説明

セメント組成物

【課題】 コンクリート構造物の鉄筋、鋼構造物の防食に好適なセメント組成物を提供する。
【解決手段】 セメント組成物において、セメント、炭素粒子、および亜鉛粒子を含有し、セメントがアルミナ含有率が20質量%以上の急硬性セメントであることを特徴とするセメント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物中の鉄筋等の鋼材の電気防食に関し、特にコンクリート構造物の補修等に好適なセメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中の鉄筋等の鋼材は、コンクリート中のアルカリ性環境では通常は腐食は進行しない。しかし、沿岸部に位置するコンクリート構造物や凍結防止用に散布された塩化カルシウム、食塩等のハロゲン化物を含有した水に接触する構造物においては、ハロゲン化物がコンクリート中に浸入して、鉄筋の腐食が生じることがある。
【0003】
鉄筋が腐食すると、生成した鉄の水酸化物等によって体積が膨脹して、周囲のコンクリートに応力が作用してコンクリートのひび割れが生じる。コンクリートに生じたひび割れによって、さらに海水等のハロゲン化物を含有した水が浸入して鉄筋の腐食が進行することがあった。コンクリート構造物の鉄筋の腐食が進行するとコンクリート構造物の一部の落下等の重大な問題が生じる危険性がある。コンクリート中の鉄筋、鋼構造物の鋼材の腐食を防止してコンクリートあるいは鋼構造物の性能を長期にわたり維持することが不可欠である。
【0004】
コンクリート構造物において、鉄筋等の腐食が進行してコンクリートのひび割れが生じたり、あるいは鋼材との間に浮きが生じた場合には、該当箇所を取り除き、重量比で60〜95%という大量の金属粉を含有したセメント組成物からなる防蝕材を充填して、亜鉛粉末等の金属粉末を犠牲陽極として鋼材の防蝕を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところが、大量の金属粉末の混合は、セメント組成物の質量を大きくするので、施工部分が限定されたり、構造物の強度上の問題が発生する可能性があった。
そこで、本出願人は、セメント組成物中に、炭素粒子を混合することによって、亜鉛含有量を少なくしても同様の防蝕性能が得られるセメント組成物を提案している(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、亜鉛粉末を含有したセメント組成物をコンクリート構造物の補修に使用した場合に、コンクリート構造物中の鉄筋等の付着性が悪化したり、あるいは補修箇所のひび割れ、膨れ等によって長期にわたり充分な性能が保持できないこともあった。
【特許文献1】特開平6−345512号公報
【特許文献2】特開2005−146319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コンクリート構造物中の鉄筋、あるいは鋼材等を防食する犠牲陽極として作用する金属成分を含有したセメント組成物において、基材のコンクリート、鉄筋あるいは鋼材等への付着性が良好で、長期にわたり電気防食作用を維持し、またコンクリート構造物の特性の保持が可能なセメント組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、セメント組成物において、セメント、炭素粒子、および亜鉛粒子を含有し、セメントがアルミナ含有率が20質量%以上の急硬性セメントであるセメント組成物によって解決することができる。
また、組成物100重量部に対して、セメント20〜60重量部、炭素粒子10〜30重量部、亜鉛粒子20〜50重量部である前記のセメント組成物である。
細骨材を含有する前記のセメント組成物である。
また、組成物100重量部に対して、セメント20〜60重量部、炭素粒子10〜30重量部、亜鉛粒子20〜50重量部、細骨材10〜30重量部である前記のセメント組成物である。
