説明

スパッタリングターゲットの製造方法

【課題】ターゲット材の位置合わせ工程及び接合工程を行うことなくスパッタリングターゲットを製造する。
【解決手段】圧延ローラ4A,4B間において圧延処理することによって導電体からなる板状体21の少なくとも一方の面に透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末2を圧着させる圧着工程と、上記板状体に圧着された上記粉末2を焼結させる焼結工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットの製造方法に関し、特に透明酸化物導電体をターゲット材として備えるスパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置等の電子機器やフィルムアンテナにおいては、広い表示領域や視界を確保するために、透明酸化物導電体からなる電極やアンテナが用いられている。
このような透明酸化物導電体からなる電極やアンテナは、スパッタリング装置によって対象物に透明酸化物導電体がパターニングされて付着されることによって形成されている。
このスパッタリング装置においては、電極として用いられるバッキングプレートと、該バッキングプレート上にボンディングされるターゲット材とからなるスパッタリングターゲットを用いている。そして、該スパッタリングターゲットから放出されるターゲット材が対象物に付着されることによって、電極やアンテナが形成される。
【0003】
ところで、上述のスパッタリングターゲットは、全体として透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末をプレス加工によって成型すると共に焼結させることによって焼結体(ターゲット材)を形成し、この焼結体をバッキングプレート上にボンディングすることによって製造されている。
【特許文献1】特開2007−31786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のスパッタリングターゲットの製造方法においては、プレス機械を用いて成型したターゲット材をバッキングプレート上にボンディングするため、ターゲット材の位置合わせ工程及び接合工程を必要とし、製造工程が煩雑化するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、ターゲット材の位置合わせ工程及び接合工程を行うことなくスパッタリングターゲットを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、圧延ローラ間において圧延処理することによって導電体からなる板状体の少なくとも一方の面に透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末を圧着させる圧着工程と、上記板状体に圧着された上記粉末を焼結させる焼結工程とを有することを特徴とする。
【0007】
このような特徴を有する本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、圧着工程によって板状体の少なくとも一方の面に、透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末が圧着され、焼結工程において透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末が焼結される。
【0008】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、上記焼結工程は、上記粉末が圧着された板状体ごと上記粉末を焼結温度に加熱する加熱炉にて行われるという構成を採用する。
【0009】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、上記焼結工程は、上記圧延ローラ間において上記粉末を焼結温度に加熱することによって上記圧着工程と同時に行われるという構成を採用する。
【0010】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、上記板状体は、銅からなるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧着工程によって板状体の少なくとも一方の面に透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末が圧着され、焼結工程において当該粉末が焼結される。そして、これらの工程によって、導電体からなる板状体(バッキングプレート)に焼結体である透明酸化物導電体(ターゲット材)が形成されたスパッタリングターゲットを製造することができる。
したがって、本発明によれば、ターゲット材の位置合わせ工程及び接合工程を行うことなくスパッタリングターゲットを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0013】
図1は、スパッタリングターゲット1の全体構成を示す斜視図である。
この図に示すように、スパッタリングターゲット1は、銅の金属板からなるバッキングプレート21と、該バッキングプレート21の一方の面に固着されると共に透明酸化物導電体からなるターゲット材22とから構成されている。
なお、ターゲット材を構成する透明酸化物導電体としては、例えば、酸化インジウム錫や酸化インジウム亜鉛等が挙げられる。
【0014】
図2は、スパッタリングターゲット1の製造装置Dの概略構成図である。
製造装置Dは、ターゲット材粉末2を貯蓄するホッパ3Aと、ホッパ3Aからターゲット材粉末2を後述する圧延ローラ4Aの周面に供給するベルトフィーダ5Aと、供給されたターゲット材粉末2とバッキングプレート21とを圧延する圧延ローラ4A、4Bと、圧延加工されたターゲット材粉末2とバッキングプレート21とを加熱処理する加熱炉6と、加熱処理の後に形成されるスパッタリングターゲット1を巻き取る回収ローラ8とを有する。
【0015】
ホッパ3Aは、ターゲット材粉末2を貯蓄する中空構造を有し、ベルトフィーダ5Aを介して圧延ローラ4Aの周面にターゲット材粉末2を供給する構成となっている。
【0016】
ベルトフィーダ5Aは、ターゲット材粉末2を搬送し、圧延ローラ4A上から下方にターゲット材粉末2を落下させることによって、圧延ローラ4Aの周面にターゲット材粉末2を供給する構成となっている。
【0017】
圧延ローラ4A、4Bは、ベルトフィーダ5Aの下方に一対となって設けられる。また、圧延ローラ4A、4Bは、互いの周面が所定の間隔で平行対峙するように配置される。そして、圧延ローラ4A、4Bは、不図示の回転駆動機構により回転駆動することによって、圧延ローラ4A、4Bの間に挿入される部材を圧延する構成となっている。
【0018】
加熱炉6は、圧延ローラ4A、4Bの下方に設置される。そして、加熱炉6は、圧延ローラ4A,4Bにより圧延され、送出されたターゲット材粉末2及びバッキングプレート21を加熱炉6内へプーリ9を介して挿入することによって加熱処理する構成となっている。
【0019】
回収ローラ8は、不図示の回転駆動機構により回転駆動可能に担持される。そして、回収ローラ8は、加熱炉6による加熱処理の工程を経て得たスパッタリングターゲット1を巻き取る構成となっている。
【0020】
なお、ターゲット材粉末2としては、透明酸化物導電体そのものからなる粉末、あるいは、加熱処理後に透明酸化物導電体となる混合粉末(純金属粉末や金属合金粉末等を含む粉末)のいずれかを用いることができる。
すなわち、本発明における透明酸化物導電体の形成材料とは、透明酸化物導電体の成分比率を有する材料、あるいは、酸化される(加熱される)ことによって透明酸化物導電体となる材料のいずれかを用いることができる。
【0021】
続いて、製造装置Dの動作(スパッタリングターゲットの製造方法)について説明する。
