説明

スライドコアガイドユニット

【課題】ピンホルダへ傾斜ピンを装着する際の作業性がよく、より低コストで製造可能な高強度なスライドコアガイドユニットを提供する。
【解決手段】スライドコアガイドユニット1は、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面とピンホルダ2のトラニオン部22の外周面との間に介在するフランジブッシュ4を有する。フランジブッシュ4は、厚さ方向に伸縮可能な金属メッシュを樹脂層で被覆した複合材料で形成され、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面とにより厚さ方向に圧縮されている。ピンホルダ2との接触面(ブッシュ本体41の内周面及びフランジ42の底面)が、金属メッシュを露出していない低摩擦係数の摺動面を形成し、スライドプレート3との接触面(ブッシュ本体41の外周面411及びフランジ42の上面421)が、金属メッシュを露出した高摩擦係数の摩擦面を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型品のアンダーカット部を取り出すための傾斜ピンを案内するスライドコアガイドユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
スライドベースに対するピンホルダのふらつきを防止可能なスライドコアガイドユニットとして、特許文献1記載のスライドコアガイドユニットが知られている。このスライドコアガイドユニットにおいては、傾斜ピンを保持するためのピンホルダの両側に設けられたトラニオン部(回転軸)の外周に環状の溝が切られており、これらの溝にそれぞれOリングがはめ込まれている。ピンホルダの各トラニオン部は、Oリングが装着された状態で、スライドベースのガイド溝により案内されるスライドプレートの貫通穴に挿入されている。
【0003】
このような構造とすることにより、Oリングとスライドプレートの貫通穴の内周面との間に摩擦抵抗が発生するため、ピンホルダは、スライドプレートに対して回転可能に保持されつつ、スライドプレートに対する回転に適度な制動力が与えられる。このため、スライドプレートに対するピンホルダのふらつき、つまり、スライドベースに対するピンホルダのふらつきが防止され、ピンホルダへの傾斜ピンの装着中、スライドベースに対するピンホルダの姿勢が保持される。これにより、ピンホルダへの傾斜ピンの装着時における作業効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−79898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のスライドコアガイドユニットにおいては、Oリングをはめ込むための溝をピンホルダの各トラニオン部の外周に形成する必要がある。このため、溝加工のためのコストがかかる。また、例えば、スライドコアガイドユニットの小型化にともない、ピンホルダのトラニオン部(回転軸)が小径化された場合、このようなOリング用の溝をピンホルダの各トラニオン部の外周に切ると、トラニオン部の強度に影響を与える可能性がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピンホルダへ傾斜ピンを装着する際の作業性がよく、かつより低コストで製造可能な高強度のスライドコアガイドユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明においては、金属メッシュを樹脂層で被覆したブッシュ、例えば、厚さ方向に伸縮可能なエキスパンドメタルを低摩擦係数の樹脂層で被覆したブッシュを、スライドプレートのトラニオン挿入穴の内周面とピンホルダのトラニオン部の外周面との間に介在させる。
【0008】
例えば、本発明は、トラニオン部を有し、金型から成型品を取り出すための傾斜ピンを取り付けるためのピンホルダと、
前記トラニオン部が挿入されるトラニオン挿入穴が形成され、当該トラニオン挿入穴で前記トラニオン部を回転可能に支持しながら所定の方向に移動するスライドプレートと、
前記トラニオン部の外周面と前記トラニオン挿入穴の内周面との間に介在するブッシュと、を備え、
前記ブッシュは、
金属メッシュと、
前記金属メッシュを充填、被覆した樹脂層と、を有している。
【0009】
さらに、前記金属メッシュは、
