スポットピン、スポット装置、液体の点着方法、および生化学解析用ユニットの製造方法
【課題】基板への接触速度を下げ、基板への傷付けを防止できるようにするとともに、液体の点着を安定化するスポットピン、これを用いたスポット装置および液体の点着方法、ならびに生化学解析用ユニットの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のスポットピン2は、液体を保持するための液体保持空間27を規定する液体保持部21を含んでなるものである。液体保持部21は、点着対象面に接触させるための点着面22から該点着面22に対して交差する方向に延びる溝24を有している。
【解決手段】本発明のスポットピン2は、液体を保持するための液体保持空間27を規定する液体保持部21を含んでなるものである。液体保持部21は、点着対象面に接触させるための点着面22から該点着面22に対して交差する方向に延びる溝24を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点着対象面に対して液体を点着するためのスポット装置、このスポット装置に用いるスポットピン、このスポットピンを用いた液体の点着方法および生化学解析用ユニットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAの塩基配列の解析を行う方法として、バイオチップなどの生化学解析用ユニットを用いる方法がある(たとえば特許文献1−3参照)。バイオチップは、基板に対して塩基配列が既知のプローブDNAをスポット状に固定化したものであり、蛍光物質で標識したサンプルDNAと接触させることにより、サンプルDNAに含まれるプローブDNAの相補鎖DNAがプローブDNAと結合する。そのため、プローブDNAに結合していないDNAを洗浄により除去し、相補鎖DNAに標識させた蛍光物質を光エネルギで励起させて、その励起光を検出することにより、目的とするDNAの検出を行うことができる。
【0003】
上述のように、バイオチップにおいては、基板に対してプローブDNAが固定化されているが、その固定化に際して、基板に対してプローブDNAを含む試薬が点着される。プローブDNAの点着には、試薬を保持するための複数のスポットピンをヘッドに保持させたスポット装置が使用されている。
【0004】
図10は、一般的なスポット装置のヘッド周りの要部を示すものであり、ヘッド90には複数のスポットピン91が保持されている。各スポットピン91は、毛細管力を作用させる内部空間92を有するパイプ状に形成されたものである。このスポットピン91では、試薬にスポットピン91の先端部を浸漬することにより、内部空間92に作用する毛細管力によって内部空間92に試薬が吸引・保持される。
【特許文献1】特開2002−355036号公報
【特許文献2】特開2004−4083号公報
【特許文献3】特開2004−354123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、スポットピン91の点着面は基板に対して接触する。接触することにより、スポットピン91が保持している液体が、点着面と基板の間で生じた毛細管力によって、基板に移り点着されるのである。しかしながら、スポットピン91においては、点着時の液体の基板への移動は、基板への接触速度を上げることによって、液体の慣性力を利用し、液体の基板への接触移動を行っている。また、液体の粘性は、温度や使用する液体に依存するため、常に同条件の接触速度で液体が点着できるとは限らない。さらに、接触速度が大きい場合、接触する基板に傷をつけたり、スポットピン91そのもの点着面を変形、破損させたりする可能性がある。基板に傷をつけた場合は、評価においてのノイズ発生の要因となったり、スポットピン91の点着面を変形させた場合は、点着形状が変形したり、点着できなくなったりする。また、粘性が高い場合、接触速度を上げても、液体の慣性力よりスポットピン91内部の毛細管力が強く、液体の点着が実質的に不可能になってしまうことがある。
【0006】
さらに、スポットピン91に対する液体の吸引時においては、液体からスポットピン91を抜き取る際に、スポットピン91に作用する毛細管力によって、スポットピン91に空気が吸引され、スポットピン91の先端側にエアギャップが生ずることがある。この状態に陥ると、スポットピン91の先端を点着対象面に接触させたとしても、スポットピン91から液体が排出されず、液体の点着が実質的に不可能になってしまうことがある。
【0007】
本発明の課題は、基板への接触速度を下げ、基板への傷付けを防止できるようにするとともに、液体の点着を安定化するスポットピン、これを用いたスポット装置および液体の点着方法、ならびに生化学解析用ユニットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面により提供されるスポットピンは、液体を保持するための液体保持空間を規定する液体保持部を含んでなるスポットピンであって、前記液体保持部は、点着対象面に接触させるための点着面から該点着面に対して交差する方向に延びる溝を有していることを特徴としている。
【0009】
前記溝は、たとえば点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されているのが好ましい。
【0010】
前記溝が複数ある場合、この複数の溝は前記液体保持部の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にあるのが好ましい。
【0011】
前記溝が複数ある場合において、前記液体保持部における前記液体保持空間の規定面は、該液体保持部の軸心に対して直交する断面形状が略円状であり、その全周にわたって複数の溝が連なって形成されているのが好ましい。
【0012】
前記溝は、前記液体保持部の軸心に対して直交する断面形状をV字状とするのが好ましい。
【0013】
前記液体保持空間は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されているのが好ましい。
【0014】
前記液体保持部の最小肉厚は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど大きくなるように形成されているのが好ましい。
【0015】
前記液体保持部は、少なくとも一部が透光性を有しているのが好ましく、その透光性を有する部位はジルコニアセラミックスで形成されており、該部位の肉厚は0.03〜0.5mmであるのがより好ましい。
【0016】
本スポットピンは、その全体がジルコニアセラミックスで形成されているのが好ましい。
【0017】
本スポットピンは、点着対象面に接触させるための点着面に、前記液体保持空間の先端開口を取り囲むように突起が形成されているのが好ましい。
【0018】
本発明の第2の側面に係るスポット装置は、本発明の第1の側面に係るスポットピンと、前記スポットピンを軸方向に移動させるための移動機構と、前記移動機構の動作を制御するための制御部と、を備えていることを特徴としている。
【0019】
本スポット装置は、スポットピンの貫通孔を介して、スポットピンの液体保持空間に液体を供給するための液体供給機構をさらに備えているのが好ましい。この液体供給機構は、液体として、たとえば試料溶液、試薬または洗浄液が供給するように構成される。
【0020】
本発明の第3の側面に係る液体の点着方法は、本発明の第1の側面に係るスポットピンにおける液体保持空間に液体を保持させる工程と、前記スポットピンの点着面を点着対象面に接触させた後に、前記点着対象面から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の液体を前記点着対象面に点着する点着工程と、を含むことを特徴としている。
【0021】
本点着方法は、前記点着工程の後において、前記液体保持空間に残存する液体を排出する工程をさらに含んでいるのが好ましい。
【0022】
本発明の第4の側面に係る生化学解析用ユニットの製造方法は、基板に試薬を固定化した生化学解析用ユニットの製造方法であって、本発明の第1の側面に係るスポットピンにおける液体保持空間に試薬を保持させる工程と、前記スポットピンの点着面を前記基板の表面に接触させた後に、前記基板から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の試薬を前記基板の表面に点着する工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るスポットピンは、点着対象面に接触させるための点着面から該点着面に対して交差する方向に延びる溝を有している。この交差する方向とは、点着面に対して垂直方向の成分と、点着面に対して平行方向の成分とから構成される。スポットピンの点着動作は、点着面に対して垂直方向の動作となるため、点着動作時における液体の動きも慣性力に従って該垂直方向となる。つまり、本発明に係るスポットピンの溝の延びる方向は、液体の慣性力が作用する方向の成分を含んでいる。本発明に係るスポットピンの溝には、毛細管力により液体が入り込み、該溝に沿って液体が流れるので、液体の慣性力が作用する方向の成分を含んでいる本発明のスポットピンでは点着動作時に液体に作用する慣性力に対して溝における毛細管力を追加することができる。そのため、本発明のスポットピンでは、スポットピン内部における液体の移動を容易にさせることができるようになり、従来型スポットピン(本発明の溝を有していないスポットピン)より基板への接触速度を低く抑えても適切に点着を行うことができる。したがって、本スポットピンでは、基板への接触速度を下げることができるため、該基板への傷付けを防止することができるのに加え、スポットピンの点着面の変形や破損を防ぐことができるため、液体の点着をより安定して行うことができるのである。なお、液体保持部をパイプ状部材で構成する場合は、たとえば液体保持部をスリット状の構成により形成する場合に比べて液体が外部雰囲気に曝され難い(曝される領域が小さい)ので、液体の蒸発や変質、汚染の発生を抑制することができる。
【0024】
本発明に係るスポットピンにおける溝を点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成する場合には、該溝において点着面に向かうほど毛細管力が強まる形となるため、液体保持空間に保持された液体を点着面端側に引き寄せることができる。その結果、吸い上げ工程の際において、液体保持空間の点着面側でエアギャップが生じるのを抑制することができ、点着工程の際において、繰り返しの点着により液体保持空間内の液体が徐々に減少しても、液体は点着面側に存在させ続けることができるため、より確実な点着を実現できる。
【0025】
また、本構成のスポットピンでは、スポットピンの点着面を液体に浸漬させて液体保持空間に液体を吸引・保持させる場合において、液体保持空間の点着面側にエアギャップが生じることを抑制することもできる。たとえば、液体保持空間が液体により満たされている場合には、上記溝の毛細管力により液体は点着面である下方へ移動するため、吸引すべき液体にスポットピンの点着面を浸漬した状態からスポットピンを抜き取るときに、液体保持空間の内部に気体を吸引しようとする力は著しく小さくなる。したがって、液体に浸漬した状態のスポットピンを抜き取る際に、液体保持空間に気体が吸引される可能性および吸引される気体の量が著しく低減されるために、スポットピンに対する液体の吸引作業において、スポットピンの液体保持空間の点着面側にエアギャップが生じるのを抑制することができるようになる。つまり、本構成のスポットピンでは、特に液体保持空間に液体が満たされた状態(初期状態)において、スポットピンの点着面を点着対象面に接触させたときの液体の点着不良(たとえば、点着量が少な過ぎたり、点着自体ができなかったりすること)が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0026】
