説明

スパークプラグ

【課題】 冷熱サイクル環境下において絶縁体が割れるのを抑制することのできるスパークプラグを提供することを課題とする。
【解決手段】 軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と前記軸孔内の一端側で保持される中心電極とを備え、前記中心電極が外層とこの外層よりも熱伝導率の高い材料により形成され、外層により内包される芯部を有し、大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理した後の前記外層は、硬度が190Hv以上であると共に、厚みが30μm以上200μm以下である高硬度領域を有し、かつ、前記外層の表面より内部の組成が、Crが15質量%以上40質量%以下かつAlが38質量%以下、又は、Alが5質量%以上38質量%以下かつCrが40質量%以下であり、さらに内部の組成が、Crが7質量%以上40質量%以下かつAlが38質量%以下、又は、Alが3質量%以上38質量%以下かつCrが40質量%以下であり、厚みが50μm以上である元素供給領域を有するスパークプラグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スパークプラグに関し、特に、中心電極の内部に熱伝導率の高い材料により形成される芯部を有するスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関の点火用に使用されるスパークプラグは、一般に、筒状の主体金具と、この主体金具の内孔に配置される筒状の絶縁体と、この絶縁体の先端側内孔に配置される中心電極と、一端が主体金具の先端側に接合され、他端が中心電極との間に火花放電間隙を有する接地電極とを備える。そして、スパークプラグは、内燃機関の燃焼室内で、中心電極の先端と接地電極の先端との間に形成される火花放電間隙に火花放電され、燃焼室内に充填された燃料を燃焼させる。
【0003】
ところで、近年、過給器による出力向上により、少ない燃料で走行距離を伸ばす技術が開発されている。このような内燃機関においては、燃焼室内の温度が上昇する傾向にあり、特に中心電極の先端が位置する領域近傍の温度が高温化する傾向にある。そこで、Ni基合金により形成される中心電極の軸心部にNi基合金よりも熱伝導性の良好な、例えば銅で形成された銅芯を設け、放電で生じた熱を中心電極から主体金具へと伝導して逃がし易くする(熱引きと称することもある。)構造が採用されることがある。
【0004】
しかし、内燃機関の設計の自由化等の目的で小型化したスパークプラグが開発されるようになり、それに伴って中心電極も細くなると、激しい冷熱サイクルの環境下において、例えば、軸心部に設けられた銅芯とこの銅芯を取り囲むNi基合金との間の熱膨張の差により、中心電極が塑性変形又はクリープ変形し、変形した中心電極が隣接する絶縁体を押し割るといった現象が生じることがある。
【0005】
特許文献1には、「熱価の低下を防ぎつつ絶縁碍子の割れを抑制した内燃機関のスパークプラグを提供」(特許文献1の段落番号0008参照。)することを課題とし、この課題を解決するための手段として「上記中心電極は、上記絶縁碍子に対する上記中心電極の軸方向位置を決めるための係止部を有し、上記絶縁碍子は、上記中心電極を挿通する軸孔の内壁に、上記中心電極の上記係止部を受ける係止受部を有し、上記軸孔の内壁は、上記係止受部よりも先端側において上記中心電極の外側面と平行に形成された平行部を設けると共に、該平行部と上記係止受部との間に、上記平行部よりも上記中心電極の外側面との間のクリアランスが大きい拡径部を設けてなることを特徴とする内燃機関用のスパークプラグ」(特許文献1の請求項1参照。)が記載されている。
【0006】
この特許文献1に記載の発明によると、中心電極と絶縁碍子との間の隙間に燃焼残渣物が侵入したとき、燃焼残渣物が拡径部における中心電極との間に優先的に堆積していくので、拡径部に堆積した燃焼残渣物が応力緩和層となって中心電極の熱膨張による応力が直接絶縁碍子に伝わることがなく、絶縁碍子の割れを抑制できると記載されている。
【0007】
しかし、燃焼室内はますます高温化し、スパークプラグは小型化する傾向にあるので、さらに絶縁体の割れを抑制するスパークプラグの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−170215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、冷熱サイクル環境下において絶縁体が割れるのを抑制することのできるスパークプラグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と前記軸孔内の一端側で保持される中心電極とを備え、
前記中心電極が芯部と前記芯部を内包する外層とを有し、
前記芯部は前記外層よりも熱伝導率の高い材料により形成されるスパークプラグにおいて、
大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理した後の前記外層は、硬度が190Hv以上であると共に、厚みが30μm以上200μm以下である高硬度領域を有し、かつ、
前記外層の表面より内部の組成が、Crが15質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが5質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下であり、
さらに内部の組成が、Crが7質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが3質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下である元素供給領域を有し、
前記元素供給領域の厚みが50μm以上であることを特徴とするスパークプラグである。
【0011】
前記(1)の好ましい態様として、以下の態様が挙げられる。
