説明

スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)受容体化合物

本発明は、化合物、特に2-アミノ-3,4,5,-三置換チオフェン、それらを含有する薬剤組成物、及びスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体、主にS1P3受容体に関連する疾病のための前記化合物及び組成物の使用に関するものである。該疾病には、循環器疾患、アテローム性動脈硬化症、癌、肺水腫、自己免疫疾患及び成人呼吸窮迫症候群が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-アミノ-3,4,5,-三置換チオフェンの特定の新規カテゴリー、それを含有する薬剤組成物、及びスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体、主にS1P受容体に関連した疾病のための前記化合物及び組成物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内皮分化遺伝子(EDG)受容体が脱オーファン化される数年前から、その機構/標的については知られていなかったものの、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の内皮細胞に対する効果が既に認められていた。当初、S1Pは細胞内メッセンジャーとして作用すると考えられていたが、こうした細胞内標的の決定的証拠はまだない。それ故、1998年におけるS1Pのシグナル伝達にかかわる遺伝子ファミリーの同定及び特徴付けは、この研究分野において重要なステップであった。S1P受容体ファミリーの5つのメンバーは、当初EDG受容体と命名されていたが、今までのところS1PからS1Pと命名されて同定されている(Chun et al.,2002)(1)。G-タンパク質共役受容体ファミリーの一部として、S1P受容体はヘテロ三量体G-タンパク質を介してシグナルを伝達する。各S1P受容体サブタイプは異なる型のG-タンパク質を活性化するため、各受容体サブタイプの活性化の最終的な細胞効果は異なることになる(S1P受容体のシグナル伝達の広範な概説はSanchez and Hla,2004参照)(2)。S1P、S1P及びS1P受容体は偏在的に発現し、循環系において最も重要な受容体である。S1P及びS1P受容体はより制限された発現パターンを示し、最初の受容体が主に肺及びリンパ系で発現する一方で、S1P受容体は主として脳組織で発現する。
【0003】
S1P受容体は多くの生物学的過程に関与しており、それ自体がアテローム性動脈硬化症、癌及び自己免疫のような多くの病態生理学的病状において重要な役割を務めることができる。その重要性にもかかわらず、S1P受容体と特異的に相互作用するリガンドの数は非常に限られている。加えて、サブタイプ特異的S1Pリガンドは存在しないも同然である。(サブタイプ)選択的S1Pリガンドの不在は、通常これら受容体の薬理学的研究を妨げる。
【0004】
(S1P受容体)
S1P受容体サブタイプは、心調律及び肺上皮バリア機能において重要な役割を果たす。心調律におけるS1P受容体の役割は、FTY720、一時的にMS治療のための臨床試験中である非特異的S1Pアゴニストの心臓の副作用によって認められた。その後、S1P欠損マウスを用いた研究は、FTY720の陰性変時作用が、主として、心房筋細胞内だけでなく洞房結節上でも発現するS1P受容体に関係していると示唆した(Forrest et al.,2004,(3);Sanna et al.,2004)(4)。加えて、高密度リポタンパク質の心臓保護作用はS1P受容体によって媒介されることが最近示された(Theilmeir,2006)(5)。更に、アポE−/−マウスにおけるFTY720の抗アテローム硬化作用もまた大部分がS1P受容体によって媒介されると考えられている(Keul et al.,2007)(6)。その結果、S1Pアゴニストは心臓保護化合物として有用であり得る。
【0005】
肺では、S1Pは肺上皮でのみ発現し、S1Pの活性化がZO−1及びクローディンの分解をもたらし、上皮密着結合形成の低下の原因となる。これは最終的に傍細胞の間隙及び肺水腫の発生を引き起こすことになる。そのようなものとして、選択的S1Pアゴニスト及び/又はアンタゴニストは、成人呼吸窮迫症候群に関与する機構を解明するのに役立つだろうし、延いてはこの疾病において治療上重要にもなり得る。
【発明の概要】
【0006】
上述の状況を考慮して、本発明者らは集中的な研究を行った。その結果、彼らは、驚くことに、S1P受容体の媒介による状態、主にS1P受容体の媒介による状態の治療にとても魅力的に使用できる2-アミノ-3,4,5,-三置換チオフェンの特定のカテゴリーを発見した。
【0007】
第1態様によれば、本発明は、対象のスフィンゴシン1リン酸(S1P)受容体によって媒介される状態の治療又は予防のための薬剤の調製における、一般式(1):
【化1】

