説明

スプレーガン、吹付け施工装置、および吹付け施工方法

【課題】軽量で凹凸が少なく、下地処理機能および下地緩衝機能にも優れた低密度化樹脂層を短時間で形成でき、かつ樹脂飛散が抑制され、しかも施工およびメンテナンスが容易であるスプレーガンを提供する。
【解決手段】原料液43にガスを混入させるとともに、原料液43を噴射するノズル部5を備えたスプレーガン。ノズル部5の内部空間10は、原料液43が導入される導入路20と、導入路20より流路が拡大されて原料液43を微粒子状に噴出させる開放部21と、開放部21より流路が縮小されて微粒子状の原料液43を再集合させる縮径部25と、この原料液43を外部に噴射させる噴射口部26とを有する。ノズル部5には、ガス44を開放部21の基端側部位21aに導入するガス導入孔27が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合硬化型樹脂や湿気硬化型樹脂を用いて、下地挙動緩衝層および下地処理層としての機能を有する防水層等の樹脂層を吹付け施工により形成するスプレーガン、これを用いた吹付け施工装置、および吹付け施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の屋上、ベランダ、廊下などの防水施工や、衝撃緩衝機能が求められる構造物(遊具等)の被覆施工には、ポリウレタンなどの2剤混合硬化型の樹脂や湿気硬化型の樹脂が広く用いられている。
施工の際には、スプレーガンを用いて、原料液を施工対象に吹き付け、樹脂層を形成する。
樹脂層には、施工対象となる下地の凹凸、不陸、段差、隙間等に対応する機能(下地処理機能)が望まれている。また、下地の膨張、収縮、変形等の挙動に対する緩衝機能も高いことが好ましい。さらに、構造物の長寿命化を図るため、構造物に形成される樹脂層にも軽量化が要求されている。
近年、それらの要求に対して、速硬化型ウレタン樹脂からなる低密度化樹脂層の使用が検討されている。
低密度化樹脂層を形成するには、例えば、ガスを導入する構造を備えたスプレーガンを用いて、前記ガスをノズル部内に供給しながら吹付け施工を行う。
前記スプレーガンでは、ガス導入路への原料液流入(逆流)を防ぐため、原料液の輸送圧力を比較的低く、かつガスの供給圧力を比較的高く設定する。
原料液の輸送圧力が低いため混合が不十分になりやすいことから、前記スプレーガンとしては、原料液を攪拌する攪拌体を内蔵したものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−321701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記スプレーガンでは、原料液の輸送圧力が低いため吹付け量が少なくなることから、施工に時間がかかっていた。また、ガス供給圧力が高いため、吹付け施工時に原料液が飛散し、目的箇所以外への樹脂付着が起こりやすく、しかも低密度化樹脂層の表面に凹凸が形成されやすいという問題もあった。
さらに、前記スプレーガンは、攪拌体を内蔵するため流路の構造が複雑であることから原料液が内部に残りやすく、原料液の吐出を停止するたびに内部を有機溶剤で洗浄する必要があり、施工が容易でなかった。また、構成部品が多く、構造が複雑であるため、メンテナンスが容易でないという問題もあった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、軽量で凹凸が少なく、下地処理機能および下地緩衝機能にも優れた低密度化樹脂層を短時間で形成でき、かつ樹脂飛散が抑制され、しかも施工およびメンテナンスが容易であるスプレーガン、吹付け施工装置、および吹付け施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のスプレーガンは、原料液をガスとともに吹付け施工して低密度化樹脂からなる樹脂層を形成するスプレーガンであって、前記原料液が導入される本体部と、前記本体部の先端に設けられて前記原料液にガスを混入させるとともに前記原料液を噴射するノズル部とを備え、前記ノズル部の内部空間は、前記原料液が導入される導入路と、前記導入路より流路が拡大されて前記原料液を微粒子状に噴出させる開放部と、前記開放部より流路が縮小されて前記微粒子状の原料液を再集合させる縮径部と、この原料液を外部に噴射させる噴射口部とを有し、前記ノズル部には、前記ガスを前記開放部の基端側部位に導入するガス導入孔が形成されている。
