説明

ストロークシミュレータ、このストロークシミュレータを有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステム

【課題】ストロークシミュレーション機能の作動開始をより一層スムーズに行う。
【解決手段】マスタシリンダのペダル感覚シミュレータ部3は立ち上がり荷重低減部28を有し、この例の立ち上がり荷重低減部28は立ち上がり荷重低減スプリング29を有する。立ち上がり荷重低減スプリング29の弾性係数は、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の弾性係数より小さく設定されている。したがって、入力軸4により立ち上がり荷重低減スプリング29が押圧されると、立ち上がり荷重低減スプリング29は、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16が弾性的に撓んでシミュレータ作動ピストンが前方へ移動開始する前に弾性的に撓み開始する。これにより、ペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシステム等に用いられるペダルの踏み込みに応じた反力を発生させるストロークシミュレータの技術分野、このストロークシミュレータを有するマスタシリンダの技術分野、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムの技術分野に関するものである。なお、本発明の明細書の記載において、前後方向の関係は、ブレーキペダルの踏み込み時に入力軸が移動する方向を「前」、ブレーキペダルの踏み込み解除時に入力軸が戻る方向を「後」とする。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の自動車においては、ハイブリッド車や電気自動車の開発が進んでいる。これに伴い、自動車のブレーキシステムにおいては、回生ブレーキと摩擦ブレーキとを協調して用いられる回生協調ブレーキシステムが種々開発されている。この回生協調ブレーキシステムは、ブレーキペダルの踏み込みストロークを検出し、検出されたストロークに基づいて、制御部(Electric control unit: ECU)が回生ブレーキによるブレーキ力と摩擦ブレーキによるブレーキ力とを演算し、演算されたブレーキ力で自動車にブレーキがかけられる。
【0003】
このような回生協調ブレーキシステムにおいては、制御部がブレーキペダルの踏み込みストロークに基づいてブレーキ力を決定するため、ブレーキペダルの踏み込みストロークに応じた反力が運転者に伝達されない。そこで、運転者がブレーキペダルの踏み込みストロークに応じた反力を認識可能にするため、ペダル感覚シミュレータ部を有するマスタシリンダが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図4は、この特許文献1に記載されているペダル感覚シミュレータ部を有するマスタシリンダを模式的に示す図である。図中、1はマスタシリンダ、2は摩擦ブレーキのブレーキ液圧を発生するタンデムマスタシリンダ部、3はタンデムマスタシリンダ部2に一体的に設けられたペダル感覚シミュレータ部(ストロークシミュレータ)、4はブレーキペダル(図4には不図示)の踏み込みに応じてストロークする入力軸、5は入力軸4のストロークを検出するストロークセンサ、6はブレーキ液を貯留するリザーバタンクである。
【0005】
タンデムマスタシリンダ部2は、従来周知のタンデムマスタシリンダと同様に、プライマリピストン7、セカンダリピストン8、プライマリピストン7とセカンダリピストン8で区画されるプライマリ液圧室9、セカンダリピストン8で区画されるセカンダリ液圧室10、プライマリピストン7を常時非作動位置の方へ付勢するプライマリスプリング11、セカンダリピストン8を常時非作動位置の方へ付勢するセカンダリスプリング12を有する。プライマリ液圧室9は一方のブレーキ系統のブレーキシリンダ(図4には不図示)
に常時連通するとともに、図示のプライマリピストン7の非作動位置でリザーバタンク6に連通し、かつプライマリピストン7が前進するとリザーバタンク6から遮断されて、プライマリ液圧室9にブレーキ液圧が発生される。セカンダリ液圧室10は他方のブレーキ系統のブレーキシリンダ(図4には不図示)に常時連通するとともに、図示のセカンダリ
ピストン8の非作動位置でリザーバタンク6に連通し、かつセカンダリピストン8が前進するとリザーバタンク6から遮断されて、セカンダリ液圧室10にブレーキ液圧が発生される。
【0006】
更に、タンデムマスタシリンダ部2は、プライマリピストン7とシリンダ壁との間に動力室13を有する。この動力室13には、ブレーキ作動時に図示しない動力源から作動液
が供給される。その場合、作動液は、動力室13の液圧が制御部で演算された摩擦ブレーキによるブレーキ力に応じた液圧となるように供給される。
【0007】
