説明

スピーカ用振動板およびこれを用いたスピーカならびにこのスピーカを用いた電子機器および装置

【課題】本発明は音響機器に使用されるスピーカ用振動板、スピーカ、電子機器および装置に関するものであり、音質の向上と、環境への対応が課題であった。
【解決手段】叩解度を高めた材料に、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んで抄紙してスピーカ用振動板を構成することにより、他の材料との絡み合いを良好化して、スピーカ用振動板に十分な剛性や強靭性を与え、高剛性化と高内部損失化を図ることで、音質の向上と、環境への対応を良好化できる構成としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種音響機器や映像機器に使用されるスピーカ用振動板やこれを用いたスピーカおよびステレオセットやテレビセット等の電子機器および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、音響機器や映像機器などの電子機器において、デジタル技術の普及により、これらの電子機器に使用されるスピーカについて、性能の向上が強く要請されている。
【0003】
一方、スピーカの構成部品の中で、振動板の性能が音質の決定に大きなウエイトを占めており、より良い音質を実現できる高性能振動板を開発することが急務である。
【0004】
昨今のオーディオ業界や、オーディオ機器を搭載した自動車業界では、デジタル機器の普及により、スピーカから再生される音質は、飛躍的に向上した。
【0005】
これらの業界でのスピーカに対するトレンドは高音質化、軽量化、環境調和型である。
【0006】
高音質化では、ユーザニーズである音質的要求を実現させるため、その音質を決定するウエイトの高いスピーカの構成部品である振動板の開発が急務である。
【0007】
この振動板の開発は、より精度高く音質を制御できる利点があるという理由から、抄紙振動板を中心に進められている。
【0008】
これら抄紙振動板に用いられる材料であるパルプは、従来より針葉樹から叩解工程を経て得られたクラフトパルプが使用されており、針葉樹不足に拍車をかける状態である。
【0009】
よって、今後は地球環境に優しい材料の使用が必要不可欠となってきている。
【0010】
尚、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−221635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
針葉樹から得られたクラフトパルプを使用した紙振動板を中心とする抄紙振動板は、金属材料や樹脂材料から構成される振動板と比較すると、一般的にその材料上、剛性が低くなるという傾向を有するものであった。
【0013】
このため、従来の紙振動板は材料的な剛性向上が困難であり、この振動板を使用したスピーカは、高音質化の1つである高明瞭度再生化や、大出力化、高信頼性化に不利であるという課題を有するものであった。
【0014】
本発明は前記課題を解決し、振動板の材料剛性を向上させ、低音域での締りのある重低音、高音域特有の振動板剛性不足に起因する共振を低減したクリアな音質を提供するだけでなく、大出力対応化、高信頼性化をも可能とするスピーカ用振動板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明によるスピーカ用振動板は、叩解度を高めた材料に、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んで抄紙してスピーカ用振動板を構成したものである。
【0016】
この構成により、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料は、高剛性化と高内部損失化につながり、音質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によるスピーカ用振動板は、叩解度を高めた材料に、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んで抄紙してスピーカ用振動板を構成したものである。
【0018】
この構成により、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料は、他の材料との絡み合いを良好化して、スピーカ用振動板に十分な剛性や強靭性を与えることができる。
【0019】
また、炭化させることで竹繊維自体の弾性率と内部損失が向上することで相乗的に効果を発揮でき、スピーカの高音質化すなわち高明瞭度再生化や、低音域での締りのある重低音再生、高音域特有の振動板剛性不足に起因する共振を低減したクリアな音質再生、高音域での音圧向上や再生帯域の拡大を実現することができ、良好な音質を提供することができる。
【0020】
また、スピーカ用振動板の大出力対応化、高信頼性化も実現することができる。
【0021】
さらに、本発明は竹繊維を使用していることから、安価で地球環境に優しいスピーカ用振動板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態におけるスピーカ用振動板の断面図
【図2】本発明の一実施の形態におけるスピーカの断面図
【図3】本発明の一実施の形態における電子機器の外観図
【図4】本発明の一実施の形態における装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1を用いて、本発明の特に請求項1から請求項7に記載の発明について説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態の振動板の断面図を示したものである。
【0026】
図1に示すように、振動板1は、叩解度を高めた竹繊維1Aとミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料1Bを含んでスピーカ用振動板を構成したものである。
【0027】
ここで、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料は、叩解度が15cc以下まで進んでいるため、繊維の絡み合いを良好化させることが可能となる。
【0028】
