説明

スマートアンテナ受信装置

【課題】消費電力が小さく、低コストで製作でき、モバイル機器への親和性が高く、家庭用の受信機に直接に接続でき、面倒なアンテナの方向調整を必要とせず、地上デジタル放送を良好な感度で受像できるスマートアンテナ受信装置を提供する。
【解決手段】スマートアンテナ受信装置10は、複数のアンテナ11−1〜11−nと、複数のアンテナのうち1つの基準アンテナ11−1を除く他のアンテナからの受信信号の位相をそれぞれ変化させる複数のアナログ移相器13−2〜13−nと、基準アンテナの受信信号と複数のアナログ移相器からの出力信号を合成する電力合成器14と、電力合成器の合成出力信号を参照し、特定の評価関数を用いて最適化アルゴリズムに基づき評価関数を最大化するように、複数のアナログ移相器の各々の位相を制御する制御電圧を出力するDSP16を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスマートアンテナ受信装置に関し、特に、モバイル機器への親和性が高く、ISDB(Integrated Service Digital Broadcasting :統合サービスデジタル放送)を受信するのに適したアナログ位相制御型のスマートアンテナ受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地上デジタル放送の普及が進み、自動車等の移動体では、ハイビジョン放送(フルセグメント放送)を視聴するためのチューナーや、ワンセグメント放送を視聴するための携帯電話やカーナビゲーションシステムの開発が盛んになっている。
【0003】
地上デジタル放送を移動体で視聴する場合にはフェージングにより受信電界は激しく変化する。このため、自動車等に搭載されるチューナーではダイバーシチ受信が必須である。特に、ハイビジョン放送を受信するチューナーでは高い搬送波・雑音比(CNR)を確保するため、デジタルムービングフォーミング(DBF)による位相合成ダイバーシチが用いられている。また受信場所によっては、ガードインターバル(GI)区間を超えるマルチパスが発生し受信不能になる場合もある。
【0004】
またDBFによる位相合成ダイバーシチでは、受信機がアンテナの数だけ必要となり、複雑な信号処理を行うため、自動車用のチューナーは家庭用のチューナーと比較すると、3〜4倍の価格となっている。またノートPC等のモバイル機器にDEFを搭載する場合、消費電力が大きくなって視聴時間が短くなる問題がある。さらに位相合成ダイバーシチには、GIを超えるマルチパスを除いて、受信率を向上させる機能は備わっていない。
【0005】
関連または類似する従来の技術を開示する文献として特許文献1,2が知られている。
【0006】
特許文献1はアダプティブアレーアンテナおよびその位相量制御方法を開示する。その発明の要旨は、フェーズドアレーの構成で適応ビーム制御を行うアルゴリズムである。当該アルゴリズムの用途は固定無線電話であり、リアルタイム処理性は考慮されない。このアルゴリズムでは、最適化アルゴリズムとして擬似勾配法を用いている。
【0007】
特許文献2はダイバーシチを開示する。その発明の要旨は、OFDM信号(直交周波数分割多重方式による変調信号)の位相ダイバーシチ受信機をフェーズドアレーの構成で実現する方法である。その特徴的な部分は、GI区間で位相制御を行うという位相制御のタイミングの点である。なお位相の具体的な設定手順については記載されていない。
【特許文献1】特許第3999924号公報
【特許文献2】特許第3944422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に記載された最適化アルゴリズムの手法(擬似勾配法)を地上デジタル放送に適用した評価の結果は最急降下法である。当該最急降下法の干渉除去能力は、シンプレックス法と同等であるが、評価関数の使用回数、演算時間は1桁以上大きく、地上デジタル放送の移動環境での受信には全く適さない。さらに、チャネル推定に影響を及ぼさないGIタイミングでの位相制御、アンテナ数が移相器数よりも大きいフェーズドアレーの構成、あるいは、評価関数の変更による位相ダイバーシチ、アダプティブアンテナの切替えについての特別な記載は存在しない。
