説明

スペクトル・時間励起成形によるコヒーレント・ラマン顕微鏡法における選択的検出およびイメージングのためのシステムおよび方法

【課題】改善された感度および特定性を提供する顕微鏡イメージング・システムを提供する。
【解決手段】光源システム、スペクトル成形器、変調器システム、光学システム、光学検出器、および処理装置を含む顕微鏡イメージング・システムが開示される。光源システムは、第1のパルス列と第2のパルス列を提供するためのものである。スペクトル成形器は、広帯域範囲の周波数成分の少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正して、前記広帯域範囲の周波数成分を成形し、成形された第1のパルス列を生成して、試料から対象のスペクトル特徴を明確に検査しかつ試料から対象でない特徴から情報を減少させるようにするためのものである。変調器システムは、成形された第1のパルス列と第2のパルス列の少なくとも一方の特性を変調周波数で変調するためのものである。光学検出器は、共通焦点体積内で透過または反射された対象のパルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度を検出するためのものである。処理装置は、共通焦点体積内で変調されるような成形された第1のパルス列と第2のパルス列との非線形干渉による対象パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度の変調周波数での変調を検出し、顕微鏡イメージング・システム用の画像の画素の出力信号を提供するためのものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギ省から与えられたDE−FG02−07ER15875、米国国立衛生研究所から与えられたOD000277、および米国国立科学財団によって与えられた0649892の下の政府支援により行われた。政府は、本発明に対する正当な権利を有する。
【0002】
(優先権)
本出願は、2009年1月26日に出願された米国仮特許出願番号61/147,190号の優先権を主張する。
【0003】
本発明は、一般に振動顕微鏡およびイメージング・システムに関し、詳細にはコヒーレント・ラマン散乱を使用する振動イメージング・システムに関する。
【背景技術】
【0004】
従来の振動イメージング技術には、例えば、赤外線顕微鏡法、自発的ラマン顕微鏡法、およびコヒーレント反ストークス・ラマン散乱顕微鏡法がある。
【0005】
赤外線顕微鏡法は、一般に試料中の振動励起状態の吸収の直接測定を含み、赤外線光の長い波長による低い空間分解能、ならびに生体試料中の水による強い赤外線吸収に起因する低い浸入度による制限を受ける。
【0006】
ラマン顕微鏡法は、単一(紫外線、可視光、または近赤外線)連続波(CW:continuous wave)レーザ励起時の自発的非弾性ラマン散乱を記録する。ラマン顕微鏡法は、赤外線顕微鏡法よりも改善された光学解像度と浸入度を有するが、ラマン顕微鏡法の感度は、自発的ラマン散乱効率がきわめて低いためにかなり低く、ラマン散乱断面は、一般に、約10−30cmである。その結果、1画像当たりの平均時間が長くなり、これにより、ラマン顕微鏡法の生体医学的応用が制限される。
【0007】
コヒーレント反ストークス・ラマン(CARS:coherent anti-Stokes Raman)顕微鏡法システムは、コヒーレント励起により試料からの散乱信号を増やす。CARS顕微鏡法システムは、画像化する化学種の分子振動周波数と一致する周波数差を有している2つのパルス励起レーザ・ビーム(ポンプ・ビームとストークス・ビーム)を使用する。ポンプ・ビームとストークス・ビームとの差周波数で画像化される化学種の干渉の結果として、試料に反ストークス周波数の新しい照明(illumination)が生成され、この照明は、CARS顕微鏡法で出力信号として検出される。共鳴性の高い試料から、ビデオ速度以下のイメージング速度が達成された。
【0008】
しかしながら、CARSプロセスは、振動非共鳴標本から高レベルのバックグラウンドも励起する。そのような非共鳴バックグラウンドは、希釈された試料からの共鳴信号のCARSスペクトルを歪めるだけでなく、レーザ・ノイズを伝達し、CARS顕微鏡法の応用を分光と感度の両方の点で大きく制限する。このバックグラウンドを抑制するために、例えば特許文献1と特許文献2に開示されているような様々な技術が開発されてきたが、そのようなシステムはそれぞれ、バックグラウンド抑制によって反ストークス信号を少なくとも幾分減少させる。
【0009】
更に、多くの化学種は、複数周波数の振動応答を有する場合があるので、特定の標的化学種の反ストークス信号の特定性が制限される。例えば、図1は、10で生物活性分子アデノシン三リン酸(ATP)のラマン・スペクトルを示し、この化学式は、図2に12で示される。ATPは、様々なタイプの原子結合を有するので、分子の特徴的振動シグニチャを一緒に提供するいくつかのラマン・アクティブ・ピークを有することに注意されたい。
【0010】
特定性は、様々な化学種(例えば、1つの標的化学種と1つの非標的化学種)が、励起照明に対して反ストークス周波数の同じ振動応答を提供するいくつかの同じ結合(例えば、O−H)を有する場合があるため制限され、単一反ストークス周波数に基づく2つの化学種の区別が困難または不可能になる。
【0011】
すべてのスペクトル成分を個別に検出できるように、広帯域パルスが、焦点を通過した後で多チャンネル検出器(フォトダイオード・アレイまたはCCD)上に分散される分光イメージング・システムも開発された。例えば、同期された広帯域パルス列と狭帯域パルス列が、モードロック・レーザから提供されうる。組み合わされたパルス列は、レーザ走査顕微鏡に提供され、レーザ走査顕微鏡の焦点に非線形の試料干渉が生じる。次に、出力された放射が、格子やプリズムなどの分散装置に提供され、焦点を通過した後でCCDのフォトダイオード・アレイなどの多チャンネル検出器に提供される。分光計を使用するので、低速のステージ走査または低処理能力のデスキャン検出器によって画像だけを達成することができる。
【0012】
そのような手法は、また、すべてのスペクトル成分がそれぞれの電子回路を必要とするので、ロックイン増幅器などの処理電子回路を必要とする高感度検出方式と一体化するのは難しい。更に、分光法は、ビームが試料を通過した後で、分光計上で動く可能性があり、したがってスペクトル取得が干渉されるので、レーザ走査顕微鏡法と組み合わせるのが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,798,507号明細書
【特許文献2】米国特許第6,809,814号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、改善された感度および特定性(specificity)を提供する顕微鏡イメージング・システムが必要である。試料内の他の原子結合からのスペクトル干渉がないスペクトル・フィンガプリント(spectral fingerprint)を抽出するために、複数のラマン振動を同時に検査する顕微鏡イメージング・システムがさらに必要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一実施形態によれば、本発明は、光源システム、スペクトル成形器(a spectral shaper)、変調器システム、光学システム、光学検出器および処理装置を含む顕微鏡イメージング・システムを提供する。光源システムは、第1の広帯域範囲の周波数成分を含む第1のパルス列と、第2の光学周波数を含む第2のパルス列とを提供して、第1の広帯域範囲の周波数成分と第2の光学周波数との1組の差が、焦点体積(focal volume)内の試料の1組の振動周波数と共鳴するようにするためのものである。第2のパルス列は、第1のパルス列と同期される。スペクトル成形器は、広帯域範囲の周波数成分のうちの少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正して、広帯域範囲の周波数成分を成形(shape)し、成形された第1のパルス列を生成して、試料から対象のスペクトル特徴を明確に(specifically)検査し、かつ試料からの対象でない特徴からの情報を減少させるためのものである。変調器システムは、成形された第1のパルス列と第2のパルス列のうちの少なくとも一方の特性を変調周波数で変調して、変調されたパルス列を提供するためのものである。光学システムは、成形された第1のパルス列と第2のパルス列を共通焦点体積(common focal volume)の方に変調されるように導き集束させるためのものである。光学検出器は、共通焦点体積内に透過または反射された対象のパルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度を検出するためのものである。処理装置は、共通焦点体積に変調されるような成形された第1のパルス列と第2のパルス列の非線形干渉による対象パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度の変調周波数での変調を検出し、かつ顕微鏡イメージング・システムの画像の画素の出力信号を提供するためのものである。
【0016】
別の実施形態によれば、システムは、周波数変調を使用して顕微鏡画像法を実行する方法を提供する。この方法は、第1の広帯域範囲の光学周波数成分を含む第1のパルス列を提供する段階と、第2の光学周波数を含む第2のパルス列を提供して、第1の広帯域範囲の周波数成分と第2の光学周波数との1組の差が、焦点体積内の試料の1組の振動周波数と共鳴するようにし、第2のパルス列が、第1のパルス列と同期される段階と、第1の広帯域範囲の周波数成分の少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正して、試料から対象スペクトル特徴を明確に検査し、かつ試料から対象でない特徴からの情報を減少させるように成形された第1のパルス列を提供する段階とを含む。この方法は、更に、成形された第1のパルス列と第2のパルス列の一方の光学特性を変調周波数で変調して変調パルス列を提供し、かつ成形された第1のパルス列と第2のパルス列の他方を非変調パルス列として提供する段階と、変調パルス列と非変調パルス列を共通焦点体積内に導き集束させる段階と、変調パルス列を遮断することによって、共通焦点体積内に透過または反射される変調パルス列と非変調パルス列の他方の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度を検出する段階と、共通焦点体積内の変調パルス列と非変調パルス列の非線形干渉による非変調パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度の変調周波数の変調を検出する段階と、検出した変調を、顕微鏡イメージング・システムの画像の画素の信号として提供する段階とを含む。
