説明

ステータおよびモータ

【課題】振動や騒音の発生を抑制し、安定した回転を得ること。
【解決手段】円環状のコアバック5a,5b,5cと、コアバック5a,5b,5cから半径方向に延び、周方向に間隔をあけて複数配列されたティース7a,7b,7cとを備える磁性鋼板からなるステータコア4a,4b,4cの各ティース7a,7b,7cにコイル9a,9b,9cを巻き付けてなる3つのステータユニット3A,3B,3Cをステータコア4a,4b,4cの板厚方向に互いに接触するように積層して構成され、上下ステータユニット3A,3Cの上部ティース7aと下部ティース7cとが位相を一致させて積層方向に互いに対向する位置に配置されるとともに、中央ステータユニット3Bの中央ティース7bとは異なる位相位置に配置され、中央ティース7bの周方向の略全体が、積層方向に見て周方向に隣り合うティース7a,7cどうしの間に配置されているステータ1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータおよびこれを備えるモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性鋼板からなるステータコアのティースにコイルを巻き付けた複数のステータユニットを板厚方向に重ね合わせて構成されたステータ構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。各ステータユニットのティースは他のステータユニットのティースとは異なる位相位置に配置されているので、各ステータコアのティースにコイルを巻き付ける際のティース間隔を広く確保して巻き付け作業を容易にすることができる。
【0003】
このような従来のモータは、コイルへの通電によって、該コイルが巻き付けられているティースが励磁され、ティースの先端に対向するロータ磁石との間の磁気吸引力および磁気反発力によってロータが回転させられる。そして、通電するコイルを高速で切り替えることで、ステータに対してロータが連続的に回転させられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−369421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステータコアに珪素鋼板などの圧延材料を用いた場合、ステータユニットごとにティース先端の積層方向の位置が異なる。したがって、ロータが回転したときに、ステータの磁気中心とロータ磁石の磁気中心とがティースごとにずれて余計な吸引力が働き、振動や騒音が発生するという問題がある。この場合に、全てのステータユニットのティース先端の積層方向の位置を揃えるため、ティースに曲げ加工を施した場合には、ロータ磁石に対向する面の寸法や形状精度が悪くなり回転が不安定になるという不都合がある。また、ステータユニットごとにコイルの高さが異なり、ステータの厚みが増大するという不都合がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、振動や騒音の発生を抑制し、安定した回転が得られるステータおよびこれを備えるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、円環状のコアバックと、該コアバックから半径方向に延び、周方向に間隔をあけて複数配列されたティースとを備える磁性鋼板からなるステータコアの各ティースにコイルを巻き付けてなる3つのステータユニットを前記ステータコアの板厚方向に互いに接触するように積層して構成され、積層方向の両端の前記ステータユニットの前記ティースが位相を一致させて積層方向に互いに対向する位置に配置されるとともに、積層方向の中央の前記ステータユニットの前記ティースとは異なる位相位置に配置され、前記中央のステータユニットのティースの周方向の略全体が、前記積層方向に見て前記両端のステータユニットの周方向に隣り合うティースの間に配置されているステータを提供する。
【0008】
本発明によれば、積層方向の両端のステータユニットのティースどうしの位相を一致させて積層方向に対向させることにより、両ティースの位置に発生する磁束の磁気中心をステータの厚さ方向のほぼ中央に配置することができる。また、積層方向の中央のステータユニットの磁気中心もステータの厚さ方向のほぼ中央に形成される。したがって、周方向のいずれの位置においても磁気中心の厚さ方向の位置をほぼ一致させることができる。これにより、コイルに通電してティースを励磁した際に、ステータの磁気中心とロータ磁石の磁気中心とがロータの回転の位相に応じてずれるのを防ぎ、ロータの振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0009】
また、両端のステータユニットのティースと中央のステータユニットのティースの位相位置が異なるので、各ティースとロータ磁石との間の磁気吸引力および磁気反発力をステータの周方向にわたり効率的に作用させることができる。したがって、ステータに対してロータを少ない振動および騒音で安定して回転させることが可能になる。
