説明

セメントモルタル混和剤

【課題】良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面等に対する密着性に優れ、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度が向上するセメントモルタル混和剤を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂[I]により合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に、分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマー(B)を配合してなるセメントモルタル混和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」と略記することがある。)を保護コロイドとして、合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末に、特定の水溶性カチオンポリマーを配合してなるセメントモルタル混和剤に関するものであり、さらに詳しくは、セメントモルタルに混和した場合に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面等に対する密着性に優れ、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度が向上するセメントモルタル混和剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、PVA系樹脂を保護コロイド剤として用いた水性合成樹脂エマルジョンが、セメントモルタル混和剤に用いられることが知られている(特許文献1参照)。しかし、PVA系樹脂を保護コロイド剤として用いることにより、水性合成樹脂エマルジョンの機械安定性や凍結安定性は改善されるものの、重合安定性が不充分であり、特に、水性合成樹脂エマルジョン中の樹脂分が、50重量%を超えるような高濃度では、重合することができなかった。
【0003】
このため、水性合成樹脂エマルジョンの保護コロイド剤として、PVA系樹脂を使用する場合には、この水性合成樹脂エマルジョン中の樹脂分を50重量%未満にする必要があり、生産性の点で問題があった。また、得られる水性合成樹脂エマルジョンの保存安定性も不充分で、経時的に増粘するため、この水性合成樹脂エマルジョンをセメントモルタル混和剤として、セメントモルタルに混和すると、セメントモルタルの流動性が経時的に悪化し、作業性が低下するという問題もあった。
【0004】
また、上記水性合成樹脂エマルジョンのように、保護コロイド剤としてPVA系樹脂等の水溶性高分子を使用している場合には、得られる皮膜の耐水性が充分ではなく、特に、セメントモルタル製品等の湿潤時の接着強度等の物性向上には不充分であった。
【0005】
一方、セメントモルタル混和剤としては、上記のように例示される水性合成樹脂エマルジョンを基本として、乾燥(例えば、噴霧乾燥)することにより製造される水性合成樹脂エマルジョン粉末も広く利用されている。
【0006】
この水性合成樹脂エマルジョン粉末は、粉末であることから水性合成樹脂エマルジョンと比較して、製品の紙袋包装が可能で、保管・輸送に便利で取り扱いが容易である。また、この水性合成樹脂エマルジョン粉末は、使用時に水を添加して攪拌するだけで、水中に再乳化させることができるため、セメントモルタル製品等への既調合混和剤として使用されている。特に、水性合成樹脂エマルジョン粉末は、セメントモルタル製品等の無機水硬性組成物に予め混合させておくことができるため、現場で水を添加するだけでセメントモルタル製品を形成させることができる等の特徴がある。
【0007】
しかし、水性合成樹脂エマルジョン粉末となる乾燥前のエマルジョンが、前記エマルジョンの諸問題、例えば、セメントモルタルの流動性が経時的に悪化して、作業性が低下したり、耐水性が低いため、接着強度等の物性向上が不充分であったりする等の問題を抱えている場合には、乾燥後の水性合成樹脂エマルジョン粉末、そして、これを水に再乳化した水性合成樹脂エマルジョンについても、これらの問題を抱えているものであり、エマルジョン粉末を用いても本質的にこれらの解決にはならない。
【0008】
このような水性合成樹脂エマルジョン粉末としては、例えば、耐水性の向上を目的として、アセトアセチル(CHCOCHCO−)基含有PVA系樹脂を乳化分散剤に使用した水性合成樹脂エマルジョン粉末等が提案されている(特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、流動性や接着強度等、まだまだ満足のいくものではなく、セメントモルタルに混和(配合)した際の流動性や作業性の改善、さらに経時で流動性や作業性が低下せず、接着強度に優れた水性合成樹脂エマルジョン粉末等を用いたセメントモルタル混和剤の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開昭58−63706号公報
【特許文献2】特許第3225150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、セメントモルタルに混和した際に、良好な流動性および作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面等に対する密着性に優れ、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度に優れたセメントモルタル混和剤の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
しかるに、本発明者は、セメントモルタルに混和した際に、良好な流動性および作業性とともに、密着性および接着強度に優れたセメントモルタル混和剤を得るため、水性合成樹脂エマルジョン粉末を中心に鋭意検討を重ねた結果、PVA系樹脂を保護コロイドとして、合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンを乾燥して得られる水性合成樹脂エマルジョン粉末に、特定の水溶性カチオンポリマーを配合したセメントモルタル混和剤を、セメントモルタルに混和した際に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面等に対する密着性に優れ、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度に優れた効果を有することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂[I]により合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に、分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマー(B)を配合してなるセメントモルタル混和剤であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明のセメントモルタル混和剤は、ポリビニルアルコール系樹脂[I]により合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に、分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマー(B)を配合してなるものである。そのため、本発明のセメントモルタル混和剤は、セメントモルタルに混和した際に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面等に対する密着性に優れ、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度が向上するようになる。
【0014】
また、上記水溶性カチオンポリマー(B)が、3級カチオンを有する基および4級カチオンを有する基の少なくとも一方を含むものであると、カチオン強度が強すぎることも無く、少量の添加で目的とするカチオン性レベルに調整することが可能となる。
【0015】
さらに、上記水溶性カチオンポリマー(B)が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を含む重合体であると、入手し易く、セメントモルタル混和剤として使用した場合には混和安定性に優れ、流動性にさらに優れるようになる。
【0016】
そして、上記水溶性カチオンポリマー(B)が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの共重合体であると、セメントモルタル混和剤として使用した場合にはより混和安定性に優れ、そして流動性がさらに一層優れるようになる。
