説明

スラスト軸受

【課題】円錐モードでの振動が発生しても、軸受部とスラストカラーとが片当たり状態となることに起因する、許容負荷の低下、摩耗、および焼き付け等を防止することができるスラスト軸受を提供する。
【解決手段】スラスト軸受1は、回転軸2の軸方向に回転軸と一体的に移動するスラストカラー3と、スラストカラーに対して回転軸の軸方向に対面配置される軸受部4、5と、を備え、回転軸に作用するスラスト荷重を、スラストカラーを介して軸受部に作用させるスラスト軸受であって、スラストカラーの軸受部との対向面3b、3cは、回転軸と一体的に回転する回転系全体の重心を曲率中心とする球面であり、軸受部のスラストカラーとの対向面4b、5bは、スラストカラーの軸受部との対向面と曲率が等しい球面である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸のスラスト荷重を受けるスラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えばターボチャージャやターボ圧縮機等の回転機械において、回転軸にかかるスラスト荷重を受け止めるため、スラスト軸受が用いられている。従来の一般的なスラスト軸受について図4を用いて説明する。従来のスラスト軸受100は、図4に示すように、回転軸と一体化されたスラストカラー101と、このスラストカラー101を介して回転軸102のスラスト荷重を受ける軸受部103と、を備えており、回転軸102に作用する軸方向の負荷を軸受部103で受けるようにしている。
【0003】
回転軸102は、駆動源からの回転力を受けて回転するが、このとき、回転軸102には、主として、剛体の振動の一次モードである円筒(パラレル)モードや、剛体の振動の二次モードである円錐(コニカル)モードが発生する。
【0004】
そして、従来例のスラスト軸受100のように、スラストカラー101と軸受部103との接触面が共に平面に構成されていると、円錐モードの振動が生じた場合に、それぞれの接触面が平行ではなく相対的に傾斜することとなる。そのため、振動が大きくなって傾斜が大きくなると、図4(b)に破線の円で示す部分のように、スラストカラー101と軸受部103とが面接触せず、片当たり状態となってしまい、双方の接触面が摩耗、劣化してしまう。
【0005】
そこで、円錐モードの振動が発生しやすい回転機械において、例えば、特許文献1の図4に示されるように、滑り面が凸状半球面に形成された内輪(スラストカラーに対応)と、その外周に沿って凹状球面に形成された外輪(軸受部に対応)とによって、それぞれの接触面を球面とした、所謂球面スラスト滑り軸受を採用することが考えられる。こうした球面スラスト滑り軸受によれば、上記の円錐モードが発生した場合にも、スラストカラーと軸受部との接触面がある程度確保され、接触面の摩耗、劣化を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−327737号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示されるように、軸受部とスラストカラーそれぞれの接触面を球面としただけでは、円錐モードでの振動が激しくなれば、軸受部とスラストカラーは、やはり片当たり状態となり、スラスト軸受の許容負荷が低下し、条件によっては、摩耗や焼き付けが起こる可能性も否定できない。
【0008】
本発明の目的は、振動の円錐モードが発生しても、軸受部とスラストカラーとが片当たり状態となることに起因する、許容負荷の低下、摩耗、および焼き付け等を防止することができるスラスト軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のスラスト軸受は、回転軸の軸方向に回転軸と一体的に移動するスラストカラーと、スラストカラーに対して回転軸の軸方向に対面配置される軸受部と、を備え、回転軸に作用するスラスト荷重を、スラストカラーを介して軸受部に作用させるスラスト軸受であって、スラストカラーの軸受部との対向面は、回転軸と一体的に回転する回転系全体の重心を曲率中心とする球面であり、軸受部のスラストカラーとの対向面は、スラストカラーの軸受部との対向面と曲率が等しい球面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、振動の円錐モードが発生しても、軸受部とスラストカラーとが片当たり状態となることに起因する、許容負荷の低下、摩耗、および焼き付け等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スラスト軸受の断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】スラスト軸受の円錐モードにおける振動の影響を説明するための説明図である。
【図4】従来のスラスト軸受を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、スラスト軸受1を説明するための説明図である。図1では、回転軸2が挿通されたスラスト軸受1の断面を示す。
【0014】
回転軸2は、図示しないターボチャージャやターボ圧縮機等の回転機械に設けられており、スラスト軸受1およびラジアル軸受10によって軸支されている。スラスト軸受1の構成について、図2を用いて詳述する。
【0015】
図2は、図1の部分拡大図である。スラスト軸受1は、回転軸2が挿通可能な孔3aを有するスラストカラー3を備えている。このスラストカラー3は、孔3aに回転軸2を挿通して回転軸2に固設され、回転軸2の軸方向に回転軸2と一体的に移動するとともに、回転軸2と一体回転する。
【0016】
また、スラスト軸受1は、スラストカラー3に対して、回転軸2の軸方向に対面配置される軸受部4、5を備えている。この軸受部4、5は、それぞれ孔4a、5aを備えており、これらの孔4a、5aに、非接触状態を維持して回転軸2を挿通させて、スラストカラー3に対して回転軸2の軸方向に対面配置される。