【0010】
上記発明においては、中央の前記ステータユニットの前記ティースが、両端の前記ステータユニットの前記ティースの板厚方向の断面積の約2倍の大きさの板厚方向の断面積を有することとしてもよい。
【0011】
このように構成することで、両端のステータユニットの対向するティースの板厚方向の断面積の合計と、中央のステータユニットの板厚方向の断面積とがほぼ等しくなり、ロータ磁石からの磁束を周方向にわたりほぼ均等に確保することができる。
【0012】
また、上記発明においては、中央の前記ステータユニットのティースに巻かれた前記コイルが、両端の前記ステータユニットのティースに巻かれた前記コイルの巻線比率の約2倍の巻数の巻線比率を有することとしてもよい。
【0013】
このように構成することで、両端のステータユニットの対向するティースのコイルを重ね合わせた板厚方向の厚みと、中央のステータユニットのティースのコイルを含む板厚方向の厚みとがほぼ一致し、周方向にわたりコイルの厚みを均等にすることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記ティースが前記コアバックから半径方向内方に延在することとしてもよい。
【0015】
本発明は、上記いずれかのステータと、該ステータの前記ティースの先端に対向させる磁極を周方向に交互に配列してなるマグネットを有し、前記ステータに対して、その中心軸回りに回転可能に支持されたロータとを備えるモータを提供する。
【0016】
本発明によれば、ステータにおける振動や騒音の発生を抑制して、ロータに対し安定した磁気吸引力または磁気反発力を作用させて、少ない振動および騒音で安定して回転させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、振動や騒音の発生を抑制し、安定した回転を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータのステータを積層方向からみた概略図である。
【図2】図1のステータの中央ステータユニットのA−A断面図である。
【図3】図1のステータの上下ステータユニットのB−B断面図である。
【図4】図1のステータの分解斜視図である。
【図5】図1の上下ステータおよび中央ステータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る転がりステータ1およびこれを備えるモータ10について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るモータ10は、例えば、磁気ディスクなどを駆動するためのモータである。このモータ10は、図1〜図3に示すように、ベースハウジング21に固定された円環状のステータ1と、ステータ1の半径方向内方に配置され、ステータ1に対して回転させられるロータ11とを備えている。
【0020】
ステータ1は、図4に示すように、同一軸線を有して板厚方向に積層された3つのステータユニット3A,3B,3Cにより構成されている。以下、ベースハウジング21に対して積層方向の上方から順に上部ステータユニット3A、中央ステータユニット3B、下部ステータユニット3Cという。
【0021】
これらステータユニット3A,3B,3Cは、それぞれ磁性鋼板からなるステータコア4a,4b,4cと、ステータコア4a,4b,4cに巻かれたコイル9a,9b,9c(上部コイル9a,中部コイル9b,下部コイル9c)とを備えている。
【0022】
ステータコア4a,4b,4cは、円環状のコアバック5a,5b,5c(上部コアバック5a,中央コアバック5b,下部コアバック5c)と、コアバック5a,5b,5cから半径方向内方に延び、周方向に間隔をあけて配列された9本のティース7a,7b,7c(上部ティース7a、中央ティース7b、下部ティース7c)とを備えている。
【0023】
上部ティース7aと下部ティース7cは、板厚方向の断面積が互いに等しく、また、中央ティース7cは、上部ティース7aおよび下部ティース7cの板厚方向の断面積の約2倍の大きさの板厚方向の断面積を有している。
【0024】
コイル9a,9b,9cは、それぞれステータコア4a,4b,4cの各ティース7a,7b,7cに巻線されている。上部コイル9aと下部コイル9cは、巻線比率が互いに等しく、また、中央コイル9bは、上部コイル9aおよび下部コイル9cの巻線比率の約2倍の巻数の巻線比率を有している。
【0025】
このように構成されたステータ1は、ステータユニット3A,3B,3Cが組み合わされた状態では、上部ティース7aと下部ティース7cが位相を一致させて積層方向に互いに正対する位置に配置されており、また、これら上部ティース7aおよび下部ティース7cと中央ステータユニット3Bの中央ティース7cとが異なる位相位置に配置されている。以下、上部ステータユニット3Aと下部ステータユニット3Cを合わせて「上下ステータユニット3A,3C」といい、正対する上部ティース7aと下部ティース7cの組を「上下ティース7a,7c」という。
