説明

セパレータおよびこれを用いた非水電解質電池

【課題】電池の短寿命化を抑制できると共に、安全性を向上できるセパレータおよびこれを用いた非水電解質電池を提供する。
【解決手段】微多孔膜35は、膜厚が5μm以上12μm以下の場合には、表面粗さの最大高さが膜厚に対して30%以下であり、膜厚が12μmより大きく25μm以下の場合には、微多孔膜の表面粗さの最大高さが4μm以下であると共に、下記式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200以上とされたものである。
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セパレータおよびこれを用いた非水電解質電池に関する。詳しくは、微多孔膜を含むセパレータおよびこれを用いた非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池などの二次電池を、ハイブリッド自動車、電池自動車などの自動車用蓄電池や、太陽電池、風力発電などの新エネルギーシステムと組み合わせた電力貯蔵用蓄電池として用いる用途が、拡大している。
【0003】
これらの蓄電池では、高容量および高出力の他に、小型化、長寿命および高安全性が求められている。高容量および高出力、小型化を実現するため、微多孔膜の薄膜化が求められている。
【0004】
微多孔膜を薄膜化することで、電池を高容量化および高出力化することができる一方、その強度が低下するなどして電池の安全性が低下する。そこで、高容量化、高出力化された電池の安全性を高めるために、高分子化合物または高分子化合物と金属酸化物との混合物を微多孔膜に含浸することや塗布することが、提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、ポリオレフィン樹脂の微多孔膜に、耐熱性樹脂をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶媒に溶解した溶液を塗布したのち、水などの溶媒中で相分離させた後、乾燥させることで得たセパレータが、提案されている。このセパレータでは、ポリオレフィン樹脂の微多孔膜の一面に、多孔質構造を有する耐熱性樹脂が形成され、これにより、安全性を高める。
【0006】
しかしながら、高容量化、高出力化された電池において、高安全性を確保するためには、微多孔膜上に、耐熱性樹脂を形成したのみでは十分ではない。例えば、微多孔膜の細孔径、透気度、曲路率のバランスも必要となる。
【0007】
特許文献2では、多孔質セパレータにおいて、細孔径、透気度、曲路率を含めたパラメータから算出される孔数を100個以下にすることで、高安全性を確保できることが、提案されている。
【0008】
また、特許文献3では、多孔性フィルムの表面を粗面化したセパレータを用いることが提案されている。表面を粗面化することで、電解液の保液量が増大し、電池の高容量化に好適である共に、フィルムの滑り性が向上して、電池の巻回加工時のハンドリング性が好適になる。このセパレータは、例えば、表面粗度が、最大高さ(Rmax)値として3μm以上のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−21086号公報
【特許文献2】特開2003−22838号公報
【特許文献3】特許第4049416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2のように、細孔径、透気度、曲路率を含めたパラメータから算出される孔数を100個以下と少なくした微多孔膜を用いた場合には、電流が電極の一部に集中することで、電極が局所的に急劣化して、電池が短寿命になってしまう。
【0011】
特許文献3のように、表面が粗すぎると、部分的に微多孔膜が薄膜化して、ピンホールなどが多くなり、突刺強度などが仮に高かったとしても、十分な安全性は確保できない。
【0012】
したがって、この発明の目的は、電池の短寿命化を抑制できると共に、安全性を向上できるセパレータおよびこれを用いた非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、膜厚が5μm以上25μm以下である微多孔膜を含み、膜厚が5μm以上12μm以下の場合には、微多孔膜の表面粗さの最大高さが膜厚に対して30%以下であり、膜厚が12μmより大きく25μm以下の場合には、微多孔膜の表面粗さの最大高さが4μm以下であると共に、下記式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200以上であるセパレータである。
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(孔数:N、ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)
【0014】
第2の発明は、正極と、負極と、電解質と、膜厚が5μm以上25μm以下である微多孔膜を含むセパレータとを備え、膜厚が5μm以上12μm以下の場合には、微多孔膜の表面粗さの最大高さが膜厚に対して30%以下であり、膜厚が12μmより大きく25μm以下の場合には、微多孔膜の表面粗さの最大高さが4μm以下であると共に、下記式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200以上である非水電解質電池である。
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)
【0015】
第1および第2の発明では、セパレータは、膜厚が5μm以上25μm以下である微多孔膜を含み、膜厚が5μm以上12μm以下の場合には、微多孔膜の表面粗さの最大高さが膜厚に対して30%以下であり、膜厚が12μmより大きく25μm以下の場合には、微多孔膜の表面粗さの最大高さが4μm以下であると共に、式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200以上である構成を有する。これにより、イオン伝導体積が無駄なく確保された状態で、高安全性や長寿命を達成することができる
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、電池の短寿命化を抑制できると共に、安全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態によるセパレータの構成例を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態による非水電解質電池の構成例を示す断面図である。
【図3】図2における巻回電極体の一部を拡大した断面図である。
【図4】この発明の実施の形態による非水電解質電池の構成例を示す分解斜視図である。
【図5】図4における巻回電極体の断面図である。
【図6】外装部材の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(セパレータの第1の例)
2.第2の実施の形態(セパレータの第2の例)
3.第3の実施の形態(セパレータの第3の例)
4.第4の実施の形態(非水電解質電池の第1の例)
5.第5の実施の形態(非水電解質電池の第2の例)
6.第6の実施の形態(非水電解質電池の第3の例)
7.他の実施の形態(変形例)
【0019】
1.第1の実施の形態
この発明の第1の実施の形態によるセパレータについて説明する。このセパレータは、微多孔構造を有する微多孔膜からなる。このセパレータは、例えば、リチウムイオン二次電池などの非水電解質電池などに用いる。
【0020】
この微多孔膜は、膜厚が12μmより大きく25μm以下に選ばれたものであり、表面粗さの最大高さRzが4μm以下であると共に、式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200個以上とされたものである。この微多孔膜からなるセパレータを用いた電池では、イオン伝導体積が無駄なく確保された状態で、高安全性や長寿命を達成することができる。この微多孔膜からなるセパレータを用いた電池では、高容量、高出力と共に、高安全性や長寿命を達成することができる。
【0021】
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)
【0022】
微多孔膜の表面粗さの最大高さRzは、以下の理由で4μm以下とされている。すなわち、表面粗さの最大高さRzが、4μmより大きいと、部分的に微多孔膜が薄膜化してピンホールなどが多くなるため、安全性が低下する。なお、微多孔膜の表面粗さは、微多孔構造を有することから、0にはならないが、0により近い方が好ましい。
