説明

ステータの製造方法

【課題】挿入時に絶縁紙がずれにくいステータの製造方法を提供する。
【解決手段】ステータ10の軸方向に位置し、内周側に開口したスロット状溝31と該スロット状溝内へ径方向に進退する第1押込みパンチ1と軸方向に進退する第2押込みパンチ5とを有する挿入治具100を備え、絶縁紙の両端部をステータコイル接触面側に折り返した状態で絶縁紙の中央部を第1押込みパンチ1で内周側から外周側へ押込んで、絶縁紙をスロット状溝内へ挿入する絶縁紙挿入工程と、スロット状溝31とスロット7とを軸方向で位置を合わせ、第1押込みパンチ1を内周側に途中まで抜き戻してから、スロット状溝内へ挿入した絶縁紙を第2押込みパンチ5で軸方向から押込んで、絶縁紙をスロット内に移動させる絶縁紙移動工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に使用するステータの製造方法に関し、特に、スロット内に挿入されて両端が内周側で重なり合う絶縁紙を有するステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動機や発電機など回転電機のステータには、ステータコアに設けられたスロット内に巻装されるステータコイル外周面とスロット内周面との間に、対地絶縁材である絶縁紙がスロット内周面を包囲するように装着されている。
例えば、特許文献1の技術では、ステータコイルの周囲に巻かれる絶縁紙が、スロット内周面を包囲するように形成され、スロットの内周側の開口にて重なり合うように分断されると共に、この分断された部分が開く方向にスロットの周方向側面に対向する部分にて折り曲げられており、更に両端を重ねられるように幅方向内側に折り曲げられている。そして、スロットの内周側の開口に絶縁紙の開口部分が位置するようにスロット内に絶縁紙を途中まで挿入する工程と、絶縁紙の開口部分からステータコイルを挿入することで、絶縁紙の開口が重なるように閉じる工程とからなるステータの製造方法が開示されている。この方法によれば、幅広の開口部分からステータコイルを容易に挿入することができ、ステータコイルを挿入するだけで絶縁紙の分断されている部分(両端部)を重ね合わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−99375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、スロット内の途中に挿入され、分断された部分が開く方向にスロットの周方向側面に対向する部分にて折り曲げられた絶縁紙をステータコイルでスロット内に押込む方法であるので、ステータコイルで押込み、挿入する際に、絶縁紙がスロットからずれる虞があった。
かかる絶縁紙のずれを防止するため、予め絶縁紙をオス型、メス型からなる治具に挿入してから、ステータコアのスロット内に移動する方法が考えられる。例えば、図11(a)〜(c)に示すように、オス型111でメス型121内に絶縁紙Z11をロ字状に挿入してから、メス型121内の絶縁紙Z11を押出し部材131にて軸方向に移動させてステータのスロット内に挿入する方法が考えられる。しかし、この方法では、絶縁紙の両端Z111が内周側の開口にて重なり合って開口を閉じているので、オス型111をメス型121から抜き戻すことができず、オス型111が邪魔して絶縁紙Z11を軸方向に移動させることができない。
一方、図12(a)〜(c)に示すように、オス型211でメス型221内に絶縁紙Z21をコ字状に挿入し、オス型211を抜き戻してから、絶縁紙の両端部Z211を折り曲げる方法も考えられるが、この方法では、芯金となるものがないので絶縁紙の両端部Z211を強く折り曲げることが難しい。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、両端部が折り曲げられた絶縁紙を治具でガイドしながらステータに挿入することにより、挿入時に絶縁紙がずれにくいステータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のステータの製造方法は、次のような構成を有している。
