレス鋼線の径に多少のばらつきがあっても、特に問題は起こらない。尚、ステンレス鋼製金網1に溶接し固定する炭素鋼線9の径は、0.35mm以上、0.80mm以下の範囲内が好ましいが、上限の違いはガラスリボン状のステンレス鋼製金網入りガラス板2´の裁断時に、ガラスリボン2´中のステンレス鋼製金網に1溶接し固定した炭素鋼線9は切断箇所が少なく、切断し難いガラスリボン2´中央部には該炭素鋼線9は存在しないことによる。
【0067】
また、ステンレス鋼製金網1を形成するフェライト系ステンレス鋼線の径が0.35mm以上であっても、ステンレス鋼製金網1がなすマス目の1辺の長さが21.0mmより大きいと、火災時等に熱によりステンレス鋼製ガラス板Gよりなる窓ガラスが割れた際、割れたガラスの重みにより割れた箇所が崩落し易いために、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格し難い。一方、ステンレス鋼製金網1がなすマス目の1辺の長さが16.0mm未満であれば、マス目が密となることで透明な窓ガラス本来の開放感が得られず、ガラス面積に対して必要以上に金網を使わなければならず不経済となり実用的ではない。
【0068】
従って、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ステンレス鋼製金網1を形成するフェライト系ステンレス鋼線の径は0.35mm以上、0.64mm以下の範囲内で、ステンレス鋼製金網1のマス目は、その辺の長さが16.0mm以上、21.0mm以下の範囲内とすることが好ましく、これら範囲内とすることで、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは(2)防火ガラスとして使用するため、JIS R 3204−1994に準拠する防火性評価試験に合格すること、(4)切断し易いことの要件を満足する。
【0069】
加えて、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、長尺状のステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、ステンレス鋼製金網1の端部10付近に溶接固定しステンレス鋼製金網1の端部10付近を結合させる炭素鋼線9を設けることで、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは(1)ガラス板中の金網のマス目形状が正方形、あるいは正方形に近い菱形であることを満足する。
【0070】
尚、ガラスリボン2´中に封入内在させたステンレス鋼製金網1の隣り合う線材がなす正方形、あるいは菱形のマス目における鋭角部の角度は83度以上、90度以下である。鋭角部の角度が83度より小さいと、マス目が密となることで透明な窓ガラス本来の開放感が得られず、ガラス面積に対して必要以上に金網を使わなければならず不経済となり実用的ではない。
【0071】
本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gの製造方法において、ステンレス鋼製金網1およびステンレス鋼製金網1の両端部10付近を溶接固定し結合させるフェライト系ステンレス鋼線はフェライトの特性から、ステンレス鋼製金網入りガラス板Gは、(3)長期間に亘って錆びないこと、(5)磁性を有することの要件を満足することに対して、更なる向上の効果がある。
【0072】
尚、本発明のステンレス鋼製金網入りガラス板Gの製造方法において、ステンレス鋼製金網1を形成するフェライト系ステンレス鋼線は断面が円形の一般的なものを使用するのが好ましく、本発明において線材の径とは断面の直径である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を具体的に説明する。
実施例1
フェライト系ステンレス鋼線SUS430からなる金網を用意した。フェライト系ステンレス鋼線線径は、0.50mm、常温での引張強さが736N/mm2であり、組成は重量百分率表示で、C、0.03%、Si、0.46%、Mn、0.36%、Cr、16.73%、残部Fe、82.38%、およびP、0.03%、S、0.01%、Ni、0.2%等の不純物であり、磁性を有するSUS430である。
【0074】
前記フェライト系ステンレス鋼線、歪取焼きなまし材を菱形のマス目に編んだステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、両端部10より18.0mmの位置に、径0.55mmの炭素鋼線9を電気溶接にてスポット溶接して連続的に固定し、両端部10付近を結合させてなるステンレス鋼製金網1を準備した。ステンレス鋼製金網1におけるマス目の1辺の長さは19.4mmであり、菱形の鋭角部の角度は82度であり、交点は電気溶接によりスポット溶接してなる。
【0075】
また、ステンレス鋼製金網1の両端部10付近を溶接固定し両端部10付近を結合させる炭素鋼線9の組成は、C、0.005%、Si、0.18%、Mn、0.31%、残部Fe、99.40%、およびP、0.02%、S、0.01%、Al、0.04%、Cu、0.01%、Ni、0.03%等の不純物であり、磁性を有する。
【0076】
図3を用いて、ガラスリボン2の平行な両端部より内側に38.0mmの位置を炭素鋼線9で、送り方向に平行な両端部10付近を結合させた前記ステンレス鋼製金網1をガラスリボン2に挿入する過程を説明する。
【0077】