【0017】
以下の説明は、添付図面と関連して更によく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】生物活性分子アデノシン三リン酸のラマン・スペクトルの例示的グラフ表示である。
【図2】分子アデノシン三リン酸の例示的概略図である。
【図3】本発明の一実施形態による多重励起顕微鏡法システムの例示的概略図である。
【図4】本発明の一実施形態による励起マスクの生成の例示的概略図である。
【図5A】本発明の一実施形態により相互作用する(interrogate)ことがある試料の2つの成分からの応答信号の例示的概略図である。
【図5B】本発明の一実施形態により相互作用することがある試料の2つの成分からの応答信号の例示的概略図である。
【図5C】本発明の一実施形態により相互作用することがある試料の2つの成分からの応答信号の例示的概略図である。
【図6】トルエンとシクロヘキサンのラマン・シフトと強度と大きさの関係の例示的グラフ表示である。
【図7】本発明の一実施形態によるシステムにおけるラマン・シフトと誘導ラマン信号の関係を示すグラフ表示である。
【図8】本発明の一実施形態によるシステムにおけるラマン・シフトとマスク選択の関係を示すグラフ表示である。
【図9】(A)本発明の一実施形態による誘導ラマン分光学システムの入力スペクトルの例示的グラフ表示である。(B)本発明の一実施形態による誘導ラマン分光学システムの出力スペクトルの例示的グラフ表示である。
【図10】(A)本発明の一実施形態による誘導ラマン分光学システムの入力パルス列の例示的グラフ表示である。(B)本発明の一実施形態による誘導ラマン分光学システムの出力パルス列の例示的グラフ表示である。
【図11】本発明の一実施形態による顕微鏡イメージング・システムの例示的概略図である。
【図12】本発明の一実施形態によるシステムにおける試料体積内の材料から反射された試料からの信号の例示的概略図である。
【図13】epi検出を利用する本発明の別の実施形態による誘導ラマン分光学システムの一部分の例示的概略図である。
【図14】狭帯域誘導ラマン分光学システムの振動状態の例示的概略図である。
【図15】本発明の一実施形態による多重誘導ラマン分光学システムにおける振動状態の例示的概略図である。
【図16】位相変調を使用する本発明の更に他の実施形態による顕微鏡イメージング・システムの例示的概略図である。
【図17】本発明の更に他の実施形態による励起マスクの生成の例示的概略図である。
【図18】本発明の一実施形態によるシステムを使用して得られたスペクトルSRSイメージングと関連した例示的図形データと画像を示す図である。
【図19】本発明の一実施形態によるシステムを使用して得られたシノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis Elegans)内の脂質貯蔵に関する例示的図形データと画像を示す図である。
【図20】本発明の一実施形態によるシステムを使用して得られた吸収試料のラベル・フリー顕微鏡法に関する例示的図形データと画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面は、単に例示のために示される。
【0020】
特定の実施形態によれば、本発明は、特定の化学種を検査するようにスペクトル的かつ時間的に設計された励起照明を提供し、更に他の実施形態では、励起照明は、複数の化学種を同時に検査する。いくつかの実施形態によれば、励起照明システムは、誘導ラマン散乱顕微鏡法システムと共に使用されてもよい。
【0021】
本発明は、先行技術のシステムの前述の欠点を克服するために、検出分光の代わりに、誘導ラマン散乱(SRS)およびコヒーレント反ストークス・ラマン散乱(CARS)顕微鏡法、ならびに2色2光子吸収光熱イメージング(two-color two-photon absorption and photothermal imaging)のための励起分光の実行を部分的に含む。広帯域励起ビームとして完全な広帯域スペクトルを提供する代わりに、1つの励起マスクの特定の周波数成分だけを単一の検出器によって検出してもよく、SRSを高周波検出方式で抽出してもよい。スペクトル成形は、レーザを変更することなく後の励起マスクを適用できるという利点を有する。各イメージング・フレーム後または画素ごとに、異なるマスクが適用されてもよい。
【0022】
図3は、広帯域ビームをパルス成形することによって励起分光を行うことができるSRG顕微鏡装置を示す。システム14は、ピコ秒(狭帯域)光学パラメータ発振器16、同期ユニット18、フェムト秒(広帯域)Ti:SAレーザ20、および振幅変調器22を含む。ポンプ・ビームは、振幅変調器22により周波数f(>1MHz)で変調され、ポンプ・ビームとストークス・ビームが、レーザ走査顕微鏡24に提供される。焦点体積内を透過または反射されたポンプ・ビームとストークス・ビームは、光学フィルタ26によってフィルタリングされて変調ポンプ・ビームを遮断し、フィルタリングされたストークス・ビーム30が、フォトダイオード28などの光検出器によって検出される。様々な実施形態では、第1列のパルスは、フェムト秒パルスでよく、第2列のパルス列は、ピコ秒パルスまたはフェムト秒パルスでよい。
【0023】
試料との非線形干渉によるストークス・ビームの検出強度の変調は、ロックイン増幅器などの電子処理装置により抽出される。励起分光は、振幅または偏光のパルス成形器31によって広帯域パルスを成形することによって実行され、パルス成形器31は、広帯域ビームの個別の周波数成分を、空間光変調器36などの多重振幅または偏光シェーパの様々な素子上に分散させる分散要素32を含む。そのような装置は、反射モード(図示したような)でも透過モードでも動作することができる。一般的に、レンズ34は、反射ビームを再び集束するように位置決めされ、その結果、チャープがなく(un-chirped)スペクトル的に均一なビームが空間光変調器36に提供される。様々な実施形態では、パルス成形器31の設定は、試料内の多数の化学種を検査するためにパルス列の変調を提供するか異なる組のパルス成形を提供するように、イメージングの間に変更または変調されてもよい。
【0024】
前に示され高感度SRS検出に必要な高周波変調方式に従って、振幅変調が、例えば図3に示した装置では、付加的な電気光学または音響光学変調器により実行される。代替として、広帯域ビームのパルス成形と高周波数検出用の振幅変調が、音響光学可変同調フィルタ(acousto-optic tunable filter:AOTF)などの同じ装置によって実行されてもよい。ポンプ・ビームとストークス・ビームは、ダイクロイック・ビーム・コンバイナ(dichroic beam-combiner)により結合されてもよい。後で更に詳しく述べるように、ポンプ・ビームが誘導ラマン利得(SRG)用に変調される場合、ストークス・ビームのすべての周波数成分が、前述のように単一フォトダイオードで収集され、特定の励起パターンのSRGは、ロックイン検出器などの電子処理システムによって抽出されて画像の画素を提供する。
【0025】
図4は、そのような励起マスクが、広範囲レーザ・スペクトル40とパルス成形器42からどのように生成されるかを示し、パルス成形器42は、分散要素(格子またはプリズム)と、広帯域励起パルスのすべての周波数成分の強度を個々に制御して図に44で示したような成形パルス列を提供することができる多重振幅シェーパ(空間光変調器SLMや印刷透過/反射マスクなど)とを含む。
【0026】
そのような手法は、干渉化学種のバックグラウンド減算方式を実施することによって特定性を改善することができる。1つの励起マスクで試料を照明する代わりに、2つのマスクの信号を測定する。第1のマスク1は、主に標的分子の周波数成分を含み、第2のマスク2は、主に干渉化学種の周波数成分を含む。特定用途における標的分子と干渉化学種や他の化学種とのスペクトル干渉により、マスク1の信号は、標的化学種からの寄与だけ含むように選択できないが、干渉化学種や他の化学種からの信号を常に励起するであろう。しかしながら、2つのマスクの強度差が干渉化学種や他の化学種の濃度に依存しないように2つの励起マスクを設計することは常に可能である。更に他の実施形態によれば、各検査で非検査化学種からの情報が少ない更に2つの化学種を別々に検査することができる。
【0027】
マスク1とマスク2からの信号間の差は、画素ごとに求めてもよく、最初にマスク1とマスク2による画像を取得し、後の処理で減算を行ってもよい。この多変数光学的計算の概念は、先行技術に示されたような自発的ラマン散乱の放射分光に使用されてきたが、SRSまたはCARSの高感度検出と組み合わせで励起分光には使用されていない。
【0028】
更に他の実施形態によれば、パルス成形は、多重電気光学変調器、多重電気音響変調器、音響光学可変同調フィルタ、またはフランスのセント・オーバン(Saint-Aubin)のFastlite Societe合同会社(a responsabilite limitee)によって販売されているようなDazzlerシステムを使用して達成されてもよい。広帯域ビームは、ビーム内にある範囲内にすべての周波数成分を有する必要はなく、代わりに、必要に応じて試料を検査するために成形されてもよい広帯域ビーム内に十分な周波数成分があれば、複数の中心周波数成分を含んでもよい。広帯域ビームのスペクトル範囲は、例えば、少なくとも15.0nm、少なくとも5.0nm、少なくとも1.0nm、または特定の実施形態では少なくとも0.5nmでもよい。
【0029】
図5A〜図5Cは、2つの化学種間に生じる可能性のあるスペクトル・クロストークの3つの基本シナリオを示す。図5Aでは、50で示されたようなωにおける標的分子成分Aの強いピークだけが、52と54で示されたようなωに第2のピークを有する別の化学種(試料中の成分B)のスペクトルと重なる。この状況では、第1の励起マスクは、ωにピークのある最大信号を提供し、成分Aと成分Bからその信号が生じるように選択される。第2の励起マスクは、第1のマスクと第2のマスクから信号を減算した後で、成分Bから干渉信号を除去するように選択される。
【0030】
