説明

スパッタリング装置及びスパッタリング処理方法

【課題】安定した放電状態を短時間で達成し、より高速度での成膜を実現したスパッタリング装置及びスパッタリング処理方法を提供する。
【解決手段】ターゲットを取り付けるカソード電極5にDC電圧を印加するためのDC電源1が、イグニッション電圧設定手段を備え、該手段がイグニッション電圧無効と設定した場合には、RF電源2からカソード電極5にRF電力を印加し、且つ、DC電源1からカソード電極5にイグニッション電圧を印加せずに、上位制御装置12で設定された設定電力を印加し、空間6にプラズマを発生・維持し、上記手段がイグニッション電圧有効と設定した場合には、DC電源1からカソード電極5にイグニッション電圧、次いで設定電力を印加して空間6にプラズマを発生・維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いたスパッタリング装置及びスパッタリング処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波エネルギーを使用したプラズマスパッタにおいて、セルフバイアス電圧が低いことによって、成膜処理速度が非常に遅いと言う課題があった。この課題を解決した従来のスパッタリング装置としては、例えば特許文献1に示されるようなものがある。図7に示すように、係る装置70は、真空チャンバ76内で基板77を支持するためのサセプタ(基板ホルダー)73と、基板77の表面に対向するように絶縁性のターゲット71とが、設けられている。そして、ターゲット71と基板77との間の空間にプロセスガスを供給するArガス供給源75、空間に高周波電力を印加するRF電源72を備えている。さらに、周囲に対してターゲット72を負電位にできるDC電源74を備えている。この構成では、大型化により低下したターゲット71の自己バイアスをDC電源74が補償している。その結果、プラズマ化されたプロセスガスのうち正イオンとなったものをターゲット72に向かわせる傾向を高め、ターゲット71のスパッタを促進するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3283797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示したように、高周波(RF)電源からの高周波(RF)電力と直流(DC)電源からの直流(DC)電圧とをカソード電極に重畳する場合、下記のような問題があった。
【0005】
(1)高周波電力とDC電圧とを同時にカソード電極に印加した場合、DC電源特有の引き込み制御が動作する為、DC電源の出力が不安定になり、放電が安定に継続できないという問題があった。ここで「引き込み制御」とは、DC電源がある条件下で動作する出力動作のことを表現している。具体的には、DC電源内で監視している電流値及び電圧値がある値以上または値以下となった場合、DC電源の出力が一旦オフにされ、数msec後にイグニッション電圧が出力される一連の動作のことを指す。
【0006】
通常、ターゲットと基板との間の空間にプラズマを発生させる場合には、放電開始時と放電安定時では、前記空間の負荷は異なる。そのため、通常DC電源は、放電開始時には、上位制御装置にて設定した放電電圧より大きな電圧(イグニッション電圧)を一定期間カソード電極に印加し、その後により電圧値の低い放電電圧を維持するように設定されている。
【0007】
RF電源から高周波電力をターゲットアセンブリに印加し、一定期間後、DC電源からDC電圧をターゲットに印加した場合、DC電圧印加時に、上位制御装置にて設定された電圧より大きなイグニッション電圧が一定期間印加される。これが原因となり、図4(a)に示すように、RF電源の高周波出力とDC電源のDC出力とでエネルギーのハンチングが起こり、放電が安定に継続・維持できなくなる。一般的に、「ハンチング」とは、外乱によって、回転数や速度などの周期的変化が誘発され、それが持続される現象をいうが、本明細書においては、DC電圧の印加により、高周波電力の周波数が周期的に変化し、それが持続される現象をいう。
【0008】
(2)また、DC電圧の印加により、RF電源は、定在波比(VSWR)=2.0以下の瞬時的な負荷変動があった場合、RF電源の出力も変動してしまい、放電中のプラズマを維持するのに、不安定な要素が助長されていた。それにより、従来RF出力とDC出力とのエネルギー干渉が起こり、放電が安定に継続できない問題が発生した。
【0009】
(3)速い速度で成膜するためには、より高いDC電圧の印加が必要であった。しかしながら、上記(1)、(2)の問題点によってRF電力とDC電力・電圧の重畳可能な電力比に限界があった。そのため、より高速度での成膜が困難であった。
【0010】
