説明

スピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法

【課題】環状オレフィン系重合体の単量体として使用することができるスピロ環含有ノルボルネン誘導体を、安価に、しかも環境負荷を増大させることなく製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】芳香族アルケンをヒドロホルミル化反応させて、芳香族アルコールを合成する工程1;該芳香族アルコールを脱水反応させて、芳香族エキソメチレンを合成する工程2;及び該芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、スピロ環含有ノルボルネン誘導体を合成する工程3;を含むスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系重合体の単量体として有用なスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法に関する。該スピロ環含有ノルボルネン誘導体を用いて製造した環状オレフィン系重合体は、透明性、耐熱性、低吸水性などに優れることに加えて、複屈折の大きさや波長分散性を制御することができるという特徴を有している。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系重合体(共重合体を含む)は、主鎖骨格に嵩高な脂環構造を有するため、一般に、非晶性ポリマーであり、優れた透明性と耐熱性を示し、光弾性係数が小さく、低吸水性、耐酸性、耐アルカリ性、高い電気絶縁性などの特性を示す。
【0003】
このため、環状オレフィン系重合体は、位相差フィルム、拡散フィルム、液晶基板、タッチパネル用フィルム、導光板、偏光板保護フィルムなどのディスプレイ部品;光学レンズ;CD、MD、CD−R、DVDなどの光ディスク;光ファイバー;光学フィルム(シートを含む);半導体封止剤;などの広範な技術分野で用いられている。
【0004】
環状オレフィン系重合体の中でも、特に反応性の高いノルボルネン類を単量体として合成したノルボルネン系重合体は、液晶ディスプレイなどのオプトエレクトロニクス技術の著しい成長に伴って、その需要量が増えている。
【0005】
液晶ディスプレイは、電卓やデジタル時計、オーディオ表示などから実用化が始まったが、非常に薄くコンパクトで低消費電力であるという特徴を活かし、現在では、ノートパソコン、PDA、携帯電話などの各種モバイル機器;液晶テレビ、カーナビゲーション、各種液晶モニター等の様々なディスプレイ機器に応用されるに至っている。モバイル機器も、ディスプレイ機能を有している。情報化時代の急速な発展により、モバイル機器には、メールのやり取りや情報サイトへのアクセスといった機能が重要視されている。モバイル機器やディスプレイ機器には、ディスプレイ機能において、カラー化や画像の更なる高精細化が求められている。
【0006】
このような状況下において、各種光学部品に用いられる光学用樹脂材料には、光学特性を自在に制御できるという特殊な特性が要求されるようになっている。例えば、モバイル用液晶セルには、高機能かつ低消費電力を達成するために、反射機能と透過機能を持たせた半透過型表示方式が注目されている。半透過型表示方式には、広い波長領域で偏光を得るために、長波長側に向かって右上がりに位相差が大きくなるような波長分散性(以下、「逆波長分散性」ということがある)を示すことができる位相差フィルムが必要とされる。
【0007】
汎用の光学用樹脂材料から作成した位相差フィルムの多くは、長波長側に向かって位相差値が低下する傾向を示す。このような位相差と波長の大きさとが負の相関を示す逆波長分散性の位相差フィルムを用いると、可視光線の波長領域全体にわたって均一な位相差を得ることができない。汎用の環状オレフィン系重合体を用いても、逆波長分散性を有する位相差フィルムを作成することは、極めて困難であった。
【0008】
1枚の位相差フィルムで目的の光学特性を発現させるこが困難であるため、半透過型表示方式の液晶ディスプレイを実現すべく、2枚の位相差フィルムを積層して、逆波長分散性を持たせた多層フィルムを作成する方法が知られている。しかし、この方法では、所望の逆波長分散性を発揮するように、2枚の位相差フィルムを、精密な角度調整を行って貼り合わせる必要がある。そのため、この方法は、生産性が極めて悪く、その上、位相差フィルムの厚みが厚くなるため、モバイル機器の軽量化やコンパクト化の妨げとなる。
【0009】
モバイル機器の小型化と軽量化の傾向が加速化している状況下において、1枚で逆波長分散性を示す位相差フィルムを製造可能な光学用樹脂材料の開発が望まれている。各種光学用樹脂材料の中でも、前記の如き優れた諸特性を備えていることから、これらの諸特性に加えて、さらに、複屈折の大きさや波長分散性を制御できる新たな環状オレフィン系重合体の出現が特に切望されている。
【0010】
