説明

スリット電極及びこれを備えた荷電粒子ビーム発生装置

【課題】荷電粒子ビーム発生装置の運転時に、開口部の形状が熱変形し難いスリット電極を提供する。
【解決手段】スリット電極20は、開口部22を有する電極枠体21と、長手方向において電極枠体21に対して移動可能に支持されているとともに、長手方向と略直交する方向に沿って開口部22に並設された複数本の電極棒23とを備え、電極枠体21には、少なくとも開口部22の外周領域の一部に電極枠体21に冷媒を流入する為の冷媒流入口RINと電極枠体21から冷媒を流出する為の冷媒流出口RОUTとを備えた冷媒流路Rが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム照射装置のイオン源や電子ビーム照射装置の電子源といった荷電粒子ビーム発生装置で用いられるスリット電極及びこれを備えた荷電粒子ビーム発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、イオンビーム照射装置のイオン源よりイオンビームを引き出す為の引出し電極系として、複数のスリット状開口部を有するスリット電極が用いられている。このようなスリット電極は、イオン源運転時の熱によって開口部形状の変形を防止する為の構成を備えている。このスリット電極についての具体例が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されている電極は、開口部を有する電極枠体と当該枠体の開口部内におおよそ等間隔に並べられた複数本の電極棒とを備えており、各電極棒の間には、スリット状開口部が形成されている。そして、各電極棒は熱による伸縮が許容できるように、その長手方向端部は固定されずに、長手方向に移動可能な状態で電極枠体に支持されている。
【0004】
また、特許文献2にも特許文献1と同様の電極構成が開示されている。ここでは、矩形状の電極支持枠に複数のロッド通し穴を設けておき、この穴に複数本のロッドが挿入された時、ロッド通し穴の終端部とロッド長手方向の端部との間に余裕部(隙間)が形成される構成のスリット電極が開示されている。このスリット電極では、各ロッド間にスリット状開口部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−34358号公報(図2、図3)
【特許文献2】特開平8−148106号公報(図3、図5〜図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イオン源の引出し電極系に特許文献1や特許文献2に挙げられるスリット電極を用いた場合、スリット状開口部を形成する電極棒やロッドにイオンビームが衝突する。その為、電極棒やロッドは高温に熱せられる。一方で、電極棒に比べて高温に加熱されないにしろ、電極枠体や電極支持枠もイオン源の運転時にはある程度高温に加熱されている。
【0007】
その為、電極枠体や電極支持枠にも熱による伸縮が生じる。特許文献1や特許文献2には、電極棒やロッドの熱による伸縮を許容する構成が開示されているが、電極枠体や電極支持枠の熱による伸縮を如何にして許容するのかについては、何ら開示されていなかった。電極棒やロッドにはイオンビームや電子ビームが衝突するので、局所的に加熱されたり、スパッタリングで消耗したりする。その為、これらの部材には熱変形が少ない高融点金属材料(例えば、モリブデンやタングステン)が用いられている。一方、電極枠体や電極支持枠は大型の構造物である為、加工性が良い部材として、例えばアルミニウムが用いられている。アルミニウムは加工性には優れているが、熱には弱い。その為、電極枠体や電極支持枠の熱による伸縮は非常に大きなものとなる。
【0008】
電極枠体や電極支持枠が熱変形すると、それに伴ってスリット状開口部の形状が変形してしまう。このような形状変化に伴って、スリット状開口部の位置ずれが生じる。そして、このようなスリット状開口部の変形や位置ずれは、スリット電極の寸法が大きくなるのに従って、益々大きくなる。その為、特許文献1や特許文献2に開示される構成では、電極の熱による歪みを十分に抑制できているとは言えず、電極枠体や電極支持枠が熱変形した場合には、所望するイオンビームや電子ビームの引出しを達成することができなくなるといった不具合が生じてしまう。
【0009】