(4)プラズマを生成する初段階において、放電が立っても放電維持するまでに時間がかかっており、装置監視上の警報シーケンスが作動し、処理が継続できない問題があった。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決し、安定した放電状態を短時間で達成し、より高速度での成膜を実現したスパッタリング装置及びスパッタリング処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1は、真空チャンバと、
前記真空チャンバ内で基板を支持するための基板ホルダーと、
前記基板ホルダーで支持される基板表面に対向するようにターゲットが設けられるカソード電極と、
前記カソード電極と基板ホルダーに支持される基板との間の空間にプロセスガスを供給するスパッタガス供給源と、
前記空間に、高周波電力によるプラズマを発生させるために前記カソード電極に高周波電力を印加するRF電源と、
前記カソード電極を負電位にすると共に、前記空間に直流電流・電圧によるプラズマを発生・維持させるために前記カソード電極に直流電力を印加するDC電源と、
前記空間にプラズマを発生・維持させるためにカソード電極に印加する電力を設定する上位制御装置と、
を有するスパッタリング装置であって、
前記DC電源は、DC電源のみにより前記空間にプラズマを発生・維持させる場合には、上位制御装置において設定された放電電圧を超えるイグニッション電圧を有効とし、RF電源とDC電源とにより前記空間に放電によるプラズマを発生・維持させる場合には、該イグニッション電圧を無効と判断するイグニッション電圧設定手段を有し、
前記イグニッション電圧設定手段は、
イグニッション電圧を有効に設定した場合、RF電源をオフし、前記DC電源からイグニッション電圧を前記カソード電極に印加し、その後、上位制御装置にて設定された設定電力をカソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させ、
イグニッション電圧を無効に設定した場合、RF電源及びDC電源から上位制御装置にて設定された高周波電力及び設定電力をカソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させるものである
ことを特徴とする。
【0013】
また本発明の第2は、真空チャンバと、
前記真空チャンバ内で基板を支持するための基板ホルダーと、
前記基板ホルダーで支持される基板表面に対向するようにターゲットが設けられるカソード電極と、
前記カソード電極と基板ホルダーとの間の空間にプロセスガスを供給するスパッタガス供給源と、
前記空間に、高周波電力によるプラズマを発生させるために前記カソード電極に高周波電力を印加するRF電源と、
前記カソード電極を負電位にすると共に、前記空間に直流電流・電圧によるプラズマを発生・維持させるために前記カソード電極に直流電力を印加するDC電源と、
前記空間にプラズマを発生・維持させるために前記カソード電極に印加する電力を設定する上位制御装置と、
を有するスパッタリング装置を用いたスパッタリング処理方法であって、
前記空間にスパッタガス供給源からプロセスガスを供給するステップと、該空間にプラズマを発生・維持させるステップとを有し、該プラズマを発生・維持させるステップにおいて、
前記DC電源のみにより前記空間に放電によるプラズマを発生・維持させる場合には、RF電源をオフし、前記上位制御装置において設定された放電電圧を超えるイグニッション電圧を前記DC電源からカソード電極に印加し、その後、上位制御装置において設定された設定電力をカソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させ、
前記RF電源とDC電源により前記空間に放電によるプラズマを発生・維持させる場合には、DC電源のイグニッション電圧を無効として、RF電源及びDC電源から上位制御装置において設定された高周波電力及び設定電力を前記カソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、プラズマを用いたスパッタにおいて、放電安定性が向上し、印加可能なDC電力(電圧・電流)量が増えることで、より高速でのスパッタ成膜が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のスパッタリング装置の一実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係るDC電源の出力フローチャートである。
【図3】図1のRF電源内部の構成を示すブロック図及び該RF電源内部の電力増幅回路の構成を示す図である。
【図4】本発明及び従来のスパッタリング装置における、RF電源及びDC電源の出力を示す図である。
【図5】図1の整合器の整合動作のタイミングチャートである。
【図6】図1のスパッタリング装置の警報タイミングチャートの一例を示す図である。