【0023】
微多孔膜の孔数Nは、以下の理由で200個以上とされている。すなわち、微多孔膜の孔数Nが200個以上であると、電解液の保持量が多くなるだけでなく、電極上において、局所的に反応が起きず、電極全体で均一に充放電反応ができるため、容量の急劣化が発生しなくなり長寿命になる。なお、孔数Nは、N≦4000であることが好ましい。孔数Nが大きくなると、これに伴い平均細孔径が小さくなる傾向にあり、例えば平均細孔径が15nm未満になると、電解液の分解物が詰まりやすく、サイクル特性が悪化するからである。
【0024】
微多孔膜の空孔率は、30%以上60%以下であることが好ましい。空孔率が30%未満であると、電池の寿命が低下する傾向にあり、60%を超えると、電池の安全性が低下する傾向にある。
【0025】
微多孔膜の平均細孔径は、15nm以上60nm以下であることが好ましい。15nm未満であると、電池の寿命が低下したり、高出力が得られない傾向にある。60nmを超えると、電池の安全性が低下する傾向にある。
【0026】
微多孔膜の透気度は、100sec/100ml以上1000sec/100ml以下であることが好ましい。100sec/100ml未満であると、電池の安全性が低下する傾向にあり、1000sec/100mlを超えると、電池の寿命が低下する傾向にある。
【0027】
微多孔膜の曲路率τは、1.2以上2.5以下であることが好ましい。1.2未満であると、電池の安全性が低下する傾向にあり、2.5を超えると、イオンの透過性が低下し、電池の電気的な特性が低下する傾向にある。
【0028】
なお、曲路率τは以下のように求める。
空気の流れが、分子拡散流「クヌーセンの流れ」に従うため、式(A)が成立する。
Rgas=(ν×ε×d)/(3×L×τ2×Ps)・・・式(A)
(ν:空気の平均分子速度=500m/sec、ε:空孔率、d:平均細孔径、τ:曲路率、L:膜厚、Ps:標準圧力=101.3kPa)
【0029】
また、空気の流れは、透気度から求まり、式(B)が成立する。
Rgas=135.4/t[μm/s・Pa]
(t:透気度[sec/100ml])
【0030】
式(A)および式(B)から、曲路率τを求める式(C)が導出される。
曲路率τ={(d×ε×ν×t)/(405.9×L×Ps)}1/2・・・式(C)
【0031】
微多孔膜の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、ガラス繊維などが挙げられる。
【0032】
微多孔膜の材料としては、シャットダウン機能を持たせるために、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。この微多孔膜では、孔数Nが200個以上とされていることから、シャットダウン機能がより短時間で発現する。このため、これを用いた電池では、シャットダウン機能をより有効に利用して、より高い安全性を確保できる。
【0033】
なお、[背景技術]の欄で例示した、特許文献2(特開2003−22838号公報)では、孔数が100個以下の微多孔膜をセパレータとして用いている。このような微多孔膜では、十分なイオン透過面積を確保しようとする場合には、孔数が少ないため、大きな細孔が必要となる。しかしながら、細孔が大きいと、細孔が閉じてシャットダウン機能が働くまで時間がかかり、発熱、熱暴走するなどして安全性を確保できない問題がある。この問題に対して、微多孔膜を用いると同時に反応を抑制するような添加剤を用いる方法やシャットダウン機能を用いずに、内部短絡で自動放電する方法などにより、安全性を確保する方法もある。しかしながら、高容量化、高出力化された電池では、これらの方法では、短絡した時に瞬時に流れる電流が大きく、添加剤の反応速度では対応できない問題や短絡時に発生するエネルギーが大きすぎるため安全性が確保できない問題がある。さらに、特許文献2の微多孔膜の問題として、大きな細孔に微粉化された正極活物質、負極活物質が入り込むなどして、短絡し、生産性も低下してしまう問題もある。第1の実施の形態による微多孔膜からなるセパレータは、孔数Nを200個以上とすることにより、これらの問題を改善することができる。
【0034】
2.第2の実施の形態
この発明の第2の実施の形態によるセパレータについて説明する。このセパレータは、微多孔構造を有する微多孔膜からなる。このセパレータは、例えば、リチウムイオン二次電池などの二次電池に用いる。
【0035】
この微多孔膜は、膜厚が5μm以上12μm以下に選ばれたものであり、表面粗さの最大高さRzが、膜厚に対して30%以下であると共に、式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200個以上とされたものである。この微多孔膜からなるセパレータを用いた電池では、イオン伝導体積が無駄なく確保された状態で、高安全性や長寿命を達成することができる。この微多孔膜からなるセパレータを用いた電池では、高容量、高出力と共に、高安全性や長寿命を達成することができる。
【0036】
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)
【0037】
表面粗さの最大高さRzは、以下の理由で膜厚に対して30%以下とされている。すなわち、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%より大きいと、部分的に微多孔膜が薄膜化してピンホールなどが多くなるため、安全性が低下する。なお、表面粗さの最大高さRzは、微多孔構造を有することから、0にはならないが、0により小さい方が好ましい。
【0038】
微多孔膜の孔数Nは、1μm2あたり200個以上である。第1の実施の形態と同様、孔数Nが200個以上であると、電解液の保持量が多くなるだけでなく、電極上において、局所的に反応が起きず、電極全体で均一に充放電反応ができるため、容量の急劣化が発生しなくなり長寿命になる。なお、孔数Nは、第1の実施の形態と同様、N≦4000であることが好ましい。
【0039】
第1の実施の形態と同様、微多孔膜の空孔率は、30%以上60%以下であることが好ましい。微多孔膜の平均細孔径は、15nm以上60nm以下であることが好ましい。微多孔膜の透気度は、100sec/100ml以上1000sec/100ml以下であることが好ましい。微多孔膜の曲路率τは、1.2以上2.5以下であることが好ましい。また、微多孔膜の材料は、第1の実施の形態と同様である。また、第2の実施の形態によるセパレータは、第1の実施の形態と同様の効果を有する。
【0040】
3.第3の実施の形態
この発明の第3の実施の形態によるセパレータについて説明する。図1は、この発明の第3の実施の形態によるセパレータの断面構成を示す。図1に示すように、セパレータは、微多孔構造を有する微多孔膜1aと、微多孔膜1aの少なくとも一主面に形成された高分子組成物1bとを含む。このセパレータは、例えば、リチウムイオン二次電池などの非水電解質電池に用いる。このセパレータでは、微多孔膜1aの少なくとも一主面に、高分子組成物1bを有することによって、衝撃や過熱に対して、より高い安全性を付与することができる。
【0041】
(微多孔膜)
微多孔膜1aは、第1の実施の形態または第2の実施の形態で説明した微多孔膜と同様である。
【0042】
(高分子組成物)
高分子組成物1bは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル樹脂、ポリメタクリル樹脂、芳香族アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、スチレンブタジエンラテックスなどの選ばれた1種の高分子化合物、または2種以上の高分子化合物の混合物を含む。高分子組成物1bは、上記の高分子化合物と、電解液や可塑剤とが混合されてゲル状となっていてもよい。また、微多孔膜に高分子組成物1bが、含浸されていてもよい。
【0043】
高分子組成物1bは、高分子化合物と共に金属酸化物を含んでいてもよい。これにより、衝撃や加熱に対して、より高い安全性を付与することができる。
【0044】
(金属酸化物)
金属酸化物としては、ケイ素、アルミニウム、タンタル、ニオブ、アンチモン、ゲルマニウム、ガリウム、バナジウム、ジルコニウ、タングステン、チタン、ルテニウム、モリブデン等の酸化物が挙げられる。これらの酸化物を1種または2種以上で用いてもよい。
【0045】
なお、図1において、高分子組成物1bが、微多孔膜1aの一主面に形成された例を示しているが、微多孔膜の両主面に高分子組成物1bを形成するようにしてもよい。この場合、高分子組成物1bの組成は、一主面と、他の主面とでそれぞれ異なる組成としてもよい。また、高分子組成物1bの組成は、一主面と、他の主面とで同一の組成としてもよい。
