説明

セミフィニッシュドレンズとその製造方法、及びプラスチックレンズの製造方法

【課題】表面に硬化膜が形成され、且つ、完成面側に反射防止膜が設けられたセミフィニッシュドレンズを提供することを目的とする。
【解決手段】プラスチックより成るレンズ基材1の第1の面1Aがレンズ面とされ、レンズ基材1の第2の面1bが、レンズ面として加工する前の未完成面とされ、レンズ面及び未完成面を覆って硬化膜2が形成され、レンズ面の硬化膜3上に、有機材料より成る反射防止膜3が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば眼鏡用レンズに用いられ、一方の面が完成されたレンズ面であり、他方の面が未完成面であるセミフィニッシュドレンズとその製造方法、及びプラスチックレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用のプラスチックレンズは一般に注型重合法によって成型され、表裏両方のレンズ面を予め設計された光学面とするいわゆるフィニッシュドレンズと、一方の面のみを設計値に基づく光学面として形成するセミフィニッシュドレンズとに大別される。
【0003】
セミフィニッシュドレンズは、一方のレンズ面(主に凸面とされる)が成型等の形成時に完成されており、他方の面(主に凹面とされる)は、受注の際の度数にしたがい、受注毎に個々に切削加工して形成される未完成面とされる。この未完成面は、受注後の切削等が可能であるように、完成面であるレンズ面との厚みを十分大とし、且つ削り代の余裕をもった形状として形成される。このようなセミフィニッシュドレンズは、受注後に目的の度数のレンズ形状に加工をすることから、累進屈折力レンズやプリズム処方レンズなどの特殊なレンズに採用できる利点を有している(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このセミフィニッシュドレンズの流通上の一形態として、硬化膜が表面に形成されたいわゆるハードコート付きのセミフィニッシュドレンズ(セミハード材と呼ばれる)が流通されている。
セミハード材とは、レンズ基材の主に凸面側の形状加工は完了しているが、凹面側の形状加工が完了していない半製品のレンズ基材であって、その凸面側、又は凸面及び凹面にハードコート処理が施されている半製品を指す。このようなセミハード材が流通の一形態として活用される理由は、主に完成品を製造する最終工程工場における工程時間を短縮できること、また、最終工程工場において設備投資額が抑制されることによる。
【0005】
眼鏡レンズの場合、主に凸面とされる面の形状は、一般に大まかな分類による度数の違いや、累進屈折力レンズやプリズム処方レンズ等のレンズの種類により、多くても十〜数十種類程度のパターンに分類される。一方、未完成面側の加工後の形状は、より細かい処方度数に対応するように更に多くに分類されること、また歪を補正するために非球面や非トロイダル面とするなどの要請があることから、数千から数万ものパターンとなる。つまり、眼鏡レンズにおいては一方の面はそれほどパターンが多くなく、他方の面は格段に多くのパターンに分類されるという特徴がある。したがって、受注後に行う加工工程数をなるべく少なくし、受注後に完成品が届くまでの日数を短縮する目的で、上述したセミハード材の形態としてある程度量産しておく方法が一般的に採用されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−231814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようなセミハード材、すなわち硬化膜を形成したセミフィニッシュドレンズを利用したプラスチックレンズの製造方法の工程図を図5A〜Dに示す。
先ず、図5Aに示すように、注型重合法等によって作製され、第1の面11A及び11bが形成されたレンズ基材11が用意される。第1の面11Aは完成されたレンズ面とされ、反対側の第2の面11bは、後の工程によって切削等の加工をされて完成面となる未完成面として構成される。そしてセミハード材70においては、レンズ基材11の第1の面11A及び第2の面11bを含む全面を覆って硬化膜12、いわゆるハードコートが形成されて成る。
【0008】
そして、受注によって度数が決定されると、第2の面11bの完成面の形状が決まるので、図5Bに示すように、注文度数に対応した形状となるように切削等の加工を施して、第2の面11Bを形成する。
【0009】
次に、図5Cに示すように、切削加工等によって硬化膜12が除去された第2の面11Bの上に、再度硬化膜13を形成する。なお、図示の例では側面にも硬化膜13が形成され、第1の面1A側まで成膜されている場合であり、例えばスピンコート法等により成膜する場合を示すが、これに限定されるものではない。例えばディップ法によって成膜する場合は、第1の面11A側の硬化膜12上にも硬化膜13が成膜される。いずれの場合も第2の面11B上に成膜される硬化膜13が周縁部まで同じ光学特性、耐擦傷性等の特性が保持されていればよい。
そして、図5Dに示すように、第1の面11Aの硬化膜12上に、反射防止膜14を形成する。更に、図5Eに示すように、第2の面11Bの硬化膜13上に、反射防止膜15を形成する。