(2)前記高硬度領域は、硬度が230Hv以上である超高硬度領域を有し、前記超高硬度領域の厚みが30μm以上200μm以下である。
(3)前記高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下である。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか一つに係るスパークプラグにおいて、前記高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下であり、前記超高硬度領域の厚みが30μm以上80μm以下である。
(5)前記(1)〜(3)のいずれか一つに係るスパークプラグにおいて、前記超高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下である。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか一つに係るスパークプラグにおいて、前記元素供給領域の厚みが100μm以上である。
(7)前記(1)〜(6)のいずれか一つに係るスパークプラグにおいて、前記軸孔における前記中心電極が配置されている側を前記軸線方向の先端側としたとき、前記芯部の先端から後端側へ前記軸線方向に4mmの範囲内での前記中心電極の外周面と前記軸孔の内周面との間の最短距離(以下において径差と称する。)が、0.03mm以上0.1mm以下である。
(8)前記(7)に係るスパークプラグにおいて、前記径差が0.03mm以上0.07mm以下である。
【0012】
前記課題を解決するための他の手段は、
(9) 軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と前記軸孔内の一端側で保持される中心電極とを備え、
前記中心電極が芯部と前記芯部を内包する外層とを有し、
前記芯部は前記外層よりも熱伝導率の高い材料により形成されるスパークプラグにおいて、
大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理を行うと、前記外層が、190Hv以上の硬度を有すると共に、厚みが30μm以上200μm以下である高硬度領域を有するに至り、
前記外層の表面より内部の組成が、Crが15質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが5質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下であり、さらに内部の組成が、Crが7質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが3質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下であると共に、厚みが50μm以上である元素供給領域を有するに至ることを特徴とするスパークプラグである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るスパークプラグは、外層と前記外層により内包され、前記外層よりも熱伝導率の高い材料により形成される芯部を有する中心電極を備え、大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理した後の前記外層は、所定の硬度と所定の厚みを有する高硬度領域と、Cr及びAlの含有率が所定の範囲内にあり、所定の厚みを有する元素供給領域を備えるので、中心電極の変形が抑制され、また中心電極の表面に酸化物が堆積するのを抑制することができるので、中心電極の変位により絶縁体が割れるのを抑制することのできるスパークプラグを提供することができる。
【0014】
また、前記径差が特定の範囲内であると、中心電極が変形したとしても、その変形による応力により絶縁体が割れないだけの間隙を中心電極と絶縁体との間に確保することができ、また燃焼室内のデポジット成分が中心電極と絶縁体の隙間に入りにくくなるので、デポジット成分により絶縁体が割れるのを抑制することができる。また、中心電極と絶縁体との間に燃焼ガスが入り込み、中心電極の温度が上昇することにより中心電極の外層が酸化して中心電極が変形することで、中心電極と絶縁体との隙間をさらに狭くすることを防止し、また中心電極が絶縁体に対して陥没し、中心電極と接地電極とのギャップが増大するのを防止することができる。さらに、絶縁体が受けた熱を中心電極に逃し易くなるので、絶縁体が過熱されることによるスパークプラグの溶損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグの一部断面全体説明図である。
【図2】図2(a)は、中心電極における硬度及び組成分析する際の測定位置を示す要部断面説明図であり、図2(b)は、硬度を測定する位置を示す中心電極の要部断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係るスパークプラグは、中心電極と接地電極とを有し、この中心電極の一端と接地電極の一端とが間隙を介して対向するように配置されている。中心電極は芯部とこの芯部を内包する外層とを有し、芯部が外層よりも熱伝導率の高い材料により形成されている。この発明に係るスパークプラグは、このような構成を有するスパークプラグであれば、その他の構成は特に限定されず、公知の種々の構成を採ることができる。
【0017】
この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグを図1に示す。図1はこの発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグ1の一部断面全体説明図である。なお、図1では紙面下方を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
【0018】