本発明に係るスポットピンにおける溝が複数ある場合に、この複数の溝を液体保持部の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にある構成とする、あるいは、略円状の断面形状の全周にわたって溝が連なる構成とすることにより、液体保持部における液体保持空間の規定面全体において、溝による毛細管力を平均的に発生させることができる。したがって、本構成のスポットピンは、より安定した点着とスポット形状を実現するうえで好適である。
【0027】
本発明に係るスポットピンにおける溝を、液体保持部の軸心に対して直交する断面形状がV字状となるように構成する場合は、例えば断面形状が四角形状のものに比べて、V字状の鋭角部に向けて、より強い毛細管力を作用させることができる。つまり、本構成のスポットピンでは、点着動作時に液体に作用する慣性力に対して追加される溝の毛細管力をさらに強めることができる。したがって、本構成のスポットピンは、より確実な点着を実現するうえで好適である。
【0028】
本発明に係るスポットピンの液体保持空間を、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成すれば、点着面に向かうほど毛細管力が強まる形となるため、液体保持空間に保持された液体を点着面端側に引き寄せることができる。したがって、本構成のスポットピンは、より確実な点着を実現するうえで好適である。
【0029】
本発明に係るスポットピンの液体保持部の最小肉厚を、先端に向かうほど大きくなるように形成すれば、液体の点着時に大きな負荷が作用するスポットピン(液体保持部)の点着面側の端部の機械的強度を充分に確保することができ、点着を繰り返し行ってもスポットピンの端部形状が変化し難くなる。したがって、本構成のスポットピンは、点着形状や点着直径を長期にわたり安定化させるうえで好適である。
【0030】
本発明に係るスポットピンの液体保持部の少なくとも一部を、透光性を有する構成とすれば、液体保持空間に保持される液体の高さや位置(量)を光学的に確認(たとえば視認)できるため、吸い上げ工程や点着工程での工程管理、品質管理が容易になる。そして、この透光性を有する部位をジルコニアセラミックスで形成し、かつ、その肉厚を0.03〜0.5mmの範囲に設定すれば、液体保持空間に保持された液体の高さや位置(量)を充分に視認できるのに加え、スポットピン自体の機械的強度や弾性変形性を充分に確保することができる。さらに、スポットピンの全体をジルコニアセラミックスで形成すれば、スポットピンの全体において機械的強度と弾性変形性を充分に確保することができるため、繰り返しの点着において作用する大きな負荷に対しても充分な耐久性を有することとなる。したがって、長期にわたってスポットピン自体の破損などが生じるのを抑制することができるとともに、スポットピンの端部の形状変化を抑制することができるため、長期にわたり安定した点着形状や点着直径を維持することができるようになる。
【0031】
本発明に係るスポットピンの液体保持部の点着面に液体保持空間の先端開口を囲む突起を形成すれば、スポットピンの点着面を点着対象面に対して、より確実に接触させることができるようになる。その上、液体保持空間に保持された液体は、突起を形成していない場合に比べて、より下方に位置することなるため、液体保持部の点着面を点着面に接触させたときに、液体が点着対象面に接触しやすく、また液体が点着対象面に接触した場合には、液体の表面張力によって、突起に沿って液体が浸透するようになる。そのため、スポットピン(液体保持部)の点着面を点着対象面に接触させたときに、液体と点着対象面との接触がより確実に行われるようになり、点着不良が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0032】
本発明に係るスポット装置は、先に説明したスポットピンを備えていることから、上述した本発明のスポットピンの効果を享受できる。すなわち、本発明のスポット装置は、スポットピンの接触加速度を抑制させることができ、エアギャップの発生を抑制できるとともに、点着不良が発生するのを抑制することができる。
【0033】
また、本スポット装置を、例えば試料溶液、試薬または洗浄液などを供給するため液体供給機構を備えたものとすれば、スポットピンの液体保持空間への液体の供給、保持された液体の交換、排出、スポットピンの洗浄を容易に実施できるようになる。
【0034】
本発明に係る液体の点着方法によれば、先に説明したスポットピンを用いて行なわれるために、スポットピンの接触加速度を抑制させることができ、エアギャップの発生を抑制できるとともに、点着不良が発生および点着量のバラツキを抑制できる。
【0035】
また、本点着方法におけるスポットピンの液体保持空間の残存液体を排出する工程では、本発明のスポットピンが、スポットピン内部における液体の移動が容易となるように構成されているため、スポットピンに残存する液体の排出作業が容易である。
【0036】
本発明に係る生化学解析用ユニットの製造方法によれば、本発明のスポットピンを採用しているために、基板に対する点着傷を抑制でき、基板の品質をより安定化させることができる。したがって、本製造方法により得られる生化学解析用ユニットは、固定される試薬の品質のバラツキも少なく、より測定精度の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0038】
図1に示したスポット装置1は、プローブDNAを含む試薬Q(図4参照)を基板10における目的部位に点着するためのものであり(図7(a)〜図7(c)参照)、たとえばバイオチップなどの生化学解析用ユニットを製造するのに利用されるものである。このスポット装置1は、複数のスポットピン2(図面上は6つ)、ヘッド3、液体供給機構4、Z軸駆動機構50、XY軸駆動機構51、ステージ52、制御部53、試薬保持部54、および洗浄部55を備えている。
【0039】
図2および図3に示したように、各スポットピン2は、点着すべき試薬Q(図4参照)を内部に保持させるためものであり、係止部20および液体保持部21を有している。
【0040】
係止部20は、ヘッド3にスポットピン2を支持させる際に利用される部分であり、他の部分よりも外形寸法が大きくなされている。
【0041】
液体保持部21は、毛細管力を作用させ、かつ試薬Qを吸引・保持するものであり、本実施形態においては一様な外径寸法を有するパイプ状に形成されている。この液体保持部21は、点着面22、貫通孔23および溝24を有している。本実施形態ではスポットピン2が液体保持部21をパイプ状部材で構成しているので、たとえば液体保持部21をスリット状の構成により形成する場合に比べて試薬Qが外部雰囲気に曝され難い(曝される領域が小さい)ので、試薬Qの蒸発や変質、汚染の発生を抑制することができる。
【0042】
点着面22は、基板10(図1参照)の目的部位に試薬Qを点着する際に、基板10の目的部位との間で毛細管力を作用させ、点着される試薬Qの形状およびスポット径を規定するのに寄与する部位である。本実施形態の点着面22は、円環状に形成されており、その外径D1は、たとえば0.1mm〜5mmに設定されている。もちろん、点着面22の形状は、円環状に限定されず、他の形状を採用することができる。
【0043】
図4(a)および図4(b)に示したように、点着面22には、貫通孔23の下部開口25を囲むリング状突起26が設けられている。このリング状突起26は、スポットピン2の先端および液体保持部21に保持された試薬Qを、基板10(図1および図8参照)に対して確実に接触させるようにするためのものであり、その高さが0.05〜0.5mm程度とされている。
【0044】
このようなリング状突起26を設けた場合、液体保持部21に保持された試薬Qが基板10に接触したときに、試薬Qの表面張力によって、リング状突起26に沿って試薬Qが浸透するようになる。そのため、液体保持部21の点着面22を基板10に接触させたときに、試薬Qと基板10との接触が確実に行われるようになり、点着不良が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0045】
なお、リング状突起26は、スポットピン2を形成する際に一体的に形成してもよいし、スポットピン2とは別の部材として形成した後に、点着面22に接合することにより設けてもよい。また、リング状突起26は、基板10と接触した際に適度な弾性変形を示す材料を用いて形成するのが好ましい。
【0046】
図3および図4(a)に示したように、貫通孔23は、液体保持空間27を規定するものであり、その内面に溝24が形成されている。また、貫通孔23は、その軸心に対して直交する断面形状が略円形状であり、点着面22に向かって断面積が小さくなるように形成されている。貫通孔23の最大内径(溝深さを含む径)は、毛細管作用が発現可能な範囲(たとえば0.01mm〜1mm)に設定されている。また、貫通孔23のテーパ率(=(D2−D3)/L)は、0.001〜0.5の範囲に設定することが好ましい。ここで、D2は貫通孔23の上部開口28の径、D3は貫通孔23の下部開口25の最大内径(溝深さを含む径)、Lは貫通孔23の長さである。もちろん、貫通孔23の断面形状は、円形に限らず、楕円形、半円形、三角形、四角形、多角形、星形など形状を採用することができる。
【0047】
貫通孔23を点着面22に向うほど縮径するテーパ状とした場合には、貫通孔23における下部開口25側に向かうほど毛細管力が強まる形となる。そのため、貫通孔23(液体保持空間27)に保持された試薬Qは、貫通孔23の下部開口25側に引き寄せられる。その結果、吸い上げ工程の際においては、下部開口25近傍でのエアギャップが生じるのを抑制することができ、点着工程の際においては、繰り返しの点着により液体保持空間27内の試薬Qが徐々に減少しても、試薬Qは貫通孔23の下部開口25側(先端側)に存在させ続けることができるため、より確実な点着を実現できるようになる。
【0048】
また、液体保持部21を一様な外径寸法を有するパイプ状とし、貫通孔23を点着面22に向って縮径するテーパ状とすれば、液体保持部21の肉厚は、点着面22に向かうほど大きくなる。これにより、基板10に試薬Qを点着するときに大きな負荷が作用する液体保持部21の先端部の機械的強度を充分に確保することができ、点着を繰り返し行ってもスポットピン2の先端形状が変化し難くなるため、点着形状や点着直径が長期にわたり安定化する。
【0049】
溝24は、図3によく表れているように、点着面22から該点着面22に対して交差する方向(本実施形態では直交方向)に延びるように複数形成されており、試薬Qの(スポットピン2の長手方向の)移動容易性を高めるための機能を担う部位である。この溝24は、図5に示すように、液体保持部21の軸心に対して直交する断面形状がスポットピン2の内面から外面に向けて溝幅が一様な四角形状である。また、複数の溝24は、液体保持部21の軸心に対して直交する断面において該軸心を定点として点対称の位置関係にあり、且つ、液体保持部21の全周にわたって連なって形成されている。
【0050】
溝24は、基板10に接触させるための点着面22から該点着面22に対して交差する方向に延びている。この交差する方向とは、点着面22に対して垂直方向(Z方向)の成分と、点着面に対して平行方向(X方向もしくはY方向)の成分とから構成される。スポットピン2の点着動作は、点着面22に対して垂直方向の動作となるため、点着動作時における試料Qの動きも慣性力に従って該垂直方向となる。つまり、スポットピン2の溝24の延びる方向は、試料Qの慣性力が作用する方向の成分を含んでいる。スポットピン2の溝24には、毛細管力により試料Qが入り込み、該溝24に沿って試料Qが流れるので、試料Qの慣性力が作用する方向の成分を含んでいるスポットピン2では点着動作時に試料Qに作用する慣性力に対して溝24における毛細管力を追加することができる。そのため、スポットピン2では、スポットピン2内部における試薬Qの移動を容易にさせることができるようになる。そのため、スポットピン2では、従来型スポットピン(溝24を有していないスポットピン)より基板10への接触速度を低く抑えても適切に点着を行うことができる。したがって、スポットピン2では、基板10への接触速度を下げることができるため、該基板10への傷付けを防止することができるのに加え、スポットピン2の点着面22の変形や破損を防ぐことができるため、試薬Qの点着をより安定して行うことができるのである。