【0010】
以上の工程を経て、セミハード材を利用して形成されたプラスチックレンズ80が得られる。
なお、図5A〜Eの工程では示していないが、例えばレンズ基材11と硬化膜12,13との間に耐衝撃性を高める下地層(いわゆるプライマー層)を設けるとか、或いは、反射防止膜14,15上に撥水層(防汚層)等の他の膜を設ける場合もある。
【0011】
通常、図5D及び図5Eの工程においては真空蒸着法等によって無機材料から成る反射防止膜が形成される。このうち第1の面11A上の反射防止膜14も形成した状態でセミフィニッシュドレンズとして提供することができれば、受注後の工程数をより短縮できることとなる。
【0012】
しかしながら、上述したセミハード材の完成面上に設ける反射防止膜として、無機材料より成る反射防止膜を蒸着により形成してしまうと、図5Dに示す硬化膜13を形成する工程で、蒸着により形成した反射防止膜にクラックが発生してしまう。クラックが生じると修復は不可能であり製品として使用できなくなってしまう。また、硬化膜13を形成する際にクラックが生じなくても、その後の図5Eに示す第2の面11B上の反射防止膜を形成する際に再度温度上昇が生じ、この過程でクラックが発生してしまう場合もある。
【0013】
このようなクラックの原因は主に硬化膜を形成する際の熱工程である。この熱工程には、熱硬化だけでなく、紫外線硬化の際における紫外線照射時の発熱も含まれる。したがって、従来はセミハード材に更に反射防止膜を設けて量産しておくことは不可能であり、後工程の短縮を図ることはできないという問題があった。
【0014】
以上の問題に鑑みて、本発明は、表面に硬化膜が形成され、且つ、完成面側に反射防止膜が設けられたセミフィニッシュドレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明によるセミフィニッシュドレンズは、プラスチックより成るレンズ基材の第1の面がレンズ面とされ、レンズ基材の第2の面が、レンズ面として加工する前の未完成面とされ、レンズ面及び未完成面を覆って硬化膜が形成され、レンズ面の硬化膜上に、有機材料より成る反射防止膜が形成される。
【0016】
また、本発明によるセミフィニッシュドレンズの製造方法は、第1の面がレンズ面とされ、第2の面が未完成面として形成されたプラスチックより成るレンズ基材の表面に、硬化膜を形成する工程と、レンズ面に形成された硬化膜の上に、有機材料より成る反射防止膜を形成する工程と、を含む。
【0017】
更に、本発明によるプラスチックレンズの製造方法は、第1の面がレンズ面とされ、第2の面が未完成面として形成されたプラスチックより成るレンズ基材の表面に、硬化膜を形成する工程と、レンズ面上の硬化膜の上に、有機材料より成る反射防止膜を形成する工程と、未完成面を加工してレンズ面を形成する工程と、未完成面を加工して成るレンズ面を覆って硬化膜を形成する工程と、を含む。
【0018】
上述したように本発明においては、セミフィニッシュドレンズに硬化膜を設けると共に、完成面であるレンズ面上の硬化膜の上に、有機材料より成る反射防止膜を設けるものである。有機材料より成る反射防止膜をセミフィニッシュドレンズに形成する場合、後工程として硬化膜等を形成する際の熱工程があるにもかかわらず、できあがったプラスチックレンズにおいてこの反射防止膜にはクラックの発生が回避されることがわかった。したがって、本発明構成のセミフィニッシュドレンズを完成面側のパターン別に量産しておくことによって、セミハード材よりも更に受注後の工程数を削減することができ、受注から納品までの日数の短縮を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面硬化膜が形成されると共に、完成面側に反射防止膜が形成されたセミフィニッシュドレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0021】
[1]第1の実施の形態(セミフィニッシュドレンズ)
図1は、本発明の実施の形態に係るセミフィニッシュドレンズ10の概略断面構成図である。このセミフィニッシュドレンズ10は、プラスチックより成るレンズ基材1の第1の面1Aがレンズ面とされ、第1の面1Aとは反対側の第2の面1bは、レンズ面として加工する前の未完成面とされる。そして、レンズ面である第1の面1Aと未完成面である第2の面1bとを覆って硬化膜2が形成される。更に、第1の面1A上の硬化膜2の上に、有機材料より成る反射防止膜3が形成されて成る。
【0022】
図1に示すように、第1の面1Aは凸面とされ、第2の面1bは凹面とされる。このようにセミフィニッシュドレンズ10として提供される場合、最も多く生産されているレンズは完成面が凸面、未完成面が凹面の形状であるため、第1の面1Aを凸面とすることで、セミフィニッシュドレンズ10として量産することが有効となる。
【0023】
最も多く生産されているレンズの完成面が凸面である理由として、凹形状に切削及び研磨する方が、凸形状に切削及び研磨するよりも簡便であることが挙げられる。例えば、凹形状にレンズを研磨する場合は、大きな半球状の研磨台を用意することで一度に複数枚のレンズを研磨することが可能であるが、その逆は難しい。
【0024】
