説明

セメント中のクロムを還元するための少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性コロイド状懸濁液

本発明は、2ないし11(両限界が除外される)のpHを有し、その酸化還元電位がCrO2−/CrO2−の対のそれ(−0.12V)より小さい、セメントのクロムVIの含有率を2ppmより大きくない値に減少させるための、少なくとも一つの選択された遷移元素の水酸化物の水性懸濁液に関する。懸濁液は、これが水の量に対して0.5ないし80重量%の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の乾燥物質を含有し、そしてこれが水溶性安定剤によって安定化されていることにおいて特徴付けられる。この懸濁液は、セメントのクロムVIの含有率を2ppmより大きくない値に減少させることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その酸化−還元電位がCrO2−/CrO2−の対のそれ(−0.12V)より小さい、両限界が除外される2ないし11間のpHを持ち、そして溶液中に0.02%より少ない、少なくとも一つの遷移元素の可溶性イオンを含有する、少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性コロイド状懸濁液に関し、この懸濁液は、セメントのクロムVI含有率を多くとも2ppmに等しい値に減少するように設計される。
【0002】
本発明は、更に特別には、単独で又は混合物として実施され、両限界が除外される2ないし11間のpHを持ち、セメントのクロムVI含有率を多くとも2ppmに等しい値に減少するように設計された、−0.96Vの酸化−還元電位を持つ水酸化スズ、−0.56Vの酸化−還元電位を持つ水酸化鉄、−0.4Vの酸化−還元電位を持つ水酸化マンガンの水性懸濁液に関し、懸濁液は、安定剤によって安定化される。
【0003】
本発明は、更にセメントの調製の過程中のセメントのクロムVI含有率を減少し、そのクロムVI含有率が、多くとも2ppmに等しい値を有する処理されたセメントを形成するように設計された、両限界が除外される2ないし11間のpHの水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液の使用にも関する。
【0004】
本発明は、最終的にはセメントのクロムVI含有率を多くとも2ppmの値に減少するためのセメントの処理のための方法に関する。
【背景技術】
【0005】
セメントがクロム化合物を含有し、これは、セメントが水と混合された場合、水に溶解したクロムVIの形態で現れることは知られている。さて、セメントの水中に可溶なクロムVIは、六価クロムの水溶性化合物を含有する製品と接触するヒトに対するアレルギー性反応の原因であることができる。クロムは、更にヒトに対して発癌性であるとさえ推測されている。従って、その皮膚、一般的に手及び腕が、セメント及び水の混合物と定常的に接触する建設作業員は、セメントの上昇しすぎたクロムVI含有率のために接触性湿疹にかかることがあり得る。
【0006】
セメント中の水溶性六価クロム化合物を減少するために設計された最新の技術の方式は存在する。例えば、硫酸第一鉄の添加が、セメント−水混合物中に溶解したクロムの含有率を減少することは知られている。硫酸第一鉄は、例えば、セメントを含有する混合物の調製中に、又はセメントの製造中に加えることができる。硫酸鉄(II)は、セメント−水混合物中で低い溶解度を有するCr6+をCr3+に還元する。従って、Fe2+及びCr6+イオン間の反応は、水性媒体中で、即ち水が硫酸鉄(II)を含有するセメントに加えられた場合に起こる。
【0007】
1970年代から、セメント製造業者は、特に粉砕工程の時点で硫酸第一鉄処理をセメント中のクロムVI含有率を減少するために行い、そして従ってセメント−水混合物と定常的に接触する建設作業員によってかかる湿疹の危険度を制約している。然しながら、処理されたセメントのクロムVI含有率を減少することを可能にするセメントのこの硫酸第一鉄処理は、むしろ効果的ではなくなり、そして多くの不利益を与える。
【0008】
事実、クロム(VI)ないしクロム(III)の鉄(II)イオンによる還元を得るために、粉末の形態の硫酸鉄を使用することが実際上必要となる。さて、空気中の酸素は、鉄(II)を鉄(III)に転換することができる。この理由のために、特別な注意、並びに特別な実施条件が不可欠であることが証明される。
