説明

スパイラル鋼管の製造方法

【課題】スパイラル状に曲げ加工された板の端部の突合せ部に形成されやすいギャップの発生を抑制し、成形精度に優れたスパイラル鋼管を安定的に低コストで製造する。
【解決手段】アンコイラから送出された鋼帯を、外面入側ロール、内面成形ロール及び外面出側ロールの三本の成形ロールからなる成形スタンドを通過させることにより該鋼帯を湾曲させ、その後、該鋼帯の板端当接部を溶接することによりスパイラル状の鋼管を製造する方法であって、前記外面入側ロール1a、内面成形ロール1b及び外面出側ロール1cの全ての軸を垂直方向とし、前記のアンコイラから送出された鋼帯を、前記成形スタンドを経由して垂直上方向に引き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯鋼を螺旋状に捲回してパイプ状に造管したのち、その接合部を溶接してスパイラル鋼管を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スパイラル鋼管の製造工程では、例えば図1に示すように、アンコイラから送出された鋼帯Sを、三本の成形ロール1a、1b、1cを備えた成形機に傾斜させて送り込み、所要径のスパイラル状に曲げ加工した後、図示しない溶接機により、板端当接部に順次溶接を施している(例えば特許文献1参照)。
このようなスパイラル鋼管の製造技術は、(1)素材寸法の制約を受けることがない、(2)厚板大径管の製造が可能、(3)サイズ毎にロールを変更する必要がない、(4)装置そのものを小型化できる、(5)多品種少量生産に適する、といった利点を有するため、多用されている。
【特許文献1】特開平9−192730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1で紹介したような従来のスパイラル鋼管の製造技術は、成形用のロールを水平に配置した装置を使用している。すなわち、水平に設置されたアンコイラから鋼帯を送り出し、三本の成形ロールが水平に設置された成形機に傾斜させて送り込んで所要径のスパイラル状に曲げ加工した後、成形機の横位置に配置された溶接機により、板端の当接部に順次溶接を施している。
【0004】
しかしながら、従来の水平方式では以下のような問題を有している。
(1)鋼帯を三本の成形ロールを備えた成形機に傾斜させて送り込み、所要径のスパイラル状に曲げ加工された後、鋼帯の板端が当接した直後に溶接を施しても、パイプが水平方向に排出されるため、排出された鋼管の自重により溶接前の板端当接部にギャップが発生・拡大し、溶接不良を引き起こすという問題がある(図2参照)。
【0005】
(2)また、鋼帯を三本の成形ロールを備えた成形機に傾斜させて送り込むことで鋼管が排出方向へ押し出されるが、排出された鋼管の自重により板端当接部のギャップが発生・拡大すると共に、鋼管の中心軸が変動するため鋼管が直進的に排出されず、鋼管素材のスパイラル成形が不安定となる問題がある。
【0006】
(3)さらに、板端当接部の溶接において、排出鋼管の中心軸変動の影響を少なくするために溶接トーチの設置位置は、拘束力の大きい三本成形ロールの直近(例えば、図3、図7に示すように入側ロール1aと出側ロール1cとの間)、で行わざるを得ず、溶接トーチの設置可能な領域が狭いという問題もある。
【0007】
(4)これら(1)〜(3)の問題は排出された鋼管の自重により生じるものであり、これらの問題は、図3、図4に示すように、スパイラル鋼管の製造装置の出側に切断する鋼管長と同程度の鋼管支持台3を設置することである程度改善できる。
しかしながら、装置全体が水平方向に大型化し、広い設置スペースが必要となること、また、排出鋼管の自重による影響を無くすためには、鋼管支持台の鋼管受けローラのレベル調整が必要であり、その調整に時間を要すること、様々な径の鋼管に対応することが困難であることなどの問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題を解消するために案出されたものであり、スパイラル状に曲げ加工された板の端部の突合せ部に形成されやすいギャップの発生を抑制し、成形精度に優れたスパイラル鋼管を安定的に低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスパイラル鋼管の製造方法は、その目的を達成するため、アンコイラから送出された鋼帯を、外面入側ロール、内面成形ロール及び外面出側ロールの三本の成形ロールからなる成形スタンドを通過させることにより該鋼帯を湾曲させ、その後、該鋼帯の板端当接部を溶接することによりスパイラル状の鋼管を製造する方法であって、前記外面入側ロール、内面成形ロール及び外面出側ロールの全ての軸を垂直方向とし、前記のアンコイラから送出された鋼帯を、前記成形スタンドを経由して垂直上方向に引き出すことを特徴とする。