ペダル感覚シミュレータ部3は、入力軸4により作動されるシミュレータ作動ピストン14、シミュレータ作動ピストン14の作動によってシミュレータ作動液圧が発生するシミュレータ作動液圧室15、シミュレータ作動ピストン14を常時非作動位置の方へ付勢するコイルばねからなるシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16、およびペダル感覚シミュレータカートリッジ17を有する。また、ペダル感覚シミュレータカートリッジ17は、シミュレータ作動液圧室15のシミュレータ作動液圧が作用される第1反力シミュレータピストン18(本発明の反力シミュレータ部材に相当)、第1反力シミュレータピストン18を常時非作動位置の方へ付勢する第1反力シミュレータスプリング19(本発明の反力シミュレータ部材に相当)、第1反力シミュレータスプリング19を支持する第2反力シミュレータピストン20(本発明の反力シミュレータ部材に相当)、第2反力シミュレータピストン20を常時非作動位置の方へ付勢する第2反力シミュレータスプリング21(本発明の反力シミュレータ部材に相当)を有する。
【0008】
このペダル感覚シミュレータ部3においては、ブレーキペダルが踏み込まれない非作動時には、シミュレータ作動ピストン14は図4に示す非作動位置にある。この状態では、シミュレータ作動液圧室15はリザーバタンク6に連通し、シミュレータ作動液圧室15内はシミュレータ作動液圧が発生しなく大気圧となっている。したがって、第1反力シミュレータピストン18および第2反力シミュレータピストン20は図4に示す非作動位置にある。
【0009】
そして、ブレーキペダルが踏み込まれると、入力軸4が前進(図4において左動)するので、シミュレータ作動ピストン14がシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16を弾性的に撓ませながら前進(作動)する。シミュレータ作動ピストン14の作動でシミュレータ作動液圧室15がリザーバタンク6から遮断されると、シミュレータ作動液圧室15内にシミュレータ作動液圧が発生する。このシミュレータ作動液圧は第1反力シミュレータピストン18に作用する。シミュレータ作動液圧が所定の液圧に増大すると、このシミュレータ作動液圧により第1反力シミュレータピストン18は第1反力シミュレータスプリング19を押圧して弾性的に撓ませながら図4において下方へ移動(作動)するとともに、第1反力シミュレータピストン18の押圧力で第2反力シミュレータピストン20が第2反力シミュレータスプリング21を撓ませながら図4において下方へ移動(作動)する。これにより、第1および第2反力シミュレータスプリング19,21はそれら
の撓み量に応じた力を第1反力シミュレータピストン18に反力として作用する。
【0010】
そして、シミュレータ作動液圧による第1反力シミュレータピストン18への作用力と第1反力シミュレータスプリング19による第1反力シミュレータピストン18への作用力とがバランスすると、第1および第2反力シミュレータピストン18,20の移動が停
止する。このとき、シミュレータ作動液圧室15内のシミュレータ作動液圧はブレーキペダルの踏み込みストロークに応じた液圧となる。そして、第1反力シミュレータピストン18の反力はシミュレータ作動液圧に変換されてシミュレータ作動ピストン14に作用し、更に反力はシミュレータ作動ピストン14から入力軸4を介してブレーキペダルに伝達される。これにより、運転者はブレーキペダルからブレーキペダルの踏み込みストロークに応じた反力を認識する。
【0011】
このように構成されたペダル感覚シミュレータ部3におけるペダル感覚特性線図(つまり、ブレーキペダルのストロークSに対する反力Fの特性線図)は、図5(a)に示す特性線図となる。すなわち、ペダル感覚特性線図は、ペダル感覚シミュレータ部3の作動初期ではストロークの増大に対して反力が比較的小さく、ストロークが所定量大きくなると
、ストロークの増大に対して反力が比較的大きくなるように湾曲した特性曲線を描く。
【0012】
一方、このマスタシリンダ1においては、ブレーキペダルが踏み込まれない非作動時には、タンデムマスタシリンダ部2およびペダル感覚シミュレータ部3はともに図4に示す非作動状態にある。すなわち、動力室13に動力源から作動液が供給されなく、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8はともに図4に示す非作動位置にある。したがってプライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10はともにリザーバタンク6に連通し、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内にはブレーキ液圧は発生していない。また、シミュレータ作動液圧室15はリザーバタンク6に連通し、シミュレータ作動液圧室15内にはシミュレータ作動液圧は発生しない。
【0013】
