説明

スピーカー振動板およびこれを用いた動電型スピーカー

【課題】 熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板に関し、音響特性の改善と、組立の容易化や工数の削減を、両立させることができるスピーカー振動板およびこれを用いた動電型スピーカーを提供する。
【解決手段】 スピーカー振動板は、熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板であって、ボイスコイルが連結する振動板部と、磁気回路もしくは振動板固定部材に固定される固定部と、振動板部と固定部との間に規定されるエッジ部と、を備え、エッジ部を構成する第2積層構造が、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化し、振動板部および固定部を構成する第1積層構造に比較して薄肉状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板に関し、これを用いたドーム状のスピーカー振動板、もしくは、円環状のリング振動板を備える動電型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のドーム型スピーカーに用いられる振動板には、振動板基布の表面に直接または振動ロス材樹脂層を介して振動ロス材樹脂とフツ素樹脂との混合組成物層を形成してなることを特徴とするものがある(特許文献1)。内部損失を向上させるコーティング布の場合、綿や合成繊維の織布にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸し、その表面にアクリル樹脂やウレタン樹脂等をコーティングしたものがあり、高剛性かつ高内部損失といった物性の調整が比較的安価でコントロールできるため最も多く使用されている。
【0003】
他の従来の振動板には、振動板に取り付けた可動コイルの外側に、1箇所以上の同心円状に形成された薄肉部を有する動電型スピーカー振動板がある(特許文献2)。また、融点の異なる複数種の合成樹脂又は合成樹脂繊維と天然樹脂繊維とを含む素材により、エッジ部が薄く、胴部が厚くなるように一体的に熱成形してなるスピーカー振動板がある(特許文献3)。
【0004】
あるいは、他の従来の振動板には、天然絹繊維の片面または両面に化学的蒸着法により非晶質材料の金属層を設け、フェノール樹脂を含浸乾燥後クロロスルフォン化ポリエチレン樹脂を複数回コーティングした基布を所定の形状に加熱成形してなるスピーカー用振動板がある(特許文献4)。
【0005】
また、上記と同様の振動板基布を用いる円環状のリング振動板を備えるリング型スピーカーにおいては、周波数特性および指向特性等の音響特性を改善するために、円環状のリング振動板の前面にイコライザー、ホーン等を取り付けるものがある。リング振動板は、内周を固定支持され、リング振動板の内周にリング振動板の外周直径に匹敵するような大きさの砲弾状のイコライザーを配置することにより、高音域における音響特性を改善する。ドーム型スピーカーおよびリング型スピーカーは、多くは高音域用のツィーターとして使用される。例えば、本願発明の出願人による従来のリング型スピーカーでは、不要な振動および異音の抑制を含む周波数特性等の音響特性の改善と、組立の容易化や部品点数および工数の削減とを、両立させることを目的にして、磁気回路と、磁気回路の磁気空隙に配されるボイスコイルと、ボイスコイルが連結する円環状のリング振動板と、リング振動板の内周に配置される砲弾状イコライザーと、リング振動板の外周に配置される環状イコライザーと、砲弾状イコライザーおよび環状イコライザーを連結する複数の半径方向に延設された板状の連結アームと、を備えるリング型スピーカーであって、連結アームが、半径方向の断面形状において砲弾状イコライザーの頭頂端を通る円弧で表される第1稜線と、半径方向の断面形状において砲弾状イコライザーの底面端を通る円弧で表される第2稜線と、第1稜線および第2稜線を連結する板状部と、を備え、連結アームの円周方向の断面形状が、第1稜線を表す第1円弧と、第1円弧の半径以上の半径を備える該第2稜線を表す第2円弧と、該板状部を表す曲線と、から規定されるようにしたものがある(特許文献5)。
【0006】
これらのコーティング布のスピーカー振動板を用いる動電型スピーカーでは、ボイスコイルの取り付けられる振動板部と、可動部分としての振動板部を振動可能に支持するエッジ部と、エッジ部の周囲で磁気回路等に固定される固定部と、が一体に成形される。振動板部の材料と形状だけでなく、エッジ部の形状ならびに固定部の固定構造は、高音域用のツィーターとしての音響特性に影響を与える。つまり、振動板部に求められる物性と、エッジ部に求められる物性とが異なるにもかかわらず、これらを一体に成形するスピーカー振動板では、音響特性の改善と、組立の容易化や部品点数および工数の削減と、を両立させるには、従来技術では十分ではない場合がある、という問題がある。特に、リング振動板の場合には、円環状の振動板部の内周側および外周側にエッジ部を要するので、音響特性に与える影響が大きいという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特許第2676158号 (第1図)
【特許文献2】実開昭57−117889号公報 (第2図〜第5図)
【特許文献3】実開昭58−155196号公報 (第2図)
【特許文献4】特許第3067360号 (第1図)