そこで本発明では、荷電粒子ビーム発生装置の運転時に、スリット状開口部の形状が熱変形し難いスリット電極を提供することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスリット電極は、開口部を有する電極枠体と、長手方向において前記電極枠体に対して移動可能に支持されているとともに、前記長手方向と略直交する方向に沿って前記開口部に並設された複数本の電極棒とを備えたスリット電極であって、前記電極枠体には、少なくとも前記開口部の外周領域の一部に冷媒を流入する為の冷媒流入口と前記電極枠体から冷媒を流出する為の冷媒流出口とを備えた冷媒流路が設けられていることを特徴とする。
【0011】
このような構成のスリット電極を採用すれば、電極棒の熱による伸縮が許容できるだけでなく、電極枠体の熱による歪みを抑制することが可能となるので、スリット状開口部の形状変化を十分に抑えることができる。
【0012】
また、電極枠体の冷却能力を向上させる為には、前記冷媒流路が複数本設けられていることが望ましい。
【0013】
このような構成を採用すれば、冷媒流路の本数が増えた分だけ、冷却能力を向上させることができる。
【0014】
冷媒流路の具体的な構成としては、前記冷媒流路は前記開口部を囲むように配置された少なくとも一対の冷媒流路で構成されているとともに、対を成す前記冷媒流路において、一方の冷媒流路に設けられた冷媒流入口と他方の冷媒流路に設けられた冷媒流出口が隣り合って配置されていて、かつ、前記開口部の周りを流れる冷媒の向きが、各冷媒流路で互いに逆向きとなるように構成されていることが望ましい。
【0015】
また、次のように冷媒流路を構成しても良い。具体的には、前記冷媒流路は前記開口部を囲むように配置された少なくとも一対の冷媒流路で構成されているとともに、対を成す前記冷媒流路において、各冷媒流路に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口とが前記開口部の中心に関して点対称となるように配置されていて、かつ、前記開口部の周りを流れる冷媒の向きが、各冷媒流路で互いに同じ向きとなるように構成されていることが望ましい。
【0016】
さらに、前記冷媒流路は前記開口部を囲むように配置された少なくとも一対の冷媒流路で構成されているとともに、対を成す前記冷媒流路において、各冷媒流路に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口とが前記開口部の中心に関して点対称となるように配置されていて、かつ、前記開口部の周りを流れる冷媒の向きが、各冷媒流路で互いに逆向きとなるように構成されているようにしても良い。
【0017】
このような構成を採用すれば、電極枠体を略均一に冷却することが可能となる。その結果、冷却ムラによる歪みを低減させることができる。
【0018】
一方で、前記開口部は長方形状であり、前記開口部の長辺方向に沿って前記複数本の電極棒が並設されているとともに、前記開口部をその短辺方向に挟んで、前記開口部の長辺方向に沿って少なくとも一対の直線形状の冷媒流路が設けられている構成を用いても良い。
【0019】
このような構成を採用すれば、電極枠体を加工して冷媒流路を作る手間を大幅に省略することができる。
【発明の効果】
【0020】
電極棒の熱による伸縮が許容できるだけでなく、電極枠体の熱による歪みを抑制することが可能となるので、スリット状開口部の形状変化を十分に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のスリット電極が用いられるイオン源の一例を表す平面図である。
【図2】スリット電極の一例を表す平面図である。
【図3】図2のスリット電極より電極棒、蓋体を取り除いた様子を表す平面図である。
【図4】図2のスリット電極より一部の蓋体を取り除いた様子を表す要部拡大図である。
【図5】図4を線分A−Aで切断した時の断面図である。
【図6】図2のスリット電極に形成された冷媒流路の一例を表す平面図である。
【図7】図2のスリット電極に形成された一対の冷媒流路の一例を表す平面図である。
【図8】図2のスリット電極に形成された一対の冷媒流路の別の例を表す平面図である。
【図9】図2のスリット電極に形成された一対の冷媒流路のさらに別の例を表す平面図である。
【図10】図2のスリット電極に形成された二対の冷媒流路の一例を表す平面図である。
【図11】図2のスリット電極に形成された一対の冷媒流路のその他の例を表す平面図である。
【図12】図2のスリット電極に形成された直線形状の冷媒流路の例を表す平面図である。
【図13】図12に記載の冷媒流路の別の例を表す平面図である。
【図14】冷媒流路が蓋体取り付け部下方に配置されている例を表す平面図である。
【図15】電極枠体の別の例を表す平面図である。
【図16】電極枠体のさらに別の例を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、本発明のスリット電極を有するイオン源1の例が記載されている。このイオン源1はいわゆるバケット型イオン源と呼ばれるタイプのイオン源の一種である。
