説明

スピネル質耐火物

【課題】セメントキルンの遷移帯部や、ガラス窯蓄熱室において使用された場合においてもサルファー、ボロン、バナジウムなどの外来成分との反応を抑制することができる耐火物を提供する。
【解決手段】MgOおよびAlを主たる構成成分とし、化学成分としてMgOの含有量が20〜40質量%、Alの含有量が60〜80質量%の範囲である耐火物において、主たる鉱物相がスピネルであり、かつ、該耐火物を構成するスピネルの全量もしくはその大部分が溶融法で製造された溶融スピネル原料を用いてなることを特徴とするスピネル質耐火物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント焼成用キルン、石灰焼成用キルン等のロータリーキルンの内張り用耐火物やガラス窯の蓄熱室用耐火物に関する。特にセメントキルンの「遷移帯」と称されている部位およびガラス窯蓄熱室の中段域に使用される耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント焼成用ロータリーキルンの内張りに使用される耐火物はマグネシア−クロムれんが、あるいはマグネシア−スピネル質れんがが使用されている。近年では、環境面からクロムを含有しない耐火物の重要性が高まっており、マグネシア−スピネル質れんがが広く使用されるに至っている。
【0003】
セメントロータリーキルンの内張り耐火物は、通常、熱負荷の最も高い「焼成帯」と称される部位の損傷が大きく、キルンの寿命を律速することが多いが、比較的熱負荷の軽い遷移帯部においてもサルファーや塩素などの外来成分の浸潤や外来成分との反応による脆化損傷が進行し、キルンの突発停止の原因となっている事例も多く認められる。
【0004】
焼成帯部については、損傷の進行に伴ってれんがの残寸も薄くなり、キルン停止後の炉内点検時においては外観上からも損傷度合の見極めが比較的容易であるが、遷移帯部で生じる脆化損傷については、れんがの外観上はれんが残厚も十分であることも多く、損傷度合の見極めが困難という問題がある。
【0005】
近年は廃プラスチックや汚泥、産業廃棄物等の処理量が著しく増加しており、それに伴って遷移帯部で使用されるれんがの損傷も増大傾向にある。遷移帯部におけるれんがの損傷防止は、セメントキルンの寿命を向上させる上での主要な解決課題の一つとなっている。
【0006】
一方、ガラス窯はその使用期間が10年以上におよぶことが多いが、特に蓄熱室において使用されるチェッカーれんがは、ガラス原料や燃料に由来するサルファーやボロン、バナジウムなどの影響を強く受けており、その損傷度合がガラス窯の寿命を律速することが多い。近年は、コストダウンのために低純度の重油が使用されることも多く、また、リサイクルガラスの使用も増加しており、それら外来成分の影響がより大きくなっており、チェッカーれんがが崩壊にいたる事例も報告されている。
【0007】
ところで、従来、セメントキルン用耐火物の改良は、焼成帯部で使用されるれんがの改良がメインであり、特にコーチング付着性の改良に主眼が置かれていた。これは、マグネシア−クロム質れんがからマグネシア−スピネル質れんがへの移行に伴ってコーチング付着性が低下し、れんがの損傷が増大し耐用が低下するという問題が生じたためである。
【0008】
この問題点を解決するために、例えば、特開平4−310561(特許文献1)、特開2000−72528(特許文献2)では、骨材として5〜30重量%のマグネシア−アルミナスピネルクリンカー、10〜50重量%の電融マグネシアクリンカーを含み、結合部に部分安定化されたジルコニアを0.5〜10重量%含むマグネシア−スピネル質耐火物が開示されている。本発明の手段では、コーチング付着性に対しては効果があると考えられるが、本発明技術によるれんがを遷移帯部で使用した場合、サルファーなどの外来成分との反応抑制に対しては十分な効果が得られない欠点がある。
【0009】
例えば、特開平5−58713(特許文献3)では、マグネシア−アルミナ系スピネル粉末が5〜40重量%、残部が実質的にマグネシア粉末からなる配合中にSiO成分を20重量%以上含有する粉末をSiO含有量が0.3〜5重量%となるように添加してなる耐火物が開示されている。しかしながら、本技術も、コーチング付着性の向上に対しては効果があると考えられるが、遷移帯部における脆化損傷の抑制に対しては十分な効果を得ることはできない。