前記開放部は、前記導入路の出口から先端方向に徐々に拡径する拡径部を有し、前記ガス導入孔は、前記拡径部にガスを導入できるように形成されていることが好ましい。
前記縮径部は、前記開放部から先端方向に徐々に縮径するように形成されていることが好ましい。
前記ノズル部は、前記内部空間を有するノズル部本体と、前記ノズル部本体の先端に設けられた先端筒部とを備え、前記先端筒部は、前記噴射口部の内径より大きな内径を有し、前記ノズル部本体の先端からさらに先端方向に延出して形成されていることが好ましい。
前記ガス導入孔の内径は、前記開放部の内径より小さいことが好ましい。
前記ノズル部に、外部から送られた前記ガスを前記ガス導入孔に導くガス導入部が形成され、前記ガス導入部の内径は、前記ガス導入孔の内径より大きいことが好ましい。
前記ガス導入孔は、前記ノズル部の内方に向けて先端方向に傾斜して形成されていてもよい。
本発明では、前記原料液が、混合硬化型の複数の液剤の混合液であり、前記本体部は、前記複数の液剤を合流させて前記原料液とするものであってもよい。
本発明の吹付け施工装置は、前記スプレーガンと、前記原料液を供給する液剤供給部と、前記スプレーガンにガスを供給するガス供給部とを備えている。
本発明の吹付け施工方法は、前記スプレーガンを用いて吹付け施工を行う方法であって、前記原料液を前記ノズル部の導入路を経て前記開放部に導入するとともに、前記ガスを前記ガス導入孔から前記開放部の基端側部位に導入することによって、前記原料液を微粒子状に噴出させ、この原料液を、前記縮径部において前記ガスを含んだ状態で再集合させ、噴射口部から外部に噴射させ、施工対象に吹付けることにより前記樹脂層を形成する吹付け施工方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、導入路より流路が拡大された開放部を有するノズル部を備え、前記ノズル部には、前記開放部の基端側部位にガスを導入するガス導入孔が形成され、前記ガスは吐出圧力が低下した前記開放部に供給されることになる。
このため、原料液の輸送圧力を高く設定しても、前記開放部で吐出圧力が低下するため、原料液が前記ガス導入孔に流入(逆流)するという問題が起こりにくい。
原料液の輸送圧力を高く設定できることから、原料液の供給量を多くでき、施工に要する時間を短縮することができる。
また、原料液の前記ガス導入孔への逆流が起こりにくいため、ガスの供給圧力を低く設定できる。このため、吹付け施工時の原料液の飛散が起こりにくく、目的箇所以外への樹脂付着の問題を防ぎ、しかも表面凹凸が小さい低密度化樹脂層を形成することができる。
【0007】
前記スプレーガンでは、前記ガスが前記開放部に供給されて原料液が微粒子化するため、液剤が均一に混合されるとともに、前記ガスに均一に分散した状態となる。
さらに、微粒子化した原料液は、前記縮径部において、多くのガスを均一に含んだ状態で再集合する。
このように、原料液は、微粒子化し、十分量の前記ガスを含んだ状態で再集合するという過程を経るため、十分に混合されるとともに低密度化される。
また、原料液が十分に混合されるため、樹脂層の物性(伸びなど)が向上する。さらに物性(伸びなど)の向上および低密度化により柔軟性が向上するため下地追従性、緩衝性などの特性に優れた低密度化樹脂層が得られる。
本発明により得られた低密度化樹脂層は、下地の凹凸を修正するとともにピンホール発生を抑制するなどの下地処理層としての機能、および下地の挙動を緩衝する下地挙動緩衝層としての機能を有する。
また、低密度の樹脂層を形成できるため、樹脂層の軽量化が可能である。
【0008】
また、原料液の均一混合が可能であるため、前記ノズル部内に攪拌体を設ける必要はない。
このため、原料液の吐出を停止する際には、空気等により原料液を前記ノズル部から排出すれば、前記ノズル部内部での樹脂固着を抑制できる。よって、溶剤洗浄は必ずしも必要とならず、施工の容易性を高めることができる。また、前記ノズル部内面を樹脂(テフロン(登録商標)など)などでコーティングすれば、樹脂固着をより起こりにくくすることができる。
また、攪拌体が不要であるため、前記ノズル部の構成部品を少なくでき、内部構造を簡略にできる。従って、メンテナンスも容易である。
また、前記ガス導入孔は、前記開放部および前記ガス導入部より内径を小さく形成することによって、原料液の逆流を起こりにくくできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のスプレーガンの一例のノズル部の内部構造を示す概略構成図である。
【図2】ノズル部の使用状態を示す説明図である。