図3に示すように、一対の圧延ロ−ル5、5´の直前に形成されるガラス盛り上がり部7より、前記ステンレス鋼製金網1を挿入した。ガラス盛り上がり部7の温度は1100℃である。その際、溶融した状態で進行するガラスリボン2にステンレス鋼製金網1がなすマス目の対角線がガラスリボン2の進行方向に平行および直交するように、ステンレス鋼製金網1の送り速度が、ガラスリボン2の進行速度の95.7%になるように挿入した。このように、ガラスリボン2の進行する速度は、一対の圧延ロ−ル5、5´の回転速度により調整し、ステンレス鋼製金網1の送り速度は網送りロ−ル6の回転速度で調整し、ガラスリボン2の進行速度をステンレス鋼製金網1の送り速度より若干速めとすることで、ステンレス鋼製金網1が伸ばされ、挿入時にマス目の菱形の形状が、ステンレス鋼製金網1をガラスリボン2に挿入する際に延ばされ、ほぼ正方形になるようにした。ステンレス鋼製金網1の両端部10付近に、炭素鋼線9を溶接固定し結合させる際、溶接部間の炭素鋼線9の長さを、挿入時にステンレス鋼製金網1が張って伸ばされる際に、マス目が正方形になるようにすることで、ステンレス鋼製金網1がばたつきマス目形状が乱れることなく所望の正方形が得られた。尚、溶融した状態で進行するガラスリボン2にステンレス鋼製金網1がなすマス目の対角線がガラスリボン2の進行方向に平行および直交するように挿入することで、所定のマス目形状が得られ、マス目形状は所定の正方形でステンレス鋼製金網1の面内でばらつきがなかった。ガラスリボンの流れ方向に対してのマス目の直交方向の対角線長さは±8.0%以内であった。
【0078】
ステンレス鋼製金網1の横幅は2.68mであり、長さは260mである。ガラスリボン2の横幅は2.80mであり、ガラスリボン2の進行方向に平行な両端部からガラスリボン2内側に60.0mm内側の位置にステンレス鋼製金網1を挿入し封入内在させた。
【0079】
ステンレス鋼製金網入りガラスリボン2´を徐冷後に採断して、大きさ、2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを、2.6mの辺がガラスリボン2´の横幅方向になるように裁断して得た。尚、ステンレス鋼製金網入りのガラスリボン2´の切断は、ガラスリボン2の進行方向に直交する切り筋を、ガラスリボン2´を横断するように入れた後に、ガラスリボン2´の切り筋両端から互いに逆方向のせん断力を働かせて切断し、支障無く切断した。
実施例2
線径が0.64mm、常温での引張強さがが788N/mm2になるフェライト系ステンレス鋼線、即ち、歪取焼きなまし材を菱形のマス目に編んだステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、両端部10より18.0mmの内側の位置に、径が0.80mmの炭素鋼線9を電気溶接にてスポット溶接して連続的に固定し結合させてなる実施例1と同様の形状のステンレス鋼製金網1を準備した。該ステンレス鋼製金網1を用いて、実施例1と同様の手順で、大きさ、2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを、2.6mの辺がガラスリボン2´の横幅方向になるように裁断して得た。尚、ステンレス鋼の組成は重量百分率表示で、C、0.01%、Si、0.40%、Mn、0.20%、Cr、16.30%、Nb、0.51%、Cu、0.35%、残部Fe、82.00%、およびP、0.02%、S、0.001、N、0.01%、Ni、0.2%等の不純物であり、磁性を有する。また、ステンレス鋼製金網1の両端部10付近を溶接固定し両端部10付近を結合させる炭素鋼線9の組成は、実施例1と同様である。
【0080】
実施例1と同様の条件でステンレス鋼製金網1をガラスリボン2へ挿入した。挿入時にステンレス鋼製金網1が張って伸ばされる際に、マス目が正方形になるようにすることで、ステンレス鋼製金網1がばたつきマス目形状が乱れることなく所望の正方形が得られた。マス目形状は所定の正方形でステンレス鋼製金網1の面内でばらつきがなかった。ガラスリボンの流れ方向に対してのマス目の直交方向の対角線長さは±8.0%以内であった。
比較例1
実施例2で用いたフェライト系ステンレスと同じ組成の線材の完全焼きなまし材を用いた。この線材の常温での引張強さ430N/mm2であった。径が0.55mmのこのフェライト系ステンレス鋼線を菱形のマス目に編んだステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、両端部10より18.0mmの内側の位置に、径0.55mmの炭素鋼線9を電気溶接にてスポット溶接し連続的に固定し結合させてなる実施例2と同様の形状のステンレス鋼製金網1を準備した。該ステンレス鋼製金網1を用いて、実施例2と同様の手順で、大きさ、2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得た。
【0081】
実施例1と同様の条件でステンレス鋼製金網1をガラスリボン2へ挿入した。挿入時にステンレス鋼製金網1が張って伸ばされる際に、マス目が正方形になるようにすることで、ステンレス鋼製金網1がばたつくことはなかった。しかしながら、マス目形状はステンレス鋼製金網1の面内でばらついていた。
比較例2
径が0.40mmのフェライト系ステンレス鋼線を菱形の編み目で編んだステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、両端部10より1.0mmの内側の位置に、径0.35mmの炭素鋼線9を電気溶接にてスポット溶接し連続的に固定し結合させてなる実施例2と同様の形状のステンレス鋼製金網1を準備した。該ステンレス鋼製金網1を用いて、実施例2と同様の手順で、大きさ、2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得ようとしたところ、ステンレス鋼製金網1を挿入する際、ステンレス鋼製金網1の両端部がガラスリボン2´の上部側に反った状態で挿入され、ステンレス鋼製金網1の両端部10がガラスリボン2´の上部表面より露出した。その結果、徐冷工程での割れに至り、所定サイズのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得るには至らなかった。
比較例3
