説明

スリットヤーンおよびその製造方法

【課題】
本発明は従来技術では到達できなかった高レベルの製糸性を有し、且つ、高次工程通過性の良いスリットヤーン、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
好ましくは平滑成分および/または帯電防止剤を含有する、油剤成分が0.03〜5重量%含むことを特徴とするスリットヤーン。および、未延伸フィルムをスリットした後延伸して巻き取る、又は、延伸後にスリットして巻き取るスリットヤーンの製造方法において、製造工程の少なくとも1ヶ所で制電溶液を塗付することを特徴とするスリットヤーンの製造方法。特に、摩擦の高いポリ乳酸スリットヤーンに対して大きな効果を発現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスリットヤーンの製造方法、およびその製造方法に関するものであり、詳しくは従来技術では到達できなかった優れた製糸性を有し、且つ、高次工程通過性の良いスリットヤーン、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スリットヤーン(別称テープヤーン等)はフレコンバッグ、土嚢袋、粘着テープ基材、ネット、各種シート、袋材、インテリア資材等に使用されており、その独特な形態、表面積の広さから、様々な分野での展開が進んでいる。また、近年では世界的に環境意識が高まる中、生分解性スリットヤーンの開発が期待されている。
【0003】
しかしながら、スリットヤーンは薄く扁平であるが故に、延伸工程や高次工程における摩擦に起因する工程通過性の悪化が課題となっている。特に、生分解性を有するポリ乳酸スリットヤーン開発では、ポリ乳酸が非常に高い摩擦特性を有することから、工程通過性が著しく悪化するため、工程通過性を向上させるため検討(例えば、特許文献1、2)が種々進められている。
【0004】
特許文献1および2はスリットヤーンの摩擦特性に着目してなされたものであり、特許文献1には、「滑剤を含有する主としてポリ乳酸からなる1軸延伸フィルムを用いたフラットヤーンであって、該フラットヤーンの相対粘度が1.8以上、複屈折が0.035以下であることを特徴とする土壌分解性ポリ乳酸系フラットヤーン」に関する技術が開示されており、前記特徴を有するフラットヤーンは、滑剤の与える滑り性によって製織性を向上すると記載されている。
【0005】
また、特許文献2には「・・・平均粒径が10μm以下の無機粒子を1〜25%添加した事を特徴とするテープ状ポリ乳酸糸」に関する技術が開示されており、前記特徴を有するテープ状繊維は無機粒子の添加によって糸の摩擦係数を下げることで、生産性、織編性に優れると記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の技術では、産業上求められるレベルの製糸性、工程通過性を得られていないのが現状であった。
【特許文献1】特開2001−131827号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−183941号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術では到達できなかった高レベルの製糸性を有し、且つ、高次工程通過性の良いスリットヤーン、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らがスリットヤーンに関する種々の検討を重ねた結果、スリットヤーン製造工程において発生する静電気が、製糸性を悪化させる要因であることを見いだした。すなわち油剤成分を0.03〜5重量%含むこと、好ましくは油剤成分が平滑成分および/または帯電防止剤を含むことを特徴とするスリットヤーンが前述の課題を達成できることを見出した。本発明は、非常に高い摩擦特性を有するポリ乳酸樹脂のような生分解樹脂製スリットヤーンに特に好適である。
【0009】
また、未延伸フィルムをスリットした後延伸して巻き取る、又は、延伸後にスリットして巻き取るスリットヤーンの製造方法において、製造工程の少なくとも1ヶ所で制電溶液を塗付することを特徴とするスリットヤーンの製造方法が、高いレベルの製糸性、工程通過性を発現することを見出した。なお、本発明では以下の(イ)〜(ニ)を好ましい態様とする。
(イ)延伸前に制電溶液を塗付すること。
(ロ)延伸から巻取りの工程の少なくとも1ヶ所で制電溶液を塗付すること。
(ハ)制電性溶液が平滑成分および/または帯電防止剤を含むこと。
(二)スリットヤーンがポリ乳酸樹脂組成物よりなること。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高次工程通過性、製糸性に非常に優れたスリットヤーン、およびその製造方法の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のスリットヤーンに使用する樹脂は特に限られるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルやポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルに代表されるポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイドや、それらの共重合物やブレンド物等を使用することができる。
【0013】
しかしながら、本発明のスリットヤーン、およびその製造方法で使用する樹脂としては、地球環境保護の観点から生分解性を有する脂肪族ポリエステル、中でも機械的特性とコストに優れたポリ乳酸樹脂であることが好ましい。さらに、本発明の製造方法は、ポリ乳酸樹脂の如き非常に高い摩擦特性を有する樹脂を用いたスリットヤーン製造に大きな効果を示す。
【0014】
本発明のスリットヤーンに用いる樹脂には艶消し剤、難燃剤、耐熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。しかしながら、昨今の環境問題を鑑みると、石油系ポリマのブレンド、該成分の共重合等は極力避け、また各種添加剤も、重金属化合物や環境ホルモン物質は勿論、現時点でその懸念が予想される化合物の一切を用いないものであることが好ましい。