前記トラニオン部の外周面と前記トラニオン挿入穴の内周面との間で圧縮され、前記トラニオン部の外周面と前記トラニオン挿入穴の内周面との隙間の厚さ方向に伸縮可能であり、
前記樹脂層は、
前記金属メッシュよりも低摩擦係数であってもよい。
【0010】
また、前記金属メッシュは、例えば、りん青銅からなるエキスパンドメタルが好適であり、前記樹脂層は、例えば、四ふっ化エチレン樹脂を主成分として、これにフェノール樹脂及びポリイミド樹脂を含有してなる潤滑性組成物が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属メッシュを樹脂層で被覆したフランジブッシュがスライドプレートのトラニオン挿入穴内に挿入されており、このフランジブッシュ内にピンホルダのトラニオン部が圧入されている。このため、ピンホルダのトラニオン部に対して溝加工等の機械加工を施さなくても、適度な摩擦抵抗により、スライドベースに回転自在に保持されたピンホルダの、自重による回転が防止され、スライドベースに対するピンホルダの姿勢を保持することができる。このため、金型から成型品を押し出すための傾斜ピンをピンホルダへ装着する際の作業性がよい高強度なスライドコアガイドユニットを、より低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1の外観図である。
【図2】図2(A)は、図1に示したスライドコアガイドユニット1の上面図であり、図2(B)は、図2(A)のA−A断面図であり、図2(C)は、図2(A)のB−B断面図である。
【図3】図3(A)は、スライドベース5の上面図であり、図3(B)および(C)は、図3(A)のC−C断面図およびD−D断面図であり、図3(D)は、スライドベース5の右側面図である。
【図4】図4(A)、(B)および(C)は、スライドプレート3の外観図、上面図および側面図であり、図4(D)は、図4(B)のE−E断面図である。
【図5】図5(A)、(B)、(C)および(D)は、平行キー7が取り付けられたピンホルダ2の外観図、正面図、側面図および上面図であり、図5(E)は、図5(D)のF−F断面図である。
【図6】図6(A)、(B)、(C)および(D)は、フランジブッシュ4の外観図、正面図、上面図および底面図であり、図6(E)は、図6(C)のG−G断面図であり、図6(F)は、図6(E)のA部拡大図である。
【図7】図7(A)は、スライドベース5へのピンホルダ2の組み込み手順の例を説明するための図であり、図7(B)は、スライドベース5へのピンホルダ2の組み込み手順の他の例を説明するための図であり、図7(C)は、スライドプレート3へのフランジブッシュ4の他の取付け例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
まず、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1の構成について説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1の外観図であり、図2(A)は、このスライドコアガイドユニット1の上面図である。また、図2(B)は、図2(A)のA−A断面図であり、図2(C)は、図2(A)のB−B断面図である。
【0016】
図示するように、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1は、金型から成型品を取り出す傾斜ピン9を保持するためのピンホルダ2と、ピンホルダ2を回転可能に保持する1対のスライドプレート3と、スライドプレート3に対するピンホルダ2の自重による回転を阻止するためのフランジブッシュ4と、金型から成型品を取り出す方向に沿ってスライドプレート3を案内するスライドベース5と、傾斜ピン9をピンホルダ2に固定するための六角穴付きボルト6と、傾斜ピン9の回り止め用の平行キー7および平行キー7用の固定ネジ8と、を備えている。ここで、このスライドコアガイドユニット1の保持対象となる傾斜ピン9の一方の端部(金型から成型品を突き出す側の端部の反対側端部:以下、固定端部)91の外周には、平行キー7に接触する平坦な切り欠き部92が形成されており、さらに、この固定端部91側の端面93には、六角穴付きボルト6が締結されるネジ穴94が形成されている。
【0017】
スライドコアガイドユニット1の構成部品2〜8の詳細は以下のとおりである。
【0018】
図3(A)は、スライドベース5の上面図であり、図3(B)および(C)は、図3(A)のC−C断面図およびD−D断面図であり、図3(D)は、スライドベース5の右側面図である。
