説明

セスキテルペン変換酵素遺伝子及びそれを利用した酸化セスキテルペンの製造方法

【課題】 α-フムレンからゼルンボンの合成に必要な酵素遺伝子を取得し、取得した遺伝子を利用して酸化セスキテルペンを製造する手段を提供する。
【解決手段】 α-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を持つポリペプチドをコードするハナショウガ由来のシトクロムP450遺伝子、及び8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を持つポリペプチドをコードするハナショウガ由来の脱水素酵素遺伝子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素セスキテルペンであるα-フムレンから酸化セスキテルペンを合成する酵素遺伝子、及び酵素を用いる酸化セスキテルペンの製造方法に関する。本発明の方法により、組換え大腸菌等を用いて化学合成が困難な酸化セスキテルペンの製造が可能になる。さらに本発明は、セスキテルペンを変換するシトクロムP450等のセスキテルペン変換酵素遺伝子の効率的な機能解析方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
イソプレノイド(テルペノイドとも呼ばれる)は23,000種を超える、自然界で最も多様な化合物の集団で、3,000種以上のセスキテルペンを含んでいる。イソプレノイドの中には、医薬品、農薬、機能性食品、香料として用いられているものなど産業上有用なものが多く含まれている。しかしながら、自然界の蓄積量は一部の例を除いて少なく、単品を多量調製するには莫大なコストと労力を必要とするものが多い。したがって、遺伝子組換え微生物または植物を利用したバイオテクノロジーによる多量生産のための開発研究が盛んに行われてきた。微生物の中で大腸菌は遺伝子組換えの技術や材料、情報が最も充実した微生物であるので、組換え大腸菌を用いてイソプレノイドを多量生産しようとする技術開発の研究が盛んに行われてきた。大腸菌はメバロン酸経路を持っていなく、非メバロン酸経路(2-C-メチル-D-エリストール4-リン酸(以後MEPと記載)を経由するのでMEP経路とも呼ばれる)により最初のイソプレノイド基質であるイソペンテニル二リン酸(イソペンテニルピロリン酸とも呼ばれる;以後IPPと記載)が作られる。IPPはIPPイソメラーゼ(以後Idiと呼ぶことがある)によりジメチルアリル二リン酸(以後DMAPPと記載)に変換され、DMAPPはファルネシル二リン酸(以後FPPと記載)合成酵素(シンターゼ)によりIPPと順次縮合することにより、炭素数10のゲラニル二リン酸(以後GPPと記載)、炭素数15のFPPに変換される。GPPから分岐して揮発成分であるモノテルペンが作られる。さらに、FPPから分岐して、セスキテルペンやトリテルペンが作られる。FPPはゲラニルゲラニル二リン酸(以後GGPPと記載)合成酵素によりIPPとさらに縮合して炭素数20のGGPPが合成される。このGGPPから分岐して、ジテルペンやカロテノイド(テトラテルペン)が合成される。大腸菌は、上記のテルペンは合成しないので、これらのイソプレノイドを大腸菌に合成させるためには、FPPからそのイソプレノイドまでの合成を担う生合成酵素遺伝子(群)を大腸菌に導入し、発現させる必要がある。
【0003】
熱帯性のショウガ属植物であるハナショウガ[tropical ginger;shampoo ginger; Zingiber zerumbet (L.) Smith]は東南アジアや南太平洋周辺に自生する多年生植物である。ゼルンボン(zerumbone)はハナショウガの根茎や葉に特異的に含まれる、抗HIVや抗腫瘍活性を有する有用セスキテルペンであるが、化学反応性が高いので、化学合成の初発物質としてもよく用いられている。試薬としては和光純薬工業(株) から市販されている。ハナショウガの根茎や葉では、ゼルンボンが主要セスキテルペンで、次に多いのがα-フムレン(α-humulene;α-caryophyllene)である(非特許文献1)。FPPからα-フムレンを合成する酵素(α-humulene synthase)遺伝子(ZSS1)やβ-オイデスモール(β-eudesmol)を合成する酵素(β-eudesmol synthase)遺伝子(ZSS2)は最近、ハナショウガから単離され、その構造と機能解析が行われた(非特許文献2、3)。ゼルンボンはα-フムレンの8位がケト化された構造をしているが、α-フムレンからゼルンボンへの生合成経路に関する知見は存在していなかった。
【0004】
大腸菌はメバロン酸経路を有さないが、メバロン酸経路の酵素の遺伝子群(メバロン酸経路遺伝子群)を大腸菌に導入し発現させる研究も行われた。柿沼らは、メバロン酸経路のD-メバロン酸(D-mevalonic acid)以降の酵素であるメバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate decarboxylase)、及び2型のIPPイソメラーゼ(IPP isomerase)等をコードする遺伝子群[ストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来;非特許文献4;Accession no AB037666]を、パントエア・アナナティス由来のカロテノイド生合成遺伝子群(crtEcrtBcrtIcrtYcrtZ;FPPからゼアキサンチンを作るのに必要な生合成遺伝子群)とともに大腸菌に導入し、発現させた(非特許文献5)。本組換え大腸菌は、D-メバロン酸ラクトン(以後、D-メバロノラクトン、メバロノラクトンまたはMVLと記載)を培地に基質として加えて培養することにより、ゼアキサンチンを合成することができた(非特許文献5)。また、上記メバロン酸経路遺伝子群を、ハナショウガのα-フムレン合成酵素遺伝子(α-humulene synthase;ZSS1)とともに大腸菌に導入し発現させると、その組換え大腸菌は0.5 mg/mLのMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり1 mgのα-フムレンを生産することが示された(非特許文献6)。上記の組換え大腸菌において、ハナショウガのα-フムレン合成酵素遺伝子(ZSS1)の代わりにβ-オイデスモール合成酵素遺伝子(ZSS2)を導入し発現させると、その組換え大腸菌はMVLを培地に基質として加えて培養することにより、1 mLあたり100μgのβ-オイデスモールを生産することが示された(非特許文献3)。一方、上記メバロン酸経路遺伝子群を導入すること無しに、α-フムレン合成酵素遺伝子(ZSS1)を大腸菌に導入し発現させても、α-フムレンの生成は全く検出されなかった(非特許文献6)。したがって、メバロン酸経路遺伝子群を大腸菌に導入し発現させること、及び培地にMVL等のメバロン酸経路遺伝子群の基質を添加して培養することにより、結果的に、その組換え大腸菌内におけるFPPの生成量を多いに増量させることが示された。このことにより、FPPを基質とするセスキテルペン合成酵素(sesquiterpene synthase;sesquiterpene cyclase)遺伝子、またはcrtE(GGPP合成酵素遺伝子)から始まるカロテノイド生合成遺伝子群を同時に導入し、発現させることにより、これらの産物であるセスキテルペンまたはカロテノイドを効率的に製造することが可能になることが明らかとなった(非特許文献6、7)。さらに、この系を利用すると、新規に取得された、または機能がわかっていないセスキテルペン合成酵素遺伝子配列の機能解析を行うことができる(非特許文献7)。すなわち、この遺伝子配列を発現するように導入した組換え大腸菌がセスキテルペンを生産しているかどうかを調べることができる(大腸菌は元々セスキテルペンを生産しない)。セスキテルペンが生産されている場合は、そのセスキテルペンの化学構造を解析することにより、そのセスキテルペン合成酵素遺伝子配列は、FPPからその化学構造を持つセスキテルペンの産物を合成する酵素をコードする遺伝子であることが同定されるからである。セスキテルペンは植物や微生物等(植物が主体)からすでに7,000種以上が単離されているが、まだ、多くのセスキテルペン合成酵素遺伝子が未知である。今後、この系により、急速に同遺伝子の機能解析が進むものと期待される(非特許文献7)。なお、セスキテルペン合成酵素によりFPPから合成されたセスキテルペンは通常、シトクロムP450(以後単に、P450と記載する)を始めとするセスキテルペン変換酵素により、水酸基等が付加された酸化セスキテルペンに変換される。植物はゲノム上に多くのP450遺伝子の配列を有しているが、その機能(コードされるP450の触媒機能)を明らかにすることは難しく、結果として多くのP450の触媒機能が未知のままである。したがって、植物由来のP450の触媒機能、特にセスキテルペンを変換するP450の触媒機能の効率的解析方法の構築が強く望まれていた。
【0005】
植物由来のP450は、NADPHから電子を受け取り 分子酸素を還元し、酸素原子の1つを基質に導入して基質の酸化体(通常、水酸化物)を得るために、通常、NADPH-P450還元酵素(レダクターゼ;reductase)と協動する必要がある。植物は複数個のNADPH-P450レダクターゼを持っているが、植物の中で最もゲノムサイズの小さいシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は2つの相当酵素(ATR1およびATR2)を持っている(非特許文献8)。大腸菌は元来、P450を1つも持っていなく、NADPH-P450レダクターゼも持っていない。Hullと Celenza はN末領域を改変したATR2遺伝子を大腸菌に導入し、発現させた(非特許文献9)。この組換え大腸菌から抽出し精製したATR2はin vitroで植物のP450(CYP79B2)と協動できることが示された(非特許文献9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Md. N. I. Bhuiyan, J. U. Chowdhury, J. Begum, Bangladesh J.Pharmacol. 4: 9-12, 2009
【非特許文献2】F. Yu, S. Okamto, K. Nakasone, K. Adachi, S. Matsuda, H. Harada, N. Misawa, R. Utsumi, Planta 227: 1291-1299, 2008