【特許文献5】特許第4042732号 (第1図、第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板に関し、音響特性の改善と、組立の容易化や工数の削減を、両立させることができるスピーカー振動板およびこれを用いた動電型スピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスピーカー振動板は、熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板であって、ボイスコイルが連結する振動板部と、磁気回路もしくは振動板固定部材に固定される固定部と、振動板部と固定部との間に規定されるエッジ部と、を備え、エッジ部を構成する第2積層構造が、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化し、振動板部および固定部を構成する第1積層構造に比較して薄肉状に形成されている。
【0010】
また、本発明のスピーカー振動板は、基材にコーティングされている熱可塑性樹脂の面上に、更に金属膜と、金属膜上に形成される酸化被膜と、を有する。
【0011】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、エッジ部を構成する第2積層構造の厚みt2が、振動板部および固定部を構成する第1積層構造の厚みt1の50%〜80%の範囲内に設定されて、第2積層構造の剛性G2が第1積層構造の剛性G1に比較して小さく、かつ、第2積層構造の内部損失tanδ2が第1積層構造の内部損失tanδ1に比較して大きい。
【0012】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、基材である平織布を構成する経糸ならびに緯糸が、合成繊維のポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、および、レーヨンのモノフィラメント糸のいずれかから選択され、熱可塑性樹脂が、合成樹脂のポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、および、ウレタン樹脂のいずれかから選択される。
【0013】
また、本発明のスピーカー振動板は、金属膜を形成する金属が、チタン、クロム、金のいずれかから選択される。
【0014】
また、本発明のスピーカー振動板は、金属膜が、物理的蒸着法により形成され、酸化被膜が、エージング法で形成されている。
【0015】
さらに好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、熱可塑性樹脂が、さらに発泡ビーズを含む。
【0016】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、振動板部が、円環状のリング振動板部であって、固定部が、リング振動板部の内周側を固定する内周固定部と、リング振動板部の外周側を固定する外周固定部と、を含み、エッジ部が、リング振動板部と内周固定部との間に規定される内周エッジ部と、リング振動板部と外周固定部との間に規定される外周エッジ部と、を含む。
【0017】
また、本発明の動電型スピーカーは、上記のスピーカー振動板と、磁気回路と、磁気回路の磁気空隙に配されてスピーカー振動板と連結するボイスコイルと、を備える。
【0018】
また、本発明の動電型スピーカーは、上記のリング振動板部を含むスピーカー振動板と、磁気回路と、磁気回路と連結するイコライザーと、磁気回路の磁気空隙に配されてスピーカー振動板と連結するボイスコイルと、を備える。
【0019】
以下、本発明の作用について説明する。
【0020】
本発明のスピーカー振動板は、熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板であって、ボイスコイルが連結する振動板部と、磁気回路もしくは振動板固定部材に固定される固定部と、振動板部と固定部との間に規定されるエッジ部と、を備え、これらが一体に成形される。また、本発明の動電型スピーカーは、上記のスピーカー振動板と、磁気回路と、磁気回路の磁気空隙に配されてスピーカー振動板と連結するボイスコイルと、を備える。なお、振動板固定部材は、スピーカー振動板の固定部を磁気回路、あるいは、イコライザーに振動板を固定する部材である。
【0021】
ここで、本発明のスピーカー振動板に用いる平織布とは、タフタと呼称される平織の薄地の絹織物、もしくは、合成繊維のフィラメント糸を使った平織の薄地の織物である。平織布は、密に織った経糸ならびに緯糸から構成され、経糸ならびに緯糸は、合成繊維のポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、レーヨン等の合成繊維のモノフィラメント糸を、撚加工を施さないで束ねたマルチフィラメント糸として構成した糸である。平織布は、撚加工を施していない糸を使用して密に織られているので、開口率が小さくてコーティングする熱可塑性樹脂の裏漏れの心配がなく、スピーカー用振動板に用いるのに適している。
【0022】
本発明のスピーカー振動板では、振動板部および固定部を構成する第1積層構造が、厚みt0の基材に熱可塑性樹脂がコーティングされて厚さt1となっている場合に、エッジ部を構成する第2積層構造の厚みt2は、第1積層構造に比較して薄肉状に形成されている。すなわち、エッジ部を構成する第2積層構造では、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化しており、熱プレス加工によって第1積層構造の厚みt1に比較して、より薄く厚みt2(厚みt1の50%〜80%)に形成されている。したがって、第2積層構造の剛性G2が第1積層構造の剛性G1に比較して小さく、かつ、第2積層構造の内部損失tanδ2が第1積層構造の内部損失tanδ1に比較して大きくすることができる。