【0019】
スライドベース5は、不図示の成型機に取り付けられるエジェクタプレートに組み込まれる。図示するように、このスライドベース5は、所定の間隔T1をおいて配置された1対のベースブロック51と、これらのベースブロック51を連結する2本のスペーサ52および4本の固定ネジ53と、を有している。
【0020】
各ベースブロック51には、それぞれ、エジェクタプレートへの取付け面として利用可能な両端面513A,513Bを貫通した複数のネジ穴515が形成されている。2つのベースブロック51のいずれか一方の端面513A,513Bを取付け面としてエジェクタプレートに接触させた状態で、2つのベースブロック51の各ネジ穴515に、エジェクタプレートの対応貫通穴に挿入した取付けネジを締結する、または、2つのベースブロック51の各ネジ穴515に挿入した取付けネジをエジェクタプレートの対応ネジ穴に締結することによって、スライドベース5はエジェクタプレートに固定される。
【0021】
また、2つのベースブロック51の対向面(互いに他のベースブロック51側に向けられた面)512には、それぞれ、ピンホルダ2の移動方向に沿ったガイド溝511が形成されている。このガイド溝511は、他方のベースブロック51との対向面512と隣り合う両側面517において開口している。このガイド溝511には、ベースブロック51の側面517側からスライドプレート3が挿入され、スライド可能に収容される(図2(C)参照)。なお、図3には、一例として、ベースブロック51の端面513A,513Bに対してガイド溝511が傾斜している場合を示しているが、ベースブロック51の端面513A,513Bとガイド溝511との角度は、成型品のアンダーカット部の形状等に応じて適宜定められる。
【0022】
2つのベースブロック51の両側面517には、それぞれ、他方のベースブロック51側のネジ穴と対応する高さの位置にネジ穴(不図示)が形成されている。
【0023】
2本のスペーサ52には、2つのベースブロック51の間に保持すべき間隔T1に応じた間隔で貫通穴522が形成されている。これらのスペーサ52は、それぞれ、対向配置された2つのベースブロック51の側面517間にかけ渡され、各貫通穴522に挿入された固定ネジ53とベースブロック51の側面517のネジ穴(不図示)との締結によって固定される。これにより、2つのベースブロック51が、所定の間隔T1をおいた位置で固定される。
【0024】
図4(A)、(B)および(C)は、スライドプレート3の外観図、上面図および側面図であり、図4(D)は、図4(B)のG−G断面図である。
【0025】
2枚のスライドプレート3は、1枚ずつ、2つのベースブロック51の側面517側からガイド溝511に挿入され、ピンホルダ2を保持した状態で、2つのベースブロック51のガイド溝511内にスライド可能に収容されている(図2(C)参照)。図示するように、各スライドプレート3の表面31A,31Bのうち、少なくとも、ベースブロック51のガイド溝511の溝底5112と摺動する一方の表面(図4においては31A)には、表面に露出する固体潤滑剤33が埋め込まれている。同様に、各スライドプレート3の端面のうち、スライドベース5のガイド溝511の側壁5111と摺動する端面31C,31Dにも、表面に露出する固体潤滑剤33が埋め込まれている。
【0026】
また、各スライドプレート3には、一方の表面31Aから他方の表面31Bに貫通したトラニオン挿入穴32が形成されている。このトラニオン挿入穴32には、フランジブッシュ4を介して、ピンホルダ2のトラニオン部22が回転可能に挿入される(図2(C)参照)。
【0027】
図5(A)、(B)、(C)および(D)は、平行キー7が取り付けられたピンホルダ2の外観図、正面図、側面図および上面図であり、図5(E)は、図5(D)のF−F断面図である。
【0028】
ピンホルダ2は、スライドベース5の2つのベースブロック51間に、一対のスライドプレート3を介して回転およびスライド可能な状態で収容されている。図示するように、このピンホルダ2は、傾斜ピン9の固定端部91が固定されるブロック状のホルダ本体21と、ホルダ本体21の4つ側面211A〜211Dのうち、スライド方向に平行な、対向する2つの側面211A,211Bに一体的に形成された1対のトラニオン部(回転軸)22と、を備えており、ホルダ本体21の幅t1は、2つのベースブロック51の間隔T1よりも狭く、トラニオン部22の端面221間の距離t2は、2つのベースブロック51のガイド溝511の溝底5112間の距離T2よりも狭い。