(1)
の化合物又はその塩の使用を提供し、
式中、
Xは酸素、硫黄、NH又はC〜Cアルキル置換NHを表し;
C=Yは、任意であるが、存在する場合、Yが酸素、硫黄、NH、又はC〜Cアルキル置換NHを表し;
Zは、水素、ハロゲン、アミド、ヒドロキシル、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アリール若しくはヘテロアリール、置換若しくは非置換アラルキル、アルコキシル、アミノ、モノ-若しくはジ-C〜Cアルキル置換アミノ、スルフィドリル、カルボニル、カルボキシル、アクリレート、メタクリレート、ビニル、スチリル、スルホネート、スルホン酸、又は四級アンモニウムを表し;
Rは、水素、ハロゲン、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アルキニル、又は置換若しくは非置換-(CH)-アリールを表し;
R'は、水素、ハロゲン、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アルキニル、又は置換若しくは非置換-(CH)-アリールを表し;あるいはR、R'は、一体として結合され、飽和でも不飽和でもよく、置換でも非置換であってもよい3〜7員環を形成し;
R''は、水素、-(CH)-ヒドロキシル、ハロゲン、アシル、チオ-アシル、セレノ-アシル、(置換)アルキル、(置換)アルケニル、(置換)アルキニル、又は(置換)-(CH)-アリールを表し;
破線で示す結合a及びbは、存在してもよいし無くてもよく;
nは0〜10の範囲の数である。
【0008】
好適にはZが置換又は非置換アルキル、アルコキシ、アラルキル又はアルケニルである場合、アルキル基又はアルケニル基はC〜Cである。好適にはZがNHである。好適にはXが硫黄である。好適にはYが酸素である。
【0009】
また、対象のS1P受容体によって媒介される状態の治療又は予防における前述の式(1)の化合物の使用も提供する。
【0010】
式(1)の化合物は、キラルでもよく、そのようなものとして全ての鏡像異性体の形態が本発明に含まれると理解される。薬剤は、選択化合物のラセミ混合物又は個々の鏡像異性体を含むことができる。
【0011】
式(1)の化合物は、異なるS1P受容体に対して選択的でもよいし、特異的でもよい。後述の特定の好適例は、S1P受容体に対して特異的である。本発明の化合物の選択性及び/又は特異性は、S1P受容体によって媒介される状態に対して使用する上でそれらの潜在的有用性を高める。本発明の化合物による治療を受け入れられる状態が、S1P受容体の活性によって直接影響を受けることがあり、或いはS1P受容体での活性がその治療される状態にかかわる生化学的経路の一部であるものであってよく、そのようなものとして、S1P受容体に対する作用は、下流で結果として効果を生じると理解される。
【0012】
本発明の化合物は、S1P受容体の活性を調節する。好適には、該化合物は、S1P受容体の活性を調節する。式(1)の化合物によって起こる受容体の活性の調節は、例えば、受容体のアゴニストとして又はアンタゴニストとして作用することによるものであり得る。よって、とりわけ循環器疾患のような疾病をとても魅力的に治療及び/又は予防することができる。式(1)の化合物によって治療できる状態には、アテローム性動脈硬化症、癌、肺水腫、自己免疫疾患及び成人呼吸窮迫症候群が含まれる。
【0013】
より好適には、式(1)の化合物は、式(2):
【化2】

(2)
の構造を有し、ここで、R、R'及びR''は前述のものと同義である。
【0014】
式(2)の多数の化合物は、アデノシンA1受容体用のアロステリック調節因子として知られるが(参考文献7及び9〜14)、それらのS1P受容体についての活性と、該受容体によって媒介される状態でのそれらの有用性は、これまで知られていなかった。一部の場合には、式1の化合物が、アデノシンA1受容体と1つ以上のS1P受容体双方の活性を調節することができ、アデノシン及びS1P受容体双方によって媒介される状態のより一層の改善をもたらす。
【0015】
RR'が環を形成する場合、式(2)の化合物において、好適にはRR'が-(CH)-であり、すなわち該化合物は、チオフェン環と縮合した6員環を有し、一般式(3):
【化3】

(3)
を有し、ここで、R''は前述のものと同義である。
【0016】
好適には、R''がフェニル又は置換フェニルである。最も好適には、一般式(3)の化合物が、
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-クロロフェニル)メタノン(LUF5480)、
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-ブロモフェニル)メタノン(LUF5490)、
4[(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)-カルボニル]安息香酸メチル(LUF5492)、
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(2-クロロフェニル)メタノン(LUF5532)、
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(3-クロロフェニル)メタノン(LUF5473)、
(2-アミノ-4,5,6,7‐テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(3-ヨードフェニル)メタノン(LUF5533)、
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-メチルフェニル)メタノン(LUF5527)、及び
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)[3-(トリフルオロメチル)フェニル]メタノン(LUF5469)、又はそれらの塩
からなる群から選択される。
【0017】
第2態様によれば、本発明は、対象に対し式(1)の化合物を有効量で投与することを含むS1P受容体の媒介による状態の治療方法を提供する。該状態は、好適にはS1P受容体の媒介による状態である。
【0018】
第3態様によれば、本発明は、一般式(1):
【化4】