【図7】従来のスパッタリング装置の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のスパッタリング装置及びスパッタリング処理について図面を用いて説明する。図1は、本発明のスパッタリング装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
【0017】
本発明のスパッタリング装置は、図1に示すように、真空チャンバ4と、該真空チャンバ内で基板を支持するための基板ホルダー7と、基板ホルダー7で支持される基板表面に対向するようにターゲットを設けるためのカソード電極5とを備えている。さらに、カソード電極5と基板ホルダー7との間のプラズマ空間6にプロセスガスを供給するスパッタガス供給源(不図示)を有している。またさらに、前記カソード電極5に高周波電力(RF電力)を印加し、前記空間にプラズマを発生させるための高周波電源(RF電源)2と、前記カソード電極5に直流電力を印加して負電位にすると同時に、前記空間にプラズマを発生させるための直流電源(DC電源)1を備えている。また、RF電源2とDC電源1との間に設けられた整合器3と、基板ホルダー7にRF電力を印加可能なRF電源11と、基板ホルダー7にDC電圧を印加可能なDC電源9を備えている。また、DC電源9とRF電源11との間に設けられた整合器10及びLOWパスフィルター8と、一端がRF電源2及びDC電源1に接続され、他端がRF電源11及びDC電源9に接続された上位制御装置12とを有している。
【0018】
本発明の特徴は、カソード電極5にDC電圧を印加するDC電源1が、イグニッション電圧設定手段(不図示)を有していることにある。係る手段は、RF電源2とDC電源1とにより空間6にプラズマを発生させる場合には、イグニッション電圧を無効と判断し、DC電源1のみにより空間6にプラズマを発生・維持させる場合には、イグニッション電圧を有効と判断する。そして、係る手段がイグニッション電圧を有効と設定している場合には、RF電源2をオフし、DC電源1から上位制御装置12にて設定した電圧を超えるイグニッション電圧がカソード電極5に一定期間印加される。その後、上位制御装置12にて設定された設定電力がカソード電極5に印加し、空間6の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力し、該空間6にプラズマを発生・維持させる。
【0019】
また、イグニッション電圧設定手段がイグニッション電圧を無効と設定している場合、RF電源2とDC電源1から上位制御装置12において設定されたRF電力及びDC電圧をカソード電極5に印加する。これにより、空間6の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流が出力され、空間6においてプラズマを発生・維持する。この場合、DC電源1からは、上位制御装置12において設定されたプラズマを発生・維持するための放電電圧を超えるイグニッション電圧がカソード電極5に印加されることはない。即ち、DC電源1からカソード電極5にDC電圧を印加した時点で、印加するDC電圧を放電電圧に設定しているので、放電電圧以上の電圧がある一定期間カソード電極5に印加されることはない。
【0020】
本例において、イグニッション電圧設定手段は、具体的には、DC電源1にイグニッション電圧の有効/無効を設定可能なスイッチを設けて行う。即ち、DC電源1は、制御基板及び出力電圧・出力電流のセンシング機能を有し、DC出力を下記のように制御する。
【0021】
図2は、図1のDC電源1の出力フローチャートである。先ず、STEP21において、上位制御装置12がDC電源1に出力オン指令を出力する。DC電源1はイグニッション電圧設定手段を備えており、STEP23において、係る手段を無効に設定している場合には、上位制御装置12において設定されたDC電圧がカソード電極5に印加され、空間6の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流が出力される。また、係る手段を有効に設定している場合には、イグニッション電圧(1000V以上を負電位で)がカソード電極5に印加される。
【0022】
本発明においては、図4(a)に示した従来のタイミングと同様にして、RF電源2をオンしてプラズマを発生させる。該プラズマが安定となった後(VSWR=1.0、負荷Z=50Ω)、DC電源1をオンし、DC電源1の任意の設定電圧を負荷であるカソード電極5に印加する。従来と本発明とが相違する点は、イグニッション電圧を無効と判断した場合には、DC電源1から負荷であるカソード電極5に放電電圧を印加するよう上位制御装置12で制御したことにある。
【0023】
これにより、DC電源1からは、イグニッション電圧が出力されることはないので、RF電源2の出力が変動し、放電中のプラズマに対して不安定な要素が助長されることがなくなるため、図4(b)に示すように、ハンチングのない出力が得られる。即ち、放電が安定に継続する。
