説明

スパッタリングターゲット及びマグネトロンスパッタリング装置

【課題】磁束透過率が低く漏れ磁束が小さいターゲットの漏れ磁束を増加させて肉厚のターゲットの使用を可能にし、生産性の向上を図ることができるスパッタリングターゲット及びマグネトロンスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】スパッタされてエロージョンが発生するスパッタ面5aと、スパッタ面5aの反対側に設けられた裏面部5bとを備え、裏面部5bは、マグネトロンスパッタリング装置1にスパッタリングターゲット5を配置した際に、マグネトロンスパッタリング装置1が備えるマグネット7a,7bの磁極と対向する磁極対向面51a,51bと、この磁極対向面51a,51bの周囲に設けられスパッタ面5a側にくぼんだ凹部53a〜53cとを有し、磁極対向面51a,51bと凹部53a〜53cとにより、磁極対向面51a,51bを先端とする磁極集中部52a,52bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の記録層等の製造に用いられるスパッタリングターゲット及びこのスパッタリングターゲットを利用したマグネトロンスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の記録層等を製造するためのスパッタリング法として、近年では、成膜速度の高速化等のために、ターゲットに磁界を印加するマグネトロンスパッタリング法が主流となってきている。このマグネトロンスパッタリング法では、ターゲットの裏側にマグネットを配置した状態で電圧を印加することにより、ターゲット表面に磁束が漏洩し、その漏洩磁束領域にプラズマが収束して集中的にスパッタリングされ、高速での成膜が可能になる(特許文献1参照)。
このマグネトロンスパッタリング装置においては、ターゲット上の磁場の強い箇所に放電が集中するため、エロージョン(スパッタリング現象によりターゲット構成元素がはじき飛ばされてターゲットが消耗する現象)が局部的に集中して進行する。
【0003】
このようなマグネトロンスパッタリング装置において、そのターゲットとして強磁性体を用いる場合においては、ターゲット表面に十分な磁束強度を得ることが難しい。このため、特許文献2に記載されるターゲットでは、ターゲット表面の内側磁極と外側磁極との間の位置に凹部を設け、この凹部近傍における磁気抵抗を大きくして、ターゲット表面に漏れ出る磁束を増加させるようにしている。また、その凹部をターゲット表面の磁束分布の大きくなる部位に設けて、磁界の強度分布を平滑化させており、これにより、ターゲット表面を均一に浸食させている。
しかし、このようなターゲットは、漏れ磁束を大きくするために凹部を大きくして磁束が通過する断面積を極力小さくする必要があるが、スパッタリングにより浸食されるターゲット表面に凹部が形成されているので、エロージョン領域となるスパッタリングに使用されるターゲット材が少なくなって効率的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−60867号公報
【特許文献2】実開昭61−168163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、磁束透過率が低く漏れ磁束が小さいターゲットの漏れ磁束を増加させて肉厚のターゲットの使用を可能にし、生産性の向上を図ることができるスパッタリングターゲット及びマグネトロンスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスパッタリングターゲットは、マグネトロンスパッタリング装置に用いられるスパッタリングターゲットであって、使用時にスパッタされてエロージョンが発生するスパッタ面と、前記スパッタ面の反対側に設けられた裏面部とを備え、前記裏面部は、前記マグネトロンスパッタリング装置に該スパッタリングターゲットを配置した際に、前記マグネトロンスパッタリング装置が備えるマグネットの磁極と対向する磁極対向面と、前記磁極対向面の周囲に設けられ前記スパッタ面側にくぼんだ凹部とを有し、前記磁極対向面と前記凹部とにより、前記磁極対向面を先端とする磁極集中部が形成されていることを特徴とする。
また、本発明のスパッタリングターゲットにおいて、前記凹部は、前記スパッタ面においてエロージョンの発生が想定されるエロージョン想定領域と対向する位置を避けて配置されていることを特徴とする。
【0007】
このスパッタリングターゲットにおいては、スパッタ面の裏面部に空所となる凹部が設けられており、この凹部は磁気抵抗が大きいので、磁力線は凹部よりも磁気抵抗の小さい磁束集中部に集中して通過する。この磁束集中部は周囲を凹部に囲まれているので、内部を通る磁束は面方向には広がらずに磁束集中部を通ってスパッタ面から外部に漏洩する。これにより、肉厚の強磁性ターゲットを用いた場合においても、スパッタ面から磁束を漏洩させることができる。