【0051】
また、複数の溝24は、液体保持部21の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にあり、且つ、略円状の断面形状の全周にわたって溝24が連なるように形成されているため、貫通孔23における液体保持空間27の規定面全体において、溝24による毛細管力を平均的に発生させることができ、より安定した点着とスポット形状を実現することができる。
【0052】
このようなスポットピン2は、セラミック材料を用いて目的形状に成型した後、これを焼成することにより形成することができる。本発明で使用可能なセラミック材料としては、ジルコニアセラミックスおよびアルミナセラミックスを挙げることができるが、強度や弾性変形性の観点から、ジルコニアセラミックスを使用するのが好ましい。もちろん、スポットピン2は、セラミックス以外の材料、たとえばステンレスやガラスを用いて形成することもできる。
【0053】
また、スポットピン2は、透光性を有するものとして形成してもよい。透光性を有するスポットピン2は、たとえばジルコニアセラミック材料を用いてスポットピン2の肉厚を0.03〜0.5mmに設定することにより、あるいはガラス材料を用いることにより形成することができる。このようにしてスポットピン2に透光性を付与した場合には、液体保持空間27に保持された試薬Qの高さや位置(量)を光学的に確認できるため、吸い上げ工程や点着工程での工程管理、品質管理が可能になる。
【0054】
また、透光性を有する部位をジルコニアセラミックスで形成し、その肉厚を0.03〜0.5mmの範囲に設定すれば、液体保持空間27に保持された試薬Qの高さや位置(量)を充分に視認できるのに加え、スポットピン2自体の機械的強度と弾性変形性を充分に確保できる。さらに、スポットピン2の全体をジルコニアセラミックスで形成する場合は、スポットピン2の全体において機械的強度と弾性変形性を充分に確保することができるため、繰り返しの点着において作用する大きな負荷に対しても充分な耐久性を有することとなる。したがって、長期にわたってスポットピン2自体の破損などが生じるのを抑制することができるとともに、スポットピン2の先端部の形状変化が抑制することができるため、長期にわたり安定した点着形状や点着直径を維持することができるようになる。
【0055】
図2に示したように、ヘッド3は、複数のスポットピン2を保持するためのものであり、一対のプレート30,31の間に一対のスペーサ32,33を介在させ、一対のプレート30,31との間の距離を規定した構成を有している。プレート30にはさらに、Z軸駆動機構50にヘッド3を接続するためのブロック34が固定されている。各プレート30,31には、液体保持部21が挿通される複数の貫通孔35,36が形成されている。このようなヘッド3では、プレート30における貫通孔23の周辺部にスポットピン2の係止部20が係止され、かつ貫通孔35,36の双方に挿通された状態でスポットピン2が保持される。すなわち、各スポットピン2は、ヘッド3に対してZ方向に相対移動可能な状態で保持される。
【0056】
図1に示したZ軸駆動機構50は、ヘッド3ひいてはヘッド3に保持された複数のスポットピン2をZ方向に移動させるためものであり、ヘッド3に対してブロック34(図2参照)を介して連結されている。このZ軸駆動機構50は、公知の機構により構築することができる。
【0057】
XY軸駆動機構51は、ヘッド3ひいてはヘッド3に保持された複数のスポットピン2をXY方向に移動させるためものであり、Z軸駆動機構50に連結されている。このXY軸駆動機構51もまた、公知の機構により構築することができる。
【0058】
ステージ52は、試薬Qが点着される複数の基板10を載置するためのものであり、XY方向に移動可能に構成されている。ただし、ステージ52は、必ずしもXY方向に移動可能に構成する必要はない。
【0059】
制御部53は、Z軸駆動機構50、XY軸駆動機構51およびステージ52の駆動を制御するものである。この制御部53は、たとえばCPU、ROMおよびRAMを備えた回路を含むものとして構成されている。
【0060】
試薬保持部54は、基板10に点着すべき試薬Qを保持するためのものであり、図1および図3に示したように複数のスポットピン2の配置に対応させた複数の試薬保持部54を有している。各試薬保持部54に保持させる試薬Qは、たとえばプローブDNAおよび溶媒を含むものである。プローブDNAは、ターゲットに対して特異的結合が可能物質である。ターゲットとしては、たとえば生体由来物質であるホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、mRNAなどを生体から抽出、単離して採取し、化学的処理、化学修飾などの処理を施したものを挙げることができる。溶媒としては、プローブDNAに対して悪影響を及ぼすものでなければ特段の制限はないが、たとえば純水あるいはジメチルスルホオキサイドが使用される。
【0061】
もちろん、試薬保持部54に保持させるべき試薬Qは、目的に応じて種々に変更可能であり、たとえばDNA以外のプローブを含む試薬Qを保持させることも可能であり、またスポット装置1を試薬Q以外の液体を点着するのに使用する場合には、試薬保持部54に代えて、その目的に応じた液体を保持させた液体保持槽を有するカートリッジを使用することもできる。
【0062】
洗浄部55は、スポットピン2を洗浄するための洗浄液を保持したものである。この洗浄部55には、スポットピン2、とくに貫通孔23の内面に対する試薬Qの固着を抑制するための洗浄液が保持されている。洗浄液としては、純水、緩衝液あるいはアルコールが使用される。洗浄部55は、超音波を供給可能な構成であってもよく、超音波の供給によりスポットピン2を洗浄するようにしてもよい。洗浄後のスポットピン2を強制乾燥させるために、送風機や温風器を配置してもよい。
【0063】
次に、スポット装置1を用いた基板10に対する試薬Qの点着動作、およびスポットピン2の洗浄動作について説明する。
【0064】
試薬Qの点着動作は、スポットピン2の液体保持空間27に対する試薬Qの吸引・保持工程、および試薬Qの点着工程を含んでいる。
【0065】
図1および図6に示したように、試薬Qの吸引・保持工程は、スポットピン2の点着面22を、試薬保持部54の保持させた試薬Qに浸漬することにより行われる。
【0066】
より具体的には、まず、図1に示したXY軸駆動機構51を制御部53により制御し、各スポットピン2を対応する試薬保持部54の直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構50を制御部53により制御し、図6に示したように各スポットピン2を対応する試薬保持部54の試薬Qに一定時間浸漬させた後に引き上げる。このとき、点着面22を試薬Qに浸漬させた場合には、液体保持空間27に作用する毛細管力により、液体保持部21に試薬Qが吸引され、それが液体保持部21に保持された状態が達成される。
【0067】
上述のように、スポットピン2は、貫通孔23(液体保持空間27)が点着面22に向かうほど断面積の小さくなるテーパ状に形成されているため、目的とする量の試薬Qを液体保持空間27に対して適切に吸引することができ、また、試薬Qの吸引において、点着面22の近傍でのエアギャップや気泡発生を防止できる。
【0068】
図7(a)〜図7(c)に示したように、試薬Qの点着工程は、基板10の目的部位に対して、試薬Qを保持させたスポットピン2を接触させた後に離間させることにより行われる。
【0069】
より具体的には、まず、XY軸駆動機構51を制御部53により制御し、各スポットピン2を基板10における対応する目的部位の直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構50を制御部53により制御し、各スポットピン2を対応する目的部位に一定時間接触させた後に引き上げる。このとき、図7(a)および図7(b)に示すように、スポットピン2の点着面22を基板10の目的部位に接触させると、液体保持空間27の試薬Qの一部が基板10における目的部位に接触し、点着面22と基板10の目的部位との間に生じる僅かな隙間による毛細管作用によって、試薬Qが点着面22の外径に相当する範囲まで広がる。次いで、図7(c)に示すように、スポットピン2を上昇させてスポットピン2を基板10から離間させた場合には、基板10の目的部位に点着面22の外径と略一致する直径の領域に試薬Qが点着される。
【0070】
このような試薬Qの点着は、1回の試薬Qの吸引に対して、複数回繰り返し行われる。このとき、液体保持空間27では、上述のように点着面22に近い部位ほど毛細管力が大きく作用するために、試薬Qを点着する際には、液体保持空間27から試薬Qが徐々に減少しても、試薬Qは点着面22側に引き寄せられて存在し続けるため、確実な点着を実現できる。
【0071】
また、スポットピン2を用いる場合には、点着量のバラツキを抑制できるため、スポットピン2を用いてバイオチップなどの生化学解析用ユニットを製造する場合には、基板10に固定される試薬Qの量を安定化させることができる。そのため、スポットピン2を用いて試薬Qの点着を行なって得られる生化学解析用ユニットは、固定された試薬Qの量のバラツキが少なく、測定精度の高いものとなる。
【0072】
一方、スポットピン2の洗浄動作は、スポットピン2の液体保持空間27に対する洗浄液による洗浄工程を含んでいる。
【0073】
図1に示したように、洗浄液による洗浄工程は、スポットピン2の点着面22を、洗浄部55に保持させた洗浄液に浸漬することにより行われる。
【0074】
より具体的には、まず、図1に示したXY軸駆動機構51を制御部53により制御し、各スポットピン2を対応する洗浄部55の直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構50を制御部53により制御し、試薬Qの吸引・保持工程と同様にして、各スポットピン2を洗浄部55の洗浄液に一定時間浸漬させた(必要に応じて超音波を供給した)後に引き上げる。このとき、液体保持空間27には、洗浄液が残存しているために、図示しない送風機や温風器を用いてスポットピン2の内部および外部を乾燥させる。これにより、スポットピン2は、液体保持空間27に洗浄液が保持されていない清浄な状態に回復させられる。
【0075】
本発明は、上述した実施の形態において説明したものには限定されず、種々に変更可能である。
【0076】