【0023】
このイオン源1は長方形状のプラズマ生成容器4を備えており、プラズマ生成容器4より略リボン状のイオンビーム3が引き出される。
【0024】
プラズマ生成容器4には図示されないバルブを介してガス源2が取り付けられており、このガス源2よりイオンビーム3の原料となるガスの供給がなされる。なお、このガス源2には図示されないガス流量調節器(マスフローコントローラー)が接続されており、これによってガス源2からプラズマ生成容器4内部へのガスの供給量が調整されている。
【0025】
プラズマ生成容器4の一側面には、Y方向に沿って複数のU字型のフィラメント11が取り付けられている。これらのフィラメント11は、フィラメント11の端子間に接続される電源Vを用いて、各フィラメント11に流す電流量の調整が行えるように構成されている。このような構成にしておくことで、イオン源1より引き出されるイオンビーム3の電流密度分布の調整が可能となる。
【0026】
フィラメント11に電流を流して、フィラメント11を加熱させることによって、そこから電子が放出される。この電子がプラズマ生成容器4内部に供給されたガスに衝突し、ガスが電離されて、プラズマ生成容器4内にプラズマ9が生成される。
【0027】
このイオン源1には、プラズマ生成容器4の外壁に沿って複数の永久磁石12が取り付けられている。この永久磁石12によって、プラズマ生成容器4の内部領域にカスプ磁場が形成され、フィラメント11より放出された電子が所定領域内に閉じ込められる。
【0028】
イオン源1は引出し電極系として4枚の電極を有しており、プラズマ生成容器4からZ方向に沿って、加速電極5、引出し電極6、抑制電極7、接地電極8の順に配置されている。各電極とプラズマ生成容器4との電位は、複数の電源(V〜V)によって、それぞれ異なる値に設定されているとともに、各部材の取り付けは絶縁物10を介してなされている。
【0029】
引出し電極系で用いられる電極には複数のスリット状開口部が設けられており、これらの開口を通してイオンビーム3の引出しが行なわれる。このようなスリット状開口部を有する各電極に本発明のスリット電極が適用される。なお、図1には引出し電極系として4枚の電極を有する構成のイオン源が記載されているが、電極の枚数は1枚でも複数枚でも良く、スリット状開口部を有する電極であれば、本発明のスリット電極を適用することができる。
【0030】
図2には本発明のスリット電極20の一例が描かれている。
【0031】
このスリット電極20は、主に開口部22を有する電極枠体21と開口部22内に配置された複数本の電極棒23(図中、ハッチングされている部材)とで構成されている。
【0032】
各電極棒23は、おおよそX方向に長手方向が平行となるように電極枠体21に支持されているとともに、Y方向に沿って略等しい間隔を空けて並設されている。また、後述するように各電極棒23はその長手方向において移動可能に支持されている。
【0033】
Y方向に沿って並設された各電極棒23の間やY方向の端部に位置する各電極棒23と電極枠体21との間には、スリット状開口部26が形成されている。
【0034】
図2に示されるスリット電極20から電極棒23と蓋体24とを取り除いた様子が図3に描かれている。図2と図3に開示されているスリット電極20の構成を基にして、本実施形態における電極棒23の支持方法について説明する。
【0035】
電極枠体21には開口部22のX方向に隣接して蓋体取り付け部28が設けられている。各蓋体取り付け部28には、開口部22を挟んで一対の電極棒支持部27が設けられており、この電極棒支持部27はXY平面に位置する蓋体取り付け部28の表面よりZ方向側に凹んでいる。
【0036】
Z方向側から電極棒23の長手方向における両端部を電極棒支持部27に位置させる。その後、電極棒支持部27のZ方向反対側の開放端に蓋をする。この蓋は、蓋体取り付け部28に蓋体24を取り付けることで行なわれる。この取り付けはネジを用いて行なわれる。図2に描かれているネジ25には雄ネジが形成されており、これが図3に示される雌ネジが形成された穴29に螺合される。
【0037】
なお、ここでは蓋体24がY方向に沿って複数に分割して設けられている例が記載されているが、これらを分割せずに1つの蓋体24として取り扱っても良い。その方が、蓋体24の取り付けが簡便となる。また、蓋体24には熱膨張が生じるので、熱膨張率が小さいモリブデンやタングステンのような高融点材料を蓋体24に使用することが望まれる。一方で、蓋体24を分割しておくと、1つの大きな蓋体24に比べて蓋体24の熱膨張による伸びを許容できうる程度の小さなものにすることができる。さらに、蓋体6を分割して設けておくと、熱変形の大きい蓋体のみを交換することができるので、部材交換に要する費用を低額に抑えることが期待できる。