【図3】スプレーガンを示す正面図である。
【図4】スプレーガンを備えた吹付け施工装置を示す概略構成図である。
【図5】本発明により形成された樹脂層の一例を示す概略構成図である。
【図6】本発明により形成された樹脂層の他の例を示す概略構成図である。
【図7】本発明のスプレーガンの他の例のノズル部の内部構造を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のスプレーガンの一実施形態であるスプレーガン1について説明する。
図1は、スプレーガン1のノズル部5の内部構造を示す概略構成図である。図2はノズル部5の使用状態を示す説明図である。図3は、スプレーガン1を示す正面図である。図4は、スプレーガン1を備えた吹付け施工装置30を示す概略構成図である。
図4に示すように、吹付け施工装置30は、第1液剤タンク31(第1液剤供給部)と、第2液剤タンク32(第2液剤供給部)と、これらからの液剤41、42を混合して施工対象(図示略)に向けて噴射するスプレーガン1と、スプレーガン1にガスを供給するガス供給部33と、駆動用空気供給部34とを備えている。ガス供給部33は、駆動用空気供給部34が兼ねることもできる。符号35、36は送液ポンプである。
【0011】
第1液剤タンク31および第2液剤タンク32は、それぞれ第1液剤41および第2液剤42を供給するものである。第1液剤41および第2液剤42は、混合により硬化する樹脂(混合硬化型樹脂)(例えばポリウレタン、ポリウレア)を生成するものである。
ガス供給部33は、前記樹脂にガスを含ませて低密度化樹脂を得るためのもので、例えばエアコンプレッサ、ガスボンベなどであり、空気、二酸化炭素、窒素などをガスとして供給するものである。
駆動用空気供給部34は、本体部3の合流部2を駆動するための駆動用空気を管路34aにより供給するもので、エアコンプレッサ等が使用できる。
【0012】
図3および図4に示すように、スプレーガン1は、第1液剤41と第2液剤42とを合流させる合流部2を有する本体部3と、作業者が把持する把持部4と、本体部3の先端に設けられて混合液(原料液)にガスを混入させるとともに前記混合液を噴射するノズル部5とを備えている。
以下、ノズル部5の先端方向を前方といい、その反対方向を後方(基端方向)ということがある。また、前後方向を長さ方向ということがある。
【0013】
本体部3の合流部2は、第1液剤タンク31から管路31aにより導かれた第1液剤41と、第2液剤タンク32から管路32aにより導かれた第2液剤42とを合流できるものであればよい。
合流部2は、例えば、一方側および他方側にそれぞれ第1および第2液剤導入孔2a、2bを有し、駆動用空気の圧力により前後に移動可能な容器状に形成することができる。
【0014】
合流部2は、レバー6を把持部4に近づける方向に移動させると後方移動し、前記導入孔2a、2bが開放されて液剤41、42が合流部2の内部空間に導入されて合流され、混合液が管路7を通してノズル部5に導かれる構造とすることができる。
合流部2は、レバー6が把持部4から離れる方向に移動すると前方移動し、前記導入孔2a、2bが閉止して液剤41、42の供給が停止するとともに内部に駆動用空気が導入され、合流部2およびノズル部5の内部の混合液が外部に排出される構造とすることができる。
【0015】
図1および図2に示すように、ノズル部5は、内部空間10を有する筒状のノズル部本体11と、ノズル部本体11の先端に設けられた先端筒部12とを備えている。
ノズル部本体11は、基体部15と、基体部15の先端に取り付けられる先端取付部16とを有する。
符号17は、先端取付部16を基体部15に取り付けるためのキャップ部である。
【0016】
基体部15は、管路7に連通する導入路20と、導入路20に連通する空間である開放部21とを有し、管路7から導入路20を通して導入された混合液43を開放部21に導入できる構造となっている。
【0017】
開放部21は、導入路20より流路の断面積が大きくなるように形成されている。すなわち、開放部21は導入路20に比べ流路が拡大されている。
図示例の開放部21は、先端方向(図1における右方)に徐々に内径が大きくなる拡径部22と、その先端側に形成された一定(または略一定)の内径の定径部23とを有する。
拡径部22の最小内径は導入路20の内径とほぼ同じであり、定径部23の内径は拡径部22の最大内径とほぼ同じであってよい。図示例の拡径部22は一定角度で内径が大きくなっている。
なお、開放部21の形状は図示例に限らず、内径が全長にわたり一定(または略一定)であってもよい。