【0009】
特許文献2に記載されたフェーズドアレーの構成では、アダプティブアンテナへの拡張も可能であるが、十分な干渉除去能力をリアルタイムで実現することが難しいという問題を有する。すなわちヌル形成には細かい位相制御が必要であるが、この構成によれば、GI当たり1つの移相器の1位相量しか設定できないので、複数の移相器を細かく位相制御するために多くのGIが必要となり、リアルタイム性を実現することはできない。
【0010】
DBFによる位相合成ダイバーシチでは、前述した通り、多くの受信機およびアンテナ、複雑な処理回路が必要となるので、製作コストが高くなりかつ消費電力が大きくなる。また、既存の機器との親和性が低く、既存の機器をそのまま利用することができないという課題を有している。
【0011】
本発明の目的は、消費電力が小さく、低コストで製作することができ、移動体のチューナーやモバイル機器への親和性が高く、家庭用の受信機に直接に接続することもでき、面倒なアンテナの方向調整を必要とせず、さらに地上デジタル放送(ISDB)を良好な感度で受像することができるアナログ位相制御型のスマートアンテナ受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るスマートアンテナ受信装置は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0013】
第1のスマートアンテナ受信装置(請求項1に対応)は、OFDM変調された信号を受信する複数のアンテナと、複数のアンテナのうち1つの基準アンテナを除く他のアンテナからの受信信号の位相をそれぞれ変化させる複数のアナログ移相手段と、基準アンテナの受信信号と複数のアナログ移相手段からの出力信号を合成する電力合成手段と、電力合成手段の合成出力信号を参照し、特定の評価関数を用いて最適化アルゴリズムに基づき評価関数を最大化するように、複数のアナログ移相手段の各々の位相を制御する制御電圧を出力する位相制御手段とを備えることによって構成される。
【0014】
第2のスマートアンテナ受信装置(請求項2に対応)は、上記の構成において、特定の評価関数には変更可能な少なくとも2つの評価関数が設定され、第1の評価関数を選択することにより位相ダイバーシチの構成とし、第2の評価関数を選択することによりアダプティブアンテナの構成とすることを特徴とする。
【0015】
第3のスマートアンテナ受信装置(請求項3に対応)は、OFDM変調された信号を受信する複数のアンテナと、複数のアンテナからの受信信号の位相をそれぞれ変化させる複数のアナログ移相手段と、複数のアナログ移相手段からの出力信号を合成する電力合成手段と、電力合成手段の合成出力信号を参照し、変更可能な少なくとも2つの評価関数のいずれかを用いて、最適化アルゴリズムに基づき評価関数を最大化するように、複数のアナログ移相手段の各々の位相を制御する制御電圧を出力する位相制御手段とを備え、2つの評価関数のうち、第1の評価関数を選択することにより位相ダイバーシチの構成とし、第2の評価関数を選択することによりアダプティブアンテナの構成とすることで特徴づけられる。
【0016】
第4のスマートアンテナ受信装置(請求項4に対応)は、上記の構成において、好ましくは、最適化アルゴリズムはシンプレックス法であることを特徴とする。
【0017】
第5のスマートアンテナ受信装置(請求項5に対応)は、上記の構成において、第1の評価関数は合成出力の平均電力を最大化する関数であり、第2の評価関数はガードインターバル区間とそのコピー元との相関係数を最大化する関数であることを特徴とする。
【0018】
第6のスマートアンテナ受信装置(請求項6に対応)は、上記の構成において、アナログ移相手段の個数はアンテナの個数よりも少ないことを特徴とする。
【0019】
第7のスマートアンテナ受信装置(請求項7に対応)は、上記の構成において、複数のアナログ移相手段の各々における位相の変更をガードインターバル区間内に行うことを特徴とする。
【0020】
