説明

スパッタリングターゲット焼結用粉末及びスパッタリングターゲット

【課題】パーティクルやノジュールを低減し、量産性を向上した硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】硫酸根量(SO)が0.05〜0.35wt%の硫化亜鉛粉とケイ酸化物のメジアン粒径を各Aμm、Bμmとし、ケイ酸化物の混合比をMmol%とし、0.1μm<A<10μm、0.5μm<B<15μm、15mol%≦Mの範囲で、1.4≦B/Aを満たし、かつ比表面積が各Cm/g、Dm/gであり、ケイ酸化物の混合比をMmol%とし、5m/g≦C≦40m/g、0.5m/g≦D≦15m/g、15mol%≦Mの範囲で、3.5≦C/Dを満たし、さらに粒径A換算比表面積をEm/gとしたとき15≦C/Eであり、粒径B換算比表面積をFm/gとしたときD/F≦5である硫化亜鉛粉とケイ酸化物粉を均一混合分散した粉体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングによって膜を形成する際に、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、且つ高密度で品質のばらつきが少なく量産性を向上させることのできる、硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲット焼結用粉末及びスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ヘッドを必要とせずに記録・再生ができる高密度記録光ディスク技術が開発され、急速に関心が高まっている。この光ディスクは再生専用型、追記型、書き換え型の3種類に分けられるが、特に追記型又は書き換え型で使用されている相変化方式が注目されている。この相変化型光ディスクを用いた記録・再生の原理を以下に簡単に説明する。
相変化光ディスクは、基板上の記録薄膜をレーザー光の照射によって加熱昇温させ、その記録薄膜の構造に結晶学的な相変化(アモルファス⇔結晶)を起こさせて情報の記録・再生を行うものであり、より具体的にはその相間の光学定数の変化に起因する反射率の変化を検出して情報の再生を行うものである。
【0003】
上記の相変化は1〜数μm程度の径に絞ったレーザー光の照射によって行なわれる。この場合、例えば1μmのレーザービームが10m/sの線速度で通過するとき、光ディスクのある点に光が照射される時間は100nsであり、この時間内で上記相変化と反射率の検出を行う必要がある。
また、上記結晶学的な相変化すなわちアモルファスと結晶との相変化を実現する上で、溶融と急冷が光ディスクの相変化記録層だけでなく周辺の誘電体保護層やアルミニウム合金の反射膜にも繰返し付与されることになる。
【0004】
このようなことから相変化光ディスクは、Ge−Sb−Te系等の記録薄膜層の両側を硫化亜鉛−ケイ酸化物(ZnS・SiO)系の高融点誘電体の保護層で挟み、さらにアルミニウム合金反射膜を設けた四層構造となっている。
このなかで反射層と保護層はアモルファス部と結晶部との吸収を増大させ反射率の差が大きい光学的機能が要求されるほか、記録薄膜の耐湿性や熱による変形の防止機能、さらには記録の際の熱的条件制御という機能が要求される(雑誌「光学」26巻1号頁9〜15参照)。
このように、高融点誘電体の保護層は昇温と冷却による熱の繰返しストレスに対して耐性をもち、さらにこれらの熱影響が反射膜や他の箇所に影響を及ぼさないようにし、かつそれ自体も薄く、低反射率でかつ変質しない強靭さが必要である。この意味において誘電体保護層は重要な役割を有する。
【0005】
上記誘電体保護層は、通常スパッタリング法によって形成されている。このスパッタリング法は正の電極と負の電極とからなるターゲットとを対向させ、不活性ガス雰囲気下でこれらの基板とターゲットの間に高電圧を印加して電場を発生させるものであり、この時電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)表面に衝突してターゲット構成原子を叩きだし、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものである。
【0006】
従来、上記保護層は可視光域での透過性や耐熱性等を要求されるため、ZnS−SiO等のセラミックスターゲットを用いてスパッタリングし、500〜2000Å程度の薄膜が形成されている。
これらの材料は、高周波スパッタリング(RF)装置、マグネトロンスパッタリング装置又はターゲット材に特殊な処理を施してDC(直流)スパッタリング装置を使用して成膜される。
【0007】
硫化亜鉛−ケイ酸化物(ZnS−SiO)ターゲットの結晶粒を微細化し、且つ高密度化することで、ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にすることが可能であり、パーティクルやノジュールを低減させ、さらにターゲットライフも長くなるという特徴を有する。その結果として光ディスクの生産性が向上することは知られている。
しかし、従来ZnS−SiOターゲットに使用されるSiOは、4N以上の高純度で平均粒径が0.1〜20μmのものが使用されており、通常800〜1200°Cの間で焼結して製造されているが、このような温度範囲ではSiO自体の変形等は発生せず、ZnSとの反応も起こらない。
【0008】
したがって、このようにして製造されたZnS−SiOターゲットはZnSとSiOの間に空隙を生じ易く、SiOを微細にするほどそれが顕著となり、ZnSの緻密化も阻害されるため、ターゲット密度が低下するという問題があった。
このため、従来高密度化するためにはホットプレス等による製造条件をより高温、高面圧にする必要があった。しかし、例えば、ホットプレス法で作製する場合、高温になるほど1工程に要する時間が長くなり、また高面圧にするほどグラファイト(製)型の強度を保つため、外周の肉厚を大きくし、荷重面積部分を小さくしなければならない。
この結果、ホットプレスのバッチ当たりの生産量が著しく減少するという問題を生じた。逆に、生産量を減少させないように、ホットプレス装置を大きくし、グラファイト型自体も大きくすることも考えられるが、ホットプレス装置やグラファイト型等のコストが上昇する。