【0009】
クロム(VI)の他の還元経路は、例えばクロム(VI)の、アルデヒド、及び例えばピリジンのような複素環式化合物のような有機系による還元のように開発されている。しかし、これらの有機系の実際の使用は、特にこれらの有機系のセメントの調製中の低い安定性、又は使用される量に関係する経済的な理由のために、不適応であることが証明されている。更に最新の技術において、可溶性のSn2+イオンの溶液がクロムVIを還元することを可能にすることが知られている。
【0010】
従って、最新の技術において、両限界が除外される2ないし11間のpHの、セメントのクロムVI含有率を減少することが可能な、累積的に以下の条件:
−濃縮された懸濁液中でさえ高い安定性、
−時間をかけても一定で、そして低いままである懸濁液の粘度、
−その使用を容易にする十分に低い濃縮された溶液の粘度、
−貯蔵、輸送及び実施の条件を容易にする、両限界が除外される2ないし11間のpHの処方、
を満足する、水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの基剤を伴う水性懸濁液は存在しない。
【0011】
驚くべきことに、両限界が除外される2ないし11間のpHを持つ少なくとも一つの遷移元素の水酸化物、特に水酸化スズ及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液が、セメントのクロムVI含有率を多くとも2ppmに等しい値に減少し、そしてこれが、水の量に対して0.5ないし80重量%の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物、特に水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの乾燥物質を含んでなり、水酸化物は単独で又は混合物として実施され、そしてこれが水溶性安定剤によって安定化されることにおいて特徴付けられることが見出された。
【発明の開示】
【0012】
従って、本発明は、更に目的のために、セメントのクロムVI含有率を、以下で処理されたセメントと呼ばれる、そのクロムVI含有率が多くとも2ppmに等しいセメントを製造するために減少するように設計された、両限界が除外される2ないし11間のpHの水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンのこれらの水性懸濁液の使用を有する。
【0013】
本発明は、更にセメントのクロムVI含有率を、多くとも2ppmに等しい値に減少するためのセメントの処理のための方法に関し、これは、セメント製造過程のクリンカーの焼成の工程の後に、両限界が除外される2ないし11間のpHを持つ水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液が導入されることにおいて特徴付けられ、懸濁液は、以下で処理されたセメントと呼ばれる、そのクロムVI含有率が多くとも2ppmに等しいセメントを製造するための本発明によって先に定義されたとおりである。
【0014】
本発明は、更に本発明の処理方法によって製造された処理されたセメントの使用にも関し、そしてそのクロムVI含有率は、処理されたセメント、水及び慣例的な成分を含んでなるコンクリート組成物を調製するために、多くとも2ppmに等しい。
【0015】
本発明は、最終的にセメント、水及び慣例的な成分を含んでなり、そして各種の成分の混合の時点で、本発明の枠組み内で定義されたとおりの、両限界が除外される2ないし11間のpHの水酸化スズの水性懸濁液を、可溶性のクロムVI含有率を多くともセメントのkg当り2mgのCr(VI)に等しい値に減少するために十分な量で加えることにおいて特徴付けられるコンクリートの組成物に関する。
【0016】
クロムイオンは、強い酸化作用を有する特徴を与える。従って、酸化可能な物質の存在中で、クロム(VI)は、クロム(III)に還元される。この機構を説明する酸化−還元の化学反応は、レドックスの対(ox/red)の還元された形態redからもう一つのレドックスの対(ox/red)の酸化された形態oxへの電子の移動として定義される。これは、ox/redの対の酸化−還元電位が、ox/redの対の酸化−還元電位より大きい場合にのみ起こることができる。
【0017】
対が、レドックス電位の目盛上に分類された場合、この移動は、ガンマの法則と呼ばれる法則に従う(図2)。
【0018】
【化1】

【0019】