【0010】
また、例えば特開平7−291715(特許文献4)においては、MgOとAlとを主な構成成分として有するかまたは、MgOとAlおよびSiOとを主な構成成分として有し、これらの構成成分によるスピネル相あるいはスピネル相およびフォルステライト相がマグネシア粒子の粒界に存在しているマグネシアクリンカーと、残部がスピネルを主構成成分とするスピネルクリンカーを主な配合組成とするスピネル質耐火れんがが開示されている。本発明は、あらかじめ目的とした粒界相を形成した特殊なクリンカーを用意する必要があり、必然的にコストが高くなるという問題がある。
【0011】
また、特開平4−198058(特許文献5)においては、ペリクレースを主成分とし、立方晶ジルコニアおよびフォルステライトを副成分とする鉱物組成を有するマグネシアクリンカーが開示されている。本発明技術によるマグネシアクリンカーを用いて製造した耐火物は耐食性の面では効果があると考えられるが、特開平7−291715(特許文献4)と同様にあらかじめ目的とした特殊クリンカーを用意しなければならないというコスト面での問題がある。
【0012】
また、特開2002−308667(特許文献6)においては、アルミナ−マグネシアスピネルクリンカーと高純度マグネシアクリンカーを含有する、マグネシア−スピネル塩基性耐火物の製造方法が開示されている。本技術は、スピネルおよびマグネシア骨材間のマトリックス部にスピネル結合を形成することを特徴とし、優れたコーチング付着性、高い熱間強度と高耐食性を併せ持ったセメントキルン用れんがが提供されている。本技術の塩基性耐火物は焼成帯部での使用に対しては効果があると考えられるが、遷移帯部の条件下では耐用性に劣るという欠点がある。
【0013】
一方、特開平10−226522(特許文献7)においては、アルミナ−マグネシアスピネルからなるガラス窯蓄熱室用スピネル質れんがが開示されている。本技術はスピネルの耐サルファー性を活用したものであるが、サルファーを含めボロンやバナジウムなどの外来成分に対して十分な耐用性があるとは言い難い。
【0014】
実開昭58−92336(特許文献8)においてもアルミナ−マグネシアスピネルで構成されるガラス窯蓄熱室用チェッカー構造が開示されている。本技術では、使用するスピネルは焼結スピネルが好ましいと記述されているが、焼結スピネルはサルファーやボロン、バナジウム等の外来成分とスピネル粒子中の粒界相が反応し、多結晶からなる焼結スピネル粒子の組織変化が起きるという問題点がある。
【0015】
さらに特開昭48−28008(特許文献9)では、ペリクレースとスピネルの混合粒子からなる原料を用いたことを特徴とするマグネシア質焼成耐火物が開示されている。本発明技術の耐火物は化学成分的にMgOを85重量%以上含有することから、サルファー雰囲気下でペリクレースとサルファーの反応に伴う組織変化が大きいという問題点がある。
【先行技術文献】
【0016】
【特許文献1】特開平4−310561号公報
【特許文献2】特開2000−72528号公報
【特許文献3】特開平5−58713号公報
【特許文献4】特開平7−291715号公報
【特許文献5】特開平4−198058号公報
【特許文献6】特開2002−308667号公報
【特許文献7】特開平10−226522号公報
【特許文献8】実開昭58−92336号公報
【特許文献9】特開昭48−28008号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、セメントキルンの遷移帯部や、ガラス窯蓄熱室において使用された場合においてもサルファー、ボロン、バナジウム等の外来成分との反応を抑制することによって耐火物の脆化損傷を軽減し、高寿命を達成することのできる耐火物を提供することにある。
【問題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るセメント焼成キルン用耐火物やガラス窯の蓄熱室用耐火物は、主たる構成相がスピネルである耐火物において、該耐火物を構成するスピネルとして溶融スピネル原料を用いることにより、前記問題点つまり課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、セメントキルン遷移帯部やガラス窯蓄熱室のチェッカーれんが材質として好適に用いることができる、電融スピネルからなるスピネル質耐火物が提供される。