【0015】
本発明でポリ乳酸樹脂を用いる場合、スリットヤーンに用いるポリ乳酸樹脂は、L−乳酸および/またはD−乳酸を重合してなるポリ乳酸樹脂であって、その分子量に特に限定は無い。しかしながら、分子量が高すぎると製糸性が悪化する可能性が、分子量が低すぎると繊維として必要な強度が得られない可能性があることから、重量平均分子量(Mw)は10万〜50万の範囲にあることが好ましく、さらに好ましいMwの範囲としては15万〜30万の範囲を例示できる。
【0016】
L−乳酸、D−乳酸の比率に特に限定は無く、L−乳酸又はD−乳酸を主成分としたポリ乳酸樹脂は勿論のこと、L−乳酸、D−乳酸のステレオコンプレックス型ポリ乳酸樹脂としても良い。しかしながら、生産コスト、製糸性の観点から考えると、L−乳酸が98重量%以上のポリ乳酸樹脂を使用することが好ましい。
【0017】
ポリ乳酸スリットヤーンに用いるポリ乳酸樹脂は乳酸と共重合可能な成分との共重合体であってもよい。ポリ乳酸を主体とする共重合物としては、前記乳酸と、例えばε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、コハク酸、セバシン酸、等のジカルボン酸類から選ばれるモノマの一種又は二種以上を共重合したもの等を例示することができる。共重合の割合としては特に限定されないが、乳酸100重量部に対して、共重合させるモノマは100重量部以下が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0018】
また、ポリ乳酸スリットヤーンに用いるポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂とブレンド可能な物をブレンドしても良く、ブレンド可能な熱可塑性ポリマとしては、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマを例示することができる。また、ポリ乳酸樹脂と非相溶なポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂をブレンドしても良く、ポリオレフィン系樹脂をブレンドした場合には表面の平滑特性が良くなる場合が多い。その機構については明らかではないが、ポリ乳酸樹脂に非相溶なポリオレフィン系樹脂がスリットヤーン内部に微分散することでスリットヤーン表面に微小な凹凸ができやすくなると推測される。ブレンド樹脂の割合は特に限定されるものではないが、機械的特性の面からブレンド樹脂は20重量%未満であることが好ましい。
【0019】
また、本発明のスリットヤーンは、染色工程による強度低化や環境汚染を避けるために予め、少なくとも1種類以上の着色剤を含有させても良い。添加される着色剤は、ポリ乳酸樹脂に適切な特定の無機、有機顔料および染料であり、具体的には酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系等を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0020】
着色剤の含有量としては0.01〜4重量%含有していることが好ましい。着色剤の添加量が0.01重量%以下の場合は色調が不足し、4重量%を超える場合は必要な強度を得ることが困難になる。着色剤の添加量は、ポリマに対し0.1〜0.6重量%であることがより好ましく0.3〜0.5%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のスリットヤーンには耐磨耗性、表面平滑性を向上させるために脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを0.1〜5重量%、更に好ましくは0.5〜3重量%含有させても良い。0.1重量%未満では耐磨耗性向上効果が十分に得られず、5重量%を超える場合には必要な強度を得ることが困難となる。脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの含有量を上記範囲とすることでスリットヤーン表面の滑り性が向上し、優れた耐摩耗性、高次工程通過性を付与することができる。
【0022】
脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えばメチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等であり、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチローラステアリン酸アミド、メチローラベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。なかでも、脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がさらに低いためポリ乳酸樹脂と反応しにくく、また、高分子量であるため耐熱性が良く昇華しにくいことから、より好ましく用いることができる。上記脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは単一で添加しても良いし、また複数の成分を混合して用いても良い。
【0023】
本発明のスリットヤーンに用いるポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸樹脂末端のカルボキシル基の一部又は全部が封鎖されていても良い。ここで、カルボキシル基末端濃度とは、ポリマのカルボキシル基末端だけでなく、残存オリゴマやモノマ由来のものも併せたトータルのカルボキシル基末端量を指す。十分な耐加水分解性を与えるためにはカルボキシル基末端濃度は25当量/t以下にすることが好ましく、より好ましくは15当量/t以下、さらに好ましくは10当量/t以下、特に好ましくは5当量/t以下である。カルボキシル末端基を封鎖させる化合物としては、カルボキシル基末端と反応性のあるオキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基、イミド基、イソシアナート基を持つ化合物(例えば、ジイソプロピルフェニルカルボジイミドやフェニレンビスオキサゾリン等)を例示することができる。
【0024】
カルボキシル基末端濃度は、精秤した試料(1g)をo−クレゾール(水分5%)20mlに浸漬して145℃で10分間溶解し、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めることができる。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマのカルボキシル基末端およびモノマ由来のカルボキシル基末端、オリゴマ由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度を求めることができる。
【0025】
本発明のスリットヤーンは、表面摩擦特性を低下させるために、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等の無機粒子を添加しても良い。無機粒子の添加量としては1〜20重量%が好ましく、添加量が1重量%未満の場合には表面摩擦特性を低下させる効果が少なく、添加量が20重量%を超える場合には製糸性が悪化する可能性がある。無機粒子の平均粒径についても特に限定は無いものの、製糸性の観点からスリットヤーンの厚み(μm)の1/2以下の平均粒径を有する無機粒子を使用することが好ましく、更に好ましい平均粒径は、スリットヤーンの厚みの1/3以下である。
【0026】
従来のスリットヤーンの製造においては無機粒子の添加のみによりスリットヤーンに平滑性を付与する方法が採用されており、特に摩擦の高いことで知られるポリ乳酸スリットヤーンに関しても特許文献2で無機粒子を添加する技術が開示されている。しかしながら、摩擦特性が非常に高いポリ乳酸では無機粒子の添加による平滑性の付与では、高次工程通過性、製糸性の面での効果が不十分であった。すなわち、通常考えうるスリットヤーン製造技術の範疇では製糸性良く、高次工程通過性に優れたスリットヤーンを得ることはできなかったのである。
【0027】
それに対し、本発明ではフィルム製造技術と類似する従来のスリットヤーン製造技術開発では到達できなかった製糸性向上技術を見出した。すなわち、スリットヤーンに油剤を付与することにより、従来に無い高いレベルの高次工程通過性、製糸性を同時に満足するスリットヤーンが得られることを見出したものである。
【0028】
本発明のスリットヤーンには油剤が0.03〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%付与されていることが必要である。油剤含有量が0.03%未満では従来のスリットヤーンと同等の工程通過性を有するスリットヤーンとなり、5重量%を超えると紡糸機や織機等への油剤成分の付着が多くなるため、逆に製糸性や工程通過性が悪化してしまう。スリットヤーンへの油剤含有量を本発明の範囲とすることで表面平滑性が向上し、高次工程通過性に優れるばかりか、ボビンからの解舒性の向上、紡糸機との摩擦低減や静電気抑制による製糸性の向上等が効果として現れる。
【0029】
用いる油剤成分は特に限定されるものではないが、油剤成分が少なくとも平滑成分、および/または帯電防止剤を含むことが好ましい。
【0030】
スリットヤーンに、少なくとも平滑成分が付着している場合には、スリットヤーンの表面平滑特性が格段に向上し、製糸時の紡糸機との摩擦による糸切れが減少するだけでなく、製織、製編といった高次工程においても優れた工程通過性を発揮する。
【0031】
本発明者らがスリットヤーンの製糸性に着目して調査を進めたところ、特に摩擦特性の高いポリ乳酸樹脂の様な樹脂製スリットヤーンでは、その延伸工程において、スリットしたヤーン同士の接触や重なりにより製糸性が悪化し、その原因が延伸工程で発生する静電気によるものであることを示唆する結果が得られた。
【0032】
スリットヤーンに、少なくとも帯電防止剤が付着している場合には製糸時の静電気に起因する糸切れを大幅に減少させられるだけでなく、製品となった後も帯電防止効果を有する製品を得ることができる。すなわち、製糸性、高次工程通過性のみならず、解舒性にも優れたスリットヤーンを得ることができるのである。
【0033】
特に、スリットヤーンに少なくとも平滑成分、および帯電防止剤が付着している場合には、平滑特性向上による製糸性向上効果、静電気抑制による製糸性向上効果、優れた高次工程通過性を同時に満足するスリットヤーンを得ることが可能となる。
【0034】
平滑成分としては特に限定されるものでは無く、鉱物油や、アジペート、アゼレート、セバケート、フタレート、オクチルパルミテート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、ジオクチルフタレート等のエステル系合成潤滑油、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール系合成潤滑油、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン系合成潤滑油、トリターシャリーブチルフェニルホスフェート等の燐酸エステル系合成潤滑油、α−デセン、α−ドデセン等のポリアルファオレフィン系合成潤滑油、イソステアリルオレート、イソエイコシルステアレート、イソエイコシルオレート、イソテトラコシルオレート、イソアラキジルオレート、イソステアリルパルミテート、オレイルオレート、ジオレイルアジペート、ジイソステアリネルアジペート等のアジピン酸エステル、ジラウリルチオジプロピオネート、ジオレイルチオジプロピオネート、ジイソステアリルチオジプロピオネート等のチオジプロピオン酸エステル等の脂肪族カルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体と炭素数8〜32の高級アルコールから得られるエステル等を使用することができる。