また、図2に示すように、レンズ基材1と硬化膜2との間に、緩衝性を有する下地層7いわゆるプライマー層を設ける構成としてもよい。下地層7を形成することにより、レンズ基材1の表面処理膜の耐久性を向上させることができる。さらに、下地層7が外部からの衝撃吸収層として作用し、完成品であるプラスチックレンズとしての耐衝撃性を向上させることができる。
更に、図示しないが、反射防止膜3の上に撥水性や防汚性を向上させる撥水層を設けてもよい。上述した下地層7や撥水層等を設ける場合は、反射防止膜3と同様に、後の完成品に到る製造工程で加熱による変形、変質が生じない材料であることが望ましい。
【0025】
また更に、図3に示すように、セミフィニッシュドレンズ10全体を、遮光性の封止体40によって気密に封止することが望ましい。ここで遮光性の封止体40としては、気密とすることによって水分や空気に由来する酸素の吸収を防ぐことができる材料であることが好ましい。封止体40は、表面の擦傷等による破損や汚損を回避し、更に光照射によるレンズ基板の変色といった品質劣化も回避ないしは抑制する材料であることが特に望ましい。金属箔が層状に含まれたシートを封止体40の包装材料に適用する場合、気密及び遮光を実現することができる。このような材料としてアルミパックを用いることができる。図2及び図3において、図1と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0026】
本発明のセミフィニッシュドレンズに用いるレンズ基材の材料としては、通常のプラスチックレンズに適用可能な樹脂組成物であれば、特に限定されず、各種の材料を使用することができる。
例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、アリルジグリコールカーボネート(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、及び、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体)、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン等を、単独又は複数混合して用いることができる。
【0027】
またレンズ基材のプラスチックの屈折率は、特に限定されるものではなく、屈折率が比較的低い1.5程度のプラスチックを使用することも可能であり、逆に屈折率が比較的高い1.8程度のプラスチックも使用可能である。
【0028】
セミフィニッシュドレンズに形成する硬化膜の材料としては、有機材料より成る反射防止膜との密着性が良好で、必要な耐擦傷性が得られ、且つ後述する屈折率を満足する硬化膜材料であれば特に限定されるものではない。このような材料として例えば有機ケイ素化合物に、微粒子状無機物を含有させた材料が望ましい。なお、有機ケイ素化合物の代わりにアクリル化合物を使用することも可能である。
【0029】
硬化膜の材料は、干渉縞の発生を抑えるために、レンズ基材と同程度の屈折率を備えることが必要である。即ち、レンズ基材に高屈折率の素材を用いた場合には硬化膜も高い屈折率とし、レンズ基材に低屈折率の素材を用いた場合には硬化膜も低い屈折率とする。
【0030】
そして硬化膜の材料として用いる有機ケイ素化合物としては、例えば各種アルコキシシランが挙げられる。好ましいアルコキシシランとして、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシランが挙げられる。有機ケイ素化合物は、単体で、又は、二種以上を混合した状態で用いられる。例えば、プラスチック基材との接着性が要求されるときには、アルコキシシランにエポキシ基(グリシドキシ基)を導入したものを含有させてもよい。これらの材料は、通常100℃程度の硬化温度で形成することができる。
【0031】
硬化膜に含有させる微粒子状無機物としては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステン、または、これらの複合体等を使用することができる。屈折率を比較的高くする場合は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズが好ましい。
そして、微粒子状無機物の種類や量によって、硬化膜の屈折率を調整することが可能である。
【0032】
そして、有機材料より成る反射防止膜の材料としては、硬化膜と同様に、有機ケイ素化合物に無機物微粒子を含有させた材料を用いることができる。
【0033】
この反射防止膜に用いる有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤等を使用することができる。また、必要に応じて、シランカップリング剤等にその他のシラン化合物、例えばレンズ基材や下地層との密着性を高める機能をもつ機能性シラン化合物を加えて使用することもできる。
シランカップリング剤としては、例えば、トリアルコキシシランが好適である。シランカップリング剤は単体で、又は、二種以上混合して使用することができる。
【0034】