【0029】
ホルダ本体21には、成型機のキャビティ側に向けられる一方の端面(側面211A〜211D以外の面:以下、上面と呼ぶ)212Aにピン挿入穴214が形成されるとともに、上面212Aの反対側の面(底面)212Bに、ピン挿入穴214の底面2141を貫通する座繰り付きのボルト挿入穴215が形成されている。また、このホルダ本体21には、上面212A内においてピン挿入穴214の軸方向にピン挿入穴214の周面と一部接触する位置にキー溝216が形成されるとともに、トラニオン部22を備える側面211A,211B以外の側面211Cに、キー溝216の内壁を貫通するネジ挿入穴217が形成されている。
【0030】
傾斜ピン9の固定端部91は、ホルダ本体21の上面212A側からピン挿入穴214に挿入され、六角穴付きボルト6は、ホルダ本体21の底面212B側からボルト挿入穴215に挿入され、ピン挿入穴214内の傾斜ピン9の端面93のネジ穴94に締結される。
【0031】
平行キー7は、ホルダ本体21の上面212A側からキー溝216内に収容されており、固定ネジ8は、ホルダ本体21の側面211C側からネジ挿入穴217に挿入され、キー溝216内の平行キー7のネジ穴71に締結されている。このようにしてホルダ本体21に固定された平行キー7は、ホルダ本体21のピン挿入穴214に挿入される傾斜ピン9の切り欠き部92に面接触し、これにより、ホルダ本体21に対して所定の向きに傾斜ピン9を位置付けるとともに、ホルダ本体21に対する傾斜ピン9の回転を阻止する。
【0032】
一対のトラニオン部22は、ホルダ本体21のピン挿入穴214を横切る共通の軸心Oを有している。前述したように、これらのトラニオン部22は、フランジブッシュ4を介して、2つのスライドベース5のガイド溝511内にスライド可能に収容されたスライドプレート3のトラニオン挿入穴32に回転可能に挿入されている。このため、ホルダ本体21のピン挿入穴214に挿入された傾斜ピン9は、セッティング時には、ピンホルダ2の軸心O回りの回転により、アンダーカットの角度に応じて傾斜角度を調整可能であり、アンダーカット処理中には、エジェクタプレートの移動に伴い、2つのスライドベース5のガイド溝511に沿ってピンホルダ2とともに往復移動する。
【0033】
図6(A)は、フランジブッシュ4の外観図であり、図6(B)、(C)および(D)は、フランジブッシュ4の正面図、上面図および底面図の拡大図であり、図6(E)は、図6(C)のG−G断面図、図6(F)は、図6(E)のA部拡大図である。
【0034】
2つのフランジブッシュ4は、それぞれ、ピンホルダ2とスライドプレート3との間、より具体的には、トラニオン部22の外周面222とトラニオン挿入穴32の内周面321との間に介在する。図示するように、各フランジブッシュ4は、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32に挿入される円筒形のブッシュ本体41と、ブッシュ本体41の一端部414の外周から張り出した抜け止め用のフランジ42と、を備えている。このフランジブッシュ4は、例えば、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32内に挿入された後、さらに、その内部にピンホルダ2のトラニオン部22が圧入される。そして、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32への挿入時にトラニオン挿入穴32の内径にあわせてブッシュ本体41が変形できるように、または、ブッシュ本体41へのピンホルダ2のトラニオン部22の圧入時にトラニオン部22の外径にあわせてブッシュ本体41が変形できるように、各フランジブッシュ4には、軸方向全長にわたって(ブッシュ本体41の他端部413からフランジ42の外周面423にいたるまで)スリット45が形成されている。
【0035】