【0046】
4.第4の実施の形態
(非水電解質電池の構成)
この発明の第4の実施の形態による非水電解質電池について説明する。図2はこの発明の第4の実施の形態による非水電解質電池の断面構成を示す。図3は、図2に示した巻回電極体20の一部を拡大して示す。この非水電解質電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。
【0047】
この非水電解質電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0048】
電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12、13がそれぞれ配置されている。
【0049】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。
【0050】
電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。
【0051】
熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0052】
巻回電極体20の中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウム(Al)などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケル(Ni)などよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
【0053】
(正極)
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0054】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
【0055】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0056】
(正極材料)
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。
【0057】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LixNi1-zCoz2(z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi(1-v-w)CovMnw2(v+w<1))、またはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn24)あるいはリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LiMn2-tNit4(t<2))などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4)、リチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnuPO4(u<1))、LixFe1-yM2yPO4(式中、M2は、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)からなる群のうちの少なくとも1種を表す。xは、0.9≦x≦1.1の範囲内の値である。)などが挙げられる。
【0058】
この他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0059】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料が挙げられる。
【0060】
(負極)
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0061】
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
【0062】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。この際、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料における充電可能な容量は、正極の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。なお、結着剤および導電剤に関する詳細は、正極と同様である。
【0063】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
【0064】
上述の炭素材料の他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素または半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、この発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種以上が共存するものがある。
【0065】
上記した金属元素または半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素または半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0066】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金または化合物や、スズの単体、合金または化合物や、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0067】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ(Sn)以外の第2の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0068】
スズの化合物またはケイ素の化合物としては、例えば、酸素(O)または炭素(C)を含むものが挙げられ、スズ(Sn)またはケイ素(Si)に加えて、上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0069】
特に、ケイ素(Si)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、スズ(Sn)を第1の構成元素とし、そのスズ(Sn)に加えて第2の構成元素と第3の構成元素とを含むものが好ましい。勿論、この負極材料を上記した負極材料と共に用いてもよい。第2の構成元素は、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)、セリウム(Ce)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)およびケイ素(Si)からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素(B)、炭素(C)、アルミニウム(Al)およびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2の元素および第3の元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
【0070】
中でも、スズ(Sn)、コバルト(Co)および炭素(C)を構成元素として含み、炭素(C)の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、スズ(Sn)およびコバルト(Co)の合計に対するコバルト(Co)の割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下の範囲内であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られるからである。
【0071】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、リン(P)、ガリウム(Ga)またはビスマス(Bi)などが好ましく、それらの2種以上を含んでいてもよい。容量特性またはサイクル特性がさらに向上するからである。
【0072】
なお、SnCoC含有材料は、スズ(Sn)、コバルト(Co)および炭素(C)を含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下は、スズ(Sn)などが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集または結晶化が抑制されるからである。