新たな環状オレフィン系重合体として、分子内にスピロ環構造を含有するノルボルネン誘導体を重合(共重合を含む)して得られる環状オレフィン系重合体が注目されている。スピロ環含有ノルボルネン誘導体は、通常のノルボルネン系単量体と同様、開環重合、開環重合とそれに続く水素添加反応、付加重合、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合などの各種方法によって、主鎖にスピロ環構造を有する環状オレフィン系重合体とすることができる。スピロ環含有ノルボルネン誘導体は、それと共重合可能な他の単量体と共重合させることが可能である。
【0011】
例えば、特開2004−323489号公報(特許文献1)、特開2005−36201号公報(特許文献2)、特開2006−188671号公報(特許文献3)、特開2006−225316号公報(特許文献4)、特開2006−265176号公報(特許文献5)、特開2005−290048号公報(特許文献6)、及び特開2008−7733号公報(特許文献7)には、各種スピロ環含有ノルボルネン誘導体が提案されている。これらのスピロ環含有ノルボルネン誘導体を用いて製造した環状オレフィン系重合体を使用して作成した位相差フィルムは、複屈折の大きさや波長分散性を制御することができる。
【0012】
スピロ環含有ノルボルネン誘導体として、公知の化合物以外にも、優れた諸特性を有し、かつ、光学特性を精密に制御できる光学用樹脂材料の合成という観点から、様々な構造の化合物の開発が望まれている。
【0013】
スピロ環含有ノルボルネン誘導体の合成法についても、低コストで、かつ、環境負荷が小さな新たな方法の開発が求められている。一般に、地球温暖化や廃棄物など、地球環境に影響を及ぼす多様な環境負荷を配慮した樹脂の製造方法についての開発が求められているが、スピロ環含有ノルボルネン誘導体の合成法についても、このような観点からの改良が必要である。従来のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の多くは、高価な製造原料または反応中間体を用いたり、複雑な反応経路を必要としたり、環境負荷の観点から問題のある合成法を採用したりして合成されていた。
【0014】
スピロ環含有ノルボルネン誘導体は、オレフィン化合物とシクロペンタジエン類とのディールス・アルダー付加反応により合成することができる。オレフィン化合物は、対応するカルボニル化合物に、メチルトリフェニルホスホニウムブロミドなどのウィッティッヒ(Wittig)試薬と、アルキルリチウムなどの塩基を反応させる方法により製造することができる。この製造方法は、Wittig試薬が高価であることに加えて、カルボニル化合物とWittig試薬との反応が化学量論的に当量反応であるため、反応後に多量のホスフィンオキシドが副生する。このため、スピロ環含有ノルボルネン誘導体は、高価格とならざるを得ず、環境に対する負荷も大きくなってしまう。
【0015】
【特許文献1】特開2004−323489号公報
【特許文献2】特開2005−36201号公報
【特許文献3】特開2006−188671号公報
【特許文献4】特開2006−225316号公報
【特許文献5】特開2006−265176号公報
【特許文献6】特開2005−290048号公報
【特許文献7】特開2008−7733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、環状オレフィン系重合体の単量体として使用することができるスピロ環含有ノルボルネン誘導体を、安価に、しかも環境負荷を増大させることなく製造することができるスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法を提供することにある。
【0017】
より具体的に、本発明の課題は、光学用樹脂材料として用いた場合に、位相差の波長依存性の正負、光弾性係数、屈折率などの特性値を任意に調節できる環状オレフィン系重合体の製造用単量体として用いることのできるスピロ環含有ノルボルネン誘導体を、安価に、かつ環境負荷を低減して製造する方法を提供することにある。
【0018】
本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究した結果、芳香族アルケンのヒドロホルミル化反応により芳香族アルコールを得た後、該芳香族アルコールを脱水反応して得られる芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させてスピロ環含有ノルボルネン誘導体を合成する方法に想到した。
【0019】
本発明のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法は、ヒドロホルミル化反応と脱水反応とを組み合わせた合成法を採用し、Wittig試薬を用いたオレフィン合成反応を必要としないため、比較的安価に、しかも環境負荷を増大させることなく、目的とするスピロ環含有ノルボルネン誘導体を得ることができる。本発明の製造方法は、公知のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の合成のみならず、新規なスピロ環含有ノルボルネン誘導体の合成にも適用することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、下記式(1)
【0021】
【化12】