セメントが内割で、50質量%までの高炉スラグ微粉末、またはフライアッシュを含有する前記のセメント組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセメント組成物は、セメントとして、アルミナ含有率が20質量%以上の急硬性セメントを使用したセメント組成物であるので、水との混練後には直ちに水素発生をすることはなく、しかも水素発生が始まる時点では硬化が進行しているために発生する水素によって膨張等が生じないので、セメント組成物を水と混練して施工した際には、コンクリート中の鉄筋、鋼構造物との付着性が良好であり、防食特性が良好なセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、従来の防食用のセメント組成物の特性について検討した結果、セメント組成物を水と混合すると強いアルカリ性を示すために、犠牲陽極として作用する亜鉛粒子は、アルカリによって溶解して水素を発生し、このために充填したセメント組成物が膨張したり、あるいは充填箇所の鋼材やコンクリートと密着しないという現象が生じることがあり、壁面や天井部では充分な強度が保持できないことがあることを見いだしたものである。
【0010】
亜鉛粒子を配合したセメント組成物を水と混練した際の水素発生を詳細に検討したところ、普通ポルトランドセメントでは、水との混練によって水素の発生が始まり、その後も継続して水素を発生するので、薄膜状に施工した場合にはそれほど大きな問題を生じないが、水と混練した組成物をコンクリート構造物の穴に充填した場合には、発生した水素に起因して膨張が生じて、気泡を多く含んだ強度が充分ではない硬化物が形成される。
【0011】
これに対して、アルミナの含有量が20質量%以上である急硬性セメントの場合には、水と混練した当初は水素発生は全くないか、あるいは水素の発生量はごくわずかであって、しばらく経過して水素の発生が始まることを見いだしたものである。
水素発生反応が直ちに始まらない理由は定かではないが、アルミナの含有量が20質量%以上である急硬性セメントにあっては、pHが低いことが、亜鉛粒子との反応を遅くしているものと考えられる。
【0012】
そこで、水との混合によって直ちに水素発生することがなく、早期に硬化して強度が発現するアルミナの含有量が20質量%以上である急硬性セメントを用いると、水素の発生量が多くなる前にセメント組成物を所望の形状で速やかに硬化させることができるので、水素発生によって膨張等が生じることがないセメント組成物を提供することが可能であることを見いだしたものである。
【0013】
本発明のセメント組成物において使用するアルミナの含有量が20質量%以上である急硬性セメントとしては、一般にアルミナセメントとして販売されているものを挙げることができる。アルミナセメントの代表的な組成を示すと、アルミナ:53.0質量%、酸化カルシウム:36.8質量%、二酸化ケイ素:5.2質量%、酸化第二鉄:1.8質量%のものを挙げることができる。
また、アルミナセメントは、そのまま使用しても良いが、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等の混和材を配合して硬化特性等をはじめとするセメントの特性を調整することができる。高炉スラグ微粉末およびフライアッシュは、セメント混和材として一般に使用されているものを用いることができる。これらの混和材は、内割で50質量%までの量を含有することができる。
【0014】
本発明のセメント組成物に配合する亜鉛粒子は、50質量%以下とし、炭素粒子は10質量%以上、残部をアルミナ成分が20質量%以上の急硬性セメントを配合することができる。これによって、亜鉛粒子の含有量を少なくしても、鋼の表面から離れた位置に存在する亜鉛粒子も炭素粒子の電子伝導作用によって、防食対象の鋼材の電位を所定の電位に保持する作用を発揮するものと考えられる。
【0015】
本発明のセメント組成物において、亜鉛粒子の配合量は、20質量%ないし50質量%とすることができ、炭素粒子の配合量は、10質量%ないし30質量%とすることが好ましく、亜鉛粒子と炭素粒子の合計配合量は、60質量%以下であることが好ましい。
亜鉛粒子の配合量が多くなると防食対象に対して与える防食電位の面では好ましい結果が得られるが、硬化後のセメント組成物の質量増加、強度の低下等の問題があり、同様に炭素粒子の配合量の増加は、電子伝導性の増大に寄与するが、亜鉛粒子の場合と同様に、硬化後のセメント組成物の強度に影響を及ぼすので、これらの配合量は、セメント組成物の硬化後に要求される強度、防食対象に与える防食電位等を考慮して決定することが好ましい。
【0016】
亜鉛粒子としては、砂状亜鉛、粉末状亜鉛を使用することができ、炭素粒子としては、黒鉛、あるいは導電性が大きなカーボンブラックを用いることができる。
【0017】