次いで本発明の枠組み内で、セメント中のクロムVIの還元の場合に関係するレドックスの対を選択することが適当である。そのようにするために、セメントの侵入型媒体中のクロムを還元することが可能な対を選択することが可能であるように、セメントの侵入型媒体中でクロムがどのイオンの形態で存在するかを決定することが必要であるように思われる。
【0020】
このセメントの侵入型媒体は、11より大きい強い塩基性のpHを与え、そしてこのような媒体中で、クロムVIは、CrO2−の形態で存在する。
【0021】
従って、関係する酸化−還元の対は、CrO2−/Cr(OH)であるように思われ、そしてこの対に伴う還元の方程式は:
CrO2−+4HO+3e→Cr(OH)+5OH (方程式1)
である。
【0022】
CrO2−/Cr(OH)の対の実証された酸化−還元電位は、−0.12Vであり、そしてもう一つのox/redの対との酸化−還元反応は、この他のox/redの対が、−0.12Vより小さい酸化−還元電位を与える場合にのみ起こることができる。
【0023】
本発明によれば、選択された水酸化スズの場合、Sn(OH)2−/Sn(OH)2−の対は、−0.12VであるCrO2−/Cr(OH)の対のそれより小さい、−0.96Vの測定された酸化−還元電位を保有する。
【0024】
従って、選択されたox/redの対は、以下の酸化−還元の方程式であることが観察され、そして対応する電子の移動は、上述のガンマの法則に従って起こる(図3)。
【0025】
【化2】

CrO2−+4HO+3e→Cr(OH)+5OH 方程式2
Sn(OH)2−+2e→Sn(OH)2−+2OH 方程式3
【0026】
セメントの侵入型媒体中の選択されたox/redの対の適用の時点で、水酸化スズSn(OH)は、媒体の水酸化物イオンと反応して、方程式4に従ってSn(OH)2−イオンを形成する。
Sn(OH)+2OH→Sn(OH)2− 方程式4
【0027】
Sn(OH)2−イオンは、Sn(OH)2−/Sn(OH)2−の対の還元された形態である。このox/redの対は、−0.96Vの電位を保有する。
【0028】
CrO2−/Cr(OH)及びSn(OH)2−/Sn(OH)2−の対に対するガンマの法則(図3)によれば、Sn(OH)2−は、以下の酸化−還元反応(図5)に従ってCrO2−イオンをCr(OH)に還元する。
2CrO2−+8HO+3Sn(OH)2−
2Cr(OH)+4OH+3Sn(OH)2− 方程式5
【0029】
CrO2−/Cr(OH)の対(−0.12V)に対するガンマの法則に対立するように、そして図3に示したように、+0.15Vに等しい酸化−還元電位のSn4+/Sn2+の対の実施は、セメントの侵入型媒体中のクロムVIの還元剤として使用することが不可能に思われ:この対は、事実、酸化−還元電位の尺度で、CrO2−/Cr(OH)の対のそれより大きい酸化−還元電位を有し、そして従ってセメントの前記の侵入型媒体中に存在する種Sn2+及びCrO2−間の酸化−還元反応は、以下の図4よって示されるように起こることができない。
【0030】
【化3】

【0031】
本発明によれば、水酸化鉄の選択の場合、Fe(OH)/Fe(OH)の対は、−0.12VであるCrO2−/Cr(OH)の対のそれより小さい、−0.56Vの測定された酸化−還元電位を保有する。
【0032】
従って、酸化−還元の方程式は、以下のとおりであり、そして対応する電子の移動は、以下のガンマの法則に従って起こる(図5):
【0033】
【化4】

CrO2−+4HO+3e→Cr(OH)+5OH 方程式6
Fe(OH)+e→Fe(OH)+OH 方程式7
【0034】
セメントの侵入型媒体中の選択されたox/redの対の適用中に、Fe(OH)/Fe(OH)の対は、以下に記載する酸化−還元反応(方程式8)に従って、CrO2−イオンをCr(OH)に還元する。
CrO2−+4HO+3Fe(OH)
Cr(OH)+2OH+3Fe(OH) 方程式8
【0035】
本発明によれば、水酸化マンガンの選択の場合、Mn(OH)/Mn(OH)の対は、−0.12Vに等しいCrO2−/Cr(OH)の対のそれより小さい、−0.40Vの測定された酸化−還元電位を保有する。
【0036】
従って、酸化−還元方程式は、以下のとおりであり、そして対応する電子の移動は、ガンマの法則に従って起こる(図6):
【0037】
【化5】

CrO2−+4HO+3e→Cr(OH)+5OH 方程式9
Mn(OH)+e→Mn(OH)+OH 方程式10
【0038】
セメントの侵入型媒体中の選択されたred/oxの対の適用中に、水酸化マンガンMn(OH)/Mn(OH)は、以下の酸化−還元反応(方程式11)に従って、CrO2−イオンをCr(OH)に還元する。
CrO2−+4HO+3Mn(OH)
Cr(OH)+2OH+3Fe(OH) 方程式11
【0039】
従って、本発明による両限界が除外される2ないし11間のpHの水酸化スズ及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液は、強酸の存在中でそれぞれスズ化合物、鉄化合物、又はマンガン化合物から調製される。これを行うために、両限界が除外されるpH2ないし11間の水酸化スズの懸濁液は、スズ化合物及び水酸化ナトリウムから調製することができる。スズ化合物の中で、例として塩化スズ、硫酸スズ及び日常的に使用され、そして水性媒体中で容易に解離される他のスズ化合物を挙げることが可能である。
【0040】
同様に、両限界が除外されるpH2ないし11間の水酸化鉄の懸濁液は、鉄化合物及び水酸化ナトリウムから調製することができる。
【0041】
鉄化合物の中で、例として塩化鉄、硫酸鉄及び日常的に使用され、そして水性媒体中で容易に解離される他の鉄化合物を挙げることが可能である。
【0042】
最後に、両限界が除外されるpH2ないし11間の水酸化マンガンの懸濁液は、マンガン化合物及び水酸化ナトリウムから調製することができる。マンガン化合物の中で、例として塩化マンガン、硫酸マンガン及び日常的に使用され、そして水性媒体中で容易に解離される他のマンガン化合物を挙げることが可能である。
【0043】
このようにして得られた両限界が除外されるpH2ないし11間の水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液は、沈降する傾向があるコロイド状懸濁液の形態であると思われる。これが、両限界が除外されるpH2ないし11間の水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性コロイド状懸濁液の安定化による均質化が、水溶性安定剤の実施によって行われる理由である。前記の懸濁液の安定化のためのこの薬剤は、前記の水性懸濁液が工業規模で使用することができるように、水の量に対して0.5ないし80重量%の水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの乾燥物質を含んでなるセメントの、クロムVI含有率を多くとも2ppmに等しい値に減少するように設計された、両限界が除外される2ないし11間のpHの水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液の製造のために不可欠であることをことを証明する。
【0044】
本発明によって定義されるとおりの水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液は、好ましくは水に対して5ないし70重量%の水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの乾燥物質を、そして更に好ましくは水に対して10ないし60重量%の水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの乾燥物質を含んでなる。
【0045】
先に規定したように、本発明による懸濁液は、水溶性安定剤によって安定化される。
【0046】
水溶性安定剤によって、本出願人等は、この開示中で、100,000g/molより小さい分子質量の水溶性分散剤と理解する。
【0047】
本発明によれば、分散剤である水溶性の薬剤は、好ましくはポリナフタレンスルホネート、ポリオキシアルキレンホスホネート、好ましくはジ−ホスホネート及び100,000g/molより小さい分子質量のポリオキシアルキレンポリカルボキシレート中から選択される。
【0048】
本発明により分散剤として定義されるポリアルキレンポリカルボキシレートとして、例えば、2ないし300分子のオキシアルキレンを含有するポリアルキレングリコールモノエステルモノマーの、アクリル酸、メタクリル酸のような不飽和モノカルボン酸、及び無水マレイン酸のような不飽和ジカルボン酸中から選択される少なくとも一つのモノマーとの重合によって得られるポリカルボン酸塩型のコポリマーを挙げることが可能である。例として、2ないし300分子のオキシアルキレンを含有するポリアルキレングリコール鎖との(メタ)アクリレートコポリマー、2ないし300分子のオキシアルキレンを含有するポリアルキレングリコール鎖とのマレイン酸コポリマー、更に好ましくは2ないし300分子のC−Cのオキシアルキレンを含有するポリアルキレングリコール鎖との(メタ)アクリレートコポリマーを挙げることが可能である。
【0049】
本発明による分散剤として使用されるポリオキシアルキレンホスホネートとして、好ましくはポリオキシエチレンジ−ホスホネートを挙げることが可能である。
【0050】
その粘度の調節を可能にするための水性懸濁液への増粘剤の導入は、最新の技術から知られている。従って、本発明による水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液は、恐らく粘度の調節を可能にする増粘剤を含むことができる。
【0051】
増粘剤として、106g/molより大きい分子質量の水溶性ポリマーを挙げることが可能である。
【0052】
増粘剤の例として、例えばキサンタン、ウェラン、カルーバ(carouba)及びグアールゴム、セルロース及びその誘導体又はポリエチレン、ポリアクリレート及び10g/molより大きい分子質量のこれらの誘導体を挙げることが可能である。
【0053】
従ってセメントのクロムVI含有率を減少することが可能な両限界が除外される2ないし11間のpHの水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液は、以下の基準:
−濃縮された懸濁液中でさえ高い安定性、
−時間をかけても一定で、そして低いままである懸濁液の粘度、
−その使用を容易にする十分に低い濃縮された溶液の粘度、及び
−貯蔵、輸送及び実施の条件を容易にする両限界が除外される2ないし11間のpHの処方、そして更に好ましくはセメント製造業者が直面する衛生及び安全、特に1に近いpHの製品の腐食性の特質に伴う側面に関する標準に従った処方、
を非常に累積的に与える。
【0054】
従って、本発明によるセメントのクロムVI含有率を減少するように設計された、両限界が除外される2ないし11間のpHの水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液は、そのクロムVI含有率が多くとも2ppmに等しいセメントを製造するために使用することができる。
【0055】
本発明による両限界が除外される2ないし11間のpHを持つ水酸化スズの水性懸濁液を実施する、セメントに対する処理方法は、セメント工場のセメント製造工程中に行われる。この処理方法は、セメント製造過程中のクリンカー焼成工程後の、セメントのクロムVI含有率を多くとも2ppmに等しい値に減少し、そして従ってそのクロムVI含有率が多くとも2ppmに等しいセメントを得るために、本発明の両限界が除外される2ないし11間のpHを持つ水酸化スズ、及び/又は水酸化鉄及び/又は水酸化マンガンの水性懸濁液の導入に本質がある。
【実施例】
【0056】
実施例1
水酸化スズの懸濁液を、塩化スズ又は硫酸スズであることができるスズの供給源から以下:
−水酸化ナトリウム(NaOH−N)の水溶液であるアルカリ剤及びスズ供給源間の、このスズ源供給を水酸化スズ[Sn(OH)]に転換するための比率の定義づけ;
−スズの不均化を避けるためのゆっくりした、そして規則正しい様式のスズ供給源の水酸化ナトリウム水溶液中への導入;
を含んでなるプロトコルによって調製する。その後:
−Sn(OH)の白−黄色の沈殿物の出現;
−Sn(OH)の沈殿物の、前記のSn(OH)の水性懸濁液が安定であることができないことを明白にする、急速なデカンテーションの現象;
が観察される。
【0057】
その水性沈殿媒体中の水酸化スズの安定な懸濁液を造りだすために、分散剤が、水の量に対して30%の濃度の水酸化スズの懸濁液に用いられる。
【0058】
3回の試行を以下に記述する三つの分散剤で行った:
−第1試行:分散剤は、ポリナフタレンスルホネートである;
−第2試行:分散剤は、ポリオキシエチレンジ−ホスホネートである;
−第3試行:分散剤は、ポリオキシエチレンのポリカルボキシレートである。
【0059】
それぞれの試行において、分散剤の濃度は、30%の濃度の水酸化スズの懸濁液に対して2重量%である。
【0060】
このように行われた3回の試行において、得られた水酸化スズの懸濁液は、これがミルク様の外観を伴って出現するために、ある程度の安定性を明らかにする;然しながら、デカンテーションの開始は、数時間の静置後に明らかになることができる。
【0061】
次いでこれらの三つの水酸化ナトリウムの懸濁液を増粘剤で処理した:
−第1の試行は、キサンタンゴムを水酸化ナトリウムの懸濁液に対して0.4重量%の比率で受けた。この処理後、処理された懸濁液のpHは2.5である。
−試行2及び3は、キサンタンゴム及び高分子質量のポリオキシエチレンの混合物を、水中の2重量%の比率で受けた。処理後、処理された懸濁液のpHは2.5である。
【0062】
分散剤及び増粘剤を含有するこれらの三つのSn(OH)の懸濁液は、時間をかけても優れた安定性を示した;デカンテーションは、数日間の静置後見られなかった。
【0063】
このようなSn(OH)の懸濁液の各種の濃度における使用は、セメント中のクロムVI濃度を有意に減少することを可能にする。
【0064】
スズ濃度を増加しながらの片方として粉砕された、他方として添加物を含まず、そして粉砕されたセメントの懸濁液からの濾液を、水中で水和した後、ICP(誘導結合プラズマ)によって分析した。全クロムの分析は、この技術、即ちクロム(VI)イオン及びクロム(III)イオンをいっしょに採取し、後者が水中に非常に不溶性であることによって得た。得られた結果を図1に示す。
【0065】
処理されていないセメントは、10.5ppmのクロムVIイオンを与える。
【0066】
本発明によるSn(OH)の懸濁液による少なくとも300ppmのSn2+の比率におけるセメントの処理後、セメントのクロムVI含有率は、厳密に2ppmより少ない。
【0067】
実施例2
水酸化スズの懸濁液を、塩化スズ又は硫酸スズであることができるスズ供給源から以下の工程:
−水酸化ナトリウム(NaOH−N)の水溶液であるアルカリ剤及びスズ供給源間の、このスズ供給源を水酸化スズ[Sn(OH)]に転換し、そして前記の水酸化物中に15重量%で入れられる水酸化スズの水性懸濁液を得るための、比率の定義づけ;
−スズの不均化を避けるためのゆっくりした、そして規則正しい様式のスズ供給源の水酸化ナトリウム水溶液中への導入;
−Sn(OH)の白−黄色の沈殿物の出現;
−Sn(OH)の沈殿物の、前記のSn(OH)の水性懸濁液が安定であることができないことを明白にする急速なデカンテーションの現象の出現;
−水の量に対して15%の濃度の水酸化スズの懸濁液から始まる分散剤の使用による、その水性沈殿媒体中の水酸化スズの安定な懸濁液の製造;
を含んでなるプロトコルによって調製する。
【0068】
4ないし9と番号付けされた六つの試行を:
−水中の懸濁液の水酸化スズである同じ還元剤;
−水酸化スズの水性懸濁液中に実施された3種類の分散剤;
−水酸化スズの水性懸濁液中に実施された3種類の増粘剤;
−試行によって異なることができるppmで表示される水酸化スズの水性懸濁液の量;
で行った。
【0069】
分散剤及び増粘剤を含有するこれらの六つのSn(oH)の懸濁液は、時間をかけても優れた安定性を示した;デカンテーションは、数日の静置後認められない。
【0070】
異なった濃度のこのようなSn(OH)懸濁液の使用は、セメント中のクロムVI濃度を激烈に減少することを可能にする。
【0071】
スズ濃度を増加しながらの、片方として粉砕された、他方として添加剤を含まず、そして粉砕されたセメントの懸濁液からの濾液を、水中で水和した後、ICP(誘導結合プラズマ)によって分析した。全クロムの分析は、この技術、即ちクロム(VI)イオン及びクロム(III)イオンをいっしょに採取し、後者が水中に非常に不溶性であることによって得た。試行4ないし9の操作条件及び得られた結果を、いっしょに以下の表1に提示する。
【0072】
未処理のセメントは、試行4ないし9によれば、6ないし6.2ppm間のクロムVIイオンの量を与える。
【0073】
本発明によるSn(OH)の懸濁液による少なくとも300ppmのSn2+の比率におけるセメントの処理後、セメントのクロムVI含有率は、0.1ないし0.2ppm間であり、そして従って厳密に2ppmより小さい。
【0074】
【表1】

【0075】
従って本発明によるセメントの処理は、0.1ないし0.2ppm間である処理後のクロムVI含有率が、2ppmの課された上限より常に非常に小さいと思われるために、特に有効であるように思われる。
【0076】
実施例3
スズ、鉄及びマンガンの水酸化物の水性懸濁液を、塩化物、硫酸塩又は他の塩のような塩であることができるこれらの各種の元素の供給源から、以下の工程:
−水酸化ナトリウム(NaOH−N)の水溶液であるアルカリ剤及びスズ、鉄、又はマンガン供給源間の、これらの供給源をスズ、鉄、又はマンガンの水酸化物に転換するための比率の定義づけ;
−特に実施される元素の不均化を避けるためのゆっくりした、そして規則正しい様式のスズ、鉄及びマンガンの供給源の水酸化ナトリウム水溶液中への導入;