また、ブレーキペダルが踏み込まれると、入力軸4が前方へストロークする。この入力軸4のストロークがストロークセンサ5により検出される。図示しない制御部は、ストロークセンサ5からの入力軸4のストローク(つまり、ブレーキペダルの踏み込みストローク)に基づいて動力源を駆動制御する。これにより、動力源から作動液が動力室13に供給され、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8が前進する。すると、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10がともにリザーバタンク6から遮断されて、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内にブレーキ液圧が発生する。これらのブレーキ液圧がそれぞれ2系統の対応するブレーキシリンダに供給され、自動車の対応する車輪にブレーキがかけられる。
【0014】
動力室13内の作動液圧がブレーキペダルの踏み込みストロークに対応した液圧となると、制御部は動力源を停止する。すると、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がともに停止し、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内のブレーキ液圧はともにブレーキペダルの踏み込みストロークに対応した液圧となる。すなわち、ブレーキペダルの踏み込みストロークに対応したブレーキ力でブレーキが車輪にかけられる。
【0015】
このとき、前述のようにペダル感覚シミュレータ部3はブレーキペダルの踏み込みストロークに対応した反力をブレーキペダルに伝達する。したがって、運転者はこの反力を認識して、ブレーキペダルの踏み込みストロークに対応したブレーキ力でブレーキが車輪にかけられることを感知する。
【0016】
ブレーキペダルが解放されると、入力軸4が後方(非作動位置の方)へストロークし、この入力軸4のストロークがストロークセンサ5により検出される。制御部は、ストロークセンサ5で検出されたストロークに基づいて図示しない制御弁を制御し、動力室13内の作動液をリザーバタンク6に排出する。これにより、動力室13内の液圧が低下し、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がそれぞれプライマリスプリング11およびセカンダリスプリング12の付勢力で後退する。動力室13内の液圧が大気圧となると、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がともに図4に示す非作動位置となり、車輪のブレーキが解除する。
【0017】
一方、入力軸4が後方へストロークすることで、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の付勢力でシミュレータ作動ピストン14が後退する。そして、シミュレータ作動ピストン14が非作動位置近傍になると、シミュレータ作動液圧室15がリザーバタンク6に連通し、シミュレータ作動液圧室15内のシミュレータ作動液圧が低下する。シミュレータ作動ピストン14が図4に示す非作動位置になった状態では、シミュレータ作動液圧室15の液圧は大気圧となる。これにより、第1反力シミュレータピストン18および第2反力シミュレータピストン20もともに図4に示す非作動位置となる。なお、各構成要素に用られている用語および符号は、いずれも特許文献1に記載された用語および符号と同じ用語および符号ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第4510388号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、特許文献1に記載のペダル感覚シミュレータ部3は、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16、第1反力シミュレータスプリング19、および第2反力シミュレータスプリング21の複数のスプリングを有している。一方、ペダル感覚シミュレータ部3が立ち上がる(作動開始する)ためには、シミュレータ作動ピストン14が作動する必要がある。このため、ペダル感覚シミュレータ部3が立ち上がるためには、ブレーキペダルの踏み込みストロークこれらの複数のスプリングが撓んでシミュレータ作動ピストン14が作動しなければならない。
【0020】
特に、シミュレータ作動ピストン14には、シールによるシミュレータ作動ピストン14の摺動抵抗が作用するため、シミュレータ作動ピストン14を非作動位置に確実に戻らせるには、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16のばね荷重を比較的大きくする必要がある。このため、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の初期設定荷重は比較的大きい。
【0021】