(1)
の化合物又はその塩を提供し、
式中、
Xは酸素、硫黄、NH又はC〜Cアルキル置換NHを表し;
C=Yは、任意であるが、存在する場合、Yが酸素、硫黄、NH、又はC〜Cアルキル置換NHを表し;
Zは、水素、ハロゲン、アミド、ヒドロキシル、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アリール若しくはヘテロアリール、置換若しくは非置換アラルキル、アルコキシル、アミノ、モノ-若しくはジ-C〜Cアルキル置換アミノ、スルフィドリル、カルボニル、カルボキシル、アクリレート、メタクリレート、ビニル、スチリル、スルホネート、スルホン酸、又は4級アンモニウムを表し;
Rは、水素、ハロゲン、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アルキニル、又は置換若しくは非置換-(CH)-アリールを表し;
R'は、水素、ハロゲン、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アルキニル、又は置換若しくは非置換-(CH)-アリールを表し;あるいはR、R'は、一体として結合され、飽和でも不飽和でもよく、置換でも非置換であってもよい3〜7員環を形成し;
R''は、水素、-(CH)-ヒドロキシル、ハロゲン、アシル、チオ-アシル、セレノ-アシル、(置換)アルキル、(置換)アルケニル、(置換)アルキニル、又は(置換)-(CH)-アリールを表し;
破線で示す結合a及びbは、存在してもよいし無くてもよく、
nは0〜10の範囲の数である。
【0019】
本発明との関連において、「スフィンゴシン1-リン酸受容体(S1P)によって媒介される状態」の語は、スフィンゴシン1-リン酸受容体調節化合物、例えば一般式(1)の化合物での治療に対する応答性よって特徴付けられる病状又は状態を含むことを意図しており、ここで、該治療は、該状態の少なくとも1つの症状又は影響の大幅な減少をもたらす。
【0020】
本発明との関連において、「アルキル」の語は、1〜約30個の炭素原子を有する枝分かれの又は枝なしのあらゆる飽和炭化水素を意味する。これには、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、及びシクロアルキル置換アルキル基が含まれる。この語には、炭化水素骨格の1個以上の炭素を置換する酸素原子、窒素原子、硫黄原子又リン原子を更に含むことができるアルキル基が更に含まれる。好適な実施態様では、直鎖又は分岐鎖がその骨格に30個以下の炭素原子、より好適には20個以下の炭素原子を有する。同様に、好適なシクロアルキルは、その環構造に3〜10個の炭素、より好適には3〜7個の炭素を有する。
【0021】
本発明との関連において、「-(CH)-ヒドロキシル」の語は、ヒドロキシル基と描かれた構造との間の短い直鎖アルキルを意味し、ここで、nは0〜10の範囲に及ぶことができる。
【0022】
本発明との関連において、「アシル」、「チオ-アシル」及び「セレノ-アシル」の語は、それぞれ「C(O)A」、「C(S)A」及び「C(Se)A」種の化合物を指し、ここで、
Aは、順に水素、(置換)アルキル、(置換)アルケニル、(置換)アルキニル、又は(置換)-(CH)-アリールを表す。
【0023】
本発明との関連において、「-(CH)-アリール」の語は、(置換)アリール基と描かれた構造との間の短い直鎖アルキルを意味し、ここで、nは0〜10の範囲に及ぶことができる。
【0024】
本発明との関連において、本明細書で用いる「アリール」の語は、0〜4個のヘテロ原子を持つ五員環及び六員環の単環式基を含むことができる芳香族基を指し、例えば、ベンゼン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン及びピリミジン等である。アリール基には、ナフチル、キノリル、インドリル、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール等の縮合した多環式芳香族基を適当に含むことができる。また、ヘテロ原子を含有するアリール基は、ヘテロアリール又はヘテロ芳香族と称されることがある。芳香族環は、本明細書中で記載したようなかかる置換基で、1つ又はそれ以上の環の位置にて置換されてもよい。また、アリール基は、芳香族ではない脂環式又はヘテロ脂環式の環で縮合又は橋架けすることができる。
【0025】
本発明との関連において、「置換」の語は、部分の1個以上の炭素上の水素を置換する置換基を含むことを意図している。かかる置換基には、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アルキルオキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルキルオキシ、ホスフェート、ホスフォネート、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ、(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバミル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、サルフェート、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族部分若しくはヘテロ芳香族部分が適当に含まれる。(不飽和及び飽和)炭素鎖上に置換された部分自体が、適切な場合に置換できることが当業者に理解される。また、置換の語は、部分中の1個以上の炭素原子のヘテロ原子との交換を含む。
【0026】
本発明との関連において、「ヘテロ原子」の語は、炭素又は水素以外の元素の原子を指す。好適なヘテロ原子は酸素、窒素、硫黄及びリンである。
【0027】
本発明との関連において、「アルケニル」及び「アルキニル」の語は、長さ及び可能な置換が上述のアルキルと類似しているが、それぞれ少なくとも1つの二重結合又は三重結合を含有する不飽和脂肪族基を指す。
【0028】
本発明との関連において、「ハロゲン」の語は、周期表第7族の原子を指す。好適なハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。
【0029】
本発明との関連において、本発明の化合物の塩は、どんな生理学的に許容される塩でも含むことを意図されている。「生理学的に許容される塩」の語は、製薬業界で一般的に使用される非毒性アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアンモニウム塩を指し、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アンモニウム塩、及びプロタミン亜鉛塩が挙げられ、当該技術分野において知られる方法によって調製できる。また、その語には、非毒性の酸付加塩も含まれ、一般に本発明の化合物を適切な有機酸又は無機酸と反応させることで調製される。酸付加塩は、遊離塩基の生物学的有効性及び特性を保有するもの及び生物学的に又はその他の点で望ましくなくはないものである。例としては、鉱酸由来のものが挙げられ、とりわけ、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタリン酸等が挙げられる。有機酸には、とりわけ、酒石酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、グリコール酸、グルコン酸、ピルビン酸、コハク酸、サリチル酸及びアリールスルホン酸、例えばp‐トルエンスルホン酸が含まれる。
【0030】
第4態様によれば、本発明は、有効成分として一般式(1):
【化5】

