説明

スプラインハブ

【課題】 潤滑剤が供給されるスプラインハブにおいて、グリス溝の問題を解決する。
【解決手段】 スプラインハブ4は、トランスミッションのシャフト15が相対回転不能に係合するものであって、軸方向に延びるスプライン溝21aが内周面に形成されたボス21と、ボス21に取り付けられ内部にグリス25が充填されたグリス保持部材22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプラインハブ、特に、潤滑剤供給機能を有するスプラインハブに関する。
【背景技術】
【0002】
車輌に用いられるクラッチディスク組立体は、入力側部材であるクラッチプレート及びリテーニングプレートと、出力側部材であるスプラインハブと、スプラインハブと両プレートとの間に配置されたコイルスプリング等からなるダンパーとから構成されている。クラッチプレート及びリテーニングプレートの外周部には、クッショニングプレートと摩擦フェーシングとからなるクラッチディスクが設けられている。
【0003】
スプラインハブは、トランスミッション側から延びるシャフトに嵌合する複数のスプライン溝が中心孔に形成された筒状のボスと、ボスから半径方向外方に延びるフランジとから構成されている。フランジには、コイルスプリングが収容される窓孔が形成されている。また、フランジ部分をボスから分離し、両者を低剛性の弾性部材で回転方向に連結した分離ハブ型のクラッチディスク組立体も知られている。
【0004】
前記従来のスプラインハブでは、ボスの内周面(中心孔)には、円周方向に延びる複数のグリス溝が形成されている。グリス溝内のグリスがスプラインハブのスプライン溝、すなわちスプライン係合部に供給され、スプラインハブとシャフトの軸方向の摺動時の摩擦を低減する(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平11−336781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリス溝が形成されているスプラインハブでは、グリス溝に削られてシャフトに段差が形成されてしまうことがある。その場合は、スプラインハブがシャフトに対して軸方向に摺動しにくくなり、その結果クラッチの切れ不良につながる。
【0006】
本発明の目的は、潤滑剤が供給されるスプラインハブにおいて、グリス溝の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のスプラインハブは、トランスミッションのシャフトが相対回転不能に係合するスプラインハブであって、軸方向に延びるスプライン溝が内周面に形成されたボスと、ボスに取り付けられ内部に潤滑剤が充填された潤滑剤保持部材とを備えている。
【0008】
このスプラインハブでは、潤滑剤保持部材から潤滑剤がスプライン溝に供給されて、潤滑を行う。また、ハブ本体に潤滑剤保持用の溝を形成する必要がないため、ボスのシャフトに対する摺動性が向上する。
【0009】
請求項2に記載のスプラインハブでは、請求項1において、潤滑剤保持部材は、ボスの軸方向端部に取り付けられている。
【0010】
このスプラインハブでは、潤滑剤保持部材の取り付けが容易である。
【0011】
請求項3に記載のスプラインハブでは、請求項2において、潤滑剤保持部材は、ボスのトランスミッション側端部に取り付けられ、シャフトが貫通可能な環状部材である。
【0012】
このスプラインハブでは、潤滑剤保持部材はシャフトとスプラインハブとの係合を妨げない。
【0013】
請求項4に記載のスプラインハブでは、請求項2又は3において、潤滑剤保持部材は潤滑剤を供給する供給口を有している。
【0014】
このスプラインハブでは、潤滑剤は潤滑剤保持部材の供給口からスプライン溝に供給される。
【0015】
請求項5に記載のスプラインハブでは、請求項4において、供給口はスプライン溝の外周部分近傍に配置されている。
【0016】
このスプラインハブでは、潤滑剤はスプライン溝の外周部分に供給される。
【0017】
請求項6に記載のスプラインハブでは、請求項1〜5のいずれかにおいて、潤滑剤保持部材はボスに対して軸方向への移動で着脱可能である。
【0018】
このスプラインハブでは、潤滑剤保持部材の取付が容易である。
【0019】