【非特許文献3】F. Yu,H. Harada, K. Yamasak, S.Okamoto, S. Hirase, Y. Tanaka, N. Misawa, R. Utsumi,FEBS Lett 582: 565-572. 2008
【非特許文献4】M. Takagi, T. Kuzuyama, S. Takahashi, H. Seto, J. Bacteriol., 182: 4153-4157, 2000
【非特許文献5】K. Kakinuma, Y. Dekishima, Y. Matsushima, T. Eguchi, N. Misawa, M. Takagi, T. Kuzuyama, H. Seto, J. Am. Chem. Soc., 123: 1238-1239, 2001
【非特許文献6】H. Harada, F. Yu,S. Okamoto, T. Kuzuyama, R. Utsumi, N. Misawa, Appl. Microbiol. Biotechnol. 81: 915-925, 2009
【非特許文献7】H. Harada, N. Misawa, Novel approaches and achievements in biosynthesis of functional isoprenoids in Escherichia coli, Appl. Microbiol. Biotechnol. e-pub, 2009
【非特許文献8】P. Urban, C. Miqnotte, M. Kazmaier, F. Delorme, D. Pompon, J. Biol. Chem. 272: 19176-19186, 1997
【非特許文献9】A.K. Hull, J. L. Celenza, Protein Expr. Purif.18: 310-315, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、α-フムレンからゼルンボンの合成に必要な酵素遺伝子を取得すること、及び取得した遺伝子を利用して酸化セスキテルペンを製造する方法を提供することを課題とする。さらに本研究は、セスキテルペンを変換するシトクロムP450等のセスキテルペン変換酵素遺伝子の効率的な機能解析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
【0009】
(i)メバロン酸キナーゼ(MVA kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMVA kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(dDPMVA decarboxylase)、及IPPイソメラーゼ(IPP isomerase;1型または2型)(各種酵素が触媒する基質と反応産物の化学構造を含む代謝マップは図1に示されているので参照されたい)をコードする4遺伝子に加えて、植物由来の、α-フムレン合成酵素(シンターゼ;synthase)遺伝子(たとえばZSS1遺伝子)およびNADPH-P450レダクターゼ遺伝子(たとえばATR2遺伝子)(これらの発現用プラスミドの一例(pAC-MvATR2Hum)は図2参照のこと)を導入し発現させた組換え大腸菌は、α-フムレンを変換するP450遺伝子の機能解析のための宿主として使える。
【0010】
(ii)iにおいて、α-フムレン合成酵素遺伝子の代わりに 他の任意のセスキテルペン合成酵素遺伝子を導入し発現させた組換え大腸菌は、そのセスキテルペンを変換するP450遺伝子の機能解析のための宿主として使える。
【0011】
(iii)ハナショウガの根茎から抽出した全RNAからcDNAを合成し、そこからPCRによって単離された、いくつかの全長のP450遺伝子配列を大腸菌発現用ベクターに挿入し、プラスミド(その1例のプラスミド名はpET-ZzP450T1)を作製した。このプラスミドをiで作製した組換え大腸菌に導入して、メバロノラクトンを含む培地で培養し、生成したセスキテルペンを分析することにより、α-フムレンを変換して8-ヒドロキシ-α-フムレンを合成するP450遺伝子を発見することができた。
【0012】
(iv)ハナショウガの根茎から抽出した全RNAからcDNAを合成し、そこからPCRによって単離された、いくつかの全長の脱水素酵素遺伝子配列を大腸菌発現用ベクターに挿入し、プラスミド(その1例のプラスミド名はpET-ZzSDR1)を作製した。iiiの結果より、ゼルンボン合成の直接の基質は8-ヒドロキシ-α-フムレンであることが強く示唆されたので、作製したプラスミドの各々を導入した大腸菌を培養・増殖し、その組換え大腸菌から精製した組換え酵素を用いて、8-ヒドロキシ-α-フムレンの変換試験を実施した。その結果、8-ヒドロキシ-α-フムレンからゼルンボンを合成する脱水素酵素遺伝子を発見することができた。
【0013】
(v)iにおいて、NADPH-P450レダクターゼ遺伝子として、シロイヌナズナ由来のATR2遺伝子を用いることができるが、これ以外に金時ショウガ由来の2種類のNADPH-P450レダクターゼ遺伝子(ZoRED1およびZoRED2)のいずれかを用いても、ATR2に勝るとも劣らない程度に機能する。
【0014】
(vi)iii、ivで得られた遺伝子(またはその遺伝子がコードするタンパク質)を利用することにより、α-フムレンから8-ヒドロキシ-α-フムレンを経てゼルンボンを製造することが可能になる(図3参照のこと)。
【0015】
(vii)iiiで得られた遺伝子またはiiiおよびivで得られた遺伝子の両方を、iで示した6遺伝子(一例が図2に示されている)を発現した組換え大腸菌に導入した大腸菌の細胞を用いて、メバロノラクトン等の基質を含む培地で培養して培養物又は菌体からα-フムレンが酸化された酸化セスキテルペン(8-ヒドロキシ-α-フムレンまたはゼルンボン)を製造することができる。
【0016】
本発明は上記知見に基づき完成されたものである。
【0017】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔12〕を提供する。
〔1〕以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)に示す遺伝子、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(c)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(d)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔2〕以下の(e)、(f)、(g)、又は(h)に示す遺伝子、
(e)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(f)配列番号4記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(g)配列番号3記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(h)配列番号3記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔3〕〔1〕もしくは〔2〕に記載のいずれか一方の遺伝子、又は〔1〕及び〔2〕に記載の両方の遺伝子を導入し、発現させた組換え大腸菌。
〔4〕〔1〕に記載の遺伝子又は〔1〕及び〔2〕に記載の両方の遺伝子に加えて、以下の(1)〜(4)の遺伝子を導入し発現させた組換え大腸菌、
(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(3)NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子、
(4)ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子。
〔5〕メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子が、ストレプトミセス属CL190株由来の遺伝子群である〔4〕に記載の組換え大腸菌。
〔6〕NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子が、シロイヌナズナ由来のATR2遺伝子である〔4〕又は〔5〕に記載の組換え大腸菌。
〔7〕NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子が、以下の(i)、(j)、(k)、又は(l)に示す遺伝子である〔4〕又は〔5〕に記載の組換え大腸菌、
(i)配列番号6記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(j)配列番号6記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(k)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(l)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔8〕NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子が、以下の(m)、(n)、(o)、又は(p)に示す遺伝子である〔4〕又は〔5〕に記載の組換え大腸菌、
(m)配列番号8記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(n)配列番号8記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(o)配列番号7記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(p)配列番号7記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
〔9〕ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子が、ハナショウガ由来のZSS1遺伝子である〔4〕乃至〔8〕のいずれかに記載の組換え大腸菌。
〔10〕〔4〕乃至〔9〕のいずれかに記載の組換え大腸菌を、メバロン酸又はメバロノラクトンを含む培地で培養して培養物又は菌体から8-ヒドロキシ-α-フムレン又はゼルンボンを得ることを特徴とする、酸化セスキテルペンの製造方法。