トリアルコキシシランとしては、例えば炭素数1〜8のアルコキシ基を有し、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基を有する材料を用いることができる。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられ、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基が好ましく、特に、メトキシ基、エトキシ基等が好ましい。
【0035】
また、トリアルコキシシランにおいてケイ素原子に結合するアルコキシ基以外の基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等炭素数6〜10のアリール基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基等の炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等を用いることができる。特に、炭素数1〜8のアルキル基、グリシドキシ基、アミノ基を用いることが好ましい。
また、これらの炭化水素基には官能基が導入されていてもよい。導入される官能基としては、例えば、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等が好ましい。収率が良好で比較的安価に入手可能なためである。
【0036】
上述のトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(2,3−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、好ましくはメチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、であり、特に好ましくは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランである。
【0037】
また、反射防止膜に無機物微粒子を含有させる場合は、適切な屈折率となるように無機物を選定する。例えば2層構成の反射防止膜とする場合、レンズ基材側の反射防止膜では高い屈折率が得られるように、表面側の反射防止膜では低い屈折率が得られるようにすることが望ましい。高い屈折率に調整する場合は、無機物微粒子として、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化錫を使用することができる。一方、低い屈折率とする場合は、二酸化ケイ素(SiO)を使用することができる。低い屈折率を達成するために、中空シリカを使用することも可能である。
無機物微粒子の粒径としては、通常直径20nm〜200nm程度であり、20nm以上60nm以下とすることが好ましい。20nm未満の粒径の無機物微粒子を得ることは難しく、60nmを超える粒径の無機物微粒子を使用すると、熱硬化時に凝集が起こった場合、レンズの白濁を誘発しやすく、好ましくない。また、二層構造の反射防止膜は100nm以下程度とすることが好ましいから、上述したように無機物微粒子の粒径は20nm以上60nm以下とすることが好ましい。
【0038】
また、反射防止膜の屈折率を更に細かく調整するために、微粒子状無機物の表面を他の無機物及びその微粒子によって改質及び結合させた複合微粒子状無機物を使用しても良い。
例えば、酸化チタン微粒子表面を酸化ケイ素によって改質及び酸化ケイ素微粒子を結合させたものが挙げられる。
【0039】
反射防止膜における無機微粒子の含有量としては、例えば、2層構成の反射防止膜とする場合の、低い屈折率層の場合は、シランカップリング剤等の有機ケイ素化合物の合計100質量部に対し100質量部以上400質量部以下であることが好ましく、150質量部以上230質量部以下であることがより好ましい。100質量部未満になると、有機ケイ素化合物の成分が過多になり、また有機反射防止層としての膜質が柔らかくなって、耐摩耗性が得られにくくなる。また、400質量部を超える場合は、無機微粒子が過多になり、有機反射防止膜の膜質が脆くなる。
【0040】
また、反射防止膜における無機微粒子の含有量として、2層構成の反射防止膜とする場合の、高い屈折率層の場合は、シランカップリング剤等の有機ケイ素化合物の合計100質量部に対し400質量部以上900質量部以下であることが好ましく、450質量部以上650質量部以下であることがより好ましい。400質量部未満になると、有機ケイ素化合物の成分が過多になり、有機反射防止層としての膜質が柔らかくなって、耐摩耗性が得られにくくなる。また、900質量部を超える場合は、無機微粒子が過多になり、有機反射防止膜の膜質が脆くなる。
【0041】
また、有機反射防止膜においてシランカップリング剤、及び、機能性シラン化合物を含有するコーティング溶液には、必要に応じて反応を促進するための硬化剤を含有させることができる。また、溶液の塗布時における濡れ性を向上させ、反射防止膜の平滑性を向上させる目的で界面活性剤等を含有させることができる。さらに、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等も硬化膜の物性に影響を与えない限り添加することができる。
【0042】
