説明

スルホブチルエーテルシクロデキストリン塩を含有する内水相を有するリポソーム

二重層および内水相を含むリポソームが開示される。前記内水相はスルホブチルエーテルシクロデキストリン塩および活性な化合物を含有する。前記スルホブチルエーテルシクロデキストリン塩は、スルホブチルエーテルα−シクロデキストリン、スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンまたはスルホブチルエーテルγ−シクロデキストリンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホブチルエーテルシクロデキストリン塩を含有する内水相を有するリポソーム、そのようなリポソームを製造するための方法、および、腫瘍疾患を処置するための医薬品を調製することにおけるその使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
薬物のキャリアとして、リポソームは、例えば治療効率を高めること、有害作用を軽減すること、標的送達および遅延放出の特徴を有する。特にリポソームが抗腫瘍薬物のキャリアとして使用される場合、その薬物は、腫瘍領域に標的送達されることができ、したがって、その薬物は、低下した毒性および高まった効力を有する。
【0003】
臨床応用には、多くの抗腫瘍薬物があり、これらは、5つの群に分類することができる:細胞傷害性薬剤、ホルモン、生物学的応答調節剤、モノクローナル抗体および他の抗腫瘍薬物。なかでも、細胞傷害性薬剤は、最大の市場占有率を得ており、これらは、作用機構に従って下記の5つの群に分類することができる:(1)DNAの化学構造に対して作用する薬物、例えばアルキル化剤および白金化合物;(2)核酸合成を改変する薬物、例えばメトトレキサートおよびフルオロウラシル;(3)核酸の転写に対して作用する薬物、例えばドキソルビシンおよびエピドキソルビシン;(4)チューブリン合成に対して作用する薬物、例えばタキサン系薬物およびビンカアルカロイド;トポイソメラーゼに対して作用する薬物、例えばカンプトテシン;(5)他の細胞傷害性薬物。なかでも、(2)および(4)の群の薬物は、細胞周期特異性のものであり、悪性腫瘍細胞の増殖周期の特定の段階における細胞のみを殺すことができる。ビノレルビンおよびトポテカンが、これらの群に属するものであり、本発明において集中して研究される。
【0004】
細胞周期特異性を有する抗腫瘍薬物がリポソームに調製される場合、毒性を軽減し、かつ効力を高めることを目的として、リポソームからの薬物放出を制御することが必要である。リポソームからの薬物放出が速すぎる場合には、次の結果が生じるであろう:(1)薬物の一部が腫瘍領域到達前にリポソームから放出され、血液から急速に排出されるので、腫瘍領域に到達しない;(2)腫瘍細胞が同時に種々の成長段階にあることを考慮すると、腫瘍領域に到達する薬物は、特定の段階から外れている細胞を殺すことができず、このことは、腫瘍細胞に対する薬物の大きく低下した暴露を引き起こし、不十分な治療効果しか得られず、しかし、正常な組織の毒性応答を誘発する。したがって、細胞周期特異性を有する抗腫瘍薬物に対しては、特にリポソームからの薬物放出を制御することが重要である。
【0005】
リポソーム型薬物の放出は、特に粒子サイズ、脂質膜組成、内水相および薬物負荷の方法を含む様々な要因によって影響される。薬物負荷の方法には、能動的な薬物負荷および受動的な薬物負荷が含まれる。受動的な薬物負荷は、一般に脂質溶解性薬物について適しており、一方、能動的な薬物負荷は、一般に水溶性薬物について適している。ビノレルビンおよびトポテカンはともに、水溶性の弱アルカリ度薬物であるので、能動的な薬物負荷が、それらのリポソームを調製するために選ばれる。能動的な薬物負荷の3つの方法が、この技術分野では一般に使用される:pH勾配法、硫酸アンモニウム勾配法および錯化勾配法。
【0006】
(1)pH勾配法
この方法は、カナダの研究者らによって1980年代に発明される。彼らは、医薬用アルカロイド、例えばドキソルビシンが、pH勾配の存在下でリポソーム内に能動的に輸送され、特異的に凝集され得ることを発見した。調製プロセスにおける最初は、内水相の緩衝液および外側相の緩衝液を選ぶことであり、このことは、緩衝液により、貯蔵されている薬物の安定性および生体内における薬物の放出が直接的に決定されるので、非常に重要である。ブランクリポソームが、内水相の緩衝液との水和によって形成される。このようにして得られたブランクリポソームは、さらに粒子サイズを所望の範囲に縮小するために処理される。次に、pH勾配を外側膜貫通相と内側膜貫通相との間で形成するように、リポソームの外側相は、クロスフロー透析、カラムクロマトグラフィーおよびpH調節などの技術的手段を使用することによって、置き換えられ得る。そのような膜貫通勾配が形成された後に、薬物負荷が、適切な温度で達成され得る。
【0007】
また、膜貫通pH勾配は、イオノホアを使用して形成することができる。ブランクリポソームの調製の期間中に、二価イオンの塩、例えば硫酸マンガンがリポソームにカプセル封入され、その後、リポソームの外側相が、イオノホア、例えばA23187やEDTAを含有する緩衝液によって置き換えられる。イオノホアは、特異的に二価イオンを膜の外側に輸送し、Hをリポソームの内側に輸送することができる。上記方法の使用は、また、膜の内側と外側との間にpH勾配を形成することができる。
【0008】
pH勾配による薬物負荷の機構は、集中的に研究されてきた。市場において入手可能な3つのアントラサイクリン系リポソーム調製物のなかで、2つの調製物が、pH勾配を使用する能動的な薬物負荷によって調製される。
【0009】
(2)硫酸アンモニウム勾配法