マスクは、減算後に成分Bの濃度に依存しない標的化学種からの純粋信号だけが残るように干渉化学種の分離ピークからの信号が増減されるように設計されてもよい。図5Bは、56と58に、化学的環境により標的ピークがスペクトル的にシフトされたケース示す。この状況では、2つの励起マスクは、減算(例えば、ピークの左半分からの信号から、ピークの右半分からの信号を引く)後に、シフトされていない化学種からの元のピークが信号に寄付しないように選択することができる。図5Cでは、60で示されたような標的化学種からのスペクトルが、62で示されたようなスペクトル的に平坦なバックグラウンド上に乗る。そのようなバックグラウンドは、SRSのKerrレンズ効果および2色2光子吸収または強広がり振動共鳴として他の非線形プロセスから、またCARSの非共鳴バックグラウンドから生じることがある。ピークからの信号を最大にしかつ平坦バックグラウンドを減算するように2つのマスクを選択することができる。
【0031】
図6は、図5A〜図5Cに示したシナリオが、より複雑なスペクトルと複数の干渉化学種にどのように適用されるかを示す。詳細には、図6は、64でトルエンのスペクトルを示し、66でトルエンを検査するポジティブ・マスクを示し、68は、干渉化学種を除外するネガティブ・マスクを示す。図6は、また、70でシクロヘキサンのスペクトルを示し、72でシクロヘキサンを検査するポジティブ・マスクを示し、74は、干渉化学種を除外するネガティブ・マスクを示す。この手法は、これまで放射分光に適用されており、「多変数光学計算」として知られる。これは、N次元ベクトルとして処理スペクトルに(Nは、励起パルスの個別の周波数成分の数である)、コベクトル(co-vector)として適用マスクに基づく。
【0032】
また、画素ごとに減算するために2つの励起マスクを高速に切り換えるための具体的実現を含むことが望ましい。レーザ・ノイズが主に1MHz未満の周波数で生じるので、標的分子の最大感度を達成するには励起マスク間の差を高速で取得しなければならない。この手法は、広帯域パルスの偏光成形(s偏光がマスク1に対応し、p偏光がマスク2に対応する)と、電気光学変調器(ポッケル・セル)による2つの偏光状態(すなわち、励起マスク)の切り換えとに基づく。周波数変調CARSの実施態様で類似の手法が使用されてもよい。
【0033】
図7にもっと複雑なシナリオを示す。分子A(75で示した)が、対象分析物であり、成分B(76で示した)とC(77で示した)が、干渉化学種や他の化学種である。対応するA、BおよびCの既知のラマン・スペクトルσ(Δω)は、図示したようにそれぞれの他のラマン・スペクトルと部分的に重なることに注意されたい。
【0034】
目的は、ポジティブ励起スペクトル形状を設計することである。それぞれ未知の濃度cを有するA、BおよびCの混合物では、2つの各ポジティブ励起スペクトル形状I(Δω)およびI(Δω)(すなわち、マスク)が、これらの2つの励起マスクからの差分信号ΔSが分子Bと分子Cからの干渉を受けることなく分子Aの濃度を予測できるように設計されてもよい。
【0035】
所定の励起スペクトル形状I(Δω)の場合、得られる吸収信号Sは、次の式によって得られる。
【0036】
【数1】

【0037】
2つの励起スペクトル形状I(Δω)およびI(Δω)の場合、差分信号ΔSは、次のようになるであろう。
【0038】
【数2】

【0039】
ポジティブなI(Δω)およびI(Δω)関数を、その差関数がすべての干渉化学種のラマン・スペクトルと以下の直角関係を満たすように設計することは、数学的に可能である。
【0040】
【数3】


および
【数4】

【0041】
ラマン・シフト依存I(Δω)−I(Δω)が、正と負両方の値を有することに注意されたい。その結果、次のように量を単純化することができる。
【0042】
【数5】


【数6】

【0043】
したがって、差分信号は、対象分子の濃度だけに比例する。
【0044】
【数7】

【0045】
図8は、マスクI(Δω)(78で示した)およびI(Δω)(79で示した)を使用する励起スペクトル形状の設計を示す。マスクI(Δω)78は、対象成分のイメージングを強化するように設計され、マスクI(Δω)79は、干渉成分のイメージングを減少させるように設計される。
【0046】
パルス成形によって励起スペクトルの様々な成分を変更するのにレーザの交換が不要なので、高速の切り換えが可能であり、励起ビームのスペクトル・時間的成形が可能になり、光学周波数の代わりに時間(または、変調位相と周波数)で様々な化学種からの信号を符号化することができ、その結果、単一検出器による検出が可能になる。これにより、1)前述のように2つマスクの減算方式によって干渉化学種のバックグラウンド信号のない標的化学種からの純粋信号の実時間検出と、2)単一検出器による同時多色イメージングの実現が可能になる。
【0047】
レーザ・ノイズが主に1MHz未満の周波数で生じかつレーザが変更できるよりも高速に様々な励起マスクを検査する必要があるので、複数の励起マスクの高速切り換えのための具体的実現を含むことが望ましい。また、試料がフレーム間で変化する場合があり(例えば、動き)、これは、異なるマスクのフレームごとの取得を不可能にする。
【0048】
技術的には、そのような高速スペクトル変調を達成するには、1)広帯域励起ビームの個別のスペクトル成分の独立変調を可能にする電気光学変調や音響光学変調器などの単一装置によるスペクトル変調と、2)偏光パルス成形器、偏光変調器および偏光分析器の組み合わせなどの、多数の技術がある。
【0049】
本発明のシステムは、以下のような誘導ラマン散乱(SRS)顕微鏡法システムと共に利用されてもよい。誘導ラマン散乱法は、CARS顕微鏡法の非共鳴バックグラウンド信号を励起することなく、分子振動の誘導励起による自発的ラマン散乱より高い信号レベルを有する振動信号の検出を可能にする。このように、自発的ラマン・スペクトルが保存され、信号強度が、濃度と線形的に増減して、直接的な定量化が可能になる。SRS内視鏡検査法と同様に、順方向および逆方向(epi)検出が可能である。
【0050】
狭帯域SRS顕微鏡法では、CAR顕微鏡法と全く同じように、試料を励起するためにポンプ・ビームとストークス・ビームが使用される。反ストークス周波数で新しく放射された光を検出する代わりに、ポンプ周波数での強度利得(誘導ラマン利得)またはストークス周波数での強度損失(誘導ラマン損失)が検出される。利得と損失が比較的小さいので、高周波検出方式が必要とされることが多く、SRS信号は、レーザ・ノイズより高い既知の周波数で変調され、画素の強度を提供するためにロックイン増幅器などの電子検出器によって抽出される。変調は、周波数変調、位相変調、または振幅変調でよい。
【0051】
コヒーレント・ラマン・イメージング(CARSおよびSRS顕微鏡法)のこの狭帯域手法では、1度に1つの分子振動しかイメージングできない。したがって、単色画像しか作成できず(多数の化学種を同時にイメージングすることと比較して)、検出は、試料中の他の化合物とスペクトル的に干渉しない分離振動を有する化学種に限定される。本発明は、(特定の実施形態において)多数のラマン線に基づくコヒーレント・ラマン・イメージングを同時に可能にする方法およびシステムを提供する。
【0052】
例えば、標的分子振動シグニチャに基づく生体試料の高速ラベルフリー・イメージングが、SRSにより可能である。ノイズの多いレーザの場合でも、レーザ・ノイズが主に低い周波数で生じるので、ロックイン増幅器による高周波(>1MHz)信号変調および位相弁別検出の実施によって、高い感度(強度変化の測定値ΔI/I<10−7)が達成されることがある。SRSイメージングの場合、2励起レーザの周波数差を合わせることによって単一振動周波数が選択される。試料中の標的分子の空間分布は、レーザ走査顕微鏡により、試料内にレーザ焦点をラスタ・スキャンすることによって検査することができる。励起レーザ周波数の自動同調によって、試料中の単一点からの振動励起スペクトルを得ることができる。レーザの実質的にすべての光学周波数成分の積分強度が収集される場合でも、高いピーク強度(生体医学的イメージングに必要な低平均強度での非線形光学干渉に有利)を提供し、特定の振動帯域に合うような十分に高いスペクトル分解能(〜3cm−1)を提供する励起パルス・レーザ(〜5ps)が有用である。
【0053】
詳細には、試料体積中のポンプ・ビームとストークス・ビームが、自発的ラマン放射信号を強化する。ストークス・ビームの中心周波数とポンプ・ビームの中心周波数は、図9(A)に80と82で示したように入力スペクトル差Ωだけ離れている。図9(B)に84と86で示したように、SRSは、ストークス・ビーム(誘導ラマン利得すなわちSRG)では強度が増加し、ポンプ・ビーム(誘導ラマン損失すなわちSRL)では強度が減少する。また、反ストークス周波数ωASで生成されたCARS信号88も示される(増減なし)。
【0054】
図10(A)と図10(B)は、SRL検出方式を示す。ポンプ・ビームは、入力パルス列90として提供され、ストークス・ビームは、高周波数f(MHz)で変調された入力パルス列92として提供される。その結果、出力パルス列(94で示した)は、両方のビームが存在する場合にだけ生じる可能性のある誘導ラマン損失(SRL)による高周波数(MHz)の振幅変調を含む。次に、同じ変調周波数fの本来変調されていないビームのこの変調は、検出電子回路によって検出され、他の周波数で生じるレーザ・ノイズからビームを分離することがある。ストークス・ビームの誘導ラマン利得(SRG)は、ポンプ・ビームを変調しストークス・ビームを検出することにより検査することができる。
【0055】
SRL顕微鏡法は、順方向とepi(逆方向)検出のいずれかまたは両方を備えてもよい。ストークス・ビームは、電気光学(または、音響光学)変調器によって変調され、次にビーム・スプリッタ/コンバイナによってポンプ・ビームと結合されてもよい。次に、同一直線上にあるポンプ・ビームとストークス・ビームが、xyスキャナ・システムによって位置決めされ、試料の方に導かれる。透過または反射ポンプ・ビームは、フィルタによってフィルタリングされ、フォトダイオード(PD)によって検出される。epi検出の場合は、後方散乱ビームが、励起対物レンズ(OL)によって収集され、4分1波長板(λ/4)と偏光ビーム・スプリッタ(PBS)の組み合わせによって励起ビームから分離される。順方向検出の場合は、順方向散乱ビームが、集光レンズによって収集される。SRLは、ロックイン増幅器によって測定されて画像の画素を提供する。三次元(3D)画像は、スキャナ・システムによって試料の端から端までレーザ焦点をラスタ・スキャンすることによって得られ、顕微分光法は、ポンプ波長の自動同調によって実行することができる。
【0056】