【0017】
より詳細に説明すると、スラストカラー3は、回転軸2の軸方向の一方の側(図中左側)に対向面3bを臨ませ、回転軸2の軸方向の他方の側(図中右側)に対向面3cを臨ませている。そして、軸受部4は、その対向面4bを、スラストカラー3の対向面3bに対面させた状態でハウジング6に固定され、軸受部5は、その対向面5bを、スラストカラー3の対向面3cに対面させた状態でハウジング6に固定されている。
【0018】
ハウジング6は、孔6a、6bに回転軸2を挿通させた状態で回転機械に固設されており、軸受部4、5が受けた回転軸2のスラスト荷重に対応する抗力で軸受部4、5を支えることとなる。
【0019】
上述した構成によって、スラストカラー3は、軸受部4と接触した状態で、回転軸2の図2中左側への移動を制限し、軸受部5と接触した状態で、回転軸2の図2中右側への移動を制限することができる。
【0020】
そして、本実施形態においては、スラストカラー3の対向面3b、3c、および、軸受部4、5の対向面4b、5bが球面状に形成されているが、その詳細は次のとおりである。すなわち、図1および図2に示すように、スラストカラー3の対向面3bは、回転軸2と一体的に回転する回転系全体の重心Gを曲率中心とする、半径R1(曲率1/R1)の球面である。また、軸受部4の対向面4bは、スラストカラー3の対向面3bと曲率が等しい(曲率1/R1)球面である。
【0021】
同様に、スラストカラー3の対向面3cは、回転軸2と一体的に回転する回転系全体の重心Gを曲率中心とする、半径R2(曲率1/R2)の球面である。また、軸受部5の対向面5bは、スラストカラー3の対向面3cと曲率が等しい(曲率1/R2)球面である。
【0022】
回転軸2に振動の円錐モードが発生する場合、回転軸2は、当該回転軸2と一体的に回転する回転系全体の重心Gを中心として振動する。すなわち、回転軸2の振動による軌跡は、重心Gを頂点とする円錐を描く。その結果、回転軸2に固定されたスラストカラー3の振動の軌跡は、重心Gを曲率中心とする球面を描く。
【0023】
図3は、スラスト軸受1における振動の円錐モードの影響を説明するための説明図である。図3(a)に示すように、図中左方向にスラスト荷重がかかると、スラスト軸受1において、スラストカラー3の対向面3bと、軸受部4の対向面4bとが面接触する。
【0024】
そして、図3(b)に示すように、回転軸2に振動の円錐モードが発生し、ここでは矢印の向きに回転軸2が振動したとする。上述したように、本実施形態のスラスト軸受1は、スラストカラー3の対向面3bが回転系全体の重心Gを曲率中心とする球面となっており、軸受部4の対向面4bは、スラストカラー3の対向面3bと同じ曲率の球面となっている。そのため、回転軸2の円錐モードの振動に伴うスラストカラー3の振動の軌跡に沿うように対向面3b、4bが位置することとなる。
【0025】
換言すれば、スラストカラー3は、軸受部4の対向面4bに沿って揺動することとなり、回転軸2に振動の円錐モードが発生したとしても、対向面3b、4b同士の面接触状態が維持される。
【0026】
同様に、図2中、右方向にスラスト荷重がかかった状態でも、スラストカラー3は、軸受部5の対向面5bに沿って揺動するので、対向面3c、5b同士の面接触状態が維持される。
【0027】
このように、本実施形態のスラスト軸受1は、振動の円錐モードが発生しても、軸受部4、5とスラストカラー3とが片当たり状態となることに起因する、許容負荷の低下、摩耗、および焼き付け等を防止することができる。
【0028】
なお、上述した実施形態では、図2中、回転軸2の左右いずれの方向のスラスト荷重も受け止めるスラスト軸受1を例に挙げたが、スラスト軸受は、回転軸2のいずれか一方のスラスト荷重を受け止める構成であってもよい。
【0029】
また、上述した実施形態では、スラストカラー3および軸受部4、5のそれぞれに、回転軸2を挿通させた状態で当該回転軸2を支持する構成について説明したが、例えば、スラストカラー3を回転軸2の端部に設けると共に、この回転軸2の端部に一方の軸受部4を対向配置することとしてもよい。この場合には、一方の軸受部4には貫通孔を形成する必要がなく、スラストカラー3の対向面3bと、軸受部4の対向面4bとの接触面をより広くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、回転軸のスラスト荷重を受けるスラスト軸受に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…スラスト軸受
2…回転軸
3…スラストカラー
4、5 …軸受部
3b、3c、4b、5b …対向面
G…重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸方向に該回転軸と一体的に移動するスラストカラーと、
前記スラストカラーに対して前記回転軸の軸方向に対面配置される軸受部と、を備え、
前記回転軸に作用するスラスト荷重を、前記スラストカラーを介して前記軸受部に作用させるスラスト軸受であって、
前記スラストカラーの前記軸受部との対向面は、前記回転軸と一体的に回転する回転系全体の重心を曲率中心とする球面であり、前記軸受部の前記スラストカラーとの対向面は、前記スラストカラーの前記軸受部との対向面と曲率が等しい球面であることを特徴とするスラスト軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−40650(P2013−40650A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178292(P2011−178292)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】