説明

セラミックシート及びBi2223酸化物超電導線材の製造方法、並びにBi2223酸化物超電導線材

【課題】 高い臨界電流値を有する長尺Bi2223酸化物超電導線材を製造ために、熱処理において有効なBi蒸気を発生する熱処理部材およびそれを用いたBi2223酸化物超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】 熱処理によってガス化して消失する材料からなるバインダと、セラミック繊維と、Biを含む酸化物からなるBi2223酸化物超電導線材の熱処理用セラミックシートと、前駆体Bi2223酸化物超電導線材を共に巻回し、熱処理することを特徴とするBi2223酸化物超電導線材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置等の超電導応用機器に用いられる(BiPb)SrCaCu10±δ(δは0.1程度の数:以下Bi2223とする)相を含むBi2223酸化物超電導線材の製造に用いる熱処理用セラミックシートと、それを用いたBi2223酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物の焼結体が高い臨界温度で超電導特性を示すことが報告され、この超電導体を利用して超電導技術の実用化が促進されている。Bi2223酸化物超電導線材は、比較的安価で入手できる液体窒素等の冷却下でも高い臨界電流値を示す有用な線材である。
【0003】
このようなBi2223酸化物超電導線材の製造方法は、たとえば特開2001−195932号公報(特許文献1)に記載されている。具体的には、Bi、Pb、Sr、Ca、Cuを含む前駆体粉末を銀あるいは銀合金管に充填した後に、伸線加工して単芯材を形成する。その後に、単芯材を複数本束ねて銀あるいは銀合金管に挿入し、伸線加工して多芯構造の多芯材を形成する。その多芯材を圧延して、テープ状線材を形成する。続いて、テープ状線材の熱処理を行なう。この熱処理を行う際にテープ状線材と、セラミック繊維とセラミック粉末を含むセラミックシートを重ねて巻回し、パンケーキコイル状にして熱処理する。この熱処理によって前駆体粉末は目的とするBi2223酸化物超電導体となる。ここでセラミックシートは、熱処理においてテープ状線材同士が融着することを防止するための緩衝材として用いられている。
【0004】
Bi系酸化物超電導の性能向上の手法として、特開平5−319829号公報(特許文献2)には、Bi系超電導体を熱処理する際に、Bi・Alの混合粉末を炉内の酸化物超電導体とは別の場所に配置し熱処理する酸化物超電導体の製造方法が記載されている。これはBi・Alの混合粉末からBi蒸気を発生させ、超電導体からのBi元素飛散を抑制し、超電導体の組成ずれを起こさせないことを目的としている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−195932号公報
【特許文献2】特開平5−319829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の技術は、被熱処理体の体積が小さく、炉の容積が小さい場合には有効である。つまり、狭い空間では比較的均一にBi蒸気を存在させることが可能だからである。一方、1000m程度の長尺銀被覆Bi2223酸化物超電導線材を熱処理する場合、前記したようにパンケーキコイル状にされる。このパンケーキコイル状体は直径が2m程度になる。さらに効率的な実製造においては、このパンケーキコイル状体を10個程度重ねて熱処理する。このパンケーキコイル状体が重ねられた被熱処理体は熱処理冶具(線材を載せる皿)も含め、高さが1.0m程度になる。つまり炉の内容積として直径2m以上、高さ1.0m以上の大きなものが必要となる。このような大きな炉中に均一にBi蒸気を存在させることは従来の方法では困難であった。また線材はパンケーキコイル状に密に巻回されているため、線材間の隙間にBi蒸気を供給することは難しい。