様々な実施形態によれば、顕微鏡法システムは、様々な光源と様々な変調技術を使用して提供されてもよい。図11は、例えば、2重周波数レーザ源102と光学パラメータ発振器104を含む本発明の実施形態による顕微鏡イメージング・システム100を示す。2重周波数レーザ源102は、中心周波数(例えば、1064nmのストークス周波数ωを含む)の広帯域レーザ・パルス列106と、中心周波数(例えば、532nm)のより狭周波数帯域のレーザ・パルス列108を、光学パラメータ発振器104に提供する。光学パラメータ発振器は、例えば米国特許第7,616,304号に開示されたものでよく、この開示は、参照により本明細書の一部を構成するものとして全体が組み込まれる。光学パラメータ発振器の出力は、中心周波数ω(例えば、ポンプ周波数)のレーザ・パルス列110を提供し、ωは、ωとωの差(例えば、ω−ω)が焦点体積内の試料112の振動周波数と共鳴するように選択される。
【0057】
次に、レーザ・パルス列106の各パルスが、分散要素116、レンズ118および空間光変調器120を含む成形アセンブリ114によってスペクトル的に成形される。分散要素116は、各広帯域パルスをスペクトル的に分散させ、空間光変調器120は、スペクトル的に分散した広帯域パルスの異なる周波数成分を変調して成形パルス列122を提供する。
【0058】
次に、成形レーザ・パルス列122は、変調器124によって変調され、次に、得られた変調成形レーザ・パルス列128と中心ポンプ周波数のレーザ・パルス列110が時間的に重なるように変換段126(Aで示したように調整可能)で位相調整される。2つのレーザ・パルス列128および110は、同一直線上に空間的に重なるようにコンバイナ130で組み合わされる。
【0059】
組み合わされたレーザ・パルス列128および110は、スキャン・ヘッド132(互に垂直なx方向とy方向にスキャンする)によって顕微鏡134内に導かれ、顕微鏡134には、組み合わされたレーザ・パルス列128および110を、例えばミラー138によって焦点体積内に導き集束する光学素子136が含まれる。焦点体積からの照明は、集光レンズ140によって光学検出器142(例えば、フォトダイオード)に導かれ、変調された成形ビーム(例えば、ストークス・ビーム)は、光学フィルタ144によって遮断され、その結果、光学検出器142は、他のビームω(例えば、ポンプ・ビーム)の強度だけを測定するようになる。
【0060】
成形レーザ・パルス列122は、例えば変調器124、コントローラ146および変調ソース148を含む変調システムによって変調周波数f(例えば、少なくとも約100kHz)で変調される。変調ソースは、コントローラ146と信号処理装置152に共通変調制御信号150を提供する。光学検出器142からの第1パルス列154の実質的にすべての周波数成分の積分強度が、信号処理装置152に提供され、レーザ・パルス列128と焦点体積内のレーザ・パルス列110との非線形干渉による輝度変調が、変調周波数fで検出されて、顕微鏡法制御コンピュータ156に画像の画素を提供する。顕微鏡法制御コンピュータ156は、イメージング・システムとして使用され、更に、158で示したようなスキャン・ヘッド132のユーザ制御を提供する。
【0061】
一実施形態によれば、変調システムは、成形パルスの振幅変調を提供して、成形パルス列122の交互のパルスだけがωパルス列110のパルスと一致するように変調成形パルス列128を提供する。成形ビームのそのような振幅変調は、変調器124としてポッケル・セルと偏光分析器を使用し、コントローラ146としてポッケル・セル・ドライバを使用して達成されてもよい。別の実施形態によれば、変調速度は、レーザの繰返し速度の半分であり、その結果、元のωパルス列の1つおきのパルスの振幅が小さくなり、焦点体積内でパルスの振幅が小さい誘導ラマン散乱が、実質的に生じなくなる。変調速度が、同じ程度のレーザの繰返し速度のものである場合は、カウントダウン電子回路を利用して、変調とパルス列の間の同期(位相)を保証することができる。また、変調周波数がレーザ・ノイズより高速であれば、もっと低い変調速度も可能である。更に他の実施形態では、コントラスト・パルスは、例えば電気光学変調器または音響光学変調器を使用して変調周波数でパルスを遮断することによって実質的にゼロの振幅を有してもよい。
【0062】
この結果、ポンプ・パルス列またはストークス・パルス列の振幅変調が達成されてもよく、ストークス・パルス列の増大またはポンプ・パルス列の減少が測定されてもよい。ポンプ・パルス列を変調し、次に焦点体積からストークス・パルス列を検出することによって、誘導ラマン利得(SRG)が、処理システムによって決定されてもよい。更に他の実施形態では、ストークス・ビームが変調されてもよく、ポンプ・ビームが焦点体積から検出されてもよく、誘導ラマン損失(SRL)が、処理システムによって決定されてもよい。更に他の実施形態では、成形ビーム122と非成形ビーム110いずれかの位相は、変調が変調周波数で行われる限り、検出システムが対象信号を抽出できるように位相変調または周波数変調されてもよい。更に他の実施形態では、ポンプ・ビームとストークス・ビームは、両方とも変調システムによって変調されてもよい。
【0063】
したがって、本発明の様々な実施形態のシステムは、コントラスト機構としてポンプ・ビームまたはストークス・ビームのいずれかの変調を使用することによって誘導ラマン散乱顕微鏡法を達成することができる。誘導ラマン散乱顕微鏡法は、既存方法の利点のほとんどを有する。詳細には、1)自発的散乱に依存する従来のラマン顕微鏡法と比べて、分子振動遷移効率を大幅に高める光学的に誘導されたプロセスであり、2)顕微鏡法対象焦点でのみ信号が生成され、三次元区分能力を提供する非線形プロセスであり、3)振動共鳴だけを検査し、非共鳴バックグラウンドが常に存在するCARS顕微鏡法と違って非共鳴バックグラウンドとの干渉がなく、4)信号は、常に、溶質濃度により線形的に増減し、即座の分析定量化が可能であり、5)信号に試料自己螢光がなく、6)CARS顕微鏡法と違い、ビームの任意の相対方向の位相整合条件が常に満たされ、7)可視および近赤外線ビームが使用されるので、浸入度と空間分解能が赤外線吸収顕微鏡法より高くなり、8)誘導ラマン利得または損失の検出も周囲光の影響を受けず、このようなシステムを開放環境で使用することができる。
【0064】
プロセスは、振動遷移の励起の2光子プロセスと見なすことができる。ポンプ・ビームから消滅した1つの光子とストークス・ビームに生じた1つの光子の共同作用によって、分子振動光子の生成が促進される。ポンプ光子のエネルギは、ストークス光子と分子振動光子のエネルギの合計に正確に変換される。任意の2光子光学プロセスと同じように、遷移速度は、ポンプ・ビーム強度とストークス・ビーム強度の積に比例する。このプロセスが生じるためには、エネルギ保存によって必要とされるように、分子振動準位が必要であることは明らかである。したがって、非共鳴バックグラウンドからの寄与はないであろう。これは、スペクトルを歪ませるだけでなく望ましくないレーザ・ノイズを伝える非共鳴バックグラウンドによって厳しく制限されるCARS顕微鏡法を上回る重要な利点を提供する。
【0065】
このプロセスは、また、自発的ラマン散乱の誘導バージョンとして処理されてもよい。自発的ラマン散乱では、ストークス光子モードは、初期状態で空であり、真空場は、誘導ストークス・ビームとして働く。このため、効率はきわめて低い。遷移速度は、ポンプ・ビーム強度だけに比例する。しかしながら、誘導ラマン散乱では、ストークス光子モードは、強いレーザ光線の存在により多数の既存の光子があり、散乱プロセスは、誘発放出と同じように誘導される。その結果、遷移速度は、自発的ラマン散乱と同じようにポンプ・ビーム強度に比例するだけでなく、ストークス・ビーム強度にも比例するストークス光子モードでの既存の光子の数にも比例する。
【0066】
このプロセスは、また、ポンプ・ビーム(または、ストークス・ビーム)と、ポンプ・ビーム(または、ストークス・ビーム)と同じ光学周波数の対応する三次非線形誘発放射との間のヘテロダイン干渉として説明することもできる。誘導ラマン利得および損失のこれらの2つの三次非線形誘導分極は、互いに異なり、CARS生成に関与するものとも異なる。しかしながら、更に電子共鳴が含まれない場合、これらの絶対サイズはすべて同じである。
【0067】
ポンプ・ビームの誘導ラマン損失の場合、この三次非線形誘導偏光は、ポンプ・ビーム周波数で放射する。この非線形放射の強度依存は、ポンプ・ビームにより線形的に増減し、ストークス・ビームにより2次的に増減する。この最終的位相は、遠距離場検出器における入力ポンプ・ビームの位相より180度遅れている。したがって、この非線形放射と入力ポンプ・ビームの間の干渉によって、ポンプ・ビーム自体が減衰する。また、干渉項の強度依存は、ポンプ・ビームとストークス・ビームの両方により線形的に増減する。
【0068】
ストークス・ビームの誘導ラマン利得の場合、異なる三次非線形誘導偏光が、ストークス・ビーム周波数で放射する。この非線形放射の強度依存は、ポンプ・ビームにより二次的に増減し、ストークス・ビームにより線形的に増減する。その最終的な位相は、遠距離場検出器における入力ストークス・ビームの位相と同じである。したがって、この非線形放射と入力ストークス・ビームとの干渉によって、ストークス・ビーム自体が増える。この場合も、干渉項の強度依存は、ポンプ・ビームとストークス・ビームの両方により線形的に増減する。
【0069】
振幅変調を使用すると変調度が最も高くなるが、この手法によって、温度変調による線形バックグラウンドまたは試料の強度変調による試料の屈折率が導入されることがある。別の実施形態によれば、変調システムは、偏光変調を提供してもよく、また変調器として偏光装置と、コントローラとして偏光コントローラを含んでもよい。ωパルス列の1つおきのパルスは、他の先行パルスの偏光と異なる偏光を有する。パルス列のωパルスはそれぞれ、ωパルス列のωパルスと一致する。(1つおきのパルスが異なる)レーザの繰返し速度の半分ではない異なる変調速度を適用することもできる。
【0070】
また、偏光変調は、パルスが変更非平行偏光を有する状態で誘導ラマン散乱が焦点体積内に実質的に起こらないと規定する。特定の実施形態では、変調器は、更に他のコントラスト機構として、パルス・セットのうちの1つを除去する偏光フィルタを含む。したがって、パルスの偏光は、互いに対して変調されてもよい。他の実施形態では、検出器自体が、変調パルスを区別してもよい。詳細には、ポンプ・パルス列とストークス・パルス列が互いに垂直であるとき、非線形感受率の異なるテンソル要素が、ポンプおよびストークス場が平行な場合と比較して検査される。様々なテンソル要素は、著しく異なる大きさを有する。これにより、励起ビームの偏光変調が、ロックイン増幅器で検出することができる利得/損失信号の振幅変調に変換される。偏光変調は、ポッケル・セルによって実施することができる。この手法は、試料の温度変調を導入しないという利点を有する。