反応を促進させるための硬化剤としては、例えば、アリルアミン、エチルアミン等のアミン類、またルイス酸やルイス塩基を含む各種酸や塩基、例えば有機カルボン酸、クロム酸、次亜塩素酸、ホウ酸、過塩素酸、臭素酸、亜セレン酸、チオ硫酸、オルトケイ酸、チオシアン酸、亜硝酸、アルミン酸、炭酸等を有する塩又は金属塩、さらにアルミニウム、ジルコニウム、チタニウムを有する金属アルコキシド又はこれらの金属キレート化合物等が挙げられる。
【0043】
特に耐擦傷性の観点から、硬化剤としてアセチルアセトネート金属塩を用いることが好ましい。アセチルアセトネート金属塩としては、例えば、下記一般式(A)に表わされる金属塩が挙げられる。
(CHCOCHCOCHn1(ORn2・・・(A)
(式中、MはAl(III)、Zn(II)、Ti(IV)、Co(II)、Fe(II)、Cr(III)、Mn(II)、V(III)、V(IV)、Ca(II)、Co(III)、Cu(II)、Mg(II)又はNi(II)、Rは炭素数1〜8の炭化水素基、n1+n2はMの価数に相当する数字で2,3又は4であり、n2は0,1又は2である。)
【0044】
また、反射防止膜における硬化剤の含有量としては、組成物固形分を基準として、シランカップリング剤、及び、機能性シラン化合物の合計100質量部に対し0.1〜3質量部であると好ましく、0.1〜1質量部であるとさらに好ましい。
【0045】
反射防止膜の厚さは、例えば、入射光の波長λを550nmとしたときに光学膜厚(厚さ/屈折率)がλ/4となるようにすることが好ましい。
以上の材料、構成とする有機材料より成る反射防止膜は、耐熱温度が100℃を超える温度となる。
【0046】
下地層(プライマー層)を設ける場合、その材料は特に限定されず、レンズ基材の材質や硬化膜の材質により適宜選択される。
一般的には、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、又は、ポリウレタンアクリレート樹脂を使用することができる。好ましいプライマー層の材質としては、成膜時にポリエステルポリオールとポリエーテルポリオールとイソシアネートを反応重合させたポリウレタン樹脂が挙げられる。また、レンズ基材や硬化膜との屈折率差をなくすために、プライマー層は、上記ポリマー成分中に酸化物等の無機微粒子を分散させた構成のものを適用することもできる。
【0047】
[2]第2の実施の形態(セミフィニッシュドレンズの製造方法及びプラスチックレンズの製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係るセミフィニッシュドレンズの製造方法とその工程を一部に含むプラスチックレンズの製造方法について説明する。
図4A〜Eは本発明の実施の形態に係るプラスチックレンズの製造方法の工程図である。先ず、図4Aに示すように、第1の面1がレンズ面として形成され、第2の面1bが未完成面として形成されたプラスチックより成るレンズ基材1を用意し、その表面に、硬化膜2を形成する。
【0048】
なお、レンズ基材1の製造方法は特に限定されないが、例えば注型重合法によって成型される。注型重合方による場合は、一般的には略円筒形で側面に注入口を有するガスケットの上下からレンズ面の方となるモールドを嵌め込み、樹脂材料を注入した後加熱により硬化されて形成される。このレンズ面の型となるモールドの一方を完成面であるレンズ面に対応する形状とし、他方を未完成面に対応する形状とし、厚さを適切に選定することによって、上述の構成のレンズ基材1が得られる。なお、注型重合法以外の製造方法によって形成されたレンズ基材1を用いることも可能である。
【0049】
次に、図4Bに示すように、レンズ面である第1の面1の上の硬化膜2上に、有機材料より成る反射防止膜3を形成する。
反射防止膜の形成方法(組成液の塗布方法)としては、特に限定されないが、例えば、浸漬塗布法、スピンコーティング法等が挙げられる。これらのうち、膜厚の制御の容易性からスピンコーティング法が好ましく用いられる。
【0050】
反射防止膜の組成液を成膜した後、加熱又は紫外線照射によって硬化させる。その温度は通常50℃〜120℃であり、好ましくは70℃〜100℃である。硬化時間は通常5分以上であり、好ましくは15分以上である。また、膜の硬化速度を速めるために塩基性触媒処理を行ってもよい。
以上の工程を経て本発明構成のセミフィニッシュドレンズ10が形成される。
【0051】
なお、以上の工程を量産工場で行うことで大量生産しておき、これ以後の工程を規模の小さい向上に輸送された後、受注に対応して製造することが可能である。
【0052】
受注によって第2の面側の完成形状が決定されると、図4Cに示すように、未完成面である第2の面1bに対し切削等の加工を行ってレンズ面より成る第2の面1Bを形成する。これによりプラスチックレンズの半完成品20が得られる。
【0053】
その後、図4Dに示すように、第2の面1Bを覆って硬化膜4を形成する。図示の例では、硬化膜4が側面全面に形成されている場合を示すが、これに限定されるものではなく、側面の一部までを覆うとか、第2の面1Bのみに成膜されていてもよい。第2の面1Bの略全面を覆い、周縁部まで同様の光学的特性、耐擦傷性等の特性が保持されていればよく、第1の面1A上の反射防止膜3の特性に影響を与えない形状であればよい。なお、このような形状として形成する方法として、スピンコート法を用いることが好ましい。