溝24の断面形状は、図5に示すような四角形状には限られず、たとえば図8に示すような形状であってもよい。図8(a)に示す溝24は、断面形状がスポットピン2の内面から外面に向けて溝幅が漸次狭くなるV字状(テーパ状)であり、図8(b)に示す溝24は、断面形状がU字状であり、図8(c)に示す溝24は、断面形状が半円状である。図8(a)〜(c)に示す溝24は、スポットピン4の内面から外面に向けて溝幅が狭く(断面積が小さく)なっており、外面側の溝で毛細管力が発生する。毛細管力は、溝幅が最も狭くなる箇所で最も強くなるため、V字状の断面形状の場合、Vの角度が狭くなればなるほど、毛細管力は強くなる。U字状の断面形状では、外面側のUの部分のR寸法や溝幅の寸法により毛細管力が決定され、半円状の断面形状では、R寸法により毛細管力が決定される。V字状、U字状、半円状の中では、溝幅が漸次狭くなるV字状の毛細管力が最も強くなる。すなわち、スポットピン4内面から外面に向けて溝幅が狭くなる形状することにより、該溝における毛細管力をさらに強めることができ、より確実な点着を実現することができるのである。また、溝24の断面形状によって毛細管力をコントロールすることができることから、該断面形状によって液体保持空間27における試料Qの移動容易性をコントロールすることもできる。つまり、溝24の断面形状を変化させることにより、試薬Qの粘性の相違により変化させるスポットピン2の点着速度の変化量を低減する(あるいは、なくす)ことができるため、装置の速度調整に要する時間を低減(あるいは、なくす)ことができ、生産効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0077】
溝24は、点着面22に向かうほど断面積が小さくなるように形成してもよい。このような構成によると、点着面22に向かうほど毛細管力が強まる形となるため、液体保持空間27に保持された試料Qを点着面22側に引き寄せることができる。その結果、液体保持空間27の点着面22側でエアギャップが生じるのを抑制することができ、点着工程における繰り返しの点着により液体保持空間27内の試料Qが徐々に減少しても、試料Qは点着面22側に存在させ続けることができるため、より確実な点着を実現できる。
【0078】
また、このスポットピン2では、スポットピン2の点着面22を試料Qに浸漬させて液体保持空間27に試料Qを吸引・保持させる場合において、液体保持空間27の点着面22側にエアギャップが生じることを抑制することもできる。たとえば、液体保持空間27が試料Qにより満たされている場合には、溝24の毛細管力により試料Qは点着面22である下方へ移動するため、吸引すべき試料Qにスポットピン2の点着面22を浸漬した状態からスポットピン2を抜き取るときに、液体保持空間27の内部に気体を吸引しようとする力は著しく小さくなる。したがって、試料Qに浸漬した状態のスポットピン2を抜き取る際に、液体保持空間27に気体が吸引される可能性および吸引される気体の量が著しく低減されるために、スポットピン2に対する試料Qの吸引作業において、スポットピン2の液体保持空間27の点着面22側にエアギャップが生じるのを抑制することができるようになる。つまり、このスポットピン2では、特に液体保持空間27に試料Qが満たされた状態(初期状態)において、スポットピン2の点着面22を基板10に接触させたときの試料Qの点着不良(たとえば、点着量が少な過ぎたり、点着自体ができなかったりすること)が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0079】
溝24は、図9に示すように、点着面22に対して、垂直ではなく、所定の角度θ(例えば45°)で傾斜させてもよい。45°より大きい傾斜角度にする場合、つまり点着面22に対して更に垂直に近づける場合においては、液体はより移動し易く、45°より小さい傾斜角度にする場合、つまり点着面22に対して更に平行に近づける場合においては、液体はより移動し難くなる。このような構成によると、試料Qの移動方向(液体保持部27の軸方向)に対して平行な方向に溝24が形成されている場合に比べて、試料Qの移動方向への移動性を制限することができる。つまり、試料Qの粘性などに応じて、溝24の傾斜角度θを調整することにより、試薬Qの粘性の相違により変化させるスポットピン2の点着速度の変化量を低減する(あるいは、なくす)ことができるため、装置の速度調整に要する時間を低減(あるいは、なくす)ことができ、生産効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0080】
溝24は、点着面22(貫通孔23の下部開口25)から上部開口28にわたって延びるように構成されているが、必ずしも上部開口28まで延びている必要はない。また、溝24は、点着面22から上部開口28にわたって必ずしも連続的に繋がっている必要はなく、散発的に形成してもよい。また、溝24は、点着面22から上部開口28にわたって必ずしも同じ数量形成する必要はなく、段階的に溝24の数を減らしてもよい。また、溝24は、必ずしも内径全周にわたって溝を設ける必要はなく、散発的に設けてもよい。また、溝24は、必ずしも同一形状の溝である必要はなく、様々な形状の溝の組み合わせでもよい。また、溝24は、必ずしも直線的に延びている必要はなく、例えば螺旋状に延びていてもよい。
【0081】
[実施例]
以下においては、本発明に係るスポットピンにおける点着回数のバラツキについて検討した。
【0082】
点着回数のバラツキを検討するに当たっては、スポットピンとしては、図8(a)に示した溝を有するものを本発明に係るスポットピンとして用いた。一方、比較例として、溝を形成していない以外は本発明のスポットピンと同一構成のスポットピンを用いた。これらのスポットピンを用いて、1回の吸い上げで実施できる点着回数をカウントした。このようなカウントは、合計5回行った。点着回数の測定結果については、本発明のスポットピンについては図10(a)に、比較例については図10(b)にそれぞれ示した。これらの図に示したグラフでは、縦軸が点着回数を、横軸がサンプル番号をそれぞれ示している。
【0083】
本発明のスポットピンでは、図10(a)に示したように、1回の吸い上げで実施できる点着回数は、サンプル1が119回、サンプル2が134回、サンプル3が131回、サンプル4が123回、サンプル5が128回となり、ほぼ一定の点着回数を示している。
【0084】
一方、比較例のスポットピンでは、図10(b)に示したように、サンプル1が2回、サンプル2が144回、サンプル3が103回、サンプル4が119回、サンプル5が89回となり、点着回数が大きく変動することがわかる。特に、サンプル1は、先端側にエアギャップが生じており、そのことが点着回数が極めて少ないことの大きな要因である。
【0085】
以上の結果からわかるように、スポットピンに溝を設けることによって、液体保持部の液体を適切に保持して確実に点着できることから、1回の吸引工程で、できる点着回数を略一様とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るスポットピンおよびこれを用いたスポット装置は、点着を安定化して、点着回数の変動を抑制でき、さらには、スポットピンの点着面の変形や摩耗を抑える点で、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態を説明するためのスポット装置の全体斜視図である。
【図2】図1に示したスポット装置におけるヘッド周りの断面図である。
【図3】スポットピンの断面図である。
【図4】(a)はスポットピンの底面図であり、(b)はスポットピンの先端部分の断面図である。
【図5】図3のV−V線に沿った断面図である。
【図6】スポットピンに対する液体の供給動作を説明するための断面図である。
【図7】スポットピンを用いた点着動作を説明するための断面図である。
【図8】図3のV−V線に沿った溝の他の例を示す断面図であり、(a)はV字状、(b)はU字状、(c)は半円状である。
【図9】溝の他の例を示す要部拡大図である。
【図10】1回の吸い上げで実施できる点着回数のばらつきを示すグラフであり、(a)は本発明についての結果、(b)は比較例について結果をそれぞれ示すグラフである。
【図11】従来のスポットピンの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 スポット装置
2 スポットピン
21 液体保持部
22 点着面
23 貫通孔
24 溝
26 リング状突起
27 液体保持空間
50 Z軸駆動機構(移動機構)
53 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、点着対象面に対して液体を点着するためのスポット装置、このスポット装置に用いるスポットピン、このスポットピンを用いた液体の点着方法および生化学解析用ユニットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DNAの塩基配列の解析を行う方法として、バイオチップなどの生化学解析用ユニットを用いる方法がある(たとえば特許文献1−3参照)。バイオチップは、基板に対して塩基配列が既知のプローブDNAをスポット状に固定化したものであり、蛍光物質で標識したサンプルDNAと接触させることにより、サンプルDNAに含まれるプローブDNAの相補鎖DNAがプローブDNAと結合する。そのため、プローブDNAに結合していないDNAを洗浄により除去し、相補鎖DNAに標識させた蛍光物質を光エネルギで励起させて、その励起光を検出することにより、目的とするDNAの検出を行うことができる。
【0003】
上述のように、バイオチップにおいては、基板に対してプローブDNAが固定化されているが、その固定化に際して、基板に対してプローブDNAを含む試薬が点着される。プローブDNAの点着には、試薬を保持するための複数のスポットピンをヘッドに保持させたスポット装置が使用されている。
【0004】
図10は、一般的なスポット装置のヘッド周りの要部を示すものであり、ヘッド90には複数のスポットピン91が保持されている。各スポットピン91は、毛細管力を作用させる内部空間92を有するパイプ状に形成されたものである。このスポットピン91では、試薬にスポットピン91の先端部を浸漬することにより、内部空間92に作用する毛細管力によって内部空間92に試薬が吸引・保持される。
【特許文献1】特開2002−355036号公報
【特許文献2】特開2004−4083号公報
【特許文献3】特開2004−354123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、スポットピン91の点着面は基板に対して接触する。接触することにより、スポットピン91が保持している液体が、点着面と基板の間で生じた毛細管力によって、基板に移り点着されるのである。しかしながら、スポットピン91においては、点着時の液体の基板への移動は、基板への接触速度を上げることによって、液体の慣性力を利用し、液体の基板への接触移動を行っている。また、液体の粘性は、温度や使用する液体に依存するため、常に同条件の接触速度で液体が点着できるとは限らない。さらに、接触速度が大きい場合、接触する基板に傷をつけたり、スポットピン91そのもの点着面を変形、破損させたりする可能性がある。基板に傷をつけた場合は、評価においてのノイズ発生の要因となったり、スポットピン91の点着面を変形させた場合は、点着形状が変形したり、点着できなくなったりする。また、粘性が高い場合、接触速度を上げても、液体の慣性力よりスポットピン91内部の毛細管力が強く、液体の点着が実質的に不可能になってしまうことがある。
【0006】
さらに、スポットピン91に対する液体の吸引時においては、液体からスポットピン91を抜き取る際に、スポットピン91に作用する毛細管力によって、スポットピン91に空気が吸引され、スポットピン91の先端側にエアギャップが生ずることがある。この状態に陥ると、スポットピン91の先端を点着対象面に接触させたとしても、スポットピン91から液体が排出されず、液体の点着が実質的に不可能になってしまうことがある。
【0007】
本発明の課題は、基板への接触速度を下げ、基板への傷付けを防止できるようにするとともに、液体の点着を安定化するスポットピン、これを用いたスポット装置および液体の点着方法、ならびに生化学解析用ユニットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面により提供されるスポットピンは、液体を保持するための液体保持空間を規定する液体保持部を含んでなるスポットピンであって、前記液体保持部は、点着対象面に接触させるための点着面から該点着面に対して交差する方向に延びる溝を有していることを特徴としている。