【0023】
その結果、一体化されたスピーカー振動板であるにも関わらず、振動板部の第1積層構造と、エッジ部の第2積層構造とを、それぞれの役割に適する形状ならびに物性とすることができる。これは、薄肉化されるエッジ部分の第2積層構造では、平織布のモノフィラメント糸同士がすべり易く、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化するからであり、一方、薄肉化されない振動板部および固定部の第1積層構造と比較すると、厚みだけでなく、ヤング率、内部損失、剛性といった物性を異なるように層構成を調整することができ、音響特性の改善と、組立の容易化や工数の削減を、両立させることができるからである。なお、コーティングする熱可塑性樹脂が、さらに発泡ビーズを含む場合には、振動板部および固定部の第1積層構造とエッジ部分の第2積層構造とで、発泡倍率も含めて上記の物性を異なるように調整できる。
【0024】
また、更に好ましい場合には、本発明のスピーカー振動板は、基材にコーティングされている熱可塑性樹脂の面上に、更に金属膜と、金属膜上に形成される酸化被膜と、を有する。金属膜を形成する金属は、熱可塑性樹脂よりも線膨張係数が小さい金属であるチタン、クロム、金のいずれかから選択され、金属膜が、物理的蒸着法、すなわち、スパッタ法により形成され、酸化被膜が、エージング法で形成されている。基材の平織布を構成する合成繊維は、基材にコーティングされている熱可塑性樹脂よりも線膨張係数が大きいので、本発明のスピーカー振動板では、線膨張係数が最も大きい基材から、次に線膨張係数が小さい熱可塑性樹脂についで、最も線膨張係数が小さい金属膜が形成される。したがって、内部損失が大きくできて、熱による変形が生じにくい、形状安定性に優れたスピーカー振動板を実現できる。
【0025】
振動板部が、円環状のリング振動板部である場合には、本発明のスピーカー振動板は、固定部が、リング振動板部の内周側を固定する内周固定部と、リング振動板部の外周側を固定する外周固定部と、を含み、エッジ部が、リング振動板部と内周固定部との間に規定される内周エッジ部と、リング振動板部と外周固定部との間に規定される外周エッジ部と、を含む。磁気回路と連結するイコライザーをさらに備え、スピーカー振動板の内周固定部ならびに外周固定部を磁気回路もしくはイコライザーに固定する振動板内周固定部材および振動板外周固定部材と、を備えることにより、リング型スピーカーが実現される。リング型スピーカーでは、円環状の振動板部の内周側の内周エッジ部と、外周側の外周エッジ部とを要するので、それぞれのエッジ部分を上記の第2積層構造とすることで、エッジ部が一体化されたリング振動板であっても、音響特性を改善することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のスピーカー振動板およびこれを用いた動電型スピーカーは、音響特性の改善と、組立の容易化や工数の削減を、両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のスピーカー振動板は、音響特性の改善と、組立の容易化や工数の削減を、両立させるという目的を、熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板であって、ボイスコイルが連結する振動板部と、磁気回路もしくは振動板固定部材に固定される固定部と、振動板部と固定部との間に規定されるエッジ部と、を備え、エッジ部を構成する第2積層構造が、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化し、振動板部および固定部を構成する第1積層構造に比較して薄肉状に形成されているようにすることにより、実現した。
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板およびこれを用いた動電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるリング型スピーカー1について説明する図である。図1(a)は、リング型スピーカー1を正面方向から見た斜視図であり、図1(b)は、リング型スピーカー1について説明する分解展開図である。本実施例のリング型スピーカー1は、高音域再生用のツィーターとして用いられる呼口径3cmのスピーカーである。リング型スピーカー1は、正面側に露出する樹脂で成形されたイコライザー2と、円環状のリング振動板3と、リング振動板3に連結するボイスコイル4と、磁気回路10と、を備えている。磁気回路10は、ヨーク11と、マグネット12と、プレート13と、から構成されており、これらは接着剤で連結固定されている。磁気回路10は、ヨーク11およびプレート13の間に円環状の磁気空隙を有しており、磁気空隙には、直流磁界が形成される。
【0030】
イコライザー2は、例えば、成形性に優れるABS樹脂で形成されている。イコライザー2は、正面側に凸状の外観形状を有して砲弾状イコライザーを形成する内周部21と、環状イコライザーを形成する外周部22と、これらを一体に連結する連結アーム部23と、を備え、これらが一体に樹脂成形されており、その結果、放射孔20が形成されている。イコライザー2は、上記特許文献4のリング型スピーカーが有する連結イコライザーと同様に、再生周波数特性等の音響特性を改善し、不要な振動および異音を抑制するように作用する。
【0031】
