説明

セメント組成物、セメントコンクリート硬化体、及びセメントコンクリート硬化体の製造方法

【課題】流動性が良好で、ひび割れ抵抗性の高いセメント組成物、セメントコンクリート硬化体、及びセメントコンクリート硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミナセメントとCaO−Al−SiO化合物と遅延剤とを含有するセメント組成物であり、前記遅延剤が、アルカリ炭酸塩、オキシカルボン酸、及びオキシカルボン酸塩の中から選ばれる少なくとも1種である前記セメント組成物であり、骨材を含有してなる前記セメント組成物である。さらに、前記セメント組成物に水を加え混練後、養生をしたセメントコンクリート硬化体であり、前記セメント組成物に水を加え混練後、35℃以上で加温養生するセメントコンクリート硬化体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野で使用されるセメント組成物、セメントコンクリート硬化体、及びセメントコンクリート硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物は、硫酸イオンや塩化物イオンが外部から浸透すると劣化するため、硫酸イオンとの反応性が低く、塩化物イオンが浸透しづらいアルミナセメントやスラグを含むモルタル、コンクリートが検討されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−62946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、アルミナセメントやスラグを用いても、コンクリートにひび割れが生じると塩化物イオンや硫酸イオンがコンクリート中に浸透し、鉄筋やコンクリートを劣化させるため、本発明は、流動性が良好で、ひび割れ抵抗性の高いセメント組成物、セメントコンクリート硬化体、及びセメントコンクリート硬化体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、(1)アルミナセメントとCaO−Al−SiO化合物と遅延剤とを含有するセメント組成物、(2)遅延剤が、アルカリ炭酸塩、オキシカルボン酸、及びオキシカルボン酸塩の中から選ばれる少なくとも1種である(1)のセメント組成物、(3)さらに、骨材を含有してなる(1)又は(2)のセメント組成物、(4)(1)〜(3)のいずれかのセメント組成物に水を加え混練後、養生をしたセメントコンクリート硬化体、(5)(1)〜(3)のいずれかのセメント組成物に水を加え混練後、35℃以上で加温養生するセメントコンクリート硬化体の製造方法、である。
【発明の効果】
【0005】
本発明のセメント組成物、セメントコンクリート硬化体、及びセメントコンクリート硬化体の製造方法は、流動性が良好で、セメントコンクリート硬化体に膨張性を付与し乾燥収縮等によるひび割れを低減しひび割れ抵抗性を向上させるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で使用する部や%は、特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明で云うセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、及びコンクリートを総称するものである。
【0007】
本発明に使用するアルミナセメントは、特に限定されるものではなく、CaO、Alを主成分とするものであれば良く、例えば、市販品を使用することができる。市販品では電気化学工業株式会社製の「アルミナセメント1号」、「アルミナセメント2号」、「ハイアルミナセメント」、ラファージュ社製「セカール71」、「セカール80」等を使用することができる。
【0008】
本発明に使用するCaO−Al−SiO化合物とは、化学成分としてCaO、Al、SiOを主成分とするものである。
CaO−Al−SiO化合物は、CaO原料として生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH))、石灰石(CaCO)、Al原料としてアルミナ、ボーキサイト、ダイアスポア、長石、粘土、SiO原料としてケイ石、ケイ砂、石英、ケイ藻土等を使用し、これら原料を所定の割合で配合した後、ロータリーキルンや電気炉、高周波炉で溶融し、急冷却してガラス化することによって製造される。経済性の面から、CaO−Al−SiO化合物として高炉水砕スラグを使用することも可能であり、高炉水砕スラグや高炉徐冷スラグ、二次精錬スラグ等の成分を調整して製造することも可能である。
各成分の配合割合は、CaOが35〜55部、Alが10〜30部、SiOが20〜40部を含有することが好ましい。この範囲外ではセメントコンクリート硬化体に充分に膨張性を付与できない場合がある。また、原料中にはMgO、Fe、TiO、ZrO等の不純物が含有される場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば構わない。
ガラス化率は50%以上が好ましい。ガラス化率が50%未満ではセメントコンクリート硬化体に充分な膨張性を付与できない場合がある。ガラス化率の測定方法は、下記に示すX線回折リートベルト法によって行った。粉砕した試料に酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの内部標準物質を所定量添加し、めのう乳鉢で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施する。測定結果を定量ソフトで解析し、ガラス化率を求める。定量ソフトには、Sietronics社製の「SIROQUANT」などを用いることができる。
【0009】
本発明に使用するアルミナセメントやCaO−Al−SiO化合物の粉末度は、ブレーン比表面積で1000〜6000cm/gが好ましく、2000〜5000cm/gがより好ましい。1000cm/g未満では水和活性が不充分で強度や膨張が不足する場合があり、6000cm/g以上では粉砕動力がかかりすぎて不経済になる場合がある。
【0010】
本発明において、アルミナセメントとCaO−Al−SiO化合物の配合割合は、特に限定されるものではないが、アルミナセメントとCaO−Al−SiO化合物の合計100部に対して、アルミナセメントは40部〜80部が好ましい。この範囲外ではセメントコンクリート硬化体に充分に膨張性を付与できない場合がある。
【0011】
本発明に使用する遅延剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩や、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、及びコハク酸等のオキシカルボン酸、また、それらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、及びアルミニウム等の塩等が挙げられる。本発明ではこれらのうちの少なくとも1種を用いる必要がある。特に、アルカリ金属炭酸塩とオキシカルボン酸の併用や、オキシカルボン酸の金属塩の使用など、遅延剤中に金属塩を含ませることが好ましい。金属塩を含まないと膨張性や硬化性状に影響する場合がある。
遅延剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメント組成物100部に対して、0.05〜1部が好ましく、0.3〜0.5部がより好ましい。0.05部未満では流動性の保持時間が充分でない場合や、加温養生を行うタイミングが遅れた場合に膨張性が充分でない場合があり、1部を超えると強度発現性が充分でない場合がある。
【0012】
本発明では、次のような条件で加温養生することによって、セメントコンクリート硬化体に充分に膨張性を付与できる。加温養生方法は蒸気養生でも良いしオートクレーブ養生でも良い。養生温度は35℃以上が好ましく、35〜80℃がより好ましく、50〜65℃がさらに好ましい。養生温度が前記範囲外では膨張量が小さくなるため好ましくない。
【0013】
本発明のセメント組成物に使用する水の量は、特に限定されるものではなく、練り混ぜできる範囲で調整することができる。通常、水/セメント組成物比で15〜60%が好ましく、30〜50%がより好ましい。15%未満では流動性を確保することが難しい場合があり、60%を超えると材料分離を生じる場合がある。
【0014】
本発明のセメント組成物に、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、ポリマ−、収縮低減剤、ベントナイト等の粘土鉱物及びハイドロタルサイト等のアニオン交換体、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維等の繊維状物質のうちの少なくとも1種を本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0015】
本発明における各材料の混合方法は、特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめその一部あるいは全部を混合しておいても差し支えない。混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、ナウターミキサ等が挙げられる。
【0016】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
「実施例1」
アルミナセメント50部とCaO−Al−SiO化合物50部の合計100部に対し、遅延剤を0.5部配合し、水/(アルミナセメント+CaO−Al−SiO化合物)を40%としたペースト組成物を20℃環境下で練り混ぜた。このペースト組成物をJIS A 6202に準じて膨張量測定用の供試体として成型し、表1に示す前置時間を確保した後、昇温速度15℃/hr、最高温度65℃、最高温度での保持時間5hrの条件で蒸気養生した硬化体について、材齢1日で脱型して測定した拘束膨張量の結果を表1に示す。なお、遅延剤を加えないものを比較例とした。ここで、前置時間とはペースト組成物を練り混ぜた時間から蒸気養生を始めるまでの時間を云う。
【0018】
「使用材料」
アルミナセメント:デンカアルミナセメント1号(電気化学工業社製)、密度3.00g/cm
CaO−Al−SiO化合物:高炉水砕スラグ(新日鉄高炉セメント社製)、CaO:40.6%、Al:14.8%、SiO:33.1%、MgO:6.7%、Fe:1.0%、ガラス化率95%、ブレーン比表面積4,500cm/g、密度2.91g/cm
遅延剤イ:炭酸カリウム70部、クエン酸25部、酒石酸5部の混合物
水:水道水
【0019】
「測定方法」
拘束膨張量:JIS A 6202に準拠した。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から、本発明のセメント組成物は、遅延剤を添加することにより、良好な膨張性を付与できることが分かる。
【0022】
「実施例2」
アルミナセメント50部とCaO−Al−SiO化合物50部の合計100部に対し、遅延剤0.5部、砂150部を配合し、水/(アルミナセメント+CaO−Al−SiO化合物)比を40%としたモルタル組成物を20℃環境下で練り混ぜた。このモルタル組成物の流動性を評価した結果を表2に示す。また、このモルタル組成物について、前置時間を10hr確保した後、昇温速度15℃/hr、最高温度65℃、最高温度での保持時間5hrの条件で蒸気養生し、実施例1と同様の方法で膨張量測定用の供試体を作製した。材齢1日で脱型して拘束膨張量を測定した後、20℃、60%RH室内で養生したときの拘束膨張量を測定した結果を表2に示す。
【0023】
「使用材料」
砂:8号珪砂、市販品
【0024】
「測定方法」
流動性:JIS R 5201フロー試験に準拠、フローコーンを引き上げた時の静置フローを測定。
【0025】
【表2】