【0017】
上記水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)の合成樹脂が、アクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)を主成分として重合してなるものであると、重合安定性に一層優れるようになる。
【0018】
また、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)が、アクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)と下記(ア)〜(カ)からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基含有モノマー(a2)とを共重合成分として重合してなる合成樹脂、および、ポリビニルアルコール系樹脂[I]を含有するものであると、物性ばらつきが少なく、接着強度に一層優れるようになる。
(ア)グリシジル基含有モノマー。
(イ)アリル基含有モノマー。
(ウ)加水分解性シリル基含有モノマー。
(エ)アセトアセチル基含有モノマー。
(オ)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー。
(カ)ヒドロキシル基含有モノマー。
【0019】
さらに、ポリビニルアルコール系樹脂[I]が、活性水素を有するポリビニルアルコール系樹脂であると、重合安定性により一層優れるようになる。そして、高不揮発分の水性合成樹脂エマルジョンが得られ易くなることから、これを噴霧乾燥して粉末化する際の熱源エネルギーの省力化ができることになる。
【0020】
そして、セメントモルタル混和剤のゼータ電位が、0.1〜100mVであると、旧モルタル面や樹脂塗面等への密着性により優れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0022】
本発明のセメントモルタル混和剤は、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に、特定の水溶性カチオンポリマー(B)を配合するものであり、この水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)は、PVA系樹脂[I]により合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンを乾燥することにより得られるものである。
【0023】
そこで、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)の説明の前提として、水性合成樹脂エマルジョンについて説明する。
【0024】
水性合成樹脂エマルジョンは、合成樹脂が、PVA系樹脂[I]により、分散安定化されてなるものであるため、まず、このPVA系樹脂[I]について説明する。
【0025】
PVA系樹脂[I]としては、特に限定されるものではないが、つぎに示す特定の平均ケン化度および平均重合度を有するものが、特に好ましい。
【0026】
PVA系樹脂[I]の平均ケン化度としては、80〜99.9モル%であることが好ましく、より好ましくは、85〜99.5モル%である。すなわち、平均ケン化度が小さすぎると、安定に重合が進行しにくく、重合が完結したとしても水性エマルジョンの保存安定性が劣る傾向がみられ、逆に、大きすぎると、再分散し難くなる傾向がみられるからである。
【0027】
なお、本発明において、平均ケン化度は、JIS K 6726に記載のケン化度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0028】
また、PVA系樹脂[I]の平均重合度としては、通常50〜3000であることが好ましく、より好ましくは、200〜2000であり、さらに好ましくは、200〜500である。すなわち、平均重合度が小さすぎると、乳化重合時の保護コロイド能力が不充分となり重合が安定に進行しない傾向がみられ、逆に、大きすぎると、重合時に増粘して反応系が不安定になり分散安定性が低下する傾向がみられるからである。
【0029】
なお、本発明において、平均重合度は、JIS K 6726に記載の平均重合度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0030】
また、PVA系樹脂[I]は、各種変性されたPVA系樹脂でもよく、かかる変性PVA系樹脂としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、リン酸をはじめとするアニオン基変性、4級アンモニウム基を含むカチオン基変性、アセトアセチル基、ジアセトンアクリルアミド基、メルカプト基、シラノール基をはじめとする各種官能基等により変性されたPVA系樹脂等をあげることができる。
【0031】
そして、これらPVA系樹脂[I]の中でも、特に、活性水素を有するPVA系樹脂が好ましい。これは、重合時にモノマーとの反応性が良好であるため重合安定性に優れ、不揮発分の高いエマルジョンが得られる傾向にあるからである。このように、不揮発分の高いエマルジョンが得られると、輸送コストの低減、エマルジョンの乾燥性の向上、特に、噴霧乾燥時における乾燥熱エネルギーの省力化ができるようになる。
【0032】
上記活性水素を有するPVA系樹脂としては、例えば、アセトアセチル基変性PVA系樹脂、メルカプト基変性PVA系樹脂、ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらの中でも、アセトアセチル基変性PVA系樹脂が最も好ましい。アセトアセチル基変性PVA系樹脂を保護コロイドとして使用すると、共重合性モノマーとの反応性がより良好となり重合安定性に優れ、かつ不揮発分のより高い水性合成樹脂エマルジョンが得られ易くなる傾向がみられるからである。不揮発分の高い水性合成樹脂エマルジョンが得られると、噴霧乾燥時における熱源エネルギーの省力化ができることとなる。
【0033】
PVA系樹脂[I]にアセトアセチル基を導入する方法としては、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させる方法等をあげることができるが、製造工程が簡略で、かつ品質の良いアセトアセチル基含有PVA系樹脂が得られる点から、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造することが好ましい。さらに、ジケテンの使用量が少なく、また、ジケテンの反応収率が向上するという利点を有する点においても、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法が好ましい。
【0034】
また、アセトアセチル基変性PVA系樹脂の平均ケン化度が95〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは97.0〜99.8モル%である。平均ケン化度が小さすぎると、安定に重合が進行しにくくなる傾向があり、重合が完結したとしてもエマルジョンの保存安定性が良好でなくなる傾向がみられ、逆に、大きすぎると、重合安定性が悪くなり、重合途中でゲル化することがあり、重合が完結したとしても再乳化し難くなる傾向がみられるからである。
【0035】
アセトアセチル基変性PVA系樹脂のアセトアセチル化度は、0.01〜5モル%であり、より好ましくは、0.1〜3モル%、さらに好ましくは0.3〜1モル%である。アセトアセチル化度が低すぎると、エマルジョンの耐水性や機械的強度が不足する傾向や、さらに、耐煮沸性やフィラー類等との混和性が低下する傾向がみられ、逆に、高すぎると、エマルジョンの重合安定性が低下する傾向がある。
【0036】
アセトアセチル基変性PVA系樹脂の平均重合度は、通常50〜3000であることが好ましく、より好ましくは100〜1700、さらに好ましくは100〜1000、特に好ましくは200〜500である。平均重合度が低すぎると、PVA系樹脂を工業的に製造することが困難となる傾向があり、高すぎると、水性合成樹脂エマルジョンの粘度が高くなり過ぎたり、水性合成樹脂エマルジョンの重合安定性が低下する傾向がある。
【0037】
本発明において、保護コロイド剤(分散安定化剤)として使用するPVA系樹脂[I]の使用量は、使用される全共重合性モノマー100重量部(以下「部」と略す)に対して、3〜20部であることが好ましく、より好ましくは4〜15部、特に好ましくは5〜10部である。かかる使用量が少なすぎると、乳化重合の際の保護コロイド量が不足となって、重合安定性が不良となる傾向があり、多すぎると、水性合成樹脂エマルジョンの粘度が高まり安定性が低下する傾向がある。
【0038】