(1)
の化合物を1つ以上又は1つ又は複数の前記化合物の塩を含む薬剤組成物を提供し、ここで、R、R'、R''、X、Y、Z、a及びbは、本明細書中で先に定義されたとおりの意味を有する。
【0031】
本発明はまた、有効成分として本発明に係る1つ以上の化合物を含む薬剤組成物に関するものである。本発明に係る化合物それ自体を用いることができる。しかしながら、該化合物の塩又は溶媒和物もまた用いることができる。かかる塩又は溶媒和物は、薬学的に許容されるべきであることが理解される。当業者は、更に、薬剤組成物はまた適切な薬剤キャリアーを含むことを理解することになる。
【0032】
表1で詳しく説明するように、本発明の化合物は生物学的に活性である。
【0033】
「生物学的に活性」の語は、本発明の化合物が標的受容体に対してある種の生物学的活性、例えば測定可能な効果、調節を有することを示す。以下に詳しく説明するように、例示的な式(1)の化合物は、S1P受容体を活性化し、従って、スフィンゴシン1‐リン酸受容体アゴニストとして作用する。他の実施態様において、その語には、拮抗的な効果、例えば一種又は複数のスフィンゴシン1‐リン酸受容体の(過剰)刺激に起因するメディエータの活性又は産生の低下が含まれる。
【0034】
本明細書で用いる「調節する」及び「調節」の語は、受容体の活性を増減するか又は変化させる効果を指す。
【0035】
本明細書で用いる「アゴニスト」の語は、受容体に結合して該受容体を活性化させる分子を指す。「アンタゴニスト」の語は、受容体に結合して活性の低下を引き起こす分子を指す。
【0036】
本発明に係る薬剤組成物においては、有効成分が有効量で存在する。「有効量」の語は、本明細書に記載された目的として、当業者に知られている考慮事項によって決定されるものである。その量は、所望の治療効果に達成するのに、例えば疾病又は障害を治療するのに十分でなければならない。
【0037】
「治療する」、「治療すること」及び「治療」の語は、本発明の化合物及び薬剤組成物の治療量の投与を指し、疾病に関連する望ましくない症状を改善したり、かかる症状が起こる前に該症状の徴候を予防したり、疾病の進行の速度を落としたり、症状の悪化の速度を落としたり、疾病の慢性期に起因する不可逆的損傷の速度を落としたり、疾病の重症度を軽減するか又は疾病を治したり、生存率又はより急速な回復を向上させたり、疾病の発症を予防したり、上記の2つ以上の組み合わせに効果的である。
【0038】
疾病は、好適にはS1P受容体の生物学的作用と関連しており、ここで、本発明の化合物は、スフィンゴシン1‐リン酸受容体アゴニストとして作用する。例えば、S1P受容体のアゴニストは、循環器疾患、例えばアテローム性動脈硬化症の治療に用いることができる化合物に関係があるとされている。
【0039】
本発明の薬剤組成物は、薬学的に許容される添加剤を更に含むことができる。更に、本明細書で用いる「薬学的に許容される添加剤」の語は、前記化合物と組み合わされるあらゆる物質を指し、限定されないが、希釈剤、賦形剤、キャリアー、固体若しくは液体の充填剤又は封入材料が含まれ、典型的には、特定の形態、例えば錠剤型で、単純なシロップ、芳香性粉末及び他の様々なエリキシル剤として与えられる場合に形態又は稠度を与えるため、製剤に加えられる。添加剤はまた、安定性、無菌性及び等張性を有する製剤を提供するための物質(例えば、抗菌保存剤、酸化防止剤、キレート剤及び緩衝剤)、微生物の作用を予防するための物質(例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の抗菌剤及び抗真菌剤)、又は食用風味付き製剤を提供するための物質等であってもよい。
【0040】
好適には、添加剤は、不活性な非毒性物質であり、本発明の有効成分と反応しない。しかし、添加剤は、試薬のその受容体への結合を強化するように設計されてもよい。更に、添加剤の語は、定義上、有効成分の作用に予想可能な形で影響を与える物質であるアジュバントを含むこともできる。添加剤は、従来用いられているもののいずれかであることができ、単に溶解性及び本発明の化合物との反応性の欠如等の物理化学的考慮事項によって、また投与経路によって限定されるだけである。本発明の活性剤は、患者に経口投与されることができる。錠剤、懸濁液、乳濁液、カプセル、粉末、シロップ等で一種又は複数の化合物を投与するような従来の方法が使用可能である。経口投与について、本発明の組成物は、本発明の1種又は複数の化合物の経口送達を促進するための添加剤を含有することができる。経口投与に適した製剤は、(a)有効量の化合物が水、生理食塩水又はオレンジジュース等の希釈剤に溶解しているような溶液と、(b)所定の量の有効成分を固体又は顆粒として含有するカプセル、サッシェ、錠剤、ロゼンジ及びトローチと、(c)粉末と、(d)適当な液体の懸濁液と、(e)適切な乳濁剤とからなることができる。液体製剤は、水及びアルコール、例えばエタノール、ベンジルアルコール、ポリエチレンアルコール等の希釈剤を含んでもよく、薬学的に許容される界面活性剤、懸濁化剤、又は乳化剤の添加は有っても無くてもよい。カプセルの形態は、例えば乳糖、蔗糖、リン酸カルシウム及びトウモロコシ澱粉等の界面活性剤、潤滑剤及び不活性充填剤を含有する普通の硬殻又は軟殻ゼラチンタイプとすることができる。錠剤の形態には、乳糖、蔗糖、マンニトール、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉、アルギン酸、微結晶性セルロース、アカシア、ゼラチン、グアーガム、コロイド二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウムタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、及び他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、及び薬理学的に適合するキャリアーのうち1つ以上を含むことができる。ロゼンジの形態は、ゼラチン及びグリセリン又は蔗糖及びアカシア等の不活性支持体の有効成分を含むトローチ、乳濁液、ゲル等と同様に、風味の活性剤、通常では蔗糖及びアカシア又はトラガカントを含むことができる。かかる添加剤は、そのようなものとして当該技術分野において知られている。
【0041】
或いは、一種又は複数の化合物を非経口的に患者へ投与してもよい。この場合、上記化合物は、一般に、単位用量を注入可能な形態(溶液、懸濁液、乳濁液)に処方される。注射に適した薬剤処方は、無菌水溶液又は分散液及び無菌注射溶液又は分散液に再構成するための無菌粉末を含むことができる。キャリアーは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレン、グリコール、脂質ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物及び植物油を含有する溶媒又は分散媒質とすることができる。
【0042】
例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒径の保持により、界面活性剤の使用により、適切な流動性を保つことができる。また、本発明の組成物の溶媒系としては、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油又はピーナッツ油の他、ミリスチン酸イソプロピル等のエステルのような非水性ビヒクルを使用してもよい。
【0043】
非経口製剤に使用する適当な脂肪酸には、オレイン酸、ステアリン酸、及びイソステアリン酸が含まれる。オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピルは適切な脂肪酸エステルの例である。
【0044】
非経口製剤に用いる適当な洗剤には、脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びトリエタノールアミン塩が含まれ、適当な洗剤には、(a)例えばジメチルジアルキルアンモニウムハライド、及びアルキルピリジニウムハライドのような陽イオン洗剤、(b)例えばアルキル、アリール及びオレフィンスルホン酸塩、アルキル、オレフィン、エーテル及びモノグリセリド硫酸塩の他、スルホコハク酸塩のような陰イオン洗剤、(c)例えば脂肪酸アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド及びポリオキシ−エチレンポリプロピレン共重合体のような非イオン洗剤、(d)例えばアルキル-β-アミノプロピオン酸塩及び2-アルキル-イミダゾリン四級アンモニウム塩のような両性洗剤、並びにそれらの混合物が含まれる。
【0045】
更に、注射部位での刺激を最小限にするか又は解消するため、上記組成物は、約12〜約17の親水性-親油性バランス(HLB)を有する非イオン界面活性剤を1つ以上含有することができる。適当な界面活性剤には、ソルビタンモノオレエート等のポリエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びプロピレンオキシドのプロピレングリコールとの縮合によって形成される疎水性塩基とエチレンオキシドの高分子量付加化合物が含まれる。
【0046】
添加剤の選択は、本発明の特定の化合物による他、組成物の投与に用いる特定の方法によって、ある程度決定されることになる。
【0047】
上記のことにかかわらず、複合的治療効果を提供するため、本発明の組成物は、本発明の化合物を1つ以上含むことができ、他の生物活性物質を含むことができる。
【0048】
先に説明され且つ以下に説明される本発明の化合物及び組成物は、個別の患者の病態、投与の部位及び方法、投与スケジュール、個人の年齢、性別、体重及び医者が知る他の要素を考慮して、良好な医療行為に従って投与及び服用される。
【0049】
用量は、単一用量であってもよいし、数日の期間にわたる複数用量であってもよい。治療の期間は、一般に、疾病の経過期間及び薬剤の有効性並びに治療される個々の種に比例する。適当な用量及び投薬計画は、当業者に知られる従来の範囲決定技術によって決定できる。一般に、治療は、より少ない投与量で開始され、それは、化合物の最適用量より少ない。その後、その条件下での最適な効果に達するまで投与量を少量ずつ増加させる。例示的な投与量は、一日当たり治療対象の約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重の範囲である。
【0050】
本発明は、例示的に説明されており、当然のことながら、用いた用語は、限定というよりも説明という言葉の性質を持つことを意図している。上記教示を踏まえて、本発明の多くの変更及び変形が可能であることは明らかである。従って、本発明は、特許請求の範囲に沿って、以下に具体的に説明されたものよりも別の方法で実施できることが理解される。
【0051】
本願を通して様々な刊行物を番号で参照している。刊行物の完全な引用は、以下に記載される。それら刊行物の開示は、発明が属する技術の状況をより完全に説明するため、参照することにより完全な形で本願に組み込まれる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
(合成法の例)
本発明の化合物(式1)は、いくつかの合成手順によって調製されることができる。例えば、いくつかの2-アミノ-3,4,5,-三置換チオフェン誘導体(式2)を得るための合成経路を以下のスキームに描く。
【化6】