【0018】
先端取付部16の内部空間は、先端方向に徐々に内径が小さくなる縮径部25と、その先端側に形成された噴射口部26とを有する。
縮径部25では、定径部23より流路の断面積が小さくなっている。すなわち、流路が縮小されている。
図示例の縮径部25は、最大内径が定径部23の内径とほぼ同じであり、先端方向に一定角度で内径が小さくなっている。
噴射口部26の内径は、縮径部25の最小内径とほぼ同じとすることができる。
なお、図示例の縮径部25は先端方向に徐々に内径が小さくなるが、縮径部の形状はこれに限らず、内面が前記先端方向に対し垂直であってもよい。
【0019】
これらの構成により、ノズル部5の内部空間10は、導入路20と、その先端側にあって導入路20より流路が拡大された開放部21と、その先端側にあって流路が縮小された縮径部25と、その先端側の噴射口部26からなる構造となっている。
【0020】
先端筒部12は、噴射される混合液43の拡散を抑制するものであって、噴射口部26の内径より大きな内径を有する筒状体であり、ノズル部本体11の先端からさらに先端方向に延出して形成されている。
先端筒部12の断面形状は特に限定されないが、略円形が好ましい。これによって、混合液43の噴射形状が略円形となり、均一な厚さの樹脂層を形成するのが容易になる。
【0021】
ノズル部本体11の基体部15には、ガス44を内部空間10内に導入するガス導入孔27が形成されている。
ノズル部本体11には、外部のガス供給部33から管路33aを通して送られたガス44をガス導入孔27に導くガス導入部13が形成されている。
ガス導入孔27は、開放部21の基端側部位21aにガスを導入できるように形成されている。
【0022】
基端側部位21aとは、開放部21の基端部である導入路20の出口20aおよびその近傍をいい、例えば開放部21の基端部(出口20a)から、開放部21の長さ方向(前後方向)中央位置までの部位である。
図示例では、ガス導入孔27は、前後方向に対しほぼ垂直とされ、拡径部22に開口して形成されている。なお、ガス導入孔27は、定径部23に開口して形成してもよい。
【0023】
ガス導入孔27は、開放部21およびガス導入部13より内径を小さくしたオリフィスとして機能させることによって、混合液43の逆流を起こりにくくできる。
オリフィスとしてのガス導入孔27は、開放部21およびガス導入部13の内径より小さい内径を有することが好ましく、これによってガス44の圧力低下を抑制することができる。
ガス44はガス導入孔27を通して内部空間10に導入されるため、管路33a内の圧力は所定の圧力に維持され、混合液43の逆流が起こりにくくなる。
また、ガス導入部13には、逆止弁28を設けることによって、より確実に混合液43の逆流を防ぐことができる。
【0024】
次に、スプレーガン1の動作について説明する。
図4に示すように、第1液剤41および第2液剤42は、ポリウレタン、ポリウレアなどの混合硬化型樹脂を生成するものであって、例えばイソシアネート成分を含む主剤と、ポリオールを含む硬化剤とのうち一方および他方である。
ポリウレタン樹脂を用いる場合には、主剤として、イソシアネート成分(MDI等)を含むものを例示でき、硬化剤として、ポリオール(ポリエーテルポリオール等)を含むものを例示できる。主剤のイソシアネート成分はポリオールとの反応によりプレポリマー化したものであってもよい。硬化剤は、DETDAなどのアミン化合物および水を含んでいてもよい。
ポリウレア樹脂を用いる場合には、イソシアネート成分を含む主剤と、アミン化合物を含む硬化剤とを使用できる。
なお、ここでは2剤混合硬化型の樹脂を例示するが、3剤以上の混合により硬化する樹脂も使用できる。
【0025】
第1液剤タンク31から管路31aを通して導かれた第1液剤41と、第2液剤タンク32から管路32aを通して導かれた第2液剤42とを、スプレーガン1の合流部2に導入する。
液剤41、42は、送液ポンプ35、36により所定の圧力で合流部2に送入されて、ある程度混合され、混合液43は管路7を通してノズル部5に流入する。
【0026】
図1および図2に示すように、混合液43は、合流部2から管路7、導入路20を通って、開放部21に流入する。
開放部21は導入路20より流路の断面積が大きいため、導入路20に比べ内部圧力は低くなる。
【0027】
混合液43の導入とともに、ガス供給部33によって空気などのガスを管路33aからガス導入孔27を通して開放部21に導入する。