【0022】
で表わされる芳香族アルケンをヒドロホルミル化反応させて、下記式(2)
【0023】
【化13】

【0024】
で表わされる芳香族アルコールを合成する工程1;
該芳香族アルコールを脱水反応させて、下記式(3)
【0025】
【化14】

【0026】
で表わされる芳香族エキソメチレンを合成する工程2;及び
該芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、スピロ環含有ノルボルネン誘導体を合成する工程3;
を含む下記式[I]
【0027】
【化15】

【0028】
(各式中、R〜Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、極性基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。該炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。
【0029】
p、q及びrは、それぞれ独立して、0〜3の整数を表す。
aは、0〜2の整数を表す。
bは、1または2の整数を表す。
【0030】
Aは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−C(=O)−、−NR−、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。該2価の炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。Rは、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)
で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、環状オレフィン系重合体の単量体として使用することができるスピロ環含有ノルボルネン誘導体を、安価に、しかも環境負荷を増大させることなく製造することができるスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法を提供することができる。
【0032】
本発明の製造方法により得られたスピロ環含有ノルボルネン誘導体を単量体として合成した環状オレフィン系重合体は、光学用樹脂材料として用いると、位相差の波長依存性の正負、光弾性係数、屈折率などの特性値を任意に調節することができる。該環状オレフィン系重合体からなる位相差フィルムは、長波長側に向かって右上がりに位相差が大きくなるような波長分散性(逆波長分散性)を示すため、半透過型表示方式の液晶ディスプレイに好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の製造方法の工程1では、下記式(1)
【0034】
【化16】

【0035】
で表わされる芳香族アルケンをヒドロホルミル化反応させて、下記式(2)
【0036】
【化17】

【0037】
で表わされる芳香族アルコールを合成する。
【0038】
本発明の製造方法の工程2では、該芳香族アルコールを脱水反応させて、下記式(3)
【0039】
【化18】

【0040】
で表わされる芳香族エキソメチレンを合成する。
【0041】
上記工程1及び2の各反応は、下記式[II]
【0042】
【化19】

【0043】
(各式中、Rは、ハロゲン原子、極性基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。該炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。
【0044】
rは、0〜3の整数を表す。
bは、1または2の整数を表す。
【0045】
Aは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−C(=O)−、−NR−、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。該2価の炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。Rは、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)
で表わすことができる。
【0046】
芳香族エキソメチレンは、分子中に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物の一種である。
【0047】
このような構造を持つオレフィン化合物は、下記式[III]
【0048】
【化20】

【0049】
(式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる合成法により、対応するカルボニル化合物(6)に、メチルトリフェニルホスフォニウムブロミドなどのウィッティッヒ(Wittig)試薬と、アルキルリチウムなどの塩基を反応させる方法により合成することができる〔Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry.29,1779(1991)〕。
【0050】
ウィッティッヒ反応を利用すれば、対応するカルボニル化合物を1工程でオレフィン化合物に変換することができる。しかし、この合成法は、1)ウィッティッヒ試薬が極めて高価である、2)対応するカルボニル化合物とウィッティッヒ試薬の当量反応であるため、反応終了後に大量のホスフィンオキシドが生成する、という問題がある。そのため、ウィッティッヒ反応を利用したオレフィン化合物の合成法では、低コスト化を図ることができない上、環境に対する負荷が大きくなる。
【0051】
これに対して、前記式[II]で表わされる合成法は、2工程を必要とするものの、1)比較的入手が容易な芳香族アルケンを出発原料として使用することができる、2)高価なウィッティッヒ試薬を用いる必要がない、3)環境負荷を増大させる副生物量を抑制することができる、4)脱水工程で用いる酸性物質の種類などの反応条件を選択することによって、比較的高収率で芳香族エキソメチレン(オレフィン化合物)を合成することができる、などの利点を発揮することができる。
【0052】
本発明の製造方法の工程1では、芳香族アルケンをヒドロホルミル化反応させて、芳香族アルコールを合成する。本発明においては、前記式(1)で表わされる芳香族アルケンを使用する。芳香族アルケンの中でも、入手が容易で、かつ、諸特性に優れた環状オレフィン系重合体を与えることができるスピロ環含有ノルボルネン系誘導体を合成し易い点で、下記式(1a)
【0053】
【化21】

【0054】
(式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる芳香族アルケン(1a)が好ましく、下記式(1b)
【化22】

【0055】
(式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる芳香族アルケン(1b)がより好ましい。
【0056】
同様の理由で、芳香族アルケンとして、下記式(1c)
【0057】
【化23】

【0058】
(式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる芳香族アルケン(1c)が好ましく、下記式(1d)
【0059】
【化24】

【0060】
(式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる芳香族アルケン(1d)がより好ましい。
【0061】
前記式(1)で表わされる芳香族アルケンとしては、例えば、インデン類、チオインデン類、ベンゾフラン類、インドール類、ジヒドロナフタレン類などが好ましい。芳香族アルケンのより好ましい具体例は、以下の式(1a−1)〜(1a−16)
【0062】
【化25】