硫酸アンモニウム勾配法は、イスラエルの研究者らによって1990年代初期に発明される。この方法における調製プロセスは、従来のpH勾配法における調製プロセスと類似している。最初に、ブランクリポソームが、硫酸アンモニウム緩衝液の使用によって調製される。その後、リポソームの外側相における硫酸アンモニウムが、脂質膜の内側と脂質膜の外側との間で硫酸アンモニウムの勾配を形成するために、特にクロスフロー透析によって除かれる。その後、薬物負荷が、加熱条件下で達成される。硫酸アンモニウム勾配による薬物負荷が、遊離アンモニアの膜貫通拡散によって引き起こされる、リン脂質膜の内側と外側との間におけるpHの差に、関連付けられ得ることが、初期の研究において確認される。しかしながら、硫酸アンモニウム勾配法を使用する薬物負荷が二方向の拡散の複雑なプロセスであり得ること、および、pH勾配の形成が様々な要因のただ1つにすぎないかもしれないことが、厳密な理論的推論によって示される。
【0010】
硫酸アンモニウム勾配法の利点は、硫酸アンモニウム水溶液のほぼ中性のpHが、過剰なリン脂質分子の加水分解を誘発し得ないことにある。これは、もし飽和したリン脂質がリポソームを調製するために使用されるならば、比較的高い温度が、要求されるからである。脂質は、従来のpH勾配法が使用されるときには、加水分解されやすい。そのうえ、硫酸アンモニウム勾配法を使用して調製されるリポソームの生体内薬物放出は、異なり得る。
【0011】
(3)錯化勾配法
この方法では、遷移金属イオンの塩、例えば硫酸銅または硫酸ニッケルが、ブランクリポソームを調製するための内水相の緩衝液において使用される。次に、リポソームの外側にある金属イオンが、金属イオンの勾配を脂質膜の内側と外側との間で形成するために、なかでもクロスフロー透析によって除かれる。その後、薬物負荷が、加熱条件下で達成される。薬物負荷の機構は、薬物がリポソームの内水相において遷移金属イオンとの安定な複合体を形成し、したがって、リポソーム内に閉じ込められることである。
【0012】
スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン(SBE−β−CD)は、米国のCydexによって1990年代に開発されたβ−シクロデキストリン(β−CD)のイオン化誘導体であり、これは1,4−ブタンスルトンとのβ−CDの置換反応の生成物である。その置換は、SBE−β−CDのグルコースユニットにおける2、3、6位のヒドロキシル基において生じ得る。SBE−β−CDは、例えば良好な水溶性、低い腎毒性および低い溶血という利点を有する優れた医薬用賦形剤であり、注射用賦形剤としてFDAによって認可されている。
【0013】
SBE−β−CDは、これまで不溶性薬物の包接による可溶化のために使用されており、例えば、特に注射、経口配合物、局所配合物において、様々な投薬形態で、広範囲に使用されている。Chakrabortyは、SBE−β−CDによる不溶性薬物の包接による可溶化を使用することを目的として、アンホテリシンBのリポソーム調製を調べるためにSBE−β−CDを使用した(非特許文献1参照)。
【0014】
Wang Zhixuan & Deng Yingjieらは、不溶性薬物を水溶性シクロデキストリン錯体にし、その錯体をリポソームの内水相に閉じ込めることによって調製される、リポソーム包括された薬物シクロデキストリン錯体の世界中の研究を総説する(非特許文献2参照)。不溶性薬物がリポソームの内水相の中に入ることは困難であり、一方、シクロデキストリンによる錯化包接は、不溶性薬物の水溶性を増大させ、したがって、その薬物をリポソームに閉じ込めることが容易である。薬物をリポソーム包括された薬物シクロデキストリン錯体にすることの主たる目的は、不溶性薬物の溶解性、したがって、薬物負荷を増大させることである。
【0015】
抗腫瘍治療における第一線の薬物として、ビノレルビンおよびトポテカンのリポソーム調製物が、集中的に研究されている。今日、リポソーム型ビノレルビンおよびリポソーム型トポテカンの薬物負荷が、多くの研究者グループによって研究されている。しかしながら、いくつかの問題が、例えば下記のように生じている。
【0016】
カナダのInex社は、スフィンゴミエリンおよびコレステロールを脂質膜として55:45のモル比で使用し、ブランクリポソームを調製するための内水相として硫酸マグネシウム溶液を使用し、その後、マグネシウムイオンをイオノホアA23187によりリポソーム膜から輸送し、かつHをリポソームの内側に輸送し、したがって、pH勾配を生じさせることによって、薬物負荷を達成する。そのようにして得られたリポソーム型ビノレルビンは、90%を超えるカプセル封入率を有し、2〜8℃で1年間貯蔵されるとき、安定である(非特許文献3参照)。
【0017】
Ballyによって率いられるカナダの研究グループは、2つの方法を使用し、高いカプセル封入率を有するトポテカンリポソームを得ている。第1の方法では、DSPCおよびコレステロールが、脂質膜として使用され、硫酸マンガン溶液が、ブランクリポソームを調製するために内水相として使用される。その後、pH勾配が、イオノホアA23187を使用して形成され、薬物負荷が達成される。この方法の機構は、Inex社によって使用される機構と類似している。第2の方法では、DSPCおよびコレステロールが、脂質膜として使用され、硫酸銅溶液が、ブランクリポソームを調製するために内水相として使用される。しかしながら、安定な錯体が、銅イオンとトポテカンとの間で形成されるので、トポテカンの負荷が、A23187を加えることなく達成される。この場合に使用される原理は、ちょうど上記に記載されるような錯化勾配法である。この方法の欠点は、配合物における残留金属イオンが、血液において毒性影響を引き起こし得ることである(非特許文献4および5参照)。
【0018】
米国の研究者らは、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、コレステロールおよびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−メトキシル−ポリエチレングリコールコンジュゲート(DSPE−mPEG)を脂質膜として使用し、スクロースオクタスルファートのトリエチルアミン(TA)塩を、ブランクリポソームを調製するために内水相として使用する。その後、TAスクロースオクタスルファートが、TAスクロースオクタスルファートの勾配を形成するために、特にクロスフロー透析を使用して除かれ、薬物の負荷が達成される。その原理は、硫酸アンモニウム勾配法で使用される原理と実質的に同一である。しかしながら、それぞれのスクロースオクタスルファート分子は、8個の酸基を有しており、ビノレルビンとの強固な錯体を形成することができ、したがって、ビノレルビンが十分に閉じ込められる。そのようにして得られたビノレルビンリポソームの血漿半減期は、9.2時間にまで達する(非特許文献6参照)。この方法における重大な関心事は、スクロースオクタスルファートが生理学的に活性であり、線維芽細胞の増殖因子を生体内で活性化し(非特許文献7参照)、一連の生理学的影響を誘発することである。したがって、スクロースオクタスルファートを注射用賦形剤として使用することは、大きなリスクを有し得る。