【0035】
帯電防止剤としては特に限定されるものでは無く、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド(C12〜18)、アルキルジメチルベンザルコニウムクロライド(C12〜18)等のカチオン系界面活性剤、アルキルサルフェート(C12〜18 ,Na,NH4 ,アルカノールアミン)、パラフィン(アルカン)スルホネート(C12〜22 ,Na,Ca,アルカノールアミン)、脂肪酸塩(C12〜18 ,Na,K,NH4 ,アルカノールアミン)、ポリオキシエチレンアルキル(C12〜18)エーテルホスフェート(Na,アルカノールアミン)等のアニオン系界面活性剤等を使用することができるが、ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂を用いる際には、非イオン性で脂肪族ポリエステルに対して物性低下を起こし難いノニオン系界面活性剤が好ましく使用できる。ノニオン系界面活性剤としては、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物(例えば、炭素数8〜32の高級アルコールのエチレンオキサイド2〜50モル付加物等)、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物のカルボン酸エステル(例えば、イソステアリルアルコールエチレンオキサイド2〜20モル付加物のオレイン酸エステル等)、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物(例えば、アルキル基の炭素数6〜24のアルキルフェノール(オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノールなど)のエチレンオキサイド4〜50モル付加物等)、脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物(例えば、炭素数8〜24の脂肪酸のエチレンオキサイド5〜50モル付加物、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(例えば、トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド15〜25モル付加物トリオレート、ソルビトールのエチレンオキサイド15〜40モル付加物トリオレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキサイド15〜40モル付加物トリオレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキサイド15〜40モル付加物トリオレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキサイド15〜40モル付加物トリステアレート等)、油脂のアルキレンオキサイド付加物(例えば、ヒマシ油および硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド5〜50モル付加物等、油脂のアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステル(例えば、硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド5〜25モル付加物トリオレート、硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド5〜25モル付加物ジオレート、ヒマシ油のエチレンオキサイド5〜25モル付加物ジステアリート、ヒマシ油のエチレンオキサイド5〜25モル付加物トリスステアレート、硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド5〜25モル付加物マレイン酸ステアリン酸エステル等)、フッ素系界面活性剤等を例示することができる。
【0036】
本発明のスリットヤーンの繊度は特に限定されるものではなく、様々な繊度のスリットヤーンで効果を発現する。しかしながら、生産性、製糸性を鑑みた場合、その繊度は200〜6000dtexの範囲であることが好ましい。すなわち、繊度が200dtex未満の場合には単位時間当たりに製造できるスリットヤーン量が少ないためコスト面で不利となり、繊度が6000dtexを超える場合には、スリットヤーン製造工程における冷却領域および延伸領域において、スリットヤーン内外層の温度差が発生しやすくなるために製糸性が悪化する懸念がある。また、本発明のスリットヤーンはヤーンの厚み、幅長もなんら限定されるものではない。
【0037】
本発明のスリットヤーンの物性は特に限定されるものではないが、ポリ乳酸樹脂を用いた場合には、強度が1〜8cN/dtex、伸度が15〜60%の範囲であることが好ましい。強度が1cN/dtex未満、又は、伸度が15%未満の場合には、製織・製編といった後工程通過性が悪くなる可能性がある。また、伸度が60%を超える場合にはポリ乳酸スリットヤーンの寸法安定性が悪化する可能性がある。一方、本来、強度に特に上限は無いが、現状技術で強度が8cN/dtexを超えるポリ乳酸スリットヤーンを得ることは困難である。また、さらに好ましい強度範囲として、2〜6cN/dtex、さらに好ましい伸度として、20〜50%の範囲を例示することができる。
【0038】
また、スリットヤーンにポリ乳酸樹脂を用いる場合にはポリ乳酸スリットヤーンの沸騰水収縮率が0〜10%であることが好ましい。沸騰水収縮率が10%を超える場合には繊維製品とした後の寸法安定性が悪化する可能性がある。沸騰水収縮率の測定法としては、例えば試料を沸騰水に30分間浸積し、浸積前後の寸法変化から次式により求める方法が挙げられる。
沸騰水収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100