したがって、ペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり時(作動開始時)に、ブレーキペダルの踏み込み力によりシミュレータ作動ピストン14がシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16を押圧する力は、少なくともシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の初期設定荷重を超える大きさが必要となる。すなわち、図5(a)のVB部を拡大した図5(b)に示すようにペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり時には、シミュレータ作動ピストン14がシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16を押圧する押圧力(反力に等しい)は、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16が撓み開始する力F1を超える大きさである必要がある。なお、F2は、第1および第2反力シミュレータスプリング19,21が撓み開始する力である。
【0022】
しかしながら、このようにシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の初期設定荷重が大きいと、シミュレータ作動ピストン14が撓み開始する力F1が大きくなる。つまり、ペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重が大きくなる。このため、ペダル感覚シミュレータ部3によるペダル感覚シミュレーション機能の立ち上がりがスムーズに行われない。
【0023】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ストロークシミュレーション機能の作動開始をより一層スムーズに行うことができるストロークシミュレータ、このストロークシミュレータを有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前述の課題を解決するために、本発明に係るストロークシミュレータは、入力が加えられて作動する入力軸と、前記入力軸により作動されるシミュレータ作動ピストンと、
前記シミュレータ作動ピストンを非作動位置の方向に付勢するシミュレータ作動ピストンリターンスプリングと、前記シミュレータ作動ピストンの作動により、前記入力軸の入力に基づいた反力を前記シミュレータ作動ピストンに出力する反力シミュレータ部材と、
前記入力軸が作動開始する作動開始荷重を低減する作動開始荷重低減部とを有することを特徴としている。
【0025】
また、本発明に係るストロークシミュレータは、前記作動開始荷重低減部が、前記入力軸と前記シミュレータ作動ピストンとの間に配設されることを特徴としている。
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記作動開始荷重低減部が、前記シミュレータ作動ピストンリターンスプリングの弾性係数より小さい弾性係数の弾性部材を有することを特徴としている。
【0026】
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記弾性部材が、コイルスプリングからなる作動開始荷重低減スプリングであることを特徴としている。
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記弾性部材がゴム部材であることを特徴としている。
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記弾性部材が前記入力軸と前記シミュレータ作動ピストンとの間に密封されたガスであることを特徴としている。
【0027】
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記シミュレータ作動ピストンの作動でシミュレータ作動液圧が発生されるシミュレータ作動液圧室を有し、前記反力シミュレータ部材が、前記シミュレータ作動液圧室の前記シミュレータ作動液圧が作用されて作動する反力シミュレータピストンと、前記反力シミュレータピストンにより押圧されて撓んで反力を発生する反力シミュレータスプリングとを有することを特徴としている。
【0028】
更に、本発明に係るマスタシリンダは、入力軸の入力に基づいた反力を出力するストロークシミュレータと前記入力軸の入力に基づいた液圧を発生するマスタシリンダピストンとを有するマスタシリンダにおいて、前記ストロークシミュレータが、前述の本発明のストロークシミュレータのいずれか1つであることを特徴としている。
【0029】
更に、本発明に係るブレーキシステムは、ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルの踏み込みで作動して前記ブレーキペダルの踏み込みに基づいたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダで発生された前記ブレーキ液圧でブレーキ力を発生するブレーキシリンダとを備えるブレーキシステムにおいて、前記マスタシリンダが、前述のマスタシリンダであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0030】