【0009】
このようなことから、従来は高密度のZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜用スパッタリングターゲットを低コストで得ることができなかった。
したがって、一般には低密度のターゲットを使用せざるを得ず、この結果スパッタリングによって膜を形成する際に、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールが発生するため、成膜の均一性及び品質が低下し、生産性も劣るという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、スパッタリングによって膜を形成する際に、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができ、かつ結晶粒が微細であり98%以上の高密度を備えた硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲット焼結用粉末及びスパッタリングターゲット並びに該ターゲットを使用して硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜を形成した光記録媒体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、硫化亜鉛に含有する硫酸根(SO)の量と比表面積を調整することにより、空孔を低減させ、微細化しても容易に高密度化することが可能となり、保護膜としての特性も損なわず、さらにスパッタ時に発生するパーティクルやノジュールを低減でき、膜厚均一性も向上できるとの知見を得た。
【0012】
本発明はこの知見に基づき、硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜形成用ターゲットを焼結するための粉末であって、硫酸根量(SO)が0.05〜0.35wt%である硫化亜鉛粉とケイ酸化物のメジアン粒径をそれぞれAμm、Bμmとし、ケイ酸化物の混合比をMmol%としたとき、0.1μm<A<10μm、0.5μm<B<15μm、15mol%≦Mの範囲において、1.4≦B/Aを満たし、かつ比表面積がそれぞれCm/g、Dm/gであり、ケイ酸化物の混合比をMmol%としたとき、5m/g≦C≦40m/g、0.5m/g≦D≦15m/g、15mol%≦Mの範囲において、3.5≦C/Dを満たし、さらに粒径A換算比表面積をEm/gとしたとき15≦C/Eであり、粒径B換算比表面積をFm/gとしたときD/F≦5である硫化亜鉛粉とケイ酸化物粉を均一混合分散した粉体であることを特徴とするスパッタリングターゲット焼結用粉末、及びターゲットのバルク相中に存在するケイ酸化物の平均粒子径が10μm以下であり、相対密度98%以上であることを特徴とする硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲット、を提供する。
【0013】
上記において、Aが0.1μm以下では凝集の発生及びかさ密度の低下等により生産性が低下し、またAが10μm以上であると目標とする高密度化が困難となるので、0.1μm<A<10μmとする。Bが0.5μm以下では目標とする高密度化を達成することが困難で、またBが15μm以上であるとパーティクルやノジュールの増加を生ずるので、5μm<B<15μmとする。Cが5m/g未満では目標とする高密度化を達成することが困難であり、40m/gを超えると凝集の発生やかさ密度の低下等により生産性が低下する。従って、5m/g≦C≦40m/gとする。
Dが0.5m未満ではパーティクルやノジュールの増加を生じ、また15m/gを超えると目標とする高密度化を達成することが困難となる。従って、0.5m/g≦D≦15m/gの範囲とする。
【発明の効果】
【0014】
スパッタリングによって膜を形成する際に、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができ、かつ空孔が少なく結晶粒が微細であり、相対密度98%以上の高密度を備えた硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットを製造することができ、また保護膜としての特性も損なわずに、該ターゲットを使用して硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜を形成した光記録媒体を得ることができるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットを製造するための焼結用粉末は、上記の通り、硫酸根量(SO)が0.05〜0.35wt%である硫化亜鉛粉とケイ酸化物のメジアン粒径をそれぞれAμm、Bμmとし、ケイ酸化物の混合比をMmol%としたとき、0.1μm<A<10μm、0.5μm<B<15μm、15mol%≦Mの範囲において、1.4≦B/Aを満たし、かつ比表面積をそれぞれCm/g、Dm/gとし、ケイ酸化物の混合比をMmol%としたとき、5m/g≦C≦40m/g、0.5m/g≦D≦15m/g、15mol%≦Mの範囲において、3.5≦C/Dを満たし、さらに粒径A換算比表面積をEm/gとしたとき15≦C/Eであり、粒径B換算比表面積をFm/gとしたときD/F≦5である硫化亜鉛粉とケイ酸化物粉を均一に分散するように混合したものであり、これを焼結してスパッタリングターゲットを作成するものである。これによって、相対密度98%以上のスパッタリングターゲットが得られる。
【0016】
このような硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットの密度の向上は、空孔を減少させ結晶粒を微細化し、ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にすることができるので、スパッタリング時のパーティクルやノジュールを低減させ、さらにターゲットライフも長くすることができるという著しい効果を有する。
上記の結果、本発明の硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットを使用して相変化型光ディスク保護膜を形成した光記録媒体の生産性が向上し、品質の優れた材料を得ることができる。
