説明

ストッパー制御型浸漬ノズル

【課題】ストッパー制御型浸漬ノズルにおいて、嵌合部からの空気の侵入を防止し、しかも嵌合部の熱膨張に伴うノズル本体の亀裂発生を抑制すること。
【解決手段】ノズル本体11の上端部の内孔側に、上部に拡径部17aを有する段差部17が形成され、段差部17に嵌合リング13が配置され、嵌合リング13の外周面側に、嵌合リング13と拡径部17aの底面とで底面が構成される溝14が形成され、溝14に、押さえブロック15が、嵌合リング13と拡径部17aの底面を跨ぎ、かつ浮上防止手段によってノズル本体11に固定されるように挿入され、押さえブロック15と嵌合リング13との間、及び嵌合リング13の外周面と段差部17との間に可縮性モルタル18が充填されているストッパー制御型浸漬ノズルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造、とくにアルミキルド鋼の連続鋳造に用いられる浸漬ノズルに関し、より詳しくは、ノズル本体の内孔に上方からストッパーを嵌合させて内孔を閉止するストッパー制御型浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミキルド鋼等の連続鋳造に使用される浸漬ノズルにおいては、鋼中のアルミナ系介在物がノズル本体の内孔に付着し、これが進行してノズル閉塞を起こしやすい。このノズル閉塞を防ぐ方法として、ノズル本体の内孔側にCaOを含有する耐火物を用いると良いことが知られている(特許文献1)。
【0003】
本発明者らは、CaO、MgO、炭素を含むドロマイトグラファイト質の耐火物を用いてストッパー制御型浸漬ノズルを製造し、アルミキルド鋼の溶製に供した。その結果、ノズル閉塞は解消されたが、ストッパーが接触する嵌合部の溶損が大きくなる、という新たな問題が発生した。
【0004】
そこで、本発明者らは嵌合部の溶損を防止するため、特許文献2において、モールドに浸漬される浸漬ノズル本体と、この浸漬ノズル本体の上端に接続される嵌合部とからなり、浸漬ノズル本体が〔C〕25〜40質量%、〔CaO〕20〜50質量%、〔MgO〕10〜40質量%からなる耐火物で構成され、また嵌合部が〔C〕1〜10質量%、〔CaO〕40〜60質量%、〔MgO〕30〜50質量%からなる耐火物で構成されるストッパー制御型浸漬ノズルを開示した。
【0005】
一方、ストッパー制御型浸漬ノズルにおいては、ノズル本体の上端部の内孔側に、耐用性に優れるジルコニア等の嵌合リングを装着する構造が知られている。しかしながら、ジルコニアは熱膨張が大きいため、使用時にノズル本体に亀裂や割れを生じさせやすい問題がある。そこで特許文献3では、嵌合リングを内孔側に配置するのではなく、浸漬ノズルを上下に分離して、上部全体を嵌合リング材質とし周囲をメタルケースで覆う構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−44836号公報
【特許文献2】特開2008−809号公報
【特許文献3】特開平10−5942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2あるいは特許文献3の構造では、ノズル本体とその上部の嵌合部との間にノズルの外周面に通じる目地部が存在する。本発明者らが、特許文献2のストッパー制御型浸漬ノズルを使用したところ、ノズル閉塞防止には効果が確認できたが、頻度は少ないものの、この目地部が局部的に溶損し溶鋼が漏れるケースがあることがわかった。その原因としては、図3に矢印で示すように、空気がメタルケース51の下端部から浸漬ノズル52とメタルケース51の間を通り、モルタルの目地部53に侵入したためと推定される。
【0008】
一方、特許文献3の図8のように単に内孔側に嵌合リングを配置しただけでは、上述のとおり、熱膨張差によりノズル本体の亀裂発生の問題がある。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ストッパー制御型浸漬ノズルにおいて、ストッパーと嵌合する嵌合部からの空気の侵入を防止し、しかも嵌合部の熱膨張に伴うノズル本体の亀裂発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内孔を有するノズル本体の上端部の内孔側に、前記ノズル本体よりも熱膨張の大きな嵌合リングを配置し、前記嵌合リングにストッパーを嵌合させて内孔を閉止するストッパー制御型浸漬ノズルであって、前記ノズル本体の上端部の内孔側に、上部に拡径部を有する段差部が形成され、前記段差部に嵌合リングが配置され、前記嵌合リングの外周面側に、当該嵌合リングと前記拡径部の底面とで底面が構成される溝が形成され、前記溝に、押さえブロックが、前記嵌合リングと前記拡径部の底面を跨ぎ、かつ浮上防止手段によってノズル本体に固定されるように挿入され、前記押さえブロックと前記嵌合リングとの間、及び前記嵌合リングの外周面と前記段差部との間に可縮性モルタルが充填されているストッパー制御型浸漬ノズルである。
【0011】
本発明では、前記溝が円環状に形成され、しかも押さえブロックが円筒状をしており、浮上防止手段として押さえブロックがノズル本体に螺合する構造とすることができる。
【0012】
本発明において可縮性モルタルは、2.5MPaの加圧下、1000℃非酸化雰囲気における可縮率が10%〜80%であることが好ましい。
【0013】
可縮率が10%未満であるとモルタル目地代を大きく取る必要があり、ノズル本体が薄くなるため好ましくない。また、可縮率が80%より大きいとモルタル目地代は薄くて済むが、空目地に近くなるため目地部への溶鋼浸透の可能性が高くなり、耐火物の溶損につながりやすくなる。
【0014】
また、本発明においてノズル本体を構成する耐火原料は、黒鉛が25〜40質量%、残部がドロマイトクリンカー、又はドロマイトクリンカーとマグネシアクリンカーとからなり、嵌合リングを構成する耐火原料は、黒鉛が1〜10質量%、残部がドロマイトクリンカー、又はドロマイトクリンカーとマグネシアクリンカーとからなることが好ましい。
【0015】
ノズル本体を構成する耐火原料中の黒鉛が25質量%未満では耐熱衝撃性が不足し、40質量%を超えると耐食性が不足することがある。また、嵌合リングについてはストッパーとの嵌合時の衝撃や溶鋼流による損耗を防止するため、さらに耐食性を向上させる点から、ノズル本体より黒鉛を少なくすることが好ましい。具体的には、嵌合リングを構成する耐火原料中の黒鉛が10質量%を超えると必要な耐食性が得られないことがあるので、10質量%以下とすることが好ましい。一方、黒鉛が1質量%未満では耐熱衝撃性が不足することがあるので、1質量%以上とすることが好ましい。また、ノズル本体、嵌合リング共に黒鉛以外には、アルミナ系介在物の付着防止のため、ドロマイトクリンカー、又はドロマイトクリンカーとマグネシアクリンカーを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、嵌合リングとノズル本体側との目地部の端面が、ノズルの外周面ではなくタンディッシュ容器の底面に位置し溶鋼と接するので、溶鋼の静圧により目地部からの空気の侵入を防止することができる。
【0017】
また、嵌合リングとノズル本体及び押さえブロックとの間には可縮性モルタルによって十分な膨張代を確保しているため、嵌合リングの熱膨張によるノズル本体への亀裂の発生を防止することができる。このため、ストッパー型浸漬ノズルの耐用性が向上し、漏鋼の危険性がなくなる。
【0018】
さらに、嵌合リングは押さえブロックによってノズル本体に確実に固定されるので、ストッパーとの嵌合時にくっついてその後持ち上げられようとしても、その持ち上がりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のストッパー制御型浸漬ノズルをタンディッシュに取り付けた状態での縦断面図である。
【図2】(a)は図1における嵌合部の拡大図、(b)は(a)においてノズル本体のみを示す図である。
【図3】従来のストッパー制御型浸漬ノズルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を図1及び図2を参照して説明する。
【0021】
図1において、ストッパー制御型浸漬ノズル(以下、単に「浸漬ノズル」という。)1はタンディッシュの羽口2にモルタルを介して取り付けられている。この浸漬ノズル1は、ノズル本体11と、その上端部の内孔12側にモルタルにより接続される嵌合リング13、及び嵌合リング13の外周側の溝14に配置された押さえブロック15よりなり、嵌合リング13がストッパー20との嵌合部となる。また、ノズル本体11の上端部には径大の頭部16が形成されると共に、頭部16下端の段がモルタルを介し、鉄皮3の羽口周縁に係止することにより浸漬ノズル1のずり落ちが阻止されるようになっている。
【0022】
図2(b)に示すように、ノズル本体11の上端部の内孔12側には、上部に拡径部17aを有する段差部17が形成されている。そして図2(a)に示すように、段差部17に嵌合リング13が配置されている。また、嵌合リング13の外周面側には、嵌合リング13と段差部17の拡径部17aの底面とで底面が構成される溝14が形成されている。この溝14は嵌合リング13の外周面側全周にわたり円環状に形成され、溝14の内周側の側面は嵌合リング13の外周面で、溝14の外周側の側面はノズル本体1の段差部17(拡径部17a)の内面、溝の底面は、中央部の隙間19を介して嵌合リング13と拡径部17の底面(ノズル本体11)とで構成されている。また、この溝14の外周側の側面には雌ネジ溝が形成されており、押さえブロック15の外周面に形成された雄ネジ溝に螺合するようになっている。
【0023】
押さえブロック15は円筒状をしており、可縮性モルタル18を介して溝14の外周側の側面に螺合される。これによって押さえブロック15が、嵌合リング13と拡径部17aの底面を跨ぐように溝14に挿入される。また、押さえブロック15と嵌合リング13との間にはモルタル目地代として2mmの隙間が確保されており、この隙間にも可縮性モルタルを充填している。さらに、押さえブロック15の外周面と段差部17(ノズル本体11)との間にも同様に2mmの隙間が確保されており、この隙間にも可縮性モルタル18を充填している。なお、嵌合ブロック13の底面とノズル本体11との接合面の隙間は0.5mm以下とし通常のモルタルを充填している。
【0024】
押さえブロック15は、嵌合ブロック13の浮上を防止する目的で装着する。したがって、押さえブロック15は浮上しないように浮上防止手段でノズル本体11に固定される必要がある。その浮上防止手段としては、本実施形態のように螺合する構造以外に、バイオネットタイプにしても良い。あるいは、内孔側から嵌合リングと押さえブロックとを貫通しノズル本体に通じる貫通孔を設け、この貫通孔に耐火物製のピンを挿入することでピン止めにより浮上を防止する構造としても良い。この押さえブロックは、塩基性の耐火物であればとくに問題なく使用できるが、嵌合リングあるいはノズル本体と同じ材質系のものを使用することが好ましい。
【0025】
以上の構成を有する浸漬ノズル1は、使用時に嵌合部(嵌合リング13)の温度が急激に上昇し熱膨張しても、可縮性モルタル18が収縮することで膨張代が吸収され、ノズル本体11への熱膨張による応力を緩和することができるため、ノズル本体11の亀裂を防止することができる。また、嵌合リング13とノズル本体11側の目地部、具体的には嵌合リング13と押さえブロック15、及び押さえブロック15とノズル本体11との接合部の目地部の端面はタンディッシュ底面に位置し溶鋼と接しているために空気が侵入することがない。そして、嵌合リング13がストッパー20との嵌合時にくっついて持ち上げられようとしても、嵌合リング13の外周に形成された溝14の底面が浮上防止手段でノズル本体11に固定された押さえブロック15に当接しているため、持ち上がりを防止することができる。
【0026】
本発明において使用する可縮性モルタル18としては、2.5MPaの加圧下、1000℃非酸化雰囲気において10%から80%の可縮率を示すものがよい。可縮率が10%未満であるとモルタル目地代を大きく取る必要がありノズル本体11が薄くなるため好ましくない。一方、可縮率が80%より大きいとモルタル目地代は薄くて済むが、空目地に近くなるため目地部への溶鋼浸透の可能性が高くなり、耐火物の溶損につながりやすくなる。可縮性モルタル18による目地厚としては1〜3mmが好適であり、この目地厚さで嵌合リングの熱膨張を吸収できるような適正な可縮率をもつ可縮性モルタルを選定することが好ましい。
【0027】
なお、モルタルの可縮率Kは、次のように測定する。φ20×40mmLの形状をもつ2本の耐火物製サンプルの端面間にモルタルを挟み込み、約2mmの厚さで接着する。モルタルにより接着された耐火物製サンプルに熱処理を施しモルタルを固化させる。温度、雰囲気、加圧速度が制御できる材料試験機の炉内にこの耐火物製サンプルを設置して、非酸化雰囲気で1000℃まで昇温して、温度が均一になるまで保持した後、加圧する。まず、熱処理後の無加圧の状態でのモルタル層の初期厚みt(mm)を測定する。次に、測定用サンプルを非酸化雰囲気で1000℃に保持した後に上下方向から圧縮し、2.5MPaまで加圧した後、その変位量h(mm)を測定する。予め、使用する2本の耐火物製サンプルについてモルタル層がない状態で、同条件で加圧し変位量h(ブランク値)を測定しておく。これらの測定値を次式にて計算することで1000℃非酸化雰囲気下での可縮率K(%)を得ることができる。