このフランジブッシュ4は、厚さ方向αに伸縮可能な金属メッシュ46を基材とし、この基材を、金属メッシュの形成材料等よりも低摩擦係数の樹脂層44で充填、被覆した複合材料により形成されている。具体的には、このフランジブッシュ4は、フランジブッシュ4の厚さ方向αに起伏する金属線部を有する金属メッシュ46と、金属メッシュ46を構成する各金属線部が部分的に一方の面441側から露出するように金属メッシュ46を被覆した樹脂層44と、を有している。このような金属メッシュ46としては、好ましくは、例えば、所定方向のスリットの列を複数行形成したりん青銅製の金属プレートを、スリットの方向と交わる方向に引き伸ばすことにより形成された網目状のエキスパンドメタルが挙げられる。また、樹脂層44は、好ましくは、例えば、四ふっ化エチレン樹脂を主成分として、これにフェノール樹脂及びポリイミド樹脂を含有してなる潤滑性組成物等で形成される。
【0036】
本実施の形態においては、金属メッシュ46の露出面441がブッシュ本体41の外周面411、および、フランジ42の上面(ブッシュ本体41側の面)421を形成し、金属メッシュ46が露出していない樹脂面442が、ブッシュ本体41の内周面412、および、フランジ42の底面(ブッシュ本体41と反対側の面)422を形成している。このため、ピンホルダ2に接触するブッシュ本体41の内周面412およびフランジ42の底面422は、低摩擦係数の摺動面を形成しており、スライドプレート3に接触するブッシュ本体41の外周面411およびフランジ42の上面421は、ブッシュ本体41の内周面412およびフランジ42の底面422よりも高摩擦係数の摩擦面を形成している。
【0037】
つぎに、このようなスライドコアガイドユニット1の組立て順について説明する。ただし、ここでは、予め組み立てられたスライドベース5を用いることとする。
【0038】
図7(A)は、スライドベース5へのピンホルダ2の組み込み手順を説明するための図である。
【0039】
図示するように、2枚のスライドプレート3のトラニオン挿入穴32に、それぞれ、固体潤滑剤33が埋め込まれていない表面31B側から、フランジブッシュ4のブッシュ本体41を、フランジ42の上面421がスライドプレート3の表面31Bに接触するまで挿入する。上述したように、ブッシュ本体41の外周面411は高摩擦係数の摩擦面となっているため、各フランジブッシュ4は、脱落することなくスライドプレート3のトラニオン挿入穴32に保持される。
【0040】
そして、ピンホルダ2の2つのトラニオン部22を、それぞれ、各スライドプレート3のトラニオン挿入穴32内に装着されたフランジブッシュ4のブッシュ本体41内に、フランジ42側から圧入する。このとき、ブッシュ本体41が、スリット45の幅の変化により、ピンホルダ2のトラニオン部22の外形に合わせて変形するとともに、ブッシュ本体41内の金属メッシュ46が、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321とによって自身の厚さ方向α(ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321との隙間の厚さ方向)に圧縮されて、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321との間の隙間に合わせて弾性変形する。
【0041】
このようにして、ピンホルダ2に2つのフランジブッシュ4および2枚のスライドプレート3を組み付けたら、この組み付け体をスライドベース5のベースブロック51の間に収容する。具体的には、2本のスペーサ52のうち、いずれか一方のスペーサ52を2つのベースブロック51から外してから、2つのベースブロック51のガイド溝511にスライドプレート3が1枚ずつ挿入されるように、2つのベースブロック51の間に組立て体を挿入する。これにより、ピンホルダ2は、2枚のスライドプレート3に回転可能に支持された状態で、ガイド溝511に沿って移動可能に2つのベースブロック51間に収容される。
【0042】
その後、外したスペーサ52を、再度、2本の固定ネジ53で2つのベースブロック51に固定する。これにより、スライドコアガイドユニット1が完成する。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係るスライドコアガイドユニット1においては、厚さ方向αに伸縮可能な金属メッシュ46を低摩擦係数の樹脂層44で被覆した複合材料により形成されたフランジブッシュ4が、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32内に挿入され、このフランジブッシュ4内にピンホルダ2のトラニオン部22が圧入される。