軸を垂直方向とした外径拘束ロールを付設し、該外径拘束ロールに沿ってスパイラル状に成形された鋼帯を引き出すことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形スタンドを通過されてスパイラル状に曲げ加工されたパイプ素材は垂直上方向に排出されることになる。したがって、パイプの自重を下向きに利用することになり、突合せ部にギャップを発生・拡大させることがなく、溶接不良を発生させることがない。ギャップの拡大が抑制できるため、溶接位置を任意に設定することができる。しかも、鋼管支持台を設ける必要がなくなるので、装置全体が簡素化され、結果的に低コストで寸法精度の良いスパイラル鋼管を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
そもそも、スパイラル造管法は溶接線が長くなるためにロールフォーミング法に比べ生産効率が低いという欠点を有するが、基本的な成形が3点曲げであるということから、ロールフォーミング法では製造が困難とされるような、主に小ロットの厚肉大径管(φ500〜2500mm、6.0〜30.0t程度)の製造方法として位置付けられている。このようにスパイラル造管法は主に大径厚肉管専用の造管機として開発されてきたため、従来は、成形された鋼管を垂直上方向に排出するという発想はなく、既存の設備は水平方向に排出する水平方式に限られていた。
【0012】
しかし、水平方式には前述したような種々の問題、特にスパイラル状に曲げ加工された鋼帯の突合せ部において、成形された鋼管の自重により溶接前にギャップが形成・拡大されるという問題があり、こうした問題を解消するため鋼管を垂直上方向に排出させる垂直方式による造管方法を発案した。
すなわち、鋼帯の突合せ部においてギャップの形成・拡大をもたらすパイプの排出方向を変更してパイプを垂直上方向に排出すべく、造管方式を垂直方式に変更することとしたものである。
【0013】
以下、図面に基づいてその詳細を説明する。
図5は、本発明の垂直方式のスパイラル鋼管の製造方法に使用する装置を図示したものである。図5に示すように、成形スタンド1を構成する外面入側ロール1a、内面成形ロール1b及び外面出側ロール1cの三本の成形ロールは、いずれもその軸が垂直方向になるように配置した。また、図6に示すように、外面入側ロール1a及び外面出側ロール1cの延長線上にこれらと同軸の外側拘束ロール2a、2bを配置し、さらに、パイプ素材の反対側を拘束する外側拘束ロール2c、2dをその軸を垂直方向にして配置した。
なお、図6中、4は内面成形ロール支持アームである。
【0014】
図5に示すように、アンコイラから送出された鋼帯を、斜め下方向から三本の成形ロール1a、1b及び1cからなる成形スタンドに挿入する。成形スタンドを通過させることにより三本の成形ロールにより鋼帯を湾曲させてパイプ素材を成形した。成形されたパイプ素材を、図5、6に示すように、外側拘束ロール2a〜2dに拘束されながら垂直上方向に排出した。パイプ素材の排出経路に横向きに配置した溶接トーチにより鋼帯の板端当接部を溶接してスパイラル鋼管を製造した。
【0015】
本発明の垂直方式のスパイラル鋼管の製造方法により製造する鋼管の長さは、概ね3m以下であることが望ましい。また造管された鋼管の切断方法としては、鋼管を排出しながら排出速度に同調して切断してもよいが、造管を一旦停止してから切断する方法が適切である。
板厚にもよるが、3mを超えるほどに長い鋼管を造管してしまうと下向きの自重が大きくなりすぎることで、突合せが重なってしまうおそれがある。
【0016】
本発明によれば、垂直上方向へと鋼管を排出するため、鋼管の下向き自重を利用することで素材板端当接部のギャップの発生・拡大を確実に防止することができる。