【0017】
また、ターゲットのバルク相中に存在するケイ酸化物の平均粒子径が10μm以下とすることによって、上記の特性をさらに改善することができる。
硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットの製造方法に際しては、前記硫化亜鉛粉とケイ酸化物粉をホットプレス又は熱間静水圧プレスにより製造することができる。ホットプレスに際しては、昇温中又は最高温度保持中の雰囲気を真空としてホットプレスすることにより、容易に高密度のターゲットを製造することができる。
【0018】
この場合、硫化亜鉛原料については、脱ガス等を目的とする300°C以上の熱処理を必要とせず、高密度で空孔の少ないターゲットを製造することができる。このように、硫化亜鉛の比表面積と原料中に含まれる硫酸根(SO)を規定するという比較的簡単な方法により、ターゲットの品質(結晶粒や結晶相など)を変えずに、通常の量産性に富むホットプレスやHIPの条件(温度、圧力、雰囲気)で、高密度かつ空孔の少ないターゲットを作製できるという著しい効果がある。
【実施例】
【0019】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0020】
(実施例1)
純度4N(99.99%)であり、BET法による比表面積20m/g(粒径換算比表面積0.5m/g)、硫酸根(SO)量0.2wt%、粒径(メジアン)3μmである硫化亜鉛(ZnS)粉と、純度4N(99.99%)、BET法による比表面積0.8m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、粒径(メジアン)10μmのケイ酸化物(SiO)粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイス(型)に充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は98.0%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は10μm以下であった。またZnSとSiO間の表面に空隙は殆ど認められなかった。この結果、優れた高密度ZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットが得られた。
【0021】
(実施例2)
純度4Nであり、BET法による比表面積10m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、硫酸根(SO)量0.11wt%、粒径(メジアン)5μmである硫化亜鉛(ZnS)粉と、純度4N、BET法による比表面積0.9m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、粒径(メジアン)10μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は98.5%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は10μm以下であった。またZnSとSiO間の表面に空隙は殆ど認められなかった。この結果、優れた高密度ZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットが得られた。
【0022】
(実施例3)
純度4Nであり、BET法による比表面積30m/g(粒径換算比表面積1.5m/g)、硫酸根(SO)量0.35wt%、粒径(メジアン)1μmである硫化亜鉛(ZnS)粉と、純度4N、BET法による比表面積0.9m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、粒径(メジアン)10μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は99.0%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は10μm以下であった。またZnSとSiO間の表面に空隙は殆ど認められなかった。この結果、優れた高密度ZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットが得られた。
【0023】
(実施例4)
純度4Nであり、BET法による比表面積7m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、硫酸根(SO)量0.15wt%、粒径(メジアン)5μmであるZnS粉と純度4N、BET法による比表面積1.3m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、粒径(メジアン)9μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は98.5%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は10μm以下であった。またZnSとSiO間の表面に空隙は殆ど認められなかった。この結果、優れた高密度ZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットが得られた。
【0024】
(実施例5)
純度4Nであり、BET法による比表面積10m/g(粒径換算比表面積0.5m/g)、硫酸根(SO)量0.12wt%、粒径(メジアン)3μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積2.5m/g(粒径換算比表面積0.5m/g)、粒径(メジアン)5μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は99.5%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は10μm以下であった。またZnSとSiO間の表面に空隙は殆ど認められなかった。この結果、優れた高密度ZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットが得られた。
【0025】
(実施例6)