(1)内周側に開口する複数のスロットを有するステータコアと、前記スロット内に挿入されて両端部が内周側で重なり合う絶縁紙と、該絶縁紙を介して巻装されたステータコイルとを有するステータの製造方法であって、
前記ステータの軸方向に位置し、内周側に開口したスロット状溝と該スロット状溝内へ径方向に進退する第1押込みパンチと軸方向に進退する第2押込みパンチとを有する挿入治具を備え、
前記絶縁紙の両端部をステータコイル接触面側に折り返した状態で前記絶縁紙の中央部を前記第1押込みパンチで内周側から外周側へ押込んで、前記絶縁紙を前記スロット状溝内へ挿入する絶縁紙挿入工程と、
前記スロット状溝と前記スロットとを軸方向で位置を合わせ、前記第1押込みパンチを内周側に途中まで抜き戻してから、前記スロット状溝内へ挿入した前記絶縁紙を前記第2押込みパンチで軸方向から押込んで、前記絶縁紙を前記スロット内に移動させる絶縁紙移動工程とを有することを特徴とする。
【0007】
(2)(1)に記載されたステータの製造方法において、
前記絶縁紙の中央部に折り目を設けるとともに、前記第1押込みパンチは、板状本体部と該本体部より周方向に太い先端部とを備えることを特徴とする。
(3)(2)に記載されたステータの製造方法において、
前記第1押込みパンチの本体部には、一方の側面から軸方向に向けて先細りとなる傾斜面が形成され、
前記絶縁紙移動工程では、前記絶縁紙の折り返した両端部の内、一方の端部が他方の端部より先行して前記第1押込みパンチの傾斜面から離間して周方向に開くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、本発明に係るステータの製造方法の作用及び効果について説明する。
(1)内周側に開口する複数のスロットを有するステータコアと、スロット内に挿入されて両端部が内周側で重なり合う絶縁紙と、該絶縁紙を介して巻装されたステータコイルとを有するステータの製造方法であって、ステータの軸方向に位置し、内周側に開口したスロット状溝と該スロット状溝内へ径方向に進退する第1押込みパンチと軸方向に進退する第2押込みパンチとを有する挿入治具を備え、絶縁紙の両端部をステータコイル接触面側に折り返した状態で絶縁紙の中央部を第1押込みパンチで内周側から外周側へ押込んで、絶縁紙をスロット状溝内へ挿入する絶縁紙挿入工程と、スロット状溝とスロットとを軸方向で位置を合わせ、第1押込みパンチを内周側に途中まで抜き戻してから、スロット状溝内へ挿入した絶縁紙を第2押込みパンチで軸方向から押込んで、絶縁紙をスロット内に移動させる絶縁紙移動工程とを有することを特徴とするので、両端部が折り曲げられた絶縁紙を挿入治具でガイドしながらステータコアのスロット内に挿入することによって、絶縁紙が挿入時にずれにくい効果を奏する。
【0009】
具体的には、ステータの軸方向に位置し、内周側に開口したスロット状溝と該スロット状溝内へ径方向に進退する第1押込みパンチと軸方向に進退する第2押込みパンチとを有する挿入治具を備え、絶縁紙の両端部をステータコイル接触面側に折り返した状態で絶縁紙の中央部を第1押込みパンチで内周側から外周側へ押込んで、絶縁紙をスロット状溝内へ挿入する絶縁紙挿入工程を有するので、挿入治具のスロット状溝内に挿入された絶縁紙はコ字状に形成され、その両端部は折り返した状態で維持されている。そのため、絶縁紙をスロット状溝内へ残したまま、第1押込みパンチを内周側に抜き戻すことができる。
また、スロット状溝とスロットとを軸方向で位置を合わせ、第1押込みパンチを内周側に途中まで抜き戻してから、スロット状溝内へ挿入した絶縁紙を第2押込みパンチで軸方向から押込んで、絶縁紙をスロット内に移動させる絶縁紙移動工程を有するので、両端部が折り曲げられた絶縁紙を挿入治具でガイドしながら、正確にスロット内に移動させることができる。この時、第1押込みパンチは内周側に途中まで抜き戻されているので、第2押込みパンチは第1押込みパンチに邪魔されることなく、軸方向に進退できる。