このような構造によれば、フランジブッシュ4の樹脂層44により、スライドプレート3に対してピンホルダ2がスムーズに回転可能になるとともに、ピンホルダ2のトラニオン部22に溝加工等の機械加工を施してOリングを装着しなくても、ピンホルダ2のトラニオン部22の圧入によって圧縮された金属メッシュ46の復元力により、スライドプレート3に対するピンホルダ2の、自重による回転が防止され、スライドベース5に対するピンホルダ2の姿勢を保持することができる。このため、スライドコアガイドユニット1の強度を低下させることなく、ピンホルダ2へ傾斜ピン9を装着する際の作業性の向上を実現することができる。また、ピンホルダ2のトラニオン部22に対する溝加工等の機械加工工程が不要となった分だけ、スライドコアガイドユニット1の製造コストの低減を図ることができるとともに、強度の低下防止を図ることもできる。
【0044】
また、本実施の形態においては、ブッシュ本体41の外周面411およびフランジ42の上面421側より多く、ブッシュ本体41の内周面412およびフランジ42の底面422側に樹脂層44を多く露出させ、一方、ブッシュ本体41の内周面412およびフランジ42の底面422側より多く、ブッシュ本体41の外周面411およびフランジ42の上面421側に金属メッシュ46を露出させることによって、ブッシュ本体41とピンホルダ2との接触面(ブッシュ本体41の内周面412およびフランジ42の底面422)を低摩擦係数の摺動面とする一方、ブッシュ本体41とスライドプレート3との接触面(ブッシュ本体41の外周面411およびフランジ42の上面421)を高摩擦係数の摩擦面としている。このため、フランジブッシュ4の高摩擦係数の摩擦面により、ピンホルダ2の自重による回転を防止可能な適度な摩擦力を発生させることができるとともに、フランジブッシュ4の低摩擦係数の摺動面により、作業者が適度な力を加えることでピンホルダ2のスムーズな回転を実現できる。これにより、傾斜ピン9を装着する場合のピンホルダ2の位置決めを容易にすることができる。例えば、ブッシュ本体41の外周面411およびフランジ42の上面421の面積に対する金属メッシュ46の露出面積の割合を調整することによって、作業者がピンホルダ2の姿勢調整を行いやすい適度なトルクを発生させることができる。
【0045】
また、2枚のスライドプレート3の一方の表面31B内には、トラニオン挿入穴32の周りを囲むフランジ42の底面422によって、ピンホルダ2と摺動する低摩擦係数領域が形成される。このため、2枚のスライドプレート3の表面31Bに固体潤滑剤33が埋め込まれていなくても(あるいは、2枚のスライドプレート3の表面31Bに埋め込む固体潤滑剤33の数を少なくしても)、スライドプレート3の一方の表面31Bをピンホルダ2側に向けることによっても、ピンホルダ2とスライドプレート3とのかじりを防止することができる。
【0046】
また、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32内に装着したブッシュ本体41に、このブッシュ本体41の内径よりも大きな外径を有するピンホルダ2のトラニオン部22を圧入する際、ブッシュ本体41が、スリット45の幅の変化により、ピンホルダ2のトラニオン部22の外形に合わせて変形するとともに、ブッシュ本体41の厚さは、金属メッシュ46の弾性変形により、ピンホルダ2のトラニオン部22とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32との隙間に合わせて変化する。したがって、ピンホルダ2のトラニオン部22がスライドプレート3のトラニオン挿入穴32内のブッシュ本体41にクリアランスゼロで嵌め合わされるため、ピンホルダ2のガタつきを防止することができる。このようにクリアランスがゼロであるにもかかわらず、フランジブッシュ4のブッシュ本体41の内周面412が、低摩擦係数の樹脂層44で被覆された摺動面であり、また、弾性を有するエキスパンドメタルがブッシュ本体41の基材として用いられているため、ピンホルダ2のトラニオン部22をフランジブッシュ4のブッシュ本体41にスムーズに挿入することができる。この場合、フランジブッシュ4のブッシュ本体41内にピンホルダ2のトラニオン部22を圧入してから、さらに、フランジブッシュ4付きのトラニオン部22をスライドプレート3のトラニオン挿入穴32に圧入してもよい。
【0047】