本発明のスピネル質耐火物は、長時間の使用においてもサルファーやボロン、バナジウムなどの外来成分との反応がほとんど生じないという特徴を有し、耐火物の損傷を大きく軽減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るセメントキルン用あるいはガラス窯蓄熱室用耐火物の実施形態について詳細に説明する。なお、ここで言う溶融スピネル原料は、電気溶融法等の溶解法により製造されたスピネル原料を示すものであり、溶融法により製造されたものであれば、その加熱方法を限定するものではない。
【0021】
溶融スピネル原料の製造は電気溶融法が一般的であるため、本発明においては以後「電融スピネル」と表現する。
【0022】
本発明者らは、主たる鉱物相がスピネルから構成される耐火物において、該耐火物を構成しているスピネルが電融スピネルである場合、該耐火物とサルファーなどの外来成分との反応が抑制され、損傷が大きく軽減されることを見出した。
【0023】
マグネシア−スピネル質耐火物やスピネル質耐火物の製造に使用されるスピネルは、通常、多数のスピネル結晶が結合してなる焼結スピネルと、溶融法で製造される電融スピネルの2種に大別される。
【0024】
焼結スピネルにおいては、個々のスピネル結晶粒子は直接結合している部位もあるが、通常は、結晶粒子間に粒界相が存在し、粒界相を介して結合しているのが一般的である。この粒界相は通常CaO成分が主な構成成分であり、その他の成分としてSiO、MgO、Al等を含有している。
【0025】
一方、マグネシア−スピネル質耐火物の製造に使用されるマグネシアも、多数のペリクレース結晶が結合してなる焼結マグネシアと溶融法で製造される電融マグネシアに大別される。そして焼結マグネシアにおいては、焼結スピネルと同様に個々のペリクレース結晶粒子間にはCaO成分を主体とする粒界相が存在するのが一般的である。
【0026】
セメントキルンの内張りれんが、あるいはガラス窯の蓄熱室で使用されるチェッカーれんがにおいては、燃料や原料に起因するサルファー、ボロン、バナジウム等の外来成分の影響によると考えられる耐火物の脆化損傷が発生するという問題がある。特にセメントキルンの遷移帯部や、ガラス窯蓄熱室の中段域で使用されたチェッカーれんがで脆化損傷が顕著である。
【0027】
このような脆化損傷が発生した使用後のれんがを調査すると、多くの場合、れんが中のCaO含有量が大きく減少しているのが確認できる。通常、CaO含有相はマグネシアやスピネル中の粒界相として含まれていることから、CaO成分の減少は粒界相の消失が起きたことを示すものであり、この現象は、ペリクレース結晶粒子同士の結合組織やスピネル結晶粒子同士の結合組織を脆弱化させ、結果的に耐火物の脆化損傷をもたらす要因となっている。
【0028】
セメントキルンの遷移帯部で使用されたマグネシア−スピネル質れんがの組織観察を行うと、多結晶からなるマグネシアやスピネル粒子中の粒界相部が消失し、空洞となっている組織が顕著に確認できるが、このことは、CaO含有粒界相が消失していることを直接的に示すものである。
【0029】
さらに、セメントキルンの遷移帯部で使用されたマグネシア−スピネルれんがを観察すると、次の特徴的な組織が観察される。
【0030】
脆化損傷が進行したれんがの稼動面側においては、マグネシア粒子を構成するマグネシア結晶粒子(ペリクレース)自体が消失し、空洞化した組織が形成されているのが確認できる。サルファーとの反応によってペリクレース結晶が消失したと考えられ、やはりマグネシア−スピネル質れんがの脆化損傷の主な要因の一つと考えられる。
【0031】
一方、電融スピネルは、その製法に由来し、粒界相をほとんど持たないという特徴がある。本発明者らはその点に着目して鋭意研究し、耐火物を構成するスピネルとして電融スピネルが適していることを見出した。電融スピネルは粒界相をほとんど持たないため、サルファー、ボロン、バナジウム等の外来成分との反応が非常に生じにくく、耐火物の損傷を大きく抑制できるということを見出した。
【0032】