【0063】
で表わされる化合物である。これらの芳香族アルケン(1a−1)〜(1a−16)は、未置換の化合物だけではなく、各芳香環が1〜3個の前記置換基Rによって置換された構造の化合物であってもよい。
【0064】
これらの芳香族アルケンの中でも、前記式(1b)で表わされるインデン類がより好ましく、前記式(1a−1)で表わされる未置換のインデンがさらに好ましい。
【0065】
本発明の製造方法の工程1において、芳香族アルケンをヒドロホルミル化反応させて芳香族アルコールを合成するには、芳香族アルケンを、カルボニルクロロビス(トリフェニルホスフィン)ロジウムなどの触媒の存在下に、一酸化炭素(CO)と水素ガス(H)の混合ガスと反応させる方法が好ましい。触媒の使用量は、芳香族アルケン100重量部に対して、通常、0.001〜0.1重量部の範囲である。反応温度は、通常、50〜150℃である。圧力は、通常、10〜200MPa、好ましくは20〜150MPaである。反応時間は、通常、10分間から30時間、好ましくは1〜20時間である。
【0066】
工程1での芳香族アルケンのヒドロホルミル化反応により、前記式(2)で表わされる芳香族アルコールが得られる。芳香族アルコールは、下記式(2a)
【0067】
【化26】

【0068】
で表わされる化合物が好ましく、下記式(2b)
【0069】
【化27】

【0070】
(各式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる化合物がより好ましい。
【0071】
本発明の製造方法の工程2では、芳香族アルコールを脱水反応させて、芳香族エキソメチレンを合成する。芳香族アルコールの脱水反応は、酸性物質の共存下に行うことが好ましい。
【0072】
酸性物質としては、ルイス酸を用いることができる。酸性物質の具体例としては、塩化アルミニウム、濃硫酸、濃塩酸、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、三フッ化ホウ素、六塩化ニオブなどを挙げることができるが、これらの限定されない。
【0073】
これらの酸性物質の中でも、高収率で芳香族エキソメチレンを得ることができる点で、塩化アルミニウムが特に好ましい。酸性物質の使用量は、芳香族アルコール100重量部に対して、通常、50〜400重量部、好ましくは80〜300重量部、より好ましくは100〜250重量部である。芳香族アルケンのヒドロホルミル化反応後、反応生成物を、減圧下に加熱蒸留する方法、またはその他の精製方法によって、精製することにより、芳香族アルコールを回収する。
【0074】
脱水反応は、芳香族アルコールと酸性物質とを、不活性ガス雰囲気下で、攪拌しながら混合する方法により行うことが好ましい。反応温度は、通常、80〜250℃、好ましくは100〜200℃である。反応時間は、通常、10分間から10時間、好ましくは30分間から5時間である。
【0075】
芳香族アルコールの脱水反応後、反応生成物を、カラムクロマトグラフィによる精製、またはその他の精製方法によって、精製することにより、芳香族エキソメチレンを回収する。
【0076】
工程2で得られる芳香族エキソメチレンは、前記式(3)で表わされるオレフィン化合物である。芳香族エキソメチレンは、下記式(3a)
【0077】
【化28】

【0078】
で表わされる化合物が好ましく、下記式(3b)
【0079】
【化29】

【0080】
(各式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる化合物がより好ましい。
【0081】
芳香族エキソメチレンの好ましい具体例は、下記式(3a−1)〜(3a−16)
【0082】
【化30】

【0083】
で表わされる化合物である。これらの芳香族エキソメチレン(3a−1)〜(3a−16)は、未置換の化合物だけではなく、各芳香環が1〜3個の前記置換基Rによって置換された構造の化合物であってもよい。
【0084】
本発明の製造方法の工程3では、芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、スピロ環含有ノルボルネン誘導体を合成する。このディールス・アルダー付加反応は、以下に述べるように、1段階から3段階の任意の段階で行うことができる。ディールス・アルダー付加反応を、2段階または3段階で行うには、工程3に加えて、工程4及び工程5の付加的な工程を配置する。
【0085】
シクロペンタジエン類としては、下記式(4)
【0086】
【化31】

【0087】
で表わされる未置換または置換シクロペンタジエン、及び下記式(5)
【0088】
【化32】

【0089】
(各式中、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、極性基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。該炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。p及びqは、それぞれ独立して、0〜3の整数を表す。)
で表わされる未置換または置換シクロペンタジエンを用いることができる。
【0090】
シクロペンタジエン類としては、未置換または置換ジシクロペンタジエンを用いることもできる。副反応を抑制し、かつ、所望の環構造を持つノルボルネン誘導体が容易に得られる点で、前記の如き未置換または置換シクロペンタジエンを用いることが好ましい。
【0091】
芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応(1段階反応)させると、下記式[IV]
【0092】
【化33】

【0093】
(式中の各符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされるように、スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−1]を合成することができる。
【0094】
該スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−1]とシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応(2段階反応)させると、下記式[V]
【0095】
【化34】