このように構成された本発明に係るストロークシミュレータ、これを有するマスタシリンダ、およびブレーキシステムによれば、入力軸が作動開始する作動開始荷重を低減する作動開始荷重低減部が設けられる。これにより、この作動開始荷重低減部によりストロークシミュレータの作動開始荷重を、従来のストロークシミュレータの作動開始荷重より低減することができる。したがって、ストロークシミュレータによるストロークシミュレーション機能の作動開始をスムーズに行うことが可能となる。
【0031】
また、作動開始荷重低減部の弾性部材の弾性係数あるいは初期設定荷重を、それぞれシミュレータ作動ピストンリターンスプリングの弾性係数あるいは初期設定荷重より小さい範囲内で任意に設定することができる。これにより、ストロークシミュレータの作動開始荷重を任意に設定することが可能となる。特に、作動開始荷重低減部の弾性部材の初期設定荷重を0にする(つまり、ストロークの非作動時に弾性部材を自由長に設定する)ことで、ストロークシミュレータを初期設定荷重の0点から作動開始することが可能となる。
【0032】
更に、ストロークシミュレーション機能の作動開始をスムーズに行うことができるストロークシミュレータを有するマスタシリンダをブレーキシステムに用いることで、車両のブレーキ操作を良好なフィーリングで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の一例を有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムを模式的に示す図である。
【図2】図1におけるII部の部分拡大図である。
【図3】(a)は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の他の例を示す部分拡大図、(b)は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の更に他の例を示す部分拡大図である。
【図4】特許文献1に記載されている従来のペダル感覚シミュレータ部を有するマスタシリンダを模式的に示す図である。
【図5】(a)は図4に示すペダル感覚シミュレータ部のペダル感覚特性線図、(b)は(a)におけるVB部の部分拡大図、(c)は図1および図2に示す例のストロークシミュレータのストロークに対する反力の特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の一例を有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムを模式的に示す図である。また、図2は図1におけるII部の部分拡大図である。なお、前述の図4に示すストロークシミュレータを有するマスタシリンダの構成要素と同じ本発明の構成要素には、同じ符号を付すことでそれらの詳細な説明は省略する。
【0035】
図1および図2に示すように、この例のブレーキシステム22にはマスタシリンダ1が用いられる。このマスタシリンダ1のタンデムマスタシリンダ部2では、プライマリ液圧室9が一方の系統のブレーキシリンダ23,24に連通しているとともに、セカンダリ液
圧室10が他方の系統のブレーキシリンダ25,26に連通している。
また、入力軸4にはブレーキペダル27が連結されている。運転者がブレーキペダル27を踏み込むことで、入力軸4が前進するようになっている。
【0036】
更に、マスタシリンダ1のストロークシミュレータであるペダル感覚シミュレータ部3は、入力軸4が作動開始する作動開始する作動開始荷重を低減する立ち上がり荷重低減部28(本発明の作動開始荷重低減部に相当)を有する。この例の立ち上がり荷重低減部28は弾性部材のコイルスプリングである立ち上がり荷重低減スプリング29を有し、この立ち上がり荷重低減スプリング29は入力軸4とシミュレータ作動ピストン14との間に配設される。この立ち上がり荷重低減スプリング29の弾性係数は、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の弾性係数より小さく設定されている。したがって、入力軸4により立ち上がり荷重低減スプリング29が押圧されると、立ち上がり荷重低減スプリング29は、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16が弾性的に撓んでシミュレータ作動ピストン14が前方へ移動開始する前に弾性的に撓み開始する。そして、立ち上がり荷重低減スプリング29がボトミングする(つまり、立ち上がり荷重低減スプリング29が最大限に撓んで、立ち上がり荷重低減スプリング29の撓みが終了する)と、実質的にシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16が弾性的に撓んでシミュレータ作動ピストン14が前方へ移動開始するようになっている。
【0037】
このようにシミュレータ作動ピストン14が前方へ移動開始する前に、立ち上がり荷重低減スプリング29が撓み開始することで、ペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重(作動開始荷重)が、図4に示す従来のペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重(作動開始荷重)より低減する。