特に複数段重ねられた高さ方向中段の線材ではBi蒸気が行きわたりにくい。そこで本発明は長尺Bi2223酸化物超電導線材の熱処理において有効な、Bi蒸気発生熱処理部材およびそれを用いたBi2223酸化物超電導線材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Bi2223酸化物超電導線材の製造において、前駆体Bi2223酸化物超電導線材と共に巻回されて熱処理されるセラミックシートであって、前記熱処理中にガス化して消失するバインダと、セラミック繊維と、Biを含む酸化物とからなることを特徴とするセラミックシートである。
【0008】
本発明において、前記Biを含む酸化物はBiAlであることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記セラミック繊維はアルミナ繊維であることが好ましい。
【0010】
本発明のセラミックシートにおいて、マグネシア粒子および/またはジルコニア粒子をさらに含むことが好ましい。
【0011】
また本発明のBi2223酸化物超電導線材の製造方法は、前記いずれかのセラミックシートと、前駆体Bi2223酸化物超電導線材を共に巻回し、熱処理することを特徴とするものである。
【0012】
また本発明の酸化物超電導線材は、前記の製造方法により製造されたBi2223酸化物超電導線材である。
【発明の効果】
【0013】
Bi2223酸化物超電導線材の製造工程の一部である前駆体線材の熱処理において、本発明のセラミックシートを用いれば、熱処理時における組成ずれを防止し、高純度の超電導体を線材内に形成できる。それによって高い臨界電流値を有するBi2223酸化物超電導線材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施の形態)
まず、本発明におけるセラミックシートについて説明する。本発明のセラミックシートは熱処理によってガス化し消失する材料からなるバインダと、セラミック繊維と、Biを含む酸化物からなるものである。熱処理によって消失する材料からなるバインダとは、有機系の糊化剤であり、具体的にはセルロース系接着剤、天然ゴム系接着剤である。このバインダ材はセラミック繊維、Biを含む酸化物だけでは、柔軟性のあるシート材を形成できないため、形状保持を目的として含有される。またこのバインダ材は線材熱処理中ガス化して消失し、熱処理後はパンケーキコイル状にされた線材間には残らない。
【0015】
セラミック繊維とは、高温において安定な材質からなるもので、具体的にはアルミナ繊維、マグシネア繊維、炭素繊維等である。ここで「繊維」とは、厚さまたは直径に対する長さの比が5以上であるような形状を持つ材料である。このセラミック繊維は熱処理前後で変質せず、熱処理後も線材間の隙間に残存する。そのため、熱処理における線材間の融着を防ぐセパレーターの役目を果たす。よって、パンケーキコイル状に密に巻回された線材を熱処理後に容易に解きほぐすことができる。セラミック繊維の材質としては、特にアルミナが好ましい。アルミナは高温でより変質しにくく、銀との反応性も低いため、線材間の融着防止機能が高い。
【0016】
前記セラミック繊維を主としたセラミックシートにマグネシア粒子および/またはジルコニア粒子を混在させてもよい。ここで「粒子」とは、厚さまたは直径に対する長さの比が1〜2であるような形状を持つ材料である。前記セラミック繊維は銀被覆と化学的反応は起こさないが、その形状から銀被覆に突き刺さり熱処理後に銀被覆表面に残り易い。セラミック繊維が銀被覆表面に残った線材は、半田の付きが悪くなることや、銀被覆表面の抵抗が高くなるので好ましくない。銀被覆表面に残存しにくいといった点からは、「粒子」形状の方が好ましい。しかしながら、粒子形状のセラミックだけではバインダ消失後、シート形状を維持することが困難であり、線材間から抜け落ちやすい。そのため熱処理時に線材間の融着が起こりやすい。そこで融着防止材料としてセラミック繊維を主として用い、補助材としてセラミック粒子を混合させると効果的である。実験の結果から、アルミナ繊維とマグネシア粒子、アルミナ繊維とジルコニア粒子あるいはアルミナ繊維とマグネシア粒子とジルコニア粒子の組み合わせが、熱処理中および熱処理後もシート形状を維持しやすく、線材に付着しにくいことがわかった。以上は、熱処理時における線材間の融着を防止する成分についてである。