【0009】
前記溝は、たとえば点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されているのが好ましい。
【0010】
前記溝が複数ある場合、この複数の溝は前記液体保持部の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にあるのが好ましい。
【0011】
前記溝が複数ある場合において、前記液体保持部における前記液体保持空間の規定面は、該液体保持部の軸心に対して直交する断面形状が略円状であり、その全周にわたって複数の溝が連なって形成されているのが好ましい。
【0012】
前記溝は、前記液体保持部の軸心に対して直交する断面形状をV字状とするのが好ましい。
【0013】
前記液体保持空間は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されているのが好ましい。
【0014】
前記液体保持部の最小肉厚は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど大きくなるように形成されているのが好ましい。
【0015】
前記液体保持部は、少なくとも一部が透光性を有しているのが好ましく、その透光性を有する部位はジルコニアセラミックスで形成されており、該部位の肉厚は0.03〜0.5mmであるのがより好ましい。
【0016】
本スポットピンは、その全体がジルコニアセラミックスで形成されているのが好ましい。
【0017】
本スポットピンは、点着対象面に接触させるための点着面に、前記液体保持空間の先端開口を取り囲むように突起が形成されているのが好ましい。
【0018】
本発明の第2の側面に係るスポット装置は、本発明の第1の側面に係るスポットピンと、前記スポットピンを軸方向に移動させるための移動機構と、前記移動機構の動作を制御するための制御部と、を備えていることを特徴としている。
【0019】
本スポット装置は、スポットピンの貫通孔を介して、スポットピンの液体保持空間に液体を供給するための液体供給機構をさらに備えているのが好ましい。この液体供給機構は、液体として、たとえば試料溶液、試薬または洗浄液が供給するように構成される。
【0020】
本発明の第3の側面に係る液体の点着方法は、本発明の第1の側面に係るスポットピンにおける液体保持空間に液体を保持させる工程と、前記スポットピンの点着面を点着対象面に接触させた後に、前記点着対象面から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の液体を前記点着対象面に点着する点着工程と、を含むことを特徴としている。
【0021】
本点着方法は、前記点着工程の後において、前記液体保持空間に残存する液体を排出する工程をさらに含んでいるのが好ましい。
【0022】
本発明の第4の側面に係る生化学解析用ユニットの製造方法は、基板に試薬を固定化した生化学解析用ユニットの製造方法であって、本発明の第1の側面に係るスポットピンにおける液体保持空間に試薬を保持させる工程と、前記スポットピンの点着面を前記基板の表面に接触させた後に、前記基板から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の試薬を前記基板の表面に点着する工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るスポットピンは、点着対象面に接触させるための点着面から該点着面に対して交差する方向に延びる溝を有している。この交差する方向とは、点着面に対して垂直方向の成分と、点着面に対して平行方向の成分とから構成される。スポットピンの点着動作は、点着面に対して垂直方向の動作となるため、点着動作時における液体の動きも慣性力に従って該垂直方向となる。つまり、本発明に係るスポットピンの溝の延びる方向は、液体の慣性力が作用する方向の成分を含んでいる。本発明に係るスポットピンの溝には、毛細管力により液体が入り込み、該溝に沿って液体が流れるので、液体の慣性力が作用する方向の成分を含んでいる本発明のスポットピンでは点着動作時に液体に作用する慣性力に対して溝における毛細管力を追加することができる。そのため、本発明のスポットピンでは、スポットピン内部における液体の移動を容易にさせることができるようになり、従来型スポットピン(本発明の溝を有していないスポットピン)より基板への接触速度を低く抑えても適切に点着を行うことができる。したがって、本スポットピンでは、基板への接触速度を下げることができるため、該基板への傷付けを防止することができるのに加え、スポットピンの点着面の変形や破損を防ぐことができるため、液体の点着をより安定して行うことができるのである。なお、液体保持部をパイプ状部材で構成する場合は、たとえば液体保持部をスリット状の構成により形成する場合に比べて液体が外部雰囲気に曝され難い(曝される領域が小さい)ので、液体の蒸発や変質、汚染の発生を抑制することができる。
【0024】
本発明に係るスポットピンにおける溝を点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成する場合には、該溝において点着面に向かうほど毛細管力が強まる形となるため、液体保持空間に保持された液体を点着面端側に引き寄せることができる。その結果、吸い上げ工程の際において、液体保持空間の点着面側でエアギャップが生じるのを抑制することができ、点着工程の際において、繰り返しの点着により液体保持空間内の液体が徐々に減少しても、液体は点着面側に存在させ続けることができるため、より確実な点着を実現できる。
【0025】
また、本構成のスポットピンでは、スポットピンの点着面を液体に浸漬させて液体保持空間に液体を吸引・保持させる場合において、液体保持空間の点着面側にエアギャップが生じることを抑制することもできる。たとえば、液体保持空間が液体により満たされている場合には、上記溝の毛細管力により液体は点着面である下方へ移動するため、吸引すべき液体にスポットピンの点着面を浸漬した状態からスポットピンを抜き取るときに、液体保持空間の内部に気体を吸引しようとする力は著しく小さくなる。したがって、液体に浸漬した状態のスポットピンを抜き取る際に、液体保持空間に気体が吸引される可能性および吸引される気体の量が著しく低減されるために、スポットピンに対する液体の吸引作業において、スポットピンの液体保持空間の点着面側にエアギャップが生じるのを抑制することができるようになる。つまり、本構成のスポットピンでは、特に液体保持空間に液体が満たされた状態(初期状態)において、スポットピンの点着面を点着対象面に接触させたときの液体の点着不良(たとえば、点着量が少な過ぎたり、点着自体ができなかったりすること)が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0026】
本発明に係るスポットピンにおける溝が複数ある場合に、この複数の溝を液体保持部の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にある構成とする、あるいは、略円状の断面形状の全周にわたって溝が連なる構成とすることにより、液体保持部における液体保持空間の規定面全体において、溝による毛細管力を平均的に発生させることができる。したがって、本構成のスポットピンは、より安定した点着とスポット形状を実現するうえで好適である。
【0027】
本発明に係るスポットピンにおける溝を、液体保持部の軸心に対して直交する断面形状がV字状となるように構成する場合は、例えば断面形状が四角形状のものに比べて、V字状の鋭角部に向けて、より強い毛細管力を作用させることができる。つまり、本構成のスポットピンでは、点着動作時に液体に作用する慣性力に対して追加される溝の毛細管力をさらに強めることができる。したがって、本構成のスポットピンは、より確実な点着を実現するうえで好適である。
【0028】
本発明に係るスポットピンの液体保持空間を、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成すれば、点着面に向かうほど毛細管力が強まる形となるため、液体保持空間に保持された液体を点着面端側に引き寄せることができる。したがって、本構成のスポットピンは、より確実な点着を実現するうえで好適である。
【0029】
本発明に係るスポットピンの液体保持部の最小肉厚を、先端に向かうほど大きくなるように形成すれば、液体の点着時に大きな負荷が作用するスポットピン(液体保持部)の点着面側の端部の機械的強度を充分に確保することができ、点着を繰り返し行ってもスポットピンの端部形状が変化し難くなる。したがって、本構成のスポットピンは、点着形状や点着直径を長期にわたり安定化させるうえで好適である。
【0030】
本発明に係るスポットピンの液体保持部の少なくとも一部を、透光性を有する構成とすれば、液体保持空間に保持される液体の高さや位置(量)を光学的に確認(たとえば視認)できるため、吸い上げ工程や点着工程での工程管理、品質管理が容易になる。そして、この透光性を有する部位をジルコニアセラミックスで形成し、かつ、その肉厚を0.03〜0.5mmの範囲に設定すれば、液体保持空間に保持された液体の高さや位置(量)を充分に視認できるのに加え、スポットピン自体の機械的強度や弾性変形性を充分に確保することができる。さらに、スポットピンの全体をジルコニアセラミックスで形成すれば、スポットピンの全体において機械的強度と弾性変形性を充分に確保することができるため、繰り返しの点着において作用する大きな負荷に対しても充分な耐久性を有することとなる。したがって、長期にわたってスポットピン自体の破損などが生じるのを抑制することができるとともに、スポットピンの端部の形状変化を抑制することができるため、長期にわたり安定した点着形状や点着直径を維持することができるようになる。
【0031】
本発明に係るスポットピンの液体保持部の点着面に液体保持空間の先端開口を囲む突起を形成すれば、スポットピンの点着面を点着対象面に対して、より確実に接触させることができるようになる。その上、液体保持空間に保持された液体は、突起を形成していない場合に比べて、より下方に位置することなるため、液体保持部の点着面を点着面に接触させたときに、液体が点着対象面に接触しやすく、また液体が点着対象面に接触した場合には、液体の表面張力によって、突起に沿って液体が浸透するようになる。そのため、スポットピン(液体保持部)の点着面を点着対象面に接触させたときに、液体と点着対象面との接触がより確実に行われるようになり、点着不良が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0032】
本発明に係るスポット装置は、先に説明したスポットピンを備えていることから、上述した本発明のスポットピンの効果を享受できる。すなわち、本発明のスポット装置は、スポットピンの接触加速度を抑制させることができ、エアギャップの発生を抑制できるとともに、点着不良が発生するのを抑制することができる。
【0033】
また、本スポット装置を、例えば試料溶液、試薬または洗浄液などを供給するため液体供給機構を備えたものとすれば、スポットピンの液体保持空間への液体の供給、保持された液体の交換、排出、スポットピンの洗浄を容易に実施できるようになる。
【0034】
本発明に係る液体の点着方法によれば、先に説明したスポットピンを用いて行なわれるために、スポットピンの接触加速度を抑制させることができ、エアギャップの発生を抑制できるとともに、点着不良が発生および点着量のバラツキを抑制できる。
【0035】
また、本点着方法におけるスポットピンの液体保持空間の残存液体を排出する工程では、本発明のスポットピンが、スポットピン内部における液体の移動が容易となるように構成されているため、スポットピンに残存する液体の排出作業が容易である。