このスパークプラグ1は、図1に示されるように、略棒状の中心電極2と、中心電極2の外周に設けられた略円筒状の絶縁体3と、絶縁体3を保持する円筒状の主体金具4と、一端が中心電極2の先端面と火花放電間隙Gを介して対向するように配置されると共に他端が主体金具4の端面に接合された接地電極6とを備えている。
【0019】
前記主体金具4は、円筒形状を有しており、絶縁体3を内装することにより絶縁体3を保持するように形成されている。主体金具4における先端方向の外周面にはネジ部9が形成されており、このネジ部9を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。主体金具4は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
【0020】
前記絶縁体3は、主体金具4の内周部に滑石(タルク)10又はパッキン11等を介して保持されており、絶縁体3の軸線方向に沿って中心電極2を保持する軸孔5を有している。絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具4の先端面から突出した状態で、主体金具4に固着されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気的強度を有する材料であることが望ましく、このような材料として、例えば、アルミナを主体とするセラミック焼結体が挙げられる。
【0021】
前記接地電極6は、例えば、略角柱体に形成されてなり、一端が主体金具4の端面に接合され、途中で略L字に曲げられて、その先端部が中心電極2の軸線方向に位置するように、その形状及び構造が設計されている。接地電極6がこのように設計されることによって、接地電極6の一端が中心電極6と火花放電間隙Gを介して対向するように配置されている。火花放電間隙Gは、この実施形態においては中心電極2の先端面と接地電極6の先端部の周側面との間の間隙であり、この火花放電間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。
【0022】
前記中心電極2は、その先端部が絶縁体3の先端面から突出した状態で絶縁体3の軸孔5に固定されており、主体金具4に対して絶縁保持されている。前記中心電極2は、芯部7と、芯部7を内包する外層8とにより形成される。芯部7は外層8よりも熱伝導率の高い材料により形成され、そのような材料として、例えば、Cu、Cu合金、Ag、純Ni等の金属を挙げることができる。芯部がCu合金により形成される場合には、高熱伝導率を維持する観点からCuの含有率が95質量%以上であるのが好ましい。外層8の組成については、後述する。
【0023】
外層8は、スパークプラグ1を大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理した後に、後述する方法で測定した硬度が190Hv以上であると共に、厚みが30μm以上200μm以下である高硬度領域を有する。中心電極2を形成する材料の硬度等の特性は、中心電極2が高温下に置かれる前後において変化する。この硬度の変化は、高温下に置かれることにより材料加工等によって生じた材料中の歪が除去されるためであると考えられる。内燃機関を稼動するときの燃焼室内の温度は1000℃程度まで上昇するので、このような温度環境に置かれた後の材料特性が重要になる。また、高温下に置かれる前の硬度は、中心電極成形時の加工温度や加工率などの加工条件によって大きく変わる。よって、高温下に置かれる前の硬度が高いからといって、必ずしもスパークプラグが使用される環境における硬度が高くなると言える訳ではない。したがって、スパークプラグ1を熱処理した後に外層8の硬度及びその厚みが測定される。
【0024】
前記高硬度領域の厚みは、80μm以上200μm以下であるのが好ましい。特に、外層8の表面に前記厚みを有する高硬度領域が存在すると、厳しい冷熱サイクル環境下においても中心電極が変形するのを抑制することができる。
【0025】
硬度が190Hv以上の領域の厚みが30μm未満であると、冷熱サイクル環境下において中心電極が変形することにより、絶縁体が割れてしまうおそれがある。硬度が190Hv以上の領域の厚みが200μmを超えると、外層8の表面に割れが生じ易くなり、この割れから加速的に酸化し易くなる。
【0026】
前記高硬度領域は、硬度が230Hv以上であると共に、厚みが30μm以上200μm以下である超高硬度領域を有するのが好ましい。さらに、前記高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下及び前記超高硬度領域の厚みが30μm以上80μm以下であるのがより好ましく、前記高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下及び前記超高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下であるのが特に好ましい。
【0027】
外層8が30μm以上200μm以下の厚みの超高硬度領域を有すると、冷熱サイクル環境下において中心電極が変形するのをより一層抑制することができる。さらに、高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下であると、さらに効果が大きく、高硬度領域と超高硬度領域の厚みがいずれも80μm以上200μm以下であると、最も効果が大きい。
【0028】