また、本発明のセメント組成物中には、細骨材を配合してもよい。本発明において細骨材は、JIS A0203のコンクリート用語で定義されているものを意味し、10mm網ふるい全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上が通る骨材である。
細骨材としては、ケイ砂すなわち砂、あるいは砕石、石灰石、高炉スラグ等の粉砕物を挙げることができる。これらの細骨材は一般的な骨材としての機能のみではなく、細骨材を配合しないものに比べて電気導電性が良好なものとなり、また防食特性の面でも充分な防食電位を得ることができる。
【0018】
本来、導電性を有さないケイ砂等の細骨材の配合によって、これらを配合しないものに比べて電気導電性が良好なものとなる理由は不明であるが、細骨材によって硬化物中に微細な空隙が生じ、混練に使用した水が空隙中に保持されて導電性が向上するものと考えられる。
細骨材の配合量は、10質量%〜30質量%とすることが好ましい。
以下に実施例を示して本発明を説明する。
【実施例】
【0019】
実施例1
図1に示すように、アクリル樹脂製の透明容器1に、セメント:亜鉛粒子:黒鉛粉末:水=50g:35g:15g:35gの配合量で、アルミナセメント(ラファージュ製:ターナルHR アルミナ含有量53質量%)、亜鉛粒子(東邦亜鉛工業製:AN−200)、黒鉛粉末(和光純薬工業製 試薬特級)を配合して混練した混練物2を充填し、25℃の水を満たした恒温槽3に浸漬して、発生する気体を水中置換によってメスシリンダー4中に集め、時間の経過により発生する水素の量を測定したところ、実験開始から300分までは、水素は発生せず、水素発生量が500mLに達するまでには、1500分を要した。
また、図2に示すように、水素の発生量は滑らかに上昇したので、セメント組成物中に封入されていた水素が急激に発生したものではなく、しばらく経過して反応が進行した後に水素が発生したものと考えられる。
【0020】
実施例2
一方、鉄の存在による水素発生への影響を確認するために、純度99.5質量%の直径1mmの鉄線の40cmを、10cmを残して螺旋状に巻き、螺旋状部を実施例1の配合量で調製した組成物中に浸漬した点を除き、実施例1と同様にして水素発生量を測定したところ、実験開始から500分までは、水素は発生せず、水素の発生量が500mLに達するまでに、1900分を要した。
鉄の存在の有無によるセメント組成物からの水素発生状況には大差が無かった。
【0021】
比較例1
アルミナセメントを普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント製)に変えた点を除き実施例1と同様に、水素発生量を測定したところ、実験開始と同時に水素が発生した。発生量の変化を図2に示す。
これらの試験結果から、アルミナセメントのようにアルミナ含有量が40質量%以上である急硬性セメントを、亜鉛粒子、炭素粒子と配合した組成物にあっては、水と混練した直後の水素発生がなく、水素発生時には硬化が進んでいるので、水素の発生によって膨張あるいは破壊することがなく、防食用組成物としての機能を充分に発揮することができる。
【0022】
実施例3
亜鉛粒子(東邦亜鉛工業製:AN−200)、黒鉛粉末(和光純薬工業製 試薬特級)、セメント:アルミナセメント(ラファージュ製:ターナルHR)に内割で20質量%の高炉スラグ微粉末(ディシィ興産製ファインセラメント)、ケイ砂(日瓢鉱業株式会社N50 5号硅砂)を表1に示す質量比で配合した組成物をJIS−R5201に基づき、40mm×40mm×160mmの試験体1−1ないし1−4を作製し、24時間の養生を行った後に脱型し、それぞれ7日、28日間、20℃水中養生した後に、曲げ強度と圧縮強度を測定し、その結果を表1に示す。
【0023】
比較例2
アルミナセメントを普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント製)に変えた点を除き実施例3と同様に比較1及び2の試験体を作製し、曲げ強度と圧縮強度を測定し、その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
以上の試験結果から、本発明のセメント組成物から得られる硬化物は構造材として要求される強度が得られるものであることがわかった。
【0026】
実施例4
実施例3と同様に作製した試験体2−1ないし2−4を、ポリエチレンの袋内で7日間、28日間の封緘養生を行った後に電気抵抗を測定して表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