従来技術において、電融スピネルを使用することも可能との記述もあるが、粒界相を持たない、あるいはほとんど持たない電融スピネルの特徴については何ら言及されておらず、それら従来技術によって本発明技術の意義が損なわれるものでは全くないことを予め断っておく。
【0033】
スピネルは、狭義には一般式XYで表される結晶構造で、MgAlで代表されるスピネル(尖晶石)が代表的なものである。そしてAlとMgO間で広い固溶性を有するという著しい特徴がある。
【0034】
耐火物原料として用いられるスピネルは通常、理論組成のスピネルであることが多いが、マグネシアリッチあるいはアルミナリッチスピネルも広く使用されている。マグネシアリッチスピネルはその固溶範囲を外れた場合、フリーのペリクレースが共存した組織となる。フリーのペリクレースは、サルファーと反応し硫化物相を形成して組織変化をもたらし、脆化損傷の要因となるため、過剰のMgOが存在することは好ましくない。一方、アルミナリッチスピネルにおいても、アルミナ含有量が多くなるほど外来成分と反応し、反応相を生成しやすくなるという問題がある。
【0035】
これらの理由から、本発明におけるスピネル質耐火物の化学組成はMgO:20〜40質量%、Al:60〜80質量%の範囲が好ましい。
【0036】
なお、本発明では、上記の組成範囲であれば、製造時の出発原料としてスピネル原料以外にマグネシア原料を用いることも可能である。スピネル単相の場合、れんが製造時の焼成過程における緻密化の度合が大きいという特徴があり、マグネシア原料を少量添加することで、緻密化を抑制し、適正な組織とすることが可能となる。
【0037】
特にセメントキルンではキルン内の熱変動によるスポーリング損傷が懸念されることから、過度に緻密化した組織は耐熱スポーリング性の面で好ましくない。本発明では少量のマグネシア原料を添加することにより組織内に微細なマイクロクラックを形成し、耐熱スポーリング性を向上させることができる。
【0038】
一方、ガラス窯の蓄熱室はセメントキルン内ほどの熱変動は生じないため、外来成分との反応を抑制する上で、むしろスピネル単相で緻密化したれんがが好ましい。
【0039】
ところで、製造過程でマグネシア原料を用いた場合、最終的に得られる耐火物中に鉱物相としてのペリクレースが含まれる場合が考えられる。しかしながら、本発明においては、耐火物全体の化学組成がMgO:20〜40質量%の範囲内であれば、鉱物相としてペリクレースが存在していても何ら問題となるものではない。
【0040】
また、本発明では、耐火物を構成するスピネルの全量が電融スピネルからなることが好ましいが、焼結スピネルも適正な範囲内であれば使用することが可能である。れんが製造時の成形性確保の点で焼結スピネルを使用する場合もあり、スピネル全体量に対して20質量%未満の範囲で好適に使用することができる。20質量%を超えると該焼結スピネルとサルファー等の外来成分との反応に伴う脆化損傷の影響が大きくなり、好ましくない。
【0041】
ところで、本発明で使用する電融スピネルや焼結スピネル、電融マグネシアや焼結マグネシア中には、通常CaO成分が0.3〜1.5質量%程度含有されている。そして、このCaO成分は、その大部分がCaO含有化合物として粒界中に存在している。そして、粒界中に存在するCaO含有相は、サルファー等の外来成分と反応することにより反応相を形成し、最終的にスピネル粒子やマグネシア粒子中から消失し、その結果、粒子同士の結合組織を弱め、れんが組織を脆弱化させていると考える。
【0042】
本発明においては、耐火物中に含まれるCaO含有量は0.6質量%以下が好ましく、より好ましくはCaO:0.5質量%以下である。耐火物中のCaO含有量が0.6質量%を超えると耐脆化損傷性が低下し、好ましくない。
【0043】
本発明のスピネル質耐火物の製造方法については特に限定するものではなく、周知の耐火物の製造方法を用いて製造することができる。使用する電融スピネル原料や焼結スピネル原料、焼結マグネシア原料や電融マグネシア原料の粒度構成についても特に限定するものではなく、成形、焼成後にれんが形状を維持できる範囲内で任意の粒度構成を適用することが可能である。また、不可避の不純物を除き、少量の添加物を用いることも本発明の効果を損なわない範囲であれば可能である。
【0044】