外層8は、スパークプラグ1を大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理した後にEPMAでWDS分析すると、表面より内部の組成が、Crが15質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが5質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%であり、さらに内部の組成が、Crが7質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが3質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%である元素供給領域を有する。元素供給領域は50μm以上の厚みを有し、通常外層8の厚み以下である。熱処理した後の外層8の組成が規定されるのは、前述した硬度の場合と同様に、内燃機関を稼動するときの燃焼室内の温度は1000℃程度まで上昇するので、このような温度環境に置かれた後の材料特性が重要になるからである。
【0029】
外層8は、Cr及びAlの含有率が特定の範囲内にある元素供給領域を有している限り、外層8を構成する母材の組成、すなわち外層8におけるCr及びAl以外の組成については特に限定されず、中心電極の母材として使用される公知の材料と同様の組成を採用することができ、例えば耐酸化性と高温強度とを有するINC600(登録商標)、熱伝導率の高い高Ni基合金、純Ni等を挙げることができる。
【0030】
外層の表面に、厚みが50μm以上の元素供給領域が存在しない場合には、中心電極が内燃機関の燃焼室内における高温及び高酸素濃度の環境下に曝されると、外層の母材に含まれるNi、Fe、Co等の成分が酸化して中心電極の表面に酸化物を形成し易くなる。さらに、これらの酸化物は、中心電極の表面への密着性が低いため、中心電極の表面から剥離して、さらに酸化物が剥離した中心電極の表面に新たな酸化物が形成されて、酸化物の剥離と形成とが繰り返されることにより、中心電極と絶縁体との間に酸化物が堆積し、中心電極と絶縁体との間の隙間が狭くなってしまう。その結果、わずかな中心電極の変形によっても絶縁体が中心電極と酸化物とに押されることで割れが生じ易くなってしまう。
【0031】
一方、外層8の表面に、厚みが50μm以上の元素供給領域が存在する場合には、Cr及びAlは、Cr及び/又はAlの酸化物中における拡散が遅いので、中心電極が高温及び高酸素濃度の環境下に長時間曝されても、中心電極の表面に形成されたCr及び/又はAlの酸化物はあまり成長せず、薄い酸化膜となって中心電極2を被覆する。また、Cr及び/又はAlの酸化物の解離酸素圧はNi、Fe、Co等の酸化物に比べて低いため、酸化膜に被覆されている母材に含まれるNi、Fe、Co等の成分は酸化し難くなり、中心電極2と絶縁体3との間に厚い酸化膜が形成されるのを抑制することができる。その結果、中心電極2が変形しても、その変形による応力により絶縁体が割れないだけの間隙が中心電極2と絶縁体3との間に確保されるので、絶縁体3の割れを生じ難くすることができる。
【0032】
外層の表面近傍、すなわち外層の表面から少なくとも50μmまでの領域の組成が、Crが15質量%未満かつAlが5質量%未満であると、外層の表面の全面にわたって連続するCr及び/又はAlの薄い酸化膜が形成され難くなる。また、外層8がCrを少なくとも7質量%又はAlを少なくとも3質量%含有していても元素供給領域の厚みが50μm未満であると、形成されたCr及び/又はAlの薄い酸化膜が剥離した場合に、再度外層の表面上に薄い酸化膜を形成するのに必要なCr及び/又はAlを外層8の内部から供給することができないので、Cr及び/又はAlの薄い酸化膜が形成されずに、Ni、Fe、Co等の酸化物が形成され易くなる。その結果、中心電極と絶縁体との間に厚い酸化膜が形成され、それによって絶縁体が割れ易くなってしまう。
【0033】
外層の表面近傍の組成が、Crが40質量%を超えると、高温下において熱膨張係数の小さいCrの固溶体が析出するようになる。このCrの固溶体は外層8の母材の熱膨張係数との差が大きいので、外層8の表面部分が剥離し易くなる。また、Alが38質量%を超えると、融点が低く、非常に脆いδNiAl相が多量に析出するので、外層8が高硬度領域を有していたとしても実用に耐えない。
【0034】
Cr及びAlは、外層8の表面から少なくとも50μmの領域において、前記範囲の含有率で含有されていれば良く、いずれか一方のみが含有されていても良いし、前記範囲の含有率でCrとAlとが共に含有されていてもよい。
【0035】
前記元素供給領域におけるCr及び/又はAlの含有率は、表面近傍例えば表面から少なくとも20μmまでの領域においてCrの含有率が15質量%以上40質量%以下かつAlの含有率が0質量%以上38質量%以下、Alの含有率が5質量%以上38質量%以下かつCrの含有率が0質量%以上40質量%以下であればよく、外層8の全領域において前記範囲の含有率でCr及び/又はAlを含有していてもよい。また、表面近傍において前記範囲の含有率のCr及び/又はAlを含有し、表面より内部にむかってCr及び/又はAlの含有率が緩やかに減少していく傾斜組成となっていてもよい。さらに、表面近傍に特定の厚みでCr及び/又はAlを前記含有率の範囲内のうちの一定の含有率で含有する表層を有し、この表層の内部にさらに少なくとも7質量%のCr又は少なくとも3質量%のAlを含む、表面近傍よりもCr又はAlの含有率の低い領域を有していてもよい。
【0036】
前記芯部7の先端から後端側へ前記軸線O方向に4mmの範囲内での前記中心電極2の外周面と前記軸孔5の内周面との間の最短距離d(以下において径差と称する。)が、0.03mm以上0.1mm以下であるのが好ましく、0.03mm以上0.07mm以下であるのが特に好ましい(図2(a)参照。)。
【0037】
前記径差が0.03mm以上であると、中心電極2が変形したとしても、その変形による応力により絶縁体3が割れないだけの間隙を中心電極2と絶縁体3との間に確保することができるので、中心電極の変位による絶縁体3の割れを防止することができる。前記径差が0.1mm以下、特に0.07mm以下であると、燃焼室内のデポジット成分が中心電極と絶縁体との隙間に入り難くなるので、デポジット成分により絶縁体が割れるのを抑制することができる。また、中心電極2と絶縁体3との間に燃焼ガスが入り込み、中心電極2の温度が上昇することにより中心電極2の外層が酸化し、中心電極2が変形することで、絶縁体3と中心電極2との径差が狭くなることを防止し、中心電極2が絶縁体3の内部に引き込まれて中心電極2が絶縁体3に対して陥没し、中心電極2と接地電極とのギャップが増大するのを防止することができる。さらに、高温環境下において絶縁体3が過熱した場合に、絶縁体3の熱を熱伝導率の高い中心電極2を介して逃がし易くなるので、絶縁体3が異常に高温になることによるスパークプラグの溶損を防止することができる。
【0038】
外層8の硬度、高硬度領域の厚み、及び超高硬度領域の厚みについては、次のようにして測定することができる。図2(a)は、中心電極の中心を通り、軸線に沿った断面でスパークプラグを切断したときの要部断面説明図であり、図2(b)は、硬度を測定する位置を示す中心電極の要部断面説明図である。
【0039】
まず、スパークプラグ1を大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理をした後に、図2(a)に示すように、中心電極2の中心を通り、軸線Oに沿った断面で切断し、この切断面において硬度の測定をする。硬度の測定開始位置は、芯部7の先端Tから後端方向に1〜5mmの間で、このスパークプラグ1を実機装着して運転した場合に最も中心電極2が変形することが推定される軸線方向の位置であって、中心電極2の表面から径方向に中心に向かって20μmの位置Aである。2番目〜5番目の測定位置は、位置A1より先端方向及び後端方向それぞれに250μm移動した位置と500μm移動した位置であり、位置A1〜A5の合計5点の位置の硬度を測定する。そして、得られた5点の測定値の算術平均値を算出して、平均硬度とする。次に、位置A〜Aからそれぞれ径方向に中心に向かって10μm、先端方向に50μm移動した位置B〜Bの硬度を測定する。同様にして、位置A〜Aからそれぞれ径方向に中心に向かって40μm、先端方向に200μm移動した位置E〜Eまで、軸線方向に50μm間隔、径方向に10μm間隔で硬度を測定する。次の測定位置F〜Fは、軸線方向の位置をA〜Aそれぞれの位置と同じ軸線方向の位置に戻し、位置E〜Eから径方向に中心に向かって10μm移動した位置とする。以降同様にして硬度の測定を行い、表面からの径方向の距離が同じである5点の硬度の測定値の算術平均値を平均硬度とする。そして、表面から平均硬度が230Hv以上である位置までの距離を超高硬度領域の厚みとし、表面から平均硬度が190Hv以上である位置までの距離を高硬度領域の厚みとする。なお、中心電極が円柱状であり、その径が軸線Oに沿って略同じである場合には、前述したように硬度を測定することができるが、中心電極の先端に小径部(絶縁体との間のクリアランスが若干広い部位)があって、この小径部において前述したように硬度が測定し難い場合には、その測定点を測定開始位置A1より後端側にとって、合計5点の測定値を得るようにしてもよい。
【0040】
なお、硬度の測定開始位置は、予め予備のスパークプラグ試験体で耐久試験を実施しておき、芯部7の先端Tから後端方向に1mm〜5mmの間で、最も中心電極が変形する位置を調べて決定する。耐久試験は、例えば、スパークプラグ試験体をバーナーで900℃3分間加熱した後に1分間冷却するサイクルを3000サイクル繰り返すことにより行なう。
【0041】
また、硬度は、ビッカース硬度計により0.5N荷重、保持時間10秒、及び前述のような測定位置としたこと以外は、JIS Z 2244に準拠して測定する。
【0042】
外層8におけるCr及びAlの含有率及び前記元素供給領域の厚みは、次のようにして測定することができる。外層8における硬度を測定した位置と同じ位置において、EPMAのWDS分析を行うことにより各位置におけるCr及びAlの含有率を測定することができる。具体的には、位置A〜Aにおける分析値の算術平均を算出し、この平均値を元素供給領域の表面近傍におけるCr及びAlの含有率とすることができる。また、位置A〜Aから、さらに径方向に10μm間隔で測定した位置A〜A、B〜B・・・における分析値の算術平均を算出し、この平均値からCrが7質量%以上又はAlが3質量%以上を満たす位置を求め、求めた位置と表面との距離を元素供給領域の厚みとすることができる。
【0043】
前記高硬度領域の厚み、前記超高硬度領域の厚み、及び前記元素供給領域の厚みは、後述する手法で表層を形成する際の処理時間、処理温度、及び処理後に表層の表面を研削すること等により調整することができる。
【0044】
この実施形態のスパークプラグは、前述したように、高硬度領域と元素供給領域とを有する中心電極を備えるので、このスパークプラグが冷熱サイクル環境下に曝されても、中心電極が変形するのが抑制され、また中心電極の表面に厚い酸化物が堆積するのが抑制されるので、中心電極の変位により絶縁体が割れるのを抑制することができる。
【0045】
前記スパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。まず、中心電極2の製造方法について説明する。例えば、INC600と同じ組成を有する母材を溶解して調整し、調整した母材をカップ状に加工して外層8となるカップ体を作製する。一方、前記母材よりも熱伝導率の高いCu等の材料を溶解して、塑性加工等して芯部7となる棒状体を作製する。この棒状体を前記カップ体に挿入し、押し出し加工等の塑性加工した後に所望の形状に塑性加工して、カップ体の内部に棒状体を有する複合体を作製する。
【0046】
次いで、前記複合体の表面に、溶融塩電解、溶融塩無電解等のめっき法、大気プラズマ溶射(APS)、高速フレーム溶射(HVOF)、減圧プラズマ溶射(LPPS)等の溶射法、化学気相蒸着法(CVD)、蒸気拡散浸透処理法等により所定の組成を有する表層を形成する。この表層は、外層8における表面部分を形成する。
【0047】
表層を形成する前記手法のうち、特に高速フレーム溶射(HVOF)、減圧プラズマ溶射(LPPS)は、大気プラズマ溶射(APS)に比べて酸化物の巻き込みの少ない緻密で内部欠陥の少ない表層を形成することができるので、190Hv以上及び230Hv以上の高硬度の表層を容易に形成させることができる。前記各種溶射法により複合体の表面に表層を形成させた後に、例えばAr中、もしくは真空中といった非酸化性雰囲気中で700〜1050℃に0.1〜20時間加熱する熱処理を行うと、表層の組成の均質化及び母材と表層との密着性を向上させることができる。前記各種溶射法により複合体の表面に表層を形成させる前に、ブラスト処理等により複合体の表面を粗くしておくと、より密着性が向上する。
【0048】
また、蒸気拡散浸透処理法によると、複合体の表面から内部に向かって特定の元素を浸透させることができるので、例えば緩やかに特定元素の含有率が減少する傾斜組成を有する表層を形成することができる。よって、この方法によると表層と母材との間の剥離を抑制することができる。蒸気拡散浸透処理法によると、蒸気圧が低い元素、例えばIr等は拡散させ難いので、他の手法と併せることにより蒸気拡散処理法のみでは添加させにくい元素を含ませてもよい。また、蒸気拡散浸透処理法により複合体の表面に表層を形成させた後に、例えばAr中、もしくは真空中といった非酸化性雰囲気中で700〜1050℃に0.1〜20時間加熱する熱処理を行うと、表層の組成の均質化及び母材と表層との密着性をより向上させることができる。
【0049】
なお、前記各種溶射法及び前記蒸気拡散浸透処理法により複合体の表面に表層を形成させた後に、必要に応じて行う熱処理は、必ずしもこの条件範囲内でなければいけない訳ではなく、例えば熱処理の雰囲気は、酸化消耗が問題にならないような短い時間であれば、大気中であってもよい。
【0050】
表層は前記各種手法を併用して形成されてもよい。また、前記各種手法による表層の形成及びブラスト処理等により、表層の表面が粗くなる場合には、研削等により表層の表面を平滑にしてもよい。
【0051】
前記めっき法、溶射法、CVD法により複合体の表面に表層を形成させる場合には、表層を形成する原料の組成は、形成された表層の組成を大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理をした後に分析した場合に、Cr及びAlの含有率が前述した範囲にある限り特に限定されず、例えば、原料の組成はNiを70質量%、Alを30質量%とすることができる。
【0052】
蒸気拡散浸透処理法により複合体の表面に表層を形成させる場合には、Cr及び/又はAlの蒸気を複合体の表面に浸透させる。この場合、複合体を処理粉末中で、真空雰囲気もしくはAr雰囲気等で熱処理することで、所定の組成を有する表層を形成することが可能である。処理粉末としては、拡散させる元素の金属粉末である純Cr、純AlやCr及びAlを含む合金粉末と、拡散を促進させる塩化アンモニウム、処理粉末の焼結防止材としてAlなどを混合した混合粉末が用いられる。これらの粉末の混合割合や処理条件などは、複合体へ拡散浸透させる各元素の総量や、表面濃度に応じて異なってくるが、たとえばAlの拡散の場合、混合粉末はAl:NHCl:Al=20:2:78などとすることができ、処理条件は、Ar又は真空中などの非酸化性雰囲気で800〜1000℃、10分〜10時間程度とすることができ、複合体の表面にAlを拡散浸透させて、表層を形成させることが可能である。
【0053】
このようにして複合体の表面に表層を有する中心電極が形成される。得られた中心電極を大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理をした後に、前述した方法で硬度及び組成を測定すると、前述したように所定の硬度及び厚みを有する高硬度領域及び所定の組成及び厚みを有する元素供給領域が中心電極の外層に存在する。
【0054】
接地電極6は、公知の材料を用いて、前述した中心電極2と同様の方法により製造することができる。内部に高熱伝導率を有する材料により形成される芯部を有さない場合には、所定の組成を有する合金の溶湯を調製し、溶湯から鋳塊を調製した後、この鋳塊を塑性加工して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して、接地電極6を作製することができる。
【0055】
次いで、所定の形状に塑性加工等によって形成した主体金具4の端面に、接地電極6の一端部を電気抵抗溶接又はレーザ溶接等によって接合する。次いで、セラミック等を所定の形状に焼成することによって絶縁体3を作製し、中心電極2を絶縁体3に公知の手法により組み付け、接地電極6が接合された主体金具4にこの絶縁体3を組み付ける。そして、接地電極6の先端部を中心電極2側に折り曲げて、接地電極6の一端が中心電極2の先端部と対向するようにして、スパークプラグ1が製造される。
【0056】
本発明に係るスパークプラグは、自動車用の内燃機関例えばガソリンエンジン等の点火栓として使用され、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に前記ネジ部9が螺合されて、所定の位置に固定される。この発明に係るスパークプラグは、如何なる内燃機関にも使用することができるが、冷熱サイクル環境下における中心電極の変形及び厚い酸化物の堆積による絶縁体の割れを抑制しているから、特に、燃焼室内の温度が従来よりも高い内燃機関に好適に使用されることができる。
【0057】
この発明に係るスパークプラグ1は、前述した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記スパークプラグ1は、中心電極2の先端面と接地電極6における一端の表面とが、軸線O方向で、火花放電間隙Gを介して対向するように配置されているが、この発明において、中心電極の側面と接地電極における一端の先端面が、中心電極の半径方向で、火花放電間隙を介して対向するように配置されていてもよい。この場合に、中心電極の側面に対向する接地電極は、単数が設けられても、複数が設けられてもよい。
【0058】