L0:試料をかせ取りし、初荷重0.088cN/dtex下で測定したかせ長。
L1:L0を測定したかせを荷重フリーの状態で沸騰水処理し、風乾後、初荷重0.088cN/dtex下で測定されるかせ長。
【0039】
本発明のスリットヤーンの製造方法を、ポリ乳酸スリットヤーンの製造方法を用いて説明するが、本発明スリットヤーンの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0040】
ポリ乳酸スリットヤーンの原料となるポリ乳酸樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、特開平6−65360号公報記載の方法(直接脱水縮合法)、特開平7−173266号公報記載の方法(少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下、共重合並びにエステル交換反応させる方法)、米国特許第2,703,316号明細書に記載されている方法(乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に開環重合する間接重合法)等を採用することができる。
【0041】
また、溶融紡糸に供する場合には、紡糸工程におけるポリ乳酸樹脂の加水分解を抑制するために、ポリ乳酸樹脂の水分率を0〜200ppmにすることが好ましい。これは、他のポリエステル系樹脂を用いてスリットヤーンを製造する際にも同様である。
【0042】
紡糸温度は、用いるポリ乳酸樹脂の融点に左右されるが、少なくとも融点+10℃以上高い温度で紡糸をすることが製糸性の観点から好ましい。紡糸温度が融点+10℃未満の場合には高粘度化に伴う成形不良が発生される恐れがある。また、紡糸温度は融点+50℃以下が好ましく、紡糸温度が融点+50℃を超える場合にはポリ乳酸が分解してしまう恐れがある。
【0043】
原料となる樹脂をエクストルーダー等で溶融した後、未延伸フィルムを製膜する。未延伸フィルムの製膜方法は特に限定されるものでは無く、空冷インフレーション法、水冷インフレーション法、Tダイ成形法等の通常知られた方法で製膜すれば良い。この時、製膜するフィルム厚に特に限定は無いが、均一冷却、均一延伸の観点からフィルム厚は30〜500μmであることが好ましい。
【0044】
得られた未延伸フィルムは一旦巻き取った後、又は、一旦巻き取られること無く、延伸工程に供される前にカッター等を用いて目的幅にスリットした後、延伸工程に供され、必要に応じて弛緩熱処理を施した後、巻取り機で巻き取ることでスリットヤーンを得ることができる。この時、フィルムのスリットは延伸工程に供された後におこなっても良い。
【0045】
延伸方法は特に限られるものではなく、熱板延伸、熱ローラ延伸、スチーム延伸、液浴延伸等、従来知られた延伸方法を採用すれば良い。また、延伸段数にも特に限定は無く、必要に応じて延伸段数を設定すれば良く、例えば、高強度なスリットヤーンが必要な場合には2段以上の延伸段数を採用すれば良い。延伸段数に特に上限は無いが、6段以上の延伸段数を採用する場合には製糸時の作業性が悪くなる可能性があるため、延伸段数は5段以下であることが好ましい。
【0046】
巻取り方法も特に限られる物では無いが、スリットヤーンの経時劣化を低減させるためには巻取り張力が0.01〜1cN/dtexが好ましく、さらに好ましい範囲として0.05〜0.6cNdtexを例示することができる。本発明者らの検討によると、巻取り張力が0.01cN/dtex未満では張力が低すぎるために巻取り不良が発生しやすく、1cN/dtexを超える場合には、紙管やボビンに巻き取ったポリ乳酸スリットヤーンが経時で物性低下する可能性を有している。
【0047】
本発明のスリットヤーンの製造方法では、前記スリットヤーンの製造方法において、製造工程の少なくとも一箇所でフィルム又はスリットヤーンに制電溶液を塗付することが必要である。
【0048】
スリットヤーンの製造において、「高次工程通過性の悪さ」、「製糸性の悪さ」が大きな問題となっており、これらの問題はスリットヤーンの摩擦特性が原因であると考えられていることは前述の通りである。従来技術では、前記課題を達成するために樹脂固有の摩擦特性のみに着目し、滑剤添加や無機粒子添加の方法によってスリットヤーンの表面摩擦特性を改質する試みがなされてきた。しかしながら、無機粒子を添加しただけの場合には、微小な凹凸によってスリットヤーン表面に平滑性を付与するためにヤーン全体の平滑性が向上する訳ではなく、生産時に求められるレベルの製糸性を達成できていない。また、滑剤の添加のみでスリットヤーン表面に平滑性を付与した場合には、滑剤による表面平滑効果が非常に小さく、また、滑剤のみで十分な平滑性を付与しようと大量の滑剤を添加した場合には製糸性が大幅に悪化する問題があった。さらに、従来技術では延伸工程や巻取り工程で発生する静電気による製糸性悪化や解舒性悪化は解決できていない。
【0049】
一方、本発明の方法、即ち製造工程の少なくとも一箇所でフィルムまたはスリットヤーンに制電溶液を塗付した場合には、スリットヤーン表面の平滑性がヤーン全体に渡って付与されるため、製糸性や高次工程通過性が向上するのは勿論のこと、フィルムを製膜した後に制電溶液を付与するために製糸性良くスリットヤーンを得ることが可能となる。
【0050】
また、本発明者らがスリットヤーンの製糸性に着目して調査を進めたところ、延伸工程において、スリットしたヤーン同士の接触や重なりにより製糸性が悪化し、その原因が延伸工程で発生する静電気によるものであることを示唆する結果が得られたことより、本発明に到達した。
【0051】
すなわち、フィルムを延伸する前に制電性溶液を付与することで、延伸工程で発生する静電気を除去しながら延伸できるため、非常に優れた製糸性と優れた高次工程通過性を得られることを見出した。また、溶液を用いることでフィルムに均一に制電剤を付与することが可能となる。この手法は、特に前述の如き1〜8cN/dtexを有する高強度なポリ乳酸スリットヤーンを得るのに必要な高倍率延伸時に有効である。