【0038】
これをペダル感覚シミュレータ部3のペダル感覚特性線図(ブレーキペダル27のストロークに対する反力の特性線図)で説明する。図5(c)に示すように、最初にシミュレ
ータ作動ピストンリターンスプリング16の弾性係数より小さい弾性係数の立ち上がり荷重低減スプリング29が弾性的に撓むことで、ペダル感覚シミュレータ部3が立ち上がる。立ち上がり荷重低減スプリング29が撓み開始する力は、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16が撓み開始する力F1より小さいF3である(F1>F3)。すなわち、この例のペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重はF3となり、従来のペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重より小さい。
【0039】
なお、図4(c)に示すようにこの例のペダル感覚シミュレータ部3では、立ち上がり荷重低減スプリング29のボトミング位置αは、第1および第2反力シミュレータスプリング19,21がともに実質的に撓む前に設定されている。また、立ち上がり荷重低減ス
プリング29のボトミング位置αが、第1および第2反力シミュレータスプリング19,
21がともに実質的に撓んだ後に設定される場合(第1および第2反力シミュレータスプリング19,21の作動開始荷重F4は、図5(d)に示す特性線図となる。
【0040】
図1に示すように、更にこの例のブレーキシステム22は、動力源30、電磁切換弁31、および制御部(ECU)32を備えている。動力源30は作動液を動力室13に供給する。電磁切換弁31は動力室13をリザーバ6および動力源30のいずれか一方に選択的に切り換え連通させる。その場合、ブレーキペダル27が踏み込まれないブレーキシステム22の非作動時は、電磁切換弁31は作動しなく、動力室13を動力源30から遮断しリザーバ6に連通する。また、ブレーキペダル27が踏み込まれたブレーキシステム22の作動時は、電磁切換弁31は作動し、動力室13をリザーバ6から遮断して動力源30に連通する。
【0041】
制御部(ECU)32は、ブレーキペダル27の踏み込み時、ストロークセンサ5からの入力軸4のストロークの検出信号により、動力源30を駆動するとともに電磁切換弁31を切換作動する。これにより、動力室13がリザーバ6から遮断され、動力源30から作動液が動力室13に供給される。その場合、制御部(ECU)32は、入力軸4のストローク(つまり、ブレーキペダル27の踏み込み量)に基づいて、前述と同様に摩擦ブレーキによるブレーキ力に応じた液圧を演算するとともに、動力室13の液圧が演算された液圧に制御される。動力室13の液圧により、プライマリピストン7が作動してプライマリ液圧室9にブレーキペダル27の踏み込み量に基づいたブレーキ液圧が発生されるとともに、セカンダリピストン8が作動してセカンダリ液圧室10にブレーキペダル27の踏み込み量に基づいたブレーキ液圧が発生される。これらのブレーキ液圧がそれぞれ対応するブレーキシリンダ23,24,25,26に供給され、車輪33,34,35,36にブレーキがかけられる。
【0042】
また、制御部(ECU)32は、ブレーキペダル27の解放時、ストロークセンサ5からの入力軸4のストロークの検出信号により、動力源30を停止するとともに電磁切換弁31を切換作動する。これにより、動力室13が動力源30から遮断され、かつリザーバ6に連通され、動力室13内の作動液がリザーバ6に排出される。すると、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がいずれも図1に示す非作動位置となり、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10がともにリザーバ6に連通し、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内の液圧が大気圧となる。したがって、車輪33,34,35,36のブレーキが解除される。
【0043】
この例のマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3の他の構成および他の作用効果は、前述の図4に示すマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3(つまり、特許文献1に記載のペダル感覚シミュレータを有するマスタシリンダ)と同じである。また、タンデムマスタシリンダ部2よりブレーキシリンダ23,24,25,26までの
ブレーキシステムの他の構成および他の作用効果は、従来周知の一般的なタンデムマスタ
シリンダよりブレーキシリンダまでのブレーキシステムと同じである。
【0044】