【0019】
米国のAlza社は、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、コレステロールおよびDSPC−mPEGを脂質膜として使用し、ポリアニオンポリマー、例えばデキストランスルファート、プロテオグリカンスルファートおよびセルローススルファートを内水相において使用する。その後、クロスフロー透析が、外側相を置き換え、ポリマーの勾配を形成するために使用され、薬物負荷が達成される。その原理は、硫酸アンモニウム勾配法で使用される原理と類似している。この方法は、トポテカンとのポリアニオンポリマーの強固な錯体を形成するという目的を有しており、したがって、薬物が、十分に閉じ込められる。この方法の欠点は、また、ポリアニオンポリマーが生理学的に活性であり、生体内で代謝されることが困難であり、その結果、その安全性がさらに研究されなければならないことである(リポソーム包括化トポイソメラーゼ阻害剤、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許6465008号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Therapeutic and hemolytic evaluation of in-situ liposomal preparation containing amphotericin-B complexed with different chemically modified β-cyclodextrins; J Pharm Pharmaceut Sci. 2003 Vol.6, No.2
【非特許文献2】Wang Zhixuan & Deng Yingjie, et al., Advances in liposome entrapped drug cyclodextrin complex delivery systems; Journal of Shenyang Pharmaceutical University, 2006 Vol.23
【非特許文献3】Optimization and characterization of a sphingomyelin/cholesterol liposome formulation of vinorelbine with promising antitumor activity; Journal of Pharmaceutical Sciences, 2005 Vol.94 No.5
【非特許文献4】An evaluation of transmembrane ion gradient-mediated encapsulation of topotecan within liposomes; Journal of Controlled Release. 96 (2004)
【非特許文献5】Copper-topotecan complexation mediates drug accumulation into liposomes; Journal of Controlled Release. 114 (2006)
【非特許文献6】Improved pharmacokinetics and efficacy of a highly stable nanoliposomal vinorelbine; The journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics. 2009 Vol.328 No.1
【非特許文献7】Structural basis for activation of fibroblast growth factor signaling by sucrose octasulfate; MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY, Oct. 2002, Vol. 22, No. 20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記から、弱アルカリ度薬物、例えばビノレルビンおよびトポテカンのリポソームの研究が、pH勾配法、一般的な硫酸アンモニウム勾配法および錯化勾配法に集中することが知られる。しかしながら、それらは、実験室で試験されるだけであり、また、使用される物質は、安全性のリスクを有する:(1)上記研究において使用されるポリアニオン性塩、例えばスクロースオクタスルファートのトリエチルアミン塩およびスルファートポリマーは、すべて生理学的に活性であり、賦形剤は生理学および薬理学において不活性でなければならないとの要件を満たしていない;(2)上記錯化勾配法において使用される銅イオン、ニッケルイオン、マンガンイオンは、すべて重金属イオンであり、配合物におけるそれらの残留は、ヒトにとって有害である。そのうえ、腫瘍は、治療困難であり、かつ、薬物治療は、一般に長期間であるので、重金属イオンの生体内蓄積は、患者の許容性を超えるであろう。
【0023】
したがって、新規なリポソームおよび対応する薬物負荷方法を開発することが、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
1つの態様において、本発明は、二重層および内水相を含むリポソームであって、内水相がスルホブチルエーテルシクロデキストリンまたはその塩および活性な化合物を含有するリポソームを提供する。
【0025】