【0038】
図2に示されるスリット電極20から、一部の蓋体24を取り除いて、電極棒23の端部近傍を拡大した様子が図4に示されている。この図4に示されているように、電極支持部27に各電極棒23を配置した場合、その長手方向に隙間30が形成される。この隙間30が形成されているので、各電極棒23がその長手方向に移動可能に支持されることになる。また、この隙間30によって、熱による各電極棒23の伸縮を許容することができる。なお、この隙間30は長手方向のいずれか一方に形成されていれば良い。一方、図4の例では、電極棒23の短手方向において、電極支持部27との間に隙間を有さないような構成が描かれているが、これに限られない。例えば、短手方向において、電極棒23の熱変形による伸縮が見られる場合には、それを許容するできうる程度の若干の隙間を設けておいても良い。
【0039】
図4を線A−Aで切断した際の断面図が図5に描かれている。各電極棒23の断面は、図5(a)に示されるように凸形状のものであってもいいし、図5(b)に示されるように円形であっても良い。
【0040】
図6には、電極枠体21の開口部22の外周領域に冷媒流路Rが形成されている様子が描かれている。この図において、RINは冷媒流入口を指し、RОUTは冷媒流出口を指す。なお、開口部22の外周領域とは、開口部22の外側に位置する領域を意味する。これを換言すれば、電極枠体21において、開口部22を除く領域のことを言う。また、冷媒流路Rに記載の矢印は、流路内を流れる冷媒の向きを表している。
【0041】
このような冷媒流路Rを設けておくことで、電極枠体21の熱による変形を抑制することができるので、スリット状開口部26の形状変化を十分に抑えることができる。
【0042】
この冷媒流路Rは複数設けられていても良い。そのようにすると冷却能力が向上する。この例が図7に示されている。図7では第1の冷媒流路R1と第2の冷媒流路R2とが電極枠体21に設けられている。R1INは第1の冷媒流路R1の冷媒流入口を指し、R1ОUTは第1の冷媒流路の冷媒流出口を指す。同様に、R2INとR2ОUTは、それぞれ第2の冷媒流路R2の冷媒流入口と流出口を指す。
【0043】
一般的に、RINの近傍では冷媒の温度は十分に低いが、RОUTの近傍では冷媒の温度がいくらか上昇してしまうので、冷却ムラが生じる。この冷却ムラによって、スリット電極20に変形を生じさせてしまう恐れがある。
【0044】
この点を改善した構成が、図8に描かれている。ここに記載されている2つの冷媒流路の太さ、流路を構成する部材、そこを流れる冷媒の種類、温度はおおよそ同一のものである。図8では第1の冷媒流路R1の冷媒流入口と第2の冷媒流路R2の冷媒流出口とが隣り合って配置されている。そして、第1の冷媒流路R1の冷媒流出口と第2の冷媒流路R2の冷媒流入口も、隣り合って配置されている。また、第1の冷媒流路R1を流れる冷媒の向きが開口部22を中心にして反時計回りであるのに対して、第2の冷媒流路R2を流れる冷媒の向きが開口部22を中心にして時計回りとなるように設定されている。このような構成にしたので、電極枠体21をおおよそ均一に冷却させることが可能となり、ひいては冷却ムラによって生じる電極枠体21の変形を抑制させることが可能となる。
【0045】
なお、冷却ムラを少なくするには、図8に示された構成の他に様々な変形例が考えられる。これらについて、図9〜図13を用いて説明する。なお、これらの変形例で述べられる複数の冷媒流路の材質や各冷媒流路を流れる冷媒の種類や温度はおおよそ同一のものとする。
【0046】
図9には、図8と同様に各冷媒流路の入口と出口を隣合わせになるように配置し、各冷媒流路(R1、R2)で開口部22を中心にして互いに反対周りとなるように冷媒を流す構成が開示されている。
【0047】
図9では各冷媒流路(R1、R2)を、開口部22を囲むようにおおよそ半周分ずつ設けている。この場合、図8の構成に比べて、冷媒流路の長さが短くて済むので、冷媒流路を設けるための電極枠体21の加工手間を省略することが期待できる。また、冷媒流路として配管を取り付ける場合にはその材料費を低減させることが期待できる。
【0048】
図10には、4本の冷媒流路R1〜R4を用いた例が記載されている。ここでは、第1の冷媒流路R1と第2の冷媒流路R2とが第一の対を成し、第3の冷媒流路R3と第4の冷媒流路R4とが第二の対を成している。対を成す各冷媒流路に着目すると、図8と同様に各冷媒流路の入口と出口とが隣り合って配置されているとともに、各冷媒流路を流れる冷媒の向きが開口部22を中心にして逆向きとなるように設定されている。このような構成を用いても良い。