〔11〕以下の(1)〜(3)及び(4A)の遺伝子、並びに(X)の遺伝子候補を導入し発現させた組換え大腸菌を、メバロン酸又はメバロノラクトンを含む培地で培養して培養物又は菌体から変換されたセスキテルペンを調製し、その変換されたセスキテルペンの化学構造を解析することにより、セスキテルペン変換酵素の触媒機能を同定することを特徴とする、セスキテルペン変換酵素遺伝子の機能解析方法、
(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(3)NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子、
(4A)ファルネシル二リン酸からセスキテルペンを合成する酵素の遺伝子、
(X)セスキテルペン変換酵素遺伝子候補。
〔12〕ファルネシル二リン酸からセスキテルペンを合成する酵素の遺伝子が、ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子である〔11〕に記載のセスキテルペン変換酵素遺伝子の機能解析方法。
【発明の効果】
【0018】
熱帯性のショウガ属植物であるハナショウガ[tropical ginger;Zingiber zerumbet (L.) Smith]に特異的に含まれるゼルンボン(zerumbone)は、それ自体が 抗HIVや抗腫瘍活性を有する機能性セスキテルペンであるだけでなく、化学反応性が高いので 化学合成の初発物質としてもよく用いられている。本発明は、炭化水素セスキテルペンのα-フムレンから8-ヒドロキシ-α-フムレンを経てゼルンボンを生合成する遺伝子を提供する。本発明によれば、α-フムレンから8-ヒドロキシ-α-フムレンまたはゼルンボンを製造することが可能となる。さらに本発明により、セスキテルペンを変換するシトクロムP450等のセスキテルペン変換酵素遺伝子の効率的な機能解析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】培地中に添加したD-メバロノラクトン(D-mevalonolactone)を利用するために導入されたメバロン酸経路遺伝子群(4遺伝子)がコードする酵素の機能を示す図である。
【図2】プラスミドpAC-MvATR2Humの構造を示す図である。tacプロモーター(Ptac)、rrnBターミネーター(TrrnB)の間に、6個の酵素遺伝子が挿入されたプラスミドである。最初の4遺伝子がコードする酵素の機能は図1に示されている。CmR:クロラムフェニコール耐性マーカー遺伝子、P15A ori:P15Aオリジン。
【図3】FPPからゼルンボン(zerumbone)までの生合成経路を示す図である。
【図4】プラスミドpAC-MvATR2HumとpET-ZzP450T1を保持する組換え大腸菌が合成したα-フムレンの変換産物のGC-MSによる同定を示す図である。8-OH α-humulene, 8-ヒドロキシ-α-フムレン(8-hydroxy-α-humulene)の標品; Product, 組換え大腸菌が合成した産物。
【図5】プラスミドpAC-MvZoRED1およびpAC-MvZoRED2の構造を示す図である。
【図6】プラスミドpET-Hum-ZzP450T1の構造を示す図である。AmpR:アンピシリン耐性マーカー遺伝子、ColE1 ori:ColE1オリジン。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
1.メバロン酸経路遺伝子群
培地中に添加されたD-メバロノラクトン(D-mevalonolactone;自然にD-メバロン酸に変換される)を利用するためには、それを基質とするメバロン酸キナーゼから始まる4つのメバロン酸経路遺伝子、すなわち、メバロン酸キナーゼ(mevalonate kinase;MVA kinase)、ホスホメバロン酸キナーゼ(phosphomevalonate kinase; PMVA kinase)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(diphosphomevalonate decarboxylase;DPMVA decarboxylase)とIPPイソメラーゼ(Idi;IPP isomerase)(これらの酵素の触媒機能は図1参照のこと)が必要である。Idiには互いに構造が異なる、1型(type 1)と2型(type 2)のものが存在している。どちらのIdiを用いてもよいが、発明者らは実施例では2型のIdiを用いた。その理由は、発明者らが実施例で用いたストレプトミセス(Streptomyces)属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(非特許文献4;Accession no AB037666)では、MVA kinase、DPMVA decarboxylase、PMVA kinase、2型IPP isomerase遺伝子がこの順番で遺伝子群を形成していた(図2)ので、プラスミドの作製にこの遺伝子群をそのままの形で用いる方が後に続くプラスミドの作製が容易であったからである。また、メバロン酸経路遺伝子群のソースであるが、発明者らは実施例ではストレプトミセス属CL190株由来のものを用いたが、酵母や他の細菌由来の相当遺伝子群を用いても問題ないことは言うまでもない(そのような例は非特許文献7に示されている)。また、発明者らは実施例では示していないが、2型idi遺伝子に加えて1型のidi遺伝子をさらに加えると、組換え大腸菌内でFPPの生産量が若干増量されることが分かっている(非特許文献6)。
【0022】
また、発明者らはここでは、培地中にD-メバロノラクトンを添加し、それを基質とするメバロン酸キナーゼから始まる4つのメバロン酸経路遺伝子を用いたが、それより上流のメバロン酸経路遺伝子群も同時に導入し、上流の酵素の基質を添加することも可能である。たとえば、発明者らは以前、D-メバロノラクトンより安価なアセト酢酸塩(たとえばlithium acetoacetate)を資化できるメバロン酸経路遺伝子群を組換え大腸菌に導入し、アセト酢酸塩を培地に添加して、α-フムレン等のイソプレノイドを効率生産できることを示した(非特許文献6)。
【0023】
2.メバロン酸経路遺伝子群やP450遺伝子等を有するプラスミドの構造
組換え大腸菌を用いてα-フムレンを変換するP450(たとえばCYP71BA1)を働かせ、変換産物[酸化したα-フムレン(たとえば8-ヒドロキシ-α-フムレン)]を得るには、1で示したメバロン酸経路遺伝子群(通常4遺伝子)に加えて、α-フムレン合成酵素(シンターゼ;synthase)遺伝子(たとえばZSS1遺伝子)、α-フムレン変換酵素(P450)遺伝子(たとえばCYP71BA1遺伝子)、及びNADPH-P450レダクターゼ遺伝子(たとえばATR2遺伝子、ZoRED1遺伝子、またはZoRED2遺伝子)の3遺伝子を大腸菌に導入して発現させる必要がある。また、上記の合計7個の遺伝子の中で、α-フムレン合成酵素遺伝子の代わりに任意のセスキテルペン合成酵素を、α-フムレン変換酵素(P450)遺伝子の代わりに、そのセスキテルペン変換酵素(P450)遺伝子を用いると、任意のセスキテルペンの変換産物(任意のセスキテルペンの酸化物)を得ることができる。このように、通常(少なくとも)合計7遺伝子もの多重遺伝子を発現する形で大腸菌に導入する必要があるので、複数個の大腸菌ベクターを利用した方が容易である。発明者らは実施例では2種類の大腸菌ベクターを用いた。1つは、クロラムフェニコール耐性遺伝子とP15AオリジンをもつpACYC184(accession no. X06403)であり、pET、pUC、pBluscriptベクター等のColE1系のオリジンをもつ多くの大腸菌ベクターと共存可能である。もう1つは、アンピシリン耐性遺伝子、ColE1系のオリジン、及びT7プロモータをもつpET101/D-TOPOベクター(Invitrogen製)またはpET Duet-1ベクター(Novagen製)である。
【0024】
発明者らは、pACYC184ベクターにtacプロモータとrrnBのターミネータを付け、その間に、ストレプトミセス属CL190株由来の4個のメバロン酸経路遺伝子群(MVA kinase、DPMVA decarboxylase、PMVA kinase、2型IPP isomerase遺伝子; Accession no AB037666)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のNADPH-P450レダクターゼ(ATR2)遺伝子、及びハナショウガ[Zingiber zerumbet (L.) Smith]のα-フムレン合成酵素(ZSS1)遺伝子を挿入し、プラスミドpAC-MvATR2Hum(図2)を作製した。そして、もう一方のベクターpET101/D-TOPOに、ハナショウガのα-フムレン変換酵素(P450)(CYP71BA1)遺伝子を挿入し、プラスミドpET-ZzP450T1を作製した。
【0025】
また、発明者らは、pACYC184ベクターに同様にtacプロモータとrrnBのターミネータを付けたものの間に、上記の4個のメバロン酸経路遺伝子群、及び金時ショウガ(Zingiber officinale Roscoe, Japanese “Kintoki” cultivar)のNADPH-P450レダクターゼ(ZoRED1またはZoRED2)遺伝子を挿入し、プラスミドpAC-MvZoRED1またはpAC-MvZoRED2(図5)を作製した。そして、もう一方のベクターpET Duet-1に、各々がT7プロモータの制御を受けるように、ZSS1遺伝子とCYP71BA1遺伝子を挿入し、プラスミドpET-Hum-ZzP450T1(図6)を作製した。
【0026】
3.プラスミドを導入した大腸菌の培養、酸化セスキテルペンの生産
2で作製したプラスミドpAC-MvATR2Hum(クロラムフェニコール耐性)とpET-ZzP450T1(アンピシリン耐性)、または、プラスミドpAC-MvZoRED1またはpAC-MvZoRED2(クロラムフェニコール耐性)とpET-Hum-ZzP450T1(アンピシリン耐性)を大腸菌BL21(DE3)に共導入し、クロラムフェニコールとアンピシリンの2つに薬剤に対して耐性の組換え大腸菌を作製した。得られた組換え大腸菌を、D-メバロノラクトン(濃度の1例は0.5 mg/mL)を培地に加えて培養すると(一例は実施例3、9に示されている)、組換え大腸菌は8-ヒドロキシ-α-フムレン(構造は図3)を生産する。