本発明におけるリポソームのいくつかの実施形態によれば、この場合、スルホブチルエーテルシクロデキストリンは、スルホブチルエーテル−α−シクロデキストリン、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンまたはスルホブチルエーテル−γ−シクロデキストリンである。
【0026】
本発明におけるリポソームのいくつかの実施形態によれば、この場合、それぞれのスルホブチルエーテルシクロデキストリン分子は、平均して約6.5個のスルホ基を有する。
【0027】
本発明におけるリポソームのいくつかの実施形態によれば、この場合、スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩は、アミン、金属イオンおよびアンモニウムイオンの1つまたは複数とともに、スルホブチルエーテルシクロデキストリンによって形成される。
【0028】
本発明におけるリポソームのいくつかの実施形態によれば、この場合、スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩は、アンモニア(NH)、トリエチルアミン(TA)、トリエタノールアミン(TEA)、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンの1つまたは複数とともに、スルホブチルエーテルシクロデキストリンによって形成される。
【0029】
本発明におけるリポソームのいくつかの実施形態によれば、この場合、活性な化合物は、弱アルカリ度化合物であり、好ましくは、ビノレルビン、ビンクリスチン、トポテカンおよびイリノテカンから選択される1つまたは複数である。
【0030】
本発明におけるリポソームのいくつかの実施形態によれば、この場合、二重層は、リン脂質、コレステロール、および親水性ポリマーにより修飾された脂質を含む。
【0031】
別の態様において、本発明は、上記に記載される本発明のリポソームを調製するためのプロセスであって、以下の工程、
(1)脂質相粉末をスルホブチルエーテルシクロデキストリンまたはその塩の水溶液により水和して、スルホブチルエーテルシクロデキストリンまたはその塩の水溶液を内水相として含むブランクリポソームを形成すること、
(2)工程(1)で得られるブランクリポソームの外側相におけるスルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩を除いて、アニオン勾配を形成すること、
(3)任意選択的に、スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩が金属イオンの塩であるならば、金属イオンのイオノホアを工程(2)で得られるブランクリポソームの外側相に加えて、pH勾配を形成すること、および
(4)工程(2)または工程(3)で得られるブランクリポソームを活性な化合物と水溶液中でインキュベーションして、活性な化合物をリポソームにカプセル封入すること、
を含むプロセスを提供する。
【0032】
本発明におけるリポソームを調製するためのプロセスの1つの実施形態によれば、この場合、金属イオンのイオノホアは、イオノホアA23187である。
【0033】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載される本発明のいずれかによるリポソームと、医薬的に許容され得るキャリアおよび/または賦形剤とを含むリポソーム医薬調製物を提供する。
【0034】
本発明におけるリポソーム医薬調製物のいくつかの実施形態によれば、この場合、キャリアおよび/または賦形剤は、浸透圧調節剤および/または酸化防止剤を含む。
【0035】
別のさらなる態様において、本発明は、患者における腫瘍を治療するための医薬品を製造することにおける、上記に記載される本発明のいずれかによるリポソームの使用であって、リポソームにおける活性な化合物が、ビノレルビン、ビンクリスチン、トポテカンおよびイリノテカンの1つまたは複数である使用を提供する。
【0036】
新規な方法の開発は、従来の薬物負荷の機構に関する研究に基づく。第1に、次のプロセスを含む硫酸アンモニウム勾配法が分析される:濃度差およびpH差によって駆動される場合、リポソームの外側相における高濃度薬物は、脂質膜(リン脂質二重層)の抵抗に打ち勝ち、リポソームの内水相の中に入る。内水相の中に入る薬物はプロトン化され、SO2−とともに沈殿し、リポソームに安定的に閉じ込められる。薬物放出のためには沈殿物から解離させ、リポソームから拡散させることが必要となる。したがって、沈殿物の微視的構造および溶解性により、リポソームからの薬物の放出速度が決定され、また、配合物の安全性および有効性がさらに決定される。
【0037】
薬物およびSO2−によって形成される沈殿物の微視的構造および複雑性が、薬物の空間的構造および弱いアルカリ度に関連付けられる。いくつかの薬物、例えばドキソルビシン塩酸塩は、その強いアルカリ度のためにSO2−との沈殿物を形成しやすい。そのうえ、薬物分子は、分子の準平面的構造のために互いに積み重なることができ、微視的に示されると、密な細長い沈殿物が、リポソーム内において形成される。したがって、ドキソルビシン塩酸塩は、リポソームに十分に閉じ込められ、KMマウスにおけるそのリポソーム配合物の半減期t1/2が、15時間を超える。それとは反対に、他の薬物、例えばビノレルビンおよびトポテカンは、アルカリ度が弱く、したがって、SO2−とともに沈殿する能力は十分でなく、また、薬物分子は、分子の非平面的構造のために互いに積み重なることができない。したがって、KMマウスにおけるt1/2は、リポソームがたとえ上記のドキソルビシン塩酸塩リポソームの脂質組成および方法と同じ脂質組成および方法を使用することによって調製されるとしても、5時間未満である。半減期が非常に短いので、リポソームから血液循環内に滲出する薬物のほとんどは腫瘍領域に到達することができない。腫瘍領域に到達した小さい比率のリポソーム型薬物でさえ、素早く放出されてなくなるであろう。これは、細胞周期特異性を有する抗腫瘍薬物にとって、その効果を発揮するためには望ましくない。薬物放出のための非常に重要な要因の1つが、薬物およびアニオンの間で形成される沈殿物の複雑性であると結論される。
【0038】