また、従来の水平方式で問題となっていた排出鋼管の自重が生じないことより、排出鋼管の中心軸の変動を抑制でき、鋼管排出方向に沿って直進的に排出されるため、スパイラル鋼管の成形性が安定する。さらに、板端当接部の溶接においても、排出鋼管の中心軸の変動が小さいため、溶接トーチの設置位置は、拘束力の大きい三本の成形ロールからなる成形スタンドの直近に限定されることなく、溶接トーチの設置可能な領域が広がる。
【0017】
ところで、スパイラル鋼管の製造においては、図7に示すように、成形スタンドを構成する三本の成形ロール1a、1b及び1cでの加工変形量が最も大きいため、内側成形ロール1bの曲率に沿って鋼帯が変形してしまい、鋼帯の板端の突合わせが困難となる傾向にある。この現象は、鋼帯が薄肉になるほど顕著である。そして、従来の水平方式における溶接位置は、その成形スタンド直近であった。
しかし、本発明の垂直方式では、三本の成形ロール1a、1b及び1cからなる成形スタンド位置以降の鋼帯形状が安定する領域にて溶接が行えるため、ギャップの発生・拡大の防止効果も相まってより安定した溶接が行えることになる。
さらに、従来の水平方式においては必要であった、鋼管支持台が不要となるため、装置が小型化でき、狭いスペースにも設置が可能となる。
【実施例】
【0018】
図5、6に示す装置を用いて、外径104mm×長さ2000mmの製品サイズのスパイラル鋼管を製造した。素材となる鋼帯には板幅161.8mm×板厚1.0mmのフェライト系ステンレス鋼帯を用いた。
図1で示す鋼帯の送込み角度θ1を30°として三本の成形ロールからなる成形スタンドに挿入し、通過させてパイプ素材を成形した。溶接トーチは三本の成形ロール出側の突合せ状態が安定した位置に設置し、突合せ部をTIG溶接にて接合した。造管されたスパイラル鋼管が所定の長さになるごとに装置を止め、2000mmの長さに切断して所望のスパイラル鋼管を製造した。
製造したスパイラル鋼管は、溶接不良もなく、直線性の良いものであった。
【0019】
三本の成形ロールを用いたスパイラル鋼管の製造方法において、垂直方式を採用したことにより、鋼帯の板端当接部におけるギャップの発生・拡大がなく、三本の成形ロールによる成形が終了してパイプ素材の形状が安定した位置で溶接が行えるため、溶接性が良好で、しかも直線性の良いスパイラル鋼管を製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】三本の成形ロールを用いてスパイラル鋼管を製造する形態を説明する図
【図2】従来の水平方式のスパイラル鋼管製造方法にてギャップ発生の態様を説明する図
【図3】従来の水平方式のスパイラル鋼管製造方法を説明する図
【図4】従来の水平方式の装置における各部材の設置状況を説明する図
【図5】本発明の垂直方式のスパイラル鋼管製造方法を説明する図
【図6】本発明の垂直方式の装置における各部材の設置状況を説明する図
【図7】三本の成形ロールを用いて鋼帯を変形させる際の鋼帯の変形状態を説明する図
【符号の説明】
【0021】
1a:外面入側ロール 1b:内面成形ロール 1c:外面出側ロール
2a,2b,2c,2d:外径拘束ロール 3:鋼管支持台
4:内面成形ロール支持アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンコイラから送出された鋼帯を、外面入側ロール、内面成形ロール及び外面出側ロールの三本の成形ロールからなる成形スタンドを通過させることにより該鋼帯を湾曲させ、その後、該鋼帯の板端当接部を溶接することによりスパイラル状の鋼管を製造する方法であって、前記外面入側ロール、内面成形ロール及び外面出側ロールの全ての軸を垂直方向とし、前記のアンコイラから送出された鋼帯を、前記成形スタンドを経由して垂直上方向に引き出すことを特徴とするスパイラル鋼管の製造方法。
【請求項2】
軸を垂直方向とした外径拘束ロールを付設し、該外径拘束ロールに沿ってスパイラル状に成形された鋼帯を引き出す請求項1に記載のスパイラル鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−226464(P2009−226464A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77012(P2008−77012)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】