【0026】
すなわち、ステータ1には、積層方向からみて9組の上下ティース7a,7cと9本の中央ティース7bとが周方向に交互に配置されている。また、図5に示すように、上下ティース7a,7cの板厚方向の断面積の合計と中央ティース7bの板厚方向の断面積とがほぼ等しく、かつ、上下ティース7a,7cの上部コイル9aおよび下部コイル9cを含む板厚方向の厚みと中央ティース7bの中央コイル9cを含む板厚方向の厚みとがほぼ一致するようになっている。以下、積層する上部コイル9aおよび下部コイル9cの組を「上下コイル9a,9c」という。
【0027】
ロータ11は、ステータ1の中心位置に配置されている軸受13と、軸受13により中心軸線回りにステータ1に対して回転可能に支持された円柱状部材を有するハブ15と、ハブ15の外周部に、半径方向外方に向かう磁極を周方向に交互に異ならせて円環状に配列された永久磁石(マグネット)17とを備えている。なお、永久磁石17の外周面とステータ1の上下ティース7a,7cおよび中央ティース7bの先端面との間には、それぞれ微小空間が形成されている。
【0028】
このように構成された本実施形態に係るステータ1の組立て方法およびモータ10の作用について、以下に説明する。
まず、ステータ1の組立て方法について説明する。
各ステータコア4a,4b,4cの各ティース7a,7b,7cにそれぞれコイル9a,9b,9cを巻線して、ステータユニット3A,3B,3Cをそれぞれ組立てる。例えば、上下コイル9a,9cはそれぞれ2層巻きにし、中央コイル9cは4層巻きにする。
【0029】
次に、下部ステータユニット3Cと中央ステータユニット3Bを板厚方向に重ね、下部ティース7cと中央ティース7bとを周方向に約20°ずらした位置に配置する。すなわち、下部ステータユニット3Cの2本の下部ティース7c間の中心に、中央ステータユニット3Bの1本の中央ティース7bが配置されるように重ねる。
【0030】
続いて、中央ステータユニット3Bの上に上部ステータユニット3Aを重ね、下部ティース7cと上部ティース7aとを互いに正対する位置に配置する。これにより、上下ティース7a,7cと中央ティース7bとがそれぞれ異なる位相位置に配置され、上下ティース7a,7cと中央ティース7bとが周方向に交互に配置されたステータ1が組立てられる。
【0031】
このように組立てられたステータ1によれば、上下ティース7a,7cの板厚方向の断面積の合計と中央ティース7bの板厚方向の断面積とがほぼ等しく、上下ティース7a,7cの先端面および中央ティース7cの先端面により、永久磁石17からの磁束を周方向にわたりほぼ均等に確保することができる。
【0032】
また、上下ティース7a,7cの上下コイル9a,9cの板厚方向の厚みがそれぞれ2層分を合計した4層分であり、中央ティース7bの中央コイル9cの板厚方向の厚みが4層分であるので、周方向にわたり上下コイルコイル9a,9bと中央コイル9cの厚みがほぼ一致し、ステータ1の厚みの増加を抑えることができる。
【0033】
次に、モータ10の作用について説明する。
本実施形態に係るモータ10において、ステータ1に対してロータ11を回転させる場合、例えば、中央ステータユニット3Bの中央コイル9cに通電することにより、この中央コイル9cが巻かれている中央ティース7bを励磁する。そして、通電先を中央コイル9cとこれに隣接する上下コイル9a,9cに周方向に順に切り替えていく。
【0034】
そうすると、中央ティース7bまたは上下ティース7a,7cの半径方向内方に微小空間を空けて対向している永久磁石17から、これら中央ティース7bまたは上下ティース7a,7cと、コアバック5a,5b,5cを介した磁気回路が形成される。これにより、中央ティース7bの先端または上下ティース7a,7cの先端に対向する永久磁石17との間の磁気吸引力および磁気反発力によってロータ11が回転させられる。
【0035】
この場合に、上下ステータユニット3A,3Cの上部ティース7aと下部ティース7cどうしの位相を一致させて積層方向に対向させたことにより、上下ティース7a,7cの位置に発生する磁束の磁気中心をステータ1の厚さ方向のほぼ中央に配置することができる。また、中央ステータユニット3Bの磁気中心もステータ1の厚さ方向のほぼ中央に形成される。
【0036】
したがって、ステータ1の周方向のいずれの位置においても磁気中心の厚さ方向の位置をほぼ一致させることができる。これにより、中央コイル9bまたは上下コイル9a,9cに通電して中央ティース7bまたは上下ティース7a,7cを交互に励磁した際に、ステータ1の磁気中心と永久磁石17の磁気中心とがロータ11の回転の位相に応じてずれるのを防ぐことができ、ロータ11の振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0037】