また、本実施の形態においては、金属メッシュ46が樹脂層44で被覆された複合材料でフランジブッシュ4を形成しているため、樹脂のみで形成されたブッシュと比較して、厚さが薄くても、耐摩耗性に優れる。このため、ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321との間の隙間がわずかであっても、フランジブッシュ4を介在させることができる。ピンホルダ2のトラニオン部22の外周面222とスライドプレート3のトラニオン挿入穴32の内周面321との間にある程度の隙間が設けられている場合には、フランジブッシュ4に代えて、樹脂のみの一体成型で形成されたフランジブッシュを用いてもよい。このようなフランジブッシュには、ブッシュ本体の内周面およびフランジの底面、または、ブッシュ本体の外周面およびフランジの上面にセレーションを形成すればよい。
【0048】
ところで、本実施の形態においては、2枚のスライドプレート3のトラニオン挿入穴32に、それぞれ、ベースブロック51のガイド溝511の溝底5112と摺動する表面31Aの反対側の表面31B側から、フランジブッシュ4のブッシュ本体41を圧入しているが、これとは反対に、図7(B)に示すように、ベースブロック51のガイド溝511の溝底5112と摺動する表面31A側から、フランジブッシュ4のブッシュ本体41を圧入してもよい。このようにした場合、2枚のスライドプレート3の表面31A上には、トラニオン挿入穴32の周りを囲むフランジ42の底面422によって低摩擦係数領域が形成される。このように、ベースブロック51側の表面31Aに、ベースブロック51のガイド溝511の溝底5112と摺動する低摩擦係数領域が形成されるため、スライドプレート3がベースブロック51のガイド溝511をよりスムーズに移動する。このため、かじりの発生を防止することができる。なお、このようにフランジブッシュ4のフランジ42の底面422を利用してスライドプレート3の表面31A側に低摩擦係数領域を形成する場合、その分、2枚のスライドプレート3の表面31Aに埋め込まれる固体潤滑剤33の数を少なくしてもよい。
【0049】
本実施の形態においては、金属メッシュ46の露出面441が、ブッシュ本体41の外周面411およびフランジ42の上面421を形成し、金属メッシュ46が露出していない樹脂面442が、ブッシュ本体41の内周面412およびフランジ42の底面422を形成しているが、これとは逆に、金属メッシュ46の露出面441がブッシュ本体41の内周面412およびフランジ42の底面422を形成し、金属メッシュ46が露出していない樹脂面442がブッシュ本体41の外周面411およびフランジ42の上面421を形成するようにしてもよい。この場合には、フランジブッシュ4とピンホルダ2との間に適度な摩擦抵抗が発生するため、作業者がピンホルダ2の姿勢調整を行いやすい適度なトルクを発生させることができ、また、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32内でフランジブッシュ4がピンホルダ2のトラニオン部22とともに回転するため、作業者が適度な力を加えることで、ピンホルダ2がスムーズに回転する。
【0050】
また、本実施の形態においては、ブッシュ本体41の一端部414の外周にのみフランジ42を設けているが、図7(C)に示すように、ブッシュ本体41の他端部413の外周にもフランジ43を設けてもよい。このような構造にする場合、図6のフランジブッシュ4と同様な形状を有する片フランジ42付きのフランジブッシュ4を用いる。ただし、ブッシュ本体41の高さは、フランジブッシュ4の他端部413に形成されるフランジ43の張り出し長さs1分だけスライドプレート3の板厚よりs2も大きくしてある。このようなフランジブッシュ4のブッシュ本体41をスライドプレート3の一方の表面31A,31B側からトラニオン挿入穴32に挿入し、ブッシュ本体41のスライドプレート3の他方の表面31B,31A側から突き出した部分をピン等で押し広げる。これにより、ブッシュ本体41の他端部413にもフランジ43が形成され、スライドプレート3のトラニオン挿入穴32に両フランジ42,43付きフランジブッシュ4が装着される。