【0073】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えば、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、SnCoC含有材料に含まれる炭素(C)の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合している。
【0074】
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0075】
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物または高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0076】
なお、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0077】
負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、焼成法、または塗布のいずれにより形成してもよく、それらの2以上を組み合わせてもよい。負極活物質層22Bを気相法、液相法、溶射法若しくは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成する場合には、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとが界面の少なくとも一部において合金化していることが好ましい。具体的には、界面において負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散し、あるいは負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散し、またはそれらの構成元素が互いに拡散し合っていることが好ましい。充放電に伴う負極活物質層22Bの膨張および収縮による破壊を抑制することができると共に、負極活物質層22Bと負極集電体22Aとの間の電子伝導性を向上させることができるからである。
【0078】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法または化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition)法またはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金または無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させることにより塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0079】
(セパレータ)
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23には、第1の実施〜第3の実施の形態のセパレータを用いることができる。このセパレータ23には、電解液が含浸されている。
【0080】
(電解液)
電解液は、溶媒と、電解質塩とを含む。
【0081】
(溶媒)
溶媒としては、例えば、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、リン酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドなどを用いることができる。この電解液を電池などの電気化学デバイスに用いた場合において、優れた容量、サイクル特性および保存特性が得られるからである。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0082】
中でも、溶媒としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルからなる群のうちの少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。十分な効果が得られるからである。この場合には、特に、高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率ε≧30)である炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンと、低粘度溶媒(例えば、粘度≦1mPa・s)である炭酸ジメチル、炭酸ジエチルまたは炭酸エチルメチルとを混合して含むものを用いることが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
【0083】
(電解質塩)
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩の1種あるいは2種以上を含有している。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C654)、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2SiF6)、塩化リチウム(LiCl)あるいは臭化リチウム(LiBr)などが挙げられる。中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムからなる群のうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。電解液の抵抗が低下するからである。特に、六フッ化リン酸リチウムと一緒に四フッ化ホウ酸リチウムを用いることが好ましい。
【0084】
(非水電解質電池の製造方法)
上述した非水電解質電池は、以下のようにして製造できる。
【0085】
(正極の製造)
まず、正極21を作製する。例えば、正極材料と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードまたはバーコータなどによって正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0086】
(負極の製造)
次に、負極22を作製する。例えば、負極材料と、結着剤と、必要に応じて導電剤とを混合して負極合剤としたのち、これを有機溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードまたはバーコータなどによって負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して負極活物質層22Bを形成する。
【0087】
次に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。その後、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12、13で挟み、電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解液を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。その後、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16を、ガスケット17を介してかしめることにより固定する。以上により、図2、図3に示した非水電解質電池が作製される。
【0088】
5.第5の実施の形態
(非水電解質電池の構成)
この発明の第5の実施の形態による非水電解質電池について説明する。図4はこの発明の第5の実施の形態による非水電解質電池の分解斜視構成を表しており、図6は図4に示した巻回電極体30の断面を拡大して示している。
【0089】
この非水電解質電池は、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0090】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0091】