純度4Nであり、BET法による比表面積20m/g(粒径換算比表面積0.5m/g)、硫酸根(SO)量0.22wt%、粒径(メジアン)3μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積1.8m/g(粒径換算比表面積0.5m/g)、粒径(メジアン)6μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は98.5%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は10μm以下であった。またZnSとSiO間の表面に空隙は殆ど認められなかった。この結果、優れた高密度ZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットが得られた。
【0026】
(実施例7)
純度4Nであり、BET法による比表面積30m/g(粒径換算比表面積1.5m/g)、硫酸根(SO)量0.25wt%、粒径(メジアン)1μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積0.7m/g(粒径換算比表面積0.2m/g)、粒径(メジアン)11μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は99.4%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は10μm以下であった。またZnSとSiO間の表面に空隙は殆ど認められなかった。この結果、優れた高密度ZnS−SiO相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲットが得られた。
【0027】
(実施例1〜7のまとめ)
上記実施例1〜7に示すように、硫酸根(SO)量を調整し、かつ硫化亜鉛粉とケイ酸化物のメジアン粒径及び比表面積の双方を、本発明の範囲で規定することにより、相対密度98%以上の高密度を備えた硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリングターゲットを安定して製造することができる。これらの条件は、特に重要である。これらの結果については、表1に示す。
【0028】
【表1】


【0029】
(比較例1)
純度4Nであり、BET法による比表面積10m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、硫酸根(SO)量0.7wt%(本発明の範囲外)、粒径(メジアン)5μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積0.5m/g(粒径換算比表面積0.1m/g)、粒径(メジアン)20μm(本発明の範囲外)のSiO粉をZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1000°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は85.0%であった。
SiOの結晶粒の平均粒径は20μmであった。またZnSとSiO間の表面に多くの空隙が認められた。この結果、密度に劣るスパッタリングターゲットが得られた。表1に条件と結果を示す。
【0030】
(比較例2)
純度4Nであり、BET法による比表面積8m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、硫酸根(SO)量0.45wt%(本発明の範囲外)、粒径(メジアン)5μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積0.7m/g(粒径換算比表面積0.2m/g)、粒径(メジアン)12μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は96.0%であった。硫酸根(SO)の量の増加は、密度の低下に大きな影響を与える。表1に条件と結果を示す。
【0031】
(比較例3)
純度4Nであり、BET法による比表面積9m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、硫酸根(SO)量0.21wt%、粒径(メジアン)5μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積2.5m/g(粒径換算比表面積0.5m/g)、粒径(メジアン)5μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は94.0%であった。表1に条件と結果を示す。
【0032】
(比較例4)
純度4Nであり、BET法による比表面積4m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、硫酸根(SO)量0.18wt%、粒径(メジアン)5μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積1.6m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、粒径(メジアン)8μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は92.0%であり、著しい低下があった。表1に条件と結果を示す。
【0033】
(比較例5)
純度4Nであり、BET法による比表面積2.5m/g(粒径換算比表面積0.2m/g)、硫酸根(SO)量0.2wt%、粒径(メジアン)8μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積2.3m/g(粒径換算比表面積0.5m/g)、粒径(メジアン)5μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は88.0%であり、著しい低下があった。表1に条件と結果を示す。
【0034】
(比較例6)