製造装置Dは、ホッパ3Aに貯蓄されたターゲット材粉末2をベルトフィーダ5Aに供給し、当該ベルトフィーダ5Aを介してターゲット材粉末2を圧延ローラ4Aの周面に連続的に供給する。
圧延ローラ4Aの周面に供給されたターゲット材粉末2は、圧延ローラ4A,4Bの回転駆動によって、圧延ローラ4A,4Bの間に上方から下方へ挿通されて搬送されるシート状のバッキングプレート21と圧着される(圧着工程)。当該圧延によって、ターゲット材粉末2は、バッキングプレート21の一方の面に固着されることとなる。
ターゲット材粉末2が固着したバッキングプレート21は、圧延ローラ4A,4Bの下方に位置する加熱炉6にプーリ9を介して挿入され、ターゲット材粉末2の融点以下の温度まで加熱される(焼結工程)。この結果、ターゲット材粉末2が焼結して層となり、バッキングプレート21の表面にしっかりと固着されることによって、ターゲット材22が形成される。
上記工程により製造された、バッキングプレート21及びターゲット材22からなるスパッタリングターゲット1は、回収ローラ8の回転駆動により巻き取られることによって回収されることとなる。そして、このようなスパッタリングターゲット1は、適したサイズに加工されてからスパッタリング装置にて用いられる。
なお、加熱炉6によって焼成されたスパッタリングターゲット1は、必要に応じて冷却されてから回収ローラ8によって回収されても良い。
【0022】
以上のような本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、圧着工程によって板状体の少なくとも一方の面に透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末が圧着され、焼結工程において透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末が焼結される。そして、これらの工程によって、バッキングプレート21にターゲット材22が形成されたスパッタリングターゲット1を製造することができる。
したがって、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、ターゲット材の位置合わせ工程及び接合工程を行うことなくスパッタリングターゲットを製造することが可能となる。
【0023】
また、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法においては、焼結工程が、バッキングプレート21ごとターゲット材粉末2を焼結温度に加熱する加熱炉6にて行われる。
このため、加熱炉6の長さを設定することによって、任意の時間、加熱処理を行うことができる。つまり、十分な時間をかけて加熱処理を行うことが可能となる。
【0024】
また、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法においては、バッキングプレート21が銅からなるという構成について説明した。
このような構成を採用することによって、スパッタリングターゲットをスパッタリング装置において、好適に電極として用いることができる。
【0025】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0026】
例えば、上記実施形態においては、圧延ローラ4A,4B間においてバッキングプレート21に対してターゲット材粉末2を圧着させ、その後、加熱炉6にて加熱することによってターゲット材粉末2を焼結させてターゲット材22を形成した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、圧延ローラ4A,4B間において、ターゲット材粉末2を焼結温度まで加熱し、これによってターゲット材粉末2を焼結させてターゲット材22を形成しても良い。すなわち、ターゲット材粉末2の圧着工程と同時に焼結工程を行っても良い。
なお、具体的には、圧延ローラ4A,4B自体を加温し、圧延ローラ4A,4Bの熱によってターゲット材粉末2を焼結温度まで加熱することでターゲット材粉末2の圧着工程と同時に焼結工程を行うことができる。このような場合には、圧延ローラ4A,4B間において素早く焼結を完了させる必要があるものの、圧着工程と焼結工程とが同時に行われるため、スパッタリングターゲット1の製造工程を簡略化し、短時間にてスパッタリングターゲット1を製造することが可能となる。
【0027】
また、上記実施形態においては、バッキングプレート21が銅からなる構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものでなく、バッキングプレート21が他の金属材料からなる構成を採用しても良い。なお、バッキングプレート21を構成する金属材料としては、導電性の高い金属材料が好適に選択される。
【0028】
また、上記実施形態においては、バッキングプレート21の一方側の面のみにターゲット材22が形成されたスパッタリングターゲット1の製造方法についてのみ説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、バッキングプレート21の両側面にターゲット材22が形成されたスパッタリングターゲットを製造する方法に適用することも可能である。
このような場合には、ターゲット材粉末2をバッキングプレート21の一方側のみに供給するのではなく、ターゲット材粉末2をバッキングプレート21の他方側にも供給すれば良い。具体的には、ホッパ3Aと、ベルトフィーダ5Aとをバッキングプレート21の反対側にも設置すれば良い。
【0029】
また、上記実施形態においては、透明酸化物導電体として、酸化インジウム錫及び酸化インジウム亜鉛を挙げて説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン等を透明酸化物導電体として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法にて製造されたスパッタリングターゲットの斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法を行う製造装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1……スパッタリングターゲット、2……ターゲット材粉末(粉末)、21……バッキングプレート、22……ターゲット材、4A,4B……圧延ローラ、6……加熱炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延ローラ間において圧延処理することによって導電体からなる板状体の少なくとも一方の面に透明酸化物導電体の形成材料からなる粉末を圧着させる圧着工程と、
前記板状体に圧着された前記粉末を焼結させる焼結工程と
を有することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程は、前記粉末が圧着された板状体ごと焼結温度に加熱する加熱炉にて行われることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記焼結工程は、前記圧延ローラ間において前記粉末を焼結温度に加熱することによって前記圧着工程と同時に行われることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記板状体は、銅からなることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−91620(P2009−91620A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263281(P2007−263281)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】