これらの結果から、アルミナを含有する急硬性セメントの含有量が多い硬化物は、セメントの含有量が少ない硬化物に比べて電気抵抗が大きく、また、細骨材を混合すると電気抵抗が減少することを示している。細骨材の混合によって空隙が形成される結果、電気抵抗が低下するものと考えられる。
【0029】
実施例5
表3に記載の亜鉛粒子(東邦亜鉛工業製:AN−200)、黒鉛粉末(和光純薬工業製 試薬特級)、セメント:アルミナセメント(ラファージュ製:ターナルHR)に内割で20質量%の高炉スラグ微粉末(ディシィ興産製ファインセラメント)、ケイ砂(日瓢鉱業株式会社N50 5号硅砂)および水を配合した組成物によって試験体3−1および3−2を調製した。
【0030】
【表3】

【0031】
図3に示すように、電位測定用の3個の試験体5を作製した。試験体5は、直径19mmの棒鋼6を、調製した組成物7によって直径50mm、高さ50mmの円柱状に被覆し、棒鋼の底面はエポキシ樹脂で被覆し、セメント組成物の上部15mmが液体中に浸漬されるように、試験槽8内の3質量%食塩水9中に浸漬した。
【0032】
参照電極10として、飽和塩化カリウム銀塩化銀電極を用いて、塩橋11で試験槽8と接続して電位差計12によって鋼材の電位変化を測定した。
測定結果を図4に示す。試験期間中の電位は防食電位に維持できた。また、浸漬液中に露出した部分の鋼材の腐食状況を確認したところ、いずれの試験体にも錆の発生はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のセメント組成物は、コンクリート構造物中の鉄筋、鋼構造物の防食材として好適であり、特に施工後には水素の発生に起因する膨張がないので、防食対象の鉄筋、鋼材等との付着性が良好であり、また、壁面、天井面等のような個所に施工した場合にも充分な強度を有するものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、セメント組成物から発生する水素の量を測定する装置を説明する図である。
【図2】図2は、セメント組成物から発生する水素の量の変化を説明する図である。
【図3】図3は、本発明のセメント組成物を適用した試験体の電位変化の測定方法を説明する図である。
【図4】図4は、本発明のセメント組成物を適用した試験体の電位変化の測定結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0035】
1…透明容器、2…混練物、3…恒温槽、4…メスシリンダー、5…試験体、6…棒鋼、7…調製した組成物、8…試験槽、9…食塩水、10…参照電極、11…塩橋、12…電位差計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物において、セメント、炭素粒子、および亜鉛粒子を含有し、セメントがアルミナ含有率が20質量%以上の急硬性セメントであることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
組成物100重量部に対して、セメント20〜60重量部、炭素粒子10〜30重量部、亜鉛粒子20〜50重量部であることを特徴とする請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
細骨材を含有することを特徴とする請求項1記載のセメント組成物。
【請求項4】
組成物中100重量部に対して、セメント20〜60重量部、炭素粒子10〜30重量部、亜鉛粒子20〜50重量部、細骨材10〜30重量部であることを特徴とする請求項3記載のセメント組成物。
【請求項5】
セメントが内割で、50質量%までの高炉スラグ微粉末、またはフライアッシュの少なくともいずれか一種を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載のセメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−326729(P2007−326729A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157632(P2006−157632)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(801000038)よこはまティーエルオー株式会社 (31)
【Fターム(参考)】