上記のスマートアンテナ受信装置で、「スマートアンテナ」は知能アンテナとも呼ばれ、アンテナの置かれた電波環境を分析し、最適ビームを形成する。本発明のスマートアンテナ受信装置では受信系統が1つで済むという利点を有する。本発明に類似したスマートアンテナをFM多重放送によるVICS受信機に適用して走行実験を行ったところ、受信品質の飛躍的な向上が達成できた。この内容は、「桑原、鈴木、浦 “FM多重VICS放送受信用簡易型アダプティブアンテナの開発” 電子情報通信学会和文論文誌 Vol. J90-B, No.1, pp.79-87, 2008.」に記載されている。受信系統を1つにすることにより、多チャンネル受信機を必要とするDBFに比較し低コスト化が実現できる。また、従来の受信機にそのまま接続してアダプティブアンテナの機能(ダイバーシチと干渉除去)を発揮させることもできる。
【0021】
また470〜890MHzの広帯域移相器が市販されていることに着目し、フェーズドアレーでアンテナハードウェアを構成することにする。これにより、比帯域が50%近い地上デジタル放送の受信にそのまま適用することができる。
【0022】
位相制御のための評価関数は、OFDMのGI区間の平均受信電力、またはGI区間とコピー元区間の相関である。フェーズドアレーでは各放射素子での受信信号を個々に観測することはできないので、適応ビーム形成のための位相設定にブラインドアルゴリズムを用いる。
【0023】
これまでのフェーズドアレーでは、形成したビームを予め定められたシーケンスで制御され、本技術のように最適化アルゴリズムで適応的にビームを形成し、走査する例はほとんどなかった。最適化アルゴリズムにはブラインドアルゴリズム(予備知識なく最適化問題を解く方法)が用いられる。DSPの進展(高速、省電力、低価格化)が、ブラインドアルゴリズムによるフェーズドアレーのビームおよびヌル形成・走査の民生機器への適用を可能にした。
【0024】
ところで、位相ダイバーシチでは各アンテナで受信した信号の位相をそろえて合成するもので、或る1つのアンテナの受信信号の位相を基準として他のアンテナの受信信号の位相を合わせてもよい。この場合、移相器の数はアンテナ素子数より1つ小さくすることができる。さらに、必要な位相データが減るので演算量も低減でき、高速移動環境での適用も容易になる。このような簡単化はDBFでは実現できない。移相器をバラクタによって構成すれば、逆バイアス電圧制御となって消費電力も小さくなる。この構成で干渉除去も可能である。
【0025】
バラクタは極めて低価格(例えば1個あたり数10円)で、移相器を低コストで実現できる。また既存の1チャネル受信機に接続して位相ダイバーシチや効果を発揮させることもできる。
【0026】
本技術の構成により、選択ダイバーシチアンテナに近いコストで位相ダイバーシチと干渉除去効果を持つスマートアンテナ受信装置が実現できる。位相ダイバーシチの採用により、選択ダイバーシチに比較し、ダイバーシチ利得が3〜5dB高くなるので、より遠くまで安定した受信が可能となる。GIを超えるマルチパスが存在すると、受信電力が高くなっても受信状況は改善しない。この場合はアダプティブアンテナとして動作させ、マルチパスを除去する。ブラインドアルゴリズムで用いる評価関数を変えるだけでアダプティブアンテナとダイバーシチアンテナの切り替えが可能である。受信電力と受信率をもとに、使用するアルゴリズムを決定する。
【0027】
本技術のスマートアンテナ受信装置は、受信器が1チャネルのため消費電力が小さく、モバイル機器への緩和性が高い。さらに、家庭用の受信機に直接接続することもでき、面倒なアンテナの方向調整をすることなく地上デジタル放送を受像することも可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るスマートアンテナ受信装置は、移相器数をアンテナ数よりも少なくし、また最適化アルゴリズムで高速ビーム制御を行い、さらに評価関数を変更し得る構成を有することにより位相ダイバーシチとアダプティブアンテナとを切り替えるようにしたため、消費電力が小さく、低コストで製作することができ、移動体のチューナーやモバイル機器への親和性が高く、家庭用の受信機に直接に接続することもでき、面倒なアンテナの方向調整を必要とせず、さらに地上デジタル放送(ISDB)を良好な感度で受像することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0030】