【0096】
(式中の各符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされるように、スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−2]を合成することができる。
【0097】
該スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−2]とシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応(3段階反応)させると、下記式[VI]
【0098】
【化35】

【0099】
(式中の各符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされるように、スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−3]を合成することができる。
【0100】
ディールス・アルダー付加反応は、各成分を攪拌しながら加熱反応させる方法により実施することができる。反応温度は、通常、100〜300℃、好ましくは120〜280℃、より好ましくは150〜250℃である。反応時間は、通常、3分間から10時間、好ましくは10分間から8時間、より好ましくは30分間から5時間である。
【0101】
各反応の終了後、通常、反応生成物を蒸留法、カラムクロマトグラフ法、再結晶化法などの分離・精製手段により精製して、目的とするスピロ環含有ノルボルネン誘導体を単離する 目的物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトルなどの分析手段を用いることにより、同定することができる。
【0102】
本発明の製造方法により得られるスピロ環含有ノルボルネン誘導体は、下記式[I]
【0103】
【化36】

【0104】
で表わされる化合物である。
【0105】
式[I]中、R〜Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、極性基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。該炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。p、q及びrは、それぞれ独立して、0〜3の整数を表す。aは、0〜2の整数を表す。bは、1または2の整数を表す。Aは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−C(=O)−、−NR−、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。該2価の炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。Rは、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。
【0106】
〜Rがハロゲン原子である場合、該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子が挙げられる。R〜Rが極性基である場合、該極性基は、一般に、炭素原子とは異なる電気陰性度を持つ原子または該原子を含む基である。このような原子または基としては、例えば、酸素原子;硫黄原子;酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含有する基が挙げられる。
【0107】
極性基の具体例としては、オキソ基(=O)、イミノ基(=NH)、チオキソ基(=S)等の2価の極性基;水酸基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;アセトキシ基、プロピオニルキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基;ベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基;シアノ基;アミド基;イミド基;トリメチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基等のトリオルガノシロキシ基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等のトリオルガノシリル基;アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、フェニルアミノ基等の、置換されていてもよいアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基;トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のアルコキシシリル基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、4−メチルフェニルスルホニル基等のアリールスルホニル基;ニトロ基;シアノ基;カルボキシル基;スルホン酸基;メルカプト基;等が挙げられる。
【0108】
炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチリデン基、プロピリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の芳香族基等が挙げられる。
【0109】
該炭化水素基は、置換されていてもよい。置換基としては、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、フェニルアミノ基等の置換されていてもよいアミノ基;メチルスルホニル基等のアルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基等のアリールスルホニル基;シアノ基;ニトロ基;等が挙げられる。
【0110】
前記の置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。すなわち、前記置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基は、直接環構造に結合していてもよいし、あるいは連結基を介して結合していてもよい。
【0111】
連結基としては、カルボニル基(−CO−)、カルボニルオキシ基〔−C(=O)−O−〕、スルホニル基(−SO−)、スルホニルエステル基(−SO−O−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)、アミド結合(−NHCO−)、シロキサン結合〔−Si(r)(r’)O−〕(r,r’は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基等のアルキル基;フェニル基、4−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;を表す。)等の酸素原子、窒素原子、イオウ原子またはケイ素原子を含む基;これらの2種以上の基の組み合わせ;等が挙げられる。
【0112】
p、q及びrは、それぞれ独立して、0〜3の整数を表す。p、q及びrが、それぞれ独立して、0または1であることが好ましい。p、q及びrが、それぞれ2以上のとき、複数のR〜Rは、互いに同一であっても、相異なっていてもよい。
【0113】
aは、0〜2の整数を表す。aが、0または1であることが好ましい。bは、1または2である。
【0114】
Aは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−C(=O)−、−NR−、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。Rは、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。該炭素数1〜30の炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。
【0115】
が置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基である場合、該炭化水素基としては、前記R〜Rの置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基について挙げた具体例と同じものが挙げられる。Rの置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基が、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはケイ素原子を含む連結基を有していてもよいことも、前記R〜Rの置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基と同じである。
【0116】
該Aが置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基である場合、該炭素数1〜30の2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基等の炭素数1〜30のアルキレン基;ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基等の炭素数2〜30のアルケニレン基;o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、1,4−ナフタレン基等の炭素数6〜30のアリーレン基;アルキレン基とアリーレン基の組み合わせ;等が挙げられる。これらの中でも、−(CH)n−(nは0または1〜3の整数)で表されるアルキレン基が好ましい。
【0117】
前記式[I]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体の中でも、下記式[Ia]
【0118】
【化37】

【0119】
(式中の各符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされる化合物が好ましい。
【0120】
式[I]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体は、a=0の場合、下記式[I−1]
【0121】
【化38】