純度4Nであり、BET法による比表面積20m/g(粒径換算比表面積0.3m/g)、硫酸根(SO)量0.18wt%、粒径(メジアン)5μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積5.0m/g(粒径換算比表面積0.4m/g)、粒径(メジアン)7μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は93.5%であり、低密度であった。表1に条件と結果を示す。
【0035】
(比較例7)
純度4Nであり、BET法による比表面積2.5m/g(粒径換算比表面積0.2m/g)、硫酸根(SO)量0.17wt%、粒径(メジアン)8μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積0.7m/g(粒径換算比表面積0.2m/g)、粒径(メジアン)12μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は93.1%であり、低密度であった。表1に条件と結果を示す。
【0036】
(比較例8)
純度4Nであり、BET法による比表面積30m/g(粒径換算比表面積1.5m/g)、硫酸根(SO)量0.25wt%、粒径(メジアン)1μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積8.8m/g(粒径換算比表面積1.8m/g)、粒径(メジアン)1.5μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は90.3%であり、低密度であった。表1に条件と結果を示す。
【0037】
(比較例9)
純度4Nであり、BET法による比表面積2.4m/g(粒径換算比表面積0.1m/g)、硫酸根(SO)量0.11wt%、粒径(メジアン)10μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積0.2m/g(粒径換算比表面積0.2m/g)、粒径(メジアン)14μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は95.5%であり、低密度であった。表1に条件と結果を示す。
【0038】
(比較例10)
純度4Nであり、BET法による比表面積45m/g(粒径換算比表面積0.2m/g)、硫酸根(SO)量0.3wt%、粒径(メジアン)6μmであるZnS粉と、純度4N、BET法による比表面積12.0m/g(粒径換算比表面積6.8m/g)、粒径(メジアン)0.4μmのSiO粉を、ZnSに対し20mol%の比率で均一に混合した。
この混合粉をグラファイトダイスに充填し、真空雰囲気中、面圧150kg/cm、温度1100°Cの条件でホットプレスを行った。これによって得られたターゲットの相対密度は84.0%であり、密度低下が著しかった。表1に条件と結果を示す。
【0039】
(実施例と比較例のまとめ)
以上の実施例及び比較例に示すように、硫化亜鉛に含有する硫酸根(SO)の量と硫化亜鉛粉とケイ酸化物のメジアン粒径及び比表面積の双方を本発明の範囲の条件とすることにより、空孔を低減させ、微細化しても容易に高密度化、すなわち相対密度98%以上を達成することが可能となり、保護膜としての特性も損なわず、さらにスパッタ時に発生するパーティクルやノジュールを低減でき、膜厚均一性も向上できる効果を有する。
本発明の範囲から外れている比較例1〜10においては、極端な密度低下があり、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールが増加し、また相変化型光ディスク保護膜としての特性も損なわれるという問題がある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
スパッタリングによって膜を形成する際に、スパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュールを低減し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができ、かつ空孔が少なく結晶粒が微細であり、相対密度98%以上の高密度を備えた硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とするスパッタリング用ターゲットとすることができ、また該ターゲットを使用して形成された硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜を有する光記録媒体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜形成用ターゲットを焼結するための粉末であって、硫酸根量(SO)が0.05〜0.35wt%である硫化亜鉛粉とケイ酸化物のメジアン粒径をそれぞれAμm、Bμmとし、ケイ酸化物の混合比をMmol%としたとき、0.1μm<A<10μm、0.5μm<B<15μm、15mol%≦Mの範囲において、1.4≦B/Aを満たし、かつ比表面積がそれぞれCm/g、Dm/gであり、ケイ酸化物の混合比をMmol%としたとき、5m/g≦C≦40m/g、0.5m/g≦D≦15m/g、15mol%≦Mの範囲において、3.5≦C/Dを満たし、さらに粒径A換算比表面積をEm/gとしたとき15≦C/Eであり、粒径B換算比表面積をFm/gとしたときD/F≦5である硫化亜鉛粉とケイ酸化物粉を均一混合分散した粉体であることを特徴とするスパッタリングターゲット焼結用粉末。
【請求項2】
ターゲットのバルク相中に存在するケイ酸化物の平均粒子径が10μm以下であり、相対密度98%以上であることを特徴とする硫化亜鉛−ケイ酸化物を主成分とする相変化型光ディスク保護膜形成用スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2011−202282(P2011−202282A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114397(P2011−114397)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【分割の表示】特願2005−191393(P2005−191393)の分割
【原出願日】平成14年8月29日(2002.8.29)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】