図1に本発明に係るスマートアンテナ受信装置の第1の実施形態の構成を示す。スマートアンテナ受信装置10は、複数のアンテナ11−1,11−2,…,11−nを備えたダイバーシチのアンテナ構成を有している。第1の実施形態の場合では、複数のアンテナ11−1,11−2,…,11−nのうち図1中最上位に位置するアンテナ11−1は「基準アンテナ素子」であるとする。
【0031】
複数のアンテナ11−1,11−2,…,11−nで受信された信号は、それぞれに設けられたLNA(Low Noise Amplifier:低雑音増幅器)12−1,…12−nで増幅される。LNA12−1,…,12−nで増幅された各受信信号ついて、アンテナ11−1の受信信号はそのまま電力合成器14に入力され、その他のアンテナ11−2,…,11−nの各受信信号はアナログ移相器13−2,…,13−nで位相制御された後に電力合成器14に入力される。
【0032】
上記では複数のアンテナということで、その数を「n」としたが、このnは2以上の任意の自然数である。
【0033】
電力合成器14は演算増幅器を用いて構成される電力合成回路である。フェージング環境では、複数のアンテナ11−1〜11−nの各々で受信される信号のレベルが刻々と変化するため、通常のウィルキンソン型合成器は使用することができない。そこで、演算増幅器を用いた電力合成器14が用いられる。電力合成器14から出力される信号は受信機15で復調される。受信機15で復調された信号はDSP(Digital Signal Processor:デジタル信号処理装置)16に入力される。
【0034】
DSP16は、アナログ移相器13−2〜13−nのそれぞれで、下記に説明される評価関数(目的関数、受信電力、または相関係数等)を最大化するためのアナログ移相器への制御電圧を決定する信号処理機能を有している。DSP16は、受信機15から出力される受信信号に基づいてアンテナ11−1〜11−nの受信環境を観測し、基準アンテナ素子であるアンテナ11−1以外のアンテナ11−2〜11−nについて、複数のアナログ移相器13−2〜13−nの各位相を、上記評価関数が最大になるように位相制御する機能を有している。複数のアナログ移相器13−2〜13−nの各々において位相変更の制御を実行するタイミングは、GI(ガードインターバル)区間内のタイミングである。ここで「GI」とはOFDM信号でマルチパスの影響を軽減するために設けられた付加区間である。
【0035】
電力合成器16からの出力に基づくDSP16での位相制御のための信号処理についてを説明する。
【0036】
DSP16では、少なくとも2以上の評価関数が用意される。当該評価関数を最適化(最大化)するように、複数のアナログ移相器13−2〜13−nの制御電圧を設定する。評価関数は、例えば、移相合成ダイバーシチの場合と、アダプティブアンテナの場合のそれぞれの2つの評価関数が用意される。
【0037】
電力合成器16からの出力をy(t)とするとき、当該出力y(t)は、各アンテナ11−1〜11−nで受信した信号をx(t)、各LNA12−1〜12−nの利得をA、各アナログ移相器13−2〜13−nの位相量をφ(t)とすれば、次の式(1)で求められる。
【0038】
【数1】

【0039】
スマートアンテナ受信装置10を位相合成ダイバーシチとして動作させる場合、その評価関数は、平均電力Pを最大化することで定義される。最大化された平均電力Pに基づき、平均電力を最大化する位相が求められる。これを下記の式(2)に示す。
【0040】
【数2】

【0041】
またスマートアンテナ受信装置10をアナログ移相制御型アダプティブアンテナとして動作させる場合、その評価関数は、GIとそのコピー元との相関係数を最大化することで定義される。最大化された相関係数に基づき、相関係数を最大化する位相が求められる。これを下記の式(3)に示す。
【0042】
【数3】

【0043】
上記の式(3)において、「n」は標本番号、「tGn」はGI内の時間、「tCn」はコピー元の時間である。遅延波が存在する場合のGI信号は、図2に示すようになる。すなわち、GI区間では主波(到来波1)と遅延波(到来波2)が混じって受信されるので、合成信号に示されるように、コピー元と異なる波形となって相関係数が低下する。従って、「相関係数を最大化する」ということは、GI区間とコピー元とが同一信号に近づくこと、すなわち遅延波が消去されることを意味する。