薬物、例えばビノレルビンおよびトポテカンの弱いアルカリ度は、変えることができず、したがって、薬物と会合し、薬物との密な沈殿物を形成することができるアニオンを見出すことが非常に重要であり、また、複雑な構造を有するポリアニオン性化合物は、それらとの安定な錯体を形成するかもしれない。
【0039】
弱アルカリ度薬物、例えばビノレルビンまたはトポテカンの効率的なカプセル封入が、本発明において、達成され得ることが、実験的に明らかにされる。インビトロ放出試験および薬物動態試験により、従来の硫酸アンモニウム内水相配合物との比較において、本発明のリポソーム型薬物の放出速度が、顕著に延ばされることが、確認される。本発明は、またビノレルビンおよびトポテカンの類似する弱いアルカリ度を有する他の抗腫瘍薬物、例えばビンクリスチンおよびイリノテカンについても適している。
【0040】
本発明者らは、SBE−β−CDの包接作用を使用するという従来の考えを打破し、しかし、SBE−β−CDをリポソームの内水相として使用するために、また薬物を能動的に負荷するために、そのマルチアニオン性を用いている。薬物を負荷するために、スルホブチルエーテルシクロデキストリン塩を内水相として使用することは、硫酸アンモニウムを内水相として使用する際の原理と類似する原理を有し、これによって、内水相におけるアニオンが薬物分子との沈殿物を形成し、したがって、薬物放出を延ばす。しかしながら、それぞれのスルホブチルエーテル分子は平均して6.5個のSO2−を有しており、多数の薬物分子に同時に結合することができ、かつ、より複雑な沈殿物構造を形成することができる。したがって、高いカプセル封入率が達成され、また、薬物保持時間が、硫酸アンモニウムを内水相とするリポソームとの比較において、著しく延ばされる。
【0041】
本発明においてスルホブチルエーテルシクロデキストリンを用いて調製されるリポソームは、従来のシクロデキストリン包接リポソームとは全く異なる。本発明は、不溶性薬物の溶解性問題を解決するためではなく、弱アルカリ度薬物のリポソームにおける保持時間を延ばすためであり、かつ、薬物のカプセル封入率を増大させるためである。加えて、本発明における実施例では、リポソームが、スルホブチルエーテルシクロデキストリンの包接作用を使用することによってのみ調製されるときには、カプセル封入率が非常に低かったことが確認され、これは臨床における薬物治療要求を満たすことができない。
【0042】
良好な特性を有するリポソーム調製物を得るためには、スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩が、最初に調製されなければならず、その後、リポソームが、適切な方法を使用して調製されなければならない。本発明において使用される方法は、下記を含む:
(A)スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩の調製:スルホブチルエーテルシクロデキストリンの水溶液を調製し、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化カルシウムにより塩化すること。
(B)リポソームの調製:脂質賦形剤を有機溶媒に溶解し、有機溶媒を凍結乾燥によって除き、その後、疎性の脂質粉末を得て、この脂質相粉末をスルホブチルエーテルシクロデキストリン塩の水溶液により水和して、ブランクリポソームを形成すること。その後、ミクロジェット装置または高圧押出し装置によってブランクリポソームの粒子サイズを縮小し、特に透析またはカラムクロマトグラフィーによってリポソームの外側相におけるスルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩を除いて、アニオンの膜貫通勾配を形成すること。もし使用されるスルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩が、金属イオンの塩であるならば、金属イオノホアの添加が、必要とされる。金属イオノホアは、内側の金属イオンと外側の水素イオンとを交換するために、リン脂質膜に挿入することができ、したがって、pH勾配が形成される。その後、リポソーム調製物が、薬物溶液およびリポソーム懸濁物とのインキュベーションによって、得られる。
【0043】
本発明において使用されるスルホブチルエーテルシクロデキストリンは、現時点では輸入されなければならない。しかしながら、スルホブチルエーテルシクロデキストリンは、良好な品質で大量製造することができ、大規模製造の要請に合致することができる。
【0044】
まとめると、本発明において、スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩をリポソームの内水相として使用することが、薬物のカプセル封入、保持効果および経済的コストを考慮して、完全に実現可能である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、下記の実施例によって例示されるが、それは、単に例示にすぎず、本発明の範囲に対する限定として解釈してはならない。
【0046】
本明細書中で使用される場合、薬物/脂質比は、薬物対リン脂質の重量比率を示し、「DSPE−mPEGの含有量」は、リポソームの二重層での総リン脂質成分におけるそのモル百分率を示す。
【実施例】
【0047】
〔実施例1〕
スルホブチルエーテルシクロデキストリン(SBE−CD)を内水相とする(SBE−CDの配合による)リポソームの調製の一般的プロセス
HSPC、コレステロールおよびDSPE−mPEG2000が、3:1:1の質量比で混合され、95%のt−ブチルアルコールに溶解された。有機溶媒は、凍結乾燥によって除かれ、疎性の脂質粉末を得た。この粉末は、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンの水溶液により50〜60℃で水和され、1時間インキュベーションされて、不均一なマルチベシクルリポソームを得た。リポソームの粒子サイズは、ミクロジェット装置によって縮小された。ブランクリポソームの外側相におけるアニオンは、限外ろ過装置によって除かれ、動的な膜貫通勾配を形成した。薬物水溶液は、適切な薬物/脂質比でブランクリポソームに加えられ、薬物負荷は、60℃での1時間のインキュベーションによって達成された。