混合液43は、ガス44によって微粒子状(霧状)に分散されつつ開放部21内に噴出し、ガス44とともに開放部21内を先端方向に向かう。
【0028】
ガス導入孔27は、開放部21の基端側部位21aに形成され、ガスは、比較的低圧条件にある内部空間10に導入されることになる。
このため、内部空間10からガス導入孔27への混合液43の逆流は起こりにくい。
【0029】
混合液43は微粒子状(霧状)であるため、開放部21内を移動する過程で、液剤41、42が均一に混合されるとともに、ガス44に均一に分散した状態となる。
縮径部25に至ると、流路の縮小によって、微粒子状の混合液43は多くのガス44を均一に含んだ状態で再集合する。再集合によって混合液43は多くのガスを抱き込んで低密度化された状態となる。
【0030】
ガスを含有した混合液43は、噴射口部26から外部に向けて拡径しつつ噴射される。
混合液43のうち過度に拡径する方向に向かうものは先端筒部12によってその噴射方向が変更されることから、混合液43は過度に拡散することなく施工対象(図示略)に吹付けられ、低密度化樹脂からなる樹脂層となる。
混合液43は、微粒子化し、十分量のガスを含んだ状態で再集合するという過程を経るため、混合時の反応効率が向上するとともに低密度化されることから、伸びなどの物性に優れ、下地追従性、緩衝性などの特性が良好な低密度化樹脂層が得られる。
【0031】
図5は、スプレーガン1を用いて形成された樹脂層の例を示すもので、この樹脂層51は単層構造であり、コンクリートや金属などからなる下地50(施工対象)の上に形成されている。
図6は、スプレーガン1を用いて形成された樹脂層の他の例を示すもので、この樹脂層61は、下地50上に形成された下層62と、その上に形成された上層63とからなる複層構造を有する。
樹脂層61の下層62は、上層63に比べ柔軟な材料が用いられ、下地50の凹凸を修正するとともにピンホール発生を抑制する下地処理層、または下地50の挙動を緩衝する下地挙動緩衝層として機能させることができる。
【0032】
この樹脂層61では、下層62に高い柔軟性(特に伸び率)が要求されるため、少なくとも下層62の形成にスプレーガン1を使用するのが好ましい。上層63の形成にスプレーガン1を用いることもできる。なお、樹脂層は、3層以上からなる構造であってもよい。
複層構造の樹脂層を形成する場合には、少なくとも下層62は、スプレーガン1を用いて形成するのが好ましい。
なお、下地50の表面には、プライマーなどの接着力を向上させる接着層やシートを適宜設けることができる。また樹脂層51、61の表面には、必要に応じて保護塗料やFRPなどの保護層を設けることもできる。
【0033】
スプレーガン1では、導入路20より流路が拡大された開放部21を有するノズル部5を備え、ノズル部5に、開放部21の基端側部位21aにガスを導入するガス導入孔27が形成され、ガス44は吐出圧力の低下した開放部21に供給されることになる。
このため、混合液43の輸送圧力を高く設定しても、開放部21で混合液43の吐出圧力が低下するため、混合液43がガス導入孔27に流入(逆流)するという問題が起こりにくい。
混合液43の輸送圧力を高く設定できることから、混合液43の供給量を多くでき、施工に要する時間を短縮することができる。
また、混合液43のガス導入孔27への逆流が起こりにくいため、ガス44の供給圧力を低く設定できる。このため、吹付け施工時の混合液43の飛散が起こりにくく、目的箇所以外への樹脂付着の問題を防ぎ、しかも表面凹凸が小さい樹脂層を形成することができる。
【0034】
スプレーガン1では、ガス44が開放部21に供給されて混合液43が微粒子化するため、液剤41、42が均一に混合されるとともに、ガス44に均一に分散した状態となる。
さらに、微粒子化した混合液43は、縮径部25において、多くのガス44を均一に含んだ状態で再集合する。
このように、混合液43は、微粒子化し、ガス44を含んだ状態で再集合するという過程を経るため、混合時の反応効率が向上するとともに低密度化される。混合液の反応効率が向上するため、樹脂層の物性(伸びなど)が向上する。さらに物性(伸びなど)の向上および低密度化により柔軟性が向上するため下地追従性、緩衝性などの特性に優れた低密度化樹脂層が得られる。
【0035】
また、混合液43の均一混合が可能であるため、ノズル部5内に攪拌体を設ける必要はない。
このため、混合液43の吐出を停止する際には、駆動用空気等により混合液43を合流部2およびノズル部5から排出すれば、ノズル部内部での樹脂固着の問題を抑制できる。よって、溶剤洗浄は必ずしも必要とならず、施工の容易性を高めることができる。また、ノズル部内面を樹脂(テフロン(登録商標)など)などでコーティングすれば、樹脂固着をより起こりにくくすることができる。