【0024】
但し、イグニッション電圧を無効に設定した場合でも、空間6やスパッタリング装置の負荷変動により、図4(a)に示すようなハンチングが生じることもある。そこで、図3(b)に示すように、RF電源2の電力増幅回路内に設けられたフィードバック抵抗をフランジタイプとし、抵抗値Rfbを85Ω以上150Ω以下にして負荷変動による出力変化を低減することが望ましい。
【0025】
STEP25においてDC電源1は、イグニッション電圧有効の場合、電流閾値1を上回る電流が観測されたかどうかを監視する。ここで、本発明における「電流閾値1」とは、イグニッション電圧出力後に観測される電流がある一定値以上になった場合、DC電源1からDC電圧をカソード電極5に印加し、空間6の負荷インピーダンスに応じた電流を供給するための基準となる値をいう。
【0026】
STEP27にて観測された電流値が、閾値1に到達していない場合、STEP25において、イグニッション電圧有効時の動作を継続する。即ち、DC電源1は、負荷であるカソード電極5にイグニッション電圧を印加するよう制御する。
【0027】
STEP31において、DC電源1がイグニッション電圧有効の場合、観測された電流値が閾値1に到達すると、イグニッション電圧をオフし、負荷インピーダンスに応じた電流を出力し、設定に対する出力制御を行う。尚、ここで言う「イグニッション電圧オフ」とは、閾値1を上回る電流が観測され、上位制御装置12で設定した放電電圧を印加し、負荷インピーダンスに応じた電流が出力される出力制御モードへ移行することを指す。
【0028】
STEP23において、DC電源1は、イグニッション電圧を無効と設定した場合には、閾値1を上回る電流が観測されたかどうか監視しない。
【0029】
STEP33にて、DC電源1は、イグニッション電圧を有効、無効のいずれに設定した場合でも、上位制御装置12で設定した放電電圧をカソード電極5に印加し、負荷インピーダンスに応じた電流を出力する。
【0030】
STEP35にて、DC電源1は、放電電圧をカソード電極5に出力制御中、電流閾値2−1上限及び電圧閾値2−2下限を監視している。ここで、「電流閾値2−1」上限とは、DC電源1の出力許容電流値であり、「電圧閾値2−2下限」とは、DC電源1の最低電力可能電圧に相当する値である。STEP37にてDC電源1は、出力制御中に監視している電流値及び電圧値がそれぞれ、電流閾値2−1上限及び電圧閾値2−2下限に達した時、制御中の出力をオフし、アラーム信号などを上位制御装置12に出力する。これにより、DC電源特有の引き込み制御の動作が防止され、DC電源1の出力が安定し、安定した放電を継続することができる。
【0031】
STEP39にて、DC電源1は、上位制御装置12からの出力オフ指令を監視している。STEP41にてDC電源1は、出力制御中に監視している電流値及び電圧値がそれぞれ、電流閾値2−1上限及び電圧閾値2−2下限に達していない時、上位制御装置12で設定したDC電圧及び負荷インピーダンスに応じた電流の出力制御を継続する。STEP43にて、上位制御装置12がDC電源1の出力オフ指令を出力した時、DC電源1は出力を停止する。
【0032】
次に本例に用いたRF電源2の出力特性に関し説明する。RF電源2の瞬時不整合時の出力特性は、VSWR1.0からVSWR2.2へ10msec未満の瞬時変動発生した場合においても、RF出力変動が設定の±5%未満の性能を保持する。
【0033】
VSWR1.0からVSWR2.2へ10msec未満の瞬時変動発生した場合においても、RF出力変動が設定の±5%未満を満足するためには、RF電源2内部にある電力増幅回路のフィードバック抵抗値Rfbを設定する。図3(a)は、RF電源2内部のブロック図を示す。RF電源2は、図3(a)に示すように、AC/DCコンバートと、ドライバ(DRV)と、電力増幅回路(AMP)と、DETECTORと、制御回路と、から構成される。図3(b)は図3(a)の電力増幅回路の構成図であり、係る回路内に設けられたフィードバック抵抗をフランジタイプとし、抵抗値Rfbを、負荷変動による出力変化が低減できる85Ω以上150Ω以下、好ましくは100Ωになるよう設定する。尚、フランジ抵抗とは、放熱板(ヒートシンク)などに実装することができ、抵抗自体の発熱を積極的に放熱させることのできる構造を持つ抵抗である。
【0034】
フィードバック抵抗をフランジタイプとすることで、抵抗自身を冷却部に直接的に施工できるための発熱低下可能となり、よりフィードバック抵抗値を下げることができる。また、フィードバック抵抗値Rfbが150Ωを超えると、ゲインが増加するため、負荷側の出力変化に対し応答し易くなり、負荷変動時の出力安定性が保たれない。即ち、150Ωを超えると、イグニッション電圧を無効に設定した場合でも、図4(a)に示すように、ハンチングが起こる可能性があるため好ましくない。また、フィードバック抵抗値Rfbが85Ω未満になると、最大出力、効率、ゲインが低下し、高調波が増加し、RF電力を負荷であるカソード電極にRF電力を印加することが難しくなり、空間6にプラズマを発生させることができなくなる。よって、本発明においては、フィードバック抵抗値Rfbを85Ω以上で150Ω以下に設定することが望ましい。尚、RF電源11においても、RF電源2と同等の瞬時不整合時の出力特性を保持することが望ましい。