そして、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料は、平均繊維径を5μmより小さくして、さらにL/D(平均繊維長/平均繊維径)が10以上であることが好ましい。
【0029】
ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料は、より小さいことが好ましく、小さくすることで、繊維の絡み合いを良好化させることが可能となる。
【0030】
また、L/D(平均繊維長/平均繊維径)に関しても、より大きいことが好ましく、大きくすることで、繊維の絡み合いを良好化させることが可能となる。
【0031】
平均繊維径が、5μmより大きい場合は、スピーカ用振動板に竹繊維としての特長を出すことは可能であるが、繊維の絡み合いを強化させるという力は不足する傾向にある。
【0032】
ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料の混入量は、5重量%以上で、かつ50重量%以下が望ましい。
【0033】
ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料の混入量は、5重量%に満たない場合は効果がほとんど現れない。
【0034】
一方、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料の混入量が、50重量%より多くなると、漏水性が著しく低下し、抄紙工程が長くなり、生産性が低下してしまう。
【0035】
ここでいう竹繊維は、竹科の植物であれば特に制約はなく、竹齢1年以内の筍や幼稈レベルのものを除く竹齢1年以上経過、成長した竹であれば良い。
【0036】
そして竹齢については、1年以上の経過で、本発明に必要な剛性や強靭性を最低限確保できるが、2年以上の経過であればさらに剛性や強靭性が向上し、さらに3年以上の経過であればそれ以上に剛性や強靭性が向上する。
【0037】
そして、音質的な特長として、高音域での音圧レベルを向上させることができ、高音域においてクリアで迫力がある音質を得ることができる。
【0038】
一方、低音域においても、締りの良い重低音を再生することができる。
【0039】
全体としては、明瞭度の高い、輪郭のはっきりした音像定位の良好な優れた音質とすることができる。
【0040】
さらに、別の効果として、紙パルプ単体から構成された振動板と比較すると、振動板の強靭性が向上し、品質面や信頼性面においても優れた振動板とすることができる。
【0041】
よって、この振動板を用いたスピーカの高耐入力化や、自動車用スピーカとして重要な耐湿信頼性に代表される各種信頼性を向上させることができる。
【0042】
よって、この振動板を用いたスピーカの高音質化を図り、大出力対応化、高信頼性化を図ることができる。
【0043】
さらに、本発明は竹繊維を使用していることから、安価で地球環境に優しいスピーカ用抄紙振動板を提供することができる。
【0044】
また、このスピーカ用振動板は、叩解度を大きくした竹繊維材料と混抄することで、さらに竹繊維本来の特長を発揮させることができる。
【0045】
さらに、竹繊維以外の強化材を含んでいても、竹繊維の叩解度をミクロフィブリル状態まで小さくした材料と混抄することで、結合力が強化され竹繊維の特長を発揮させることができる。
【0046】
さらに、植物材料すなわち竹繊維材料で強度を向上させるために、プラントオパールを用いると弾性率を向上させることができる。
【0047】
また、強化材にはマイカ、アラミド繊維を用いることができる。
【0048】
強化材にマイカを使用すると、弾性率と内部損失を向上させることができる。
【0049】
強化材にアラミド繊維を使用すると、耐熱性が向上し、引張強度が向上する。
【0050】
また、必要に応じて、添加剤であるサイズ剤、紙力増強剤、結合剤、防水剤、顔料、染料などを使用しても良い。
【0051】
ポリ乳酸やポリビニルアルコールは、竹繊維のセルロースと相性が良好で、竹繊維の表面に定着しやすい。
【0052】
また、内部損失を高める効果もあるため、スピーカとしての周波数特性を良好なものとすることができる。
【0053】
特に、ポリ乳酸は生分解性プラスチックであり、竹繊維とポリ乳酸とから構成される振動板は、環境調和型振動板となり、地球環境に優しいスピーカ用の振動板とすることができる。
【0054】
尚、本発明の振動板は、公知の顔料、染料、サイズ剤、紙力剤等の使用を制限するものではない。
【0055】
以上のように本発明は、叩解度を高めた材料を抄紙してなるスピーカ用振動板で、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んでスピーカ用振動板を構成することにより、特に炭化させることで高弾性率でありながら高内部損失を有する優れた振動板を得ることができる。
【0056】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2を用いて、本発明の特に請求項8に記載の発明について説明する。
【0057】
図2は、本発明の一実施の形態のスピーカの断面図を示したものである。
【0058】
図2に示すように、着磁されたマグネット2を上部プレート3およびヨーク4により挟み込んで内磁型の磁気回路5を構成している。
【0059】
この磁気回路5のヨーク4にフレーム7を結合している。
【0060】
このフレーム7の周縁部に、請求項1から請求項7記載のいずれか1つの振動板1の外周をエッジ9を介して接着している。
【0061】
そして、この振動板1の中心部にボイスコイル8の一端を結合するとともに、反対の一端を上記磁気回路5の磁気ギャップ6にはまり込むように結合して構成している。
【0062】
以上は、内磁型の磁気回路を有するスピーカについて説明したが、これに限定されず、外磁型の磁気回路を有するスピーカに適用しても良い。
【0063】
この構成により、実施の形態1において説明したように、スピーカの高音質化すなわち高明瞭度再生化や、低音域での締りのある重低音再生、高音域特有の振動板剛性不足に起因する共振を低減したクリアな音質再生、高音域での音圧向上や再生帯域の拡大を実現することができ、良好な音質を提供することができる。
【0064】
また、スピーカの大出力対応化、高信頼性化も実現することができる。
【0065】
(実施の形態3)
以下、実施の形態3を用いて、本発明の特に請求項9に記載の発明について説明する。
【0066】
図3は、本発明の一実施の形態の電子機器であるオーディオ用のミニコンポシステムの外観図を示したものである。
【0067】
スピーカ10は、エンクロジャー11に組込まれてスピーカシステムが構成されている。
【0068】
アンプ12はスピーカシステムに入力する電気信号の増幅回路を含む。
【0069】
プレーヤ等の操作部13はアンプ12に入力されるソースを出力する。
【0070】
電子機器であるオーディオ用のミニコンポシステム14は、このようにアンプ12、操作部13、スピーカシステムを有する。
【0071】
アンプ12、操作部13、エンクロジャー11は、ミニコンポシステム14の本体部である。
【0072】
すなわちスピーカ10は、ミニコンポシステム14の本体部に装着されている。
【0073】
またスピーカ10のボイスコイルは、本体部のアンプ12から給電されて振動板から音を発する。
【0074】
この構成により、従来では実現できなかった高音質化、すなわち高明瞭度再生化や、低音域での締りのある重低音再生、高音域特有の振動板剛性不足に起因する共振を低減したクリアな音質再生、高音域での音圧向上や再生帯域の拡大を実現することができ、良好な音質を可能としたミニコンポシステム14が得られる。
【0075】
なおスピーカ10の機器への応用として、オーディオ用のミニコンポシステム14について説明したが、これに限定されない。
【0076】
持運び可能なポータブル用のオーディオ機器等への応用も可能である。
【0077】
さらに、液晶テレビやプラズマディスプレイテレビ等の映像機器、携帯電話等の情報通信機器、コンピュータ関連機器等の電子機器に広く応用、展開が可能である。
【0078】
(実施の形態4)
以下、実施の形態4を用いて、本発明の特に請求項10に記載の発明について説明する。
【0079】
図4は、本発明の一実施の形態の装置である自動車15の断面図を示したものである。
【0080】
図4に示すように、本発明のスピーカ10をリアトレイやフロントパネルに組込んで、カーナビゲーションやカーオーディオの一部として使用して自動車15を構成したものである。
【0081】
この構成とすることにより、スピーカ10の特長を活かした高音質化、すなわち高明瞭度再生化や、低音域での絞りのある重低音再生、高音域特有の振動板剛性不足に起因する共振を低減したクリアな音質再生、高音域での音圧向上や再生帯域の拡大を実現することができ、このスピーカ10を搭載した自動車等の装置の音質を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかるスピーカ用振動板、スピーカ、電子機器および装置は、音質の向上が必要で、環境に優しい映像音響機器や情報通信機器等の電子機器、さらには自動車等の装置に適用できる。
【符号の説明】
【0083】
1 振動板
1A 叩解度を高めた竹繊維
1B ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料
2 マグネット
3 上部プレート
4 ヨーク
5 磁気回路
6 磁気ギャップ
7 フレーム
8 ボイスコイル
9 エッジ
10 スピーカ
11 エンクロジャー
12 アンプ
13 操作部
14 ミニコンポシステム
15 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙してなるスピーカ用振動板であって、前記スピーカ用振動板は、叩解度を高めた材料に、ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んで構成したスピーカ用振動板。
【請求項2】
ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維は、叩解度を15cc以下とした請求項1記載のスピーカ用振動板。
【請求項3】
竹繊維を50重量%以上含む請求項1記載のスピーカ用振動板。
【請求項4】
ミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維の混入比率を、5重量%以上かつ50重量%以下とした請求項1記載のスピーカ用振動板。
【請求項5】
強化材をさらに含む請求項1から請求項4記載のいずれか1つのスピーカ用振動板。
【請求項6】
強化材は、竹を含むイネ科植物の葉に含有されるプラントオパールとした請求項5記載のスピーカ用振動板。
【請求項7】
強化材は、マイカまたはアラミド繊維のいずれか1つとした請求項5記載のスピーカ用振動板。
【請求項8】
磁気回路と、前記磁気回路に結合されたフレームと、叩解度を高めた材料にミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んで抄紙してなる振動板と、前記振動板に結合されるとともに、その一部が前記磁気回路から発生する磁束の作用範囲内に配置されたボイスコイルとを備えたスピーカ。
【請求項9】
本体部と、磁気回路と、前記磁気回路に結合されたフレームと、叩解度を高めた材料にミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んで抄紙してなる振動板と、前記振動板に結合されるとともに、その一部が前記磁気回路から発生する磁束の作用範囲内に配置されたボイスコイルとを有し、前記本体部から給電されるスピーカとを備えた電子機器。
【請求項10】
磁気回路と、前記磁気回路に結合されたフレームと、このフレームの外周部に結合された叩解度を高めた材料にミクロフィブリル状態まで微細にした竹繊維を炭化させた材料を含んで抄紙してなる振動板と、前記振動板に結合されるとともに、その一部が前記磁気回路の磁気ギャップに配置されたボイスコイルとからなるスピーカを移動手段に備えた装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−155424(P2011−155424A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14964(P2010−14964)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】