【0026】
表2より、本発明のセメント組成物は、遅延剤を添加することでより長い時間、流動性を確保できることが分かる。また、遅延剤を添加することで乾燥に伴う収縮を抑制できることが分かる。
【0027】
「実施例3」
前置時間を8時間とし、遅延剤の種類を変えたこと以外は実施例1と同様に行なった。結果を表3に示す。なお、遅延剤ハを0.5部添加した場合、前置き時間8hrでは硬化(凝結)しなかった。
【0028】
「使用材料」
遅延剤ロ:クエン酸ナトリウム、市販品
遅延剤ハ:クエン酸、市販品
【0029】
【表3】

【0030】
表3から、本発明のセメント組成物は、良好な膨張性を付与することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のセメント組成物、セメントコンクリート硬化体、及びセメントコンクリート硬化体の製造方法は、流動性が良好で、セメントコンクリート硬化体に膨張性を付与し乾燥収縮等によるひび割れを低減しひび割れ抵抗性を向上させるなどの効果を奏するので、土木・建築分野で幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントとCaO−Al−SiO化合物と遅延剤とを含有するセメント組成物。
【請求項2】
遅延剤が、アルカリ炭酸塩、オキシカルボン酸、及びオキシカルボン酸塩の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
さらに、骨材を含有してなる請求項1又は2記載のセメント組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のセメント組成物に水を加え混練後、養生をしたセメントコンクリート硬化体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載のセメント組成物に水を加え混練後、35℃以上で加温養生するセメントコンクリート硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2008−201628(P2008−201628A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40278(P2007−40278)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】