【0027】
4.大腸菌の株及び遺伝子組換え実験方法
発明者らは大腸菌B株のBL21(DE3)を用いたが、大腸菌の株には、大腸菌K12株のJM109(DE3)など種々の株が存在するので、大腸菌の株としてBL21(DE3)に限定されるものでない。また、組換え大腸菌の培養培地として、発明者らはLB培地を利用したが、大腸菌の培養培地としては、2x YT培地、TB培地等多くの培地が存在するので、LB培地に限定されるものでない。また、発明者らが用いている遺伝子組換え実験方法としては、実施例で示されているメーカーによる実施マニュアル以外に、多くの手引書が存在している。たとえば、Sambrook and Russel, Molecular Cloning A Laboratory Manual (Third edition) Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001が例示できる。本手引書は包括的であり、通常の遺伝子組換え実験方法以外に、大腸菌株の種類、ベクターの種類、培養法等が示されているので、参考にして実験を行うことができる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
(A)シトクロムP450遺伝子
本発明のシトクロムP450遺伝子は、(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(c)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、(d)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子を含む。
【0030】
(a)の遺伝子は、ハナショウガから得られたシトクロムP450をコードする遺伝子である。このシトクロムP450は、NADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を持つ。(a)の遺伝子には、後述するCYP71BA1のほか、CYP71BA1と同一のポリペプチドをコードするが、塩基配列の異なる遺伝子も含まれる。
【0031】
(b)の遺伝子は、ハナショウガから得られたシトクロムP450に対して酵素活性を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができる。変異したアミノ酸の数は、通常は、10アミノ酸以内であり、好ましくは5アミノ酸以内であり、更に好ましくは3アミノ酸以内であり、最も好ましくは1アミノ酸である。変異を導入したポリペプチドが酵素活性を保持しているかどうかは、変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子をNADPH-シトクロムP450還元酵素(例えば、配列番号5又は配列番号7)をコードする遺伝子と共に大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等がα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換することができるかどうか調べることによりわかる。
【0032】
(c)の遺伝子は、CYP71BA1と命名されたハナショウガから得られたシトクロムP450遺伝子である。
【0033】
(d)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。この遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られた遺伝子が、NADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、そのDNAをNADPH-シトクロムP450還元酵素(例えば、配列番号5又は配列番号7)をコードする遺伝子と共に大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等がα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換することができるかどうか調べることによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、(c)の遺伝子(配列番号1)と通常、高い相同性を有する。高い相同性とは、80%以上の相同性、好ましくは90%以上の相同性、更に好ましくは95%以上の相同性を指す。
【0034】
(B)脱水素酵素遺伝子
本発明の脱水素酵素遺伝子は、(e)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(f)配列番号4記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(g)配列番号3記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、(h)配列番号3記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子を含む。
【0035】
(e)の遺伝子は、ハナショウガから得られた脱水素酵素をコードする遺伝子である。この脱水素酵素は、8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を持つ。(e)の遺伝子には、後述するZSD1のほか、ZSD1と同一のポリペプチドをコードするが、塩基配列の異なる遺伝子も含まれる。
【0036】
(f)の遺伝子は、ハナショウガから得られた脱水素酵素に対して酵素活性を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができる。変異したアミノ酸の数は、通常は、10アミノ酸以内であり、好ましくは5アミノ酸以内であり、更に好ましくは3アミノ酸以内であり、最も好ましくは1アミノ酸である。変異を導入したポリペプチドが酵素活性を保持しているかどうかは、変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子を大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等が8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンにに変換することができるかどうか調べることによりわかる。
【0037】
(g)の遺伝子は、ZSD1と命名されたハナショウガから得られた脱水素酵素遺伝子である。
【0038】
(h)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。この遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られた遺伝子が、8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、そのDNAを大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌等が8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンにに変換することができるかどうか調べることによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、(g)の遺伝子(配列番号3)と通常、高い相同性を有する。高い相同性とは、80%以上の相同性、好ましくは90%以上の相同性、更に好ましくは95%以上の相同性を指す。
【0039】
(C)組換え大腸菌
本発明の第一の組換え大腸菌は、上記シトクロムP450遺伝子もしくは上記脱水素酵素遺伝子のいずれか一方の遺伝子、又は上記シトクロムP450遺伝子及び上記脱水素酵素遺伝子の両方の遺伝子を導入し、発現させたものである。
【0040】
シトクロムP450遺伝子のみを導入し、発現させた組換え大腸菌は、α-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換することができ、脱水素酵素遺伝子のみを導入し、発現させた組換え大腸菌は、8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換することができる。シトクロムP450遺伝子及び脱水素酵素遺伝の両方を導入し、発現させた組換え大腸菌は、α-フムレンをゼルンボンに変換することができる。
【0041】
本発明の第二の組換え大腸菌は、上記シトクロムP450遺伝子、又は上記シトクロムP450遺伝子及び上記脱水素酵素遺伝子の両方の遺伝子に加えて、(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、(3)NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子、(4)ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子を導入し発現させたものである。
【0042】
(C−1)イソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群
イソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群としては、前述したストレプトミセス属CL190株由来のメバロン酸経路遺伝子群(非特許文献4)を用いることができるが、これ以外にも出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechonosy, 21: 796-802, 2003)、細菌ストレプトコッカス・プノイモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来のメバロン酸経路遺伝子群(S. H. Yoon, Y. M. Lee, J. E. Kim, S. H. Lee, J. H. Lee, J. Y. Kim, K. H. Jung, Y. C. Shin, J. D. Keasling, S. W. Kim, Biotechnology & Bioengineering, 94: 1025-1032, 2006)なども用いることができる。
【0043】
(C−2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子
イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子としては、前述したストレプトミセス属CL190株由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(非特許文献4)を用いることができるが、これ以外にも大腸菌由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(V. J. J. Martin, D. J. Pitera, S. T. Withers, J. D. Newman, J. D. Keasling, Nature Biotechonosy, 21: 796-802, 2003)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(S. Kajiwara, P. D. Fraser, K. Kondo, N. Misawa, Biochemical Journal, 324: 421-426, 1997)、緑藻ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)由来のイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(前述のJ. J. Martinらの文献、及び前述のS. Kajiwaraらの文献)なども用いることができる。
【0044】
(C−3)NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子
NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子としては、前述したシロイヌナズナ由来のNADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子(非特許文献8)、金時ショウガ由来のNADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子(配列番号5及び配列番号7)を用いることができるが、これら以外にもヨモギ科の植物アルテミシア・アヌア(Artemisia annua)由来のNADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子(M. C. Y. Chang, R. A. Eachus, W. Trieu, D.K. Ro, J. D. Keasling, Nature Chemical Biology, 3: 274-277, 2007)、酵母キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)由来のNADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子(前述のM. C. Y. Changらの文献)なども用いることができる。
【0045】
金時ショウガ由来のNADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子としては、(k)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子や(o)配列番号7記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子を用いることができるが、これらの遺伝子の代わりに、(i)配列番号6記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(j)配列番号6記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(l)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子、(m)配列番号8記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、(n)配列番号8記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(p)配列番号7記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子を用いることもできる。
【0046】
(i)及び(m)の遺伝子は、金時ショウガから得られたNADPH-シトクロムP450還元酵素をコードする遺伝子である。このNADPH-シトクロムP450還元酵素は、NADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を持つ。(i)及び(m)の遺伝子には、前述したZoRED1遺伝子やZoRED2遺伝子のほか、これらの遺伝子と同一のポリペプチドをコードするが、塩基配列の異なる遺伝子も含まれる。
【0047】
(j)及び(n)の遺伝子は、金時ショウガから得られたNADPH-シトクロムP450還元酵素に対して酵素活性を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができる。変異したアミノ酸の数は、通常は、10アミノ酸以内であり、好ましくは5アミノ酸以内であり、更に好ましくは3アミノ酸以内であり、最も好ましくは1アミノ酸である。変異を導入したポリペプチドが酵素活性を保持しているかどうかは、変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子を、シトクロムP450遺伝子(例えば、配列番号1)と共に大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌が前述したシロクロムP450の酵素活性を示すかどうか調べることによりわかる。
【0048】
(l)及び(p)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。この遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られた遺伝子が、NADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、そのDNAをシトクロムP450遺伝子(例えば、配列番号1)と共に大腸菌等に導入し、発現させ、その大腸菌が前述したシロクロムP450の酵素活性を示すかどうか調べることによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、(k)の遺伝子(配列番号5)又は(o)の遺伝子(配列番号7)と通常、高い相同性を有する。高い相同性とは、80%以上の相同性、好ましくは90%以上の相同性、更に好ましくは95%以上の相同性を指す。
【0049】
(C−4)ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子
ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子としては、前述したハナショウガ由来のα−フムレン合成酵素遺伝子(非特許文献2及び3)を用いることができる。
【0050】
(D)酸化セスキテルペンの製造方法
本発明の酸化セスキテルペンの製造方法は、上記組換え大腸菌を、メバロン酸又はメバロノラクトンを含む培地で培養して培養物又は菌体から8-ヒドロキシ-α-フムレン又はゼルンボンを得ることを特徴とするものである。
【0051】
使用する培地は、メバロン酸又はメバロノラクトンを含み、大腸菌の培養に適したものであれば特に限定されず、前述したLB培地、2x YT培地、TB培地などにメバロン酸又はメバロノラクトンを添加したものをしようすることができる。
【0052】
培地中のメバロン酸又はメバロノラクトンの濃度は、培地1リットル当たり、約0.1〜5 gが好ましく、約0.5〜1 gがより好ましい。培地中のpHは、約6.0〜8.0が好ましく、約6.6〜7.6がより好ましい。培養は、通常、約20〜30℃で約1〜3日間行えばよい。
【0053】
以上の培養により、8-ヒドロキシ-α-フムレン又はゼルンボンが生成する。シトクロムP450遺伝子のみを大腸菌に導入して発現させた場合は、通常、8-ヒドロキシ-α-フムレンが生成し、シトクロムP450遺伝子及び脱水素酵素遺伝子の両方を大腸菌に導入して発現させた場合は、通常、ゼルンボンが生成する。
【0054】
各生成物は、常法により精製され得る。例えば、必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで一般的な抽出溶剤、例えば酢酸エチル、クロロホルム、メタノール等の有機溶剤で抽出し、有機溶剤を減圧下で除去し、そして減圧蒸留、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、又は吸着性樹脂等の処理を行うことにより精製され得る。
【0055】
(E)セスキテルペン変換酵素遺伝子の機能解析方法
本発明のセスキテルペン変換酵素遺伝子の機能解析方法は、(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、(3)NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子、(4A)ファルネシル二リン酸からセスキテルペンを合成する酵素の遺伝子、及び(X)セスキテルペン変換酵素遺伝子候補を導入し発現させた組換え大腸菌を、メバロン酸又はメバロノラクトンを含む培地で培養して培養物又は菌体から変換されたセスキテルペンを調製し、その変換されたセスキテルペンの化学構造を解析することにより、セスキテルペン変換酵素の触媒機能を同定することを特徴とするものである。
【0056】
使用する(1)〜(3)の遺伝子及び遺伝子群は、上記と同様でよい。また、組換え大腸菌の培養も上記と同様でよい。
【0057】