径が0.40mmのフェライト系ステンレス鋼線を菱形の編み目で編んだステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿って、両端部10より45.0mmの内側の位置に、径0.35mmの炭素鋼線9を電気溶接にてスポット溶接して連続的に固定し両端部10付近を結合させてなる実施例1と同様の形状のステンレス鋼製金網1を準備した。該ステンレス鋼製金網1を用いて、実施例1と同様の手順で、大きさ、2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを、2.6mの辺がガラスリボン2´の横幅方向になるように得ようとしたが、実施例1、2比較して、両端部10より45.0mmの内側の位置に炭素鋼線9を溶接固定し、両端部10付近を結合させているので、該炭素鋼線9のために、2.6mの辺がガラスリボン2´の横幅方向になるように裁断できなかった。裁断して窓ガラスとして使用される部位が少なく不経済である。
比較例4
径が0.40mmのステンレス鋼線をマス目が菱形になるように編み、ステンレス鋼製金網1の送り方向に平行な両端部10に沿ってフェライト系ステンレス鋼線を溶接固定していない、言い換えれば、補強線を設けていないステンレス鋼製金網1を準備した。実施例1と同材質のステンレス鋼製金網1を用いて、実施例1と同様の手順で、サイズが2.6m×1.9mのステンレス鋼製金網入りガラス板Gを得たが、ガラスリボン2´の端部付近で、ステンレス鋼製金網1のガラスリボン2´中の封入内在位置、言い換えれば、ガラスリボン2´中の深さが不揃いで品質に劣る。これは補強線を設けなかったことで、溶融した状態で進行するガラスリボン挿入時にステンレス鋼製金網がばたついたためである。
マス目形状の評価
実施例1、実施例2、比較例2および比較例3のステンレス鋼製金網入りガラス板Gの菱形マス目の鋭角部角度を測定した。評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示すように、実施例1および実施例2のステンレス鋼製金網入りガラス板Gにおいて、ガラスリボン2の進行方向に直交する全幅に亘って、正方形に近い菱形のマス目の形状が得られ、製品として出荷するに問題のない良好な外観を示した。それに引き換え、比較例1および比較例4のステンレス鋼製金網入りガラス板Gマス目形状はステンレス鋼製金網1の面内でばらついていた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】金網の端部を切断していない本発明に用いるステンレス鋼製金網の一例の正面図である。
【図2】金網の端部を切断した本発明に用いるステンレス鋼製金網一例の正面図である。
【図3】溶融した状態で進行するガラスリボンに金網を挿入する際の説明図である。
【図4】所定の形状に切断後の金網入りガラス板の一例の斜視図である。
【符号の説明】
【0085】
G ステンレス鋼製金網入りガラス板
1 ステンレス鋼製金網
2 ガラスリボン
3' 金網入りガラスリボン、ステンレス鋼製金網入りガラスリボン
3 ガラス溶融窯
4 溶融状態のガラス
5、5' 圧延ロール
6 網送りロール
7 ガラス盛り上がり部
8 キャリアロール
9 炭素鋼線
10 端部
11 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正方形または菱形のマス目を形成してなるステンレス鋼製金網を、溶融した状態で進行するガラスリボンにステンレス鋼製金網がなすマス目の対角線がガラスリボンの進行方向に平行および直交するように挿入し封入内在させてなるステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法において、編網されたフェライト系ステンレス鋼線の引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲であり、金網の両端部より内側に2.0mm以上、40.0mm以下の位置に、径が0.35mm以上、0.8mm以下の炭素鋼線を溶接固定し端部を結合させてなるステンレス鋼製金網を、ガラスリボンの両端部よりガラスリボン内側に、10.0mm以上、240.0mm以下の範囲に挿入させることを特徴とするステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法。
【請求項2】
フェライト系ステンレス鋼線に伸線加工後に歪取り焼きなましを行い、引張り強さが常温で600N/mm2以上、800N/mm2以下の範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法。
【請求項3】
フェライト系ステンレス鋼線を交差させてなる交点が溶接されているステンレス鋼製金網を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法。
【請求項4】
ステンレス鋼製金網をなすフェライト系ステンレス鋼線の径が0.35mm以上、0.64mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法。
【請求項5】
マス目の1辺の長さが16.0mm以上、21.0mm以下であるステンレス鋼製金網を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法。
【請求項6】
菱形のマス目における鋭角部の角度が83度以上、90度以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のステンレス鋼製金網入りガラス板の製造方法で製造されてなるステンレス鋼製金網入りガラス板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−153663(P2007−153663A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350547(P2005−350547)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】