【0052】
また、フィルム延伸から巻取り工程の少なくとも一箇所で制電溶液を付与した場合には、得られるスリットヤーンに十分な制電溶液が付与されるために、非常に優れた高次工程通過性、紙管からの解舒性を得ることが可能となる。
【0053】
制電溶液の付与方法に特に限定は無いものの、均一な付着性、フィルムやヤーンに傷をつけないと言う観点から、ローラ付与方法、ガイド付与方法等が好ましく採用される。
【0054】
制電溶液の種類に特に限定は無く、延伸時に発生する静電気を除去できる溶液を使用すれば良い。制電溶液の例としては、水を含む溶液、化学式に水酸基やカルボキシル基等の水への親和性の高い基を有する化合物(例えば、エチレングリコール等のグリコール類、エタノール等のアルコール類、グリセリン酸脂肪エステル、アルキル硫酸エステル塩等の界面活性剤類)を含む溶液、および、それらの組み合わせ等が使用できる。
【0055】
本発明のスリットヤーンの製造方法では制電溶液成分の70重量%以上を延伸〜巻取り工程内で除去させることが好ましい。制電溶液成分の70重量%以上を延伸〜巻取り工程内で除去させることで、紡糸機に付着する汚れを低減し、且つ、従来のスリットヤーン同等の高次工程における作業性が得られる。延伸〜巻取り工程内で除去させる制電溶液成分は、より好ましくは80%以上である。延伸〜巻取り工程内で除去させた制電溶液成分量は、例えば、制電溶液付与直後のヤーン重量と巻取り後のスリットヤーンの重量比から求めることができる。
【0056】
また、本発明の制電溶液では水を50重量%以上含む水溶液を延伸前に塗布することが好ましい。制電溶液の主成分を水とすることで、コスト面、安全面、作業面に優れ、かつ水成分が延伸〜巻取り工程で付与される熱により揮発するため、特に生分解性樹脂製スリットヤーンに対し分解等の悪影響を及ぼす危険性が極めて少ない。生分解性樹脂製スリットヤーンに、延伸〜巻き取り工程で制電溶液を塗付する場合には、生分解性樹脂の加水分解を促進し難い非含水系溶液を用いることが好ましい。
【0057】
本発明のスリットヤーンの製造方法では制電溶液に、平滑成分および/または帯電防止剤を含むことが好ましい。
【0058】
ポリ乳酸スリットヤーンの製造方法において、延伸前に平滑成分を付着させた場合には、ポリ乳酸スリットヤーンの表面平滑特性が格段に向上し、製糸時の紡糸機との摩擦による糸切れが減少するだけでなく、得られたポリ乳酸スリットヤーンは製織、製編といった高次工程においても優れた工程通過性を発揮する。平滑成分としては特に限定されるものでは無く前述の平滑剤を使用することができる。
【0059】
またスリットヤーンの製造方法において、延伸前に帯電防止剤を付着させた場合は製糸時の静電気に起因する糸切れを大幅に減少させられるだけでなく、製品となった後も帯電防止効果を有する製品を得ることができる。帯電防止剤としては特に限定されるものでは無く前述の帯電防止剤等を使用することができる。
【0060】
特に、スリットヤーンの延伸前に平滑成分、および/または帯電防止剤が付着している場合には、平滑特性向上による製糸性向上効果、静電気抑制による製糸性向上効果、優れた高次工程通過性を同時に満足するスリットヤーンを得ることが可能となる。
【0061】
平滑剤および/または帯電防止剤を未延伸フィルムやスリットヤーンに付着させる際には、平滑剤および/または帯電防止剤を水、有機溶剤、鉱物油等に希釈して使用すれば良い。
【0062】
本発明の静電溶液としては、平滑成分および/または帯電防止剤と水との混合溶液であって、この時、水が50重量%以上含まれることが前述の理由から最も好ましい。
【0063】
かくして、本発明のスリットヤーンを得ることができる。得られたポリ乳酸スリットヤーンは高次工程通過性に優れ、且つ、製糸性が良い(=低コストで生産可能)ため、ネット、織物、袋体等の繊維製品として好適に使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明するが、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0065】
[重量平均分子量]:試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製GPC−150C)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwを求めた。尚、2回の測定の平均値を採用した。
【0066】
[融点]:パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料20mgを昇温速度5℃/分にて測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。尚、2回の測定の平均値を採用した。
【0067】
[繊度]:JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数、所定糸長としては実施例2、比較例1では180m、実施例1、3〜5、比較例2、3は90mで測定した。
【0068】
[強度および伸度]:試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0069】
[製糸性]:スリットヤーン1tの紡糸連続延伸を行った時の断糸回数を示した。
【0070】
[延伸部静電気発生量]:熱板出口より20cm後方において、延伸開始から10分後、60分後、120分後、240分後、480分後の静電気を静電気測定機(株式会社キーエンス製SK−030、SK−200)を用いて各1回測定し、その平均値を求めた。
【0071】
[解舒時静電気発生量]:製糸で得られたチーズからスリットヤーンを20m/分の速度で解舒し、500m長のスリットヤーンを解除した時点におけるチーズ表面の静電気量を静電気測定機(株式会社キーエンス製SK−030、SK−200)を用いて測定した。なお、3回の測定の平均値を採用した。
【0072】