したがって、両端部が内周側で重なり合う絶縁紙を、位置ずれを発生させることなくスロット内に挿入することができる。
【0010】
(2)(1)に記載されたステータの製造方法において、絶縁紙の中央部に折り目を設けるとともに、第1押込みパンチは、板状本体部と該本体部より周方向に太い先端部とを備えることを特徴とするので、絶縁紙の側面(中央部の折り目から両端部の折り目までの間)は、押込みパンチの本体部側面寄りに湾曲する湾曲面を形成する。そのため、絶縁紙の側面が挿入治具のスロット状溝に摺接することなく、絶縁紙を挿入治具のスロット状溝内に挿入することができる。
したがって、絶縁紙の側面にスロット状溝からの摩擦抵抗を受けることがないので、絶縁紙を挿入する際、絶縁紙の位置ずれを発生させる可能性が一層減少する。
【0011】
(3)(2)に記載されたステータの製造方法において、第1押込みパンチの本体部には、一方の側面から軸方向に向けて先細りとなる傾斜面が形成され、絶縁紙移動工程では、絶縁紙の折り返した両端部の内、一方の端部が他方の端部より先行して第1押込みパンチの傾斜面から離間して周方向に開くことを特徴とするので、絶縁紙の両端部は、絶縁紙がステータコアのスロット内に移動するときに、互いに干渉することなく内周側に開いて、重なり合うことができる。そのため、絶縁紙は、両端部が内周側で重なり合うので、横断面においてロ字状を確実に形成することができる。
したがって、絶縁紙による信頼性の高い絶縁性能をステータコア等とステータコイルとの間で確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る実施形態であるステータの部分斜視図である。
【図2】図1のスロット内に挿入される絶縁紙の斜視図である。
【図3】図2に示す絶縁紙のB−B断面図である。
【図4】図2に示す絶縁紙のカフス折り方法を示す説明図である。
【図5】図2に示す絶縁紙の両端折り返し方法を示す説明図である。
【図6】本発明に係る実施形態であるステータの製造方法に使用する挿入治具の動作説明用の模式図である。
【図7】図6におけるステータ状溝内に絶縁紙を挿入したときの拡大図である。
【図8】絶縁紙をステータのスロット内に移動させる方法を示す説明図である。
【図9】スロット内に絶縁紙を移動させるときの斜視図である。
【図10】ステータのスロット内に絶縁紙を挿入した状態を示す部分斜視図である。
【図11】メス型内に両端部を折り曲げた絶縁紙を挿入する説明図である。
【図12】メス型内に絶縁紙を挿入してから両端部を折り曲げる方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係るステータの製造方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1に本発明に係る実施形態であるステータの部分斜視図を示す。
図1に示すように、ステータ10は軸方向と径方向に所定の厚みを有するドーナツ状をなしている。そのステータコア8には、内周側に開口を有する複数のスロット7が、軸方向へ貫通するように形成されている。スロット7には、断面矩形状のステータコイル9が複数積層されて巻装されている。ステータコア8とステータコイル9との対地絶縁性能を確保するため、スロット7の内周面には、横断面がロ字状に内周側の両端部が重ね合わされた絶縁紙Zが介装されている。絶縁紙Zは、車両用回転電機を小型化、高出力化するために必要な絶縁性能を高める重要な役割を担っている。
【0014】
本実施形態では、絶縁紙を切断後に予備成形してから、挿入治具内に挿入する絶縁紙挿入工程と、挿入治具内に挿入した絶縁紙を軸方向から移動してステータコアのスロット内に挿入する絶縁紙移動工程とを有する。ここでは、絶縁紙の構造を説明した上で、絶縁紙の切断・予備成形、挿入治具内への絶縁紙挿入、スロット内への絶縁紙移動の順で説明する。
【0015】
<絶縁紙の構造>
本実施形態の絶縁紙は、内周側の両端部が径方向で重なり、横断面が略ロ字状をなしている。図2に、図1のスロット内に挿入される絶縁紙の斜視図を示す。また、図3に、図2に示す絶縁紙のB−B断面図を示す。
図2、図3に示すように、絶縁紙Zは、軸方向の上下端Z16、Z17が所定の幅でカフス折りされている。カフス折りされた上下端Z16、Z17がステータコア8の上下端から突出することで、沿面放電を起こし難くするとともに、スロット7内での絶縁紙Zの上下動を防止している。
【0016】
また、絶縁紙Zは、両側面Z13、Z15が中央部Z14を中心に内周側へコ字状に折り曲げられている。両側面Z13、Z15の両端部Z11、Z12は、更にステータコイル9を包囲するように折り曲げられ、径方向で重ね合わされている。径方向で両端部を重ね合わせることで、ステータコイルの周囲を絶縁紙で包囲して、ステータコアとロータとの絶縁性能を高めている。
両端部Z11、Z12の内、径方向内側に位置する端部Z12(一方の端部)は、径方向外側に位置する端部Z11(他方の端部)よりも周方向の長さが長い。また、両側面Z13、Z15の内、一方の端部Z12に連続する側面(一方の側面)Z13は、他方の端部Z11に連続する側面(他方の側面)Z15よりも、径方向の長さが長い。
この両端部Z11、Z12と両側面Z13、Z15の上記長さに差を設けることで、絶縁紙Zをスロット7内へ挿入する時、両端部Z11、Z12が折り返し状態から開く際に、互いに干渉し合わないようにしている。
【0017】
また、中央部Z14と両側面Z13、Z15と両端部Z11、Z12との各折り曲げは、直角に折り曲げられて、折り曲げ線ZL1〜ZL4が形成されている。直角に折り曲げることで、ステータコイル9の占積率を高めている。
絶縁紙には、0.2mm厚程度のポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いている。上記フィルムの両側から不織布を接着して三層構造とするとすべり性が向上する。そのため、絶縁紙を後述する挿入治具に押込む際に、挿入治具との摩擦抵抗が減少して、位置ずれし難い効果を奏する。
【0018】
<絶縁紙の切断・予備成形>
絶縁紙は、ロール状に巻いたコイルを所定の長さに切断するとともに、必要な箇所を予備成形する。また、折り曲げ線に沿って折り目を形成する。図4に、図2に示す絶縁紙のカフス折り方法の説明図を示す。また、図5に、図2に示す絶縁紙の両端折り返し方法の説明図を示す。
図4(a)〜(c)に示すように、ロール状に巻かれた絶縁紙のコイルZCから、巻き戻しながら上下端を所定の幅にカフス折りする。上下端Z16、Z17をカフス折りした状態で、所定の長さに切断する。カフス折りする方向は、ステータコイル9との接触面と反対方向である。
図5(a)に示すように、所定の長さに切断された絶縁紙には、折り曲げ線に沿って折り目ZL1〜ZL4を形成する。その後、図5(b)に示すように、両端部Z11、Z12は、ステータコイル9との接触面側に重なるように、3次元曲げ型20を用いて、180度折り返している。180度折り返すことにより、両端部Z11、Z12の折り癖を強く付けることができる。図5(c)に示すように、予備成形された絶縁紙ZY1は、上下端Z16、Z17がステータコイルとの接触面と反対方向にカフス折りされ、両端部Z11、Z12がステータコイルとの接触面側に180度折り返されている。
【0019】
<挿入治具内への絶縁紙挿入>