請求項7に記載のスプラインハブでは、請求項1〜6のいずれかにおいて、潤滑剤保持部材は、潤滑剤が収容される空間を確保する第1部材と、第1部材をボスに固定する第2部材とから構成されている。
【0020】
このスプラインハブでは、潤滑剤保持部材が第1部材と第2部材とに分割されているため、潤滑剤が収容される空間を大きくできる。
【0021】
請求項8に記載のスプラインハブでは、請求項1〜6のいずれかにおいて、潤滑剤保持部材は、潤滑剤が含浸された第3部材と、第3部材をボスに固定する第4部材とから構成されている。
【0022】
このスプラインハブでは、潤滑剤は第3部材から漏れ出て、スプライン溝に供給される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るスプラインハブでは、ボスに潤滑剤保持用の溝を形成する必要がないため、ボスのシャフトに対する摺動性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
1.第1実施形態
図1に示すクラッチディスク組立体1は、主に、入力側部材としてのクラッチプレート2やリテーニングプレート3と、出力側部材であるスプラインハブ4と、プレート2,3とスプラインハブ4との間に配置された複数のトーションスプリング5,6等からなるダンパー機構とから構成されている。特に、この実施形態では、スプラインハブ4の外周側に配置されたハブフランジ7が、サブダンパー8によりスプラインハブ4に対して回転方向に弾性的に連結されている。クラッチプレート2の外周部には摩擦連結部又はクラッチディスク9が設けられている。摩擦連結部9は、図示しないクラッチカバー組立体によってエンジンのフライホイールに摩擦連結される。なお、図1では、クラッチカバー組立体の付勢力を解除するためのレリーズ機構11が示されている。
【0025】
スプラインハブ4は、図1から明らかなように軸方向に延びる筒状のボス21を有している。スプラインハブ4は、さらに、グリス保持部材22を有している(後述)。
【0026】
ボス21の中心には円形の中心孔が形成されており、そこには複数のスプライン溝21aが形成されている。スプライン溝21aはボス21の内周において軸方向に渡って延びる凹部である。スプライン溝21aによって、中心孔には半径方向内側に延びる歯が形成されていると見てもよい。
【0027】
ボス21の中心孔内には、トランスミッション側から延びるメインドライブシャフト15が挿入される。ボス21のスプライン溝21aはシャフト15の外周に設けられたスプライン突起15aに嵌合し、それによりスプラインハブ4のボス21はシャフト15に対して相対回転不能にかつ軸方向に移動可能となっている。
【0028】
グリス保持部材22は、ボス21の軸方向端部、具体的にはトランスミッション側端部に取り付けられている。グリス保持部材22は、グリスを貯蔵することにより、スプライン溝21aとシャフト15のスプライン突起15aとの間に潤滑剤としてのグリスを供給する役割を有している。これにより、ボス21とシャフト15との間での摺動抵抗が少なくなる。この結果、両部材の固着などの不具合が生じにくい。
【0029】
図3を用いて、グリス保持部材22について詳細に説明する。グリス保持部材22は、樹脂製の環状部材であり、外周の第1筒状部22aと、その軸方向トランスミッション側端から半径方向内側に延びる環状の平坦部22bと、その内周縁から軸方向エンジン側に延びる内周の第2筒状部22cとを有している。第1筒状部22aの軸方向エンジン側の部分はボス21の外周面21bに当接しており、軸方向トランスミッション側の部分はボス21の端面21cからさらに軸方向トランスミッション側に突出している。さらに外周面21bに形成された環状の凹部21dに対して、第1筒状部22aの内周面に形成された環状の凸部22eが嵌め込まれている。すなわち、ディテント機構によって、グリス保持部材22はボス21に対して軸方向に移動させるだけで着脱されるようになっている。
【0030】