【0048】
〔実施例2〕
スルホブチルエーテルシクロデキストリンのトリエチルアミン塩を内水相とする(SBE−CD/TAの配合による)リポソームの調製の一般的プロセス
HSPC、コレステロールおよびDSPE−mPEG2000が、3:1:1の質量比で混合され、95%のt−ブチルアルコールに溶解された。有機溶媒は、凍結乾燥によって除かれ、疎性の脂質粉末を得た。この粉末は、スルホブチルエーテルシクロデキストリンのトリエチルアミン塩の水溶液により50〜60℃で水和され、1時間インキュベーションされて、不均一なマルチベシクルリポソームを得た。リポソームの粒子サイズは、高圧押出し装置によって縮小された。ブランクリポソームの外側相におけるアニオンは、限外ろ過装置によって除かれ、動的な膜貫通勾配を形成した。薬物水溶液は、適切な薬物/脂質比でブランクリポソームに加えられ、薬物負荷は、60℃での1時間のインキュベーションによって達成された。
【0049】
〔実施例3〕
スルホブチルエーテルシクロデキストリンのナトリウム塩を内水相とする(SBE−CD/Naの配合による)リポソームの調製の一般的プロセス
HSPC、コレステロールおよびDSPE−mPEG2000が、3:1:1の質量比で混合され、95%のt−ブチルアルコールに溶解された。有機溶媒は、凍結乾燥によって除いて、疎性の脂質粉末を得た。この粉末は、スルホブチルエーテルシクロデキストリンのナトリウム塩の水溶液により50〜60℃で水和され、1時間インキュベーションされて、不均一なマルチベシクルリポソームを得た。リポソームの粒子サイズは、高圧押出し装置によって縮小された。ブランクリポソームの外側相におけるアニオンは、カラムクロマトグラフィーによって除かれ、その後、適量でのニッコマイシンのエタノール溶液を加えられた(1mgのHSPCあたり20ngのニッコマイシン)。得られた混合物は、60℃で10分間インキュベーションされて、その結果、リポソーム膜を越えて水素イオンおよびナトリウムイオンを交換するようにされ、その結果、pH勾配を形成するようにされた。薬物水溶液は、適切な薬物/脂質比でブランクリポソームに加えられ、薬物負荷は、60℃での1時間のインキュベーションによって達成された。
【0050】
〔実施例4〕
様々な内水相を含有するリポソームのカプセル封入率の比較
3つのそれぞれの内水相を有する様々な薬物のリポソームが、2:9.58の薬物/脂質比で、実施例1、2および3に記載されるように調製された(表1を参照のこと)。
【0051】
表1:薬物負荷に対するリポソーム内捕捉剤の影響
【表1】

【0052】
結論:開示されるようなカプセル封入率から理解され得るように、SBE−CDを内水相として有するリポソームは、カプセル封入率が不良であり、一方、高いカプセル封入率が、SBE−CD/TAおよびSBE−CD/Naにより達成された。このことは、良好なカプセル封入が、pH勾配がイオン輸送によって形成されない限り達成され得ないことを例示する。薬物は、リポソームの内水相に入った後、最初にプロトン化され、その後、SBE−CDと会合し、一方、薬物負荷は、ほとんど達成されず、SBE−CDの包接作用にもっぱら依存する。
【0053】
〔実施例5〕
異なる内水相を含有するリポソーム型ビンクリスチン配合物のインビトロ放出(SBE−CD/TA対硫酸アンモニウム)
1.サンプル
ビンクリスチンリポソームは、3:9.58の薬物/脂質比で調製された。ここで、SBE−CD/TAを内水相として有するリポソームについては、実施例2で記載されるように、また、硫酸アンモニウムを内水相として有するリポソームについては、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリントリエチルアミン塩を硫酸アンモニウムにより置き換えることを除いて実施例2に記載されるように、調製された。
【0054】
2.放出条件
リポソーム型ビンクリスチン配合物のサンプルは、放出緩衝液(5mM NHCl/10mM ヒスチジン/260mM グルコース、pH7.0)に10倍希釈され、透析バッグに移された。透析は、溶解フラスコにおいて200倍体積の透析緩衝液に対して行われた。放出試験は、37℃、75rpmで行われた。様々な時点(1h、2h、4h、6h、8h、24h)で、アリコートが、分析のために抜き取られた。
【0055】
3.結果
表2:異なる内水相を有するビンクリスチンリポソームの放出
【表2】

【0056】
結論:硫酸アンモニウムを内水相として有するリポソームとの比較において、SBE−CD/TAを内水相として有するリポソームは、内水相における薬物の保持を著しく延ばした。
【0057】
〔実施例6〕
SBE−CD/NHおよび硫酸アンモニウムを混合内水相として含有するリポソーム型ビノレルビン配合物のインビトロ放出
1.サンプル
ビノレルビンリポソームは、3:9.58の薬物/脂質比で調製された。ここで、表3のA〜Fに記載されたSBE−CD/NHおよび硫酸アンモニウムの混合溶液により、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリントリエチルアミン塩を置き換えることを除いて、実施例2に記載されるように、調製された。
【0058】
表3:SBE−CD/NHおよび硫酸アンモニウムを混合内水相として含有するリポソーム型ビノレルビンについての配合
【表3】

【0059】
2.放出条件
リポソーム配合物のサンプルは、放出緩衝液(2mM NHCl/10mM ヒスチジン/250mM グルコース、pH7.5)に10倍希釈され、透析バッグに移された。透析は、溶解フラスコにおいて200倍体積の透析緩衝液に対して行われた。放出試験は、37℃、75rpmで行われた。様々な時点(1h、2h、4h、8h)で、アリコートが、分析のために抜き取られた。
【0060】
3.結果
表4:異なる内水相を有するリポソーム型ビノレルビン配合物のインビトロ放出
【表4】

【0061】
結論:混合内水相における高いSBE−CD/NH割合を有するリポソームは、比較的遅い薬物放出を示した。このことは、SBE−CDのアンモニウム塩が薬物放出を延ばし得ることを示している。
【0062】
〔実施例7〕
硫酸アンモニウム、SBE−CDの種々のアンモニウム塩を内水相として有するリポソームについての薬物動態
1.サンプル
ビノレルビン、ビンクリスチンおよびイリノテカンのリポソームは、2:9.58の薬物/脂質比で調製された。ここで、(NHSOを内水相とする場合については、SBE−β−CD/TAを(NHSOにより置き換えることを除いて実施例2に記載されるように、また、SBE−CD/TAを内水相とする場合については、実施例2に記載されるように、また、SBE−CD/NHを内水相とする場合については、SBE−β−CD/TAをSBE−β−CD/NHにより置き換えることを除いて実施例2に記載されるように、調製された。
【0063】
2.動物および投薬量
本実施例は、オスのDBA/2マウスにおいて行われ、投薬量は、10mg/kgであった。
【0064】
3.結果
表5:異なる内水相を有するリポソーム配合物の血漿薬物動態
【表5】

【0065】
結論:薬物動態の結果において示されるように、硫酸アンモニウムを内水相として有するリポソームとの比較において、SBE−CD/NHを内水相として有するリポソームは、著しく長くなった半減期を示す。
【0066】
〔実施例8〕
LLC腫瘍モデルに対する異なる内水相を有するビノレルビンリポソームの効力
1.配合物
配合物1:内水相として、実施例2に記載されるように調製されたSBE−CD/TA
配合物2:内水相として、SBE−β−CD/TAを硫酸アンモニウムにより置き換えることを除いて実施例2に記載されるように調製された硫酸アンモニウム
両方の配合物において、薬物/脂質比が、3:9.58であり、DSPE−mPEG2000の含有量が、0.5%である。
【0067】
2.実験
LLC肺ガン細胞が集められ、DMEM培地により希釈された。希釈後、腫瘍細胞数が、2.0×10細胞/mlに調節された。約4×10個の腫瘍細胞を含有する0.2mLの腫瘍細胞懸濁物が、無菌条件下でメスのC57マウスの前肢腋下皮下組織に接種した。接種後14日で、マウスは、腫瘍体積によって3つの群に無作為化され、10mg/kgの用量での1回の静脈内注射を施された。
【0068】
マウスは、投与後通常に飼育された。腫瘍直径は、種々の配合物の抗腫瘍効力を動的に評価するために測定された。腫瘍体積(TV)は、下記式により計算された:
TV=1/2×a×b、式中、aおよびbは、長さおよび幅をそれぞれ表す。
【0069】
腫瘍体積は、測定結果を使用することによって計算された。実験データは、SPSS 11.5統計学ソフトウエアを使用して分析された。
【0070】
3.結果
表6:異なる内水相を有するビノレルビンリポソームのLLC腫瘍モデルに対する抗腫瘍効力

【表6】

【0071】
5%グルコースとの比較において、腫瘍の成長が、内水相として硫酸アンモニウムを有するリポソームについては4日目から、また、内水相としてSBE−CDを有するリポソームについては6日目から著しく抑制された。
【0072】
相対的腫瘍増殖比T/C(%)は、下記の式により計算された:T/C%=TRTV/CRTV×100%、式中、TRTVおよびCRTVは、処置群および陰性対照群の相対的腫瘍体積(RTV)をそれぞれ表す。RTV=Vt/V。Vは、0日目(最初の投薬)の腫瘍体積を意味し、Vtは、それぞれの測定日における腫瘍体積を意味する。SBE−CD群および硫酸アンモニウム群の相対的腫瘍体積増殖比に関して、最も低いT/C%が、それぞれ51.8%および31.1%であった。すなわち、LLC肺ガンに対するSBE−CD群の抗腫瘍効力は、硫酸アンモニウム群の抗腫瘍効力よりも優れていた。
【0073】
〔実施例9〕
前立腺RM−1腫瘍モデルに対する異なる内水相を有するトポテカンリポソームの抗腫瘍効力
1.配合物
配合物1:内水相として、実施例2に記載されるように調製されたSBE−CD/TA
配合物2:内水相として、SBE−β−CD/TAをスクロースオクタスルファートにより置き換えることを除いて実施例2に記載されるように調製されたスクロースオクタスルファート
両方の配合物において、薬物/脂質比が、3:9.58であり、DSPE−mPEG2000の含有量が0.5%である。
【0074】
2.実験
RM−1肺ガン細胞が集められ、1640培地により希釈された。希釈後、腫瘍細胞数が、2.0×10細胞/mlに調節された。約4×10個の腫瘍細胞を含有する0.2mLの腫瘍細胞懸濁物が、無菌条件下でメスのC57マウスの前肢腋下皮下組織に接種した。接種後12日で、マウスは、腫瘍体積によって複数の群に無作為化され、10mg/kgの用量での1回の静脈内注射を施された。
【0075】
マウスは、投与後通常に飼育された。腫瘍直径は、種々の配合物の抗腫瘍効力を動的に評価するために測定された。腫瘍体積(TV)は、下記式により計算された:
TV=1/2×a×b、式中、aおよびbは、長さおよび幅をそれぞれ表す。
【0076】
腫瘍体積は、測定結果を使用することによって計算された。実験データは、SPSS 11.5統計学ソフトウエアを使用して分析された。
【0077】
3.結果
表7:RM−1腫瘍モデルに対するトポテカンリポソームの抗新生物効果

【表7】

【0078】
対照としての注射用5%グルコースとの比較において、遊離型トポテカンは、腫瘍の成長を著しく抑制せず(p>0.05)、一方、腫瘍成長が、異なる内水相を有するリポソームの2つの群では著しく抑制された。有意差が、等しい投薬量による遊離型トポテカン群との比較において認められ、一方、RM−1腫瘍に対する抑制の有意差が、これら2つのリポソーム配合物の間には何ら認められなかった。
【0079】
〔実施例10〕
KMマウスにおける種々のリポソーム型トポテカン配合物の毒性
1.配合物
配合物1:内水相として、実施例2に記載されるように調製されたSBE−CD/TA
配合物2:内水相として、SBE−β−CD/TAをスクロースオクタスルファートにより置き換えることを除いて実施例2に記載されるように調製されたスクロースオクタスルファート
両方の配合物において、薬物/脂質比が、3:9.58であり、DSPE−mPEG2000の含有量が0.5%である。
【0080】