【0053】
このスキームによれば、適切なカルボニル化合物は、ジエチルアミンの存在下、エタノール中で、ベンゾイルアセトニトリル誘導体及び硫黄と反応し、生成物を提供した。該ベンゾイルアセトニトリル誘導体は、市販されていない場合、適切に置換された安息香酸メチルとアセトニトリルアニオンとの縮合によって合成された。
【0054】
(具体例−2-アミノ-3,4,5,-三置換チオフェン)
以下の具体例において本発明を更に説明するが、特許請求の範囲に記載される発明の範囲を限定しない。
【化7】

(2)
【0055】
ここで詳述される一般式(2)の例は、スキーム1で詳説した経路に従って合成される。
【0056】
(化学−概要)
(薬品及び溶媒)
すべての試薬は市販用の販売元から得られ、すべての溶媒は分析グレードであった。
【0057】
(クロマトグラフィー)
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、メルク社製シリカゲルのプラスチック支持付きF254プレートを用いて行われ、UV(254nm)下で視覚化された。
【0058】
(器具及び分析)
C,H,Nの元素分析を行った(ライデン化学研究所,ライデン大学,オランダ)。内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用い、H及び13CのNMRスペクトルをブルカー社製AC200(H NMR,200MHz;13C NMR,50.29MHz)スペクトロメータに記録した。化学シフトは、これに対するppm(δ)で報告される。融点は、ビュッヒ社製融点測定装置で測定し、訂正されていない。質量スペクトルは、ESI実験用エレクトロスプレーインターフェースを備えたフィニガン社製MAT TSQ‐70スペクトロメータで測定した。スペクトルは、メタノールに溶かした被分析物の一定注入により収集された。ESTは、陽イオン化モードでプロトン化したナトリウム化種及び陰イオン化モードで脱プロトン化した種が得られるソフトイオン化技術である。
【0059】
(合成手順)
(Klein,JMC,1999,42,3629−3635)(7)
2-アミノ-3-ベンゾイルチオフェンの合成の基本手順。1.5mLのエタノール中5mmolのカルボニル化合物、5mmolのベンゾイルアセトニトリル誘導体及び5.05mmolの硫黄の懸濁液に1mLのジエチルアミンを加えた。混合物を50℃で2時間撹拌した。混合物を室温に冷却した。生成物が粗反応混合物から結晶化した場合、沈殿物を集めて適切な溶媒から再結晶させた。結晶化が起こらなかった場合、混合物を蒸発させ、カラムクロマトグラフィーによって精製し、適切な溶媒から結晶化させた。
【0060】
LUF5463
(2-アミノ-4,5-ジメチル-3-チエニル)(フェニル)メタノンは、メチルエチルケトン及びベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp133〜134℃,H NMR(CDCl)δ1.54(s,3H CH),2.13(s,3H,CH),6.40(bs,2H,NH),7.39〜7.54(m,5H,Harom).
【0061】
LUF5471
(2-アミノ-4,5-ジメチル-3-チエニル)(3-クロロフェニル)メタノンは、メチルエチルケトン及び3-クロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp114〜116℃,H NMR(CDCl)δ1.52(s,3H CH),2.10(s,3H,CH),6.75(bs,2H,NH),7.30〜7.49(m,4H,Harom).
【0062】
LUF5487
(2-アミノ-4,5-ジメチル-3-チエニル)(4-クロロフェニル)メタノンは、メチルエチルケトン及び4-クロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp123〜125℃,H NMR(CDCl)δ1.55(s,3H CH),2.13(s,3H,CH),7.35〜7.49(m,6H,NH,Harom).
【0063】
LUF5464
(2-アミノ-4-エチル-5-メチル-3-チエニル)(フェニル)メタノンは、3-ペンタノン及びベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp129〜131℃,H NMR(CDCl)δ0.71(t,3H CH),2.09(q,2H,CH),2.16(s,3H,CH),6.10(bs,2H,NH),7.30〜7.65(m,5H,Harom).
【0064】
LUF5468
(2-アミノ-4-エチル-5-メチル-3-チエニル)[3-(トリフルオロメチル)フェニル]メタノンは、3-ペンタノン及び3-トリフルオロメチルベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp100〜101℃,H NMR(CDCl)δ0.68(t,3H CH),2.00(q,2H,CH),2.16(s,3H,CH),6.55(bs,2H,NH),7.54〜7.80(m,4H,Harom).
【0065】
LUF5472
(2-アミノ-4-エチル-5-メチル-3-チエニル)(3-クロロフェニル)メタノンは、3-ペンタノン及び3-クロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp99〜102℃,H NMR(CDCl)δ0.71(s,3H CH),2.08(q,2H,CH),2.13(s,3H,CH),6.40(bs,2H,NH),7.30〜7.60(m,4H,Harom).
【0066】
LUF5482
(2-アミノ-4-エチル-5-メチル-3-チエニル)(4-クロロフェニル)メタノンは、3-ペンタノン及び4-クロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp108〜110℃,H NMR(CDCl)δ0.71(s,3H CH),2.09(q,2H,CH),2.16(s,3H,CH),6.00(bs,2H,NH),7.36〜7.55(m,4H,Harom).
【0067】
LUF5465
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(フェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及びベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。152〜153℃,H NMR(CDCl)δ1.40〜1.62(m,2H CH),1.68〜1.80(m,4H,2xCH),2.48〜2.55(m,2H,CH),6.65(bs,2H,NH),7.38〜7.60(m,5H,Harom).
【0068】
LUF5532
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(2-クロロフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び2-クロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp145〜147℃,H NMR(CDCl)δ1.44〜1.71(m,6H,3xCH),2.44〜2.49(m,2H,CH),7.21〜7.37(m,4H,Harom).
【0069】
LUF5469
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)[3-(トリフルオロメチル)フェニル]メタノンは、シクロヘキサノン及び3-トリフルオロメチルベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp122〜123℃,H NMR(CDCl)δ1.41〜1.63(m,2H,CH),1.68〜1.79(m,4H,2xCH),2.47〜2.54(m,2H,CH),7.00(bs,2H,NH),7.48〜7.72(m,4H,Harom).
【0070】
LUF5473