また、上下ティース7a,7cと中央ティース7bを異なる位相位置に配置したことにより、上下ティース7a,7cおよび中央ティース7bと永久磁石17との間の磁気吸引力および磁気反発力をステータ1の周方向にわたり効率的に作用させることができる。したがって、ステータ1に対してロータ11を少ない振動および騒音で安定して回転させることが可能になる。
【0038】
なお、本実施形態においては、各ティース7a,7b,7cがそれぞれ周方向に間隔をあけた9本のティース7a,7b,7cを有するステータ1を例示したが、これに限定されるものではない。
また、全てのティース7a,7b,7cにコイル9a,9b,9cが巻き付けられていることとしたが、同一のステータユニット3A,3B,3C内において、コイル9a,9b,9cを巻き付けるティース7a,7b,7cと巻き付けないティース7a,7b,7cとが混在していてもよい。
【0039】
また、上部ティース7aと下部ティース7cとの位相を一致させて互いに正対していることとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、上部ティース7aと下部ティース7cとが部分的に重なるように積層方向に対向させることとしてもよい。
また、各ティース7a,7b,7cが各コアバック5a,5b,5cの半径方向内方に延びるステータユニット3A,3B,3Cを例示したが、これに代えて、例えば、各コアバック5a,5b,5cの半径方向外方に向かってティース7a,7b,7cが放射状に延びるステータユニットを採用することとしてもよい。
また、ロータ11に設けたマグネットとして永久磁石17を例示したが、これに代えて、電磁石を採用してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 ステータ
3A 上部ステータユニット(ステータユニット)
3B 中央ステータユニット(ステータユニット)
3C 下部ステータユニット(ステータユニット)
4a,4b,4c ステータコア
5a 上部コアバック(コアバック)
5b 中央コアバック(コアバック)
5c 下部コアバック(コアバック)
7a 上部ティース(ティース)
7b 中央ティース(ティース)
7c 下部ティース(ティース)
9a 上部コイル(コイル)
9b 中央コイル(コイル)
9c 下部コイル(コイル)
10 モータ
11 ロータ
17 永久磁石(マグネット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のコアバックと、該コアバックから半径方向に延び、周方向に間隔をあけて複数配列されたティースとを備える磁性鋼板からなるステータコアの各ティースにコイルを巻き付けてなる3つのステータユニットを前記ステータコアの板厚方向に互いに接触するように積層して構成され、積層方向の両端の前記ステータユニットの前記ティースが位相を一致させて積層方向に互いに対向する位置に配置されるとともに、積層方向の中央の前記ステータユニットの前記ティースとは異なる位相位置に配置され、
前記中央のステータユニットのティースの周方向の略全体が、前記積層方向に見て前記両端のステータユニットの周方向に隣り合うティースの間に配置されているステータ。
【請求項2】
中央の前記ステータユニットの前記ティースが、両端の前記ステータユニットの前記ティースの板厚方向の断面積の約2倍の大きさの板厚方向の断面積を有する請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
中央の前記ステータユニットのティースに巻かれた前記コイルが、両端の前記ステータユニットのティースに巻かれた前記コイルの巻線比率の約2倍の巻数の巻線比率を有する請求項1または請求項2に記載のステータ。
【請求項4】
前記ティースが前記コアバックから半径方向内方に延在する請求項1から請求項3のいずれかに記載のステータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のステータと、
該ステータの前記ティースの先端に対向させる磁極を周方向に交互に配列してなるマグネットを有し、前記ステータに対して、その中心軸回りに回転可能に支持されたロータとを備えるモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−59261(P2013−59261A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287718(P2012−287718)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2008−129106(P2008−129106)の分割
【原出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】