【0049】
図11(a)には、スリット電極20をZ方向から見たとき、開口部22の開口中心31に対して点対称となるように対となる第1の冷媒流路R1の冷媒流入口R1INと第2の冷媒流路R2の冷媒流入口R2INが配置されている。また、第1の冷媒流路R1の冷媒流出口R1ОUTと第2の冷媒流路R2の 冷媒流出口R2ОUTも同様に点対称となるように配置されている。そして、各冷媒の流路において、反時計回りとなる方向に冷媒が流れるように設定されている。
【0050】
また、図11(b)には、図11(a)に記載の線B−Bによる断面図が記載されている。ここに記載されているように各冷媒流路R1、R2は Z方向の位置が異なるXY平面内に配置されていても構わない。また、流路全体をZ方向の位置が同じ平面内に配置し、流入出口の部分のみをZ方向で異なる位置に配置するようにしても良い。なお、この例では、冷媒流路を流れる冷媒の向きを反時計回りとなるような向きに設定する例について述べたが、これとは反対に時計周りとなるような向きに設定しても良い。
【0051】
電極枠体21の材料がアルミニウムのように比較的熱伝導率が高い金属で構成されている場合、開口部22の外周領域において、開口部22の周囲を囲むようにして冷媒流路を配置する必要がない。例えば、電極枠体21の形状が直方体であり、図12に示されているようにZ方向から見た面が長方形状をしている場合、長辺方向であるY方向に沿って開口部21をX方向から挟むように第1の冷媒流路R1と第2の冷媒流路R2とを配置しておけば良い。なお、この図12の例も図11の例と同じく、各冷媒流路の冷媒流入口と冷媒流出口との関係が、開口部22の開口中心31に対して、点対称となるように配置されている。そして、ここでは図11の例と異なり、各冷媒流路を流れる冷媒の向きは互いに反対方向となるように設定されている。なお、冷却ムラを考慮する必要がなければ、各冷媒流路を流れる冷媒の向きを同じ方向にしておいても良い。
【0052】
このような構成にしておけば、電極枠体21の長辺部分に配置された各冷媒流路からの冷気が電極枠体21の短辺方向に伝達されて、電極枠体21の全体が冷却されることが期待できる。また、この構成を用いると、各冷媒流路を直線上に設けるだけで良いので、これまでに説明した冷媒流路の例に比べて、電極枠体21の内部に冷媒流路を作る際の手間を大幅に省略することができる。
【0053】
図13には、図12の構成にさらに2本の冷媒流路を加えた例が記載されている。ここでは、第1の冷媒流路R1と第2の冷媒流路R2とが第一の対を成し、第3の冷媒流路R3と第4の冷媒流路R4とが第二の対を成している。対を成す各冷媒流路に着目すると、図11の例と同様に各冷媒流路の冷媒流入口と冷媒流出口とが開口中心31に対して点対称となるように配置されている。そして、対となる冷媒流路を流れる冷媒の向きが互いに逆向きとなるように設定されている。このような構成を用いても良い。なお、図12の例と同じく、冷却ムラを考慮しない場合には、対となる冷媒流路を流れる冷媒の向きを同じ向きとなるように設定しても良い。
【0054】
以上のように図9〜図13に述べたような構成を用いても図8の構成と同様に場所に応じた冷却能力をおおよそ均一なものにすることができ、冷却ムラを抑制することができる。
【0055】
さらに、上記例では、一対あるいは二対の冷媒流路を配置する構成について述べたが、それに限らず、三対以上の冷媒流路を設けるようにしても良い。
【0056】
<その他の変形例>
これまでの実施形態では、電極枠体21の蓋体取り付け部28の外側領域に冷媒流路Rが設けられていたが、図14のように蓋体取り付け部28の下方(Z方向側)に配置しておいても良い。
【0057】
更に、これまで蓋体24を有する電極枠体21の構成について述べたが、このような構成以外に、図15(a)に示される電極枠体21を用いても良い。この電極枠体21は、左側電極枠体21Lと右側電極枠体21Rとの2つの電極枠体を組み合わされたもので、両枠体の組み合わせは、Y方向端部で雄ネジが形成されたボルト32と雌ネジが形成されたナット33とを螺合させることで行なわれる。
【0058】
この電極枠体21では、電極棒支持部27が電極枠体21のZ方向における略中央部分に形成されており、ここに各電極棒23の端部が配置される。この電極支持部27の様子が、図15(a)に記載の線C−Cによる断面図である図15(b)に描かれている。
【0059】