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(3-クロロフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び3-クロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp114〜115℃,H NMR(CDCl)δ1.42〜1.58(m,2H,CH),1.70〜1.87(m,4H,2xCH),2.47〜2.55(m,2H,CH),6.88(bs,2H,NH),7.31〜7.44(m,4H,Harom).
【0071】
LUF5533
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(3-ヨードフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び3-ヨードベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp160〜162℃,H NMR(CDCl)δ1.47〜1.82(m,6H,3xCH),2.49〜2.55(m,2H,CH),6.80(bs,2H,NH),7.14〜7.79(m,4H,Harom).
【0072】
LUF5489
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)[4-(トリフルオメチル)フェニル]メタノンは、シクロヘキサノン及び4-トリフルオロメチルベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp145〜147℃,H NMR(CDCl)δ1.48〜1.50(m,2H,CH),1.69〜1.76(m,4H,2xCH),2.48(m,2H,CH),6.91(bs,2H,NH),7.54〜7.69(m,4H,Harom).
【0073】
LUF5480
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-クロロフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び4-クロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp140〜142℃,H NMR(CDCl)δ1.47〜1.52(m,2H,CH),1.71〜1.81(m,4H,2xCH),2.47〜2.54(m,2H,CH),6.71(bs,2H,NH),7.34〜7.45(m,4H,Harom).
【0074】
LUF5490
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-ブロモフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び4-ブロモベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp152〜153℃,H NMR(CDCl)δ1.46〜1.54(m,2H,CH),1.67〜1.83(m,4H,2xCH),2.46〜2.51(m,2H,CH),6.80(bs,2H,NH),7.33〜7.55(m,4H,Harom).
【0075】
LUF5528
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-ヨードフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び4-ヨードベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp150〜152℃,H NMR(CDCl)δ1.41〜1.87(m,6H,3xCH),2.43〜2.52(m,2H,CH),6.82(bs,2H,NH),7.17〜7.75(m,4H,Harom).
【0076】
LUF5527
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-メチルフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び4-メチルベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp155〜156℃,H NMR(CDCl)δ1.45〜1.50(m,2H,CH),1.70〜1.91(m,4H,2xCH),2.38(s,3H,CH),2.47〜2.54(m,2H,CH),6.60(bs,2H,NH),7.16〜7.42(m,4H,Harom).
【0077】
LUF5526
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-ニトロフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び4-ニトロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp202〜204℃,H NMR(CDCl)δ0.85〜1.16(m,6H,3xCH),1.88〜2.00(m,2H,CH),6.43(bs,2H,NH),7.01〜7.69(m,4H,Harom).
【0078】
LUF5492
4[(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)‐カルボニル]安息香酸メチルは、シクロヘキサノン及び4-(2-シアノアセチル)安息香酸メチルから出発して、上述のようにして調製された。mp159〜160℃,H NMR(CDCl)δ1.54(s,3H CH),2.13(s,3H,CH),6.40(bs,2H,NH),7.39〜7.54(m,5H,Harom).
【0079】
LUF5493
4-[(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)-カルボニル]安息香酸は、シクロヘキサノン及び4-(2-シアノアセチル)安息香酸メチルから出発し、加水分解し、上述のようにして調製された。mp232〜233℃,H NMR(CDOD)δ1.40〜1.49(m,2H CH),1.64〜1.70(m,4H,2xCH),2.42〜2.48(m,2H,CH),7.43〜8.09(m,4H,Harom).
【0080】
LUF5484
(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(3,4-ジクロロフェニル)メタノンは、シクロヘキサノン及び3,4-ジクロロベンゾイルアセトニトリルから出発し、上述のようにして調製された。mp152〜154℃,H NMR(CDCl)δ1.46〜1.54(m,2H,CH),1.67〜1.83(m,4H,2xCH),2.45〜2.51(m,2H,CH),7.11(bs,2H,NH),7.27〜7.56(m,3H,Harom).
【0081】
LUF5485
2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-カルボン酸エチル
Mp114〜117℃
【0082】
LUF5488
(2-アミノ-5-フェニル-3-チエニル)(4-クロロフェニル)メタノン
mp173〜175℃
【0083】
LUF5496
2-({5-アミノ-4-[3-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-2-チエニル}メチル)-1,3-イソインドリンジオン
mp199〜200℃
【0084】
(生物学)
特定の細胞表面受容体の主な機能は、アゴニストの結合の際に第二メッセンジャーシステムを活性化することである。S1P受容体は、選択的にG-タンパク質と結合して活性化させ、このため、この受容体サブタイプの活性化は、cAMP生成の阻害をもたらす。S1P受容体は、主にG-タンパク質を活性化し、最終的に細胞内カルシウムの増加をもたらす。S1P受容体の活性化は、G-タンパク質及びG-タンパク質の活性化によって、cAMP生成の阻害及び細胞内カルシウムの増加の両方をもたらす。
従って、cAMP蓄積の測定(Lance cAMP 384キット,パーキンエルマー社製,ベルギー)及び細胞内カルシウムの変化の測定(方法についてはJongsma et al.,2006参照)(8)を行った。
【0085】
【表1】

