説明

スラグ砕石の製造方法

【課題】輸送時および混合時の発塵対策が不要であり、固結防止用の炭素含有廃棄物を配合する必要もなく、エージング中の水分含有率を均一にして膨張率の小さいスラグ砕石を得ることができるスラグ砕石の製造方法を提供する。
【解決手段】製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグに石炭灰を添加し、エージングを行ってスラグ砕石を製造するにあたり、石炭灰として水分が予め10〜30%に調整された石炭灰を使用する。これにより輸送時および混合時の発塵対策が不要となる。また蒸気エージング中の石炭灰の水分を10〜30%に維持することによってエージングを促進し、膨張率の小さいスラグ砕石を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄工場から排出される製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグと石炭灰とを原料として、路盤材や埋め戻し材などとして用いられるスラグ砕石を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄工場から排出される製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグの有効利用を図るため、従来からこれらのスラグを原料として、路盤材や埋め戻し材などとして用いられるスラグ砕石が製造されている。しかしこれらのスラグ中には遊離CaOが含まれているため、そのまま路盤材や埋め戻し材などとして用いると、地中や空中の水分や炭酸ガスとの反応により水酸化や炭酸化が生じて膨張し、道路の隆起などを引き起こす。そこで製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグを破砕した状態で屋外に山積みし、スラグ中に含まれる遊離CaOをCa(OH)あるいはCaCOに変化させて安定化させるエージングが行われている。
【0003】
しかし、上記のようなエージングを行うとスラグが崩壊して粉化し、路盤材や埋め戻し材などとして用いるに適当な粒径のスラグ砕石が得られないことがある。そこで特許文献1及び特許文献2に示すように、これらのスラグに石炭灰を添加することが提案されている。石炭灰中には可溶性シリカSiO4−が含有されているため、スラグ中の遊離CaOとの間でポゾラン反応が進行し、不溶性のCaO−SiO−HOゲル(CSHゲル)を生成する。このCSHゲルにより硬化が進行し、スラグの崩壊が防止される。
【0004】
ところが従来は石炭灰として発電用ボイラーなどから回収された水分のない石炭灰を使用していたため、破砕したスラグに石炭灰を混合する際に多量の粉塵が発生し、そのための集塵対策が必要であった。また石炭灰の輸送時にも防塵手段を備えた特別な車両が必要であった。さらに石炭灰とスラグとを均一に混合することも容易ではなく、石炭灰の濃度の高い部分ではポゾラン反応が過剰に進行して粗大粒が形成されてしまうため、特許文献2に示すように炭素含有廃棄物を配合してスラグ粒どうしの固結を抑制するなどの対策も必要であった。
【0005】
また、エージングを進行させるためには水分が必要であるが、スラグと石炭灰とを混合した山に散水を行っても、水分含有率を均一にすることは困難である。このため2〜8ヶ月をかけて自然エージングを行ってもエージングが均一に進行せず、場所によっては膨張率の大きいスラグ砕石となるという問題もあった。
【特許文献1】特開平4−16534号公報
【特許文献2】特開平6−219794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、石炭灰の輸送時および混合時の発塵対策が不要であり、固結防止用の炭素含有廃棄物を配合する必要もなく、エージング中の水分含有率を均一にして膨張率の小さいスラグ砕石を得ることができるスラグ砕石の製造方法を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明のスラグ砕石の製造方法は、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグに石炭灰を添加し、エージングを行ってスラグ砕石を製造する方法において、上記石炭灰として水分が予め10〜30%に調整された石炭灰を使用することを特徴とするものである。なお、エージングを蒸気エージングにより行い、蒸気エージング中の石炭灰の水分を10〜30%に維持することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水分が予め10〜30%に調整された石炭灰を、製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグに添加し、好ましくは蒸気エージングを行う。このように湿潤させた石炭灰を添加するので、石炭灰の輸送時および混合時の発塵対策が不要である。また水分調整済みの石炭灰をスラグに添加混合するので、エージング中の水分が均一になり、膨張率の小さいスラグ砕石を得ることができる。しかも石炭灰の濃度の高い部分でポゾラン反応が過剰に進行して粗大粒が形成されてしまうことも防止できるため、炭素含有廃棄物を配合する必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1に示すように、本発明では発電用ボイラーなどから回収された石炭灰に予め水分を添加して混合し、水分が10〜30%となるように調整する。この水分添加は、ホッパーから石炭灰を切り出しコンベヤによって定量排出しながら、切り出しコンベヤに水を注入する等の方法によって容易に行うことができる。これによって5〜15%の未燃カーボンを含み、水分が10〜30%に調整された湿潤した石炭灰が得られる。この湿潤した石炭灰は発塵のおそれがないため、輸送に特別な車両を用いる必要もなく、輸送コストを従来の1/3〜1/2とすることができる。なお、石炭灰の水分を10〜30%に限定した理由は後述する。