ここで、用いられたPVA系樹脂[I]は、通常、重合により形成される水性合成樹脂エマルジョン中に全量が存在することとなる。すなわち、共重合体100部に対して、3〜20部、より好ましくは4〜15部、さらに好ましくは5〜10部のPVA系樹脂[I]がエマルジョン中に存在することがある。
【0039】
本発明においては、保護コロイド剤(分散安定化剤)としてPVA系樹脂[I]を使用するが、本発明の目的を阻害しない範囲において変性、非変性タイプの部分・完全ケン化PVA系樹脂等を併用しても良い。
【0040】
また、本発明では、PVA系樹脂[I]は、通常、水系媒体を用いて水溶液とし、これが乳化重合の過程において使用される。ここで水系媒体とは、水、または水を主体とするアルコール性溶媒をいい、好ましくは水のことをいう。
【0041】
この水溶液におけるPVA系樹脂[I]の量(不揮発分)については特に限定されないが、取り扱いの容易性の観点からは、5〜30重量%であることが望ましい。
【0042】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂[I]に、アニオン性基を含むPVA系樹脂を併用してもよい。アニオン性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等をあげることができるが、これらの中でも、エマルジョン中のpHに関係なく、安定して強い電荷反発が得られる点から、スルホン酸基であることが好ましい。
【0043】
なお、本発明において、PVA系とは、PVA自体、または、例えば、各種変性種によって変性されたものを意味し、その変性度は、通常20モル%以下、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0044】
かかる変性種としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等があげられる。また、上記の他、前記したアセトアセチル基変性、メルカプト基変性、ジアセトンアクリルアミド変性等の活性水素を含有する変性種もあげられる。
【0045】
つぎに、合成樹脂を形成する成分材料について説明する。
【0046】
本発明における水性合成樹脂エマルジョンは、合成樹脂が分散安定化されたものであり、かかる合成樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、アクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)を主成分として重合してなるものであることが好ましい。本発明において、主成分とは全体の過半をしめる成分のことをいい、全体が主成分のみからなる場合も含む意味である。
【0047】
上記アクリル系モノマーとしては、当業者に公知のものであれば特に制限はなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の脂肪族系(メタ)アクリレートや、フェノキシ(メタ)アクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル等があげられ、中でもアルキル基の炭素数が1〜18の脂肪族系(メタ)アクリレートが好適であり、また、これらは1種または2種以上併用して用いられる。
【0048】
なお、ここで、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0049】
上記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0050】
上記モノマーの中でも、ホモポリマーのガラス転移温度の高いメチルメタクリレートおよびスチレンの少なくとも一方と、ガラス転移温度の低いn−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートの少なくとも一方との組み合わせが、共重合性の容易さ、及び汎用的に塗料用や接着剤用に使用されているモノマー類であること等の点で、特に好ましい。
【0051】
さらに、本発明に係る合成樹脂としては、上記のアクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)と、特定の官能基含有モノマー(a2)とを共重合成分として重合してなるものであることが、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、物性ばらつきが少なく、加えて接着強度が向上する等の優れた効果を発揮する点で、特に好ましい。
【0052】
かかる官能基含有モノマー(a2)としては、下記(ア)〜(カ)からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
(ア)グリシジル基含有モノマー。
(イ)アリル基含有モノマー。
(ウ)加水分解性シリル基含有モノマー。
(エ)アセトアセチル基含有モノマー。
(オ)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー。
(カ)ヒドロキシル基含有モノマー。
【0053】
上記グリシジル基含有モノマー(ア)の具体例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等があげられる。このうち、特に物性ばらつきの少なく、加えて湿潤時の接着強度が向上する等の観点から、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0054】
上記アリル基含有モノマー(イ)の具体例としては、例えば、トリアリルオキシエチレン、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン等のアリル基を2個以上有するモノマー、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル等があげられる。このうち、湿潤時の接着強度の観点から、アリルグリシジルエーテルが好ましい。
【0055】
上記加水分解性シリル基含有モノマー(ウ)の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等があげられる。このうち、湿潤時の接着強度の観点から、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0056】
上記アセトアセチル基含有モノマー(エ)の具体例としては、例えば、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピルクロトナート、2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等があげられる。このうち、特に物性ばらつきの少なく、加えて湿潤時の接着強度が向上する等の観点から、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0057】
上記分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー(オ)の具体例としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等があげられる。
【0058】
上記ヒドロキシル基含有モノマー(カ)の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート等があげられる。このうち、乳化重合時における保護コロイド的作用及びセメントモルタル配合物等との混和性改良の観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0059】
本発明の好ましい態様によれば、官能基含有モノマー(a2)は、グリシジル基含有モノマー(ア)、加水分解性シリル基含有モノマー(ウ)、アセトアセチル基含有モノマー(エ)からなる群より選択されることが好ましく、特には、グリシジル基含有モノマー(ア)、アセトアセチル基含有モノマー(エ)のうち少なくとも1つを含んでなることが、物性ばらつきの少ない、加えて接着強度が向上する等の効果を発揮するセメントモルタル混和剤が得られる傾向がある点で特に好ましい。
【0060】
官能基含有モノマー(a2)の使用量は、共重合性モノマー全体の0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。使用量が少なすぎると、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、物性ばらつきの少ない、加えて接着強度が向上する等の効果が不充分となる傾向があり、多すぎると、重合不良となったりする傾向がある。
【0061】
なお、これらの官能基含有モノマー(a2)は、単独でもしくは2種以上のものを組み合わせて使用することができる。