外装部材40は、例えば、2枚の矩形状のフィルムからなり、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。この外装部材40は、少なくともアルミニウム層と、熱融着高分子層とを備えたラミネートフィルムからなる。熱融着高分子層としては、ナイロン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、およびそれらの共重合体が用いられる。ラミネートフィルムは、例えば、図5に示した、ナイロンフィルム40a、アルミニウムフィルム40b、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム40c、未延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム40dがこの順に張り合わさられた多層フィルムとして構成されている。このうち、アルミニウムフィルム40bは、外気の進入を防止する防湿性を有しており、PETフィルム40cおよびCPPフィルム40dは良好な熱融着性を有している。この外装部材40は、例えば、熱融着高分子層が巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着または接着剤によって互いに接着された構造を有している。
【0092】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0093】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムまたは金属フィルムによって構成されていてもよい。
【0094】
図6は、図4に示した巻回電極体30の断面構成を表している。図6に示すように、この巻回電極体30は、微多孔膜35および高分子組成物36を介して正極33と負極34とが積層および巻回された構成を有する。その最外周部は、保護テープ37によって保護されている。
【0095】
正極33は、例えば、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bが設けられたものであり、その負極活物質層34Bが正極活物質層33Bと対向するように配置されている。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34Bの構成は、夫々第2の実施の形態の正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、微多孔膜35の構成は、第1〜第2の実施の形態と同様である。
【0096】
電解質36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでいる。電解質36は、例えば、電解液により高分子化合物が膨潤されており、ゲル状電解質となっている。ゲル状電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。高分子化合物としては、電解液を吸収してゲル化するものが挙げられる。例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などのフッ化ビニリデン単量体単位を含む共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、またはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。また、電解質36は、金属酸化物を含有していてもよい。
【0097】
(非水電解質電池の製造方法)
この非水電解質電池は、例えば、以下の3種類の製造方法(第1〜第3の製造方法)によって製造される。
【0098】
(第1の製造方法)
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第4の実施の形態の正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製する。また、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。
【0099】
また、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む溶液を調製して、この溶液を正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の高分子組成物(電解質36)を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける
【0100】
続いて、ゲル状の高分子組成物が形成された正極33と負極34とを微多孔膜35を介して積層してから、長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を作製する。このとき、微多孔膜35にゲル状の高分子組成物が含浸されていてもよい。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、非水電解質電池が完成する。
【0101】
(第2の製造方法)
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に、負極34に負極リード32を取り付ける。続いて、微多孔膜35を介して正極33と負極34とを積層して巻回させたのち、その最外周部に保護テープ37を接着させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。
【0102】
続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、非水電解質電池が完成する。
【0103】
(第3の製造方法)
まず、第1の製造方法と同様、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製する。また、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成して負極34を作製する。
【0104】
次に、微多孔膜35の少なくとも一主面に、高分子化合物を含む高分子組成物を塗布、乾燥させることにより、微多孔膜35の少なくとも一主面に高分子組成物を形成する。なお、このとき、高分子組成物が金属酸化物を含むようにしてもよい。この他は、第2の製造方法と同様にして、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。
【0105】
微多孔膜35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ化ビニリデン単量体単位を含む共重合体が好ましい。これをN−メチル−2−ピロリドンなどの極性有機溶媒に溶解したものを塗布してもよい。これを塗布後、水などの上記極性有機溶媒に対して相溶性があり、上記高分子化合物に対して貧溶媒である溶媒中に浸漬させ、その後乾燥させて、多孔構造を有する高分子化合を含む高分子組成物を形成してもよい。
【0106】
続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子組成物を介して微多孔膜35を正極33および負極34に密着させる。これにより、高分組成物がゲル化し、ゲル状の電解質36が形成され、非水電解質電池が完成する。
【0107】
6.第6の実施の形態
この発明の第6の実施の形態による非水電解質電池について説明する。この発明の第6の実施の形態による非水電解質電池は、巻回電極体30において、電解液を高分子化合物に保持させたもの(電解質36)に代えて、電解液をそのまま用いた点以外は、第5の実施の形態による非水電解質電池と同様である。したがって、以下では、第5の実施の形態と異なる点を中心にその構成を詳細に説明する。
【0108】
(非水電解質電池の構成)
この発明の第6の実施の形態による非水電解質電池では、巻回電極体30は、電解質36が省略された構成を有し、電解液が微多孔膜35に含浸されている。
【0109】
(非水電解質電池の製造方法)
この非水電解質電池は、例えば、以下のように製造する。
【0110】
まず、例えば正極活物質と結着剤と導電剤とを混合して正極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより正極合剤スラリーを作製する。次に、この正極合剤スラリーを両面に塗布し、乾燥させ圧縮成型して正極活物質層33Bを形成し正極33を作製する。次に、例えば正極集電体33Aに正極リード31を、例えば超音波溶接、スポット溶接などにより接合する。
【0111】
また、例えば負極材料と結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させることにより負極合剤スラリーを作製する。次に、この負極合剤スラリーを負極集電体34Aの両面に塗布し乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層34Bを形成し、負極34を作製する。次に、例えば負極集電体34Aに負極リード32を例えば超音波溶接、スポット溶接などにより接合する。
【0112】