【0071】
他の実施形態によれば、パルス列のうちの1つがタイム・シフト(すなわち、位相)によって変調されてもよい。例えば、1つのパルス列が、ωパルスと一致する交互パルスを含み、残りのパルスは、ωパルスと一致しないようにタイム・シフトされる。ポンプ・ビームとストークス・ビームの一方または両方の変調は、例えば米国特許第7,352,458号にCARS顕微鏡法に関して開示されたような周波数変調によって達成されてもよく、この開示は、参照により本明細書の一部を構成するものとして全体が組み込まれる。周波数変調システムでは、ポンプ・ビームとストークス・ビームの一方または両方の周波数が、ポンプ・ビームとストークス・ビームの差周波数(例えば、ω−ω)が試料の振動周波数と合わされ外されるように、変調周波数で交互に変調される。次に、検出器は、変調周波数に応じてωおよびωと試料との非線形干渉によって生成された利得/損失を検出する。変調期間の時間スケールでの変化だけが最終出力で提供されるように、出力信号が、ロックイン増幅器を通されてもよい。更に他の実施形態により、時間遅延変調や空間ビーム・モード変調などの他の変調方式が使用されてもよく、これらの変調方式は、それぞれ生成された信号の変調を導入する。
【0072】
例えば、更に他の実施形態によれば、本発明のシステムは、2重周波数レーザ源、第1の光学パラメータ発振器、ならびに2重周波数レーザ源の出力を分割する追加の光学パラメータ発振器を使用してもよい。2重周波数レーザ源は、第1のレーザ広帯域パルス列(ポンプ周波数ωを含む)と中心周波数の第2のレーザ・パルス列を光学パラメータ発振器に提供する。第1のレーザ・パルス列は、図11に関して前に述べたように成形される。光学パラメータ発振器の出力は、ωとωの差(例えば、ω−ω)が、焦点体積内の試料(図示せず)の振動周波数と共鳴するように選択された中心ストークス周波数ωの第3のレーザ・パルス列を提供する。光学パラメータ発振器の出力は、ωとω’の差(例えば、ω−ω’)が焦点体積内の試料の振動周波数と共鳴しないように選択された中心周波数ω’の第4のレーザ・パルス列を提供する。
【0073】
ω’パルスは、半波長板に通され、別の半波長板に通されたωパルスと結合される。半波長板は、一方のパルス列がビーム・スプリッタを透過し他方のパルス列が反射されるように、パルス列が異なる偏光を有することを保証する。この点において、組み合わされたパルス列は、ωとω’の両方を含むが、相互に直角の偏光を有する。組み合わされたωおよびω’パルスは、変調信号に応じて変調ソースからの変調周波数fを提供する変調器に通される。異なる偏光に基づいて、変調器は、偏光分析器と共に、変調速度fの異なる偏光を選択し、すなわちωまたはω’パルスを選択する。その結果、ωパルスとω’パルスが交互になったパルス列が提供される。第1の成形レーザ・パルス列と交互になったレーザ・パルス列は、コンバイナで組み合わされて同一直線上で空間的に重ねられ、組み合わされたパルス列は、図11に関して前に述べたように試料の方に導かれる。
【0074】
更に他の実施形態によれば、システムは、光学パラメータ発振器の代わりに、電子ロック式モードロック・チタン・サファイア・レーザなどの電子ロック式レーザを含んでもよい。更に他の実施形態では、システムは、ωパルスとω’パルスの両方を提供する単一光学パラメータ発振器を含んでもよく、単一光学パラメータ発振器は、信号処理装置に結合された変調信号に応じて交互のレーザ・パルス列を提供してもよい。更に他の実施形態によれば、システムは、異なる変調周波数の異なるスペクトル・マスクと、複数の化学種が同時に検査されるように様々な変調周波数に調整された複数のロックイン検出器を提供してもよい。
【0075】
更に他の実施形態では、顕微鏡イメージング・システムは、CARSシステムにおけるスペクトル時間励起成形を提供してもよい。再び図11を参照すると、そのようなCARSシステムでは、成形され変調されたポンプおよび/またはストークス・パルス列110、128が、焦点体積内の試料112の方に導かれるが、光学検出器142と光学フィルタ144は、反ストークス・パルスが検出器142で受け取られるように選択される。更に他の実施形態では、光学検出器142とフィルタ144は、2色2光子吸収が検出されるように選択されるか、または光熱検出が提供されるように選択される。
【0076】
図12に示したように、変調ストークス・パルス列(図に128で示された)とポンプ・レーザ・パルス列(図に110で示された)が、光学素子136によって焦点領域162の方に集束されたときに非線形干渉する際、ポンプ・パルスとストークス・パルスが両方とも、前方向に導かれる(図に166で示されたように)。試料より前方に位置決めされた検出器は、試料を通過する前方に導かれたストークス・パルスを検出するであろう。
【0077】
図12にも示したように、成形され変調されたストークス・パルス列128とポンプ・レーザ・パルス列110が、162に概略的に示された焦点領域の方に光学素子136によって集束されたときに非線形干渉する際、いくつかのポンプ・パルスおよびストークス・パルスは、最初前方に導かれる(図に166で示されたように)が、次に試料(図に170で示された)中の異物168によって光学素子136に向けて後方に反射される。したがって、他の実施形態によれば、検出器は、焦点体積内に導かれて入ってくるポンプ・パルス列とストークス・パルス列に対して逆方向に位置決めされてもよい。逆方向検出システムなどでは、検出器は、反射ポンプ・パルスを検出するであろう。
【0078】
図13は、本発明の更に他の実施形態によるシステムの一部分を示し、図11に使用された参照数字と同じ参照数字(例えば、110、128、112、132、136、150、152、156、および158)を有するシステム構成要素は、図11のシステム構成要素と同じである。図13に示されていない図11の残りの要素は同じであり、システムは、前述のように振幅変調、偏光変調または周波数変調を提供してもよい。
【0079】
しかしながら、図13のシステムは、光学検出器142’を使用し、光学検出器142’は、フィルタ144’を介して、共通焦点体積内で反射されたストークス・パルス列の光学周波数成分の積分強度を受け取る。詳細には、光学素子136は、焦点体積にある試料112に2つのレーザ・パルス列を導き集束し、epi方向(ラマン散乱後に試料中の他の材料から反射することによって)に導かれる照明は、光学素子136とビーム・スプリッタ138’を通りフィルタ144’を介して光学検出器142’に戻される。画像信号154は、信号処理ユニット152に提供され、信号処理ユニット152は、図11に関して前述した顕微鏡法制御コンピュータ156と通信状態にある。
【0080】
信号ビームと励起ビームが同じ光学周波数を有するので、システムは、ビーム・スプリッタ138’が、入射ビームの50%を反射させかつ入射ビームの50%をビーム・スプリッタを介して熱吸収器172に透過させる50/50スプリッタであると規定してもよい。これは、理想的には、ストークス・ビームの25%が検出器142’に戻されるであろうことを規定する。更に他の実施形態では、ビーム・スプリッタ138’は、入射ビームの20%を反射し、入射ビームの80%をビーム・スプリッタを透過させ、その結果、検出器142’上に4%の信号が得られる20/80スプリッタでよい。
【0081】
前述の実施形態と同様に、システムは、振幅変調、偏光変調、位相変調、周波数変調などの変調周波数fの変調を提供してもよく、処理装置152は、共通焦点体積内のポンプ・パルス列とストークス・パルス列の非線形干渉によるストークス・パルス列の実質的に全ての光学周波数成分の積分強度の変調(振幅および/または位相)を検出する。
【0082】
しかしながら、異なる化学的結合が同じ振動周波数を有する場合があるので、提示された狭帯域レーザによる単一帯域手法の特定の標的化学種のSRS信号の特定性は制限される。単一周波数だけなく化合物のすべての結合の完全振動スペクトル(例えば、図1に10で示したような)が検査される場合だけ、ラマン分光法の完全な特定性を活用することができる。
【0083】
したがって、本発明の様々な実施形態によれば、スペクトル・マスクを使用して改善されたイメージングを提供してもよい。例えば図1に10で示されたラマン・スペクトルを参照すると、個々のピークはどれも他の分子から孤立していないが、分子の全体的な振動フィンガプリントは固有である。複合分子は、いくつかのラマン活性ピークを有し、それらが組み合わされた結果、分子特有の振動シグニチャが得られる。したがって、生物医学的イメージング用のラベル・フリーのコントラスト機構として振動スペクトルを使用することができる。
【0084】
単一のラマン・ピークだけがマーカ・バンドとして使用される場合、様々な化合物間のクロストークが生じる可能性がある。これは、多くの場合、方法の特定性を制限する可能性がある。ポンプ・ビームとストークス・ビームとして少なくとも1つの広帯域レーザ源を使用することによって、SRSによってより大きな部分ラマン・スペクトルを検査することができる。図14は、184に示したような複数の振動状態が存在する狭帯域ポンプ・ビーム180と狭帯域ストークス・ビーム182を使用する狭帯域SRSのエネルギ状態図を示す。狭帯域ビーム(周波数スパンはラマン線の幅より小さい)のすべてのスペクトル成分は、中心周波数の周波数差が試料中の分子振動周波数に一致するかどうかにより、SRSによる利得または損失を経験する。差周波数は、標的分子の1つの振動の共振周波数に同調される。他の振動状態は影響を受けない。試料との干渉の結果として、ポンプ・ビームは損失(SRL)を経験し、ストークス・ビームは利得(SRG)を経験する。
【0085】
図15は、狭帯域ポンプ・ビーム190を広帯域ストークス・ビーム192と共に使用して194に示された振動状態を検査する2つの多重分光学システムを示す。広帯域ストークス・ビーム192の個々の成分と狭帯域ポンプ・ビーム190の実質的にすべての周波数成分は、個別の異なる周波数が分子194の分子振動状態の1つに対応するかどうかにより、それぞれSRGまたはSRLを経験する。
【0086】
図15でも示したような他の実施形態では、広帯域ポンプ・ビーム196を狭帯域ストークス・ビーム198と使用して、振動状態200を検査してもよい。広帯域ポンプ・ビーム196の個々の成分と狭帯域ストークス・ビーム198の実質的に全ての周波数成分は、個々の異なる成分が分子200の分子振動状態の1つに対応するかどうかにより、それぞれSRLまたはSRGを経験する。また、ポンプ・ビームとストークス・ビームとしての2つの広帯域パルス列によって広帯域励起が可能である。両方の広帯域ビームのすべてのスペクトル成分の組み合わせは、SRS信号の生成に寄与する。