図2は、本実施例のリング振動板3と、これに連結するボイスコイル4と、について説明する図である。具体的には、図2(a)はリング振動板3およびボイスコイル4の拡大断面図であり、図2(b)は内周固定部3c付近x2の拡大図であり、図2(c)は外周固定部3b付近x1の拡大図である。ボイスコイル4は、円筒状のボビン5に、コイル6が巻回されて構成されている。リング型スピーカー1が組み立てられると、リング振動板3に連結するボイスコイル4のコイル6が、この磁気空隙に配置される。したがって、コイル6に音声信号電流が供給されると、ボイスコイル4には駆動力が作用して、放射孔20から露出するリング振動板3を振動させ、音波が放射される。
【0032】
図2に示すように、リング振動板3は、ボイスコイル4が連結する振動板部3aと、磁気回路に固定される外周固定部3bおよび内周固定部3cと、振動板部3aと外周固定部3bとの間に規定される外周エッジ部3dと、振動板部3aと内周固定部3cとの間に規定される内周エッジ部3eと、を備える。リング振動板3は、外径の半径r1が19.5mm、内径の半径r2が5.05mm、振動板部3aの幅rsが約8.35mm、外周固定部3bならびに内周固定部3cの幅rwが約3.06mm、である。断面形状において連結した二つのロールで規定される振動板部3aは、その中央の半径r0が12.29mmの円周上において、ボイスコイル4のボビン5の一方端が接着剤で連結固定される。また、平坦な外周固定部3bならびに内周固定部3cは、イコライザー2と磁気回路10との間に狭持され、かつ、接着剤で固定される。
【0033】
本実施例のリング振動板3は、ポリエステル繊維のモノフィラメント糸からできた75deと100deの太さの生糸を経糸および緯糸に使用した平織のタフタに、熱可塑性樹脂をコーティングしたものを基材としている。このタフタは、タテ110本/inch、ヨコ80本/inchの打ち込み本数の条件下で、撚加工を施さずに平織りにされて、目付は82g/mである。このタフタの生地表面にアンダーコートとしてクロロスルフォン化ポリエチレン樹脂をコーティングし、更にトップコートとしてアンダーコートと同様の樹脂をコーティングし、総目付98g/m、厚さt0が0.11mmの基材を得ることができる。タフタは、撚加工を施していない糸を使用して密に織られているので、開口率が小さく、コーティングする樹脂の裏漏れを少なくすることができる。
【0034】
リング振動板3は、タフタに樹脂コーティングを施した基材を、上下210℃の金型温度で、成形圧力480kg、成形時間18sec.の条件下で熱プレスして成形する。リング振動板3の形状ならびに各部分の厚みは、熱プレスする金型のクリアランスにより調整される。本実施例のリング振動板3の振動板部3a、外周固定部3bならびに内周固定部3cは、熱プレスによりそれぞれの形状を与えられるものの、樹脂コーティングした基材の厚みとほぼ同等にされる。具体的には、振動板部3a、外周固定部3bならびに内周固定部3cの層構造を表す第1積層構造では、厚みt1、等の値は、以下の通りである。なお、振動板部3aの形状ならびに厚みは、タフタに樹脂コーティングを施した基材を適宜選択して、金型形状およびクリアランスを調整することで、様々に変更可能である。
(実施例1)
第1積層構造:(振動板部3a、外周固定部3b、内周固定部3c)
厚みt1 0.11mm
目付 98.0g/m
密度 0.89g/cm
ヤング率 9.11E+8dyne/cm
内部損失tanδ1 0.043
剛性G1 1.21E−4N/m
【0035】
一方、外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eは、金型のクリアランスをより狭くして、振動板部3aおよび外周固定部3bならびに内周固定部3cを構成する第1積層構造の厚さt1よりも薄肉状に形成される。外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eは、振動板部3aの外周端及び内周端の屈曲部分であり、断面形状における幅はわずかであっても、上記の第1積層構造とは異なる層構造を有する厚さt2の薄肉状にされている。つまり、後述するように、第2積層構造では、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化して、熱プレス加工によって第1積層構造の厚みt1に比較して、より薄く厚みt2(厚みt1の50%〜80%)に形成される。
(実施例1)
第2積層構造:(外周エッジ部3d、内周エッジ部3e)
厚みt2 0.08mm(t1に比較して約73%)
目付 95.6g/m
密度 1.20g/cm
ヤング率 4.34E+8dyne/cm
内部損失tanδ2 0.106
剛性G2 2.22E−5N/m
【0036】
すなわち、リング振動板3の第2積層構造の剛性G2が、第1積層構造の剛性G1に比較して小さく、かつ、第2積層構造の内部損失tanδ2が、第1積層構造の内部損失tanδ1に比較して大きい。本実施例1の場合には、熱プレス成形により振動板部とエッジ部と一体に成形するスピーカー振動板であっても、振動板部3aに比べて外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eの剛性を下げて柔軟にして、バネ性を有するコンプライアンスとして機能させるとともに、エッジ部分の内部損失を大きくして固有の共振を速やかに収束させて、再生する音声の品質を向上させることができる。
【0037】