用途によっては、最終的に第2の面1B上に硬化膜4のみで反射防止膜を設けない状態で流通する場合もある。したがって、この状態でプラスチックレンズ30として完成品とすることもできる。
【0054】
なお、この硬化膜4を形成する工程において、レンズ基材1全体が加熱されるが、有機材料より成る反射防止膜3は熱に強いため、第1の面1A側にクラックや傷が生じることがない。
【0055】
更に、図4Eに示すように、第2の面1B側にも反射防止膜5を形成する。この反射防止膜5は有機材料に限定されることなく無機材料でもよく、また薄いシート状に形成された反射防止膜を第2の面1B側に接着剤等で貼り付けるラミネートAR等の反射防止膜も利用可能である。反射防止膜6を有機材料より構成する場合は、その硬化の際に熱処理を伴うが、先に形成された反射防止膜3は耐熱性を有するため、無機材料より構成する場合とは異なり、クラックや傷の発生を回避することができる。
このように第2の面1B側にも反射防止膜5を設けることによって、高付加価値製品とされたプラスチックレンズ40を提供することができる。
【0056】
以上の工程により、本発明構成のセミフィニッシュドレンズ10を用いて形成したプラスチックレンズ30又はプラスチックレンズ40を得ることができる。
セミフィニッシュドレンズ10の状態で第1の面1A側に反射防止膜3が既に形成されているため、その後の工程として第1の面1Aに反射防止膜を形成する工程が必要なくなる。したがって、受注後の処理である図4C以降の工程数を削減することができ、受注後納品までの日数を短縮することが可能となる。
【0057】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
この例においては、有機材料より成る反射防止膜を2層の積層構造として形成した。
(1)レンズ基材
レンズ基材として、屈折率1.50、中心厚2.0mm、レンズ度数0.00のジエチレングリコールビスアリルカーボネートを用いた。
【0058】
(2)硬化膜の形成
ガラス製容器に、コロイダルシリカ(スノーテックス−40、日産化学(株)製)90質量部、有機ケイ素化合物のメチルトリメトキシシラン81.6質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン176質量部、0.5N塩酸2.0質量部、酢酸20質量部、及び、水90質量部を加え、室温にて8時間攪拌後、室温にて16時間放置して加水分解溶液を得た。この溶液に、イソプロピルアルコール120質量部、n−ブチルアルコール120質量部、アルミニウムアセチルアセトネート16質量部、シリコーン系界面活性剤0.2質量部、紫外線吸収剤0.1質量部を加え、室温にて8時間攪拌後、室温にて24時間熟成させ硬化膜用のハードコート組成物の溶液を得た。
次に、アルカリ水溶液で前処理したレンズ基材を、ハードコート組成物の溶液中に浸漬させた。浸漬終了後、引き上げ速度20cm/分でレンズ基材を引き上げ、100℃−1時間の熱硬化処理を施して硬化膜をレンズ基材の両面に形成した。
【0059】
(3)反射防止膜の形成
〔機能性シラン化合物の合成〕
ガラス容器に、ジアセトンアルコール30.0質量部、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE903、信越化学(株)製)3.9質量部、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン(KBE9007、信越化学(株)製)4.4質量部を加え、4時間撹拌して機能性シラン化合物を7.3質量部含む、シラン化合物溶液37.3質量部を調製した。
【0060】
〔反射防止膜の第1層用コーティング液の調製1:有機ケイ素化合物の加水分解〕
調製した機能性シラン化合物溶液に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403、信越化学(株)製)を加えて混合した。このとき、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは、溶液中に含まれる機能性シラン化合物1質量部に対して19質量部になるように混合した。これに0.01mol/Lの濃度の塩酸を撹拌しながら滴下し、70℃環境下で5時間撹拌しながら放置した。
以上の方法により、有機ケイ素化合物(γ−グリシドキシトリメトシシシラン、及び、機能性シラン化合物)の加水分解物を得た。
【0061】
〔反射防止膜の第1層用コーティング液の調製2:各要素の混合〕
次に、酸化チタンを主成分とする微粒子のメタノールゾル(オプトレイク1120Z:商品名、触媒化成工業(株)製、固形分濃度20質量%)270質量部を撹拌しながら、ジアセトンアルコールを主体とする溶媒950質量部を混合した。
次に、調製した有機ケイ素化合物の加水分解物70質量部を滴下し、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート5質量部を添加した。
以上の方法により、有機ケイ素化合物と無機微粒子との和算割合が2.5質量%とされた、反射防止膜の第1層用コーティング液を作製した。
【0062】
〔反射防止膜の第2層用コーティング液の調製〕