【0036】
本発明に係る生化学解析用ユニットの製造方法によれば、本発明のスポットピンを採用しているために、基板に対する点着傷を抑制でき、基板の品質をより安定化させることができる。したがって、本製造方法により得られる生化学解析用ユニットは、固定される試薬の品質のバラツキも少なく、より測定精度の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0038】
図1に示したスポット装置1は、プローブDNAを含む試薬Q(図4参照)を基板10における目的部位に点着するためのものであり(図7(a)〜図7(c)参照)、たとえばバイオチップなどの生化学解析用ユニットを製造するのに利用されるものである。このスポット装置1は、複数のスポットピン2(図面上は6つ)、ヘッド3、液体供給機構4、Z軸駆動機構50、XY軸駆動機構51、ステージ52、制御部53、試薬保持部54、および洗浄部55を備えている。
【0039】
図2および図3に示したように、各スポットピン2は、点着すべき試薬Q(図4参照)を内部に保持させるためものであり、係止部20および液体保持部21を有している。
【0040】
係止部20は、ヘッド3にスポットピン2を支持させる際に利用される部分であり、他の部分よりも外形寸法が大きくなされている。
【0041】
液体保持部21は、毛細管力を作用させ、かつ試薬Qを吸引・保持するものであり、本実施形態においては一様な外径寸法を有するパイプ状に形成されている。この液体保持部21は、点着面22、貫通孔23および溝24を有している。本実施形態ではスポットピン2が液体保持部21をパイプ状部材で構成しているので、たとえば液体保持部21をスリット状の構成により形成する場合に比べて試薬Qが外部雰囲気に曝され難い(曝される領域が小さい)ので、試薬Qの蒸発や変質、汚染の発生を抑制することができる。
【0042】
点着面22は、基板10(図1参照)の目的部位に試薬Qを点着する際に、基板10の目的部位との間で毛細管力を作用させ、点着される試薬Qの形状およびスポット径を規定するのに寄与する部位である。本実施形態の点着面22は、円環状に形成されており、その外径D1は、たとえば0.1mm〜5mmに設定されている。もちろん、点着面22の形状は、円環状に限定されず、他の形状を採用することができる。
【0043】
図4(a)および図4(b)に示したように、点着面22には、貫通孔23の下部開口25を囲むリング状突起26が設けられている。このリング状突起26は、スポットピン2の先端および液体保持部21に保持された試薬Qを、基板10(図1および図8参照)に対して確実に接触させるようにするためのものであり、その高さが0.05〜0.5mm程度とされている。
【0044】
このようなリング状突起26を設けた場合、液体保持部21に保持された試薬Qが基板10に接触したときに、試薬Qの表面張力によって、リング状突起26に沿って試薬Qが浸透するようになる。そのため、液体保持部21の点着面22を基板10に接触させたときに、試薬Qと基板10との接触が確実に行われるようになり、点着不良が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0045】
なお、リング状突起26は、スポットピン2を形成する際に一体的に形成してもよいし、スポットピン2とは別の部材として形成した後に、点着面22に接合することにより設けてもよい。また、リング状突起26は、基板10と接触した際に適度な弾性変形を示す材料を用いて形成するのが好ましい。
【0046】
図3および図4(a)に示したように、貫通孔23は、液体保持空間27を規定するものであり、その内面に溝24が形成されている。また、貫通孔23は、その軸心に対して直交する断面形状が略円形状であり、点着面22に向かって断面積が小さくなるように形成されている。貫通孔23の最大内径(溝深さを含む径)は、毛細管作用が発現可能な範囲(たとえば0.01mm〜1mm)に設定されている。また、貫通孔23のテーパ率(=(D2−D3)/L)は、0.001〜0.5の範囲に設定することが好ましい。ここで、D2は貫通孔23の上部開口28の径、D3は貫通孔23の下部開口25の最大内径(溝深さを含む径)、Lは貫通孔23の長さである。もちろん、貫通孔23の断面形状は、円形に限らず、楕円形、半円形、三角形、四角形、多角形、星形など形状を採用することができる。
【0047】
貫通孔23を点着面22に向うほど縮径するテーパ状とした場合には、貫通孔23における下部開口25側に向かうほど毛細管力が強まる形となる。そのため、貫通孔23(液体保持空間27)に保持された試薬Qは、貫通孔23の下部開口25側に引き寄せられる。その結果、吸い上げ工程の際においては、下部開口25近傍でのエアギャップが生じるのを抑制することができ、点着工程の際においては、繰り返しの点着により液体保持空間27内の試薬Qが徐々に減少しても、試薬Qは貫通孔23の下部開口25側(先端側)に存在させ続けることができるため、より確実な点着を実現できるようになる。
【0048】
また、液体保持部21を一様な外径寸法を有するパイプ状とし、貫通孔23を点着面22に向って縮径するテーパ状とすれば、液体保持部21の肉厚は、点着面22に向かうほど大きくなる。これにより、基板10に試薬Qを点着するときに大きな負荷が作用する液体保持部21の先端部の機械的強度を充分に確保することができ、点着を繰り返し行ってもスポットピン2の先端形状が変化し難くなるため、点着形状や点着直径が長期にわたり安定化する。
【0049】
溝24は、図3によく表れているように、点着面22から該点着面22に対して交差する方向(本実施形態では直交方向)に延びるように複数形成されており、試薬Qの(スポットピン2の長手方向の)移動容易性を高めるための機能を担う部位である。この溝24は、図5に示すように、液体保持部21の軸心に対して直交する断面形状がスポットピン2の内面から外面に向けて溝幅が一様な四角形状である。また、複数の溝24は、液体保持部21の軸心に対して直交する断面において該軸心を定点として点対称の位置関係にあり、且つ、液体保持部21の全周にわたって連なって形成されている。
【0050】
溝24は、基板10に接触させるための点着面22から該点着面22に対して交差する方向に延びている。この交差する方向とは、点着面22に対して垂直方向(Z方向)の成分と、点着面に対して平行方向(X方向もしくはY方向)の成分とから構成される。スポットピン2の点着動作は、点着面22に対して垂直方向の動作となるため、点着動作時における試料Qの動きも慣性力に従って該垂直方向となる。つまり、スポットピン2の溝24の延びる方向は、試料Qの慣性力が作用する方向の成分を含んでいる。スポットピン2の溝24には、毛細管力により試料Qが入り込み、該溝24に沿って試料Qが流れるので、試料Qの慣性力が作用する方向の成分を含んでいるスポットピン2では点着動作時に試料Qに作用する慣性力に対して溝24における毛細管力を追加することができる。そのため、スポットピン2では、スポットピン2内部における試薬Qの移動を容易にさせることができるようになる。そのため、スポットピン2では、従来型スポットピン(溝24を有していないスポットピン)より基板10への接触速度を低く抑えても適切に点着を行うことができる。したがって、スポットピン2では、基板10への接触速度を下げることができるため、該基板10への傷付けを防止することができるのに加え、スポットピン2の点着面22の変形や破損を防ぐことができるため、試薬Qの点着をより安定して行うことができるのである。
【0051】
また、複数の溝24は、液体保持部21の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にあり、且つ、略円状の断面形状の全周にわたって溝24が連なるように形成されているため、貫通孔23における液体保持空間27の規定面全体において、溝24による毛細管力を平均的に発生させることができ、より安定した点着とスポット形状を実現することができる。
【0052】
このようなスポットピン2は、セラミック材料を用いて目的形状に成型した後、これを焼成することにより形成することができる。本発明で使用可能なセラミック材料としては、ジルコニアセラミックスおよびアルミナセラミックスを挙げることができるが、強度や弾性変形性の観点から、ジルコニアセラミックスを使用するのが好ましい。もちろん、スポットピン2は、セラミックス以外の材料、たとえばステンレスやガラスを用いて形成することもできる。
【0053】
また、スポットピン2は、透光性を有するものとして形成してもよい。透光性を有するスポットピン2は、たとえばジルコニアセラミック材料を用いてスポットピン2の肉厚を0.03〜0.5mmに設定することにより、あるいはガラス材料を用いることにより形成することができる。このようにしてスポットピン2に透光性を付与した場合には、液体保持空間27に保持された試薬Qの高さや位置(量)を光学的に確認できるため、吸い上げ工程や点着工程での工程管理、品質管理が可能になる。
【0054】
また、透光性を有する部位をジルコニアセラミックスで形成し、その肉厚を0.03〜0.5mmの範囲に設定すれば、液体保持空間27に保持された試薬Qの高さや位置(量)を充分に視認できるのに加え、スポットピン2自体の機械的強度と弾性変形性を充分に確保できる。さらに、スポットピン2の全体をジルコニアセラミックスで形成する場合は、スポットピン2の全体において機械的強度と弾性変形性を充分に確保することができるため、繰り返しの点着において作用する大きな負荷に対しても充分な耐久性を有することとなる。したがって、長期にわたってスポットピン2自体の破損などが生じるのを抑制することができるとともに、スポットピン2の先端部の形状変化が抑制することができるため、長期にわたり安定した点着形状や点着直径を維持することができるようになる。
【0055】
図2に示したように、ヘッド3は、複数のスポットピン2を保持するためのものであり、一対のプレート30,31の間に一対のスペーサ32,33を介在させ、一対のプレート30,31との間の距離を規定した構成を有している。プレート30にはさらに、Z軸駆動機構50にヘッド3を接続するためのブロック34が固定されている。各プレート30,31には、液体保持部21が挿通される複数の貫通孔35,36が形成されている。このようなヘッド3では、プレート30における貫通孔23の周辺部にスポットピン2の係止部20が係止され、かつ貫通孔35,36の双方に挿通された状態でスポットピン2が保持される。すなわち、各スポットピン2は、ヘッド3に対してZ方向に相対移動可能な状態で保持される。
【0056】
図1に示したZ軸駆動機構50は、ヘッド3ひいてはヘッド3に保持された複数のスポットピン2をZ方向に移動させるためものであり、ヘッド3に対してブロック34(図2参照)を介して連結されている。このZ軸駆動機構50は、公知の機構により構築することができる。
【0057】
XY軸駆動機構51は、ヘッド3ひいてはヘッド3に保持された複数のスポットピン2をXY方向に移動させるためものであり、Z軸駆動機構50に連結されている。このXY軸駆動機構51もまた、公知の機構により構築することができる。
【0058】
ステージ52は、試薬Qが点着される複数の基板10を載置するためのものであり、XY方向に移動可能に構成されている。ただし、ステージ52は、必ずしもXY方向に移動可能に構成する必要はない。
【0059】
制御部53は、Z軸駆動機構50、XY軸駆動機構51およびステージ52の駆動を制御するものである。この制御部53は、たとえばCPU、ROMおよびRAMを備えた回路を含むものとして構成されている。
【0060】