【0086】
(構造活性相関)
表1にはS1P及びS1P受容体でのcAMP蓄積アッセイの結果が、多数の化合物について表示されており、S1Pそれ自体の結果と対比されている。また、S1P受容体での有効性を持つ化合物は、S1Pの媒介による細胞内カルシウムの変化を誘発したが、ほとんどの場合で効能は低かった(データを図示せず)。試験した化合物は、S1P受容体での有効性を示さなかった。
【0087】
(参考文献の一覧)
(1) J・チュン、E・J・ゲッツル、T・フラ、Y・イガラシ、K・R・リンチ、W・モーレナー、S・パイン、G・ティギ、『リゾリン脂質受容体命名法』、薬理学レビュー、54、265〜269、国際薬理学連合、34、2002年
(2) T・サンチェス、T・フラ、『S1P受容体の構造的及び機能的特性』、細胞生化学ジャーナル、92、913〜922、2004年
(3) M・フォレット、S・Y・サン、R・アイドゥー、J・ベルイストローム、D・カード、G・ドハーティ、J・へイル、C・コヘイン、C・メイヤーズ、J・ミリンガー、S・ミルズ、N・ノムラ、H・ローゼン、M・ローゼンバック、G・J・シェイ、I・I・シンガー、M・ティエン、S・ウエスト、V・ホワイト、J・シェ、R・L・プロイア、S・マンダラ、『げっ歯類におけるスフィンゴシン1‐リン酸受容体アゴニストの免疫細胞調節及び心臓血管系作用は特異な受容体サブタイプによって媒介される』、薬理学・実験的治療学ジャーナル、309、758〜768、2004年
(4) M・G・スンナ、J・リヤオ、E・ジョー、C・アルフォンソ、M・Y・アン、M・S・ピーターソン、B・ウェブ、S・ルフェーブル、J・チュン、N・グレイ、H・ローゼン、『スフィンゴシン1‐リン酸(S1P)受容体サブタイプS1P1とS1P3はそれぞれ、リンパ球再循環と心拍数を調節する』、細胞生化学ジャーナル、279、13839〜13848、2004年
(5) G・サイルメア、C・シュミット、J・へルマン、P・クール、M・シェッフル、I・ハーゴット、J・メルスマン、J・ラーマン、S・ハーマン、J・スティップマン、O・ショーバー、R・ヒルデブランド、R・シュルツ、G・ホイシュ、M・ハウド、K・フォンヴヌックリピンスキ、C・エルゾーク、M・シュミッツ、R・エルベル、J・チュン、B・レフカウ、『高密度リポタンパク質とその構成要素、スフィンゴシン‐1‐リン酸は、S1P3リゾリン脂質受容体によって生体内で虚血/再かん流傷害から直接心臓を保護する』、循環、114:1403〜9、2006年
(6) P・クール、M・テレ、S・リュッケ、K・フォンヴヌックリピンスキ、G・ホイシュ、M・シュハルト、M・ファンデルギート、B・レフカウ、『スフィンゴシン‐1‐リン酸アナログFTY720はアポリポタンパク質E‐欠損マウスにおけるアテローム性動脈硬化を減少させる』動脈硬化血栓症血管生物学、(電子出版)、2007年
(7) P・A・M・ファンデルクライン、A・P・クールーナキス、A・P・アイゼルマン、『A1受容体のアロステリック調節、アゴニスト結合のアロステリックエンハンサーとしての新規2‐アミノ‐3ベンゾイルチオフェンの合成及び生物的評価』、医化学ジャーナル、42、3629〜3635、1999年
(8) M・ヨングスマ、M・C・ヘンドリクス‐バルク、M・C・ミッチェル、S・L・ピーターズ、A・E・アレヴィンセ、『BML‐241はスフィンゴシン‐1‐リン酸受容体、S1P(3)での選択的アンタゴニストを表示できない』、薬理学英国ジャーナル、149、277〜282、2006年
(9) ジョエル・M・リンデン、レイ・A・オルソン、ピーター・J・スカメルズ、『ヒトA1アデノシン受容体でのアゴニストアロステリックエンハンサーである2‐アミノ‐3‐アロイル‐4,5‐アルキルチオフェン調製』、米国特許第6713638号
(10) ジョージ・ニコラコポウロス、ハイディ・フィグラー、ジョエル・リンデン、ピーター・J・スカメルズ、『アデノシンA1受容体アロステリックエンハンサーとしての2‐アミノチオフェン‐3‐カルボキシレートとカルボキシアミド』、生物有機・医薬品化学、14(7)、2353〜2365、2006年
(11) ピエル・ジョバンニ・バラウディ、マリア・ジョバンニ・パヴァニ、エドワード・レオン、アラン・R・ムアマン、カティア・バラニ、ファブリツィオ・ビンセンツ、ピエル・アンドレア・ボリア、ロメオ・ロマニョーリ、『第1放射標識アデノシンA1アロステリックエンハンサーである、[3H](2‐アミノ‐4,5,6,7‐テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン‐3‐イル)(4‐クロロフェニル)メタノン合成と生物学的特性』、生物有機・医薬品化学レター、16(5)、1402〜1404、2004年
(12) ピエル・ジョバンニ・バラウディ、マリア・ジョバンニ・パヴァニ、ジョン・C・シュライオック、アラン・R・ムアマン、バレリア・イアノッタ、ピエル・アンドレア・ボリア、ロメオ・ロマニョーリ、『2‐アミノ‐3‐ヘテロアロイルチオフェンの合成とヒトA1受容体での潜在アロステリックエンハンサーとしてのその活性の評価』、医薬品化学の欧州ジャーナル、39(10)、855〜865、2004年
(13) ピエル・ジョバンニ・バラウディ、『アロステリックアデノシン受容体モジュレータとしてのチエニルメタノーゼの調製』、米国特許第6727258号
(14) ロバート・F・ブランズ、ジェームズ・H・ファーガス、リンダ・L・クーへノール、ジェニーバ・G・コートランド、トーマス・A・パグスリー、ジョン・H・ドッド、フランシス・J・ティンネイ、『2‐アミノ‐3‐ベンゾイルチオフェンによるアデノシンA1受容体結合の向上のための構造活性相関』、分子薬理学、38(6)、950〜8、1990年