【0122】
で表わされる化合物であり、a=1の場合、下記式[I−2]
【0123】
【化39】

【0124】
で表わされる化合物であり、a=2の場合、下記式[I−3]
【0125】
【化40】

【0126】
で表わされる化合物である。
【0127】
本発明の製造方法によって得られるスピロ環含有ノルボルネン誘導体の具体例としては、以下の化合物が挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。以下に示す化合物の例示において、下記式(X)
【0128】
【化41】

【0129】
で示すスピロ環の部分構造は、下記式(Y)
【0130】
【化42】

【0131】
(式中の各符号の意味は、前記と同じである。)
で示される部分構造を表すものとする。
【0132】
前記式[I]において、a=0であり、したがって、式[I−1]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体には、下記式[I−1−1]〜[I−1−12]
【0133】
【化43】

【0134】
で表わされる化合物が含まれる。
【0135】
前記式[I]において、a=1であり、したがって、式[I−2]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体には、下記式[I−2−1]〜[I−2−12]
【0136】
【化44】

【0137】
で表わされる化合物が含まれる。
【0138】
前記式[I]において、a=2であり、したがって、式[I−3]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体には、下記式[I−3−1]〜[I−3−9]
【0139】
【化45】

【0140】
で表わされる化合物が含まれる。
【0141】
前記式(X)で表わされるスピロ環の部分構造の具体例としては、下記式(X−1)〜(X−16)
【0142】
【化46】

【0143】
で表わされる部分構造が含まれる。
【0144】
本発明のスピロ環含有ノルボルネン誘導体は、一般のノルボルネン系単量体と同様に、開環重合、開環重合と引き続く水素添加反応、付加重合、α−オレフィンなどとの付加共重合などの反応によって、環状オレフィン系重合体を合成するための単量体として使用することができる。スピロ環含有ノルボルネン誘導体の重合方法としては、公知のノルボルネン系単量体の重合方法を採用することができる。
【0145】
本発明のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の開環重合体水素添加物などの環状オレフィン系重合体は、光学用樹脂材料として用いると、位相差の波長依存性の正負、光弾性係数、屈折率などの特性値を任意に調節することができる。該環状オレフィン系重合体からなる位相差フィルムは、長波長側に向かって右上がりに位相差が大きくなるような波長分散性(逆波長分散性)を示すため、半透過型表示方式の液晶ディスプレイに好適に適用することができる。
【実施例】
【0146】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において、化合物の構造決定は、以下の方法で行った。
【0147】
(1)化合物の構造決定
各反応後の生成物の構造決定は、溶媒に重クロロホルムを用いるH−NMRスペクトル測定により行った。NMR測定装置としては、JMN=ALシリーズAL400(JEOL社製)を用いた。
【0148】
[実施例1]
(1)芳香族アルケンのヒドロホルミル化反応:
インデン100重量部、及びカルボニルクロロビス(トリフェニルホスフィン)ロジウム0.04重量部をSUS製反応器に投入し、これらの化合物を含有する系内を密閉した。これらの化合物を、スターラーを用いて攪拌しながら、系内を一酸化炭素/水素ガス(モル比1:1)で置換し、温度80℃、圧力70MPaで10時間反応させた。
【0149】
反応終了後、反応混合溶液を減圧加熱蒸留することにより、87%の収率で無色透明な液体を得た。該液体の沸点(5mmHgで測定)は、52℃であった。得られた無色透明な液体のH−NMRスペクトルを測定した。この測定結果により、この化合物が1−ヒドロキシメチルインダンであることが確認された。スペクトルデータを以下に示す。
【0150】
H−NMR(δppm):1.73〜2.48(m、2H)、2.80〜3.08(m、2H)、3.82(d、2H)、3.20〜3.53(m、1H)、7.04〜7.40(m、4H)
【0151】
(2)芳香族アルコールの脱水反応:
得られた1−ヒドロキシメチルインダン100重量部、及び塩化アルミニウム150重量部をフラスコに加えて、系内を窒素置換した。これらの化合物を、スターラーを用いて攪拌しながら、温度140℃で2時間反応させた。
【0152】
反応終了後、反応混合溶液をカラムクロマトグラフィ〔担体=シリカゲル、溶媒=酢酸エチル/ノルマルヘキサン(1:10)混合溶媒〕にかけた後、溶媒を減圧加熱しながら留去したところ、30%の収率で無色透明な液体を得た。この無色透明な液体のH−NMRスペクトルを測定したところ、1−メチレンインダンであることが確認された。スペクトルデータを以下に示す。
【0153】
H−NMR(δppm):2.80(m、2H)、2.98(m、2H)、5.03(t、1H)、5.44(t、1H)、7.21(m、3H)、7.49(m、1H)
【0154】
上記ヒドロホルミル化反応及び脱水反応は、下記式[VII]
【0155】
【化47】