ファルネシル二リン酸からセスキテルペンを合成する酵素の遺伝子としては、α−フムレン合成酵素遺伝子を用いることができるが、これ以外にも、すでに植物等から単離されている種々のセスキテルペン合成酵素遺伝子を用いることができる。たとえば植物由来のものでは、γ-フムレン(γ-humulene)合成酵素遺伝子、β-オイデスモール(β-eudesmol)合成酵素遺伝子、ゲルマクレン C(germacrene C)合成酵素遺伝子、アモルファディエン(amorphadiene)合成酵素遺伝子、δ-カディネン(δ-cadinene)合成酵素遺伝子なども用いることができる(非特許文献7に多くのセスキテルペン合成酵素遺伝子の例が示されている)。また、シアノバクテリアNostoc 属 PCC7120株においても、セスキテルペン合成酵素遺伝子としてゲルマクレン A(germacrene A)合成酵素遺伝子が解析されているので、この遺伝子を用いることもできる(S. A. Agger, F. Lopez-Gallego, T. R. Hoye, C. Schmidt-Dannert, J. Bacteriol. 190: 6084-6096, 2008)。また、放線菌ストレプトミセス・セリカラー (Streptomyces coelicolor)A3(2)やストレプトミセス・エバミチルス(Streptomyces avermitilis)においては、セスキテルペン合成酵素遺伝子としてゲルマクラディエノール(germacradienol)/ゲオスミン(geosmin)合成酵素遺伝子が解析されているので、この遺伝子を用いることもできる(D. E. Cane, E. X. He, S. Kobayashi, S. Omura, H. Ikeda, J. Antibiotics (Tokyo), 59: 471-479, 2006)。
【0058】
セスキテルペン変換酵素遺伝子候補は、導入した(4A)の遺伝子によって合成されるセスキテルペンを変換する可能性のあるポリペプチドをコードするDNAであればどのようなものでもよいが、シトクロムP450遺伝子と推定されるDNAなどが好ましい。
【0059】
セスキテルペン変換酵素遺伝子候補が実際にセスキテルペン変換酵素をコードするものであれば、培養物又は菌体から変換されたセスキテルペン(主として酸化セスキテルペン)を調製することができ、その変換されたセスキテルペンの化学構造を解析することにより、セスキテルペン変換酵素の触媒機能を同定することができる。
【0060】
培養物又は菌体から変換されたセスキテルペンが検出できない場合は、使用したセスキテルペン変換酵素遺伝子候補がコードするポリペプチドは、(4A)の遺伝子によって合成されるセスキテルペンに対して触媒機能を持たない可能性が高い。そのような場合には、(4A)の遺伝子として、別のセスキテルペンを合成する酵素の遺伝子を用いて、前述のセスキテルペン変換酵素遺伝子候補の機能解析を行うことができる。
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
[実施例1]プラスミドpAC-MvATR2Humの作製
pAC-Mevプラスミド(非特許文献6)を基に、放線菌(Streptomyces sp. CL190株)由来のメバロン酸経路4遺伝子 [mevalonate (MVA) kinase, diphosphomevalonate (DPMVA) decarboxyrase, phosphomevalonate (PMVA) kinase, 2型isopentenyl pyrophosphate (IPP) isomerase;各種酵素が触媒する基質と反応産物の化学構造を含む代謝マップは図1に示されている]、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のNADPH-P450 reductase遺伝子(ATR2)、及びハナショウガ由来α-humulene合成遺伝子(ZSS1)を発現するプラスミドpAC-MvATR2Hum(図2)を作製した。具体的には次の手順で作製した:
pAC-Mevプラスミドを鋳型に、CL190idi Fw(5’-ATCGTCAAGGAGGTCGGCAAC-3’〔配列番号9〕)およびCL190idi Rv(5’- TAGATATCTCATCGTGTGCTTCCCGTCG-3’〔配列番号10〕、下線はEcoRV部位を示す)の2つのプライマーを用いたPCRにより、放線菌Streptomyces sp. CL190株由来の2型IPP isomerase遺伝子(idi)の3’末端側546 bpを含む部分配列を増幅した。PCR増幅したidi断片は、制限酵素SacI-EcoRVにて消化後、pAC-Mevプラスミドの相当部位に連結し、プラスミドpAC-Mvを作製した。次に、MAPS1(5’-ATCCAATTGGGCGCGCCTTAATTAAACTAGTA-3’〔配列番号11〕、下線は制限酵素MfeI、AscI、PacI、SpeI部位を示す)およびMAPS2(5’-AGCTTACTAGTTTAATTAAGGCGCGCCCAATTGGAT-3’〔配列番号12〕、下線は制限酵素MfeI、AscI、PacI、SpeI部位を示す)の2つのプライマーを等量ずつ混合し、95℃で30秒、72℃で2分、37℃で2分、および25℃で2分連続的に反応させてアニーリングし、MfeI、AscI、PacI、およびSpeIの4制限酵素部位を含む2本鎖オリゴヌクレオチド断片を作製した。プラスミドpAC-Mvを制限酵素EcoRV-HindIII消化後、これと作製した2本鎖オリゴヌクレオチド断片を連結し、プラスミドpAC-Mv(MAPS)を作製した。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のATR2遺伝子配列については、非特許文献8の情報を基に作製したATR2遺伝子における葉緑体移行配列および膜貫通領域の配列を除いた遺伝子部分を含むプラスミドpSTV28-ATR2を鋳型に、ATR2 Fw(5’-AGTTTAAAGGAGGCAGCTATGCGTCGCTCCGGTTCTGGGAATTCAAAACGTG-3’〔配列番号13〕、下線はDraI部位とSD配列を示す、8番目から13番目の塩基がSD配列、22番目から27番目の塩基は大腸菌型コドンに改変した塩基を示す)およびATR2 Rv(5’-AGCAATTGTTACCATACATCTCTAAGATATCTTCCACTCG-3’〔配列番号14〕、下線はMfeI部位を示す)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。PCR増幅したATR2断片は、制限酵素DraI-MfeIにて消化後、pAC-Mv(MAPS)プラスミドのEcoRV-MfeI部位に連結し、プラスミドpAC-MvATR2を作製した。ZSS1遺伝子配列については、pUC-Zss1プラスミド(非特許文献2)を鋳型に、Hum Fw(5’-CAGAATTCAGGAGGCAGCTATGGAACGTCAGTCGATGGCCCTTGTTGG-3’〔配列番号15〕、下線はEcoRI部位とSD配列を示す、9番目から14番目の塩基がSD配列、23番目から28番目の塩基は大腸菌型コドンに改変した塩基を示す)およびHum Rv(5’-GGTCTAGATTAAATAAGAAAGGATTCAACAAATATGAGAG-3’〔配列番号16〕、下線はXbaI部位を示す)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。PCR増幅したZSS1断片は、制限酵素EcoRI-XbaIにて消化後、プラスミドpAC-MvATR2のMfeI-SpeI部位に連結し、目的とするプラスミドpAC-MvATR2Hum(図2)を作製した。pAC-MvATR2Humはクロラムフェニコール耐性遺伝子を有しており、その元となる大腸菌用ベクターはP15AオリジンをもつpACYC184(accession no. X06403)である。pET、pUC、pBluscriptベクター等のColE1系のオリジンをもつ多くの大腸菌ベクターと共存可能である。
【0063】
[実施例2]プラスミドpET-ZzP450T1の作製
ハナショウガ(Zingiber zerumbet (L.) Smith)由来のシトクロムP450遺伝子(CYP71BA1と命名)(塩基配列:配列番号1、アミノ酸配列:配列番号2)は以下のようにして取得した:ハナショウガの根茎から抽出した全RNA(非特許文献2)から、SuperScript(商標)III First-strand Synthesis Kit(Invitrogen製)を用いて、ポリ(dT)プライミングにより、cDNAを合成し、プライマー1(5’- AARGARACIHTIMGIHTICAYCC -3’〔配列番号17〕)およびプライマー2(5’- CANATYCTICKICCISHICCRAAIGG -3’〔配列番号18〕)の2つのプライマーとEx Taq(TaKaRa BIO)を用いたRT-PCRによりDNA断片(部分長配列)を増幅した。条件は、初期変性として94℃を2分、その後94℃を30秒、48℃を1分30秒、72℃を1分のサイクルを4サイクル繰り返し、さらに94℃を30秒、54℃を1分30秒、72℃を1分のサイクルを30サイクル繰り返し、最終伸長として72℃で3分間反応させた。また、これで得られた反応液を鋳型として同様の条件でさらにDNA断片を増幅させた。得られたDNA断片を精製し、pGEM-T easy vector(Promega製)にクローン化して配列決定した。この決定した配列を元にプライマー3(5’- CAGAGATGAGAAGTATTGGGGCTCC -3’〔配列番号19〕)およびプライマー4(5’- CTTGAAGCTCTCTGCATCGGAG -3’〔配列番号20〕)を設計し、これらのプライマーとSmart RACE cDNA Amplification Kit(TaKaRa BIO;Clontech製)を用いて、そのマニュアルに従い5’-および3’ -RACE PCRを実施し断片を増幅させ、上記と同様の方法で配列を決定した。また、ここで得られた配列より発現ベクターに導入するためにプライマー5(5’- CACCATGGAAGCTATTTCCCTCTTC -3’〔配列番号21〕)およびプライマー6(5’- CTATGGCAGAGGAATTATTAGCTTG -3’〔配列番号22〕)を設計し、Prime Star(TaKaRa BIO)を用いて98℃を10秒、65℃を5秒、72℃を1分30秒のサイクルを32サイクル繰り返す条件でPCRを行った。全長のCYP71BA1遺伝子を含む増幅されたDNA断片は、Champion pET Directional TOPO Expression Kits(Invitrogen)を用いマニュアルに従い、pET101/D-TOPO vector(Invitrogen)に連結し、プラスミドpET-ZzP450T1を作製した。
【0064】
なお、本プラスミド以外に、同様の方法で別の全長のP450遺伝子を含むDNA断片(4個)をPCR増幅し、各々の断片をpET101/D-TOPO vector(Invitrogen)に連結したプラスミドも作製した。
【0065】
[実施例3]プラスミドpAC-MvATR2Hum 及びpET-ZzP450T1を導入した大腸菌の培養