この例のペダル感覚シミュレータ部3、これを有するマスタシリンダ1、およびブレーキシステム22によれば、立ち上がり荷重低減スプリング29を有する立ち上がり荷重低減部28が設けられる。これにより、この立ち上がり荷重低減部28により、ペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重を、図4に示す従来のペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重より低減することができる。したがって、ペダル感覚シミュレータ部3によるペダル感覚シミュレーション機能の立ち上がりをスムーズに行うことが可能となる。
【0045】
また、立ち上がり荷重低減スプリング29の弾性係数あるいは初期設定荷重を、それぞれシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の弾性係数あるいは初期設定荷重より小さい範囲内で任意に設定することができる。これにより、ペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重を任意に設定することが可能となる。特に、立ち上がり荷重低減スプリング29の初期設定荷重を0にする(つまり、ペダル感覚シミュレータ部3の非作動時に立ち上がり荷重低減スプリング29を自由長に設定する)ことで、ペダル感覚シミュレータ部3を立ち上がり荷重の0点から立ち上げることが可能となる。
【0046】
更に、ストロークシミュレーション機能の立ち上がりをスムーズに行うことができるペダル感覚シミュレータ部3を有するマスタシリンダ1をブレーキシステム22に用いることで、車両のブレーキ操作を良好なフィーリングで行うことができる。
【0047】
図3(a)は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の他の例を示す部分拡大図、図3(b)は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の更に他の例を示す部分拡大図である。
【0048】
図1および図2に示す例では、ペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重低減部28が立ち上がり荷重低減スプリング29を有するが、図3(a)に示すように、この例のストロークシミュレータであるペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重低減部28は、スプリングに代えて硬度の比較的低いゴム板37を有する。その場合、ゴム板37は入力軸4とシミュレータ作動ピストン14との間に位置して入力軸4に取り付けられる。このゴム板37は弾性部材であり、その弾性係数はシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の弾性係数より小さい。また、シミュレータ作動ピストン14には突起14aがゴム板37に対向して設けられる。そして、入力軸4の前方移動時に、シミュレータ作動ピストン14が移動する前にゴム板37が突起14aに当接して弾性的に撓むようになっている。
【0049】
この例のマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3の他の構成および他の作用効果は、前述の図1および図2に示すマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3と同じである。また、タンデムマスタシリンダ部2よりブレーキシリンダ23,24,25,26までのブレーキシステムの他の構成および他の作用効果は、従来周知の一般的
なタンデムマスタシリンダよりブレーキシリンダまでのブレーキシステムと同じである。
【0050】
また図3(b)に示すように、この例のストロークシミュレータであるペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重低減部28は、スプリングに代えて弾性部材として機能する所定圧のガス38が入力軸4とシミュレータ作動ピストン14との間に密封されている。そして、入力軸4の前方移動時に、シミュレータ作動ピストン14が移動する前にガス38が弾性的に圧縮(圧縮変形)されるようになっている。
【0051】
この例のマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3の他の構成および他の作用効果は、前述の図1および図2に示すマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ
部3と同じである。また、タンデムマスタシリンダ部2よりブレーキシリンダ23,24,25,26までのブレーキシステムの他の構成および他の作用効果は、従来周知の一般的
なタンデムマスタシリンダよりブレーキシリンダまでのブレーキシステムと同じである。なお、ガスを弾性変形可能な袋状の容器に封入したガスカートリッジを形成し、このガスカートリッジを入力軸4とシミュレータ作動ピストン14との間に配設することもできる。
【0052】