【0044】
スマートアンテナ受信装置10において、上記の評価関数の最適化アルゴリズムについては、次のようなアルゴリズムが使用される。
【0045】
デジタルムービングフォーミング(DBF)による位相合成ダイバーシチの場合では、各アンテナ11−1〜11−nの受信信号を観測し、NLMSなどのよく知られた繰り返しアルゴリズムで適応ビームを形成する。ここで「NLMS」とは、移動通信で用いられるアダプティブアンテナのビーム形成アルゴリズムである。
【0046】
他方、フェーズドアレーでは各アンテナの受信信号を観測することができないので、ブラインドアルゴリズムによって適応ビームを形成する。「ブラインドアルゴリズム」とは、予備知識なく最適化問題を解く方法である。
【0047】
ブラインドアルゴリズムとしては、直接探索法、シンプレックス法、パウエル法などが知られている。これらのアルゴリズムでは、解析空間を拡張・収縮して解を探索するので、局所解への落ち込みをある程度回避できる。本実施形態のブラインドアルゴリズムとしてはシンプレックス法が好ましい。
【0048】
本実施形態に係るスマートアンテナ受信装置10において、DSP16における評価関数の計算ではGI信号を利用している。GIは1秒に1000回現れる。f=533MHzの信号を100km/hで移動しながら受信する状況を想定すると、最大ドップラー周波数fは約50Hzとなる。ブラインドアルゴリズムでは「Φ」を設定して評価関数を計算し、その結果に基づき次の「Φ」を決定している。このため、50Hzで適応ビームを更新するために利用できるGIの数は20余りである。従って評価関数の計算回数はなるべく少なくする必要がある。評価関数の呼び出し回数は、シンプレックス法、直接探索法、パウエル法の順に多くなる。このことから、最適解探索にはシンプレックス法を用いることが好ましい。
【0049】
次に、本発明に係るスマートアンテナ受信装置10の動作特性をシュミレーション結果により評価する。ここでは、レイリーフェージング環境を想定し、本発明のフェーズドアレーを位相合成ダイバーシチとして使用した時の適用効果を計算機シミュレーションによって評価する。
【0050】
シミュレーション条件を下記の(表1)に示す。条件項目は、「到来波モデル」、「フレーム項構成」、「アンテナ開口」、「アンテナ素子数」、「変調」、「到来角度」、「評価関数使用上限」、「チャネル推定」、および「誤り訂正」である。各アンテナ11−1〜11−nには独立したフェージングパターンで信号が到来すると仮定する。フレーム構成は計算時間を短縮するためモード1としている。最適化アルゴリズムはシンプレックス法を使用し、評価関数を10回使った時点で更新を打ち切って初期化する。また、評価を簡単にするため誤り訂正は行っていない。
【0051】
【表1】

【0052】
図3は、3ブランチダイバーシチのCN比対BER特性のシミュレーション結果である。図3において、符号31で示した特性が本発明の3ブランチダイバーシチのシミュレーション結果である。なおこの場合、上記の「n」は3となる。従って、アンテナの個数は3個であり、アナログ移相器の個数は2個である。アナログ移相器13−2,13−3の位相の制御はチャネルの変動となるため、スキャタードパイロットによるチャネル推定誤差が大きくなる。
【0053】
ここで「スキャタードパイロット」とは、伝搬位相を測定するため、予め定められた位置に既知のシンボルが挿入されることをいい、OFDMではデータ区間に一定の間隔で複数挿入される。また「チャネル推定」とは、受信と送信の位置が変わると伝搬位相が異なり、IQ平面におけるシンボルの位置が回転することから、伝搬位相を推定してこれを除き、シンボルを本来ある位置に戻すことをいう。
【0054】
このため、上記のアナログ移相器13−2,13−3は、GI区間内において制御される。なお比較のため、図3においては、上記の特性31に加えて、単素子のアンテナの評価結果(特性32)、切り替えダイバーシチのアンテナの評価結果(特性33)も併せて示している。
【0055】