さらに、前記スパークプラグ1は、中心電極2及び接地電極6を備えているが、この発明においては、中心電極の先端部及び接地電極の表面の両方又はいずれか一方に、貴金属チップを備えていてもよい。中心電極の先端部及び接地電極の表面に形成される貴金属チップは、通常、円柱又は角柱形状を有し、適宜の寸法に調整され、適宜の溶接手法例えばレーザ溶接又は電気抵抗溶接により中心電極の先端部、接地電極の表面に溶融固着される。この場合、対向する2つの貴金属チップの表面の間に形成される間隙、又は貴金属チップの表面とこの貴金属チップに対向する中心電極2又は接地電極6の表面との間の間隙が前記火花放電間隙となる。この貴金属チップを形成する材料は、例えば、Pt、Pt合金、Ir、Ir合金等の貴金属が挙げられる。
【実施例】
【0059】
(絶縁体の押し割れ性試験)
<スパークプラグ試験体の作製>
通常の真空溶解炉を用いて、Ni母材を冷間加工にて丸棒として、この丸棒をカップ状に形成して外層となるカップ体を作製した。一方、Cuを冷間加工にて丸棒とし、棒状体を作製した。この棒状体を前記カップ体に挿入し、押し出し加工等の塑性加工後に線引き加工を施して、複合体を作製した。
【0060】
次いで、複合体の表面に表1に示す手法を用いて表層を形成して中心電極を作製し、この中心電極をセラミックで形成された絶縁体に組み付け、径差が0.03mmになるように調整した。
【0061】
次いで、公知の手法により、主体金具の一端面に接地電極を接合し、この接地電極が接合された主体金具に前記絶縁体を組み付けた。そして、接地電極の先端部を中心電極側に折り曲げて、接地電極の一端が中心電極の先端面と対向するようにして、スパークプラグ試験体を製造した。
【0062】
なお、製造されたスパークプラグ試験体のねじ径はM12であり、芯部の直径は、1.4mm、中心電極の直径は1.9mmであった。また、中心電極の先端と絶縁体の先端との距離である中心電極出寸法は、4mmであった。銅芯部先端の位置は、主体金具の先端面より先端側に位置している。
【0063】
また、スパークプラグ試験体を大気中で1000℃に5時間熱処理後に、前述したように、所定の位置におけるビッカース硬さを試験荷重0.5N、保持時間10秒の条件でJIS Z 2244に準拠して測定し、またEPMAのWDSにより組成を測定した。そして、190Hv以上の硬度を有する高硬度領域、230Hv以上の硬度を有する超高硬度領域、表面より内部の表面近傍の組成が、Crが15質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが5質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下であり、さらに内部の組成が、Crが7質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが3質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下である元素供給領域の厚みを算出した。
【0064】
<試験方法>
製造したスパークプラグ試験体をバーナーで900℃3分間加熱した後に1分間冷却するサイクルを3000サイクル行う試験をした。この試験後に中心電極における芯部の先端から後端側へ軸線方向に沿って1〜5mmの範囲で、最も変形量が大きい位置の中心電極の直径をマイクロメーターで測定した。試験前の直径と試験後の直径の差を算出して、算出した値を中心電極の変形量とした。また、絶縁体の軸孔に中心電極が接触した黒い接触痕の有無を目視により観察し、併せて絶縁体の割れの有無を観察した。これらの観察した結果を以下の基準にしたがって評価した。結果を表1及び2に示す。
【0065】
×:絶縁体の割れが観察された場合。
○:中心電極が0.025mm以上変形し、かつ、絶縁体に接触痕が観察された場合。
◎:中心電極が0.025mm以上変形し、かつ、絶縁体に接触痕が観察されなかった場合。
☆:中心電極が0.02mm以上0.025mm未満変形した場合。
☆☆:中心電極が0.015mm以上0.02mm未満変形した場合。
☆☆☆:0.015mm未満変形した場合。
【0066】
(耐酸化性試験)
<中心電極試験体の作製>
Niを冷間加工にて芯部のない直径1.9mmの棒状体を作製した。この棒状体の表面に表1に示す手法を用いて表層を形成し、中心電極試験体を作製した。
【0067】
<試験方法>
製造した中心電極試験体を大気中で1000℃に2分間加熱後1分間冷却するサイクルを15000サイクル行う試験をした。この試験後にマイクロメーターで中心電極試験体の直径を測定し、試験前の直径と試験後の直径の差を算出して、算出した値を中心電極試験体の減少量とした。この値を以下の基準にしたがって評価した。結果を表1及び2に示す。
【0068】
×:減少量が0.1mm以上の場合。
○:減少量が0.05mm以上0.1mm未満の場合。
◎:減少量が0.05mm未満の場合。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
(母材の材質による影響確認試験)
<スパークプラグ試験体の作製>
前記絶縁体の押し割れ性試験で製造したスパークプラグ試験体におけるNi母材の組成又は芯部の組成を変化させたこと以外は、前記絶縁体の押し割れ性試験で製造したスパークプラグ試験体と同様にしてスパークプラグ試験体を作製した。
【0072】
<試験方法>
製造したスパークプラグ試験体をバーナーで900℃3分間加熱した後に1分間冷却するサイクルを絶縁体が割れるまで試験を行い、絶縁体が割れるまでのサイクル数を測定した。結果を表3及び4に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
(径差による影響確認試験)
<スパークプラグ試験体の作製>
前記絶縁体の押し割れ性試験で製造したスパークプラグ試験体における絶縁体の軸孔の内径を変化させて、径差を変えたこと以外は、前記絶縁体の押し割れ性試験で製造したスパークプラグ試験体と同様にしてスパークプラグ試験体を作製した。
【0076】
<試験方法>
製造したスパークプラグ試験体をバーナーで900℃3分間加熱した後に1分間冷却するサイクルを3000サイクル行う試験をした。この試験後に中心電極出寸法を測定した。試験前の中心電極出寸法と試験後の中心電極出寸法との差を算出して、この算出値を陥没寸法とした。陥没寸法を以下の基準にしたがって評価した。結果を表5に示す。
【0077】
×:陥没寸法が0.04mm以上の場合。
△:陥没寸法が0.03mm以上0.04mm未満の場合。
○:陥没寸法が0.025mm以上0.03mm未満の場合。
◎:陥没寸法が0.025mm未満の場合。
【0078】
【表5】

【0079】
本願発明の範囲に含まれる中心電極を備えたスパークプラグは、表1及び表2に示されるように、絶縁体の割れが抑制された。
【0080】
一方、本願発明の範囲外にある中心電極を備えたスパークプラグは、表1及び2に示されるように、絶縁体に割れが観察された。
【0081】
表3に示されるように、外層を形成する母材の組成によらずに、本願発明の範囲に含まれる中心電極を備えたスパークプラグは、絶縁体の割れが抑制された。
【0082】
表4に示されるように、芯部の組成がCu100質量%の場合だけでなく、銅合金の場合にも、本願発明の範囲に含まれる中心電極を備えたスパークプラグは、絶縁体の割れが抑制された。
【0083】
表5に示されるように、径差が特定の範囲内であると中心電極が絶縁体の軸孔内に引き込まれて陥没するのを抑制することができた。
【符号の説明】
【0084】
1 スパークプラグ
2 中心電極
3 絶縁体
4 主体金具
5 軸孔
6 接地電極
7 芯部
8 外層
9 ネジ部
10 タルク
11 パッキン
G 火花放電間隙
d 径差
T 芯部の先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と前記軸孔内の一端側で保持される中心電極とを備え、
前記中心電極が芯部と前記芯部を内包する外層とを有し、
前記芯部は前記外層よりも熱伝導率の高い材料により形成されるスパークプラグにおいて、
大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理した後の前記外層は、硬度が190Hv以上であると共に、厚みが30μm以上200μm以下である高硬度領域を有し、かつ、
前記外層の表面より内部の組成が、Crが15質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが5質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下であり、
さらに内部の組成が、Crが7質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが3質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下である元素供給領域を有し、
前記元素供給領域の厚みが50μm以上であることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
前記高硬度領域は、硬度が230Hv以上である超高硬度領域を有し、超高硬度領域の厚みが30μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下であり、前記超高硬度領域の厚みが30μm以上80μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記超高硬度領域の厚みが80μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記元素供給領域の厚みが100μm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
前記軸孔における前記中心電極が配置されている側を前記軸線方向の先端側としたとき、前記芯部の先端から後端側へ前記軸線方向に4mmの範囲内での前記中心電極の外周面と前記軸孔の内周面との間の最短距離(以下において径差と称する。)が、0.03mm以上0.1mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【請求項8】
前記径差が0.03mm以上0.07mm以下であることを特徴とする請求項7に記載のスパークプラグ。
【請求項9】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と前記軸孔内の一端側で保持される中心電極とを備え、
前記中心電極が芯部と前記芯部を内包する外層とを有し、
前記芯部は前記外層よりも熱伝導率の高い材料により形成されるスパークプラグにおいて、
大気中で1000℃に5時間加熱する熱処理を行うと、前記外層が、190Hv以上の硬度を有すると共に、厚みが30μm以上200μm以下である高硬度領域を有するに至り、
前記外層の表面より内部の組成が、Crが15質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが5質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下であり、さらに内部の組成が、Crが7質量%以上40質量%以下かつAlが0質量%以上38質量%以下、又は、Alが3質量%以上38質量%以下かつCrが0質量%以上40質量%以下であると共に、厚みが50μm以上である元素供給領域を有するに至る、
ことを特徴とするスパークプラグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−182118(P2012−182118A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22298(P2012−22298)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】