試薬保持部54は、基板10に点着すべき試薬Qを保持するためのものであり、図1および図3に示したように複数のスポットピン2の配置に対応させた複数の試薬保持部54を有している。各試薬保持部54に保持させる試薬Qは、たとえばプローブDNAおよび溶媒を含むものである。プローブDNAは、ターゲットに対して特異的結合が可能物質である。ターゲットとしては、たとえば生体由来物質であるホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、mRNAなどを生体から抽出、単離して採取し、化学的処理、化学修飾などの処理を施したものを挙げることができる。溶媒としては、プローブDNAに対して悪影響を及ぼすものでなければ特段の制限はないが、たとえば純水あるいはジメチルスルホオキサイドが使用される。
【0061】
もちろん、試薬保持部54に保持させるべき試薬Qは、目的に応じて種々に変更可能であり、たとえばDNA以外のプローブを含む試薬Qを保持させることも可能であり、またスポット装置1を試薬Q以外の液体を点着するのに使用する場合には、試薬保持部54に代えて、その目的に応じた液体を保持させた液体保持槽を有するカートリッジを使用することもできる。
【0062】
洗浄部55は、スポットピン2を洗浄するための洗浄液を保持したものである。この洗浄部55には、スポットピン2、とくに貫通孔23の内面に対する試薬Qの固着を抑制するための洗浄液が保持されている。洗浄液としては、純水、緩衝液あるいはアルコールが使用される。洗浄部55は、超音波を供給可能な構成であってもよく、超音波の供給によりスポットピン2を洗浄するようにしてもよい。洗浄後のスポットピン2を強制乾燥させるために、送風機や温風器を配置してもよい。
【0063】
次に、スポット装置1を用いた基板10に対する試薬Qの点着動作、およびスポットピン2の洗浄動作について説明する。
【0064】
試薬Qの点着動作は、スポットピン2の液体保持空間27に対する試薬Qの吸引・保持工程、および試薬Qの点着工程を含んでいる。
【0065】
図1および図6に示したように、試薬Qの吸引・保持工程は、スポットピン2の点着面22を、試薬保持部54の保持させた試薬Qに浸漬することにより行われる。
【0066】
より具体的には、まず、図1に示したXY軸駆動機構51を制御部53により制御し、各スポットピン2を対応する試薬保持部54の直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構50を制御部53により制御し、図6に示したように各スポットピン2を対応する試薬保持部54の試薬Qに一定時間浸漬させた後に引き上げる。このとき、点着面22を試薬Qに浸漬させた場合には、液体保持空間27に作用する毛細管力により、液体保持部21に試薬Qが吸引され、それが液体保持部21に保持された状態が達成される。
【0067】
上述のように、スポットピン2は、貫通孔23(液体保持空間27)が点着面22に向かうほど断面積の小さくなるテーパ状に形成されているため、目的とする量の試薬Qを液体保持空間27に対して適切に吸引することができ、また、試薬Qの吸引において、点着面22の近傍でのエアギャップや気泡発生を防止できる。
【0068】
図7(a)〜図7(c)に示したように、試薬Qの点着工程は、基板10の目的部位に対して、試薬Qを保持させたスポットピン2を接触させた後に離間させることにより行われる。
【0069】
より具体的には、まず、XY軸駆動機構51を制御部53により制御し、各スポットピン2を基板10における対応する目的部位の直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構50を制御部53により制御し、各スポットピン2を対応する目的部位に一定時間接触させた後に引き上げる。このとき、図7(a)および図7(b)に示すように、スポットピン2の点着面22を基板10の目的部位に接触させると、液体保持空間27の試薬Qの一部が基板10における目的部位に接触し、点着面22と基板10の目的部位との間に生じる僅かな隙間による毛細管作用によって、試薬Qが点着面22の外径に相当する範囲まで広がる。次いで、図7(c)に示すように、スポットピン2を上昇させてスポットピン2を基板10から離間させた場合には、基板10の目的部位に点着面22の外径と略一致する直径の領域に試薬Qが点着される。
【0070】
このような試薬Qの点着は、1回の試薬Qの吸引に対して、複数回繰り返し行われる。このとき、液体保持空間27では、上述のように点着面22に近い部位ほど毛細管力が大きく作用するために、試薬Qを点着する際には、液体保持空間27から試薬Qが徐々に減少しても、試薬Qは点着面22側に引き寄せられて存在し続けるため、確実な点着を実現できる。
【0071】
また、スポットピン2を用いる場合には、点着量のバラツキを抑制できるため、スポットピン2を用いてバイオチップなどの生化学解析用ユニットを製造する場合には、基板10に固定される試薬Qの量を安定化させることができる。そのため、スポットピン2を用いて試薬Qの点着を行なって得られる生化学解析用ユニットは、固定された試薬Qの量のバラツキが少なく、測定精度の高いものとなる。
【0072】
一方、スポットピン2の洗浄動作は、スポットピン2の液体保持空間27に対する洗浄液による洗浄工程を含んでいる。
【0073】
図1に示したように、洗浄液による洗浄工程は、スポットピン2の点着面22を、洗浄部55に保持させた洗浄液に浸漬することにより行われる。
【0074】
より具体的には、まず、図1に示したXY軸駆動機構51を制御部53により制御し、各スポットピン2を対応する洗浄部55の直上に位置させる。次いで、Z軸駆動機構50を制御部53により制御し、試薬Qの吸引・保持工程と同様にして、各スポットピン2を洗浄部55の洗浄液に一定時間浸漬させた(必要に応じて超音波を供給した)後に引き上げる。このとき、液体保持空間27には、洗浄液が残存しているために、図示しない送風機や温風器を用いてスポットピン2の内部および外部を乾燥させる。これにより、スポットピン2は、液体保持空間27に洗浄液が保持されていない清浄な状態に回復させられる。
【0075】
本発明は、上述した実施の形態において説明したものには限定されず、種々に変更可能である。
【0076】
溝24の断面形状は、図5に示すような四角形状には限られず、たとえば図8に示すような形状であってもよい。図8(a)に示す溝24は、断面形状がスポットピン2の内面から外面に向けて溝幅が漸次狭くなるV字状(テーパ状)であり、図8(b)に示す溝24は、断面形状がU字状であり、図8(c)に示す溝24は、断面形状が半円状である。図8(a)〜(c)に示す溝24は、スポットピン4の内面から外面に向けて溝幅が狭く(断面積が小さく)なっており、外面側の溝で毛細管力が発生する。毛細管力は、溝幅が最も狭くなる箇所で最も強くなるため、V字状の断面形状の場合、Vの角度が狭くなればなるほど、毛細管力は強くなる。U字状の断面形状では、外面側のUの部分のR寸法や溝幅の寸法により毛細管力が決定され、半円状の断面形状では、R寸法により毛細管力が決定される。V字状、U字状、半円状の中では、溝幅が漸次狭くなるV字状の毛細管力が最も強くなる。すなわち、スポットピン4内面から外面に向けて溝幅が狭くなる形状することにより、該溝における毛細管力をさらに強めることができ、より確実な点着を実現することができるのである。また、溝24の断面形状によって毛細管力をコントロールすることができることから、該断面形状によって液体保持空間27における試料Qの移動容易性をコントロールすることもできる。つまり、溝24の断面形状を変化させることにより、試薬Qの粘性の相違により変化させるスポットピン2の点着速度の変化量を低減する(あるいは、なくす)ことができるため、装置の速度調整に要する時間を低減(あるいは、なくす)ことができ、生産効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0077】
溝24は、点着面22に向かうほど断面積が小さくなるように形成してもよい。このような構成によると、点着面22に向かうほど毛細管力が強まる形となるため、液体保持空間27に保持された試料Qを点着面22側に引き寄せることができる。その結果、液体保持空間27の点着面22側でエアギャップが生じるのを抑制することができ、点着工程における繰り返しの点着により液体保持空間27内の試料Qが徐々に減少しても、試料Qは点着面22側に存在させ続けることができるため、より確実な点着を実現できる。
【0078】
また、このスポットピン2では、スポットピン2の点着面22を試料Qに浸漬させて液体保持空間27に試料Qを吸引・保持させる場合において、液体保持空間27の点着面22側にエアギャップが生じることを抑制することもできる。たとえば、液体保持空間27が試料Qにより満たされている場合には、溝24の毛細管力により試料Qは点着面22である下方へ移動するため、吸引すべき試料Qにスポットピン2の点着面22を浸漬した状態からスポットピン2を抜き取るときに、液体保持空間27の内部に気体を吸引しようとする力は著しく小さくなる。したがって、試料Qに浸漬した状態のスポットピン2を抜き取る際に、液体保持空間27に気体が吸引される可能性および吸引される気体の量が著しく低減されるために、スポットピン2に対する試料Qの吸引作業において、スポットピン2の液体保持空間27の点着面22側にエアギャップが生じるのを抑制することができるようになる。つまり、このスポットピン2では、特に液体保持空間27に試料Qが満たされた状態(初期状態)において、スポットピン2の点着面22を基板10に接触させたときの試料Qの点着不良(たとえば、点着量が少な過ぎたり、点着自体ができなかったりすること)が生じるのをより確実に抑制することができる。
【0079】
溝24は、図9に示すように、点着面22に対して、垂直ではなく、所定の角度θ(例えば45°)で傾斜させてもよい。45°より大きい傾斜角度にする場合、つまり点着面22に対して更に垂直に近づける場合においては、液体はより移動し易く、45°より小さい傾斜角度にする場合、つまり点着面22に対して更に平行に近づける場合においては、液体はより移動し難くなる。このような構成によると、試料Qの移動方向(液体保持部27の軸方向)に対して平行な方向に溝24が形成されている場合に比べて、試料Qの移動方向への移動性を制限することができる。つまり、試料Qの粘性などに応じて、溝24の傾斜角度θを調整することにより、試薬Qの粘性の相違により変化させるスポットピン2の点着速度の変化量を低減する(あるいは、なくす)ことができるため、装置の速度調整に要する時間を低減(あるいは、なくす)ことができ、生産効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0080】
溝24は、点着面22(貫通孔23の下部開口25)から上部開口28にわたって延びるように構成されているが、必ずしも上部開口28まで延びている必要はない。また、溝24は、点着面22から上部開口28にわたって必ずしも連続的に繋がっている必要はなく、散発的に形成してもよい。また、溝24は、点着面22から上部開口28にわたって必ずしも同じ数量形成する必要はなく、段階的に溝24の数を減らしてもよい。また、溝24は、必ずしも内径全周にわたって溝を設ける必要はなく、散発的に設けてもよい。また、溝24は、必ずしも同一形状の溝である必要はなく、様々な形状の溝の組み合わせでもよい。また、溝24は、必ずしも直線的に延びている必要はなく、例えば螺旋状に延びていてもよい。
【0081】
[実施例]
以下においては、本発明に係るスポットピンにおける点着回数のバラツキについて検討した。
【0082】
点着回数のバラツキを検討するに当たっては、スポットピンとしては、図8(a)に示した溝を有するものを本発明に係るスポットピンとして用いた。一方、比較例として、溝を形成していない以外は本発明のスポットピンと同一構成のスポットピンを用いた。これらのスポットピンを用いて、1回の吸い上げで実施できる点着回数をカウントした。このようなカウントは、合計5回行った。点着回数の測定結果については、本発明のスポットピンについては図10(a)に、比較例については図10(b)にそれぞれ示した。これらの図に示したグラフでは、縦軸が点着回数を、横軸がサンプル番号をそれぞれ示している。