【0087】
前に図6に関して述べたように、スペクトルのクロストークの抑制は、マスク2からの信号(干渉分子と共鳴するスペクトル成分を主に含む)を、マスク1からの信号(標的分子と共鳴するスペクトル成分を主に含む)から減算することによって達成されることができる。レーザ・ノイズは、絶対信号、すなわち標的成分と干渉化学種からの信号により増減するので、標的分子からの信号は、濃度がもっと低いかラマン散乱断面がもっと弱いときに、干渉化学種のレーザ・ノイズに容易に埋没する可能性がある。このため、レーザ・ノイズが主に低い周波数で生じるので、マスク1とマスク2からの減算は、MHzレートで達成されなければならない。したがって、SRS顕微鏡法において励起分光に適用される多変数光学計算は、2つの任意に成形された励起スペクトル間の複雑な周波数変調方法と等価である。
【0088】
図16は、SRS顕微鏡法において多変数光学計算を行うための本発明の別の実施形態による高周波変調システムを示す。図16は、画素ごとのマスク減算によるSRG顕微鏡システムの構成を示す。このシステムは、ピコ秒(狭帯域)光学パラメータ発振器212、電子同期ユニット214、およびフェムト秒(広帯域)Ti:Saレーザ216を含む照明源システム210を含む。偏光パルス成形器218(格子220、結像レンズ222、および空間光変調器224として多重偏光シェーパなどの分散要素を含む)を使用して広帯域パルスの励起成形が行われる。
【0089】
このシステムは、また、1つの偏光だけを通す分析器226を含む。偏光変調器228(例えば、ポッケル・セル)は、分析器の前に配置され、分析器226を透過する偏光を切り換える。したがって、個々の周波数成分が、偏光パルス成形器によって一方の偏光状態に設定されるか他方の偏光状態に設定されるかにより、広帯域パルスの様々なスペクトル成分を切り換えることができる。ポッケル・セルなどの電気光学変調器は、必要に応じて1MHzを超える速さの切り換えを可能にする。成形された広帯域パルスは、ダイクロイック・ビーム・コンバイナによって狭帯域ストークス・パルスと重ねられ、ビーム走査顕微鏡230内に整合される。集束光学素子の焦点体積を通過するか反射された後、変調ポンプ・ビームは、フィルタ232によって遮断され、ストークス・ビームは、フォトダイオード234などの光検出器によって検出される。次に、レーザ走査顕微鏡の焦点内の標的分子だけによる非線形干渉によって生じる最初に変調されていないストークス・ビームのSRGを、電気光学変調器の変調速度で検出するロックイン増幅器236などの処理電子回路によって抽出することができる。ロックイン増幅器は、2つのスペクトル間の差を自動的に得る。追加の変調は不要である。次に、試料内で焦点をスキャンすることによって、標的化合物だけの分布の三次元画像を得ることができる。
【0090】
図16にも示したように、イメージング・システムは、入力装置240と、記憶装置ユニット244およびパルス成形器218に結合されたコントローラ242とを含む。信号処理装置236はまた、出力表示装置238に結合される。ユーザは、ユニット240に分析する成分の識別を入力してもよく、コントローラ242は、記憶装置244から(例えば、直接接続またはネットワークを介して)成分と関連したスペクトル成形情報を得てもよい。次に、コントローラ242は、所望の変調を行うように変調器218に指示する。他の実施形態では、ユーザは、入力装置240を介して適切なスペクトル成形情報を直接入力してもよい。
【0091】
図17は、2つの励起マスク間の変調プロセスをより詳細に示す。偏光パルス成形器上の広帯域パルス250は、s偏光(0°)される。パルス成形器を通った後、252に示したように、すべてのスペクトル成分の偏光をs(0°)からp(90°)の間のどこかになるように調整することができる。また、電気光学変調器の後の分析器は、s偏光に設定される。したがって、電気光学変調器が遅延特性(retardence)を高めない場合は、成形スペクトル成分254のs偏光部分だけが顕微鏡に送られる。
【0092】
変調器が、透過ビームの偏光を90°だけ回転させるとき、各スペクトル成分(すなわち、広帯域パルスの相補成分)のp偏向部分だけが顕微鏡に送られる。従って、特定の励起マスクとその相補物を電気光学変調器のレートで切り換えることができる。256、258、260および262で示したように、2つのマスクを交互にすることにより、複雑な周波数変調が提供される。図17は、レーザの繰返し速度の半分の変調速度を示す。また、図17は、s偏光またはp偏光だけの任意の偏光設定を選択する可能性を示す。更に、振幅および偏光パルス成形器を使用することができる。これにより、全く任意の2つのマスクを切り換えることができ、不要な周波数成分を遮断して標的分子の信号を生成することによって試料上の電力を最小にすることができる。
【0093】
図16と図17に示した手法は、干渉化学種が存在する状態で変調位相を利用して1つの化学種から純粋信号をどのように検出できるかを示す。マスク1とマスク2の強度は、位相が互いに正確180°ずれて変調され、ロックイン検出器は負号として解釈し、2つのマスクの減算を行う。この概念を一般化すると、2つのマスクは、90°ずれた位相で変調され、これにより、ロックイン増幅器などの位相弁別検出器によって2つのチャネルの分離が可能になるであろう。これにより、単一ロックイン増幅器によって同時に2色のイメージングが可能になり、この場合、マスク1はxチャネルから読み出され、マスク2はyチャネルから読み出されてもよい。代替として、2つ以上のマスクが異なる変調周波数で変調されてもよく、そのような異なる比率を調べる電子処理装置は、検出された全体のSRSまたはCARSから異なるマスクの個々のスペクトル寄与を、単一検出器から抽出することができる。要するに、広帯域励起ビームのスペクトル時間変調は、個々のスペクトル寄与を分離するために電子的に分析することができる周波数領域内のSRS信号の符号化を可能にする。
【0094】
以上の考察は、SRS顕微鏡法を含む応用例を対象とするが、その概念は、CARS、1光子および2光子吸収放出、誘導放出、光熱散乱、光音響散乱などの励起分光を利用した顕微鏡法における任意のタイプのコントラストに有効である。
【0095】
また、フローサイトメトリ(flow-cytometry)において必要に応じて高速光学検出(顕微鏡法とは限らない)に適用されてもよい。また、一方のビームまたは両方のビームが成形されるフェムト秒−フェムト秒構成(すなわち、ポンプ・ビームとストークス・ビームの両方が広帯域である)を使用することもできる。2つのパルス間の全ての周波数の組み合わせを検討しなければならないので、この状況では明らかというほどではないが、励起マスクは、スペクトル分解能が、レーザの帯域幅ではなくパルス成形器のスペクトル分解能によってのみ決定されるように決定することができる。
【0096】
コントローラ242によるパルス成形の決定は、ケモメトリックス方式に従う。再び図7を参照すると、分子A(75で示した)は対象分析物であり、成分B(76で示した)およびC(77で示した)は、干渉化学種である。図示したように、A、BおよびCの対応する既知のラマン・スペクトルσ(Δω)が互いに部分的に重なっていることに注意されたい。
【0097】
目的は、ポジティブ励起スペクトル形状を設計することである。それぞれ未知の濃度cのA、BおよびCの混合物において、2つのポジティブ励起スペクトル形状I(Δω)およびI(Δω)(すなわち、マスク)は、これらの2つの励起マスクからの差分信号ΔSが、分子BおよびCからの干渉を受けることなく分子Aの濃度を選択的に予測できるように設計されてもよい。所定の励起スペクトル形状I(Δω)の場合、得られる吸収信号Sは、前述のように説明されてもよい。
【0098】
したがって、特定の実施形態によれば、スペクトル成形器(例えば、空間光変調器)は、第1の偏光を有する第1のマスクを提供するように設定され、同時にスペクトル成形器は、第2の偏光を有する第2のマスクを提供するように設定されてもよい。したがって、スペクトル成形器は、2つの偏光の別個のマスクを変更なしに同時に提供する。この場合、偏光変調器は、2つのマスクをきわめて素早く切り換えることができ、第2のマスクを使用して得られた結果を第1のマスクを使用して得られた結果から実時間で減算することができる。
【0099】
また、スペクトル分解能が、レーザの帯域幅ではなくパルス成形器のスペクトル分解能によってのみ決定されるので、ビームが一方または両方とも成形されるフェムト秒−フェムト秒構成(すなわち、ポンプ・ビームとストークス・ビームが両方とも広帯域である)を使用することができる。このことは、必要に応じてフローサイトメトリにおける高速光学検出(顕微鏡法とは限らない)にも当てはまる。
【0100】
図18は、270に、分離ラマン振動を有しないが別個のラマン・シグニチャを有する2つの生化学的コレステロール(272で示した)とオレイン酸(274で示した)の自発的ラマン・スペクトルを示す。図18は、280に、狭帯域励起マスクを広帯域スペクトル全体にわたって同調させることにより測定されたレーザ励起スペクトル(286で示した)に関して計算されたコレステロール(282で示した)とオレイン酸(284で示した)のSRSスペクトルを示す。オレイン酸からの干渉信号を抑制するコレステロールに固有の励起マスクは、SRSスペクトルから自動的に生成される。288と289で示したように、正と負のスペクトル成分はそれぞれ強調されている。
【0101】
図18は、290に、干渉化学種(オレイン酸)の濃度が高められ、標的化学種(コレステロール)の濃度が一定に維持されたスペクトルと狭帯域検出の比較を示す。292に示したような狭帯域SRS信号は、干渉化学種の濃度が高くなるにつれて不当に増加するが、294に示したようなスペクトルSRS信号は、干渉の濃度と関係なく標的濃度を適正に予測し、増大を示さない。
【0102】
狭帯域SRSイメージングは、狭帯域マスクをほぼ2970cm−1の広帯域励起に適用することにより達成された。干渉信号の抑制は、以下のように定量化されてもよい。図18は、300に、オレイン酸の非成形励起信号に対する残留信号のノイズを示す。図18は、310、312および314に、スペクトルSRSイメージングが、複数の化学種による干渉を抑制できることを示す。詳細には、画像は、タンパク質(310で示した)、オレイン酸(312で示した)およびステアリン酸(314で示した)に最適化された3つの励起マスクのために取得された抽出タンパク質、オレイン酸およびステアリン酸を含む混合物の同一領域を示す。イメージング速度は、512×512画素の分解能で30秒/フレームであった。スケール・バーは25μmである。