予備成形された絶縁紙ZY1は、以下に説明する挿入治具に挿入する。図6に、本発明に係る実施形態であるステータの製造方法に使用する挿入治具の動作説明用の模式図を示す。図6(a)に、予備成形された絶縁紙をオス型とメス型との間にセットした状態を示し、図6(b)に、オス型をメス型に近接させて絶縁紙を山形に成形した状態を示し、図6(c)に、第1押込みパンチを進出させて絶縁紙をスロット状溝内に挿入した状態を示し、図6(d)に、第1押込みパンチを途中まで抜き戻した状態を示し、図6(e)に、第2押込みパンチで絶縁紙を軸方向に移動させる状態を示す。図7に、図6(c)におけるステータ状溝内に絶縁紙を挿入したときの拡大図を示す。
【0020】
図6(a)(e)に示すように、挿入治具100は、第1押込みパンチ1、オス型2、絶縁紙格納部3、メス型4、第2押込みパンチ5を有している。
オス型2には、平坦な頂部23と該頂部から裾広がりに傾斜する凸傾斜部22と頂部23の中央を径方向に貫通する溝部21とが形成されている。溝部21には、第1押込みパンチ1が頂部23に先端を揃えて嵌合されている。第1押込みパンチ1は、板状の本体部11と該本体部より太い台形状先端部12を備えている。
メス型4には、中央を第1押込みパンチ1が径方向に貫通する溝部41とオス型2の凸傾斜部22を迎え入れる凹傾斜部42とが形成されている。メス型4の背面には、絶縁紙格納部3が連結されている。絶縁紙格納部3には、ステータに形成されたスロット溝と周方向の溝幅及び径方向の奥行きが略同一形状を有するスロット状溝31が、形成されている。スロット状溝31は、第1押込みパンチが径方向に貫通する溝部41と連通している。なお、スロット状溝31の溝幅は、溝部41の溝幅よりも広い。
スロット状溝31の両側面には、底面34寄りに4本の切欠き溝33A1、33A2、33B1、33B2が左右対称に形成されている。切欠き溝33A1、33A2、33B1、33B2は、後述する第2押込みパンチ5の凸ピン52が軸方向に通過する溝である。
【0021】
図6(a)に示すように、オス型2とメス型4は予備成形された絶縁紙ZY1を挟んで離間している。絶縁紙ZY1は、図示しない絶縁紙保持部6によって径方向に対して垂直に保持されている。
その後、図6(b)に示すように、オス型2を矢印F方向に移動させて、メス型4に近接させる。メス型4の凹傾斜部42にオス型2の凸傾斜部22の一部を迎え入れる。メス型4の凹傾斜部42とオス型2の凸傾斜部22の間で、絶縁紙ZY2は山形に成形される。そのとき、絶縁紙の両端部Z11、Z12は、180度に折り返されたままである。
次に、図6(c)、図7に示すように、第1押込みパンチ1を矢印P方向に移動させ、先端部12がメス型4の溝部41を通過して、絶縁紙格納部3のスロット状溝31内に進入する。第1押込みパンチ1の先端部12に押された絶縁紙の中央部Z14は、スロット状溝の底面34に当接する。絶縁紙ZY3は、スロット状溝内でコ字状断面に成形されるが、絶縁紙ZY3の両端部Z11、Z12は、先端が第1押込みパンチ1の本体部11の両側面11A、11Bに規制されて、折り曲げ線ZL1、ZL2で180度折り返された状態のままになっている。
【0022】
ここで、第1押込みパンチ1の先端部12の厚みt2は、板状本体部11の厚みt1より大きい。先端部12は、絶縁紙の中央部Z14と当接する先端面12Cと先端面から本体部の両側面11A、11Bに向けて傾斜する傾斜面12A、12Bとを備えている。また、絶縁紙の中央部Z14には、折り曲げ線ZL13、ZL14に沿って、予め折り目が形成されている。したがって、第1押込みパンチ1の先端部12に押された絶縁紙ZY3の側面Z13、Z15は、折り曲げ線ZL13、ZL14を起点にして第1押込みパンチ1の本体部11の両側面11A、11B寄りに湾曲する。絶縁紙ZY3の側面Z13、Z15が本体部の両側面寄りに湾曲するので、第1押込みパンチ1で絶縁紙ZY3を押込む際に、絶縁紙ZY3の側面Z13、Z15はスロット状溝31の側壁31A、31Bと接触せず、挿入時に摩擦抵抗を受けることがない。
次に、図6(d)に示すように、第1押込みパンチ1を矢印R方向に移動させ、先端部12の根元が絶縁紙ZY3の両端部に当接する位置まで抜き戻す。第1押込みパンチ1を抜き戻すことにより、後述する第2押込みパンチ5の挿入空間を設けている。この状態においても、絶縁紙ZY3の両端部Z11、Z12は、第1押込みパンチ1に規制されて180度折り返された状態が維持されている。
また、メス型4の溝部41の溝幅は、スロット状溝31の溝幅よりも狭いので、絶縁紙ZY3は、溝部41の肩部で止められて、絶縁紙格納部3のスロット状溝31内にそのまま残置される。
【0023】
<スロット内への絶縁紙移動>
次に、図6(e)に示すように、絶縁紙格納部3のスロット状溝31内にそのまま残置される絶縁紙ZY3を、第2押込みパンチ5が紙面垂直方向(軸方向)に移動して、ステータコア8のスロット7内に挿入させる。絶縁紙ZY3は、カフス折りされた一端が、第2押込みパンチ5の先端部で突出した凸ピン52によって押されることで移動する。このとき、第1押込みパンチ1の先端部12が絶縁紙ZY3の両端部Z11、Z12に当接する位置まで抜き戻されているので、第2押込みパンチ5は、第1押込みパンチ1と干渉することなく、軸方向に進入することができる。
【0024】
ここで、絶縁紙格納部3のスロット状溝31内に残置された絶縁紙ZY3を、ステータのスロット内に移動させつつ、両端部を周方向に開く方法を説明する。図8に、絶縁紙をステータのスロット内に移動させる方法の説明図を示す。図8(a)は、移動前の状態を示し、図8(b)は、移動途中の状態を示し、図8(c)は、移動後の状態を示す。図9に、スロット内に絶縁紙を移動させるときの斜視図を示す。なお、図8には、絶縁紙の両端部が周方向に開く様子を見やすくするため、ステータ及びスロットの形状を省略している。
図8(a)に示すように、第1押込みパンチ1の本体部には、一方の側面11Bから軸方向下端に向けて先細りとなる傾斜面11Cが形成されている。傾斜面Cの傾斜角Kは、絶縁紙の両端部が周方向に開くときの時間差を設けるために設定され、傾斜角Kが小さいほど時間差が大きくなる。他方の側面11Aには傾斜面が存在しない。一方の側面11Bにのみ傾斜面11Cが形成されているため、図8(b)(c)、図9に示すように、第2押込みパンチ5を矢印Vの方向に移動して、スロット内に絶縁紙ZY4を挿入させるとき、絶縁紙の折り返した両端部Z11、Z12が第1押込みパンチ1の本体部側面11A、11Bに摺接しながら移動した後、折り返した両端部の内、一方の端部Z12が他方の端部Z11より先行して第1押込みパンチ1の傾斜面11Cから離間して周方向に開くことになる。つまり、一方の端部Z12が周方向に開く位置において、対向する位置の他方の端部Z11は、まだ他方の側面11Aに規制されて180度折り返された状態のままである。したがって、一方の端部Z12と他方の端部Z11は、時間差をもって周方向に開くことになる。絶縁紙の両端部が、このように時間差をもって周方向に開くので、周方向の長さが長くても、両端部は互いに干渉することなく開き、径方向で重ね合わせることができる。
【0025】
以上の動作を各スロット毎に繰り返すことによって、図10に示すように、挿入治具100を用いて、絶縁紙Zをステータコア8の複数ある各スロット7内に挿入することができる。また、その後、図1に示すように、スロット7内には、断面矩形状のステータコイル9が複数積層されて巻装されることで、スロット7の内周面には、横断面がロ字状に内周側の両端部が重ね合わされた絶縁紙Zが介装されているステータを製造することができる。
【0026】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係るステータの製造方法によれば、内周側に開口する複数のスロット7を有するステータコア8と、スロット7内に挿入されて両端部Z11、Z12が内周側で重なり合う絶縁紙Zと、該絶縁紙を介して巻装されたステータコイル9とを有するステータ10の製造方法であって、ステータ10の軸方向上方に位置し、内周側に開口したスロット状溝31と該スロット状溝31内へ径方向に進退する第1押込みパンチ1と軸方向に進退する第2押込みパンチ5とを有する挿入治具100を備え、絶縁紙の両端部Z11、Z12をステータコイル接触面側に折り返した状態で絶縁紙の中央部Z14を第1押込みパンチ1で内周側から外周側へ押込んで、絶縁紙をスロット状溝内へ挿入する絶縁紙挿入工程と、スロット状溝31とスロット7とを軸方向で位置を合わせ、第1押込みパンチ1を内周側に途中まで抜き戻してから、スロット状溝内へ挿入した絶縁紙を第2押込みパンチ5で軸方向上方から下方へ押込んで、絶縁紙をスロット7内に移動させる絶縁紙移動工程とを有することを特徴とするので、両端部Z11、Z12が折り曲げられた絶縁紙を挿入治具100でガイドしながらステータコア8のスロット7内に挿入することによって、絶縁紙が挿入時にずれにくい効果を奏する。
【0027】
具体的には、ステータ10の軸方向上方に位置し、内周側に開口したスロット状溝31と該スロット状溝内へ径方向に進退する第1押込みパンチ1と軸方向に進退する第2押込みパンチ5とを有する挿入治具100を備え、絶縁紙の両端部Z11、Z12をステータコイル接触面側に折り返した状態で絶縁紙の中央部Z14を第1押込みパンチ1で内周側から外周側へ押込んで、絶縁紙をスロット状溝31内へ挿入する絶縁紙挿入工程を有するので、挿入治具のスロット状溝31内に挿入された絶縁紙の両端部Z11、Z12は折り返した状態で維持されている。そのため、絶縁紙をスロット状溝31内へ残したまま、第1押込みパンチ1を内周側に抜き戻すことができる。
また、スロット状溝31とスロット7とを軸方向で位置を合わせ、第1押込みパンチ1を内周側に途中まで抜き戻してから、スロット状溝31内へ挿入した絶縁紙を第2押込みパンチ5で軸方向上方から下方へ押込んで、絶縁紙をスロット7内に移動させる絶縁紙移動工程を有するので、両端部Z11、Z12が折り曲げられた絶縁紙を挿入治具100でガイドしながら、正確にスロット7内に移動させることができる。この時、第1押込みパンチ1は内周側に途中まで抜き戻されているので、第2押込みパンチ5は第1押込みパンチ1に邪魔されることなく、軸方向に進退できる。
したがって、両端部Z11、Z12が内周側で重なり合う絶縁紙を、位置ずれを発生させにくい状態で、スロット7内に挿入することができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、絶縁紙の中央部Z14に折り目ZL3、ZL4を設けるとともに、第1押込みパンチ1は、板状本体部11と該本体部より周方向に太い先端部12とを備えることを特徴とするので、絶縁紙の側面Z13、Z15(中央部の折り目から両端部の折り目までの間)は、第1押込みパンチ1の本体部側面11A、11B寄りに湾曲する湾曲面を形成する。そのため、絶縁紙の側面が挿入治具100のスロット状溝31に摺接することなく、絶縁紙を挿入治具のスロット状溝内に挿入することができる。
したがって、絶縁紙の側面Z13、Z15にスロット状溝31からの摩擦抵抗を受けることがないので、絶縁紙を挿入する際、絶縁紙の位置ずれを発生させる可能性が一層減少する。
【0029】
また、本実施形態によれば、第1押込みパンチ1の本体部11には、一方の側面11Bから軸方向下端に向けて先細りとなる傾斜面11Cが形成され、絶縁紙移動工程では、絶縁紙の折り返した両端部Z11、Z12が第1押込みパンチ1の本体部側面11A、11Bに摺接しながら移動し、折り返した両端部の内、一方の端部Z12が他方の端部Z11より先行して第1押込みパンチ1の傾斜面11Cから離間して周方向に開くことを特徴とするので、絶縁紙の両端部Z11、Z12は、絶縁紙をステータコア8のスロット7内に移動するときに、互いに干渉することなく内周側に開いて、重なり合うことができる。そのため、絶縁紙の両端部Z11、Z12の幅が長くても内周側で重なり合うので、絶縁紙の横断面においてロ字状を確実に形成することができる。
したがって、絶縁紙による信頼性の高い絶縁性能をステータコア8等とステータコイル9との間で確保することができる。
【0030】
上述した本実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で変更することができる。
例えば、本実施形態では第1押込みパンチ1の先端部12を本体部11より太くしたが、先端部12と本体部11とを同一の厚さとしてもよい。絶縁紙の中央部には、予め、折り目を付けているので、中央部の折り目より内側を第1押込みパンチの先端部が押しても、折り目の付いた折り曲げ線から本体部側面寄りに湾曲するので、絶縁紙を挿入治具に挿入する際の摩擦抵抗は、あまり増大しないからである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、特に電気自動車やハイブリッド自動車等に用いる車両用回転電機に使用するステータの製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 第1押込みパンチ
2 オス型
3 絶縁紙格納部
4 メス型
5 第2押込みパンチ
6 絶縁紙保持部
7 スロット
8 ステータコア
9 ステータコイル
10 ステータ
11 第1押込みパンチの本体部
12 第1押込みパンチの先端部
20 3次元曲げ型
31 スロット状溝
11C 第1押込みパンチの本体部に形成された傾斜面
100 挿入治具
Z 絶縁紙
Z11、Z12 絶縁紙の両端部
Z14 絶縁紙の中央部
ZY1 予備成形した絶縁紙
ZY2〜4 押込み途中の絶縁紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周側に開口する複数のスロットを有するステータコアと、前記スロット内に挿入されて両端部が内周側で重なり合う絶縁紙と、該絶縁紙を介して巻装されたステータコイルとを有するステータの製造方法であって、
前記ステータの軸方向に位置し、内周側に開口したスロット状溝と該スロット状溝内に径方向で進退する第1押込みパンチと軸方向で進退する第2押込みパンチとを有する挿入治具を備え、
前記絶縁紙の両端部をステータコイル接触面側に折り返した状態で前記絶縁紙の中央部を前記第1押込みパンチで内周側から外周側へ押込んで、前記絶縁紙を前記スロット状溝内へ挿入する絶縁紙挿入工程と、
前記スロット状溝と前記スロットとを軸方向で位置を合わせ、前記第1押込みパンチを内周側に途中まで抜き戻してから、前記スロット状溝内へ挿入した前記絶縁紙を前記第2押込みパンチで軸方向から押込んで、前記絶縁紙を前記スロット内に移動させる絶縁紙移動工程とを有することを特徴とするステータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたステータの製造方法において、
前記絶縁紙の中央部に折り目を設けるとともに、前記第1押込みパンチは、板状本体部と該本体部より周方向に太い先端部とを備えることを特徴とするステータの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載されたステータの製造方法において、
前記第1押込みパンチの本体部には、一方の側面から軸方向に向けて先細りとなる傾斜面が形成され、
前記絶縁紙移動工程では、前記絶縁紙の折り返した両端部の内、一方の端部が他方の端部より先行して前記第1押込みパンチの傾斜面から離間して周方向に開くことを特徴とするステータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−102568(P2013−102568A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243859(P2011−243859)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】