続いて、正極33と負極34とを微多孔膜35を介して巻回して外装部材40の内部に挟み込んだのち、外装部材40の内部に、電解液を注入し、外装部材40を密閉する。これにより、非水電解質電池が得られる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0114】
まず、以下の表1に示すサンプル1〜サンプル30の微多孔膜を用意した。なお、サンプル1〜サンプル30において、膜厚、透気度、空孔率、平均細孔径、曲路率、最大高さ、孔数は、以下のようにして求めたものである。
【0115】
【表1】

【0116】
(膜厚)
微多孔膜の膜厚を5箇所測定し、測定値の平均を算出することにより、平均膜厚を求めた。
【0117】
(透気度)
JIS 8117に準じて、株式会社東京精機製作所製のガーレーデンソーメータを用いて測定した。
【0118】
(表面粗さ)
JIS B0601に準じて、株式会社キーエンス製のナノスケールハイブリット顕微鏡(製品名:VN−8000)を用いて測定した。
【0119】
(平均細孔径)
西華産業株式会社製の非水銀パームポロメータ(製品名:IEP−200−A)を用いて測定した。
【0120】
(空孔率)
微多孔膜(100mm×100mm)を流動パラフインに24時間浸漬し、表層の流動パラフインを十分に拭き取った後の質量(W2)を測定し、該微多孔膜の浸漬前の質量(W1)及び流動パラフインの密度(ρ)より次式で求める。
空孔率=(W2−W1)/(V×ρ)
ここで、Vは微多孔膜の見かけ体積(膜厚、寸法より計算される値)である。
【0121】
(曲路率)
透気度、空孔率、平均細孔径、膜厚の測定値から式(C)により、曲路率τを算出した。
曲路率τ={(d×ε×ν×t)/(405.9×L×Ps)}1/2・・・式(C)
(t:透気度、ν:空気の平均分子速度=500m/sec、ε:空孔率、d:平均細孔径、τ:曲路率、L:膜厚、Ps:標準圧力=101.3kPa)
【0122】
(孔数)
空孔率、膜厚、平均細孔径の測定値、曲路率τの算出値から式(1)により、1μm2あたりの孔数Nを算出した。
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)
【0123】
<実施例1−1>
正極活物質としてコバルト酸リチウム95質量部と、導電剤としてカーボンブラック2質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮して正極板を得た。この正極板を帯状に裁断し、正極端子として厚み80μmのアルミニウム箔を溶接し正極を得た。
【0124】
負極活物質として黒鉛98質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン2質量部とを、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを、厚み12μmの銅箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮し負極板を得た。この負極板を帯状に裁断し、負極端子として厚み100μmのニッケル箔を溶接して負極を得た。
【0125】
次に、正極と負極とをセパレータを介して積層後巻回し、これを電池缶に収納した。この電池缶に六フッ化リン酸リチウム:エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=5:16:12(質量比)で混合した電解液を注液した。セパレータとしては、サンプル1の微多孔膜を用いた。その後、絶縁板、ガスケット、安全弁を介して電池缶を密封して、実施例1−1の電池を得た。
【0126】
<実施例1−2〜実施例1−5>
サンプル1の微多孔膜の代わりに、サンプル2〜サンプル5の微多孔膜を用いた点以外は、実施例1−1と同様にして、実施例1−2〜実施例1−5の電池を作製した。
【0127】
<比較例1−1〜比較例1−9>
サンプル1の代わりに、サンプル6〜サンプル14の微多孔膜を用いた点以外は、実施例1−1と同様にして、比較例1−1〜比較例1−9の電池を作製した。
【0128】
実施例1−1〜実施例1−5および比較例1−1〜比較例1−9の電池について、以下の容量維持率測定および釘刺し試験を行った。
【0129】
(容量維持率測定)
作製した電池について、25℃の雰囲気下、満充電状態における開回路電圧が4.20Vとなるように充電した後、0.5ItAの定電流で3.0Vとなるまで放電し、容量を測定した。また、同様の条件で、充放電を500サイクル行い、500サイクル目の容量を測定した。500サイクル目の容量に対する1サイクル目の容量の百分率を容量維持率(「1サイクル目の容量/500サイクル目の容量」×100%)として求めた。なお、ItAは電流の大きさを示す。例えば0.5ItAの電流は、例えば電池容量G[Ah]の電池において、0.5×G=0.5G[A]に相当する。
【0130】
(釘刺し試験)
作製した電池について、釘刺し試験を行った。25℃の雰囲気下において、0.5ItAの電流値で総充電時間4時間の定電流定電圧充電を行い、充電状態とした。その際、上限電圧を4.25V、4.30V、4.35Vとした。充電された電池に直径3mmの釘を90cm/minの速度で電池中央に垂直に貫通させ発火の有無を調べた。
【0131】
実施例1−1〜実施例1−5および比較例1−1〜比較例1−9の電池について行った、容量維持率測定、釘刺し試験の結果を表2に示す。なお、表2では、釘刺し試験による評価について、発火有りを○、発火無しを×で示す。
【0132】
【表2】

【0133】
表2に示すように、実施例1−1〜実施例1−5では、膜厚が12μmより大きく25μm以下であり、孔数Nが200個以上であり、表面粗さの最大高さRzが4μm以下である微多孔膜をセパレータとして用いた。したがって、容量維持率が良好であると共に、釘刺し試験による安全性評価の結果も良好であった。
【0134】
一方、比較例1−1、比較例1−3、比較例1−5および比較例1−7では、容量維持率は高かったが、微多孔膜の表面粗さの最大高さRzが4μmを超えているため、釘刺し試験による安全性評価の結果は悪かった。また、比較例1−2、比較例1−4、比較例1−6および比較例1−8では、安全性評価の結果は良好であったが、微多孔膜の孔数Nが200未満であるため、容量維持率は低かった。比較例1−9では、微多孔膜の表面粗さの最大高さRzが4μmを超えると共に、微多孔膜の孔数Nが200未満であるため、容量維持率が低いと共に、釘刺し試験による安全性評価の結果も悪かった。
【0135】
<実施例2−1>
正極活物質としてコバルト酸リチウム95質量部と、導電剤としてカーボンブラック2質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮して正極板を得た。この正極板を帯状に裁断し、端子として厚み80μmのアルミニウム箔を溶接し正極を得た。
【0136】
負極活物質として黒鉛98質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン2質量部とを、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを、厚み12μmの銅箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮して負極板を得た。この負極板を帯状に裁断し、端子として厚み100μmのニッケル箔を溶接して負極を得た。
【0137】
次に、サンプル1の微多孔膜の両面に高分子組成物を形成したセパレータを作製した。高分子組成物は,以下のように形成した。すなわち、まず、ポリフッ化ビニリデン3質量部に、N―メチル−2−ピロリドンを加え、溶液を調製した。この溶液に、粉末状のAl231質量部加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを微多孔膜の両面に塗布後乾燥し、これにより、高分子組成物を形成した。
【0138】
次に、正極と負極とをセパレータを介して積層後巻回し、これを電池缶に収納した。この電池缶に六フッ化リン酸リチウム:エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=5:16:12(質量比)で混合した電解液を注液した。その後、絶縁板、ガスケット、安全弁を介して電池缶を密封して電池を得た。
【0139】
<実施例2−2〜実施例2−5>
サンプル2〜サンプル5、サンプル15〜サンプル17のセパレータを用いた点以外は、実施例2−1と同様にして、実施例2−2〜実施例2−5の電池を作製した。
【0140】
<比較例2−1〜比較例2−9>
サンプル6〜サンプル14のセパレータを用いた点以外は、実施例2−1と同様にして、比較例2−1〜比較例2−9の電池を作製した。
【0141】
<実施例3−1〜実施例3−6>