【0156】
で表わされる。
【0157】
(3)芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン誘導体のディールス・アルダー付加反応:
上記得られた1−メチレンインダン100重量部、及びシクロペンタジエン50重量部をSUS製反応器に加え、系内を窒素置換した。系内を密閉した後、これらの化合物を、スターラーで攪拌しながら加熱して、温度180℃で2時間反応させた。反応終了後、反応混合物を減圧加熱して、未反応物を除去することにより、38%の収率で無色透明な液体を得た。この液体の沸点(5mmHg)は、160℃であった。得られた無色透明な液体のH−NMRスペクトルを測定した結果、スピロ[インダン―3,3′−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ―5エン]であることが確認された。スペクトルデータを以下に示す。
【0158】
H−NMR(δppm):1.33(d、1H)、1.52(d、2H)、1.68(m、2H)、1.83(m、2H)、1.95(m、2H)、2.08(dd、1H)、2.15〜2.31(m、2H)、2.61(s、1H)、2.68(s、1H)、2.75(m、1H)、2.80〜2.90(m、2H)、2.95(m、3H)、5.82(s、1H)、6.28(s、2H)、6.37(s、1H)、6.93(d、1H)、7.04(t、1H)、7.10(t、1H)、7.12〜7.19(m、3H)、7.21(m、1H)、7.27(m、1H)
【0159】
上記ディールス・アルダー付加反応は、下記式[VIII]
【0160】
【化48】

【0161】
で表わされる。
【0162】
式[VIII]で得られた生成物とシクロペンタジエンとを、2段階のディールス・アルダー付加反応させると、下記式[IX]
【0163】
【化49】

【0164】
で表わされる反応が進行する。さらに、式[IX]で得られた生成物とシクロペンタジエンとを、3段階のディールス・アルダー付加反応させると、下記式[X]
【0165】
【化50】

【0166】
で表わされる反応が進行する。
【0167】
[実施例2]
実施例1において、塩化アルミニウム150重量部に代えて、濃硫酸100重量部を用いた以外は、実施例1と同様に行い反応混合物を得た。得られた反応混合溶液をカラムクロマトグラフィ〔担体=シリカゲル、溶媒=酢酸エチル/ノルマルヘキサン(1:10)混合溶媒〕にかけた後、溶媒を減圧加熱しながら留去したところ、15%の収率で無色透明な液体を得た。得られた無色透明な液体のH−NMRスペクトルを測定した結果、1−メチレンインダンであることが確認された。
【0168】
次いで、実施例1と同様にしてシクロペンタジエンとのディールス・アルダー付加反応を行い、スピロ[インダン―3,3′−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ―5エン]を得た。
【0169】
[実施例3]
実施例1において、塩化アルミニウム150重量部に代えて、濃塩酸100重量部を用いた以外は、実施例1と同様に行い反応混合物を得た。得られた反応混合溶液をカラムクロマトグラフィ〔担体=シリカゲル、溶媒=酢酸エチル/ノルマルヘキサン(1:10)混合溶媒〕にかけた後、溶媒を減圧加熱しながら留去したところ、6%の収率で無色透明な液体を得た。得られた無色透明な液体のH−NMRスペクトルを測定した結果、1−メチレンインダンであることが確認された。
【0170】
次いで、実施例1と同様にしてシクロペンタジエンとのディールス・アルダー付加反応を行い、スピロ[インダン―3,3’−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ―5エン]を得た。
【0171】
[参考例1]
(1)芳香族ケトンのWittig反応:
Journals of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry.29,1779(1991)を参考に、下記の手順で芳香族ケトンのWittig反応を行った。
【0172】
メチルトリフェニルホスフォニウムブロミド100重量部、及びジエチルエーテル200重量部をガラス製反応器に加え、系内を窒素置換した。系内を密閉した後、これらの化合物を、スターラーを用いて攪拌しながら、1.6Nブチルリチウムヘキサン溶液166重量部を滴下し、温度25℃で5時間反応させた。その後、1−インダノン35重量部をジエチルエーテル40重量部に溶解させた溶液を、系内に滴下し、温度50℃で12時間反応させた。反応終了後、吸引濾過にて析出物を除去した後、反応混合溶液を減圧加熱して、溶媒及び未反応物を除去することにより、33%の収率で無色透明な液体を得た。この液体の沸点(5mmHg)は、66℃であった。得られた無色透明な液体のH−NMRスペクトルを測定した結果、1−メチレンインダンであることが確認された。
【0173】
(2)芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン誘導体のディールス・アルダー付加反応:
SUS製ボトルに、得られた1−メチレンインダン100重量部、及びシクロペンタジエン50重量部を加え、系内を窒素置換した。系内を密閉した後、これらの化合物を、スターラーで攪拌しながらマントルヒーターで加熱して、温度180℃で2時間反応させた。反応終了後、反応混合物を減圧加熱して、未反応物を除去することにより、38%の収率で無色透明な液体を得た。この液体の沸点(5mmHg)は、160℃であった。得られた無色透明な液体のH−NMRスペクトルを測定した結果、スピロ[インダン―3,3’−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ―5エン]であることが確認された。
【0174】
実施例1〜3及び参考例1の製造工程及び結果を表1に示す。
【0175】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明によれば、優れた透明性、耐熱性、低吸水性を示し、かつ、複屈折性や波長分散性を自在にコントロールした環状オレフィン系重合体を製造するための単量体として有用なスピロ環含有ノルボルネン誘導体の新規な製造方法を提供することができる。
【0177】
本発明の製造方法により得られたスピロ環含有ノルボルネン誘導体は、スピロ結合で芳香族基をシクロ環と垂直方向に固定している。そのため、本発明で得られるスピロ環含有ノルボルネン誘導体を用いて得られる重合体は、スピロ環含有ノルボルネン誘導体の含有量を適切に調整することにより、複屈折性や波長分散性を自在に制御することが可能である。
【0178】
本発明の製造方法により得られるスピロ環含有ノルボルネン誘導体は、光学樹脂として用いられる環状オレフィン系重合体の製造用単量体として利用することができる。
【0179】
該スピロ環含有ノルボルネン誘導体を用いて得られる環状オレフィン系重合体は、光ディスク、光磁気ディスク、光学レンズ(Fθレンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンター用レンズ、カメラレンズ等)、眼鏡レンズ、光学フィルム/シート(ディスプレイ用フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、拡散フィルム、反射防止フィルム、液晶基板、EL基板、電子ペーパー用基板、タッチパネル基板、PDP前面板等)、透明導電性フィルム用基板、光ファイバー、導光板、光カード、光ミラー、IC、LSI、LED封止材等、非常に高精度の光学設計が必要とされている光学材料への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で表わされる芳香族アルケンをヒドロホルミル化反応させて、下記式(2)
【化2】