また、凹部はエロージョン想定領域を避けて設けられているため、浸食の影響を受けず、ターゲット材の利用効率を向上させることができる。したがって、ターゲットを肉厚に形成することが可能であり、使用寿命を長くし、ターゲットの交換頻度を少なくすることができて効率的である。
【0008】
また、本発明のマグネトロンスパッタリング装置は、前記ターゲットを用いたものとして構成される。
【0009】
また、本発明のマグネトロンスパッタリング装置において、前記磁極対向面は、該磁極対向面に対向するマグネットの磁極表面よりも小さく形成され、前記凹部が前記磁極表面の外縁よりも外側にはみ出して配置されているとよい。
凹部がマグネットの磁束表面の外縁よりも外側にはみ出して配置されているので、凹部を越えて凹部の外側に侵入する磁束の発生を防止し、磁束集中部に対する磁束の集中を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁束透過率が低く漏れ磁束が小さいターゲットの漏れ磁束を、凹部に囲まれる磁束集中部により増加させることができるので、肉厚のターゲットの使用を可能にして、生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のマグネトロンスパッタリング装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係るスパッタリングターゲットの第1実施形態の裏面図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【図4】本発明に係るスパッタリングターゲットの第2実施形態の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のマグネトロンスパッタリング装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示すマグネトロンスパッタリング装置1は、真空チャンバー2内に、その下部で処理基板3を載置状態に保持する架台4と、真空チャンバー2の上部でターゲット5を保持するターゲットホルダー6とが設けられており、これら処理基板3とターゲット5との表面が相互間隔をおいて上下に対向させられるようになっている。また、ターゲットホルダー6の内部には、ターゲット5の背面側に配置されるマグネット7a,7bが設けられている。図示例では、ターゲット5の中心に板状のマグネット7aのN極が配置されており、このN極を囲むように長穴の筒状に設けられたマグネット7bのS極が配置されている。ターゲットホルダー6は、真空チャンバー2の壁に絶縁状態で取り付けられており、ターゲット5に電圧を印加するための外部電源9に接続されている。また、真空チャンバー2には、Arガス等の不活性ガスを導入するガス導入口10と、排気及び真空引きの為のガス排出口11とが形成されている。
【0013】
そして、このスパッタリング装置1では、真空チャンバー2内を真空状態にしておき、外部電源9からターゲット5と処理基板3との間に電圧を印加して、真空チャンバー2内に不活性ガスを導入すると、ターゲット5の背面側に配置されたマグネット7a,7bからの磁界が二点鎖線で示す矢印のようにターゲット表面に漏洩することにより、放電プラズマがターゲット5の表面に高密度に収束し、そのプラズマ中で不活性ガスのイオンが加速されてターゲット5に入射し、これによりターゲット5表面から叩き出されたスパッタ原子が処理基板3に到達して、その表面に薄膜を形成する。
【0014】
このスパッタ装置1に用いられるターゲット5は、図1及び図2に示すように小判形の板状に形成されており、スパッタ面5aと反対側の裏面部5bに、マグネット7a,7bの磁極に対向する磁極対向面51a,51bと、この磁極対向面51a,51bを囲むように凹部53a〜53cとが設けられている。そして、この凹部53a〜53bに囲まれ磁極対向面51a,51bを先端に有する凸部が、磁極集中部52a,52bとされている。
【0015】
本実施形態では、磁極対向面51a,51bは、図1及び図3に示すように、対向するマグネット7a,7bの磁極表面71a,71bよりも小さく設けられている。図3においては、説明のためバッキングプレート6を不図示にしている。
また、凹部53aは、ターゲット5の中心に配置されるマグネット7aの磁極表面71aの外縁に沿って設けられており、凹部53aの外縁はマグネット7aの外縁よりも外側にはみ出して設けられている。また、凹部53b,53cも同様に、マグネット7bの磁極表面71bの外縁に沿って設けられており、凹部53b,53cの外縁はマグネット7bの外縁よりも外側にはみ出して設けられている。そして、凹部53a〜53cは、図1に示すように、エロージョン想定領域12を避けて配置されている。
【0016】