ガラス容器に、有機ケイ素化合物として、シランカップリング剤であるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403、信越化学(株)製)を60質量部、酸化ケイ素を主成分とする微粒子のメタノールゾル(スノーテックス−40:商品名、日産化学(株)製、固形分濃度30質量%)を160質量部、反応調整用にエタノールを260質量部入れ、一時間撹拌した。その後、撹拌しながら、0.01mol/Lの塩酸30質量部を滴下し、50℃の環境下に5時間攪拌しながら放置した。これにより、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を含む溶液を得た。
次に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を含む溶液に、硬化剤であるアルミニウムアセチルアセトネート2.5質量部を添加した。その後、ジアセトンアルコールを主成分とする溶媒と混合し、有機ケイ素化合物(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物)と無機微粒子との和算割合が2.5質量%とされた、反射防止膜の第2層用コーティング液を作製した。
【0063】
〔反射防止膜の成膜〕
次に、硬化膜が形成されたレンズ基材に、上述の反射防止膜の第1層用コーティング液をスピンコーティングし、熱硬化処理を行った。
次に、反射防止膜の第1層の表面に、上述の反射防止膜の第2層用コーティング液スピンコーティングし、熱硬化処理を行った。
【0064】
実施例1においては、セミフィニッシュドレンズの状態で、温度40℃、湿度90%RHの温湿環境下において、720時間保管した。
【0065】
以上の条件により保管したセミフィニッシュドレンズに対し、第2の面を切削等により加工した。その後、第2の面に硬化膜を形成した。この硬化膜の材料及び形成方法は、上述のレンズ基材の第1の面上に形成した硬化膜と同様とした。
実施例1においては、第2の面の硬化膜の上には反射防止膜を形成しないでプラスチックレンズを完成した。
【0066】
(2)実施例2
この例においては、レンズ基材、硬化膜及び第1の面上の反射防止膜についての材料及び形成方法を共に、上述の実施例1と同様の材料及び形成方法とした。
また実施例1と同様の保管条件にて、セミフィニッシュドレンズの状態で保管を行った。
そして、第2の面には、第1の面と同様の硬化膜を設けると共に、その上に第1の面に形成した反射防止膜と同様の有機材料より成る反射防止膜を形成した。反射防止膜の形成方法も実施例1と同様とした。
【0067】
(3)実施例3
実施例3においても、レンズ基材、硬化膜及び第1の面上の反射防止膜は、材料及び形成方法共に、上述の実施例1及び2と同様の材料及び形成方法とした。
また実施例1と同様の保管条件にてセミフィニッシュドレンズの状態で保管を行った。
第2の面には、第1の面と同様の硬化膜を設けると共に、その上に無機材料より成る反射防止膜を形成した。
【0068】
無機材料より成る反射防止膜は、7層の積層構成とした。レンズ基材側(硬化膜側)から第1層〜第7層とするとき、各層の材料及び膜厚は下記の構成とした。
【0069】
第1層(低屈折率層):SiO、膜厚158.4nm
第2層(高屈折率層):Nb、膜厚12.1nm
第3層(低屈折率層):SiO、膜厚19.9nm
第4層(高屈折率層):Nb、膜厚28.3nm
第5層(低屈折率層):SiO、膜厚18.1nm
第6層(高屈折率層):Nb、膜厚38.8nm
第7層(低屈折率層):SiO、膜厚91.9nm
【0070】
上記材料構成として、真空蒸着装置により連続的に第1層〜第7層を成膜して、第2の面の上の硬化膜上に反射防止膜を形成した。以上の工程によりプラスチックレンズを完成した。
【0071】
(4)比較例1
比較例1として、上記実施例1の構成のうちレンズ基材及び硬化膜の材料を同様とし、第1の面に形成する反射防止膜として、上記実施例3における第2の面側に形成した無機材料より成る反射防止膜と同様の材料及び構成とした。
また実施例1と同様の保管条件にて、セミフィニッシュドレンズの状態で保管を行った。
そして、第2の面には、第1の面と同様の硬化膜を設け、第2の面には反射防止膜を設けない構成として、プラスチックレンズを完成した。
【0072】
(5)比較例2
比較例2として、上記実施例1の構成のうちレンズ基材及び硬化膜の材料を同様とし、第1の面に形成する反射防止膜として、上記実施例3における第2の面側に形成した無機材料より成る反射防止膜と同様の材料及び構成とした。
また実施例1と同様の保管条件にて、セミフィニッシュドレンズの状態で保管を行った。
そして、第2の面には、第1の面と同様の硬化膜を設けると共に、その上に、上記実施例1における第1の面に形成した反射防止膜と同様の有機材料より成る反射防止膜を形成した。この有機材料より成る反射防止膜の形成方法は実施例1と同様とした。
【0073】
(6)比較例3
実施例3においても、レンズ基材、硬化膜及び第1の面上の反射防止膜は、材料及び形成方法共に、上述の比較例1及び2と同様の材料及び形成方法とした。
また実施例1と同様の保管条件にてセミフィニッシュドレンズの状態で保管を行った。