実施例1で作製したプラスミドpAC-MvATR2Hum及び実施例2で作製したプラスミドpET-ZzP450T1(または実施例2で作製した別のP450遺伝子発現用プラスミド)を、大腸菌BL21(DE3)に共導入した組換え大腸菌を作製した。この大腸菌を用い、以下の手順で培養を行った。1)各プラスミド導入大腸菌をLB培地3 mL(100 μg/mLアンピシリン、30 μg/mL クロラムフェニコールを含む)、30℃、16時間前培養、2)2.5 mLのTB本培養液(100 μg/mLアンピシリン、30 μg/mL クロラムフェニコール、0.5 mg/mLのD-メバロノラクトン(D-mevalonolactone)、80 μg/mL の5-アミノレブリン酸、0.1 mM FeSO4を含む)に1% (v/v)植菌し、30℃、OD600=0.8まで培養、3)IPTGを終濃度0.1 mMになるよう添加後、18℃で3日間培養、4)反応液に500 μLの飽和NaCl、1mLの酢酸エチルを添加して抽出、酢酸エチル層をHPLC分析。なお、操作2)と3)は次の方法でも代替出来る。2)2.5 mLのOvernight Express TB培養液(100 μg/mLアンピシリン、30 μg/mL クロラムフェニコール、0.5 mg/mLのD-メバロノラクトン、80 μg/mL 5-アミノレブリン酸、0.1 mM FeSO4を含む、Overnight Express 試薬はNovagen社より販売されている)に1% (v/v)植菌し、37℃、4時間培養、3)18℃で3日間培養。
【0066】
[実施例4]組換え大腸菌により合成されたセスキテルペンの分析
3日後、培養液を一部取り、GC-MS分析を行った。サンプルは、DB-WAXキャピラリーカラム(0.25 mm × 0.25 μm × 30 m, J&W Scientific社製)を装備した島津GCMS-QP5050Aシステム(島津社製)を用いて定性・定量分析を行った。スプリットインジェクション(比率:22:1、インジェクター温度:250℃)により、サンプル(1 μL)をインジェクションした。分析プログラムは、40℃で3分間保持後、毎分3℃ずつ80℃まで、さらに毎分5℃ずつ180℃まで加温し、その後毎分10℃ずつ240℃ まで加温した後、この温度を5分間保持する条件で行った。質量分析は、出力70 eV、インターフェース温度250℃で、40〜400 m/zの範囲を測定した。保持時間(26.2分)と質量分析結果より定性分析を行った。8-ヒドロキシ-α-フムレン(8-hydroxy-α-humulene)の標品は、株式会社ナード研究所に合成を依頼し入手した。
【0067】
上記の手順に従い、プラスミドpAC-MvATR2HumおよびpET-ZzP450T1を保持する組換え大腸菌について得られた結果を図4に示す。α-フムレンの変換産物は、8-ヒドロキシ-α-フムレンの標品と保持時間、MSパターンとも一致することが明らかとなった。この結果、CYP71BA1の触媒機能が図3のように同定された。
【0068】
なお、pAC-MvATR2Humおよび実施例2で作製した別のP450遺伝子発現用プラスミドを保持する各々の組換え大腸菌についても同様に、上記手順に従って実験を行った。その結果、α-フムレンの変換産物は全く認められなかったので、これらのP450にはα-フムレンを変換する活性は認められないと結論した。
【0069】
[実施例5]プラスミドpET-ZzSDR1の作製
ハナショウガ(Zingiber zerumbet (L.) Smith)由来の脱水素酵素遺伝子(デヒドロゲナーゼ;dehydrogenase;ZSD1と命名)(塩基配列:配列番号3、アミノ酸配列:配列番号4)は以下のようにして取得した:ハナショウガの根茎から抽出した全RNA(非特許文献2)から、SuperScript(商標)III First-strand Synthesis Kit(Invitrogen)を用いて、ポリ(dT)プライミングにより、cDNAを合成し、プライマー7(5’- GGIAARGTIGCCHTIRTVACIGG -3’〔配列番号23〕)およびプライマー8(5’- GGRCTNACRCARTTIACIC -3’〔配列番号24〕)の2つのプライマーとEx Taq(TaKaRa BIO)を用いたRT-PCRによりDNA断片(部分長配列)を増幅した。条件は、初期変性として94℃を2分、その後94℃を30秒、51℃を30秒、72℃を30秒のサイクルを35サイクル繰り返し、最終伸長として72℃で2分間反応させた。得られたDNA断片を精製し、pGEM-Teasy vector(Promega)にクローン化して配列決定した。この決定した配列を元にプライマー9(5’- CGGATGTCAATGACCTTGTCACCTGT -3’〔配列番号25〕)およびプライマー10(5’- GATGAGCTTGGTCAGCAAGTAAGCCAAC -3’〔配列番号26〕)を設計し、これらのプライマーとSmart RACE cDNA Amplification Kit(TaKaRa BIO;Clontech)を用いてそのマニュアルに従い5’-および3’ -RACE PCRを実施しDNA断片を増幅させ、上記と同様の方法で配列を決定した。また、ここで得られた配列より発現ベクターに導入するためにプライマー11(5’- CACCATGAGGTTAGAAGGGAAAGTTGC -3’〔配列番号27〕)およびプライマー12(5’- TTCGAACACTTGGAGTGTATGG -3’〔配列番号28〕)を設計し、Prime Star(TaKaRa)を用いて98℃を10秒、55℃を5秒、72℃を1分のサイクルを30サイクル繰り返す条件でPCRを行った。全長のZSD1遺伝子を含む増殖されたDNA断片は、Champion pET Directional TOPO Expression Kits(invitrogen)を用いマニュアルに従い、pET101/D-TOPO vector(Invitrogen)に連結し、プラスミドpET-ZzSDR1を作製した。ZSD1遺伝子にコードされるZSD1タンパク質は267アミノ酸残基からなる全長804 bpのshort-chain dehydrogenase/ reductaseの配列であった。
【0070】
[実施例6]ZSD1タンパク質による基質変換反応
大腸菌BL21(DE3)にpET-ZzSDR1を形質転換し、定法によりZSD1タンパク質を合成させた。そのタンパク質をNiアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。TEST-TUBE&VIAL (NICHIDEN-RIKA GLASS)に20 mMの8-ヒドロキシ-α-フムレンを5 μl、80 mM NADを25 μl、上記の精製タンパク質を970 μl加え、パラフィルムを巻いて31 ℃で一晩反応させた。反応物を2 mlチューブに移し、ペンタンを500 μl加え重層した。ボルテックスミキサーにより懸濁し、遠心分離 (4000 rpm、2 min、4℃)を行い、上層を回収した。ペンタンを500 μl加え、同様の操作を3回繰り返し、上層を回収した。次にサンプルを濃縮するために窒素ガスを吹きつけ、サンプルが100 μl程度になるまで濃縮した。
【0071】
濃縮サンプルは、実施例4の手順に従い培養・分析を行った。その結果、8-ヒドロキシ-α-フムレンの変換産物は、ゼルンボンの標品(和光純薬工業)と保持時間(41.4分)、MSパターンとも一致することが明らかとなった。この結果、ZSD1の触媒機能が図3のように同定された。
【0072】
[実施例7]プラスミドpAC-MvZoRED1およびpAC-MvZoRED2の作製
金時ショウガ(Zingiber officinale Roscoe, Japanese “Kintoki” cultivar)由来のNADPH-P450還元酵素(レダクターゼ;reductase)1遺伝子(ZoRED1と命名)(塩基配列:配列番号5、アミノ酸配列:配列番号6)及びNADPH-P450還元酵素2遺伝子(ZoRED2と命名)(塩基配列:配列番号7、アミノ酸配列:配列番号8)は以下のようにして取得した:金時ショウガの根茎から抽出した全RNAを鋳型とし、Creator(商標)SMART(商標)cDNA Library Construction Kit(Clontech)を用いて二本鎖cDNAを合成した。ZoRED1の5'及び3'末端部分の配列は、合成した二本鎖cDNAを鋳型とし、ZoRED1-5R(5'-AAAGAAAACACCAAGAGGAGGTTTG-3'〔配列番号29〕、5'-RACE用)及びZoRED1-3R(5'-ACCGTGTTGTATTCCTAAATCGTGA-3'〔配列番号30〕、3'-RACE用)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。ZoRED2の5'及び3'末端部分の配列は、合成した二本鎖cDNAを鋳型とし、ZoRED2-5R(5'-CTCCTTGTCAGCATGGATAGAGAAA-3'〔配列番号31〕、5'-RACE用)及びZoRED2-3R(5'-AGGTGCATCTACCCCATATACTGCT-3'〔配列番号32〕、3'-RACE用)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。得られた各DNA断片を精製し、pGEM-Teasy vector(Promega)にクローン化して塩基配列を決定した。ZoRED1全長配列は、合成した二本鎖cDNAを鋳型とし、決定した塩基配列を基に作製したZoRED1Fw(5'-ACACAATTGAGGAGGCAGCTATGCAGCCCGGCGACGTT-3'〔配列番号33〕、下線はMfeI部位を示し、5'末端から10〜15番目の塩基がSD配列である。)及びZoRED1Rv(5'-GGACTAGTTACCACACATCACGCAGG-3'〔配列番号34〕、下線はSpeI部位を示す)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。ZoRED2全長配列は、合成した二本鎖cDNAを鋳型とし、決定した塩基配列を基に作製したZoRED2Fw(5'-AAACAATTGAGGAGGCAGCTATGCAGACGGGTTCCGAG-3'〔配列番号35〕、下線はMfeI部位を示し、5'末端から10〜15番目の塩基がSD配列である。)及びZoRED2Rv(5'-GGACTAGTCACCATACATCTCTTAGGTATCTCC-3'〔配列番号36〕、下線はSpeI部位を示す)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。PCR増幅したZoRED1及びZoRED2断片は、制限酵素MfeI-SpeIにて消化後、pAC-Mv(MAPS)プラスミドの相当部位に連結し、それぞれpAC-MvZoRED1及びpAC-MvZoRED2プラスミドを作製した。