−沈殿物の出現;
−水性水酸化物の懸濁液が安定でないことを示す、沈殿した水酸化物の急速なデカンテーションの現象の出現;
−水の量に対して10%、15%または20%の濃度の水酸化物の懸濁液からの、分散剤の使用による、その水性沈殿媒体中のスズ、鉄およびマンガンの水酸化物の安定な懸濁液の製造;
を含んでなる調製プロトコルに従って調製した。
【0077】
10、11および12と番号付けされた3つの試行を:
−水酸化スズ及び水酸化鉄の混合物、単独の水酸化鉄、並びに単独の水酸化マンガンである異なった還元剤;
−同じ種類の分散剤;
−同じ種類の造粘剤;
−これらの3回の試行に対して同一である、ppmで表示される水性水酸化物懸濁液の量;
で行った。
【0078】
分散剤及び増粘剤を含有するCr VIの還元剤のこれらの三つの懸濁液は、時間をかけても優れた安定性を示した;デカンテーションは、数日の静置後認められない。
【0079】
異なった濃度におけるこれらの懸濁液の使用は、セメント中のクロムVI濃度を有意に減少することを可能にする。
【0080】
還元剤の存在中の、スズ濃度を増加しながらの、片方として粉砕された、他方として添加剤を含まず、そして粉砕されたセメントの懸濁液からの濾液を、水中で水和した後、ICP(誘導結合プラズマ)によって分析した。全クロムの分析は、この技術、即ちクロム(VI)イオン及びクロム(III)イオンをいっしょに採取し、後者が水中に非常に不溶性であることによって得た。試行10、11及び12の操作条件及び得られた結果を、いっしょに以下の表2に提示する。
【0081】
未処理のセメントは、これらの試行によれば、6.1ないし6.2ppm間のクロムVIイオンの量を与える。
本発明による還元剤の懸濁液によるセメントの処理後、検討した試行によればセメントのクロムVI含有率は0.1ないし0.2ppm間であり、従って2ppmの上限よりも厳密に小さい。
【0082】
【表2】

【0083】
従って本発明によるセメントの処理は、0.1ないし1.2ppm間である処理後のクロムVI含有率が、2ppmの課された上限より常に小さいと思われるために、特に有効であるように思われる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】セメント中のクロムVIの含有率に及ぼす懸濁液中のスズの濃度の影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントのクロムVI含有率を多くとも2ppmに等しい値まで減少させるための、2ないし11(両限界が除外される)のpHでその酸化−還元の電位がCrO2−/CrO2−の対のそれより小さい、少なくとも一つの選択された遷移元素の水酸化物の水性懸濁液であって、水の量に対して0.5ないし80重量%の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の乾燥物質を含み、そして水溶性の安定剤によって安定化されていることを特徴とする水性懸濁液。
【請求項2】
好ましくは水の量に対して5ないし70重量%の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の乾燥物質を、そして更に好ましくは水の量に対して10ないし60重量%の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の乾燥物質を含むことを特徴とする、請求項1に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項3】
遷移元素の水酸化物が、水酸化スズ、水酸化鉄及び水酸化マンガンによって形成される群から単独で又は混合として選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項4】
水溶性安定剤が、100,000g/molより小さい分子質量の分散剤であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項5】
分散剤が、ポリナフタレンスルホネート類、ポリオキシアルキレンジ-ホスホネート類及びポリオキシアルキレンポリカルボキシレート類によって構成される群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項6】
分散剤が、100,000g/molより小さい分子質量のポリナフタレンスルホネート類から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項7】
分散剤が、2ないし300分子のオキシアルキレンを含有するポリアルキレングリコールモノエステルモノマーの、不飽和モノカルボン酸及び不飽和ジカルボン酸の中から選択される少なくとも一つのモノマーとの重合によって得られる、ポリカルボン酸塩型のコポリマー中から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項8】
分散剤が、2ないし300分子のオキシアルキレンを有するポリオキシアルキレンポリアルキレングリコール鎖との(メタ)アクリレートコポリマーの中から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項9】
分散剤が、ポリオキシアルキレンジ-ホスホネート類、そして好ましくはポリオキシエチレンジ-ホスホネート類の中から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項10】
更に前記懸濁液の粘度の調節のための薬剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項11】
粘度の調節のための薬剤が、10g/molより大きい分子質量の水溶性ポリマーの中から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項12】
粘度の調節のための薬剤が、キサンタン、ウェラン、カルーバ及びグアールゴム、セルロース及びそれらの誘導体によって構成される群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項13】
粘度の調節のための薬剤が、ポリエチレン、ポリアクリレート及びこれらの誘導体の中から選択される10g/molより大きい分子質量の水溶性ポリマーであることを特徴とする、請求項11に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項14】
2ないし11(両限界が除外される)のpHを正確に示すことを特徴とする、請求項1ないし13のいずれか1項に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液。
【請求項15】
請求項1に記載したようにセメントのクロムVI含有率を減少させるために設計されて、そのクロムVI含有率が多くとも2ppmに等しいセメントを製造するための、2ないし11(両限界が除外される)のpHの、少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液の使用。
【請求項16】
セメント調製プロセスにおけるセメントのクリンカー焼成工程後に、2ないし11(両限界が除外される)のpHを持つ請求項1に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液の導入が行われて、セメントのクロムVI含有率を多くとも2ppmに等しい値に減少し、そしてそのクロムVI含有率が多くとも2ppmに等しいセメントを製造することを特徴とする、セメントの処理のための方法。
【請求項17】
請求項11に記載のセメントの処理のための方法によって製造されて、そしてそのクロムVI含有率が多くとも2ppmに等しいセメントの使用であって、処理されたセメント、水及び通常の成分を含んでなるコンクリート組成物を調製するための、セメントの使用。
【請求項18】
各種の成分の混合物の時点で、2ないし11(両限界が除外される)のpHの請求項1に記載の少なくとも一つの遷移元素の水酸化物の水性懸濁液の添加が、可溶性クロムVI含有率を多くとも2ppmのCr(VI)に等しい値に減少させるのに十分な量で行われることを特徴とする、セメント、水及び通常の成分を含んでなるコンクリート組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2007−522059(P2007−522059A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523031(P2006−523031)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002098
【国際公開番号】WO2005/016843
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506044649)
【Fターム(参考)】