また、電極枠体21の構成について、図15(a)、(b)に示された例の他に図16(a)、(b)に示される構成を用いても良い。両者は、2つに分割された電極枠体21L、21Rの分割構造が異なる。図15(a)、(b)に開示の構成はX方向に2つの電極枠体21L、21Rが分割される構成であったが、図16(a)、(b)に開示の構成はZ方向に分割される。このような電極枠体21の構成にも本発明は適用できる。
【0060】
本発明が適用される電極枠体21に形成される開口部22は長方形状である必要はなく、それ以外の形状であっても良い。例えば、円形状や楕円形状、多角形状のものであっても良く、開口部22に電極棒23を配置した際に、イオンビーム3を通過させるスリット状開口部26が形成されるものであれば、どのような形状であっても良い。
【0061】
電極棒23の材質としては、高温に加熱されることから高融点材料(例えば、モリブデン、タングステン)が用いられることが考えられる。
【0062】
上述した実施形態では、イオンビーム照射装置に用いられるイオン源に本発明のスリット電極20が適用される例について述べてきたが、電子ビーム照射装置で用いられる電子源に本発明のスリット電極20を適用させても良い。電子源においてもイオン源と同じく、電子ビームの引出し時に電極部が加熱される問題が生じるので、本発明のスリット電極20を適用させることができる。
【0063】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0064】
1・・・イオン源
20・・・スリット電極
21・・・電極枠体
22・・・開口部
23・・・電極棒
24・・・蓋体
25・・・ネジ
26・・・スリット状開口部
27・・・電極支持部
28・・・蓋体取り付け部
29・・・穴
30・・・隙間
R・・・冷媒流路
IN・・・冷媒流入口
ОUT・・・冷媒流出口
R1・・・第1の冷媒流路
R2・・・第2の冷媒流路
R3・・・第3の冷媒流路
R4・・・第4の冷媒流路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する電極枠体と、
長手方向において前記電極枠体に対して移動可能に支持されているとともに、前記長手方向と略直交する方向に沿って前記開口部に並設された複数本の電極棒とを備えたスリット電極であって、
前記電極枠体には、少なくとも前記開口部の外周領域の一部に冷媒を流入する為の冷媒流入口と前記電極枠体から冷媒を流出する為の冷媒流出口とを備えた冷媒流路が設けられていることを特徴とするスリット電極。
【請求項2】
前記冷媒流路が複数本設けられていることを特徴とする請求項1記載のスリット電極。
【請求項3】
前記冷媒流路は前記開口部を囲むように配置された少なくとも一対の冷媒流路で構成されているとともに、対を成す前記冷媒流路において、一方の冷媒流路に設けられた冷媒流入口と他方の冷媒流路に設けられた冷媒流出口が隣り合って配置されていて、かつ、前記開口部の周りを流れる冷媒の向きが、各冷媒流路で互いに同じ向きとなるように構成されていることを特徴とする請求項2記載のスリット電極。
【請求項4】
前記冷媒流路は前記開口部を囲むように配置された少なくとも一対の冷媒流路で構成されているとともに、対を成す前記冷媒流路において、各冷媒流路に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口とが前記開口部の中心に関して点対称となるように配置されていて、かつ、前記開口部の周りを流れる冷媒の向きが、各冷媒流路で互いに同じ向きとなるように構成されていることを特徴とする請求項2記載のスリット電極。
【請求項5】
前記冷媒流路は前記開口部を囲むように配置された少なくとも一対の冷媒流路で構成されているとともに、対を成す前記冷媒流路において、各冷媒流路に設けられた冷媒流入口と冷媒流出口とが前記開口部の中心に関して点対称となるように配置されていて、かつ、前記開口部の周りを流れる冷媒の向きが、各冷媒流路で互いに逆向きとなるように構成されていることを特徴とする請求項2記載のスリット電極。
【請求項6】
前記開口部は長方形状であり、前記開口部の長辺方向に沿って前記複数本の電極棒が並設されているとともに、前記開口部をその短辺方向に挟んで、前記開口部の長辺方向に沿って少なくとも一対の直線形状の冷媒流路が設けられていることを特徴とする請求項2記載のスリット電極。
【請求項7】
荷電粒子ビーム引出し用の電極として、請求項1、2、3、4、5または6記載のスリット電極を備えていることを特徴とする荷電粒子ビーム発生装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate