説明

スロットレス永久磁石型回転電機

【課題】コギングトルク及びトルクリップルを低減するとともに、銅損を低減した小型のスロットレス永久磁石型回転電機を得ること。
【解決手段】軸方向長さLの円筒状の固定子鉄心21と、前記固定子鉄心21の内周面に、コイル配置角度幅θc(=360°/3n(nは整数))で周方向に等間隔に配置された3n個のコイルであって、軸方向長さ略L、コイル外周角度幅θγ、コイル内周角度幅θτのトラック形状に集中巻きされたコイル23と、円柱状の回転子鉄心31と、前記回転子鉄心31に周方向に交互に極性が異なるように3n±1磁極が配置され、軸方向長さ略L、外径Dに形成された永久磁石32と、を備えたスロットレス永久磁石型回転電機100において、コイル内周ピッチτ(=θτ/θc)を、0<コイル内周ピッチτ≦0.33+0.47D/L、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットレス永久磁石型回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固定子鉄心の薄肉化を主目的として、回転子鉄心の表面に偶数個の永久磁石を等間隔に互いに異極となるように配置した回転子と、前記回転子と対向するように空隙を介して配置された固定子鉄心と、前記固定子鉄心に配置された非重ね集中巻の複数個のコイルと、を備えた平滑電機子形3相ブラシレスモータにおいて、コイル数を6n、永久磁石極数を10n(nは自然数)とし、短節係数を向上することにより高性能化したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、巻線と鉄心を配置した固定子と、複数の磁極を構成する永久磁石を配置した回転子を持つ永久磁石型モータにおいて、前記巻線は複数の集中巻された空心を有するコイルによって構成され、前記鉄心は前記コイルの空心に挿入されるティースを備え、前記コイルの配置角度幅をθc、前記ティースの角度幅(すなわち、コイルの内周角度幅)をβ×θcとした場合、0<β≦0.5であるとともに、前記コイルの外半径をro、前記コイルの内半径をri、前記ティースの先端半径をrtとした場合、(θc×ri×π/180)/(ro−ri)≧4 (但し、ri≦rt≦ro)とした永久磁石型モータがある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−234989号公報
【特許文献2】特開2004−187344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来の技術によれば、コイル数と永久磁石極数との比を6:10とするので、通常の3:4とした場合に比べ部品点数が増える。そのため、特に量産される小型モータでは、部品点数の増加により製造工数が増加し、コストアップになるという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2に記載された従来の技術によれば、定格トルクおよび最大トルクの両者を向上させるべく、微小なティースを用い、更に、ティースの角度幅(すなわち、コイルの内周角度幅)を最適化する工夫がなされている。しかしながら、微小なティースを固定子鉄心に設けると、コギングトルクやトルクリップルの増加を招くこととなる。そのため、振動騒音が発生しモータを精密機械等に用いることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コギングトルク及びトルクリップルを低減するとともに、銅損を低減した小型のスロットレス永久磁石型回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、軸方向長さLの円筒状の固定子鉄心と、前記固定子鉄心の内周面に、コイル配置角度幅θc(=360°/3n(nは整数))で周方向に等間隔に配置された3n個のコイルであって、軸方向長さ略L、コイル外周角度幅θγ、コイル内周角度幅θτのトラック形状に集中巻きされたコイルと、円柱状の回転子鉄心と、前記回転子鉄心に周方向に交互に極性が異なるように3n±1磁極が配置され、軸方向長さ略L、外径Dに形成された永久磁石と、を備えたスロットレス永久磁石型回転電機において、コイル内周ピッチτ(=θτ/θc)を、0<コイル内周ピッチτ≦0.33+0.47D/L、としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、0<コイル内周ピッチτ≦0.33+0.47D/L、としたことにより、コギングトルク及びトルクリップルを低減するとともに、高効率化及び小型化したスロットレス永久磁石型回転電機が得られる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるスロットレス永久磁石型回転電機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態
図1は、本発明にかかるスロットレス永久磁石型回転電機の実施の形態の横断面図であり、図2は、固定子鉄心の斜視図であり、図3は、固定子鉄心に配置されるコイルの平面図であり、図4は、コイルを貼付した固定子の斜視図であり、図5は、回転子の斜視図であり、図6は、コイル内周ピッチτとコイル外周ピッチγと銅損との関係を示すシミュレーション結果であり、図7は、コイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果であり、図8は、スロットレス永久磁石型回転電機の回転子外径に対する全長の比(L/D)と最大許容コイル内周ピッチWとの関係を示すシミュレーション結果であり、図9は、L/Dを1.5としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果であり、図10は、L/Dを2.2としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果であり、図11は、L/Dを4.1としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果であり、図12は、L/Dを6.1としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果であり、図13は、L/Dを9.3としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果であり、図14は、L/Dと最適コイル内周ピッチτとの関係を示すシミュレーション結果である。
【0012】
図1に示すように、実施の形態のスロットレス永久磁石型回転電機100は、円筒状に形成された固定子鉄心21と、非磁性ボビン(又は、空心)24に集中巻され、固定子鉄心21の内周面に周方向に等間隔に貼付されて配置された3個のコイル23と、円柱状の回転子鉄心31と、回転子鉄心31に、周方向に交互に極性が異なるように円筒状に配置したラジアル異方性リング磁石、極異方性リング磁石又はセグメント磁石等の4磁極の永久磁石32と、を備えている。固定子鉄心21及びコイル23は固定子20を構成し、回転子鉄心31及び永久磁石32は回転子30を構成している。
【0013】
図1に示すように、回転子30(永久磁石32)は、外径Dに形成されている。本明細書では、360°/コイル数M=コイル配置角度幅θcと定義する(本実施の形態ではθc=120°)。非磁性ボビン24に集中巻されたコイル外周の角度幅をθγ、コイル内周の角度幅をθτとして、コイル外周ピッチγ、及び、コイル内周ピッチτを、
コイル外周ピッチγ=θγ/θc=θγ×コイル数M/360°・・・・(式1)
コイル内周ピッチτ=θτ/θc=θτ×コイル数M/360°・・・・(式2)
と定義する。
【0014】
図2に示すように、固定子鉄心21は、鉄心長(軸方向長さ)Lfの長さに形成されている。また、図3に示すように、コイル23は、コイル全長(軸方向長さ)Lc、コイル直線部長さL1、コイルエンド部長さL2のトラック形状の集中巻きのコイルに形成されていて、形状寸法は、次の(式3)の関係式で表わされる。
コイル全長Lc=L1+2×L2・・・・・・・・・・・・・・・・・・(式3)
また、コイルエンド部長さL2は、
コイルエンド部長さL2≒πD(θγ-θτ)/720°・・・・・・・・(式4)
で概算される値となっている。
【0015】
本実施の形態では、トルク出力を最大化するとともにモータを小型化するため、図4及び図5に示すように、固定子鉄心長Lf≒コイル全長Lc≒磁石長Lm=回転電機全長Lとなるようにそれぞれを形成している。構造上の制約等から、コイル全長Lc≒磁石長Lmとすることが出来ない場合もあるが、この場合は、概略、Lm/Lc>0.9とすれば、トルク出力の最大化を図ることができる。
【0016】
次に、図6〜図14を参照して、シミュレーション結果について説明する。図6は、シミュレーションにより、図1に示す実施の形態のスロットレス永久磁石型回転電機100の、コイル外周ピッチγ及びコイル内周ピッチτを変化させたときの銅損の大きさを示している。なお、シミュレーション条件は、スロットレス永久磁石型回転電機100の全長L/回転子外径D=9.3としている。
【0017】
図6に示すように、銅損低減(最適化)のために、コイル外周ピッチγは、1.0に近いほどよく、コイル内周ピッチτが0.2程度のとき銅損が最小となっている。コイル外周ピッチγを1.0とするためには、隣接コイル間の隙間をゼロとしなければならず、製作が難しく、絶縁性に問題が生じる可能性が高い。そこで、本実施の形態では、製作性を考慮し、コイル外周ピッチγを約0.9として、他のパラメータの最適値について検討を行なった。
【0018】
図7は、コイル外周ピッチγを約0.9とし、コイル内周ピッチτをパラメータとしたときのシミュレーション結果であり、L/Dをそれぞれ1.5〜9.3としたときの銅損比を示す。
【0019】
一般のティース付き永久磁石モータを小型化するためには、巻線の占積率を大きくするのが有効であり、巻線を配置可能な場所全てに巻線を施すことにより、銅損低減と誘起電圧の向上が可能である。そこで、本実施の形態では、コイル内周ピッチτをゼロとしたとき(巻線を配置可能な場所全てに巻線を施したとき)の銅損を基準値とする銅損比を用いてシミュレーションを行なった。
【0020】
図7に示すように、コイル内周ピッチτをゼロから大きくするに従い銅損比が低減し、あるコイル内周ピッチτ以上になると、コイル内周ピッチτがゼロのときの銅損比より大きくなることが分かる。なお、本明細書では、τ=0のときの銅損比よりも銅損比が大きくなるコイル内周ピッチτを、最大許容コイル内周ピッチWと呼ぶこととする。
【0021】
上記の現象は、回転電機の全長Lが一定値である場合、コイル内周ピッチτがゼロのときには、上記の(式4)に示すように、トルク発生に寄与し難いコイルエンド部長さL2が大きくなってしまうが、コイル内周ピッチτをゼロよりも大きくすると、L2が小さくなり、トルク発生に寄与するコイル直線部長さL1が大きくなって、トルク出力が向上し銅損が小さくなるためである。
【0022】
さらに、コイル内周ピッチτが、最大許容コイル内周ピッチWよりも大きくなると、回転電機断面にてトルクに寄与すると考えられるアンペアターンが低下し、これによりトルク出力が低下し、銅損が大きくなるものと考えられる。
【0023】
図8に、L/Dと最大許容コイル内周ピッチWとの関係を示す。図8に示すように、最大許容コイル内周ピッチτは、L/Dの大きさにより異なっており、L/Dが大きくなるに従って小さくなる。これは、L/Dが小さい場合(薄型モータに相当)には、コイルエンドの影響が大きく、L/Dが大きい場合(胴長モータに相当)には、コイルエンドの影響が小さいためと考えられる。
【0024】
また、図8に、最大許容コイル内周ピッチWの近似式として、
最大許容コイル内周ピッチW=0.33+0.47D/L・・・・・・(式5)
を示す。スロットレス永久磁石型回転電機100は、コイル内周ピッチτを、(式5)の「W」以下とすることにより、コイル内周ピッチτをゼロとしたときよりも銅損を低減して高効率化することができ、小型化を図ることができる。
【0025】
次に、コイル内周ピッチτと銅損比の関係について詳細に検討する。図9〜図13に、L/Dをそれぞれ1.5〜9.3としたときの、コイル内周ピッチτと銅損比との関係を示す。銅損比は、回転電機の発熱温度に影響を及ぼすが、銅損比が5%程度の差であれば、永久磁石の残留磁束密度やコイル貼付角度等と同様に、モータ個体のばらつきの許容範囲内である。
【0026】
そこで、本実施の形態では、銅損比が、最小値〜最小値+5%の範囲内となる最適コイル内周ピッチτを求める。図9〜図13に、銅損比が最小値〜最小値+5%となるコイル内周ピッチτの範囲(最適コイル内周ピッチτ)を示す。図9〜図13に示すように、L/Dの値毎に、最適コイル内周ピッチτの範囲も異なっている。
【0027】
図14に、L/Dと、銅損比が最小値〜最小値+5%となるためのコイル内周ピッチτの範囲を示す。また、図14には、コイル内周ピッチτの近似式として、
コイル内周ピッチτ=K=0.16+0.27D/L±50%・・・・(式6)
を示す。図14に示すように、銅損比が最小値〜最小値+5%となるためのコイル内周ピッチτの範囲は、上記(式6)で近似することができる。よって、スロットレス永久磁石型回転機100の銅損低減(小型化)のためには、コイル内周ピッチτを0.5K〜1.5Kとすればよい。
【0028】
なお、図14より、L/Dが1以上3未満のモータの場合には、コイル内周ピッチτを0.2〜0.5とし、L/Dが3以上の場合には、0.15〜0.3とすれば、スロットレス永久磁石型モータの小型化を図ることができる。
【0029】
本実施の形態では、4極3コイル集中巻モータの場合を説明したが、一般的な集中巻永久磁石型回転電機において、コイル(スロット)数と磁極数との比が3n:3n±1の回転電機の場合も、上記のコイル内周ピッチτとすることにより、同様に銅損低減(小型化)を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかるスロットレス永久磁石型回転電機は、コギングトルク及びトルクリップルを低減するとともに、銅損を低減した小型の永久磁石型回転電機として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかるスロットレス永久磁石型回転電機の実施の形態の横断面図である。
【図2】固定子鉄心の斜視図である。
【図3】固定子鉄心に配置されるコイルの平面図である。
【図4】コイルを貼付した固定子の斜視図である。
【図5】回転子の斜視図である。
【図6】コイル内周ピッチτとコイル外周ピッチγと銅損との関係を示すシミュレーション結果である。
【図7】コイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果である。
【図8】スロットレス永久磁石型回転電機の回転子外径に対する全長の比(L/D)と最大許容コイル内周ピッチWとの関係を示すシミュレーション結果である。
【図9】L/Dを1.5としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果である。
【図10】L/Dを2.2としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果である。
【図11】L/Dを4.1としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果である。
【図12】L/Dを6.1としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果である。
【図13】L/Dを9.3としたときのコイル内周ピッチτと銅損比との関係を示すシミュレーション結果である。
【図14】L/Dと最適コイル内周ピッチτとの関係を示すシミュレーション結果である。
【符号の説明】
【0032】
20 固定子
21 固定子鉄心
23 固定子コイル
30 回転子
31 回転子鉄心
32 永久磁石
100 スロットレス永久磁石型回転電機
D 回転子外径(永久磁石外径)
Lf 固定子鉄心長
Lm 磁石長
Lc コイル全長
L1 コイル直線部長さ
L2 コイルエンド部長さ
θc コイル配置角度幅
θγ コイル外周角度幅
θτ コイル内周角度幅
τ コイル内周ピッチ
γ コイル外周ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向長さLの円筒状の固定子鉄心と、
前記固定子鉄心の内周面に、コイル配置角度幅θc(=360°/3n(nは整数))で周方向に等間隔に配置された3n個のコイルであって、軸方向長さ略L、コイル外周角度幅θγ、コイル内周角度幅θτのトラック形状に集中巻きされたコイルと、
円柱状の回転子鉄心と、
前記回転子鉄心に周方向に交互に極性が異なるように3n±1磁極が配置され、軸方向長さ略L、外径Dに形成された永久磁石と、
を備えたスロットレス永久磁石型回転電機において、
コイル内周ピッチτ(=θτ/θc)を、
0<コイル内周ピッチτ≦0.33+0.47D/L
としたことを特徴とするスロットレス永久磁石型回転電機。
【請求項2】
0.5×(0.16+0.27D/L)≦コイル内周ピッチτ≦1.5×(0.16+0.27D/L)としたことを特徴とする請求項1に記載のスロットレス永久磁石型回転電機。
【請求項3】
1≦L/D<3、かつ、0.2≦コイル内周ピッチτ≦0.5としたことを特徴とする請求項1に記載のスロットレス永久磁石型回転電機。
【請求項4】
3≦L/D、かつ、0.15≦コイル内周ピッチτ≦0.3としたことを特徴とする請求項1に記載のスロットレス永久磁石型回転電機。
【請求項5】
永久磁石極数を4、コイル数を3としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のスロットレス永久磁石型回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−274869(P2007−274869A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100553(P2006−100553)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】