[油剤成分付着量]:秤量した試料10gを120mlのメタノールを用いて25℃で10分間攪拌した。試料を取り出し、再度120mlのメタノールを用いて25℃で10分間攪拌する洗浄作業を2度繰り返した後、試料を真空乾燥して重量を測定した。得られたデータから下記式で油剤成分付着量を測定した。なお、2回の試行の平均値を用いた。
油剤成分付着量(%)=((洗浄前重量(g)/洗浄後重量(g))−1)×100
【0073】
[水分率]:平沼産業(株)製カールフィッシャー水分計(AQ−2100)を用いた電量滴定法で測定した。試行回数3回の平均値を用いた。
【0074】
[製造例1](ポリ乳酸樹脂P1の製造)
光学純度99.5%のL−乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10,000:1)、GE社製“Ultranox626”(ラクチド対“Ultranox626”重量比=99.8:0.2)を存在させてチッソ雰囲気下180℃で350分間重合を行い、重量平均分子量220,000、融点167℃のポリ乳酸樹脂を得た。得られた樹脂を真空乾燥機を用いて110℃で8時間乾燥し、水分率53ppmのポリ乳酸樹脂P1を得た。
【0075】
[製造例2](ポリ乳酸樹脂P2の製造)
ポリ乳酸樹脂P1と炭酸カルシウム粉末(三共製粉株式会社製 エスカロン#100)とを重量比が50:50となる様に2軸押出混練機に供給し、シリンダー温度200℃で混練して炭酸カルシウム含有ポリ乳酸樹脂組成物を得た。得られた樹脂を真空乾燥機を用いて110℃で8時間乾燥し、水分率62ppmのポリ乳酸樹脂P2を得た。
【0076】
(実施例1)
図1に示す製造工程により、以下の手順でスリットヤーンを製造した。製造例1および製造例2で製造したポリ乳酸樹脂P1とポリ乳酸樹脂P2を、重量比で94:6となるように混合した原料を、1軸エクストルーダー(1)を用いて190℃で溶融し、Tダイ法にて幅20cm、リップギャップ1mmのTダイ(2)より押出し冷却固化してポリ乳酸未延伸フィルム(3)を得た。得られたポリ乳酸未延伸フィルムは一旦巻き取ることなく、制電溶液A{イオン交換水80重量%、平滑剤成分(イソステアリルオレート)12重量%、およびノニオン系界面活性剤(硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド10モル付加物:伊藤製油株式会社製SURFRIC CO−10)8重量%の混合懸濁物}をオイリングローラ(4)を用いて付与した。この時、オイリングローラ(4)の回転数は、スリットヤーンに油剤成分付着量が表1記載の値となる様に設定した。静電溶液Aの付与された未延伸フィルムはカッター(5)を用いて延伸後のスリットヤーンが表1記載の幅となる様にスリットした後、第1ローラ(6)と第2ローラ(7)の間で、110℃の熱板(10)を用いて延伸をおこなった。得られた延伸後のスリットヤーン(9)は、第2ローラ(7)と第3ローラ(8)間において135℃のドライオーブン(11)で1.7%の弛緩熱処理を施した後、巻取り機(12)にて巻き取った。この時、第1ローラは10m/分、第2ローラは30m/分、第3ローラは29.5m/分に設定し、巻取り速度29.5m/分で巻き取った。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0077】
(実施例2)
制電溶液Aの代わりに制電溶液B(イオン交換水80重量%、実施例1記載の平滑剤成分20重量%の混合懸濁物)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてスリットヤーンを製造した。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0078】
(実施例3)
制電溶液Aの代わりに制電溶液C(イオン交換水95重量%、実施例1記載のノニオン系界面活性剤5重量%の混合懸濁物)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてスリットヤーンを製造した。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0079】
(比較例1)
制電溶液Aの代わりに制電溶液D(イオン交換水100重量%)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてスリットヤーンを製造した。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0080】
(実施例4)
P1:P2=94:6となるように混合した原料を、1軸エクストルーダーを用いて190℃で溶融し、空冷インフレーション法にてサーキュラーダイス成形装置(20cmφ、リップギャップ1mm)より押出し冷却固化してポリ乳酸未延伸フィルムを得た。得られたポリ乳酸未延伸フィルムは一旦巻き取ることなく、カッターを用いて延伸後のスリットヤーンが表1記載の幅となる様にスリットした後、第1ローラ(6)と第2ローラ(7)の間で、110℃の熱板(10)を用いて延伸をおこなった。延伸後のスリットヤーンに制電溶液Aをオイリングローラを用いて付与した。この時、オイリングローラ(4)の回転数は、スリットヤーンに油剤成分付着量が表1記載の値となる様に設定した。静電溶液Aの付与された延伸後のスリットヤーンは、第2ローラと第3ローラ間において135℃のドライオーブンで1.7%の弛緩熱処理を施した後、巻取り機にて巻き取った。この時、第1ローラは10m/分、第2ローラは30m/分、第3ローラは29.5m/分に設定し、巻取り速度29.5m/分で巻き取った。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0081】
(実施例5)
制電溶液Aの代わりに制電溶液E{鉱物油(Mn=184)80重量%、平滑剤成分(イソステアリルオレート)12重量%、およびノニオン系界面活性剤(硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド10モル付加物)8重量%の混合物}を用いたこと、および、表1に記載の油剤成分付着量となるようにオイリングローラ回転数を変更したこと以外は実施例1と同様にしてスリットヤーンを製造した。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0082】
(実施例6)
制電溶液Aの代わりに静電溶液Eを用いたこと、および、表1に記載の油剤成分付着量となるようにオイリングローラ回転数を変更したこと以外は実施例4と同様にしてスリットヤーンを製造した。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0083】
(比較例2)
制電溶液を用いなかったこと以外は実施例1と同様にしてスリットヤーンを製造した。得られたスリットヤーンの物性を表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
表1より明らかなように従来の方法(比較例2)で製造したスリットヤーンと比較して、本発明の製造方法のひとつの態様である「延伸前に制電溶液を付与する方法(実施例1〜3、および実施例5)」では、延伸部での静電気発生量を大幅に低減させることができるために製糸性が非常に高く、特に解舒時の静電気が大幅に減少する結果であった。
【0086】
本発明の別の態様である「延伸後に制電溶液を付与する方法(実施例45、および、実施例6)」で得られた本発明のスリットヤーンは、解舒時の静電気発生量が従来の方法と比べて大幅に低減する結果となった。
【0087】
解舒時の静電気発生量が少ないスリットヤーンは、製織・製編といった高次加工時に発生する静電気に起因するトラブル(糸縺れ、解舒不良等)が大幅に減少する特徴を有している。
【0088】
また、油剤成分付着量が本発明の範囲を満足する実施例1〜6のスリットヤーンは表面平滑性が高いことが予測され、高次加工の際の工程通過性向上効果も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施例で実施したスリットヤーン製造プロセスを示す概略図である。
【図2】本発明の実施例で実施したスリットヤーン製造プロセスを示す概略図である。
【符号の説明】
【0090】
1:1軸エクストルーダー
2:Tダイ
3:ポリ乳酸未延伸フィルム
4:オイリングローラ
5:カッター
6:第1ローラ
7:第2ローラ
8:第3ローラ
9:スリットヤーン
10:熱板
11:ドライオーブン
12:巻取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油剤成分をヤーン全体の0.03〜5重量%含むことを特徴とするスリットヤーン。
【請求項2】
油剤成分が、平滑剤および/または帯電防止剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のスリットヤーン。
【請求項3】
平滑成分が鉱物油、エステル系合成潤滑油、ポリアルキレングリコール系合成潤滑油、シリコーン系合成潤滑油、燐酸エステル系合成潤滑油、ポリアルファオレフィン系合成潤滑油、アジピン酸エステル、脂肪族カルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体と炭素数8〜32の高級アルコールから得られるエステル等から選ばれた少なくとも1種以上である請求項2に記載のスリットヤーン。
【請求項4】
帯電防止剤がカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤から選ばれた少なくとも1種以上である請求項2に記載のスリットヤーン。
【請求項5】
スリットヤーンが脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスリットヤーン。
【請求項6】
スリットヤーンがポリ乳酸樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスリットヤーン。
【請求項7】
製造工程の少なくとも1ヶ所で制電溶液を塗付することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスリットヤーンの製造方法。
【請求項8】
延伸前に制電溶液を塗付することを特徴とする請求項7に記載のスリットヤーンの製造方法。
【請求項9】
延伸から巻取りの工程の少なくとも1ヶ所で制電溶液を塗付することを特徴とする請求項7に記載のスリットヤーンの製造方法。
【請求項10】
制電性溶液が平滑成分および/または帯電防止剤を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のスリットヤーンの製造方法。
【請求項11】
平滑成分が鉱物油、エステル系合成潤滑油、ポリアルキレングリコール系合成潤滑油、シリコーン系合成潤滑油、燐酸エステル系合成潤滑油、ポリアルファオレフィン系合成潤滑油、アジピン酸エステル、脂肪族カルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体と炭素数8〜32の高級アルコールから得られるエステル等から選ばれた少なくとも1種以上である請求項10に記載のスリットヤーンの製造方法。
【請求項12】
帯電防止剤がカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤から選ばれた少なくとも1種以上である請求項10に記載のスリットヤーンの製造方法。
【請求項13】
スリットヤーンがポリ乳酸樹脂組成物よりなることを特徴とする請求項7〜12のいずれかに記載のスリットヤーンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−127694(P2008−127694A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311192(P2006−311192)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】