図3は、本実施例1のリング振動板3の生地表面の様子を説明する拡大写真である。図3(a)は振動板部3aの表面であり、また、図3(b)は外周エッジ部3dの表面である。リング振動板3は、タフタに樹脂コーティングを施した基材を使用しているので、振動板部3aの第1積層構造では、強くプレス圧がかからないこともあって、コーティングした樹脂が、密に織られた開口率が小さい繊維の間に入り込みにくい。一方で、強くプレス圧がかかる外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eの第2積層構造では、経糸および緯糸に撚加工が施されていないので、モノフィラメント糸同士がすべり易く、生地表面のコーティング樹脂が融解してモノフィラメント糸同士の隙間に入り込み、薄肉化して硬化している。このように、タフタを基材とすることで、同一素材にも拘わらず、振動板部分とエッジ部分の層構成を調整することができ、上記のような物性変化をもたせることができる。
【0038】
図4は、比較例1のリング振動板30と、これに連結するボイスコイル4と、について説明する図である。また、図5は、比較例1のリング振動板30の生地表面の様子を説明する拡大写真である。すなわち、比較例1のリング振動板30は、実施例1のようなタフタではなく、生地が撚糸による織物に樹脂コーティングを施した基材を用いており、かつ、実施例1とほぼ同寸法であっても、薄肉状にされていない外周エッジ部30dおよび内周エッジ部30eを備える振動板である。したがって、上記の実施例1と共通する部分については、共通する番号を付して、説明を省略する。
【0039】
比較例1のリング振動板30は、ポリエステル繊維の撚糸による織物に、クロロスルフォン化ポリエチレン樹脂をコーティングしたものを基材としており、総目付120g/m、厚さt0が0.142mmの基材である。撚糸による織物は、フィラメント糸同士が強固に絡み合っているため糸同士がすべりにくくなり、厚みを薄くしようとして高いプレス圧をかけても、繊維が追従できないという課題を有している。また、実施例1のようなタフタと同じ糸番手を用いる場合であっても、撚糸の方が細い糸となり、生地の開口率が大きくなってしまうので、コーティング樹脂が開口部分に入り込んでしまい、糸同士のすべりは抑えられる。
【0040】
したがって、比較例1のリング振動板30では、外周エッジ部30dおよび内周エッジ部30eを、実施例1のリング振動板3と同様の高いプレス圧をかけても薄くすることができない。具体的には、リング振動板30では、厚みt1等の値は、以下の通りである。
(比較例1)
第1積層構造:(振動板部30a、外周固定部30b、内周固定部30c)
厚みt1 0.142mm
目付 120.0g/m
密度 0.85g/cm
ヤング率 9.62E+8dyne/cm
内部損失tanδ1 0.036
剛性G1 2.75E−4N/m
【0041】
それに対して、外周エッジ部30dおよび内周エッジ部30eの層構造を表す第2積層構造では、厚みt2等の値は、以下の通りである。例えば、厚みt2は厚みt1に比較して約94%の変化でしかなく、他の数値も第1積層構造と大きく変わらない。
(比較例1)
第2積層構造:(外周エッジ部30d、内周エッジ部30e)
厚みt2 0.133mm(t1に比較して約94%)
目付 114.0g/m
密度 0.86g/cm
ヤング率 9.33E+8dyne/cm
内部損失tanδ2 0.041
剛性G2 2.20E−4N/m
【0042】
このように、本実施例1のリング振動板3の場合では、基材にタフタを用いているので、フィラメント糸同士にコーティング樹脂が入り込むので目付重量は大きく変化せず、厚みが減少した分だけ密度が増大する。これに対して、比較例1のリング振動板30では、基材に撚糸の織物を用いているので、厚みがほとんど変化せずに、その結果、密度も変化せず、振動板部分とエッジ部分の層構成を調整することができない。
【0043】
基材にタフタを用いる上記実施例1のリング振動板3の場合には、外周エッジ部30dおよび内周エッジ部30eの層構造を表す第2積層構造の厚みt2等の値は、振動板部3a、外周固定部3b、内周固定部3cを構成する第1積層構造の厚みt1の約73%であるが、好ましくは、第2積層構造の厚みt2を、例えば、実施例1、下記の(図示しない)実施例2、実施例3、実施例4の場合に示すように、第1積層構造の厚みt1の50%〜80%の範囲内に設定するのがよい。なお、共通する第1積層構造の記載については省略する。
【0044】
(実施例2)
第2積層構造:(外周エッジ部3d、内周エッジ部3e)
厚みt2 0.077mm(t1に比較して約70%)
【0045】
(実施例3)
第2積層構造:(外周エッジ部3d、内周エッジ部3e)
厚みt2 0.079mm(t1に比較して約72%)
【0046】
(実施例4)
第2積層構造:(外周エッジ部3d、内周エッジ部3e)
厚みt2 0.06mm(t1に比較して約54%)
目付 83.4g/m
密度 1.39g/cm
ヤング率 2.12E+8dyne/cm
内部損失tanδ2 0.114
剛性G2 4.58E−6N/m
【0047】
何れの場合でも、第2積層構造の剛性G2が第1積層構造の剛性G1に比較して小さく、かつ、第2積層構造の内部損失tanδ2が第1積層構造の内部損失tanδ1に比較して大きくなる。したがって、振動板部3aに比べて外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eの剛性を下げて柔軟にして、バネ性を有するコンプライアンスとして機能させ、エッジ部分の内部損失を大きくして固有の共振を速やかに収束させて、再生する音声の品質を向上させることができる。
【0048】
図6は、本実施例のリング型スピーカーの軸上1m音圧周波数特性を表すグラフである。図6(a)は実施例1のリング振動板3を用いたリング型スピーカー1の場合であり、図6(b)は実施例2の場合、図6(c)は実施例3の場合、図6(d)は実施例4の場合、である。本実施例のリング型スピーカー1の場合は、10000Hz以上の再生帯域において、約50000Hz以上での高域限界周波数fhのピークに至るまでの間には、大きなピーク・ディップが生じず、ほぼ平坦な周波数特性を示している。このように、本実施例のリング型スピーカー1では、再生周波数帯域を広くすることができ、音響特性の改善を図ることができる。