【0017】
本発明におけるBi2223酸化物超電導線材の熱処理用セラミックシートは、Biを含む酸化物をさらなる構成要素とする。Bi2223酸化物超電導体を構成する元素のひとつであるBiは揮発性が高く、熱処理中飛散する可能性がある。Bi2223酸化物超電導線材は超電導体が銀被覆され、密閉された構造になっているが、少ないながらもBi元素の抜けが生じる。それは線材を熱処理すると、銀が結晶化し肥大化する。この肥大化にともなって、銀の結晶粒界に隙間ができる。特に三つの結晶が接触する点(三重点)には大きな隙間ができやすい。この隙間を通って、銀被覆中の超電導部分からBi元素が揮発する。このようなBi元素の揮発が起こると、仕込みの元素比からずれが生じ、Ca−Sr−Cu−O、Ca−Sr−Pb−O等の非超電導相が生成して、目的とするBi2223超電導相が充分形成されない。そこで、本発明のBiを含む酸化物を構成要素とするセラミックシートは、線材からのBi元素の揮発を抑えるため、熱処理時に超電導体とは異なるBi蒸気の発生要素を炉中に配置するといった原理に基づくものである。
【0018】
前記したように、被熱処理体の体積が小さく、炉の容積が小さい場合には特許文献2に記載されているように、Bi蒸気発生源を炉内の酸化物超電導体とは別の場所に配置し熱処理しても、狭い空間であるため比較的均一にBi蒸気を存在させることが可能である。また特許文献2では、長さ25mmの短尺材が対象とされており、大きな面が空間にさらされるよう載置している。このような場合、被熱処理体の全体がほぼ均一にBi蒸気と接する。
【0019】
本発明が対象とする被熱処理体は100m程度から1000mを越える長尺線材である。前記したように。このような長尺材は大型のパンケーキコイル状にされ、複数段重ねて熱処理される。このような状態の被熱処理体において、線材間の隙間も含めた全体に対し、均一にBi蒸気を供給する方法は存在しなかった。そこで本発明は、前記したセラミックシートにBi蒸気発生源の役割をもたせたものである。セラミックシートは、Bi2223酸化物超電導線材と共に巻回され、熱処理される。そのためBi蒸気発生源は、パンケーキコイル状にされた線材のどの位置にも同じ濃度で存在することになる。つまり、均一にBi蒸気を供給することができる。
【0020】
Bi蒸気を発生させる材料としては、Biを含む酸化物が採用される。具体的には、Bi、BiAl、Bi2223超電導体の前駆体粉末(Bi、Pb、Sr、Ca、Cu、Oで構成されているが、Bi2223超電導体にはなっていない状態)があげられるが、Bi2223酸化物超電導線材の熱処理温度(830℃程度)以下で蒸気を発生するBiを含む酸化物であれば充分である。前記例示された材料中、BiAlは特に好ましい。この化合物は融点が1070℃であり、830℃程度の温度では部分溶融する等の大きな状態変化を伴わず、固相状態のままBi蒸気を発生する物質である。大きな状態変化を伴わないので、線材に対するBi蒸気供給以外の他の影響がほとんど無い。以上が本発明におけるBi2223酸化物超電導線材の熱処理用セラミックシートを構成する材料の説明である。
【0021】
以下、本発明のセラミックシートの製法について説明する。平均直径2〜3μm、平均長さ100μm〜200μmのアルミナ繊維、平均粒径が約1μmのマグネシア粒子またはジルコニア粒子、Biを含む酸化物として平均粒径が約1μmのBiAlおよびセルロース系のバインダを混合し、漉き込んでシート状の所望な形状に加工する。Bi2223酸化物超電導線材と共に巻回するためには、厚さ0.2mm〜0.5mm、幅4.5〜5mm、長さは超電導線材に揃えたテープ状体とする。