【0035】
次に、図1に示す整合器3のパラメータの設定手順について説明する。本発明においては、整合器3のパラメータを以下の手順により設定することで、プラズマ生成の初段階において、放電が立っても放電維持するまでに時間を要し、装置監視上の警報シーケンスが作動して処理が継続できなくなるという問題を緩和することができる。
【0036】
整合器3には、次のパラメータ設定が可能である。設定する項目としてPth(電力閾値)、オフプリセット、オフプリセットディレイ、オンプリセット、オンプリセットディレイなどがあり、図5に示すタイミングで整合動作を行うことができる。尚、ここで、「Pth(電力閾値)」とは自動整合動作を行うRF電力の最低電力[W]の設定値を言う。Pthで設定された電力が投入されると、整合器3は自動整合動作を開始する。また、「オフプリセット」とは、整合器3内のバリアブルコンデンサVC1,VC2が通常静定している位置のことを言う。即ちRF電力が投入されていない場合に静定している位置を言い、「オフプリセットディレイ」とはPth値を検出後、オフプリセット位置に留まる時間を言う。さらに「オンプリセット」とは、オフプリセット動作まで終えた後に、VC1,2を任意の位置に動作させる位置のことを言う。そして「オンプリセットディレイ」とは任意の位置に留まる時間を言う。整合器3は、オフプリセットからオンプリセットディレイまでの各動作後に、自動整合動作を行う。また、オフプリセットからオンプリセットまでの各設定がされていない場合、Pthで設定された電力が投入されると、整合器3は自動整合を開始する。
【0037】
整合器3に対し、オフプリセット設定に際し、手順として放電着火領域を確認し、放電着火領域内から、オフプリセットを設定する。尚、「着火」とは、放電していない状態から、RF電源2オンで放電した瞬間のこととする。次いで着火領域中における着火時間を計測し、着火するまでの時間の早い所(1.0sec未満)を絞る。次いで放電着火領域内で着火させない条件にて、Vppのデータ取る。尚、ここで、「Vpp」とは、整合器3の出力端部の電圧ピーク・ツー・ピークのことを言う。
【0038】
次いで前記放電着火領域内で着火させない条件で、Vppデータの候補中の中で、Vpp値が高いところを絞り、その候補中から、着火後の反射波が低くそして早く反射波が収束するポジション絞る。さらにその候補の中で、着火領域の中央に位置するポジションを選定する。前記オフプリセット決定後、より確実に着火させるために、オフプリセットディレイの設定を行う。例えば、0.1sec等に設定される。
【0039】
整合器3に対してオンプリセットの設定に際し、手順としてRF電力投入時における、最初の基板処理条件で自動整合モードにて放電させ、その時の整合器3内のバリアブルコンデンサVC1、VC2の整合位置を確認する。ここで確認した整合位置を、オンプリセット位置の基準点とし、次いで整合器3のパラメータである、オンプリセット機能を有効とし、オンプリセット位置に設定する。
【0040】
次いで同じ条件で放電を行い、自動整合するまでのバリアブルコンデンサVC1,VC2の動作状態を観察し、基準点から、オンプリセットポジションの微調を行う。自動整合した後のバリアブルコンデンサVC1,VC2の動きに無駄がなくなるようにすることで、早く反射波が収束する。
【0041】
また、オンプリセットディレイは、最初の放電がRF単独(RF電力とDC電力の同時印加では無い)場合は、0.0sec設定のままで良いが、条件により、RF電力及びDC電力を同時に印加する場合には、0.1secと設定すると良い場合がある。
【0042】
また、着火後における、放電安定状態が正常か異常かを判別する際、装置の警報タイミングチャートを図6の様にすると良い。図6に示すRF電源2からのRF電力出力後、一定期間内は、空間6のプラズマが安定しない状態が継続する。また、DC電源1からDC電圧出力後も、一定期間内は、空間6のプラズマが安定しない状態が継続することがある。そのため、RF電源2の出力開始時より、5.0sec程度をディレイタイムとしてカウントし、監視を行わないことで、正常・異常が判別可能である。さらに、RF電源2の出力開始後、一定時間後にDC電源1が投入される場合には、投入後の2.0sec程度をマスクタイムとしてカウントし、監視を行わない。これにより、スパッタリング装置の処理を無駄に停止したり、出力指令制御をする必要がなくなる。
【符号の説明】
【0043】