第2筒状部22cは先端がボス21の軸方向トランスミッション側端面21cに近接している。より正確には、第2筒状部22cの先端は、端面21cの内周縁部(スプライン溝21aの外周部近傍)に当接している。このようにして、グリス保持部材22の第1筒状部22a、平坦部22b、第2筒状部22c及びボス21の端面21cによって、環状の空間24が形成され、その中にグリス25が充填されている。なお、第2筒状部22cの先端には、半径方向に連通する切り欠き22dが複数形成されている。つまり、切り欠き22dは、グリス25の供給口になっている。図2に示すように、切り欠き22dは各スプライン溝21aに対応して配置されている。
【0031】
このスプラインハブでは、グリス保持部材22からグリス25がスプライン21aに供給されて、潤滑を行う。また、スプラインハブ4のボス21にグリス保持用の溝を形成する必要がないため、スプラインハブ4のシャフト15に対する摺動性が向上する。
【0032】
特に、グリス25は少しずつ染み出すように供給されるため、保持期間が長い。したがって、クラッチの切れ不良を長期間にわたって防止できる。
【0033】
本発明に係るグリス保持部材22のさらなる効果について説明する。
【0034】
1)グリス保持部材22はボス21の軸方向端部に取り付けられているため、グリス保持部材22の取り付けが容易である。さらに、グリス保持部材22はボス21に対して軸方向に移動させるだけで着脱可能であるため、グリス保持部材22の取り付けが容易である。
【0035】
2)グリス保持部材22は、ボス21のトランスミッション側端部に取り付けられ、しかもシャフト15が貫通可能な環状部材であるため、グリス保持部材22はシャフト15とスプラインハブ4との係合を妨げない。
【0036】
3)グリスはグリス保持部材22の切り欠き22dからスプライン溝21aに供給され、しかも切り欠き22dはスプライン溝21aの外周部分近傍に配置されているため、グリス25はスプライン溝21aの外周部分に供給される。
【0037】
2.第2実施形態
図4及び図5を用いて、本発明の第2実施形態におけるグリス保持部材32について説明する。グリス保持部材32は、グリス充填空間形成部材33と、固定部材34とから構成されている。
【0038】
図5を用いて、グリス保持部材32について詳細に説明する。グリス充填空間形成部材33は、樹脂製の環状部材であり、外周の第1筒状部33aと、その軸方向トランスミッション側端からの半径方向内側に延びる環状の平坦部33bと、その内周縁から軸方向エンジン側に延びる内周の第2筒状部33cとを有している。第1筒状部33aはボス21の外周面21bよりさらに半径方向外側に配置されている。第2筒状部33cは先端がボス21の軸方向トランスミッション側端面21cに近接している。より正確には、第2筒状部33cの先端は、端面21cの内周縁部(スプライン溝21aの外周部近傍)に当接している。固定部材34は、グリス充填空間形成部材33をボス21に固定するための部材であり、筒状の板金製(例えば、銅板)である。固定部材34は、グリス充填空間形成部材33の外周側とボス21の軸方向トランスミッション側端の外周側とを覆っている。固定部材34は、部材33の軸方向トランスミッション側面に当接する第1平坦部34aと、部材33の第1筒状部33aの外周面を覆う第1筒状部34b、部材33の第1筒状部33aの軸方向エンジン側端及びその内周側の隙間を覆う第2平坦部34cと、ボス21の外周面21bに当接する第2筒状部34dとを有している。さらにボス21の外周面21bに形成された環状の凹部21dに対して、第2筒状部34dの内周面に形成された環状の凸部34eが嵌め込まれている。すなわち、グリス保持部材32はボス21に対して軸方向に移動させるだけで着脱するようになっている。
【0039】
以上に述べたように、部材33の第1筒状部33a、平坦部33b、第2筒状部33c、ボス21の端面21c及び固定部材34の第2平坦部34cによって、環状の空間35が形成され、その中にグリス36が充填されている。なお、部材33の第2筒状部33cの先端には、半径方向に連通する切り欠き33dが複数形成されている。つまり、切り欠き33dは、グリス36の供給口になっている。
【0040】
この実施形態では、グリス保持部材32がグリス充填空間形成部材33と固定部材34とに分割されているため、グリスが収容される空間35を第1実施形態より大きくできる。
これは、グリス保持部材32が固定機能を有する必要が無くなり、構造が簡単になっているからである。具体的には、空間35の外径はボス21の外周面21bの径より大きくなっている。
【0041】
3.第3実施形態