【0073】
[実施例8]プラスミドpET-Hum-ZzP450T1の作製
ZSS1遺伝子配列については、pUC-Zss1プラスミド(非特許文献2)を鋳型に、Hum Fw2(5’- AGGAGATATACCATGGAGAGGCAGTCGATGG-3’〔配列番号37〕、下線は相同組換え配列部位を示す)およびHum Rv2(5’- ATGCGGCCGCAAGCTTAAATAAGAAAGGATTCAACAAATATG-3’〔配列番号38〕、下線は相同組換え配列部位を示す)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。PCR増幅したZSS1断片は、制限酵素NcoI-HindIII処理して直鎖状にしたpET Duet-1ベクター(Novagen製)と混合した後、In-Fusion(商標)Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)を用いた相同組換え法によりpET Duet-1プラスミドの相当部位に連結し、pET-Humプラスミドを作製した。CYP71BA1配列については、pET-ZzP450T1プラスミドを鋳型とし、ZzP450T1Fw(NdeI)(5'- GGAATTCCATATGGAAGCTATTTCCCTCTTCTC-3'〔配列番号39〕、下線はNdeI部位を示す)及びZzP450T1 Rv(KpnI)(5'- GGGGTACCTATGGCAGAGGAATTATTAGCTTG-3'〔配列番号40〕、下線はKpnI部位を示す)の2つのプライマーを用いたPCRにより増幅した。PCR増幅したCYP71BA1断片は、制限酵素NdeI-KpnIにて消化後、pET-Humプラスミドの相当部位に連結し、プラスミドpET-Hum-ZzP450T1を作製した。
【0074】
[実施例9]プラスミドpAC-MvZoRED1またはpAC-MvZoRED2 及びpET-Hum-ZzP450T1を導入した大腸菌の培養・分析
実施例7で作製したプラスミドpAC-MvZoRED1またはpAC-MvZoRED2、及び実施例8で作製したプラスミドpET-Hum-ZzP450T1を、大腸菌BL21(DE3)に共導入した組換え大腸菌を作製した。この大腸菌を用い、実施例3に示した手順で培養を行った。そして、実施例4で示した手順でGC-MS分析を行ったところ、プラスミドpAC-MvZoRED1またはpAC-MvZoRED2及びpET-Hum-ZzP450T1を保持する組換え大腸菌による変換産物の8-ヒドロキシ-α-フムレンの生成量は、実施例4で行ったプラスミドpAC-MvATR2Hum及びpET-ZzP450T1を保持する組換え大腸菌の生成量の2倍程度であった。したがって、ハナショウガのCYP71BA1遺伝子を大腸菌で機能発現するためのNADPH-P450レダクターゼ遺伝子の相性は、シロイヌナズナ由来のATR2遺伝子より金時ショウガ由来のZoRED1またはZoRED2遺伝子の方がよいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、抗HIVや抗腫瘍活性を有するゼルンボンを組換え大腸菌を用いて製造することが可能になる。このため、本発明は、製薬などの産業分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)に示す遺伝子、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(c)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(d)配列番号1記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPH-シトクロムP450還元酵素の存在下でα-フムレンを8-ヒドロキシ-α-フムレンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
【請求項2】
以下の(e)、(f)、(g)、又は(h)に示す遺伝子、
(e)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(f)配列番号4記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(g)配列番号3記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(h)配列番号3記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ8-ヒドロキシ-α-フムレンをゼルンボンに変換する活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載のいずれか一方の遺伝子、又は請求項1及び2に記載の両方の遺伝子を導入し、発現させた組換え大腸菌。
【請求項4】
請求項1に記載の遺伝子又は請求項1及び2に記載の両方の遺伝子に加えて、以下の(1)〜(4)の遺伝子を導入し発現させた組換え大腸菌、
(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(3)NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子、
(4)ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子。
【請求項5】
メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子が、ストレプトミセス属CL190株由来の遺伝子群である請求項4に記載の組換え大腸菌。
【請求項6】
NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子が、シロイヌナズナ由来のATR2遺伝子である請求項4又は5に記載の組換え大腸菌。
【請求項7】
NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子が、以下の(i)、(j)、(k)、又は(l)に示す遺伝子である請求項4又は5に記載の組換え大腸菌、
(i)配列番号6記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(j)配列番号6記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(k)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(l)配列番号5記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
【請求項8】
NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子が、以下の(m)、(n)、(o)、又は(p)に示す遺伝子である請求項4又は5に記載の組換え大腸菌、
(m)配列番号8記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(n)配列番号8記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(o)配列番号7記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(p)配列番号7記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつNADPHからシトクロムP450への電子伝達活性を有するポリペプチドをコードするDNAからなる遺伝子。
【請求項9】
ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子が、ハナショウガ由来のZSS1遺伝子である請求項4乃至8のいずれか一項に記載の組換え大腸菌。
【請求項10】
請求項4乃至9のいずれか一項に記載の組換え大腸菌を、メバロン酸又はメバロノラクトンを含む培地で培養して培養物又は菌体から8-ヒドロキシ-α-フムレン又はゼルンボンを得ることを特徴とする、酸化セスキテルペンの製造方法。
【請求項11】
以下の(1)〜(3)及び(4A)の遺伝子、並びに(X)の遺伝子候補を導入し発現させた組換え大腸菌を、メバロン酸又はメバロノラクトンを含む培地で培養して培養物又は菌体から変換されたセスキテルペンを調製し、その変換されたセスキテルペンの化学構造を解析することにより、セスキテルペン変換酵素の触媒機能を同定することを特徴とする、セスキテルペン変換酵素遺伝子の機能解析方法、
(1)メバロン酸又はメバロノラクトンからイソペンテニル二リン酸までの合成を行うメバロン酸経路遺伝子群、
(2)イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ遺伝子、
(3)NADPH-シトクロムP450還元酵素遺伝子、
(4A)ファルネシル二リン酸からセスキテルペンを合成する酵素の遺伝子、
(X)セスキテルペン変換酵素遺伝子候補。
【請求項12】
ファルネシル二リン酸からセスキテルペンを合成する酵素の遺伝子が、ファルネシル二リン酸からα-フムレンを合成する酵素の遺伝子である請求項11に記載のセスキテルペン変換酵素遺伝子の機能解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−55721(P2011−55721A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205961(P2009−205961)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度生物系特定産業技術研究支援センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」産業技術力強化法第19条(旧:産業活力再生特別措置法第30条)の適用を受けるもの
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】