2.実験
3つのリポソーム型薬物および遊離型薬物に関して、それぞれの投薬群が2匹のメスKMマウスを有し、40.6mg/kgのトポテカンの最大用量により始まり、1.25の低下する用量係数により続く(すなわち、投薬量:40.6、32.5、26.0、20.8、16.6、13.3および10.6mg/kg)。マウスは、全身的健康状態に関して観察され、14日の期間にわたって毎日体重測定された。
【0081】
表8:異なる内水相を有するリポソーム型トポテカン配合物の毒性
【表8】

【0082】
表8に示されるように、毒性の順序は、次の通りであった:遊離型トポテカン<内水相としてSBE−CD/TAを有するリポソーム<内水相としてスクロースオクタスルファートを有するリポソーム。スクロースオクタスルファート型リポソームは、比較的低い用量で動物の死亡を引き起こした。
【0083】
本発明者らは、さらにビノレルビン、ビンクリスチンおよりイリノテカンのリポソームを調製し、それらの毒性をKMマウスにおいて同様に評価した。トポテカンの結果と同じ結果が、得られた。毒性の順序は、次の通りであった:遊離型薬物<内水相としてSBE−CD/TAを有するリポソーム<内水相としてスクロースオクタスルファートを有するリポソーム。スクロースオクタスルファート型リポソームは、比較的低い用量で動物の死亡を引き起こした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重層および内水相を含み、該内水相がスルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩および活性な化合物を含有する、リポソーム。
【請求項2】
前記スルホブチルエーテルシクロデキストリンが、スルホブチルエーテル−α−シクロデキストリン、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンまたはスルホブチルエーテル−γ−シクロデキストリンである、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記スルホブチルエーテルシクロデキストリンが、分子当り平均して約6.5個のスルホ基を有する、前記請求項のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項4】
前記スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩が、アミン、金属イオンあるいはアンモニウムイオンの1つまたは複数とともに、スルホブチルエーテルシクロデキストリンによって形成される、前記請求項のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項5】
前記スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩が、水酸化アンモニウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンの1つまたは複数とともに、スルホブチルエーテルシクロデキストリンによって形成される、前記請求項のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項6】
前記活性な化合物が、ビノレルビン、ビンクリスチン、トポテカンおよびイリノテカンの1つまたは複数である、前記請求項のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項7】
前記二重層が、リン脂質、コレステロール、および親水性ポリマーにより修飾された脂質を含む、前記請求項のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項8】
以下の工程、
(1)脂質相粉末をスルホブチルエーテルシクロデキストリンまたはその塩の水溶液により水和して、スルホブチルエーテルシクロデキストリンまたはその塩の水溶液を内水相として含むブランクリポソームを形成すること、
(2)工程(1)で得られるブランクリポソームの外側相におけるスルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩を除いて、アニオン勾配を形成すること、
(3)任意選択的に、スルホブチルエーテルシクロデキストリンの塩が金属イオンの塩であるならば、金属イオンのイオノホアを工程(2)で得られるブランクリポソームの外側相に加えて、pH勾配を形成すること、および
(4)工程(2)または工程(3)で得られるブランクリポソームを活性な化合物と水溶液中でインキュベーションして、活性な化合物をリポソームにカプセル封入すること、
を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のリポソームを調製する方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のリポソームと、医薬的に許容され得るキャリアおよび/または賦形剤とを含む、リポソーム医薬調製物。
【請求項10】
前記キャリアおよび/または賦形剤は、浸透圧調節剤および/または酸化防止剤を含む、請求項9に記載のリポソーム医薬調製物。
【請求項11】
前記リポソームにおける活性な化合物が、ビノレルビン、ビンクリスチン、トポテカンおよびイリノテカンの1つまたは複数である、患者における腫瘍を治療するための医薬品を製造することにおける、請求項1〜7のいずれかに記載のリポソームの使用。

【公表番号】特表2013−508313(P2013−508313A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534533(P2012−534533)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/CN2010/078115
【国際公開番号】WO2011/050710
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(511262809)石葯集団中奇制葯技▲術▼(石家庄)有限公司 (2)
【Fターム(参考)】