本発明者らは、本発明の効果を確認するため、サルファーやボロン、バナジウム等を含有する化合物を侵食剤として用いて、本発明による試料の高温下での加熱試験を行った。そして、試験後試料について外観組織の観察や微細組織の観察、電子線マイクロアナライザーによる分析、圧縮強度の測定、化学分析などを行い、それら侵食剤の影響を調査した。
【0045】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
表1に示す化学組成を有するスピネル原料およびマグネシア原料を用いて、表2に示す原料配合割合からなる配合物を用意し、該配合物に、バインダーとして少量のリグニンスルホン酸マグネシウムを加えてハイスピードミキサーにて混練を行った。得られた混練物はオイルプレスによってJIS並形形状(230mm×114mm×65mm)に成形した後、乾燥し、トンネルキルンで1700℃で焼成して本発明のスピネル質耐火物、あるいは比較例で示すスピネル質耐火物を得た。
【0047】
【表1】

【0048】
なお、表2においてNo.1〜5が本発明実施例、No.6〜9が比較例である。
得られた試料については、化学分析を行うとともにX線回折装置で鉱物相の同定を行った。その結果も表2中に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
【表2】

【0051】
次に、実施例、比較例の並形試料より幅15mm×厚さ15mm×長さ150mmの試料を各1個切り出し、加熱試験用試料とした。この試料を、片方が閉となったアルミナ管状管に設置し、底部にKSOおよびカーボンブラックをそれぞれ10gおよび3gづつ充填し、蓋をした後、電気炉にセットし、1300℃で2時間の加熱を行った。
試験後試料は、試料の長さ方向に平行に切断して外観観察を行うとともに、試料の底部から鏡面研磨片作製用試料を切り出し、鏡面研磨片を作製して電子顕微鏡による微細組織観察を行った。
【0052】
表2には外観組織観察の結果および電子顕微鏡による微細組織観察の結果も合わせて示す。表2から明らかなように、実施例の試料は、加熱試験後においても健全な組織を維持していることがわかる。切断面の観察においても、粒子の脱落現象は軽微であり、結合組織が維持されている。
【0053】
電子顕微鏡による微細組織観察の結果も、電融スピネル粒子の組織変化は僅かであり、加熱処理前の組織を維持していることがわかった。
【0054】
一方、比較例6、比較例7においては、切断面での粒子の脱落現象が目立ち、脆化損傷が進行していることが明らかになった。電子顕微鏡による組織観察では、焼結マグネシア粒子や焼結スピネル粒子の組織変化が大きく、それらの粒子を構成している個々の結晶粒子が粒界の部分から分離していく現象が顕著に見られた。
【0055】
比較例8、比較例9は、外観上の組織変化は軽微であったが、微細組織を観察したところ、比較例8ではスピネル粒子間にガラス相と考えられる反応相の生成が顕著に認められた。比較例9では、焼結マグネシア粒子中のCaO含有粒界相の消失が顕著で、粒子内に空洞が多数形成されるとともに、粒界部からのペリクレース結晶粒子の分離に伴う崩壊現象も目立っていた。
【0056】
実施例2
実施例1で作製した並形形状試料から30mm×30mm×30mmの試料を各2個用意し、圧縮強度測定用試料とした。
【0057】
本試料の各1個を、内寸が幅70mm×長さ150mm×高さ60mmのマグネシア坩堝中に充填し、周囲にKSOとカーボンブラックの混合粉末を試料の半分の高さが埋まるまで充填し、その後、モルタルで蓋を接着した。そして、試料の入ったマグネシア坩堝を電気炉中にセットし、大気雰囲気下、1200℃で50時間の加熱処理を行った。ここで、KSOとカーボンブラックの混合比率は、実施例1と同じく重量比で KSO:カーボンブラック=10:3となるように設定した。
【0058】
加熱試験終了後、坩堝から試料を取り出し、さらにそれらの試料を、大気中、1200℃で10時間の熱処理を行った。大気中で熱処理を行ったのは、試料中に含まれている可能性がある低融点の反応生成物を除去するためである。
【0059】
その後、各試料について圧縮強度を測定した。比較として、加熱処理を行っていない原れんが試料についても圧縮強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0060】