【0022】
セラミックシートは、約20〜50重量%のバインダ、約50〜70重量%セラミック材料(アルミナ繊維、およびマグネシア粒子またはジルコニア粒子を足したもの)、約2〜10重量%BiAlの含有比率をもつものが好適である。
【0023】
バインダが20重量%以下では、セラミック材料の割合が多くなりすぎ、柔軟性のあるシート材を形成できない。また50重量%を超えるとセラミック材料の割合が少なくなりすぎ、線材間の融着防止機能が低下する。
【0024】
Biを含む酸化物(BiAl)の含有量が10重量%を超えるとそれ自体の焼結によって、線材間の融着を引き起こす可能性がある。下限値は被熱処理されるBi2223酸化物超電導線材の銀被覆厚さに依存する。銀被覆が厚くBi元素が比較的抜けにくい線材を熱処理する場合は2重量%以上含まれていれば充分である。
【0025】
アルミナ繊維と、マグネシア粒子またはジルコニア粒子の比率は、重量比率で3対1〜9対1が好適である。この範囲で配合すると、線材間の融着を防止が確実に行え、熱処理中および熱処理後もシート形状を維持しやすく、アルミナ繊維、マグネシア粒子、ジルコニア粒子が線材に付着しにくい。
【0026】
以上のようにして得られる、セラミックシートを用いてBi2223酸化物超電導線材を熱処理する。以下に、本発明のBi2223酸化物超電導線材の製造方法を説明する。
【0027】
Bi2223酸化物超電導体の前駆体粉末を銀あるいは銀合金に充填する。この前駆体粉末は、たとえば(Bi,Pb)SrCaCu8±δ(δは0.1に近い数:以下(Bi,Pb)2212と呼ぶ)相やBiSrCaCu8±δ(δは0.1に近い数:以下Bi2212と呼ぶ)相を主相とし、アルカリ土類酸化物(例えば、(Ca,Sr)CuO、(Ca,Sr)CuO、(Ca,Sr)14Cu2441等)、Pb酸化物(例えば、CaPbO、(Bi,Pb)SrCaCu)等の非超電導相を含む材質より構成されている。前駆体粉末が充填された銀パイプを伸線し単芯素線とする。得られた単芯素線を複数本に切断し、別の銀あるいは銀合金パイプに挿入、集合し多芯母線とする。多芯母線を直径1mm程度まで伸線し多芯線とする。この多芯線を幅4.0mm程度、厚さ0.25mm程度になるよう圧延(1次圧延)しテープ材とする。この1次圧延後のテープ材が前駆体Bi2223酸化物超電導線材である(以下、前駆体線材とする)。得られた前駆体線材を例えば大気中、830〜850℃の温度で10〜50時間熱処理(1次熱処理)し、目的とする(BiPb)SrCaCu10±δ(Bi2223相)が形成される。1次熱処理されたテープ材は、厚さが0.23mm程度になるよう再圧延(2次圧延)される。この再圧延されたテープ材も前駆体線材である。再圧延されたテープ材は例えば大気圧下、または1〜50MPaの加圧雰囲気において830〜850℃の温度で10〜50時間熱処理(2次熱処理)が施される。この2次熱処理では、1次熱処理で形成したBi2223相同士を強固に結合させる。こうして最終的なBi2223酸化物超電導線材が得られる。前記1次熱処理、2次熱処理において本発明のセラミックシートを用いる。
【0028】
図1は、前駆体線材を熱処理する際にパンケーキコイル状にした状態を模式的に表した斜視図である。図2は図1中のAA’断面図である。超電導テープ材11間にセラミックシート12が配置されるよう重ね合わされ、巻き枠13の周りにパンケーキコイル状に巻回される。パンケーキコイル状体10は、熱処理用冶具14に載せられる。これらパンケーキコイル状体10と熱処理用冶具14のセットを複数段重ねて炉中に入れ熱処理する。この方式は前記1次熱処理、2次熱処理とも同様に採用される。
【0029】