【0051】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。例えば、ピンホルダ2に対する傾斜ピン9の高さを調整するためのアジャストロッドおよびロックナットを備えるスライドコアガイドユニットに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:スライドコアガイドユニット、2:ピンホルダ、3:スライドプレート、4:フランジブッシュ、5:スライドベース、6:六角穴付きボルト、7:平行キー、8:平行キー7の固定ネジ、9:傾斜ピン、21:ホルダ本体、22:トラニオン部、31C,31D:スライドプレート3の端面、31A,31B:スライドプレート3の表面、32:トラニオン挿入穴、33:固体潤滑剤、41:ブッシュ本体、42,43:フランジ、44:樹脂層、45:スリット、46:金属メッシュ、51:ベースブロック、52:スペーサ、53:スペーサ52用の固定ネジ、71:平行キー7のネジ穴、91:傾斜ピン9の固定端部、92:傾斜ピン9の切り欠き部、93:傾斜ピン9の端面、94:六角穴付きボルト6用のネジ穴、211A〜211D:ピンホルダ2の側面、212A:ピンホルダ2の上面、212B:ピンホルダ2の底面、214:傾斜ピン9のピン挿入穴、215:六角穴付きボルト6のボルト挿入穴、216:キー溝、217:固定ネジ8用のネジ挿入穴、221:トラニオン部22の端面、222:トラニオン部22の外周面、321:トラニオン部22の内周面、411:ブッシュ本体41の外周面、412:ブッシュ本体41の内周面、413、414:ブッシュ本体41の端部、421:フランジ42の上面、422:フランジ42の底面、423:フランジ42の外周面、441,442:樹脂層44の表面、511:ガイド溝、512:ベースブロック51の対向面、513A,513B:ベースブロック51の端面、515:ベースブロック51のネジ穴、517:ベースブロック51の側面、522:スペーサ52の貫通穴、2141:ピン挿入穴214の底面、5112:ガイド溝511の溝底、5111:ガイド溝511の側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニオン部を有し、金型から成型品を取り出すための傾斜ピンを取り付けるためのピンホルダと、
前記トラニオン部が挿入されるトラニオン挿入穴が形成され、当該トラニオン挿入穴で前記トラニオン部を回転可能に支持しながら所定の方向に移動するスライドプレートと、
前記トラニオン部の外周面と前記トラニオン挿入穴の内周面との間に介在するブッシュと、を備え、
前記ブッシュは、
金属メッシュと、
前記金属メッシュを充填、被覆した樹脂層と、を有する
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記スライドプレートがスライド可能に挿入され、当該スライドプレートを前記所定の方向に案内するガイド溝が形成されたスライドベースをさらに備える
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記金属メッシュは、エキスパンドメタルである
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記樹脂層は、四ふっ化エチレン樹脂、フェノール樹脂およびポリイミド樹脂を含有する
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記金属メッシュは、
前記トラニオン部の外周面と前記トラニオン挿入穴の内周面との間で圧縮され、前記トラニオン部の外周面と前記トラニオン挿入穴の内周面との隙間の厚さ方向に伸縮可能である
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記金属メッシュは、
前記樹脂層の少なくとも厚さ方向の一方の面側から露出して、前記ピンホルダまたは前記スライドプレートと接触する
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のスライドコアガイドユニットであって、
前記ブッシュは、
前記トラニオン挿入穴内に挿入され、かつ、前記トラニオン部が挿入されるブッシュ本体と、
少なくとも前記ブッシュ本体の一方の端部の外周から張り出したフランジと、をさらに有する
ことを特徴とするスライドコアガイドユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91257(P2013−91257A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235037(P2011−235037)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】