本発明例では、KSO+カーボンブラック雰囲気下での加熱処理に伴う圧縮強度の低下はほとんど見られず、ほぼ原れんがの強度を維持していることがわかった。一方、比較例6、比較例7、比較例9では圧縮強度の低下割合が大きく、脆化損傷が進んでいるということがわかる。比較例8については、圧縮強度の低下は見られなかったが、これは本発明例1で確認できたように、組織内にガラス相と考えられる反応相が形成されたためと推定される。しかし、反応相の生成は高温下における特性を低下させるため、好ましくない。
【0061】
実施例3
表1に示す化学組成を有するスピネル原料およびマグネシア原料を用いて、表3に示す原料配合割合からなる配合物を用意し、該配合物にバインダーとして少量のフェノール樹脂を加え、ハイスピードミキサーにて混練した。得られた混練物はオイルプレスによってJIS並形形状に成形し、乾燥した後、トンネルキルンで1700℃で焼成し、本発明のスピネル質耐火物あるいは、比較例で示すスピネル質耐火物を得た。
【0062】
得られた並形試料より、幅60mm×厚さ60mm×高さ65mmの試料を各2個切り出し、さらに中央部に直径30mm、深さ40mmの孔をあけた。
各2個用意した試料の一方に、NaSOとBの混合物を、他方にNaSOとVの混合物を孔中に深さ30mmまで充填した後、同一材質で作製した蓋で覆った。ここでNaSOとB、Vの混合比率は、重量比でNaSO:B(V)=4:1となるようにした。
【0063】
次に、この坩堝を電気炉中にセットし、大気雰囲気下、1200℃で50時間の加熱処理を行った。試験後試料は、中央部にあけた孔部を含む位置で縦方向に切断した後、鏡面研磨片を作製し、侵食剤と接していた面の観察を電子顕微鏡によって行った。
【0064】
表3には組織観察の結果を合わせて示す。
【0065】
【表3】

【0066】
【表3】

【0067】
組織観察の結果、本発明例10〜13では電融スピネルの組織変化は軽微であり、ほぼ原れんがの組織を維持していることが明らかになった。一方、比較例14〜16においては、いずれの侵食剤を用いた条件下においても、焼結スピネルの組織変化が非常に大きい結果であり、焼結スピネル粒子が粒界部から分離し、個々のスピネル結晶粒子に崩壊する現象が顕著に見られた。比較例16では、電融スピネルの組織変化は軽微であったが、電融スピネル粒子間にガラス相と考えられる反応相の生成が顕著に認められた。
【0068】
これらの反応相はれんがの熱間特性を低下させると考えられるため、好ましくない。本発明例および比較例から、BやVは焼結スピネルの組織変化に与える影響が非常に大きいということが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は外来成分(サルファー成分、バナジウム成分、ボロン成分等)に対して反応しにくい耐火物を提供することができ、セメント焼成用キルン、石灰焼成用キルン等のロータリーキルンの遷移帯部やガラス窯蓄熱室の内張り耐火物に使用することによってこれらの窯炉の耐用を従来よりも延長することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgOおよびAlを主たる構成成分とし、化学成分としてMgOの含有量が20〜40質量%、Alの含有量が60〜80質量%の範囲である耐火物において、主たる鉱物相がスピネルであり、かつ、該耐火物を構成するスピネルの全量もしくはその大部分が溶融法で製造された溶融スピネル原料を用いてなることを特徴とするスピネル質耐火物。
【請求項2】
耐火物製造時のスピネル原料配合時における溶融スピネル原料の配合割合が、溶融スピネル原料と焼結スピネル原料を合わせた全体量に対して80質量%以上である、請求項1記載のスピネル質耐火物。
【請求項3】
前記耐火物を構成する鉱物相が実質的にスピネルあるいはスピネルとペリクレースからなる、請求項1または請求項2に記載のスピネル質耐火物。
【請求項4】
耐火物中に含まれるCaO含有量が0.6質量%以下である、請求項1〜請求項3に記載のスピネル質耐火物。

【公開番号】特開2011−57536(P2011−57536A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228507(P2009−228507)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】