サンプル15〜サンプル20のセパレータを用いた点以外は、実施例2−1と同様にして、実施例3−1〜実施例3−6の電池を作製した。
【0142】
<比較例3−1〜比較例3−9>
サンプル21〜23、25〜30のセパレータを用いた点以外は、実施例2−1と同様にして、比較例3−1〜比較例3−9の電池を作製した。
【0143】
(容量維持率測定)
作製した電池について、実施例1−1と同様にして、容量維持率測定を行った。
【0144】
(釘刺し試験)
作製した電池について、釘刺し試験を行った。25℃の雰囲気下において、0.5ItAの電流値で総充電時間4時間の定電流定電圧充電を行い、充電状態とした。その際、上限電圧を4.30V、4.35V、4.40Vとした。充電された電池に直径3mmの釘を90cm/minの速度で電池中央に垂直に貫通させ発火の有無を調べた。
【0145】
実施例2−1〜実施例2−5および比較例2−1〜比較例2−9、並びに、実施例3−1〜実施例3−6および比較例3−1〜比較例3−9の電池について、行った容量維持率測定、釘刺し試験の結果を表3に示す。なお、表3では、釘刺し試験による評価について、発火有りを○、発火無しを×で示す。
【0146】
【表3】

【0147】
表3に示すように、実施例2−1〜実施例2−5では、膜厚が12μmより大きく25μm以下であり、孔数Nが200個以上であり、表面粗さの最大高さRzが4μm以下である微多孔膜を含むセパレータを用いた。したがって、容量維持率が良好であると共に、釘刺し試験による安全性評価の結果も良好であった。
【0148】
一方、比較例2−1、比較例2−3、比較例2−5および比較例2−7では、容量維持率は高かったが、微多孔膜の表面粗さの最大高さRzが4μmを超えているため、釘刺し試験による安全性評価の結果は悪かった。また、比較例2−2、比較例2−4、比較例2−6および比較例2−8では、安全性評価の結果は良好であったが、微多孔膜の孔数Nが200未満であるため、容量維持率は低かった。比較例2−9では、微多孔膜の表面粗さの最大高さRzが4μmを超えると共に、微多孔膜の孔数Nが200未満であるため、容量維持率が低いと共に、釘刺し試験による安全性評価の結果も悪かった。
【0149】
実施例3−1〜実施例3−6では、膜厚が5μm以上12μm以下であり、孔数Nが200個以上であり、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%以下である微多孔膜を含むセパレータを用いた。したがって、容量維持率が良好であると共に、釘刺し試験による安全性評価の結果も良好であった。
【0150】
一方、比較例3−1、比較例3−5、比較例3−7および比較例3−8では、容量維持率は高かったが、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%を超えているため、釘刺し試験による安全性評価の結果は悪かった。比較例3−2では、安全性評価の結果は良好であったが、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率は低かった。比較例3−6および比較例3−9では、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率が低かった。また、比較例3−6および比較例3−9では、膜厚が薄いため、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%未満であっても、孔数Nが200個未満では、安全性評価の結果が悪かった。比較例3−3および比較例3−4では、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%を超えていると共に、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率が低く、安全性評価の結果も悪かった。
【0151】
<実施例4−1>
正極活物質としてコバルト酸リチウム95質量部と、導電剤としてカーボンブラック2質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを厚み15μmのアルミニウム箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮して正極板を得た。この正極板を帯状に裁断し、端子として厚み80μmのアルミニウム箔を溶接し正極を得た。
【0152】
負極活物質として黒鉛98質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン2質量部とを、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを厚み12μmの銅箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮し負極板を得た。この負極板を帯状に裁断し、端子として厚み100μmのニッケル箔を溶接し負極を得た。
【0153】
次に、ポリフッ化ビニリデン:六フッ化リン酸リチウム:エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート=3:3:10:7(質量比)で混合して、高分子組成物を作製した。この高分子組成物にジメチルカーボートを混合した溶液を、正極および負極のそれぞれに塗布し、その後、ジメチルカーボネートを揮発させた。これにより、ゲル状の高分子組成物を正極、負極上に形成した。
【0154】
次に、サンプル15の微多孔膜を、正極、負極の間に介して巻回し、80℃で処理することで、微多孔膜に高分子組成物が含浸されたセパレータが形成され、これにより、電池素子を得た。この電池素子をアルミニウムラミネートフィルムを外装材として用いて包装し電池を得た。
【0155】
<実施例4−2〜実施例4−6>
サンプル15の微多孔膜の代わりに、サンプル16〜サンプル20のセパレータを用いた点以外は、実施例4−1と同様にして、実施例4−2〜実施例4−6の電池を作製した。
【0156】
<比較例4−1〜比較例4−9>
サンプル15の微多孔膜の代わりに、サンプル21〜24、26〜30のセパレータを用いた点以外は、実施例4−1と同様にして、比較例4−1〜比較例4−9の電池を作製した。
【0157】
実施例4−1〜実施例4−6および比較例4−1〜比較例4−9の電池について、以下の容量維持率の測定および釘刺し試験を行った。
【0158】
(容量維持率測定)
作製した電池について、実施例1−1と同様にして、容量維持率測定を行った。
【0159】
(釘刺し試験)
作製した電池について、釘刺し試験を行った。25℃の雰囲気下において、0.5ItAの電流値で総充電時間4時間の定電流定電圧充電を行い、充電状態とした。その際、上限電圧を4.20V、4.25V、4.30Vとした。充電された電池に直径3mmの釘を90cm/minの速度で電池中央に垂直に貫通させ発火の有無を調べた。
【0160】
測定結果を表4に示す。なお、表4では、釘刺し試験による評価について、発火有りを○、発火無しを×で示す。
【0161】
【表4】

【0162】
表4に示すように、実施例4−1〜実施例4−6では、膜厚が5μm以上12μm以下であり、孔数Nが200個以上であり、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%以下である微多孔膜を含むセパレータを用いた。したがって、容量維持率が良好であると共に、釘刺し試験による安全性評価の結果も良好であった。
【0163】
一方、比較例4−1、比較例4−5、比較例4−7および比較例4−8では、容量維持率は高かったが、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%を超えているため、釘刺し試験による安全性評価の結果は悪かった。比較例4−2および比較例4−4では、安全性評価の結果は良好であったが、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率は低かった。比較例4−6および比較例4−9では、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率が低かった。また、比較例4−9では、膜厚が薄いため、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%未満であっても、孔数Nが200個未満では、安全性評価の結果が悪かった。比較例4−3では、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%を超えていると共に、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率が低く、安全性評価の結果も悪かった。
