説明

セメント原燃料化方法

【課題】セメント製造プロセスからの廃熱を熱源として利用し、ハロゲン含有廃棄物中のハロゲンと廃ガラス中のアルカリ金属とを効率よく同時に無害化し、且つ再資源化することを可能とするセメント原燃料化方法及びその装置の提供。
【解決手段】セメント製造プロセスの廃熱を熱源として利用し、ハロゲン含有廃棄物を加熱分解して、低ハロゲン含有炭素質物質及びハロゲン含有ガスを生成させる熱分解工程、該低ハロゲン含有炭素質物質から無機性ハロゲンを除去する炭素質物質洗浄工程、該ハロゲン含有ガスを廃ガラスと加熱・反応させて、ハロゲンをアルカリハロゲン化物として中和固定させる中和工程、及び該アルカリハロゲン化物をガラス表面から除去するガラス洗浄工程を含み、前記中和工程において、廃ガラスを粉砕し、分級してアンダー分及びオーバー分の粉砕粒子をそれぞれ流動層及び移動層に分けて充填し、流動層に続いて移動層にて反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン含有廃棄物と廃ガラスを用い、得られた炭素質物質、可燃ガス、アルカリ除去されたガラスをセメント製造プロセスで利用せしめるセメント原燃料化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有プラスチックは、直接焼却すると、塩化水素が副生し炉の腐食及びダイオキシン類を生成する恐れがある。従って、ハロゲン含有廃棄物のケミカルリサイクル或いはサーマルリサイクル技術として、高温で熱分解/ガス化或いは燃焼処理をする際に、発生するハロゲン化水素を廃ガラスで中和する技術が開発されている(特許文献1〜3)。
【0003】
しかし、廃熱が利用できない廃ガラス・ハロゲン含有プラスチックの自立型中和プロセスの場合では、ハロゲン含有プラスチックの熱分解及びハロゲンの中和温度の実現に必要な熱は炭素質物質又は可燃ガスを燃焼させて供給しなければならないため、炭素質物質又は可燃ガスを有効利用することができない。また、ハロゲンとガラス中のアルカリ金属イオンとの中和反応は、アルカリ成分のガラス表面への拡散が律速であり、反応速度がかなり遅いことから、反応効率の向上を図るとコストが嵩み、また反応装置が大型化となってしまう。更に、ガラス表面に析出した食塩により、ガラス同士が凝集し運転のトラブルや反応率の低下を招くという問題があった。
【特許文献1】特開2001−72412号公報
【特許文献2】特開2002−59114号公報
【特許文献3】特開2004−155872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、セメント製造プロセスからの廃熱を熱源として利用し、ハロゲン含有廃棄物中のハロゲンと廃ガラス中のアルカリ金属とを効率よく同時に無害化し、且つ再資源化することを可能とするセメント原燃料化方法及びその装置を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
(1)ハロゲン含有廃棄物と廃ガラスを用い、アルカリ除去されたガラス並びにハロゲン除去された炭素質物質及び可燃ガスをセメント原燃料として回収するセメント原燃料化方法であって、セメント製造プロセスの廃熱を熱源として利用し、ハロゲン含有廃棄物を加熱分解して、低ハロゲン含有炭素質物質及びハロゲン含有ガスを生成させる熱分解工程、該低ハロゲン含有炭素質物質から無機性ハロゲンを除去する炭素質物質洗浄工程、該ハロゲン含有ガスを廃ガラスと加熱・反応させて、ハロゲンをアルカリハロゲン化物として中和固定させる中和工程、及び該アルカリハロゲン化物をガラス表面から除去するガラス洗浄工程を含み、前記中和工程において、廃ガラスを粉砕し、分級してアンダー分及びオーバー分の粉砕粒子をそれぞれ流動層及び移動層に分けて充填し、流動層に続いて移動層にて反応を行うことを特徴とするセメント原燃料化方法。
【0006】
(2)ハロゲン含有廃棄物と廃ガラスを用い、アルカリ除去されたガラス及びハロゲン除去された炭素質物質をセメント原燃料として回収するセメント原燃料化装置であって、セメント製造プロセスの廃熱を熱源として利用するための廃熱供給路、ハロゲン含有廃棄物を加熱分解して、低ハロゲン含有炭素質物質及びハロゲン含有ガスを生成させる熱分解炉、該低ハロゲン含有炭素質物質から無機性ハロゲンを除去する炭素質物質洗浄装置、該ハロゲン含有ガスを廃ガラスと加熱・反応させて、ハロゲンをアルカリハロゲン化物として中和固定するための流動層及び移動層からなる中和器、廃ガラスを粉砕し、中和器へ供給するためのガラス粉砕機及び該アルカリハロゲン化物をガラス表面から除去するガラス洗浄装置を備えたことを特徴とするセメント原燃料化装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法及び装置によれば、セメント製造プロセスからの廃熱をハロゲン含有廃棄物の熱分解及びハロゲン含有ガスの中和固定の実現に必要な熱源として利用でき、廃ガラス由来のシリカをセメント原料化できると共に、生成したハロゲンフリー燃料をセメントキルン燃料として石炭代替を行うことができる。また、ハロゲン含有ガスと廃ガラスとの中和反応の反応速度又は反応率を、装置を大型化することなく向上させることができ、更に、ガラス同士の凝集による運転トラブルを起こすこともなく、高効率中和プロセスが実現できる。すなわち、本発明によれば、高効率のハロゲン含有プラスチック・ガラスリサイクルプロセスとセメント製造プロセスからなる新規な循環型基盤技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のセメント原燃料化方法について、フローを図1に示した。各プロセスについて、以下に説明する。
(1)熱分解工程
本工程は、ハロゲン含有廃棄物を加熱分解して、ハロゲン含有ガス及び炭素質物質(低ハロゲン含有炭素質物質)を生成させる工程である。
熱分解は、例えば、熱分解装置を用いて、ハロゲン含有廃棄物を300〜600℃、好ましくは300〜450℃、特に350℃で、0.5〜1時間加熱することにより行われる。斯かる温度で熱分解することにより、炭化物中の残存有機ハロゲン濃度を低く(6000ppm以下)抑えることができる。生成した炭素質物質の大部分の炭素質物質は、炭素質物質洗浄工程へ供給されるが、ごく一部をガラス粉砕機へ移送し、ガラス表面の食塩によるガラス同士の凝集を防止するための凝集防止剤として使用することが好ましい。
また、熱分解は、水蒸気雰囲気下、例えば圧力ポンプで水を送り込み水蒸気10%程度の雰囲気で熱分解を行うことにより、熱分解炉の後段に設置された中和器の圧力損失まで加圧すると共に、燃料として再利用可能な高カロリーを有する炭素質物質を得ることができる。
【0009】
本発明において、ハロゲン含有廃棄物とは、いわゆる塩素含有廃プラスチックを含む概念であって、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の有機ハロゲン(特に有機塩素)を含むポリマー、塩化パラフィン等の難燃剤、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2等の塩化物を含む可燃性廃棄物を挙げることができる。
【0010】
熱分解に必要な熱源は、セメント製造プロセスからの熱を有する排ガス、熱分解時に生成する可燃ガス或いは炭素質物質の一部を燃焼することにより得られる反応熱、或いは流動層式燃焼炉を設ける場合、流動媒体であるケイ砂等の熱媒体を用いることができ、上記熱分解反応領域及び/又はこれに隣接する外部領域にこれらを供給すればよい。
【0011】
(2)炭素質物質洗浄工程
前記熱分解工程で生成された低ハロゲン含有炭素質物質中のハロゲンは、殆どが無機ハロゲン(無機金属塩)として残存する。従って、これを水で洗浄処理することによって、ハロゲンを殆ど除去することができる(残存ハロゲン濃度:6000ppm以下)。斯くして洗浄処理された炭素質物質は、セメントキルンの燃料として利用可能となる。
洗浄処理は、液(水、ml)/固(炭素質物質、g)比を5〜10、好ましくは10にしてスクリュー攪拌機により行われる。
【0012】
(3)中和工程
本工程は、熱分解工程によって発生したハロゲン含有ガスを、廃ガラスと加熱・反応させ、ハロゲンをアルカリハロゲン化物として中和固定させる工程である。
本発明における中和反応は、廃ガラスを粉砕した後、分級し、アンダー分及びオーバー分の粉砕粒子をそれぞれ流動層式中和器(以下、「流動層」ともいう)及び移動層式中和器(以下、「移動層」ともいう)に分けて充填し、中和反応を行う2段反応方式が採用される。
高効率の中和プロセスを実現するためには、ガラスの粉砕動力を低く抑えつつ、中和反応速度を向上させることが必要である。本発明においては、ガラス粒子径に着目し、粉砕物の粒度分布と粉砕動力を推算すると共に、ガラス中のNa+とハロゲン化水素の中和反応速度をモデル化して単一粒子の反応率を算出し、分級した粉砕物のアンダー分とオーバー分の平均反応率を推算したところ、50質量%径(「平均粒径」ともいう)100μmに粗粉砕した粉砕物を150μmで分級するとアンダー分の平均反応率(24.1%)は、分級しない場合(15.7%)より反応率が遙かに増加することが明らかとなった(実施例1〜2)。また、流動層において150μm未満の微粒子を利用してハロゲン化水素の90%を中和・除去し、移動層において150μm以上の粗粒子を利用して残り10%のハロゲン化水素を中和・除去する2段反応方式とすることにより、流動層及び移動層それぞれの小型化が実現できることを明らかにした(実施例4)。更に、凝集防止剤をガラス表面に付着させた状態でハロゲン含有ガスと反応させることで、ガラス表面に析出した食塩によりガラス同士が凝集し運転のトラブルや反応率の低下を招く事態を効果的に回避できた(実施例3)。
【0013】
従って、本発明において、廃ガラスの粉砕平均粒径は100μm程度、すなわち50〜150μm、好ましくは80〜150μmとされる。
廃ガラスの粉砕には、通常の粉砕方法を用いることができ、例えばジョークラッシャー、ロールミル等で粗粉砕する方法が採用できる。
そして、更に、当該粉砕物を150〜200μm、好ましくは150〜170μm、特に150μmで分級し、アンダー分(微粉砕側)の粒子を流動層に充填し、オーバー分(粗粉砕側)の粒子を移動層に充填するのが好ましい。ガラス粉砕粒子をこのように振り分けて、2段で反応させることにより、粉砕動力を抑えつつ、ハロゲンの除去効率を向上させることができ、中和反応装置を大型化することなくプロセス全体の効率向上を図ることができる。更に、反応後のガラスをセメント原料として利用するためにはナトリウム分の高い除去率が求められることから、流動層から取り出した反応ガラスを空気で熱交換し熱を回収した後、再び20〜60μm、好ましくは20〜40、特に30μmで分級し、アンダー分(平均反応率:52.9%)はガラス洗浄工程へ、オーバー分はガラス粉砕機へ返送する。
尚、ここで用いられる廃ガラスとしては、板ガラス、自動車ガラス等の他、従来、資源として活用が見送られていた色付きガラスであってもよい。
【0014】
中和反応に際しては、予め凝集防止剤をガラス表面に付着させて、ハロゲン含有ガスと反応させることで、ガラス表面に析出する食塩によりガラス同士が凝集することを効果的に抑えることができる。
ここで、凝集防止剤としては、熱分解工程により得られた炭素質物質を用いることができる他、プラスチック若しくはバイオマス類を炭化して得られた炭化物質、活性炭、木炭又はカーボンナノチューブ等が使用できる。
斯かる凝集防止剤の添加時期は、廃ガラスの粉砕前、粉砕時、或いは粉砕後の何れでもよいが、ガラス粉砕機において、ガラスの粉砕と同時に行うことが好ましい。
【0015】
微粒子の流動層は反応率が高いことから、反応率の低い粗粒子の移動層の前段に設けることが好ましく、流動層では、ハロゲン化水素の90%以上を中和・除去されるように反応を行うことが反応装置の小型化に好ましい。
流動層には、加熱装置から発生したハロゲン/水蒸気の混合ガスが導かれる。この際、混合ガス導入部の分散板には後段の移動層における圧力損失及び流動層内の圧力損失の合計約0.17MPaの圧力がかかるため、加熱装置に付属された圧力ポンプで混合ガスを加圧し流動層内に送り込む。流動層に充填された廃ガラスを混合ガスにより0.03m/sで流動化させ、混合ガス中のハロゲンとガラス中のアルカリ金属との中和を行わしめる。
【0016】
廃ガラスの加熱には、ハロゲンとアルカリの中和熱だけではなく、セメントプロセスからの廃熱、反応後の廃ガラスを抜き出し熱交換器で回収した熱を供給すればよい。中和温度の実現に必要な熱が足りない場合には、生成可燃ガス或いは炭素質物質の一部を燃焼することにより得られる反応熱が採用できる。中和反応熱によって高温となったガラス粒子の温度をコントロールするためには、水蒸気を炉下部の側面から導入する方法が採用できる。
【0017】
一定時間(例えば、一時間)滞留し、ハロゲンと反応した高温のガラスは流動層の側面または底面から抜き出し、向流熱交換器によって空気と熱交換し、常温付近まで温度を低下させた後、30μmで分級し、アンダー分はガラス洗浄タンクに貯留されて、オーバー分はガラス粉砕機へ返送される。
【0018】
処理温度は、500〜570℃、好ましくは550℃程度で反応を行わせしめる。アルカリを含有するガラスの軟化点は600℃付近であるため、軟化点を超すと、ガラス粒子同士の焼結が顕著となり、凝集物生成、流動化不良等を起こし、好ましくない。
斯くしてガラスによりハロゲンのほとんどが除去された混合ガスは、流動層と直列に連結している移動層に導入される。
【0019】
反応率の低い粗粒子の移動層では、ハロゲン化水素の残り10%以下が中和・除去されるように反応を行うことが反応装置の小型化に好ましい。
流動層から導かれた混合ガスを移動層の粗粒子が流動化しないように流速0.02m/sで移動層の下部から上部へ粒子と向流に接触させることによって、混合ガス中の残存ハロゲンとガラスとを反応させる。
一定時間(例えば、一時間)滞留し、ハロゲンと反応した高温のガラスは、系外に排出され、向流熱交換器によって空気と熱交換し、常温付近まで温度を低下させた後、テーブルフィーダーにより一定速度で返送用サイロに貯留される。
ハロゲンを完全に除去した可燃ガスは、コンデンサーで冷却されることで、水分は分離され、セメントキルンの燃料となる。コンデンサーで回収した熱は、中和器の熱源として利用できる。
【0020】
中和反応に必要な熱源は、ハロゲンとアルカリの中和熱、セメント製造プロセスからの熱を有する排ガス、熱分解時に生成する可燃ガス或いは炭素質物質の一部を燃焼することにより得られる反応熱、或いは流動層式燃焼炉を設ける場合、流動媒体であるケイ砂等の熱媒体を用いることができ、上記中和反応領域及び/又はこれに隣接する外部領域にこれらを供給すればよい。
【0021】
(4)ガラス洗浄工程
前記中和反応により、ガラス中のアルカリ金属源(例えば、Na2O)は、アルカリハロゲン化物としてガラス表面に析出する。流動層から取り出された反応ガラスの平均反応率(或はアルカリ除去率)は約24%であるが、再び20〜60μmで分級したアンダー分の平均反応率は、約51%と高いため、本工程において、ガラス粒子の表面上に析出したアルカリハロゲン化物が洗浄除去され、アルカリ除去されたシリカ分の高いガラス(シリカ源)が得られる。斯くして得られたシリカ源は、セメント原料として利用可能となる。20〜60μmで分級したオーバー分は、再利用のため粉砕機へ返送される。
洗浄処理は、液(水、ml)/固(ガラス、g)比を5〜10、好ましくは10にしてスクリュー攪拌機により行われる。
【0022】
一方、移動層で利用された反応率の低い粗粒子のガラスは、洗浄処理を行わず、再利用のため、粉砕機へ返送される。
【0023】
以下に、本発明のセメント原燃料化方法を実現するための装置について、ブロック図(図7)を用いて説明する。
1はハロゲン含有廃棄物を加熱分解するための熱分解装置である。当該熱分解装置として、プッシュ炉、スクリュー炉、ロータリーキルン炉等に処理対象を加熱し、ハロゲン化水素を分離しつつ炭素質物質を前方へ送り込むことができる装置を採用する。斯かる装置は、バッチ処理式のものでも連続処理式のものであっても良い。尚、後段に設置された中和器には、圧力損失が生じることが想定されるため、圧力ポンプ19を利用して、予測された中和器の圧力損失まで加圧できる構造とするのが好ましい。
【0024】
加熱装置1の入口側には、ハロゲン含有廃棄物供給装置が設けられている。一方、加熱装置1の排気口は中和器5(流動層)へ連通し、これによりハロゲン含有ガス17は流動層へ導入される。
一方、加熱装置1の出口側には、熱分解により得られた低ハロゲン含有炭素質物質を洗浄処理し、無機金属塩を分離・除去するための炭素質物質洗浄装置2が設けられている。
【0025】
3は、廃ガラスを粉砕するためのガラス粉砕機である。粉砕動力を低く抑えるため、粉砕平均粒径は100μm程度、すなわち50〜150μm、好ましくは80〜150μmとされる。移動層から取り出された150μm以上の粗粒子の反応ガラス27及び流動層から取り出され、30μmで分級されたオーバー分の反応ガラス26は、再利用のため粉砕機へ返送される。また、加熱装置1で得られた炭素質物質18のごく一部は、ガラスの凝集防止剤28として粉砕機へ移送・供給される。
ガラス粉砕機3で粉砕されたガラスは、粗粒子分級機4へ送られ、一定の粒径(150〜200μm、好ましくは150〜170μm)、特に150μmで分級され、アンダー分の微粒子を流動層式中和器5へ、オーバー分の粗粒子を移動層式中和器6へ移動させる。
【0026】
ハロゲン含有ガスの中和固定は、前段に設けた流動層式中和器5と、後段に設けた移動層式中和器6で構成される中和器によって行われる。
中和器は、流動化による微粒子ガラスの飛散・流出を防止するために、流動層のフリーボード部を流動化部の塔径より拡張した構造とするのが好ましい。或いは、流動層内部に微粒子を循環させるサイクロンを採用してもよい。反応後のガラスは流動層下部の側面或は底面に設けた排出口からロータリーバルブを通過し取り出される。
移動層式中和器の構造は、ガラス粒子またはガスの円滑な移動を図るべく、上部から下部に向ってやや太くなるテーパー管を採用することが好ましい。尚、壁面とガラスは凝集防止剤(例えば、熱分解、炭化等で得られた炭素質物質或はカーボンナノチューブ等)でそれぞれライニングと付着させてガラス−壁面、ガラス−ガラスの付着・凝集を防止すればよい。反応後のガラスは反応器の下部に設けたテーブルフィーダーで連続的に取り出される。
【0027】
流動層式5及び移動層式中和器6の出口側には、中和工程において使用された約550℃の反応ガラスから、空気又は水を利用して熱を回収するための熱交換器8を設置することができる。これにより回収された熱は、熱分解装置又は中和器の熱源として利用できる。
【0028】
流動層式中和器5から取り出され、熱交換器によって常温付近まで温度を低下させたガラスは、微粒子分級機24により、30μmで分級されアルカリ除去率が高いアンダー分はガラス表面上に析出したアルカリハロゲン化物を洗浄除去するため、ガラス洗浄装置7へ送られる一方、オーバー分は再利用のためガラス粉砕機3へ返送される。
【0029】
また、熱分解装置1や中和器5及び6への熱源は、セメント製造プロセスからの排ガス及び熱交換熱をそれぞれ廃熱供給路10及び11、回収熱供給路12により供給される。
【実施例】
【0030】
実施例1 粉砕物の粒度分布及び粉砕動力の推算:
1〜2.34mmのガラスを95kWボールミル(φ15 ft×15 ftL)に2t/hrで供給して60分滞留させた実測値からRosin−Rammier分布式を利用して図2のように所定の平均粉砕粒径における粒度分布を推算した。また、粉砕に必要なエネルギーは前述の実測値からRittinger式を利用して図3のように推算した。
【0031】
実施例2 分級した粉砕物の平均反応率の推算:
まず、ガラスと塩化水素の中和反応実験から得られたナトリウムの拡散プロファイル(表1)及び拡散モデル(式1)を利用して水蒸気/塩化水素混合ガス雰囲気におけるナトリウムイオンの拡散係数(3.3×10-162/s)を下記のように求めた。
ガラス粒子を球形であると仮定し、球座標における一次元拡散方程式を考える。
【0032】
【数1】

【0033】
半径Rのガラス球中のNa初期濃度がCi,反応時間t > 0で表面濃度がCw=0に保たれると仮定して式1を解いた。式2に、反応時間t [sec]での半径方向位置r [m]におけるガラス粒子内部のナトリウム濃度分布を示す。
【0034】
【数2】

【0035】
式2をガラス表面で反応時間tについて微分することで、式3に示すガラス粒子1個から拡散するナトリウムの拡散速度を得た。
【0036】
【数3】

【0037】
式3を反応時間t [sec]について0からtまで積分して、式3に示す任意の反応時間までにガラス外部へ拡散するナトリウムの総量を得た。
【0038】
【数4】

【0039】
式4を変形し、式5に半径Rのガラス粒子の反応時間t [sec]におけるナトリウムの反応率を示す。
【0040】
【数5】

【0041】
実験結果(表1参照)に式5をフィッティングすることで、拡散係数を決定した。表1に実験結果及びナトリウムの拡散係数3.3×10-16 [m2/s]を用いて式5から得た推算結果を示す。
次は、上記のように定式化した反応速度モデル(式5)にNaの拡散係数、反応時間、ガラス中のNa量、粒子径を代入すると、表2のように単一粒子の反応率が求められる。
【0042】
最後に、得られた単一粒子の反応率にそれぞれ質量分率(実施例1参照)をかけて所定の粒径までの和をとると表1のように平均反応率が求められる。
【0043】
平均粒径100μmに粗粉砕した粉砕物を1時間塩化水素と中和反応させた場合、その平均反応率は15.6%であるに比べ、粉砕物を150μmで分級すると分級サイズ下(アンダー分)の平均反応率は24%と、分級しない場合より反応率が約54%増加する。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
実施例3 凝集防止剤添加による流動化停止の防止
ハロゲン含有ガスと廃ガラスが反応する際、ガラス表面に析出する食塩により、ガラス同士が凝集し流動化を停止させる問題があった。本発明では、図4に示すように流動化停止を防止するには炭素質物質の添加が効果的であることを明らかにした。
【0047】
凝集防止剤添加による流動化状態を把握するための実験条件を下記に示す。
(1)サンプル:ガラスビーズ(125−150μm)
(2)添加剤
1)活性炭(250−350μm)
2)低温炭化木炭(150−250μm)
3)高温炭化木炭(125μm以下)
4)カーボンナノチューブ
(3)反応温度:550℃
(4)ガス濃度:HCl=1.93、水蒸気=61.5、N2=36.57vol%
(5)空塔速度:0.175 m/s
【0048】
ガラスのみで塩化水素混合ガスと反応させた場合、ガラス同士の凝集により609秒で流動化が停止した。粒径がガラスより大きい活性炭及び低温炭化木炭を10wt%以上添加した場合は、一部の凝集防止剤が飛び出したが、運転を中止した5400秒まで流動化が続けられた。これらの凝集防止剤が、ガラスと同時に流動化しながらガラス同士の接触を妨害することで流動化が維持できたと考えられる。低温炭化木炭及び高温炭化木炭を5wt%添加した場合は、木炭が飛び出したためそれぞれ1800秒及び1000秒程度で流動化停止が起きた。
【0049】
一方、粒子サイズが極端に小さいカーボンナノチューブを1wt%添加した場合、カーボンナノチューブの飛び出しも起こらず、運転を中止した5400秒まで流動化が続けられた。カーボンナノチューブがガラス表面全体に付着されることで食塩によるガラス同士の凝集を防げることが明らかとなった。