【0062】
また、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記以外の共重合可能なモノマーを併用することができ、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニル、メチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテルといったビニル系モノマー;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン、エチレンスルホン酸といったオレフィン系モノマー;ブタジエン−1,3、2−メチルブタジエン、1,3又は2,3−ジメチルブタジエン−1,3、2−クロロブタジエン−1,3等のジエン系モノマー;および、(メタ)アクリルニトリル等のニトリル系モノマー等があげられる。
【0063】
また、上記以外の官能基含有モノマーとして、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ダイアセトンアクリルアミド等のアミド変性アクリルや(メタ)アクリル酸等のアクリル系モノマー;および、(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸等及びこれらのエステルの不飽和ジカルボン酸またはそのエステル系モノマー等も使用可能である。
【0064】
本発明による水性合成樹脂エマルジョンにおいては、前記したアクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)と特定の官能基含有モノマー(a2)等の共重合性モノマー成分以外に、必要に応じて他の成分をさらに用いることができる。このような他の成分としては、水性合成樹脂エマルジョンとしての性質を低下させることがない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。他の成分としては、例えば、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤、可塑剤、造膜助剤等があげられる。
【0065】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用できるものであれば特に制限なく使用でき、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;有機過酸化物、アゾ系開始剤、過酸化水素、ブチルパーオキサイド等の過酸化物;および、これらと酸性亜硫酸ナトリウムやL−アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの中でも、皮膜物性や強度増強に悪影響を与えず重合が容易な点で、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムが好ましい。
【0066】
重合調整剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。このような重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、バッファー等があげられる。
【0067】
ここで、上記連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;および、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ノルマルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。連鎖移動剤の使用は、重合を安定に行わせるという点では有効であるが、合成樹脂の重合度を低下させるため、得られる皮膜の耐水性の低下やセメントモルタル混和剤として使用した場合には物性ばらつきが大きくなり、加えて接着強度等が低下する傾向がある。このため、連鎖移動剤を使用する場合には、その使用量をできる限り低く抑えることが望ましい。
【0068】
ここで、上記バッファーとしては、例えば、酢酸ソーダ、酢酸アンモニウム、第二リン酸ソーダ、クエン酸ソーダ等があげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0069】
補助乳化剤としては、乳化重合に用いることができるものとして当業者に公知のものであれば、いずれのものでも使用可能である。したがって、補助乳化剤は、例えば、アニオン性、カチオン性、およびノニオン性の界面活性剤、PVA系樹脂[I]以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子、および水溶性オリゴマー等の公知のものの中から、適宜選択することができる。
【0070】
ここで、界面活性剤の好ましい具体例としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤、および、プルロニック型構造を有するものやポリオキシエチレン型構造を有するもの等のノニオン性界面活性剤があげられる。また、界面活性剤として、構造中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性界面活性剤を使用することもできる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0071】
このような界面活性剤の使用は、乳化重合をスムーズに進行させ、コントロールし易くする(乳化剤としての効果)。加えて、重合中に発生する粗粒子やブロック状物の発生を抑制する効果がある。ただし、これら界面活性剤を乳化剤として多く使用すると、グラフト率が低下する傾向がある。このため、界面活性剤を使用する場合には、その使用量はPVA系樹脂[I]に対して補助的な量であること、すなわち、できる限り少なくすることが望ましい。
【0072】
ここで、PVA系樹脂[I]以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子としては、例えば、PVA系樹脂[I]以外のPVA系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらは、エマルジョンの増粘やエマルジョンの粒子径を変えて粘性を変化させる点で効果がある。ただし、その使用量によっては皮膜の耐水性を低下させることがあるため、使用する場合には少量で使用することが望ましい。
【0073】
ここで、水溶性オリゴマーとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基等の親水性基を有する重合度が好ましく、中でも10〜500程度の重合体または共重合体が好適にあげられる。水溶性オリゴマーの具体例としては、例えば、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体等のアミド系共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリ(メタ)アクリル酸塩等があげられる。さらに、具体例としては、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基等を有するモノマーやラジカル重合性の反応性乳化剤を予め単独または他のモノマーと共重合してなる水溶性オリゴマー等もあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。本発明においては、これらの中でも、顔料および炭酸カルシウム等のフィラーとの混和安定性の点で、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体が好ましい。水溶性オリゴマーは、乳化重合を開始する前に予め重合したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0074】
また、可塑剤としては、アジペート系可塑剤、フタル酸系可塑剤、燐酸系可塑剤等が使用できる。また、沸点が260℃以上の造膜助剤も使用できる。
【0075】
これら他の成分の使用量は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0076】
つぎに、本発明で用いられる水性合成樹脂エマルジョンの製造について説明する。
【0077】
前記したように、本発明による水性合成樹脂エマルジョンは、PVA系樹脂[I]を保護コロイド剤として用いて、アクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)や特定の官能基含有モノマー(a2)等の重合性モノマーを乳化重合することによって製造することができる。
【0078】