1:DC電源、2:RF電源、3:整合器、4:真空チャンバ、5:カソード電極、6:プラズマ空間、7:基板ホルダー、8:LOWパスフィルター、9:DC電源、10:整合器、11:RF電源、12:上位制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内で基板を支持するための基板ホルダーと、
前記基板ホルダーで支持される基板表面に対向するようにターゲットが設けられるカソード電極と、
前記カソード電極と基板ホルダーに支持される基板との間の空間にプロセスガスを供給するスパッタガス供給源と、
前記空間に、高周波電力によるプラズマを発生させるために前記カソード電極に高周波電力を印加するRF電源と、
前記カソード電極を負電位にすると共に、前記空間に直流電流・電圧によるプラズマを発生・維持させるために前記カソード電極に直流電力を印加するDC電源と、
前記空間にプラズマを発生・維持させるためにカソード電極に印加する電力を設定する上位制御装置と、
を有するスパッタリング装置であって、
前記DC電源は、DC電源のみにより前記空間にプラズマを発生・維持させる場合には、上位制御装置において設定された放電電圧を超えるイグニッション電圧を有効とし、RF電源とDC電源とにより前記空間に放電によるプラズマを発生・維持させる場合には、該イグニッション電圧を無効と判断するイグニッション電圧設定手段を有し、
前記イグニッション電圧設定手段は、
イグニッション電圧を有効に設定した場合、RF電源をオフし、前記DC電源からイグニッション電圧を前記カソード電極に印加し、その後、上位制御装置にて設定された設定電力をカソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させ、
イグニッション電圧を無効に設定した場合、RF電源及びDC電源から上位制御装置にて設定された高周波電力及び設定電力をカソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させるものである
ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記RF電源とDC電源とによりプラズマを発生・維持させる場合には、RF電源の電力増幅回路内に設けられたフィードバック抵抗の抵抗値Rfbを85Ω以上150Ω以下にしたことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内で基板を支持するための基板ホルダーと、
前記基板ホルダーで支持される基板表面に対向するようにターゲットが設けられるカソード電極と、
前記カソード電極と基板ホルダーとの間の空間にプロセスガスを供給するスパッタガス供給源と、
前記空間に、高周波電力によるプラズマを発生させるために前記カソード電極に高周波電力を印加するRF電源と、
前記カソード電極を負電位にすると共に、前記空間に直流電流・電圧によるプラズマを発生・維持させるために前記カソード電極に直流電力を印加するDC電源と、
前記空間にプラズマを発生・維持させるために前記カソード電極に印加する電力を設定する上位制御装置と、
を有するスパッタリング装置を用いたスパッタリング処理方法であって、
前記空間にスパッタガス供給源からプロセスガスを供給するステップと、該空間にプラズマを発生・維持させるステップとを有し、該プラズマを発生・維持させるステップにおいて、
前記DC電源のみにより前記空間に放電によるプラズマを発生・維持させる場合には、RF電源をオフし、前記上位制御装置において設定された放電電圧を超えるイグニッション電圧を前記DC電源からカソード電極に印加し、その後、上位制御装置において設定された設定電力をカソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させ、
前記RF電源とDC電源により前記空間に放電によるプラズマを発生・維持させる場合には、DC電源のイグニッション電圧を無効として、RF電源及びDC電源から上位制御装置において設定された高周波電力及び設定電力を前記カソード電極に印加し、前記空間の負荷インピーダンスに応じた電圧・電流を出力させて前記空間にプラズマを発生・維持させる、
ことを特徴とするスパッタリング処理方法。
【請求項4】
前記RF電源とDC電源とによりプラズマを発生・維持させる場合には、RF電源の電力増幅回路内に設けられたフィードバック抵抗の抵抗値Rfbを85Ω以上150Ω以下にしたことを特徴とする請求項3に記載のスパッタリング処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−255061(P2010−255061A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107696(P2009−107696)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】