なお、本発明は前述の各例に限定されることはなく、シミュレータ作動ピストン14が前方へ移動する前にペダル感覚シミュレータ部3の立ち上がり荷重低減部28が作動するものであれば、どのようなストロークシミュレータにも適用することができる。要は、本発明は特許請求の範囲に記載されて事項の範囲内で種々設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るストロークシミュレータ、マスタシリンダ、およびブレーキシステムは、それぞれ、ペダルの踏み込みに応じてシミュレートした反力を発生させるストロークシミュレータ、このストロークシミュレータを有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…マスタシリンダ、2…タンデムマスタシリンダ部、3…ペダル感覚シミュレータ部(ストロークシミュレータ)、4…入力軸、5…ストロークセンサ、6…リザーバタンク、7…プライマリピストン、8…セカンダリピストン、13…動力室、14…シミュレータ作動ピストン、15…シミュレータ作動液圧室、16…シミュレータ作動ピストンリターンスプリング、17…ペダル感覚シミュレータカートリッジ、18…第1反力シミュレータピストン、19…第1反力シミュレータスプリング、20…第2反力シミュレータピストン、21…第2反力シミュレータスプリング、22…ブレーキシステム、23,24,25,26…ブレーキシリンダ、27…ブレーキペダル、28…立ち上がり荷重低減部、2
9…立ち上がり荷重低減スプリング、30…動力源、31…電磁切換弁、32…制御部(ECU)、37…ゴム板、38…ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力が加えられて作動する入力軸と、
前記入力軸により作動されるシミュレータ作動ピストンと、
前記シミュレータ作動ピストンを非作動位置の方向に付勢するシミュレータ作動ピストンリターンスプリングと、
前記シミュレータ作動ピストンの作動により、前記入力軸の入力に基づいた反力を前記シミュレータ作動ピストンに出力する反力シミュレータ部材と、
前記入力軸が作動開始する作動開始荷重を低減する作動開始荷重低減部と
を有することを特徴とするストロークシミュレータ。
【請求項2】
前記作動開始荷重低減部は、前記入力軸と前記シミュレータ作動ピストンとの間に配設されることを特徴とする請求項1に記載のストロークシミュレータ。
【請求項3】
前記作動開始荷重低減部は、前記シミュレータ作動ピストンリターンスプリングの弾性係数より小さい弾性係数の弾性部材を有することを特徴とする請求項1または2に記載のストロークシミュレータ。
【請求項4】
前記弾性部材は、コイルスプリングからなる作動開始荷重低減スプリングであることを特徴とする請求項3に記載のストロークシミュレータ。
【請求項5】
前記弾性部材は、ゴム部材であることを特徴とする請求項3に記載のストロークシミュレータ。
【請求項6】
前記弾性部材は、前記入力軸と前記シミュレータ作動ピストンとの間に密封されたガスであることを特徴とする請求項3に記載のストロークシミュレータ。
【請求項7】
前記シミュレータ作動ピストンの作動でシミュレータ作動液圧が発生されるシミュレータ作動液圧室を有し、
前記反力シミュレータ部材は、前記シミュレータ作動液圧室の前記シミュレータ作動液圧が作用されて作動する反力シミュレータピストンと、前記反力シミュレータピストンにより押圧されて撓んで反力を発生する反力シミュレータスプリングとを有する、
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のストロークシミュレータ。
【請求項8】
入力軸の入力に基づいた反力を出力するストロークシミュレータと前記入力軸の入力に基づいた液圧を発生するマスタシリンダピストンとを有するマスタシリンダにおいて、
前記ストロークシミュレータは、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のストロークシミュレータであることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項9】
ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルの踏み込みで作動して前記ブレーキペダルの踏み込みに基づいたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダで発生された前記ブレーキ液圧でブレーキ力を発生するブレーキシリンダとを備えるブレーキシステムにおいて、
前記マスタシリンダは、請求項8に記載のマスタシリンダであることを特徴とするブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−240451(P2012−240451A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109507(P2011−109507)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】