また、攪拌体が不要であるため、ノズル部5の構成部品を少なくでき、内部構造を簡略にできる。従って、メンテナンスも容易である。
【0036】
図7は、ノズル部の他の例を示すもので、この例では、ガス導入孔27は、ノズル部本体11の内方に向けて前方(先端方向)に傾斜して形成されている。
この構成によって、ガス44の導入方向が混合液43の導入方向に近くなるため、混合液43のガス導入孔27への逆流がより起こりにくくなる。
【0037】
なお、本発明には、混合硬化型の樹脂に限らず、湿気硬化型の樹脂も使用できる。湿気硬化型の樹脂を用いる場合には、原料液を、合流部2を経てノズル部5に導入し、前記ガスを混入させて施工対象に吹付けることにより前記低密度化樹脂層を形成する。
【実施例】
【0038】
(実施例1〜4)
図1〜図4に示すスプレーガン1を備えた吹付け施工装置30を使用して、プラスチック板からなる下地上に、ポリウレタンからなる樹脂層を形成した。
第1液剤41としては、MDIとポリエーテルポリオールとからなるイソシアネート基末端プレポリマーを含む主剤を使用し、第2液剤42としては、DETDA(ジエチルトルエンジアミン)を含むポリオール系硬化剤を使用した。
ガス44としては、空気を使用した。
樹脂層の物性を測定した結果を表1に示す。各物性の測定方法はJIS A6021に準じた。
【0039】
断熱性能の評価には次の方法を採用した。
スプレーガン1を備えた吹付け施工装置30を用いて作製した樹脂シートを用いて、発泡スチロールからなる箱体の開口を塞ぎ、箱体の外部に設置した赤外線ランプを用いて樹脂シートに赤外線を照射し、樹脂シートの内面および外面の温度を測定し、その差を「断熱性能」とした。
【0040】
(実施例5)
ガス44として、空気に代えて二酸化炭素(CO)を使用して樹脂層を形成した。その他の試験条件は実施例1〜4に準じた。
樹脂層の物性を測定した結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
スプレーガン1に代えて、ノズル部に攪拌体を内蔵した従来のスプレーガンを使用して、ポリウレタンからなる樹脂層を形成した。その他の試験条件は実施例1〜4に準じた。
ガスとしては、二酸化炭素を使用した。
樹脂層の物性を測定した結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
スプレーガン1に代えて、ガス導入構造をもたない従来のスプレーガンを使用して、ポリウレタンからなる樹脂層を形成した。その他の試験条件は実施例1〜4に準じた。
樹脂層の物性を測定した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例6、7)
図1〜図4に示すスプレーガン1を備えた吹付け施工装置30を使用して、ポリウレアからなる樹脂層を形成した。
第1液剤41としては、イソシアネート成分を含む主剤を使用し、第2液剤42としては、アミン化合物を含む硬化剤を使用した。
ガス44としては、空気を使用した。その他の試験条件は実施例1〜4に準じた。
樹脂層の物性を測定した結果を表2に示す。
【0045】
(比較例3)
スプレーガン1に代えて、ガス導入構造をもたない従来のスプレーガンを使用して、ポリウレアからなる樹脂層を形成した。その他の試験条件は実施例1〜4に準じた。
樹脂層の物性を測定した結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表1および表2より、スプレーガン1の使用によって、伸びが大きく、凹凸が少ない樹脂層を形成できたことがわかる。また、樹脂の飛散が起こりにくくなったことが確認された。
また、表1における実施例3と比較例2の比較より、実施例3では、樹脂層が低密度化されたことにより断熱性能が向上したことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、建築構造物の屋上、ベランダ、廊下、床、壁、天井などの防水施工や、衝撃緩衝機能が求められる構造物(遊具等)の被覆施工のための樹脂層の形成に適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・スプレーガン、3・・・本体部、5・・・ノズル部、10・・・内部空間、11・・・ノズル部本体、12・・・先端筒部、20・・・導入路、21・・・開放部、21a・・・基端側部位、22・・・拡径部、25・・・縮径部、26・・・噴射口部、27・・・ガス導入孔、31・・・第1液剤タンク(第1液剤供給部)、32・・・第2液剤タンク(第2液剤供給部)、33・・・ガス供給部、