K = (h−h)/t ×100 (%)
【0028】
ここで加圧条件を2.5MPaとしている理由は、浸漬ノズルの一般的なノズル本体の材質であるAl−C質を主とする材料系の管状耐火物の場合、一般的にはノズル本体の内壁面に数MPaの圧力を加えると破断し、例えば、実用上ほぼ最小の径方向の構造を有するノズル本体の耐火物(内径φ80mm、外径φ135mm)で最大引張り強度が6MPaのAl−黒鉛材質の耐火物の場合、管内壁面から圧力を負荷していくと、計算により内壁面に約2.5MPaの圧力を負荷すると破断に至ることによる。
【実施例】
【0029】
図1に示したストッパー制御型浸漬ノズルで実際のタンディッシュにてテストした結果を表1に示す。実施例1は、図1の形状で、ノズル本体としては黒鉛が30質量%と残部がドロマイトクリンカーからなる材質を、嵌合リングと押さえブロックには、黒鉛が8質量%と残部がドロマイトクリンカーからなる材質を、可縮性モルタルは、2.5MPaの加圧下、1000℃非酸化雰囲気中における可縮率が50%のマグネシア質モルタル(マグネシア:70質量%)を使用した。比較例1は図3の形状で、図1と同じ材料を使用したもの、比較例2は図3の形状で嵌合部と本体部ともにアルミナグラファイト質を使用したものである。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1では、嵌合部からの空気の侵入が防止され、嵌合部の熱膨張に伴うノズル本体の亀裂発生を抑制することができ、しかもノズル本体及び嵌合リングに付着物は確認されず、嵌合リングの溶損もなく良好であった。比較例1はノズル本体及び嵌合リングに付着物は確認されず、嵌合リングの溶損もなかったものの、嵌合部からの空気の侵入が発生した。比較例2は、ノズル本体及び嵌合リングへの付着が認められ、嵌合部からの空気の侵入も発生した。
【符号の説明】
【0032】
1 ストッパー型浸漬ノズル
2 羽口
3 鉄皮
11 ノズル本体
12 内孔
13 嵌合リング
14 溝
15 押さえブロック
16 頭部
17 段差部
17a 拡径部
18 可縮性モルタル
19 中央部の隙間
20 ストッパー
51 メタルケース
52 浸漬ノズル
53 目地部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内孔を有するノズル本体の上端部の内孔側に、前記ノズル本体よりも熱膨張の大きな嵌合リングを配置し、前記嵌合リングにストッパーを嵌合させて内孔を閉止するストッパー制御型浸漬ノズルであって、
前記ノズル本体の上端部の内孔側に、上部に拡径部を有する段差部が形成され、
前記段差部に嵌合リングが配置され、
前記嵌合リングの外周面側に、当該嵌合リングと前記拡径部の底面とで底面が構成される溝が形成され、
前記溝に、押さえブロックが、前記嵌合リングと前記拡径部の底面を跨ぎ、かつ浮上防止手段によってノズル本体に固定されるように挿入され、
前記押さえブロックと前記嵌合リングとの間、及び前記嵌合リングの外周面と前記段差部との間に可縮性モルタルが充填されているストッパー制御型浸漬ノズル。
【請求項2】
前記溝が円環状に形成され、しかも押さえブロックが円筒状をしており、浮上防止手段として押さえブロックがノズル本体に螺合している請求項1に記載のストッパー制御型浸漬ノズル。
【請求項3】
可縮性モルタルは、2.5MPaの加圧下、1000℃非酸化雰囲気における可縮率が10%〜80%である請求項1又は請求項2に記載のストッパー制御型浸漬ノズル。
【請求項4】
ノズル本体を構成する耐火原料が、黒鉛が25〜40質量%、残部がドロマイトクリンカー、又はドロマイトクリンカーとマグネシアクリンカーとからなり、嵌合リングを構成する耐火原料が、黒鉛が1〜10質量%、残部がドロマイトクリンカー、又はドロマイトクリンカーとマグネシアクリンカーとからなる請求項1、請求項2又は請求項3に記載のストッパー制御型浸漬ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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