乳化重合の方法としては、特に制限はなく、例えば、反応缶に、水、PVA系樹脂[I]を仕込み、昇温して共重合性モノマーと重合開始剤を滴下するモノマー滴下式乳化重合法;および、滴下するモノマーを予めPVA系樹脂[I]と水とで分散・乳化させた後、滴下する乳化モノマー滴下式乳化重合法等があげられるが、重合工程の管理やコントロール性等の面でモノマー滴下式が便利である。
【0079】
通常、乳化重合は、PVA系樹脂[I]及び前記共重合性モノマー成分以外に、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤等のような前記した他の成分を必要に応じて用いて実施する。また、重合の反応条件は、特に制限はなく、共重合性モノマーの種類、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0080】
乳化重合過程をさらに具体的に説明にすると、以下のとおりである。
【0081】
まず、反応缶に水、PVA系樹脂[I]、必要に応じて補助乳化剤を仕込み、これを昇温(通常65〜90℃)した後、共重合性モノマー成分の一部と重合開始剤をこの反応缶に添加して、初期重合を実施する。次いで、残りの共重合性モノマー成分を、一括または滴下しながら反応缶に添加し、必要に応じてさらに重合開始剤を添加しながら重合を進行させる。重合反応が完了したと判断されたところで、反応缶を冷却し、目的とする水性合成樹脂エマルジョンを取り出すことができる。
【0082】
本発明において、乳化重合より得られる水性合成樹脂エマルジョンは、典型的には、均一な乳白色であって、水性合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂の平均粒子径は、0.2〜2μmであることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5μmである。
【0083】
なお、ここで、平均粒子径は、慣用の方法、例えばレーザー解析/散乱式粒度分布測定装置「LA−910」(株式会社堀場製作所製)により測定することができる。
【0084】
また、水性合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂のガラス転移温度が、−20〜+30℃であることが、セメントモルタル混和剤として使用した場合に、物性ばらつきが少なく、加えて接着強度が向上する等の点で好ましく、特には−15〜+20℃であることが好ましい。かかるガラス転移温度が低すぎると接着強度が低下する傾向となり、高すぎるとジブチルフタレート等の可塑剤を多く入れて水性合成樹脂エマルジョンの造膜温度を低下させることになり、この結果、特に湿潤時の接着強度等が低下する傾向がある。
【0085】
本発明における合成樹脂のガラス転移温度とは、共重合性モノマー成分に基づきFoxの式により計算される値のことである。なお、官能基含有モノマー(a2)を併用する場合においては、かかる官能基含有モノマー(a2)を除いた主要モノマー成分に基づきFoxの式により計算されることもある。
【0086】
さらに、本発明においては、PVA系樹脂[I]の少なくとも一部が、前記合成樹脂にグラフトしていることが、得られる乾燥前の水性合成樹脂エマルジョン自体の貯蔵安定性や接着強度測定における測定値のばらつきが少なくなること等の点で好ましい。
【0087】
PVA系樹脂[I]が前記合成樹脂にグラフトした場合に、下記式(1)で表される値(W)が50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは65重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。なお、上限としては、通常、95重量%、好ましくは85重量%、さらに好ましくは80重量%である。かかる値は、グラフト化程度の目安になるものであり、この値が低すぎると、グラフト化の程度が低く、乳化重合時の保護コロイド作用が低下し、重合安定性が低下したり、加えてフィラー類との混和性が低下したりする等の傾向がある。
【0088】
式(1)の値(W)は、以下のようにして算出される。
すなわち、対象となるエマルジョン等を、室温乾燥して皮膜を作製し、その皮膜を、沸騰水中およびアセトン中でそれぞれ8時間抽出を行い、グラフト化していない樹脂等を除去する。この場合の、抽出前の皮膜絶乾重量をw(g)、抽出後の皮膜絶乾重量をw(g)とし、下記の式(1)より求める。
【0089】
W(重量%)=(w)/(w)×100 …(1)
【0090】
上記式(1)の値(W)を50重量%以上に調整する方法としては、乳化重合温度を従来よりもやや高くしたり、重合用触媒として使用する過硫酸塩に極微量の還元剤(例えば、酸性亜硫酸ソーダ、等)を併用したりする等があげられる。
【0091】
本発明においては、乳化重合後の水性合成樹脂エマルジョンに、必要に応じて各種添加剤をさらに加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤等があげられる。
【0092】
このようにして、本発明で用いられる水性合成樹脂エマルジョンが得られるが、その使用に際しては、不揮発分として通常40〜60重量%に調整することが好ましい。
【0093】
上記得られた水性合成樹脂エマルジョンを乾燥することにより、本発明に係る水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)が得られる。以下、この水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)の製造について説明する。
【0094】
水性合成樹脂エマルジョンの乾燥方法は、特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、凝析後の温風乾燥等があげられる。これらの中でも、生産コスト、省エネルギーの観点から噴霧乾燥することが好ましい。
【0095】
噴霧乾燥の場合、その噴霧形式は、特に制限はなく、例えばディスク式、ノズル式等の形式により実施することができる。噴霧乾燥の熱源としては、例えば、熱風、加熱水蒸気等があげられる。噴霧乾燥の条件としては、噴霧乾燥機の大きさ、種類、水性合成樹脂エマルジョンの不揮発分、粘度、流量等に応じて適宜選択することができる。噴霧乾燥の温度は、通常は、80〜150℃が好ましく、より好ましくは100〜140℃である。乾燥温度が低すぎると乾燥に時間を要し、生産的に問題が生じることがあり、高すぎると熱による樹脂自体の変質が起こり易くなってくる傾向がある。
【0096】
噴霧乾燥処理をさらに具体例をあげて説明すると、まず、水性合成樹脂エマルジョン中の不揮発分を調整し、これを噴霧乾燥機のノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させる。場合により、調整した噴霧液を噴霧に際して予め加温してノズルより連続的に供給し、霧状にしたものを温風により乾燥させて粉末化させることも可能である。加温することで乾燥スピードが速くなり、かつ噴霧液の粘度低下に伴い噴霧液の高不揮発分化が可能で、生産コストの低減にも寄与する。
【0097】
なお、本発明においては、抗粘結剤を、水性合成樹脂エマルジョンに混合したり、噴霧乾燥後の水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に混合したり、噴霧乾燥時に水性合成樹脂エマルジョンと別のノズルから噴霧する等して、併用することができる。
【0098】
抗粘結剤を添加することにより、抗粘結剤で水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)をまぶすような状態にして、貯蔵中等において粒子同士が粘結して凝集しブロッキングするのを防止することができる。
【0099】
抗粘結剤としては、公知の不活性な無機または有機粉末、例えば、無機粉末としては炭酸カルシウム、タルク、クレー、ドロマイト、無水珪酸、アルミナホワイト等を使用することができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらの中でも、無水珪酸、炭酸カルシウム、クレー等が好ましい。有機粉末としては合成樹脂のガラス転移温度が70℃以上の水性合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末も抗粘結剤として使用可能である。
【0100】
抗粘結剤の使用量は、得られる水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に対して、通常5〜30重量%程度であることが好ましい。
【0101】
また、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)の水への再乳化性をより向上させるために、水溶性添加剤を配合することができる。通常、水溶性添加剤は、乾燥前の水性合成樹脂エマルジョンに添加する。この添加量は、乾燥前の水性合成樹脂エマルジョンの不揮発分100部に対して、2〜50部である。添加量が少なすぎると、水への再乳化性の向上が充分に図れない傾向があり、多すぎると、水への再乳化性の向上には大いに役立つが皮膜の耐水性が低下し、期待する物性が発揮できなくなることがある。
【0102】
水溶性添加剤としては、例えば、PVA系樹脂類、ヒドロキシエチルセルロース類、メチルセルロース類、ポリビニルピロリドン、でんぷん類、デキストリン類、水溶性アルキッド樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリアミド樹脂等の水溶性樹脂があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの中でも、PVA系樹脂類が好ましい。
【0103】
上記PVA系樹脂類としては、平均ケン化度85モル%以上のポリビニルアルコールが望ましく、87モル%以上であることがより好ましい。また、平均ケン化度の上限値としては、特に限定されるものではないが、99.5モル%以下であることが好ましく、95モル%以下であることがより好ましい。平均ケン化度が小さすぎると、皮膜の耐水性が著しく低下する傾向があり、大きすぎると、耐水性が良くなるが、水への再乳化性を悪くする傾向がある。
【0104】
また、この平均重合度は、通常50〜3000であることが好ましく、200〜2000であることがより好ましく、300〜600であることがさらに好ましい。平均重合度が小さすぎると、耐水性が低下する傾向があり、大きすぎると、再乳化性が低下する傾向がある。
【0105】
水への溶解性が容易でないものは、再乳化性に悪影響を与える場合があるので、事前に水への溶解性を確認した上で使用することが望ましい。
【0106】
上記得られた水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)は、粉末のまま、特定の水溶性カチオンポリマー(B)と混合することが好ましい。
【0107】
つぎに、本発明に係る特定の水溶性カチオンポリマー(B)について説明する。
【0108】
本発明においてA成分とともに用いられる水溶性カチオンポリマー(B)としては、粉末状のものがより好ましい。特に好ましくは微粉末状である。場合によっては、液状の水溶性カチオンポリマーを無機フィラー等に吸収・乾燥してなる粉末状品や、液状の水溶性カチオンポリマーを、例えば、熱乾燥して樹脂体として取り出し粉砕する等した微粉末品を用いることもできる。ただし、これらの使用形態に限定されるものではない。
【0109】
上記水溶性カチオンポリマー(B)の分子量としては、3,000〜2,000,000であり、好ましくは50,000〜1,500,000であり、特に好ましくは100,000〜1,200,000である。分子量が大きすぎると、これをセメントモルタル混和剤としてセメントモルタルに使用した場合、セメントモルタルの安定性が低下しコテ作業性が悪くなったり、経時でセメントモルタル粘度が上昇する傾向がある。また、分子量が小さすぎると期待されるセメントモルタル強度や接着強度が発現しなくなる傾向がある。
【0110】
本発明に係る水溶性カチオンポリマー(B)とは、ポリマー中にカチオン基を有するポリマーのことであり、かかる水溶性カチオンポリマー(B)としては、入手しやすい点、環境および人体への安全性に優れる点、カチオン強度が強すぎない点から、3級カチオンを有する基および4級カチオンを有する基の少なくとも一つを含む水溶性カチオンポリマーであることが好ましい。
【0111】
3級カチオンを有する基としては、例えば、ジアリルモノメチルアンモニウムクロライド等のジアリルモノアルキルアンモニウムハライド等があげられ、4級カチオンを有する基としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等のジアリルジアルキルアンモニウムハライド等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの中でもジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を含む重合体が好ましい。
【0112】
また、3級カチオンを有する基および4級カチオンを有する基の少なくとも一つを含むジアリル化合物とアクリルアミドとの共重合体や、該ジアリル化合物とマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸との共重合体等も好ましく用いられる。
【0113】
具体的には、特定の水溶性カチオンポリマー(B)として、下記一般式(2)または(3)で示される繰り返し単位を有するポリマー〔好ましい繰り返し単位数(重合度)は10〜4000である。〕をあげることができる。
【0114】
【化1】

【0115】
〔式(2)中、R、Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。R、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Yは1価のアニオンである。〕
【0116】
【化2】

【0117】
〔式(3)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基が好ましいがその限りではない。R、Rは、炭素数1〜2のアルキレン基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。Zは酸である。〕
【0118】
上記一般式(2)および(3)において、炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマル−プロピル基、イソプロピル基等をあげることができる。炭素数1〜3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等をあげることができる。
【0119】
上記一般式(2)において、1価のアニオン(Y)としては、Cl、Br等があげられるが、中でも特にClが好ましい。
【0120】
上記一般式(3)において、アミンと塩を形成する酸(Z)としては、例えば、塩酸、硝酸等の無機酸および、蟻酸、酢酸、プロピル酸、マレイン酸、フマル酸等の有機酸等をあげることができる。これらの中でも、入手のしやすさから、無機酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0121】
具体的には、下記一般式(4)および(5)の少なくとも一方で示される繰り返し単位を有するポリマーが好ましい。
【0122】
【化3】

【0123】
【化4】

【0124】
また、下記一般式(6)と(7)との繰り返し単位を含むポリマーや、下記一般式(8)と(9)との繰り返し単位を含むポリマーが、特に好ましく用いられる。
【0125】
【化5】

【0126】
【化6】

【0127】
【化7】

【0128】
【化8】

【0129】
上記一般式(6),(8)および(9)の繰り返し単位において、好ましい繰り返し単位数は10〜4000であり、上記一般式(7)の繰り返し単位において、好ましい繰り返し単位数は1〜500である。
【0130】
上記ポリマーの中でも、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を含む重合体であることがより好ましく、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの共重合体であることがさらに好ましい。
【0131】
上記水溶性カチオンポリマー(B)(不揮発分)の配合量は、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)100部に対して、0.1〜50部であることが好ましく、0.1〜10部であることがより好ましい。配合量が少なすぎると、配合した効果が認められない傾向があり、多すぎると、本発明のセメントモルタル混和剤を再乳化して得られるエマルジョン状態のセメントモルタル混和剤が凝集する傾向や経時で増粘する傾向がある。
【0132】
本発明においては、前記水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に、特定の水溶性カチオンポリマー(B)を配合させることによって、本発明の目的とするセメントモルタル混和剤が得られる。また、本発明のセメントモルタル混和剤には、上記A成分およびB成分に加えて、必要に応じて、無機フィラー等の他の添加剤を加えてもよい。
【0133】
また、配合方法としては、前記水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に水溶性カチオンポリマー(B)を添加しても、水溶性カチオンポリマー(B)に水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)を添加してもどちらでも良いが、通常は、主体成分である水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に水溶性カチオンポリマー(B)を添加する。
【0134】
前記水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)と、特定の水溶性カチオンポリマー(B)とを含有する本発明のセメントモルタル混和剤は、粉末状でも、液状でもよいが、粉末状が好ましい。また、この粉末状のセメントモルタル混和剤を得るにあたっては、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)と粉末状の水溶性カチオンポリマー(B)とをドライブレンドすることにより得られる他、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)と液状の水溶性カチオンポリマー(B)からなる混和剤組成物を、上記の粉末化処理と同様にして、粉末状のセメントモルタル混和剤とすることもできる。さらに、水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に液状の水溶性カチオンポリマー(B)をスプレーして乾燥する等の方法もあげられる。
【0135】
上記得られた粉末状のセメントモルタル混和剤を再乳化すると、エマルジョン状態のセメントモルタル混和剤となるが、このエマルジョン状態のセメントモルタル混和剤のゼータ電位としては、0.1〜100mVであることが好ましく、1〜100mVであることがより好ましく、3〜100mVであることがさらに好ましい。ゼータ電位は、本発明においては、特に旧モルタル面や樹脂塗面への密着性を示す指標となるものである。ゼータ電位が高すぎると、樹脂粒子の分散安定性が低下する傾向があり、ゼータ電位値が低くなりすぎると、セメントモルタルの流動性の低下、さらに旧モルタル面や樹脂塗面への密着性が低下したりする傾向がある。
【0136】
本発明におけるゼータ電位とは、マイクロテック・ニチメン株式会社製の「ZEECOM IP−120B SYSTEM」を用いて測定したものである。
【0137】
このようにして得られたセメントモルタル混和剤は、セメントモルタルに混和した際に、良好な流動性、作業性を示し、旧モルタル面や樹脂塗面等に対する密着性に優れた、そして物性ばらつきの少ない、加えて接着強度が向上する等の優れた効果を有するようになる。そして、これらは、セメントモルタル混和剤として、補修モルタル用、下地調整塗材用、セルフレベリング材、タイル接着モルタル、モルタルシーラー・プライマー、モルタル養生剤、及び石膏系材料等の改質剤として有用であり、さらに、土木・建材用原料、ガラス繊維収束剤、難燃剤用等にも有用である。
【実施例】
【0138】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0139】
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0140】
<水性合成樹脂エマルジョンの製造例>
〔水性合成樹脂エマルジョン1〕
攪拌機と還流冷却器とを備えた2Lサイズのステンレス製反応缶に、670部の水、保護コロイドとして、アセトアセチル基変性PVA(平均重合度300、平均ケン化度97.0モル%、アセトアセチル化度0.5モル%/日本合成化学工業株式会社製)の46部、酢酸ナトリウムの2部、酸性亜硫酸ナトリウムの1部を仕込み、反応缶を85℃に加熱して、このPVAを溶解させた。つぎに、この反応缶の温度を80℃に保ち、ここに、予め混合しておいた混合モノマー〔ブチルアクリレート358部/メチルメタクリレート293部/アセトアセトキシエチルメタクリレート6.5部=54.4/44.6/1(重量比)〕の66部を添加し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム1.6部を水30部に溶解した過硫酸アンモニウム水溶液の30%を加えて、初期重合反応を1時間行った。次いで、残りの混合モノマーと重合開始剤として前記過硫酸アンモニウム水溶液の60%を反応缶に4時間にわたって滴下して重合を進行させた。滴下終了後に前記過硫酸アンモニウム水溶液の10%を加え、同温度で1時間熟成させ、不揮発分50.2%の水性合成樹脂エマルジョン1を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョン1の前記式(1)で算出される値(W)は、78重量%であった。
この主要モノマー組成〔ブチルアクリレート/メチルメタアクリレート=358/293=55/45(重量比)〕からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+105℃とした場合、約−1℃である。
【0141】
〔水性合成樹脂エマルジョン2〕
混合モノマーの種類と組成比を、ブチルアクリレート358部/メチルメタアクリレート293部/グリシジルメタクリレート6.5部=54.4/44.6/1(重量比)に変更した以外は、水性合成樹脂エマルジョン1と同様にして、不揮発分50.0%の水性合成樹脂エマルジョン2を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョン2の前記式(1)で算出される値は、76重量%であった。
この主要モノマー組成〔ブチルアクリレート358部/メチルメタアクリレート293部=55/45(重量比)〕からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+105℃とした場合、約−1℃である。
【0142】
〔水性合成樹脂エマルジョン3〕
混合モノマーの種類と組成比を、ブチルアクリレート358部/スチレン293部/アセトアセトキシエチルメタクリレート6.5部=54.4/44.6/1(重量比)に変更した以外は、水性合成樹脂エマルジョン1と同様にして、不揮発分49.8%の水性合成樹脂エマルジョン3を得た。
得られた水性合成樹脂エマルジョン3の前記式(1)で算出される値は、75重量%であった。
この主要モノマー組成(ブチルアクリレート/スチレン=55/45(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃とした場合、約−2℃である。
【0143】
〔水性合成樹脂エマルジョン4〕
水性合成樹脂エマルジョン1において、PVA系樹脂の代わりに乳化剤として、ノニオン活性剤〈エマルゲン1135S−70/花王株式会社製〉の28部と、アニオン性活性剤(ホスタパールBVconc/クラリアント社製)の26部を使用した。具体的には、これらの活性剤の20%と、使用する水の200部を反応缶に仕込み、残りの活性剤と水の約435部及び混合モノマーとで、乳化モノマーを作成し重合に供した。不揮発分50.1%の水性合成樹脂エマルジョン4を得た。
【0144】
<水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)の製造例>
〔水性合成樹脂エマルジョン粉末1〕
得られた水性合成樹脂エマルジョン1の不揮発分100部に対して、平均重合度500、平均ケン化度88モル%のPVA(ゴーセノールGL05/日本合成化学工業株式会社製)7部添加し、加水して不揮発分を40%に調整した。抗粘結剤として炭酸カルシウムの存在下において、ノズル式の噴霧乾燥機により熱源を熱風として140℃の温風下にて噴霧乾燥させて水性合成樹脂エマルジョン粉末1を得た。
【0145】
〔水性合成樹脂エマルジョン粉末2〜4〕
水性合成樹脂エマルジョン2〜4に変更した以外は、水性合成樹脂エマルジョン粉末1と同様にして、水性合成樹脂エマルジョン粉末2〜4を得た。
【0146】
〔実施例1/セメントモルタル混和剤1〕
水性合成樹脂エマルジョン粉末1の500部に、水溶性カチオンポリマーとしてジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体(Magnafloc 368/微粉末品、分子量;約1,000,000/チバスペシャリテイ・ケミカルズ株式会社製)3部添加し、セメントモルタル混和剤1を得た。
【0147】
〔実施例2,3/セメントモルタル混和剤2,3〕
水性合成樹脂エマルジョン粉末2,3に変更した以外は、実施例1と同様にしてセメントモルタル混和剤2,3を得た。
【0148】
〔実施例4/セメントモルタル混和剤4〕