【0103】
図19は、本発明の一実施形態によるシステムによって得られた多細胞生物シノラブディス・エレガンス(C.Elegans)システムにおける脂質貯蔵イメージングと関連したデータおよび画像を示す。詳細には、図19は、320に、測定されたレーザ励起スペクトル(328で示した)を使用して自発的ラマン・ライブラリから計算されたような生体分子オレイン酸(322で示した)、ステアリン酸(324で示した)、およびタンパク質(326で示した)のSRSスペクトルを示す。
【0104】
図19は、330に、320のスペクトルから計算されイメージングに使用されるスペクトル・マスクを示す。詳細には、図19は、332にオレイン酸用のマスクを示し、334にステアリン酸用のマスクを示し、336にタンパク質用のマスクを示す。これらのスペクトル・マスクを適用するC.Elegansセクション内の同じ領域から得られたスペクトル画像は、図19に、タンパク質(340で示した)、オレイン酸(342で示した)、およびステアリン酸(344で示した)のものが示されている。オレイン酸(342)とステアリン酸(344)の画像の比較により、オレイン酸とステアリン酸の貯蔵場所が共局在化していることと、一方または他方の孤立した貯蔵場所がないことが分かる。また、オレイン酸(342)とタンパク質(340)の比較から、脂質貯蔵場所がタンパク質濃度の高い細胞器官と共に局在化していることが分かる。
【0105】
図19は、また、タンパク質(346で示した)と脂質分布(348で示した)およびそれらの重なり(350で示した)のスペクトル画像を示す。画像348に示した矢印は、皮下および腸内脂質貯蔵場所を強調する。イメージング速度は、512×512画素の分解能で30秒/フレームであった。スケール・バーは、25μmである。
【0106】
図20は、吸収試料のラベル・フリー顕微鏡法を示す。詳細には、図20は、360に、362で示された誘導ラマン散乱(SRS)と364で示された2色2光子吸収(TPA)のエネルギ線図を示す。TPAは、SRSに対するバックグラウンド信号およびその逆の信号として生じる。図20は、370に励起スペクトルを示し、詳細にはレーザ励起スペクトル(374で示した)から決定されるようなオレイン酸(372で示した)と2光子興奮性試料(374で示した)の励起スペクトルを示す。図20は、380に、脂肪と2光子興奮性化学種の固有画像を得るために使用されるスペクトル・マスクを示す。詳細には、図20は、382に脂肪のマスクを示し、384に吸収化学種のマスクを示す。
【0107】
図20は、また、クロロフィルが豊富な藻類の試料のスペクトル画像を示す。クロロフィル画像(390で示した)、脂質画像(394で示した)、およびそれらの重なり(396で示した)は、強く吸収する(蛍光を発する)クロロフィルがある場合でも藻類の脂質含有量を決定できることを示唆する。
【0108】
2つのタイプの脂肪組織(396、398、400で示された白色の脂肪と、402、404、406で示された褐色の脂肪)のスペクトル画像は、染色も定着も切片化もなしに、新鮮な組織から得られた。TPA画像(396と402で示した)は、ヘモグロビン吸収によって支配され、微小血管系を示す。脂肪画像(398と404で示した)は、様々なタイプの組織内の脂肪細胞の異なる形態を示す。画像の重なり(400と406で示した)は、SRSとTPAが相補的技術であり、ラベル・フリー顕微鏡法の情報量を高めることができることを強調している。イメージング速度は、512×512画素の分解能で30秒/フレームであった。スケール・バーは25μmである。
【0109】
特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく以上開示した実施形態に多数の修正および変更を行うことができることを当業者は理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡イメージング・システムであって、
第1の広帯域範囲の周波数成分を含む第1のパルス列と、第2の光学周波数を含む第2のパルス列とを提供して、前記第1の広帯域範囲の周波数成分と前記第2の光学周波数の1組の差が、焦点体積内の試料の1組の振動周波数と共鳴し、前記第2のパルス列が、前記第1のパルス列と同期するようにするための光源システムと、
前記広帯域範囲の周波数成分のうちの少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正して、前記広帯域範囲の周波数成分が、成形された第1のパルス列を生成するように形成されて、試料から対象のスペクトル特徴を明確に検査し、かつ前記試料から対象でない特徴からの情報を減少させるためのスペクトル成形器と、
前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の少なくとも一方の特性を変調周波数で変調して、変調されたパルス列を提供するための変調器システムと、
前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列を共通焦点体積の方に変調されるように導き集中させるための光学システムと、
前記共通焦点体積内に透過または反射された対象パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度を検出するための光学検出器と、
前記共通焦点体積内で変調されたような前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列との前記非線形干渉による前記対象パルス列の実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記変調周波数の変調を検出し、前記顕微鏡イメージング・システム用の画像の画素の出力信号を提供するための処理装置と、
を含む顕微鏡イメージング・システム。
【請求項2】
前記成形されたレーザ・パルス列または前記第2のパルス列の一方だけが、前記変調周波数で変調されて前記変調パルス列が提供され、その結果、前記成形されたレーザ・パルス列と前記第2のパルス列の他方が、非変調パルス列のままになり、
前記光学検出器は、前記変調パルス列を遮断することによって前記共通焦点体積内に透過または反射された前記非変調パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の前記積分強度を検出し、
前記処理装置は、前記共通焦点体積内の前記変調パルス列と前記非変調パルス列との前記非線形干渉による前記非変調パルス列の実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記変調周波数での変調を検出する、請求項1に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項3】
変調された前記成形された第1のパルス列または前記第2のパルス列のいずれかの前記光学特性が振幅である、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項4】
変調された前記成形された第1のパルス列または前記第2のパルス列のいずれかの前記光学特性が偏光であり、前記システムが、更に、偏光分析器を含む、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項5】
前記スペクトル成形器と前記変調器システムが、同じ装置に含まれる、請求項1に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項6】
前記広帯域範囲の周波数成分が、少なくとも0.5nmの一連の周波数成分を含む、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項7】
前記広帯域範囲の周波数成分は、不連続である、請求項1に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項8】
前記第2のパルス列は、広帯域範囲の周波数成分を有する、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項9】
前記変調周波数は、少なくとも100kHzである、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項10】
前記イメージング・システムは、コントラスト機構として誘導ラマン分光を使用し、前記第1のパルス列は、ポンプ・ビームを提供し、前記第2のパルス列は、前記変調器システムによって前記変調周波数で変調されてポンプ・ビームとストークス・ビームの一方を提供して、前記信号処理装置において前記変調周波数でラマン損失が検出されるようにする、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項11】
前記イメージング・システムは、コントラスト機構として誘導ラマン分光を使用し、前記第1のパルス列は、ポンプ・ビームを提供し、前記第2のパルス列は、前記変調器システムによって前記変調周波数で変調されてポンプ・ビームとストークス・ビームの一方を提供して、前記信号処理装置において前記変調周波数でラマン利得が検出されるようにする、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項12】
前記処理装置は、前記共通焦点体積内で変調されたような前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列との非線形干渉による反ストークス・パルス列の実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の変調を検出する、請求項1に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項13】
前記システムは、コントラスト機構として、前記第1のパルス列からの1つの光子と前記第2のパルス列からの第2の光子が同時に吸収される2光子吸収を使用する、請求項1に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項14】
前記スペクトル成形器は、空間光変調器、dazzlerシステム、多重電気光学変調器、多重電気音響変調器、または音響光学可変同調フィルタのうちの1つを含む、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項15】