41・・・第1液剤、42・・・第2液剤、43・・・混合液、44・・・ガス、50・・・下地(施工対象)、51、61・・・樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液をガスとともに吹付け施工して低密度化樹脂からなる樹脂層を形成するスプレーガンであって、
前記原料液が導入される本体部と、前記本体部の先端に設けられて前記原料液にガスを混入させるとともに前記原料液を噴射するノズル部とを備え、
前記ノズル部の内部空間は、前記原料液が導入される導入路と、前記導入路より流路が拡大されて前記原料液を微粒子状に噴出させる開放部と、前記開放部より流路が縮小されて前記微粒子状の原料液を再集合させる縮径部と、この原料液を外部に噴射させる噴射口部とを有し、
前記ノズル部には、前記ガスを前記開放部の基端側部位に導入するガス導入孔が形成されていることを特徴とするスプレーガン。
【請求項2】
前記開放部は、前記導入路の出口から先端方向に徐々に拡径する拡径部を有し、
前記ガス導入孔が、前記拡径部にガスを導入できるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスプレーガン。
【請求項3】
前記縮径部は、前記開放部から先端方向に徐々に縮径するように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスプレーガン。
【請求項4】
前記ノズル部は、前記内部空間を有するノズル部本体と、前記ノズル部本体の先端に設けられた先端筒部とを備え、
前記先端筒部は、前記噴射口部の内径より大きな内径を有し、前記ノズル部本体の先端からさらに先端方向に延出して形成されていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のスプレーガン。
【請求項5】
前記ガス導入孔の内径は、前記開放部の内径より小さいことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のスプレーガン。
【請求項6】
前記ノズル部には、外部から送られた前記ガスを前記ガス導入孔に導くガス導入部が形成され、前記ガス導入部の内径は、前記ガス導入孔の内径より大きいことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のスプレーガン。
【請求項7】
前記ガス導入孔は、前記ノズル部の内方に向けて先端方向に傾斜して形成されていることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載のスプレーガン。
【請求項8】
前記原料液が、混合硬化型の複数の液剤の混合液であり、
前記本体部は、前記複数の液剤を合流させて前記原料液とするものであることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載のスプレーガン。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載のスプレーガンと、前記原料液を供給する液剤供給部と、前記スプレーガンにガスを供給するガス供給部とを備えたことを特徴とする吹付け施工装置。
【請求項10】
請求項1〜8のうちいずれか1項に記載のスプレーガンを用いて吹付け施工を行う方法であって、
前記原料液を前記ノズル部の導入路を経て前記開放部に導入するとともに、前記ガスを前記ガス導入孔から前記開放部の基端側部位に導入することによって、前記原料液を微粒子状に噴出させ、この原料液を、前記縮径部において前記ガスを含んだ状態で再集合させ、噴射口部から外部に噴射させ、施工対象に吹付けることにより前記樹脂層を形成することを特徴とする吹付け施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−156516(P2011−156516A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22290(P2010−22290)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000133342)株式会社ダイフレックス (24)
【Fターム(参考)】