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のスフィンゴシン1リン酸(S1P)受容体によって媒介される状態の治療又は予防のための薬剤の調製における、一般化学式(1):
【化1】

(1)
の化合物又はその塩の使用であって、
式中、
Xは酸素、硫黄、NH又はC〜Cアルキル置換NHを表し;
C=Yは、任意であるが、存在する場合、Yが酸素、硫黄、NH、又はC〜Cアルキル置換NHを表し;
Zは、水素、ハロゲン、アミド、ヒドロキシル、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アリール若しくはヘテロアリール、置換若しくは非置換アラルキル、アルコキシル、アミノ、モノ-若しくはジ-C〜Cアルキル置換アミノ、スルフィドリル、カルボニル、カルボキシル、アクリレート、メタクリレート、ビニル、スチリル、スルホネート、スルホン酸、又は四級アンモニウムを表し;
Rは、水素、ハロゲン、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アルキニル、又は置換若しくは非置換-(CH)-アリールを表し;
R'は、水素、ハロゲン、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アルキニル、又は置換若しくは非置換-(CH)-アリールを表し;あるいはR、R'は、一体として結合され、飽和でも不飽和でもよく、置換でも非置換であってもよい3〜7員環を形成し;
R''は、水素、-(CH)-ヒドロキシル、ハロゲン、アシル、チオ-アシル、セレノ-アシル、(置換)アルキル、(置換)アルケニル、(置換)アルキニル、又は(置換)-(CH)-アリールを表し;
破線で示す結合a及びbは、存在してもよいし無くてもよく、
nは0〜10の範囲の数である
ことを特徴とする化合物又はその塩の使用。
【請求項2】
Zが置換又は非置換アルキル、アルコキシ、アラルキル又はアルケニルであり、Zのアルキル基又はアルケニル基がC〜Cである請求項1に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項3】
ZがNHである請求項1に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項4】
Xが硫黄である請求項1に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項5】
Yが酸素である請求項1に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項6】
前記式(1)の化合物が、式(2):
【化2】

(2)
の構造を有し、ここで、R、R'及びR''は請求項1と同義である請求項1に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項7】
前記式(1)の化合物が、式(3):
【化3】

(3)
の構造を有し、ここで、R''は請求項1と同義である請求項1に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項8】
R''がフェニル又は置換フェニルである請求項7に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項9】
前記式(3)の化合物が、(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-クロロフェニル)メタノン、(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-ブロモフェニル)メタノン、4[(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)-カルボニル]安息香酸メチル、(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(2-クロロフェニル)メタノン、(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(3-クロロフェニル)メタノン、(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(3-ヨードフェニル)メタノン、(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)(4-メチルフェニル)メタノン、(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン-3-イル)[3-(トリフルオロメチル)フェニル]メタノン、及びそれらの塩からなる群から選択される請求項7に記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項10】
前記状態がS1P受容体によって媒介される請求項1〜9のいずれかに記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項11】
前記状態が、循環器疾患、アテローム性動脈硬化症、癌、肺水腫、自己免疫疾患及び成人呼吸窮迫症候群からなる群から選択される請求項1〜10のいずれかに記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項12】
対象のスフィンゴシン1リン酸(S1P)受容体によって媒介される状態の治療又は予防に用いるための請求項1〜9のいずれかに定義された化合物又はその塩。
【請求項13】
前記状態が、対象のS1P受容体によって媒介される請求項12に記載の化合物又はその塩。
【請求項14】
前記状態が、循環器疾患、アテローム性動脈硬化症、癌、肺水腫、自己免疫疾患及び成人呼吸窮迫症候群からなる群から選択される請求項12又は13に記載の化合物又はその塩。
【請求項15】
有効成分として請求項1〜9のいずれかに定義された化合物又はその塩を1つ以上含む薬剤組成物。
【請求項16】
対象に対し、請求項1〜9のいずれかに定義された化合物又はその塩を有効量で投与することを含むS1P受容体媒介性の状態の治療方法。
【請求項17】
前記状態がS1P媒介性の状態である請求項16に記載の治療方法。
【請求項18】
前記状態が循環器疾患、アテローム性動脈硬化症、癌、肺水腫、自己免疫疾患及び成人呼吸窮迫症候群からなる群から選択される請求項17に記載の治療方法。

【公表番号】特表2011−503168(P2011−503168A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533676(P2010−533676)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003056
【国際公開番号】WO2009/063301
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510132945)ユニバーシティト レイデン (2)
【Fターム(参考)】