【0164】
<実施例5−1>
正極活物質としてコバルト酸リチウム95質量部と、導電剤としてカーボンブラック2質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮して正極板を得た。この正極板を裁断し、端子として厚み80μmのアルミニウム箔を溶接し正極を得た。
【0165】
負極活物質として黒鉛98質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン2質量部とを
、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として混合して、スラリーを作製した。このスラリーを、厚み12μmの銅箔に塗布、乾燥し、ロールプレスにて圧縮して負極板を得た。この負極板を裁断し、端子として厚み100μmのニッケル箔を溶接して負極を得た。
【0166】
次に、サンプル15の微多孔膜の両面に高分子組成物を形成したセパレータを作製した。高分子組成物は,以下のように形成した。すなわち、まず、ポリフッ化ビニリデンに、N―メチル−2−ピロリドンを加え、溶液を調製した。この溶液を微多孔膜の両面に塗布後乾燥し、これにより、高分子組成物を形成した
【0167】
次に、正極と負極とをセパレータを介して積層、巻回し、電池素子を作製した。この電池素子に、六フッ化リン酸リチウム:エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート=3:10:7(質量比)で混合した電解液を含侵させた後、アルミニウムラミネートフィルムを外装材として用いて包装して、電池を得た。
【0168】
<実施例5−2〜実施例5−6>
サンプル15の微多孔膜の代わりに、サンプル16〜サンプル20の微多孔膜を用いた点以外は、実施例5−1と同様にして、実施例5−2〜実施例5−6の電池を作製した。
【0169】
<比較例5−1〜比較例5−9>
サンプル15の微多孔膜の代わりに、サンプル21〜24、26〜30の微多孔膜を用いた点以外は、実施例5−1と同様にして、比較例5−1〜比較例5−9の電池を作製した。
【0170】
実施例5−1〜実施例5−6および比較例5−1〜比較例5−9の電池について、以下の容量維持率の測定および釘刺し試験を行った。
【0171】
(容量維持率測定)
作製した電池について、実施例4−1と同様にして、容量維持率測定を行った。
【0172】
(釘刺し試験)
作製した電池について、実施例4−1と同様にして、釘刺し試験を行った。
【0173】
測定結果を表5に示す。なお、表5では、釘刺し試験による評価について、発火有りを○、発火無しを×で示す。
【0174】
【表5】

【0175】
表5に示すように、実施例5−1〜実施例5−6では、膜厚が5μm以上12μm以下であり、孔数Nが200個以上であり、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%以下である微多孔膜を含むセパレータを用いた。したがって、容量維持率が良好であると共に、釘刺し試験による安全性評価の結果も良好であった。
【0176】
一方、比較例5−1、比較例5−5、比較例5−7および比較例5−8では、容量維持率は高かったが、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%を超えているため、釘刺し試験による安全性評価の結果は悪かった。比較例5−2および比較例5−4では、安全性評価の結果は良好であったが、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率は低かった。比較例5−6および比較例5−9では、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率が低かった。また、比較例5−6および比較例5−9では、膜厚が薄いため、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%未満であっても、孔数Nが200個未満では、安全性評価の結果が悪かった。比較例5−3では、表面粗さの最大高さRzが膜厚に対して30%を超えていると共に、孔数Nが200個未満であるため、容量維持率が低く、安全性評価の結果も悪かった。
【0177】
7.他の実施の形態
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、上述の実施の形態および実施例では、円筒型、ラミネートフィルム型の電池構造を有する電池、電極を巻回した巻回構造を有する電池について、説明したが、これらに限定されるものではない。例えば、角型、コイン型、またはボタン型、電極を積み重ねた構造を有するスタック型の電池などの他の電池構造を有する電池、についても同様に、この発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0178】
11・・・電池缶、12,13・・・絶縁板、14・・・電池蓋、15A・・・ディスク板、15・・・安全弁機構、16・・・熱感抵抗素子、17・・・ガスケット、20・・・巻回電極体、21・・・正極、21A・・・正極集電体、21B・・・正極活物質層、22・・・負極、22A・・・負極集電体、22B・・・負極活物質層、23・・・セパレータ、24・・・センターピン、25・・・正極リード、26・・・負極リード、27・・・ガスケット、30・・・巻回電極体、31・・・正極リード、32・・・負極リード、33・・・正極、33A・・・正極集電体、33B・・・正極活物質層、34・・・負極、34A・・・負極集電体、34B・・・負極活物質層、35・・・セパレータ、36・・・電解質、37・・・保護テープ、40・・・外装部材、41・・・密着フィルム、71・・・電池素子、72・・・外装部材、73・・・正極リード、74・・・負極リード、81・・・正極、82・・・負極、83・・・セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が5μm以上25μm以下である微多孔膜を含み、
上記膜厚が5μm以上12μm以下の場合には、上記微多孔膜の表面粗さの最大高さが上記膜厚に対して30%以下であり、上記膜厚が12μmより大きく25μm以下の場合には、上記微多孔膜の表面粗さの最大高さが4μm以下であると共に、下記式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200以上であるセパレータ。
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)
【請求項2】
上記微多孔膜の空孔率は、30%以上60%以下である請求項1記載のセパレータ。
【請求項3】
上記微多孔膜の透気度は、100sec/100ml以上1000sec/100ml以下である請求項1記載のセパレータ。
【請求項4】
上記微多孔膜の曲路率は、1.2以上2.5以下である請求項1記載のセパレータ。
【請求項5】
上記微多孔膜の材料は、ポリオレフィンである請求項1記載のセパレータ。
【請求項6】
上記微多孔膜の少なくとも一主面に形成された高分子組成物を含む請求項1記載のセパレータ。
【請求項7】
上記高分子組成物は、金属酸化物を含む請求項6記載のセパレータ。
【請求項8】
上記高分子組成物は、ポリフッ化ビニリデンまたはフッ化ビニリデン単量体単位を含む共重合体を含む請求項6記載のセパレータ。
【請求項9】
正極と、
負極と、
電解質と、
膜厚が5μm以上25μm以下である微多孔膜を含むセパレータと
を備え、
上記膜厚が5μm以上12μm以下の場合には、上記微多孔膜の表面粗さの最大高さが上記膜厚に対して30%以下であり、上記膜厚が12μmより大きく25μm以下の場合には、上記微多孔膜の表面粗さの最大高さが4μm以下であると共に、下記式(1)で算出される孔数Nが1μm2あたり200以上である非水電解質電池。
N=(ε×L×S)/{π×(d/2)2×τ×L}・・・式(1)
(ε:空孔率、L:膜厚(μm)、S:面積(μm2)、d:平均細孔径(μm)、τ:曲路率)
【請求項10】
上記膜厚が5μm以上12μm以下であり、
上記電解質は、ゲル状電解質である請求項9記載の非水電解電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−48918(P2012−48918A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188764(P2010−188764)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】