【0049】
一方、図7は、比較例の(図示しない)リング型スピーカーの軸上1m音圧周波数特性を表すグラフである。図7(a)は上記の比較例1のリング振動板30を用いたリング型スピーカーの場合であり、図7(b)は下記の比較例2の場合である。比較例2は、第2積層構造の厚みt2を、例えば、第1積層構造の厚みt1の43%と、半分以下の薄さに設定する場合であり、薄くしすぎると好ましくない場合がある。比較例1および比較例2のリング型スピーカーの場合は、約25000Hz〜約30000Hzの帯域で顕著なピーク・ディップが生じており、リング振動板3が分割振動していることがわかる。
(比較例2)
第2積層構造:(外周エッジ部30d、内周エッジ部30e)
厚みt2 0.047mm(t1に比較して約43%)
【0050】
上記実施例の平織布を構成する経糸ならびに緯糸は、合成繊維のポリエステルであるが、これに限定されるものではなく、ポリウレタン、ポリイミド、および、レーヨンのモノフィラメント糸のいずれかから選択されればよい。また、熱可塑性樹脂は、クロロスルフォン化ポリエチレン樹脂に限定されず、他の合成樹脂のポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、および、ウレタン樹脂のいずれかから選択されればよい。
【0051】
また、熱可塑性樹脂が、さらに発泡ビーズを含む場合には、第1積層構造の厚みt1における発泡倍率p1と、第2積層構造の厚みt2における発泡倍率p2と、を異なるようにすることができる。具体的には、実施例5は、発泡ビーズを10%含むクロロスルフォン化ポリエチレン樹脂を、上記実施例1と同様の基材の両面にコーティングしたものを基材としている。金型のクリアランスをより狭くすることで、外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eが、振動板部3aおよび外周固定部3bならびに内周固定部3cを構成する第1積層構造の厚さt1よりも薄肉状に形成されるのは、他の上記実施例と同様である。
【0052】
(実施例5)
第1積層構造:(振動板部3a、外周固定部3b、内周固定部3c)
厚みt1 0.15mm
目付 114.0g/m
密度 0.76g/cm
ヤング率 8.93E+8dyne/cm
内部損失tanδ1 0.054
剛性G1 3.01E−4N/m2
発泡倍率p1 14%
第2積層構造:(外周エッジ部3d、内周エッジ部3e)
厚みt2 0.11mm(t1に比較して約73%)
目付 111.2g/m
密度 1.01g/cm
ヤング率 4.25E+8dyne/cm
内部損失tanδ2 0.133
剛性G2 5.66E−5N/m
発泡倍率p2 16%
【0053】
上記のように、コーティングする樹脂が発泡ビーズを含むので、振動板部3aに比べて、外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eでの内部損失の差異をさらに大きくすることができる。外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eを薄肉状に形成するのに、上記の合成樹脂にビーズ等の発泡体を混入させた樹脂を生地にコーティングし、振動板部3aは所定の金型クリアランスを下に型内発泡させ、外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eは金型クリアランスを生地厚み程度に留めて発泡させずにソリッド状態を維持させればよい。
【0054】
次に、リング振動板3が、熱可塑性樹脂の面上に、更に金属膜と、金属膜上に形成される酸化被膜と、を有している場合を説明する。先の実施例1と同様のポリエステル繊維のモノフィラメント糸からできた75deと100deの太さの生糸を経糸および緯糸に使用した平織のタフタに、アンダーコートとしてクロロスルフォン化ポリエチレン樹脂をコーティングし、更にトップコートとしてアンダーコートと同様の樹脂をコーティングした基材を得て、この熱可塑性樹脂の面上に、更に金属膜と、金属膜上に形成される酸化被膜と、を形成する。具体的には、樹脂コーティングされたこのポリエステル織布を、巻きロール状でスパッタ装置内に設置し、真空状態にしてからコーティング樹脂面と金属膜との密着性を向上させるようにコーティング樹脂面にプラズマ放電処理をかけ、純チタンをターゲットにして膜厚600ű10%になるよう結晶成長させる。このときの生地送り速度は15cm/minとし、物理的蒸着法であるスパッタ処理の後に、巻きロールを装置から取り出し、40〜60℃/24〜48hrの条件下でエージングを行い金属表面に酸化皮膜を形成させる。
【0055】
本実施例のリング振動板3は、スパッタ処理した上記材料を、上下210℃の金型温度、成形圧力480kg、成形時間18秒の条件下で成形することにより得られ、先の実施例1とほぼ同様の寸法と目付、厚みを有しているものの、さらに高い内部損失を示している。つまり、振動板部3a、外周固定部3b、および、内周固定部3cの第1積層構造では、熱可塑性樹脂の面上に更に金属膜を有するので、異質材料間での内部摩擦がより大きくなり、スピーカー振動板としての特性を更に改善することができる。
(実施例6)
第1積層構造:(振動板部3a、外周固定部3b、内周固定部3c)
厚みt1 0.11mm
目付 98.0g/m
密度 0.89g/cm
ヤング率 6.34E+9dyne/cm
内部損失tanδ1 0.076.
剛性G1 8.44E−4N/m
【0056】
一方、外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eは、先の実施例1と同様に、金型のクリアランスをより狭くして、振動板部3aおよび外周固定部3bならびに内周固定部3cを構成する第1積層構造の厚さt1よりも薄肉状に形成される。上記の第1積層構造とは異なる第2積層構造を有する厚さt2の外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eでは、本実施例のように金属膜を有していても、熱プレス加工によってコーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化し、第1積層構造の厚みt1に比較して、より薄く厚みt2(厚みt1の50%〜80%)に形成される。なお、特許文献4に記載の先行技術が示すように、金属膜が中間に挟まれるように配置すると、熱プレス加工によってコーティングした熱可塑性樹脂が融解しても、平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込みにくくなるので、第1積層構造の厚みに比較して、外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eの厚みをより薄くすることは困難になる。
(実施例6)
第2積層構造:(外周エッジ部3d、内周エッジ部3e)
厚みt2 0.08mm(t1に比較して約73%)
目付 95.6g/m
密度 1.20g/cm
ヤング率 3.45E+9dyne/cm
内部損失tanδ2 0.127
剛性G2 1.77E−4N/m
【0057】
つまり、リング振動板3の第2積層構造の剛性G2は、第1積層構造の剛性G1に比較して小さく、かつ、第2積層構造の内部損失tanδ2が、第1積層構造の内部損失tanδ1に比較して大きい。本実施例6の場合には、熱プレス成形により振動板部とエッジ部と一体に成形するスピーカー振動板であっても、振動板部3aに比べて外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eの剛性を下げて柔軟にして、バネ性を有するコンプライアンスとして機能させるとともに、振動板部およびエッジ部分の内部損失をさらに大きくすることができ、その結果、固有の共振を速やかに収束させて、再生する音声の品質を向上させることができる。
【0058】
ここで、金属膜は、基材の平織布を構成する合成繊維と、基材にコーティングされている熱可塑性樹脂と、のそれぞれよりもその線膨張係数が小さい金属であるチタン、クロム、金のいずれかから選択されるのが好ましい。例えば、本実施例の場合には、基材の平織布を構成するポリエステル繊維の線膨張係数よりも、クロロスルフォン化ポリエチレン樹脂の線膨張係数が小さく、チタンの線膨張係数はさらに小さい。したがって、本実施例のリング振動板3は、線膨張係数が大きい順に積層されて構成されているので、金属膜が中間に挟まれるように配置される先行技術の場合に比較して、熱による変形が生じにくく、形状安定性に優れるという利点がある。
【0059】
また、金属膜を形成する金属は、上記のチタンの他にも、比較的に耐食性が高いクロム、あるいは、金を使用しても良い。また、物理的蒸着法により結晶構造で形成される金属膜は、さらに酸化被膜がエージング法で形成されているので、熱プレスによる大きな圧力がかかってもクラックが生じにくい。本実施例のように、熱可塑性樹脂をコーティングした基材を巻きロール状でスパッタ装置内に設置して金属膜を形成してもよく、また、熱プレス加工でリング振動板3の形状を得た後に、それぞれのリング振動板3をスパッタ処理してもよい。物理的蒸着法は、上記の実施例のスパッタ処理の場合に限らず、他の工程を含むものであっても良く、また、金属膜の表面に酸化皮膜を形成させるエージング処理についても、上記の実施例とは異なる温度と時間とで処理するものであってもよい。
【0060】
図8は、本実施例のリング型スピーカー1に約1kHzの正弦波信号を入力した場合の軸上1m音圧を表すグラフであり、2次以上の高調波歪のレベルを示す周波数グラフである。図8(a)は先の実施例1のリング振動板3を用いたリング型スピーカー1の場合であり、図8(b)は本実施例6の場合である。本発明の実施例6のリング型スピーカー1の場合は、実施例1の場合に比べて高次の高調波歪が低減していることが分かる。このように、本実施例のリング型スピーカー1は、再生音質が優れており、音響特性の改善を図ることができる。
【0061】
なお、上記の本発明のリング型スピーカーでは、樹脂で成形されるイコライザー2は、他の材料に代えてもよい。例えば、スピーカー振動板3の固定部3bおよび3cを磁気回路10に固定する振動板固定部材を兼ねるイコライザー2は、振動板部3aの前面側に位置するホーンと一体に成形されていてもよく、また、別に構成された部品を連結してもよい。
【0062】
また、上記実施例1〜5のスピーカー振動板は、振動板部3aの外周及び内周にそれぞれ外周エッジ部3dおよび内周エッジ部3eを備えるリング振動板3の場合であるが、本発明のスピーカー振動板は、ドーム状の振動板部3aの外周に磁気回路に固定される固定部と、振動板部と固定部との間に規定されるエッジ部と、を備えるドーム型振動板であってもよい。熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板であれば、エッジ部を構成する第2積層構造が、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化し、振動板部および固定部を構成する第1積層構造に比較して薄肉状に形成されているようにすることにより、上記実施例のリング型スピーカーと同様に、ドーム型スピーカーの再生周波数帯域を広くすることができ、音響特性の改善を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のスピーカー振動板は、高音域再生用のツィーターに限られず、フルレンジスピーカーや、中低音域再生用の他のスピーカーにも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるリング型スピーカー1について説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態によるリング型スピーカー1のリング振動板3と、これに連結するボイスコイル4について説明する図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態による実施例1のリング振動板3の生地表面の様子を説明する拡大写真である。(実施例1)
【図4】従来例のリング振動板30と、これに連結するボイスコイル4について説明する図である。(比較例1)
【図5】る実施例1のリング振動板3の生地表面の様子を説明する拡大写真である。(比較例1)
【図6】本発明のリング型スピーカーの軸上1m音圧周波数特性を表すグラフである。(実施例1〜4)
【図7】従来のリング型スピーカーの軸上1m音圧周波数特性を表すグラフである。(比較例1、2)
【図8】本発明のリング型スピーカーの高調波歪のレベルを示すグラフである。(実施例1、実施例6)
【符号の説明】
【0065】
1 リング型スピーカー
2 イコライザー
3 リング振動板
4 ボイスコイル
5 ボビン
6 コイル
10 磁気回路
11 ヨーク
12 マグネット
13 プレート
20 放射孔
21 内周部
22 外周部
23 連結アーム部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂をコーティングした平織布を基材にして熱プレス成形により一体に成形するスピーカー振動板であって、
ボイスコイルが連結する振動板部と、磁気回路もしくは振動板固定部材に固定される固定部と、該振動板部と該固定部との間に規定されるエッジ部と、を備え、
該エッジ部を構成する第2積層構造が、コーティングした熱可塑性樹脂が融解して平織布を構成する経糸ならびに緯糸の隙間に入り込んで硬化し、該振動板部および該固定部を構成する第1積層構造に比較して薄肉状に形成されている、
スピーカー振動板。
【請求項2】
前記基材にコーティングされている前記熱可塑性樹脂の面上に、更に金属膜と、該金属膜上に形成される酸化被膜と、を有する、
請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記エッジ部を構成する前記第2積層構造の厚みt2が、前記振動板部および前記固定部を構成する前記第1積層構造の厚みt1の50%〜80%の範囲内に設定されて、
前記第2積層構造の剛性G2が前記第1積層構造の剛性G1に比較して小さくかつ、該第2積層構造の内部損失tanδ2が該第1積層構造の内部損失tanδ1に比較して大きい、
請求項1または2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
前記基材である前記平織布を構成する前記経糸ならびに前記緯糸が、合成繊維のポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、および、レーヨンのモノフィラメント糸のいずれかから選択され、
前記熱可塑性樹脂が、合成樹脂のポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、および、ウレタン樹脂のいずれかから選択される、
請求項1から3のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
前記金属膜を形成する金属が、チタン、クロム、金のいずれかから選択される、
請求項2から4のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項6】
前記金属膜が、物理的蒸着法により形成され、
前記酸化被膜が、エージング法で形成されている、
請求項2から5のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、さらに発泡ビーズを含む、
請求項1から6のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項8】
前記振動板部が、円環状のリング振動板部であって、前記固定部が、該リング振動板部の内周側を固定する内周固定部と、該リング振動板部の外周側を固定する外周固定部と、を含み、前記エッジ部が、該リング振動板部と該内周固定部との間に規定される内周エッジ部と、該リング振動板部と該外周固定部との間に規定される外周エッジ部と、を含む、
請求項1から7のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の前記スピーカー振動板と、
磁気回路と、該磁気回路の磁気空隙に配されて該スピーカー振動板と連結するボイスコイルと、を備える、
動電型スピーカー。
【請求項10】
請求項8に記載の前記リング振動板部を含むスピーカー振動板と、
磁気回路と、該磁気回路と連結するイコライザーと、該磁気回路の磁気空隙に配されて該スピーカー振動板と連結するボイスコイルと、を備える、
動電型スピーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−11436(P2010−11436A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331675(P2008−331675)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】