本実施形態のターゲットにおいては、図3の二点鎖線で示すように、凹部53aの外縁がマグネット7aの磁極表面71aの外縁と面一か、もしくは、磁極表面71aの外縁よりも外側に配置されることが好ましい。この面が磁極表面71aの外縁より外側にはみ出して凹部53aが設けられている方が、破線矢印のように凹部53aを越えて通過する磁束の発生を抑制することができ、より確実に磁束集中部52aに磁束を通過させることができる。この凹部53aの外縁は、磁極表面71aの外縁から遠い程、破線矢印の磁束発生を抑制することができるが、配置についてはエロージョン領域との関係で決めればよい。
【0017】
凹部53aに着目して説明したが、凹部53b,53cについても同様であり、凹部53b,53cの外縁が、磁極表面71bの外縁と面一か、もしくは、磁極表面71bの外縁より外側にはみ出して設けられているとよい。
また、凹部53a〜53cの深さは、この凹部53a〜53cが設けられる際に残る部分の肉厚が小さい方がターゲット5の面方向への磁束の広がりを防止できるので、漏れ磁束を増加させる効果が大きいが、ターゲット5全体の強度等によって適宜の深さに設定される。
そして、このように形成されたターゲット5は、裏面部5bにバッキングプレート6が一体に接合された構成とされて、スパッタリング装置1のターゲットホルダー8に取り付けられる。
【0018】
このように構成したターゲット5を備えたマグネトロンスパッタリング装置1においては、上述のように、ターゲット5における裏面部5bの磁極対向面51a,51bを囲むように凹部53a〜53cが設けられており、この凹部53a〜53cにおける磁気抵抗が大きくなっていることから、図1の二点鎖線の矢印で示すように、磁力線を凹部53a〜53cよりも磁気抵抗の小さい磁束集中部52a,52bに集中させて通過させることができる。
また、凹部52a〜52cはエロージョン想定領域12を避けた位置に設けられているので、成膜に伴う浸食の影響を受けない。これにより、肉厚の強磁性体であるターゲット5を用いた場合においても、スパッタ面5aの表面に磁束を漏洩させることができ、ターゲット材の利用効率を向上させることができる。
また、ターゲット5は肉厚に設けられているので使用寿命が長く、ターゲット5の交換頻度を少なくすることができて効率的である。
【0019】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、板状のマグネット7a及び長穴の筒状に設けられたマグネット7bと、小判形のターゲット5とが用いられているが、内側のマグネットを棒状に設け、外側のマグネットを円筒状に設けて、図4に示すように円板状のターゲット20を用いてもよい。
このターゲット20の場合も、内側のマグネットに対向する磁極対向面21aの周りを囲むリング状の凹部22aと、外側のマグネットに対向する磁極対向部21bを囲むリング状の凹部22b,22cとが形成される。
【符号の説明】
【0020】
1 マグネトロンスパッタリング装置
2 真空チャンバー
3 処理基板
4 架台
5,20 ターゲット
5a スパッタ面
5b 裏面部
21a,21b,51a,51b 磁極対向面
22a〜22c,52a〜52c 凹部
6 バッキングプレート
7a,7b マグネット
71a,71b 磁極表面
8 ターゲットホルダー
9 外部電源
10 ガス導入口
11 ガス排出口
12 エロージョン想定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロンスパッタリング装置に用いられるスパッタリングターゲットであって、使用時にスパッタされてエロージョンが発生するスパッタ面と、前記スパッタ面の反対側に設けられた裏面部とを備え、前記裏面部は、前記マグネトロンスパッタリング装置に該スパッタリングターゲットを配置した際に、前記マグネトロンスパッタリング装置が備えるマグネットの磁極と対向する磁極対向面と、前記磁極対向面の周囲に設けられ前記スパッタ面側にくぼんだ凹部とを有し、前記磁極対向面と前記凹部とにより、前記磁極対向面を先端とする磁極集中部が形成されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記凹部は、前記スパッタ面においてエロージョンの発生が想定されるエロージョン想定領域と対向する位置を避けて配置されていることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1又は2記載のスパッタリングターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項4】
前記磁極対向面は、該磁極対向面に対向するマグネットの磁極表面よりも小さく形成され、前記凹部が前記磁極表面の外縁よりも外側にはみ出して配置されていることを特徴とする請求項3記載のマグネトロンスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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