BER=10−2でのダイバーシチ利得については、本発明に係る位相合成ダイバーシチアンテナは、切り替えダイバーシチアンテナと比較して、f=25Hzの場合(図3の(A))、f=50Hzの場合(図3の(B))のいずれの場合にも共に5dB改善されている。
【0056】
次に、図4を参照して本発明に係るスマートアンテナ受信装置10を他の手法で評価する。図4は、スマートアンテナ受信装置10を上記式(3)の評価関数に基づきアダプティブアンテナとして動作させたときの干渉抑圧能力を、統計的に評価した結果である。
【0057】
到来波は、主波と、GI区間だけ遅延した遅延波の2つであり、振幅は同一である。2つの波の到来角をランダムに600回設定し、SINRを計算してその累積分布を求めた。図4において、縦軸は累積分布(CDF)、横軸は期待(SINR)である。シンプレックス法(図4中の「Amoeba」(特性41)である。なお最急降下法(特性44)と重なっている。)を用いると、95%以上の確立でSINR>20dBが期待できる。図4では、比較のため、最適化アルゴリズムとしてパウエル法(特性42)と最急降下法を用いた場合、通常のDBFによるアダプティブアンテナ(図のLMS)(特性43)を用いた場合を、併せて示している。また下記の(表2)は演算量の比較である。シンプレックス法が最も演算量が小さいことがわかる。
【0058】
【表2】

【0059】
図5に本発明に係るスマートアンテナ受信装置の第2の実施形態の構成を示す。このスマートアンテナ受信装置50は、第1の実施形態と同様に、アンテナ11−1,11−2,…,11−nを備えたダイバーシチのアンテナ構成を有している。第2の実施形態の場合では、アンテナ11−1においても、他のアンテナ11−2,…,11−nと同様に、アナログ移相器13−1を備えている。その他の構成は、第1の実施形態に係るスマートアンテナ装置10の構成と同じである。図5において、図1で説明した要素と同じ要素には同一の符号を付している。
【0060】
複数のアンテナ11−1,11−2,…,11−nで受信された信号は、それぞれに設けられたLNA12−1,…12−nで増幅される。LNA12−1,…,12−nで増幅された各受信信号ついて、n個のアンテナ11−1,11−2,…,11−nの各受信信号はアナログ移相器13−1,13−2,…,13−nで位相制御された後に電力合成器14に入力される。その他の構成および機能は、第1の実施形態と同じである。
【0061】
DSP16は、アナログ移相器13−1〜13−nのそれぞれで、上記評価関数(目的関数、受信電力、または相関係数等)を最大化するためのアナログ移相器13−1〜13−nへの制御電圧を決定する信号処理機能を有している。DSP16は、受信機15から出力される受信信号に基づいてアンテナ11−1〜11−nの受信環境を観測し、アンテナ11−1〜11−nについて、複数のアナログ移相器13−1〜13−nの各位相を、上記評価関数が最大になるように位相制御する機能を有する。複数のアナログ移相器13−1〜13−nの各々において位相変更の制御を実行するタイミングは、GI区間内のタイミングである。DSP16では、少なくとも2以上の評価関数が用意される。当該評価関数を最適化(最大化)するように、複数のアナログ移相器13−1〜13−nの制御電圧を設定する。評価関数は、移相合成ダイバーシチの場合と、アダプティブアンテナの場合のそれぞれの2つの評価関数が用意される。以上の第2の実施形態に係るスマートアンテナ装置50においても、第1実施形態と同様な効果が発揮される。
【0062】
以上の実施形態で説明された構成等については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るスマートアンテナ受信装置は、自動車等の移動体で地上デジタル放送を良好な感度で受像するのに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るスマートアンテナ受信装置の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】OFDM信号に含まれるGI信号に関して遅延波がある場合の合成信号のGI信号を示す信号構成図である。