で表わされる芳香族アルコールを合成する工程1;
該芳香族アルコールを脱水反応させて、下記式(3)
【化3】

で表わされる芳香族エキソメチレンを合成する工程2;及び
該芳香族エキソメチレンとシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、スピロ環含有ノルボルネン誘導体を合成する工程3;
を含む下記式[I]
【化4】

(各式中、R〜Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、極性基、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。該炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。
p、q及びrは、それぞれ独立して、0〜3の整数を表す。
aは、0〜2の整数を表す。
bは、1または2の整数を表す。
Aは、単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−C(=O)−、−NR−、または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。該2価の炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子を含む連結基を有していてもよい。Rは、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)
で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項2】
該工程3において、該芳香族エキソメチレンと下記式(4)
【化5】

で表わされるシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、
下記式[I−1]
【化6】

(各式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体を合成する請求項1記載のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項3】
該工程3において、該芳香族エキソメチレンと該式(4)で表わされるシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、該式[I−1]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−1]を合成した後、
該スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−1]と下記式(5)
【化7】

で表わされるシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、下記式[I−2]
【化8】

(各式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−2]を合成する工程4;
をさらに含む請求項1または2記載のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項4】
該工程3において、該芳香族エキソメチレンと該式(4)で表わされるシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、前記式[I−1]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−1]を合成した後、
該スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−1]と該式(5)で表わされるシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、該式[I−2]で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−2]を合成する工程4;及び
該スピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−2]と該式(5)で表わされるシクロペンタジエン類とをディールス・アルダー付加反応させて、下記式[I−3]
【化9】


(各式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体[I−3]を合成する工程5;
を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項5】
該式(1)で表わされる芳香族アルケンが、下記式(1a)
【化10】

で表わされるインデン類であり、該スピロ環含有ノルボルネン誘導体が、下記式(Ia)
【化11】

(各式中の符号の意味は、前記と同じである。)
で表わされるスピロ環含有ノルボルネン誘導体(Ia)である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項6】
該工程2において、該芳香族アルコールを、酸性物質の存在下に脱水反応させて、該芳香族エキソメチレンを合成する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項7】
該酸性物質が、ルイス酸である請求項6記載のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。
【請求項8】
該酸性物質が、塩化アルミニウムである請求項6記載のスピロ環含有ノルボルネン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2009−242251(P2009−242251A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87660(P2008−87660)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】