第2の面には、第1の面と同様の硬化膜を設けると共に、その上に、第1の面に設けた反射防止膜と同様の無機材料より成る反射防止膜を形成した。
【0074】
以上の材料、構成及び保管条件として形成した各プラスチックレンズにおいて、第1の面上にクラックが発生したか否かの評価を行った。この結果を下記の表1に示す。
表1においては、実施例1〜3及び比較例1〜3における第1の面側の反射防止膜(AR)種類、第2の面側の反射防止膜種類、反射防止膜付セミフィニッシュドレンズ(セミAR)での保管の有無、完成後のプラスチックレンズにおける第1の面でのクラック発生の有無各工程と凸面側クラックの有無を示す。
【0075】
【表1】

【0076】
上述したように、実施例1〜3及び比較例1〜3において第2の面側に形成した硬化膜の硬化処理温度は100℃であった。
表1の結果から、実施例1〜3においては、完成したプラスチックレンズの第1の面にクラックが発生することを回避できた。また、これらのプラスチックレンズにおいては、30日間の保管を経た状態である。
このことから、上記の有機材料より成る反射防止膜を設ける場合、その耐熱温度は100℃を超えるものであることがわかる。30日程度の保管期間を経る場合、通常は10〜20℃程度の耐熱温度の低下が生じると予想される。したがって、上記実施例1〜3においては、セミフィニッシュドレンズとして形成された直後は耐熱温度が120℃程度以上あり、保管後においても100℃以上の耐熱温度を維持できたことがわかる。
【0077】
これに対し、比較例1〜3においては、第1の面側の反射防止膜にクラックが発生した。したがって、セミフィニッシュドレンズとして規制された直後の耐熱温度は100℃程度かそれ以下であり、30日程度の保管によって、耐熱温度が10〜20℃程度低下し、クラックが発生したものと思われる。
【0078】
以上説明したように、本発明のセミフィニッシュドレンズとその製造方法、プラスチックレンズの製造方法によれば、セミフィニッシュドレンズの付加価値を高め、完成品に到る工程数の削減を図ることができ、眼鏡用のプラスチックレンズにおける受注から納品までの日数を短縮することが可能となる。
【0079】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のセミフィニッシュドレンズの一実施の形態の断面構成図である。
【図2】本発明のセミフィニッシュドレンズの他の実施の形態の断面構成図である。
【図3】本発明のセミフィニッシュドレンズの他の実施の形態の断面構成図である。
【図4】A〜Eは本発明のプラスチックレンズの製造方法の一実施の形態の製造工程図である。
【図5】A〜Eは従来のセミフィニッシュドレンズの製造工程図である。
【符号の説明】
【0081】
1.レンズ基材、1A.第1の面、1b、1B.第2の面、2.硬化膜、3.反射防止膜、4.硬化膜、5.反射防止膜、7.下地膜、10.セミフィニッシュドレンズ、30,40.プラスチックレンズ(完成品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックより成るレンズ基材の第1の面がレンズ面とされ、
前記レンズ基材の第2の面が、レンズ面として加工する前の未完成面とされ、
前記レンズ面及び前記未完成面を覆って硬化膜が形成され、
前記レンズ面の前記硬化膜上に、有機材料より成る反射防止膜が形成された
セミフィニッシュドレンズ。
【請求項2】
前記レンズ面が凸面とされる請求項1に記載のセミフィニッシュドレンズ。
【請求項3】
前記有機材料より成る反射防止膜が形成された後、遮光性の封止体に気密に封止されて成る請求項1又は2のいずれか1項に記載のセミフィニッシュドレンズ。
【請求項4】
第1の面がレンズ面とされ、第2の面が未完成面として形成されたプラスチックより成るレンズ基材の表面に、硬化膜を形成する工程と、
前記レンズ面に形成された前記硬化膜の上に、有機材料より成る反射防止膜を形成する工程と、を含む
セミフィニッシュドレンズの製造方法。
【請求項5】
第1の面がレンズ面とされ、第2の面が未完成面として形成されたプラスチックより成るレンズ基材の表面に、硬化膜を形成する工程と、
前記レンズ面上の前記硬化膜の上に、有機材料より成る反射防止膜を形成する工程と、
前記未完成面を加工してレンズ面を形成する工程と、
前記未完成面を加工して成るレンズ面を覆って硬化膜を形成する工程と、を含む
プラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記未完成面を加工して成るレンズ面に形成された前記硬化膜上に、反射防止膜を形成する工程を、更に含む請求項5に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項7】
前記反射防止膜を形成した後、保管する工程を、更に含む請求項6に記載のプラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−55007(P2010−55007A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222354(P2008−222354)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】