【図3】本発明に係るスマートアンテナ受信装置の適用例である3ブランチダイバーシチのCN比対BER特性のシミュレーション結果を示す特性図である。
【図4】本発明に係るスマートアンテナ受信装置をアダプティブアンテナとして動作させたときの干渉抑圧能力を統計的に評価した結果を示す特性図である。
【図5】本発明に係るスマートアンテナ受信装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
10,50 スマートアンテナ装置
11−1〜11−n アンテナ
12−1〜12−n LNA
13−1〜13−n アナログ移相器
14 電力合成器
15 受信機
16 DSP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OFDM変調された信号を受信する複数のアンテナと、
前記複数のアンテナのうち1つの基準アンテナを除く他の前記アンテナからの受信信号の位相をそれぞれ変化させる複数のアナログ移相手段と、
前記基準アンテナの受信信号と前記複数のアナログ移相手段からの出力信号を合成する電力合成手段と、
前記電力合成手段の合成出力信号を参照し、特定の評価関数を用いて最適化アルゴリズムに基づき前記評価関数を最大化するように、前記複数のアナログ移相手段の各々の位相を制御する制御電圧を出力する位相制御手段と、
を備えることを特徴とするスマートアンテナ受信装置。
【請求項2】
前記特定の評価関数には変更可能な少なくとも2つの評価関数が設定され、第1の前記評価関数を選択することにより位相ダイバーシチの構成とし、第2の前記評価関数を選択することによりアダプティブアンテナの構成とすることを特徴とする請求項1記載のスマートアンテナ受信装置。
【請求項3】
OFDM変調された信号を受信する複数のアンテナと、
前記複数のアンテナからの受信信号の位相をそれぞれ変化させる複数のアナログ移相手段と、
前記複数のアナログ移相手段からの出力信号を合成する電力合成手段と、
前記電力合成手段の合成出力信号を参照し、変更可能な少なくとも2つの評価関数のいずれかを用いて、最適化アルゴリズムに基づき前記評価関数を最大化するように、前記複数のアナログ移相手段の各々の位相を制御する制御電圧を出力する位相制御手段と、を備え、
前記2つの評価関数のうち、第1の前記評価関数を選択することにより位相ダイバーシチの構成とし、第2の前記評価関数を選択することによりアダプティブアンテナの構成とすることを特徴とするスマートアンテナ受信装置。
【請求項4】
前記最適化アルゴリズムはシンプレックス法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスマートアンテナ受信装置。
【請求項5】
前記第1の評価関数は合成出力の平均電力を最大化する関数であり、前記第2の評価関数はガードインターバル区間とそのコピー元との相関係数を最大化する関数であることを特徴とする請求項2または3記載のスマートアンテナ受信装置。
【請求項6】
前記アナログ移相手段の個数は前記アンテナの個数よりも少ないことを特徴とする請求項1または2記載のスマートアンテナ受信装置。
【請求項7】
前記複数のアナログ移相手段の各々における位相の変更をガードインターバル区間内に行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のスマートアンテナ受信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−57055(P2010−57055A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221703(P2008−221703)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者: 社団法人 電子情報通信学会 刊行物名: 2008年総合大会講演論文(DVD) 発行年月日: 2008月3月5日(DVD発行日)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000165848)原田工業株式会社 (78)
【出願人】(503184234)株式会社インターエナジー (20)
【Fターム(参考)】