前記スペクトル成形器は、前記第1のパルス列の前記広帯域範囲の周波数成分の様々な周波数成分の偏光を異なるように修正する、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項16】
前記スペクトル成形器は、前記第1のパルス列の前記広帯域範囲の周波数成分の様々な周波数成分の振幅を異なるように修正する、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項17】
前記スペクトル成形器は、スペクトル分散ユニットと偏光空間光変調器を含み、前記変調器は、偏光変調器であり、前記システムが、更に、前記変調器の前または後に位置決めされた偏光分析器を含む、請求項2に記載の顕微鏡イメージング・システム。
【請求項18】
周波数変調を使用する顕微鏡イメージングを実行する方法であって、
第1の広帯域範囲の光学周波数成分を含む第1のパルス列を提供する段階と、
第2の光学周波数を含む第2のパルス列を提供して、前記第1の広帯域範囲の周波数成分と前記第2の光学周波数との1組の差が、焦点体積内の試料の1組の振動周波数と共鳴し、前記第2のパルス列が、前記第1のパルス列と同期されるようにする段階と、
前記第1の広帯域範囲の周波数成分の少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正して、試料から対象のスペクトル特徴を明確に検査しかつ前記試料から対象でない特徴からの情報を減少させるように成形される、成形された第1のパルス列を提供する段階と、
前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の一方の光学特性を、変調パルス列を提供する変調周波数で変調し、かつ前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の他方を非変調パルス列として提供する段階と、
前記変調パルス列と前記非変調パルス列を共通焦点体積の方に導き集束させる段階と、
前記変調パルス列を遮断することによって前記共通焦点体積内を透過または反射された前記変調パルス列と前記非変調パルス列の他方の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度を検出する段階と、
前記共通焦点体積内の前記非変調パルス列と前記変調パルス列との前記非線形干渉により前記非変調パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の前記積分強度の前記変調周波数での変調を検出する段階と、
前記検出した変調を顕微鏡イメージング・システム用の画像の画素の前記信号として提供する段階と、
を含む方法。
【請求項19】
少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正する前記段階と、前記成形された第1のパルス列と前第2のパルス列の一方の光学特性を変調して変調パルス列を提供する段階が、同じ装置によって実行される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、更に、
前記第1のパルス列の前記広帯域範囲の周波数成分の少なくとも更に他の周波数成分の光学特性を更にスペクトル的に修正して更に成形された第1のパルス列を提供して、前記試料から前記対象スペクトル特徴と干渉する試料からのスペクトル特徴を明確に検査する段階と、
前記焦点体積内の前記更に他の成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の前記非線形干渉による前記非変調パルス列の実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記検出された変調を、前記焦点体積内の前記最初に成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の前記非線形干渉による非変調パルス列の実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記検出した変調から減算する段階と、
前記差を、前記顕微鏡イメージング・システム用の画像の画素の信号として提供する段階と、
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のパルス列の前記広帯域範囲の周波数成分の少なくとも更に他の周波数成分の光学特性を更にスペクトル的に修正する前記段階が、得られた実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記検出された変調を、前記非変調パルス列の実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記検出された変調から減算する段階の前に、スキャン領域全体に実行される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1のパルス列の前記広帯域範囲の周波数成分の少なくとも更に他の周波数成分の光学特性をスペクトル的に更に修正する前記段階と、得られた実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記検出された変調を、非変調パルス列の実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記検出された変調から減算する前記段階が、1つの画素に実行され、その後で次の画素がレーザ・スキャンされる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記成形された第1のパルス列の前記広帯域範囲の周波数成分の少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正する前記段階が、振幅変調を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記成形された第1のパルス列の前記広帯域範囲の周波数成分の少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正する前記段階が、偏光変調を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記方法は、様々な変調周波数における様々なスペクトル・マスクを提供する段階と、前記様々な変調周波数に同調された複数のロックイン検出器を使用して複数の対象パルス列を検出して、複数の化学種が同時に検査されるようにする段階とを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
顕微鏡イメージングを実行する方法であって、
a)第1の広帯域範囲の光学周波数成分を含む第1のパルス列を提供する段階と、
b)第2の光学周波数を含む第2のパルス列を提供して、前記第1の広帯域範囲の周波数成分と前記第2の周波数成分との1組の差が、焦点体積内の試料の1組の振動周波数と共鳴し、前記第2のパルス列が前記第1のパルス列と同期されるようにする段階と、
c)前記第1の広帯域範囲の周波数成分の少なくともいくつかの周波数成分の光学特性をスペクトル的に修正して、前記第1のパルス列を成形し、成形された第1のパルス列を提供して試料から対象スペクトル特徴を検査するようにする段階と、
d)前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の一方の特性を変調周波数で変調して、変調パルス列を提供しかつ前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の他方を非変調パルス列として提供する段階と、
e)前記変調パルス列と前記非変調パルス列を共通焦点体積の方に導き集束させる段階と、
f)前記変調パルス列を遮断することによって、前記共通焦点体積内で透過または反射された変調周波数で前記非変調パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度を検出する段階と、
g)前記共通焦点体積内の前記変調パルス列と前記非変調パルス列との非線形干渉による実質的にすべての前記変調パルス列の前記積分強度の前記変調周波数での変調を検出する段階と、
h)前記第1の広帯域範囲の周波数成分の少なくともいくつかの周波数成分の光学特性を更にスペクトル的に変調して、前記第1のパルス列を、負に成形し、負に成形された第1のパルス列が提供され、前記試料から前記対象スペクトル特徴と干渉する試料からのスペクトル特徴が明確に検査されるようにする段階と、
i)前記負に成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の一方の特性を、更に他の変調パルス列を提供する変調周波数で変調して、前記成形された第1のパルス列と前記第2のパルス列の他方を更に他の非変調パルス列として提供する段階と、
j)前記更に他の変調パルス列と更に他の非変調パルス列を共通焦点体積の方に導き集束させる段階と、
k)前記更に他の変調パルス列を遮断することによって、前記共通焦点体積内で透過または反射された変調周波数で、更に他の非変調パルス列と前記更に他の変調パルス列の実質的にすべての光学周波数成分の積分強度の変調を検出する段階と、
l)得られた実質的にすべての前記光学周波数成分の前記積分強度の前記変調を、共通焦点体積内の前記更に他の変調パルス列と前記更に他の非変調パルス列の前記非線形干渉による実質的にすべての前記更に他の変調パルス列の前記積分強度の変調から減算して差分信号を得る段階と、
m)前記差分信号に応じて前記顕微鏡イメージング・システム用の画像を提供する段階と、
を含む方法。
【請求項27】
前記段階a)〜m)がそれぞれ、顕微鏡イメージング・システムにおける各画素に実行され、その後で前記段階a)〜m)がそれぞれ別の画素に実行される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記段階a)〜g)がそれぞれ、顕微鏡イメージング・システムにおける各画素に実行され、その後で前記段階h)〜m)がそれぞれ各画素に実行される、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−169686(P2010−169686A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−13744(P2010−13744)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(504000410)プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ (10)
【Fターム(参考)】