図6及び図7を用いて、本発明の第3実施形態におけるグリス保持部材42について説明する。グリス保持部材42は、グリス含浸部材43と、固定部材44とから構成されている。
【0042】
図7を用いて、グリス含浸部材43について詳細に説明する。グリス含浸部材43は、樹脂製の環状部材であり、多孔質の材料からなり内部にグリスを保持している。グリス含浸部材43は、ボス21の軸方向トランスミッション側端面21cに当接して配置されている。グリス含浸部材43は、スプライン溝21aに対応する位置にまで半径方向内側に延びた複数の突起43aを有している。突起43aはシャフト15の突起15aに対応する位置に形成されているため、グリス含浸部材43がシャフト15に干渉することはない。なお、グリス含浸部材には突起はなくても良い。突起固定部材44は、グリス含浸部材43をボス21に固定するための部材であり、筒状の板金製である。固定部材34は、グリス含浸部材43の外周側とボス21の軸方向トランスミッション側端の外周側とを覆っている。固定部材44は、部材33の軸方向トランスミッション側面に当接する平坦部44aと、部材33の外周面及びボス21の外周面21bに当接する筒状部44bとを有している。さらにボス21の外周面21bに形成された環状の凹部21dに対して、筒状部44bの内周面に形成された環状の凸部44cが嵌め込まれている。すなわち、グリス保持部材42はボス21に対して軸方向に移動させるだけで着脱可能である。
【0043】
この実施形態では、グリスはグリス含浸部材43から漏れ出て、スプライン溝21aに供給される。
【0044】
4.他の実施形態
前記実施形態は本発明の例示のために記載したものであり、本発明を限定するものではない。本発明の要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態が採用されたクラッチディスク組立体の縦断面概略図。
【図2】図1のII−II断面図。
【図3】図1の部分拡大図であり、グリス保持部材の縦断面図。
【図4】本発明の第2実施形態が採用されたクラッチディスク組立体の縦断面概略図。
【図5】図4の部分拡大図であり、グリス保持部材の縦断面図。
【図6】本発明の第3実施形態が採用されたクラッチディスク組立体の縦断面概略図。
【図7】図6の部分拡大図であり、グリス保持部材の縦断面図。
【符号の説明】
【0046】
4 スプラインハブ
21 ボス
21a スプライン溝
22 グリス保持部材
24 空間
25 グリス
32 グリス保持部材
33 グリス充填空間形成部材(第1部材)
34 固定部材(第2部材)
42 グリス保持部材(第3部材)
43 グリス含浸部材(第4部材)
44 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッションのシャフトが相対回転不能に係合するスプラインハブであって、
軸方向に延びるスプライン溝が内周面に形成されたボスと、
前記ボスに取り付けられ内部に潤滑剤が充填された潤滑剤保持部材と、
を備えたスプラインハブ。
【請求項2】
前記潤滑剤保持部材は、前記ボスの軸方向端部に取り付けられている、請求項1に記載のスプラインハブ。
【請求項3】
前記潤滑剤保持部材は、前記ボスのトランスミッション側端部に取り付けられ、前記シャフトが貫通可能な環状部材である、請求項2に記載のスプラインハブ。
【請求項4】
前記潤滑剤保持部材は前記潤滑剤を供給する供給口を有している、請求項2又は3に記載のスプラインハブ。
【請求項5】
前記供給口は前記スプライン溝の外周部分近傍に配置されている、請求項4に記載のスプラインハブ。
【請求項6】
前記潤滑剤保持部材は前記ボスに対して軸方向への移動で着脱可能である、請求項1〜5のいずれかに記載のスプラインハブ。
【請求項7】
前記潤滑剤保持部材は、前記潤滑剤が収容される空間を確保する第1部材と、前記第1部材を前記ボスに固定する第2部材とから構成されている、請求項1〜6のいずれかに記載のスプラインハブ。
【請求項8】
前記潤滑剤保持部材は、前記潤滑剤が含浸された第3部材と、前記第3部材を前記ボスに固定する第4部材とから構成されている、請求項1〜6のいずれかに記載のスプラインハブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate