説明

セメント添加材及びセメント組成物

【課題】 セメント組成物の水和熱を低下させ、かつ流動性を向上させることができ、さらにセメント硬化体からの6価クロムの溶出を低減することができるセメント添加材を提供する。
【解決手段】 CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を還元雰囲気又は可燃性物質共存下で焼成して得られる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、水硬率(H.M.)が0.8〜1.5であるセメント添加材。
CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を焼成後、還元雰囲気又は可燃性物質共存下で冷却して得られる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、水硬率(H.M.)が0.8〜1.5であるセメント添加材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの水和熱を低下させ、かつ流動性を向上させることができ、さらにセメント硬化体からの6価クロムの溶出を低減することができるセメント添加材に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、経済成長、人口の都市部への集中に伴い、産業廃棄物や一般廃棄物等が急増している。従来、これらの廃棄物の大半は、焼却によって十分の一程度に減容化して埋め立て処分されているが、近年、埋め立て処分場の残余容量が逼迫していることから、新しい廃棄物処理方法の確立が緊急課題になっている。この課題に対処するため、セメント産業では、産業廃棄物や一般廃棄物等を原料として、セメントクリンカーを製造することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、産業廃棄物や一般廃棄物等をセメント原料として大量に使用すると、セメント中の3CaO・Al2O3量が増加し、その結果、セメントの水和熱が上昇するという問題がある。また、そのようなセメントと混和剤を用いてモルタルやコンクリートを製造する場合には、モルタルフローやスランプが小さくなり、フローロスやスランプロスが大きくなるという欠点もある。
また、産業廃棄物や一般廃棄物等には、微量のクロムが含まれているものがあり、これらを原料としてセメントクリンカーを製造すると、得られるセメントクリンカー中に6価クロムが含まれることになる。このようなセメントクリンカーを粉砕してセメントとして使用した場合、6価クロムが、水質汚染や土壌汚染等を引き起こす可能性がある。
【特許文献1】特開2005−255456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、セメント組成物の水和熱を低下させ、かつ流動性を向上させることができ、さらにセメント硬化体からの6価クロムの溶出を低減することができるセメント添加材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、水硬率(H.M.)を特定し、還元雰囲気又は可燃性物質共存下で焼成又は冷却した焼成物を粉砕したセメント添加材であれば、セメント組成物の水和熱を低下させ、かつ流動性を向上させることができるうえ、セメント硬化体からの6価クロムの溶出を低減することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を還元雰囲気又は可燃性物質共存下で焼成して得られる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、水硬率(H.M.)が0.8〜1.5であることを特徴とするセメント添加材を提供するものである。
また、本発明は、CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を焼成後、還元雰囲気又は可燃性物質共存下で冷却して得られる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、水硬率(H.M.)が0.8〜1.5であることを特徴とするセメント添加材を提供するものである。
また、本発明は、セメントと、上記セメント添加材とを含有してなるセメント組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント添加材を用いれば、水和熱が低く、かつ流動性が良好なセメント組成物を得ることができる。また、セメント硬化体からの6価クロムの溶出量を低減することができる。
また、本発明のセメント添加材は、産業廃棄物、一般廃棄物等を原料として使用することができるので、廃棄物の有効利用の促進にも貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のセメント添加材の原料としては、一般のポルトランドセメントクリンカー原料、例えば、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料;珪石、粘土等のSiO2原料;粘土等のAl2O3原料;鉄滓、鉄ケーキ等のFe2O3原料を使用することができる。
また、産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とし、これを焼成することにより製造することができる。産業廃棄物としては、例えば生コンスラッジ;下水汚泥、浄水汚泥、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥;建設廃材、コンクリート廃材、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰などが挙げられ;一般廃棄物としては、例えば下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。また、建設発生土としては、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土、さらには廃土壌等が挙げられる。
なお、上記原料のうち、粘土、鉄滓、産業廃棄物、一般廃棄物、建設発生土にはクロムが含まれるものがある。
【0009】
これらの原料を、水硬率(H.M.)が好ましくは0.8〜1.5、より好ましくは0.9〜1.45、特に好ましくは1.0〜1.4になるよう混合した後、還元雰囲気又は可燃性物質共存下で焼成するか、還元雰囲気又は可燃性物質共存下で冷却することにより、焼成物を製造する。
水硬率(H.M.)が0.8未満では、セメント組成物の強度発現性が低下するので好ましくない。また、セメント硬化体からの6価クロムの溶出量を低減する効果も低下する。一方、水硬率(H.M.)が1.5を超えると、セメント組成物の水和熱を低くすることが困難となる。
焼成温度が低い、あるいは、焼成時間が短いと、CaOがSiO2やAl2O3等と反応せず、焼成物中に遊離石灰として多量に残存する場合がある。遊離石灰が多い焼成物の粉砕物を普通ポルトランドセメントに混合し、コンクリート構造物に使用すると、遊離石灰が膨張してコンクリート構造物を破壊したり、減水剤等の混和剤の作用を阻害して流動性を悪化させる場合がある。そのため、焼成物中の遊離石灰量が1.0質量%以下になるように焼成温度、焼成時間を調整する必要がある。遊離石灰量を1.0質量%以下にするための焼成温度、焼成時間は、焼成物の組成や粒度にもよるが、それぞれ1000〜1400℃、10〜120分間である。
【0010】
各原料を混合する方法は特に制限されず、慣用の装置等を用いて行うことができる。
また、焼成に使用する装置も特に制限されず、例えばロータリーキルンや電気炉等を用いることができる。ロータリーキルンで焼成する際には、燃料代替廃棄物、例えば廃油、廃タイヤ、廃プラスチック等を使用することができる。
【0011】
本発明において、還元雰囲気下で焼成する方法としては、例えば、焼成に使用する装置(電気炉等)内を一酸化炭素ガス等で置換した後、焼成する方法等が挙げられる。
【0012】
可燃性物質共存下で焼成する方法としては、例えば、焼成に使用する装置(ロータリーキルンや電気炉等)内に、可燃性物質(コークス、活性炭、廃木材、廃ブラスチック、重油スラッジ、都市ゴミ等の廃棄物を圧縮・固形化した廃棄物固形塊等)を供給する方法等が挙げられる。焼成に使用する装置としてロータリーキルンを使用する場合、可燃性物質は、プレヒーター側、ロータリーキルンの出口側や、ロータリーキルンの途中から供給することができるが、本発明では、ロータリーキルン内で最も高温になる位置よりロータリーキルンの出口までの途中で可燃性物質を供給することが好ましい。
この場合に用いる可燃性物質はロータリーキルン用の主燃料に比べて燃焼速度の遅いもの、あるいは主燃料と同様の燃焼速度を有しかつ主燃料よりも粗い粒の可燃性物質が使用される。
可燃性物質は、焼成物1ton当たり、5〜40kg使用することが好ましく、10〜40kg使用することがより好ましく、12〜40kg使用することが特に好ましい。可燃性物質の量が5kg未満では、セメント硬化体からの6価クロムの溶出量を低減する効果が低下する。一方、可燃性物質の量が40kgを超えると、焼成物中に未燃焼状態の可燃性物質が多量に残存して、セメント添加材の色調等に影響を及ぼす場合がある。
可燃性物質は、粒径が0.1〜5mmのものを使用するのが好ましい。可燃性物質の粒径が小さいと、焼成中の極初期で燃えきってしまうためセメント質硬化体からの6価クロムの溶出量を低減する効果が低下する。一方、粒径が大きいと焼成物中に未燃焼状態の可燃性物質が多量に残存する。
なお、可燃性物質は、原料に混合して用いても良い。この場合、可燃性物質は未燃焼状態で残存しない範囲であれば混合量は多い方が好ましく、粒径も大きいものを使用することができる。
【0013】
可燃性物質共存下で冷却する方法としては、例えば、焼成装置に接続されている冷却器(例えば、セメントクリンカー製造プラントにおけるクリンカークーラー等)内に、可燃性物質(コークス、活性炭、廃木材、廃ブラスチック、重油スラッジ、都市ゴミ等の廃棄物を圧縮・固形化した廃棄物固形塊等)を供給する方法等が挙げられる。この場合、可燃性物質は、クリンカークーラー入り口等焼成物の温度が1000℃以上の位置に供給することが好ましい。温度が低い場合は、セメント質硬化体からの6価クロムの溶出量を低減する効果が低下し、焼成物中に未燃焼状態の可燃性物質が多量に残存する。
なお、可燃性物質は冷却の初期の段階で効果を発揮すればよいので、粒径が小さい可燃性物質を使用することができる。
【0014】
本発明のセメント添加材は、1)上記焼成物を粉砕してなるセメント添加材、2)前記粉砕物100質量部に石膏をSO3換算で6質量部以下含有するセメント添加材、である。
【0015】
焼成物の粉砕方法は特に制限されず、例えばボールミル等を用い、通常の方法で粉砕することができる。焼成物の粉砕物は、ブレーン比表面積が2500〜5000cm2/gであるのが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
【0016】
焼成物の粉砕物と石膏を含有する上記2)のセメント添加材は、焼成物の粉砕物と石膏を混合して製造してもよいし、焼成物と石膏を同時粉砕して製造してもよい。前者の場合、用いる石膏は、ブレーン比表面積が3000〜8000cm2/gであるのが、モルタルやコンクリートの流動性や、強度発現性の観点から好ましい。後者の場合は、セメント添加材のブレーン比表面積が2500〜5000cm2/gであるのが、モルタルやコンクリートのブリーディングの低減や、流動性、強度発現性の観点から好ましい。
なお、石膏としては、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明のセメント添加材の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント添加材からなるセメント組成物100質量部中、1〜30質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。1質量部未満では、水和熱を低くする効果やセメント硬化体からの6価クロムの溶出量を低減する効果が低下する場合があり、30質量部を超えると、強度発現性が低下する場合がある。
【0018】
本発明のセメント組成物とは、JIS R 5210に規定される各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、あるいはJIS R 5213に規定される各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混合率にて製造した高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント並びにアルミナセメント等のうちの1種又は2種以上と本発明のセメント添加材とを併用したものである。
【0019】
本発明では、本発明のセメント添加材及びセメント組成物に、砂、砂利等の骨材の他に、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、膨張材、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、セメント急硬材、ベントナイトやゼオライト等の粘土鉱物、ハイドロタルサイト等のイオン交換体等のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0020】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、パン型ミキサ、二軸ミキサ、V型ミキサ及びナウタミキサ等の使用が可能である。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0022】
実施例1
(1)焼成物の製造:
原料として、下水汚泥、建設発生土、石灰石等のポルトランドセメントクリンカー原料を用い、水硬率(H.M.)が1.35及び1.0となるよう、原料を調合した。調合原料を、ロータリーキルンを用いて、1)ロータリーキルン内で最も高温になる位置よりロータリーキルンの出口までの途中で可燃性物質(コークス(粒径0.1〜5mm))を焼成物1ton当たり15kg供給しながら焼成、2)可燃性物質を供給しないで焼成して、焼成物を製造した。焼成温度は1350℃で焼成時間は30分間である。
なお、焼成物中の遊離石灰量は0.1〜0.2質量%であった。
【0023】
(2)セメント添加材の製造:
上記各焼成物をブレーン比表面積が3300cm2/gに粉砕した。該粉砕物100質量部に2水石膏(ブレーン比表面積3600cm2/g)をSO3換算で2質量部含有させたセメント添加材を製造した。
【0024】
(3)セメント組成物の製造:
上記セメント添加材を、試製普通ポルトランドセメント(6価クロム含有量を高めたもの)と混合してセメント組成物を製造した。表1に、試製普通ポルトランドセメントの鉱物組成とセメント協会法1-51に記載された方法で測定した6価クロム含有量を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(4)試験:
上記セメント組成物を使用して、以下の試験を行った。
(a)水和熱
JIS R 5203に従って測定した。
(b)モルタルフロー
W/C=0.35、S/C=2、セメント組成物に対して0.8質量%のポリカルボン酸系高性能AE減水剤を混合したものを、5分間混練したモルタルについて、JIS R 5201-1997に規定されているフローコーンを用い、JIS R 5201に従って、モルタルフローを測定した。
(c)モルタル圧縮強さ
7日及び28日後のモルタル圧縮強さを、JIS R 5201に従って測定した。
(d)6価クロム溶出量
上記モルタル圧縮強さ試験用供施体(材齢28日)の6価クロム溶出量を環境庁告示第46号に従って測定した
その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、本発明のセメント添加材を含むセメント組成物では、水和熱が低く、かつ流動性が良好であることがわかる。また、セメント硬化体からの6価クロムの溶出量を低減できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を還元雰囲気又は可燃性物質共存下で焼成して得られる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、水硬率(H.M.)が0.8〜1.5であることを特徴とするセメント添加材。
【請求項2】
CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を焼成後、還元雰囲気又は可燃性物質共存下で冷却して得られる焼成物を粉砕してなるセメント添加材であって、水硬率(H.M.)が0.8〜1.5であることを特徴とするセメント添加材。
【請求項3】
産業廃棄物、一般廃棄物及び建設発生土から選ばれる1種以上を原料とする請求項1又は2に記載のセメント添加材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のセメント添加材100質量部に対して、石膏をSO3換算で6質量部以下含有するセメント添加材。
【請求項5】
セメントと、請求項1〜4のいずれか1項記載のセメント添加材とを含有してなるセメント組成物。

【公開番号】特開2007−331976(P2007−331976A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165481(P2006−165481)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】