以上の結果から、少量の数μm以下の凝集防止剤をガラスに添加・付着させれば、中和器のサイズを大型化することなく、ガラス同士の凝集による反応率低下及び運転トラブルを回避することができる。
【0050】
実施例4 流動層及び移動層の2段反応方式中和器の概念設計
(1)概念設計の前提条件:
1)処理PVC量:100 t/d(可塑剤、安定剤を含有しないと仮定)
2)PVC中のHCl含有率:58.4 wt%
3)処理温度:550℃
4)ガラス中のNa量:0.0043 kmol/kg
5)ガラス密度:2520 kg/m3
6)キャリアガス量(水蒸気):HCl量の10%
7)HCl除去率:流動層=90%、移動層=10%
8)圧力損失:流動層=0.025MPa、移動層=0.045MPa(ゲージ圧)
9)空塔速度:流動層=0.03m/s、移動層=0.02m/s
10)粒子滞留時間:流動層=1hr、移動層=1hr
11)粒子充填率:流動層=0.25、移動層=0.5
12)ガラス粉砕条件:入口の粒子平均経=1.53mm,出口の粒子平均径=100μm
13)粉砕物の分級サイズ:150μm
【0051】
(2)2段反応方式中和器の概念:
粉砕動力を低く抑えるために平均粒径100μm程度に粗粉砕したガラスを150μmで分級し、流動層式中和器では、150μm以下の微粒子を利用して導入された塩化水素の90%を中和・除去する一方、移動層式中和器では、150μm超過の粗粒子を利用して残り10%の塩化水素を中和・除去する2段反応方式の中和器とする。移動層で利用された反応率の低い粗粒子のガラスは、中和に再利用するため、粉砕機へ返送される。
100t/dのPVCを熱分解する際に生成する塩素含有ガスから塩素分を完全に除去するために必要な2段反応方式中和器のサイズは図4のようにそれぞれ流動層塔径5.9m、流動層高3.4m、移動層塔径3.6m、移動層高5.3mとなり装置の小型化が実現できた。
【0052】
比較例1 流動層単段反応方式中和器の概念設計
(1)概念設計の前提条件:
1)処理PVC量:100t/d(可塑剤、安定剤を含有しないと仮定)
2)PVC中のHCl含有率:58.4wt%
3)処理温度:550℃
4)ガラス中のNa量:0.0043kmol/kg
5)ガラス密度:2520kg/m3
6)キャリアガス量(水蒸気):HCl量の10%
7)HCl除去率:100%
8)圧力損失:0.076MPa(ゲージ圧)
9)空塔速度:0.02m/s
10)粒子滞留時間:10hr
11)粒子充填率:0.25
12)ガラス粉砕条件:入口の粒子平均経=1.53mm,出口の粒子平均径=40μm
【0053】
(2)単段中和方式中和器の概念:
ガラスの反応率を向上させるためには粒子を微粉砕する必要があるが、粉砕動力による損失が増加するため、ガラスを採算の取れる範囲である平均粒径40μmまで粉砕し、10時間滞留させるシンプルな流動層の単段反応方式の中和器とする。
100t/dのPVCを熱分解する際に生成する塩素含有ガスから塩素分を完全に除去するために必要な単段反応方式中和器のサイズは、図5のように流動層塔径7.1m、流動層高12mとなり、装置のサイズは比較的に大きい非現実的な結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のセメント原燃料化方法のフロー
【図2】粉砕物の粒径分布を示した図
【図3】平均粒径と粉砕動力の関係を示した図
【図4】凝集防止剤の添加による流動化停止の防止を示した図
【図5】流動層と移動層からなる中和器の概念図
【図6】流動層の単段反応方式中和器の概念図
【図7】本発明のセメント原燃料化装置のブロック図
【符号の説明】
【0055】
1 加熱装置
2 炭素質物質洗浄装置
3 ガラス粉砕機
4 粗粒子分級機
5 流動層式中和器
6 移動層式中和器
7 ガラス洗浄装置
8 熱交換器
9 アルカリ除去ガラス
10 廃熱供給路
11 廃熱供給路
12 回収熱供給路
13 セメント
14 ハロゲン含有廃棄物
15 廃ガラス
16 アルカリハロゲン化物付ガラス
17 ハロゲン含有ガス
18 低ハロゲン含有炭素質物質
19 ポンプ
20 水
21 ハロゲン除去炭素質物質
22 セメント製造装置
23 燃料ガス
24 微粒子分級機
25 30μmアンダーガラス
26 30μmオーバーガラス
27 150μmオーバーガラス
28 ガラス凝集防止用炭素質物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン含有廃棄物と廃ガラスを用い、アルカリ除去されたガラス並びにハロゲン除去された炭素質物質及び可燃ガスをセメント原燃料として回収するセメント原燃料化方法であって、セメント製造プロセスの廃熱を熱源として利用し、ハロゲン含有廃棄物を加熱分解して、低ハロゲン含有炭素質物質及びハロゲン含有ガスを生成させる熱分解工程、該低ハロゲン含有炭素質物質から無機性ハロゲンを除去する炭素質物質洗浄工程、該ハロゲン含有ガスを廃ガラスと加熱・反応させて、ハロゲンをアルカリハロゲン化物として中和固定させる中和工程、及び該アルカリハロゲン化物をガラス表面から除去するガラス洗浄工程を含み、前記中和工程において、廃ガラスを粉砕し、分級してアンダー分及びオーバー分の粉砕粒子をそれぞれ流動層及び移動層に分けて充填し、流動層に続いて移動層にて反応を行うことを特徴とするセメント原燃料化方法。
【請求項2】
廃ガラスを50質量%径が80〜150μmになるように粉砕して用いる請求項1記載の方法。
【請求項3】
粗粉砕した廃ガラス粒子を、150〜170μmで分級し、アンダー分の粉砕粒子を流動層に充填し、オーバー分の粉砕粒子を移動層に充填する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
廃ガラスを粉砕する際に、凝集防止剤を添加する工程を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
凝集防止剤が、請求項1記載の熱分解工程により得られた炭素質物質、プラスチック若しくはバイオマス類を炭化して得られた炭化物質、活性炭、木炭又はカーボンナノチューブである請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
セメント製造プロセスの廃熱を熱源として、熱分解反応領域若しくは中和反応領域及び/又はこれらに隣接する外部領域に供給するものである請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ハロゲン含有廃棄物と廃ガラスを用い、アルカリ除去されたガラス並びにハロゲン除去された炭素質物質及び可燃ガスをセメント原燃料として回収するセメント原燃料化装置であって、セメント製造プロセスの廃熱を熱源として利用するための廃熱供給路、ハロゲン含有廃棄物を加熱分解して、低ハロゲン含有炭素質物質及びハロゲン含有ガスを生成させる熱分解装置、該低ハロゲン含有炭素質物質から無機性ハロゲンを除去する炭素質物質洗浄装置、該ハロゲン含有ガスを廃ガラスと加熱・反応させて、ハロゲンをアルカリハロゲン化物として中和固定するための流動層及び移動層からなる中和器、廃ガラスを粉砕し、中和器へ供給するためのガラス粉砕機及び該アルカリハロゲン化物をガラス表面から除去するガラス洗浄装置を備えたことを特徴とするセメント原燃料化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−50224(P2008−50224A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229642(P2006−229642)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年8月3日 社団法人 日本エネルギー学会発行の「第15回日本エネルギー学会大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】