【0010】
製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグは冷却したうえ、スラグ砕石として用いるに適した粒径、例えば20〜50mmに破砕され、水分が10〜30%に調整された石炭灰と混合される。スラグ量が少量の場合にはショベルローダー等を用いたショベル混合が適している。またスラグ量が大量であって連続的に混合したい場合には、混合ホッパー内に破砕されたスラグと湿潤した石炭灰とをコンベヤにより同時に投入しながら撹拌するホッパー混合が適している。何れの場合にも石炭灰の水分が10〜30%に調整されているので発塵のおそれがなく、従来のような防塵対策は不要である。
【0011】
石炭灰の混合量はスラグ量の1〜30%が適当である。石炭灰の混合量がこれよりも少ないと添加した効果が不十分であり、スラグの崩壊・粉化を十分に抑制しにくくなり、またエージングの進行が抑制される。逆に石炭灰の混合量がこれよりも多くなると、蒸気の通気が不十分となってやはりエージングの進行が阻害されるためである。
【0012】
混合物は蒸気エージングベッド中に充填され、水蒸気と接触させて蒸気エージングされる。この蒸気エージング中の石炭灰の水分が10〜30%の範囲にあるとエージングが円滑に進行し、得られたスラグ砕石の膨張率は小さくなるが、この範囲を外れるとエージングの進行が阻害され、得られたスラグ砕石の膨張率が大きくなる。その理由は次のとおりである。
【0013】
即ち、図2に示すように蒸気エージング工程においてはスラグ中に含まれる遊離CaOからCaイオンが周囲の水中に溶出してCa(OH)に変化するが、水に対するCa(OH)の溶解度は小さいためにすぐに飽和に達し、遊離CaOの周囲にCa(OH)の層が形成される。するとそれ以上のCaイオンの溶出が妨げられ、エージングが抑制されることとなる。
【0014】
しかし図3のように石炭灰から可溶性シリカが水中に溶出されると、前記したポラゾン反応によりCaイオンと可溶性シリカとが反応して不溶性のCSHゲルが生成される。このため水中のCaイオン濃度が低下し、Caイオンの溶出が進行するのでエージングが円滑に進行することとなる。
【0015】
この図3に示すCSHゲルの生成は石炭灰の水分が10〜30%の範囲にあるときに最も促進され、水分が10%未満であると可溶性シリカの溶出が不足してエージングが阻害される。逆に水分が30%を越えると水中の可溶性シリカの溶出濃度が低下するとともに、蒸気の通気性が不均一となる。このため次の実施例のデータにも示すとおり、この範囲より水分が少なすぎても多すぎても、得られたスラグ砕石の膨張率が大きくなる。
【0016】
このようにして5〜7日間の蒸気エージングを行った混合物は蒸気エージングベッドから払い出され、スラグ砕石として出荷される。このスラグ砕石は20〜50mmの粒径を維持しており、しかも膨張率がスラグ砕石のJIS規格を満足しているので、路盤材や埋め戻し材などとして有効に利用することができる。なお、本発明では混合物中の石炭灰の濃度を均一化できるので、粗大粒が形成されてしまうこともなく、炭素含有廃棄物を配合する必要もない。
【実施例】
【0017】
製鋼スラグに対して5%の石炭灰を添加混合し、蒸気エージングベッド中で5日間の蒸気エージングを行った。石炭灰としては予め水分を0%、15%、22%、30%、40%の5種類に調整したものを用い、それぞれの場合の蒸気エージングベッド内100℃到達時間、混合時の発塵性、得られたスラグ砕石を80℃の水中に浸漬したときの膨張率を評価し、表1にまとめた。表中に示されるように、本発明の範囲内においてスラグ砕石の膨張率は最も小さくなることが確認された。
【0018】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の工程を示すフロー図である。
【図2】石炭灰を添加しないときのエージングメカニズムの説明図である。
【図3】石炭灰を添加したときのエージングメカニズムの説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグまたは溶銑予備処理スラグに石炭灰を添加し、エージングを行ってスラグ砕石を製造する方法において、上記石炭灰として水分が予め10〜30%に調整された石炭灰を使用することを特徴とするスラグ砕石の製造方法。
【請求項2】
エージングを蒸気エージングにより行い、蒸気エージング中の石炭灰の水分を10〜30%に維持することを特徴とする請求項1記載のスラグ砕石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−1776(P2006−1776A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178479(P2004−178479)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(504233100)協材砕石株式会社 (1)
【Fターム(参考)】