実施例1において使用したジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体の代わりに、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミド共重合体(PAS−J−81L/25%水溶液、分子量:約10,000/日東紡株式会社製)を温風乾燥して粉砕した粉末品を5部添加し、セメントモルタル混和剤4を得た。
【0149】
〔比較例1/セメントモルタル混和剤5〕
水性合成樹脂エマルジョン粉末4に変更した以外は実施例1と同様にして、セメントモルタル混和剤5を得た。
【0150】
〔比較例2/セメントモルタル混和剤6〕
実施例1で使用した水性合成樹脂エマルジョン粉末1に、水溶性カチオンポリマーを添加しないで、そのままセメントモルタル混和剤6として使用した。
【0151】
上記実施例、比較例について以下の通り評価した。
【0152】
<水溶性カチオンポリマーの混和安定性>
実施例、比較例で得られた粉末状のセメントモルタル混和剤に、45%濃度となるように水を加えて再乳化させ、エマルジョン状態にしたセメントモルタル混和剤について、ゲル化の有無等の混和安定性を観察した。この場合のゲル化は、上記水溶性カチオンポリマー(B)を混和することにより生じるものをいう。評価基準は以下のとおりである。
○・・・ゲル化等の変化は起こらない。
△・・・少し増粘するが、ゲル化等の変化は起こらない。
×・・・ゲル化、著しい粘度上昇。
【0153】
<ゼータ電位>
マイクロテック・ニチメン株式会社製の「ZEECOM IP−120B SYSTEM」を用いてゼータ電位(mV)を測定した。なお、粉末状のセメントモルタル混和剤は、水に再乳化させ、エマルジョン状態にしてから測定に供した。
【0154】
<セメントモルタルの流動性>
JIS A 6203に準じてセメントモルタル混和試験を行った。普通ポルトランドセメント500g、豊浦硅砂1500g、セメントモルタル混和剤50gおよび、練り混ぜ水340gを、ホバートミキサーで3分間攪拌して、セメントモルタルを調整した。このセメントモルタルの流動性は、フローテーブルの上に設置した底辺直径100mmのフローコーンに、上記セメントモルタルを詰め込み、フローコーンを抜き取った後、12mmの落下衝撃を15回与えてモルタルセメントの広がり直径を測定した。これを初期フローとして評価した。さらに、1時間放置後、ホバートミキサーで30秒間攪拌して同様の測定を行った。これを1時間後のフローとした。セメントに対する水量(W/C)は68%である。
【0155】
<セメントモルタル接着強度>
JIS A 6203に準じてセメントモルタルの常態時の接着強度試験を行い、下記の基準で評価した。
供試体の作製:セメントモルタル基板(70×70×20mm/JIS R 5201準拠)を、JIS R 6252に規定の150番研磨紙を用いて研磨した。この基板上に型枠を用いて各テストセメントモルタルを40×40×10mmとなるように充填し、成型・養生して供試体を作製した。
養生条件:成型後、温度20±2℃、相対湿度90%以上で48時間経過した後、脱型してから温度20±2℃の水中で5日間養生し、さらに温度20±2℃、相対湿度60±10%で21日間養生した。
測定装置:万能測定機(島津製作所株式会社製)を用いた。
なお、湿潤時の接着強度の測定は、前記記載の養生を経た供試体を、室温水に24時間浸漬後、ただちに取り出し、湿潤状態のままに接着強度を測定した。
(評価基準)
◎・・・ 接着強度1.5 N/mm以上
○・・・ 接着強度1.0 N/mm以上、1.5 N/mm未満
△・・・ 接着強度0.8 N/mm以上、1.0 N/mm未満
×・・・ 接着強度0.8 N/mm未満
【0156】
これらの評価結果は、下記の表1に示されるとおりであった。
【0157】
【表1】

【0158】
以上の結果より、実施例はいずれも、水溶性カチオンポリマーの混和安定性に優れ、良好な流動性とともに、常態時・湿潤時の接着強度に優れた結果が得られた。さらに、これら実施例の流動性と接着強度の物性は、ほとんどばらつきのない良好なものであった。
【0159】
そして、セメントに対する水量(W/C)も68%と少ない水量であっても、実施例がいずれも、初期フローおよび1時間後のフローにおいて充分なレベルの流動性が得られるのは、水溶性カチオンポリマーを添加することによるものである。
【0160】
これに対して、PVA系樹脂を保護コロイド剤として用いない水性合成樹脂エマルジョン粉末を含有する比較例1は、水溶性カチオンポリマーとの混和安定性に欠けるものであり、経時において、流動性の低下が著しいものであった。そのうえ、充分な接着強度も得られないものであった。他方、特定の水溶性カチオンポリマーを含有していない比較例2は、ゼータ電位が低いものであったため、旧モルタル面への密着性に劣ることが予想され、さらに、初期フローおよび1時間後のフローのいずれも、本発明の目的とする流動性が得られないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明のセメントモルタル混和剤は、セメントモルタルに混和した際に、良好な流動性、作業性を示し、物性ばらつきの少ない、加えて接着強度が向上する等の優れた効果を有し、セメントモルタル用途として、補修モルタル用、下地調整塗材用、セルフレベリング材、タイル接着モルタル、モルタルシーラー・プライマー、モルタル養生剤、及び石膏系材料等の改質剤として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂[I]により合成樹脂が分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンを乾燥してなる水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)に、分子量3,000〜2,000,000の水溶性カチオンポリマー(B)を配合してなることを特徴とするセメントモルタル混和剤。
【請求項2】
水溶性カチオンポリマー(B)が、3級カチオンを有する基および4級カチオンを有する基の少なくとも一方を含む請求項1記載のセメントモルタル混和剤。
【請求項3】
水溶性カチオンポリマー(B)が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を含む重合体である請求項1記載のセメントモルタル混和剤。
【請求項4】
水溶性カチオンポリマー(B)が、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの共重合体である請求項1記載のセメントモルタル混和剤。
【請求項5】
水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)の合成樹脂が、アクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)を主成分として重合してなるものである請求項1〜4のいずれか一項に記載のセメントモルタル混和剤。
【請求項6】
水性合成樹脂エマルジョン粉末(A)が、アクリル系モノマーおよびスチレン系モノマーの少なくとも1種のモノマー(a1)と下記(ア)〜(カ)からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基含有モノマー(a2)とを共重合成分として重合してなる合成樹脂、および、ポリビニルアルコール系樹脂[I]を含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載のセメントモルタル混和剤。
(ア)グリシジル基含有モノマー。
(イ)アリル基含有モノマー。
(ウ)加水分解性シリル基含有モノマー。
(エ)アセトアセチル基含有モノマー。
(オ)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー。
(カ)ヒドロキシル基含有モノマー。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系樹脂[I]が、活性水素を有するポリビニルアルコール系樹脂である請求項1〜6のいずれか一項に記載のセメントモルタル混和剤。
【請求項8】
セメントモルタル混和剤のゼータ電位が、0.1〜100mVである請求項1〜7のいずれか一項に記載のセメントモルタル混和剤。

【公開番号】特開2009−40624(P2009−40624A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205525(P2007−205525)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000113148)ニチゴー・モビニール株式会社 (24)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】