【0083】
本発明のスポットピンでは、図10(a)に示したように、1回の吸い上げで実施できる点着回数は、サンプル1が119回、サンプル2が134回、サンプル3が131回、サンプル4が123回、サンプル5が128回となり、ほぼ一定の点着回数を示している。
【0084】
一方、比較例のスポットピンでは、図10(b)に示したように、サンプル1が2回、サンプル2が144回、サンプル3が103回、サンプル4が119回、サンプル5が89回となり、点着回数が大きく変動することがわかる。特に、サンプル1は、先端側にエアギャップが生じており、そのことが点着回数が極めて少ないことの大きな要因である。
【0085】
以上の結果からわかるように、スポットピンに溝を設けることによって、液体保持部の液体を適切に保持して確実に点着できることから、1回の吸引工程で、できる点着回数を略一様とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係るスポットピンおよびこれを用いたスポット装置は、点着を安定化して、点着回数の変動を抑制でき、さらには、スポットピンの点着面の変形や摩耗を抑える点で、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態を説明するためのスポット装置の全体斜視図である。
【図2】図1に示したスポット装置におけるヘッド周りの断面図である。
【図3】スポットピンの断面図である。
【図4】(a)はスポットピンの底面図であり、(b)はスポットピンの先端部分の断面図である。
【図5】図3のV−V線に沿った断面図である。
【図6】スポットピンに対する液体の供給動作を説明するための断面図である。
【図7】スポットピンを用いた点着動作を説明するための断面図である。
【図8】図3のV−V線に沿った溝の他の例を示す断面図であり、(a)はV字状、(b)はU字状、(c)は半円状である。
【図9】溝の他の例を示す要部拡大図である。
【図10】1回の吸い上げで実施できる点着回数のばらつきを示すグラフであり、(a)は本発明についての結果、(b)は比較例について結果をそれぞれ示すグラフである。
【図11】従来のスポットピンの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 スポット装置
2 スポットピン
21 液体保持部
22 点着面
23 貫通孔
24 溝
26 リング状突起
27 液体保持空間
50 Z軸駆動機構(移動機構)
53 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持するための液体保持空間を規定する液体保持部を含んでなるスポットピンであって、
前記液体保持部は、点着対象面に接触させるための点着面から該点着面に対して交差する方向に延びる溝を有していることを特徴とする、スポットピン。
【請求項2】
前記溝は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されている、請求項1に記載のスポットピン。
【請求項3】
前記溝が複数ある場合、この複数の溝は前記液体保持部の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にある、請求項1または2に記載のスポットピン。
【請求項4】
前記溝が複数ある場合において、前記液体保持部における前記液体保持空間の規定面は、該液体保持部の軸心に対して直交する断面形状が略円状であり、その全周にわたって複数の溝が連なって形成されている、請求項1から3のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項5】
前記溝は、前記液体保持部の軸心に対して直交する断面形状がV字状である、請求項1から4のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項6】
前記液体保持空間は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されている、請求項1から5のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項7】
前記液体保持部の最小肉厚は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど大きくなるように形成されている、請求項1から6のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項8】
前記液体保持部は、少なくとも一部が透光性を有している、請求項1から7のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項9】
前記液体保持部の透光性を有する部位はジルコニアセラミックスで形成されており、該部位の肉厚は0.03〜0.5mmである、請求項8に記載のスポットピン。
【請求項10】
全体がジルコニアセラミックスで形成されている、請求項1から9のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項11】
点着対象面に接触させるための点着面には、前記液体保持空間の先端開口を取り囲むように突起が形成されている、請求項1から10のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一つに記載のスポットピンと、
前記スポットピンを軸方向に移動させるための移動機構と、
前記移動機構の動作を制御するための制御部と、
を備えていることを特徴とする、スポット装置。
【請求項13】
前記液体保持空間に液体を供給するための液体供給機構をさらに備えている、請求項12に記載のスポット装置。
【請求項14】
前記液体は、試料溶液、試薬または洗浄液である、請求項13に記載のスポット装置。
【請求項15】
請求項1ないし11のいずれか一つに記載のスポットピンにおける液体保持空間に液体を保持させる工程と、
前記スポットピンの点着面を点着対象面に接触させた後に、前記点着対象面から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の液体を前記点着対象面に点着する点着工程と、
を含むことを特徴とする、液体の点着方法。
【請求項16】
前記点着工程の後において、前記液体保持空間に残存する液体を排出する工程をさらに含んでいる、請求項15に記載の液体の点着方法。
【請求項17】
基板に試薬を固定化した生化学解析用ユニットの製造方法であって、
請求項1ないし11のいずれか一つに記載のスポットピンにおける液体保持空間に試薬を保持させる工程と、
前記スポットピンの点着面を前記基板の表面に接触させた後に、前記基板から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の試薬を前記基板の表面に点着する工程と、
を含むことを特徴とする、生化学解析用ユニットの製造方法。
【請求項1】
液体を保持するための液体保持空間を規定する液体保持部を含んでなるスポットピンであって、
前記液体保持部は、点着対象面に接触させるための点着面から該点着面に対して交差する方向に延びる溝を有していることを特徴とする、スポットピン。
【請求項2】
前記溝は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されている、請求項1に記載のスポットピン。
【請求項3】
前記溝が複数ある場合、この複数の溝は前記液体保持部の軸心に対して直交する断面において、該軸心を定点として点対称の位置関係にある、請求項1または2に記載のスポットピン。
【請求項4】
前記溝が複数ある場合において、前記液体保持部における前記液体保持空間の規定面は、該液体保持部の軸心に対して直交する断面形状が略円状であり、その全周にわたって複数の溝が連なって形成されている、請求項1から3のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項5】
前記溝は、前記液体保持部の軸心に対して直交する断面形状がV字状である、請求項1から4のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項6】
前記液体保持空間は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど断面積が小さくなるように形成されている、請求項1から5のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項7】
前記液体保持部の最小肉厚は、点着対象面に接触させるための点着面に向かうほど大きくなるように形成されている、請求項1から6のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項8】
前記液体保持部は、少なくとも一部が透光性を有している、請求項1から7のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項9】
前記液体保持部の透光性を有する部位はジルコニアセラミックスで形成されており、該部位の肉厚は0.03〜0.5mmである、請求項8に記載のスポットピン。
【請求項10】
全体がジルコニアセラミックスで形成されている、請求項1から9のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項11】
点着対象面に接触させるための点着面には、前記液体保持空間の先端開口を取り囲むように突起が形成されている、請求項1から10のいずれか一つに記載のスポットピン。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一つに記載のスポットピンと、
前記スポットピンを軸方向に移動させるための移動機構と、
前記移動機構の動作を制御するための制御部と、
を備えていることを特徴とする、スポット装置。
【請求項13】
前記液体保持空間に液体を供給するための液体供給機構をさらに備えている、請求項12に記載のスポット装置。
【請求項14】
前記液体は、試料溶液、試薬または洗浄液である、請求項13に記載のスポット装置。
【請求項15】
請求項1ないし11のいずれか一つに記載のスポットピンにおける液体保持空間に液体を保持させる工程と、
前記スポットピンの点着面を点着対象面に接触させた後に、前記点着対象面から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の液体を前記点着対象面に点着する点着工程と、
を含むことを特徴とする、液体の点着方法。
【請求項16】
前記点着工程の後において、前記液体保持空間に残存する液体を排出する工程をさらに含んでいる、請求項15に記載の液体の点着方法。
【請求項17】
基板に試薬を固定化した生化学解析用ユニットの製造方法であって、
請求項1ないし11のいずれか一つに記載のスポットピンにおける液体保持空間に試薬を保持させる工程と、
前記スポットピンの点着面を前記基板の表面に接触させた後に、前記基板から前記点着面を離間させ、前記液体保持空間の試薬を前記基板の表面に点着する工程と、
を含むことを特徴とする、生化学解析用ユニットの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−256190(P2007−256190A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83488(P2006−83488)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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