熱処理工程において、バインダはガス化して線材間から消失する。セラミック繊維、セラミック粒子は変質せずそのまま線材間に残留する。これらは機械的に線材にはさまれ、線材間に保持されている状態であり、熱処理後線材をパンケーキコイル状体から解体する過程において、軽く拭き取るだけで線材から除去できる。Biを含む酸化物は、800℃程度からBi蒸気を発生し始める。線材と共に巻回していることから、線材の全ての位置に対し均等にBi蒸気供給源を配置していることになり、線材全ての部分に同じ量のBi蒸気が供給される。Biを含む酸化物は、熱処理中にセラミック繊維、セラミック粒子と焼結しそれらに付着した形態となり、解体時にセラミック繊維、セラミック粒子と共に線材から乖離される。
【0030】
上記のようにして、本発明のBi2223酸化物超電導線材の熱処理用セラミックシートを用いて熱処理を施すことにより、パンケーキコイル状に巻回された長尺材に対し、均一にBi蒸気を供給することができる。その結果、全長にわたって組成ずれを起こすことなく高純度化された超電導組織が実現でき、高い臨界電流値を有する超電導線材を得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
【0032】
(セラミックシートの作製)
平均直径2〜3μm、平均長さ100μm〜200μmのアルミナ繊維45重量%、平均粒径が約1μmのマグネシア粉末10重量%、平均粒径が約1μmのBiAl5重量%およびセルロース系のバインダ40重量%を混合し、漉き込んでシート状体を得る。シート状体は厚み0.3mm、幅50cm、長さ50mの形状を有する。このシート材を幅5mmとなるように切断する。長さ50mのテープ状シート材を、セルロース系バインダを接着剤として用い20本接続し、長さ1000mのテープ状セラミックシート(実施例)とする。
【0033】
同様な方法で、BiAlを含まないセラミックシート(比較例)を作製する。配合比率は、アルミナ繊維50重量%、マグネシア粉末10重量%、およびセルロース系のバインダ40重量%とする。
【0034】
(前駆体線材の作製)
原料粉末(Bi、PbO、SrCO、CaCO、CuO)をBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.7:0.3:1.9:2.0:3.0の比率で混合し、大気中で700℃×8時間の熱処理、粉砕、800℃×10時間の熱処理、粉砕、820℃×4時間の熱処理、粉砕の処理を施し前駆体粉末を得る。また、5種類の原料粉末が溶解した硝酸水溶液を、加熱された炉内に噴射することにより、金属硝酸塩水溶液の粒子の水分が蒸発し、硝酸塩の熱分解、そして金属酸化物同士の反応、合成を瞬時に起こさせる噴霧熱分解法で前駆体粉末を作製することもできる。こうして作製された前駆体粉末は、Bi2212相が主体となった粉末である。
【0035】
上記により作製された前駆体粉末を外径36mm、内径33mmの銀パイプに充填し、直径3.5mmまで伸線して単芯線を作製する。この単芯線を55本束ねて外径36mm、内径33mmの銀パイプに挿入し、直径1.5mmまで伸線し、多芯(55芯)線材を得る。この多芯線を圧延し、幅約4mm、厚み0.25mm、長さ約1200mのテープ状線材に加工する(1次圧延)。最外層の銀被覆の厚さは約50μmである。このテープ状前駆体線材を4本用意する。
【0036】
(1次熱処理)
得られたテープ状前駆体線材をそれぞれ1000mに切断し、そのうち2本を図1に示されるようにBiAlを含むセラミックシート(実施例)と共に巻回し、約直径2mのパンケーキコイル状として、熱処理冶具上に配置する。残り2本はBiAlを含まないセラミックシート(比較例)と共に巻回する。そのうち1本には、熱処理冶具中央(巻枠内)にBi蒸気供給源として、500gのBiAl粉末を配置する。整理すると以下の3種の組み合わせとなっている。BiAlを含むセラミックシートと共に巻回されたテープ状前駆体線材(2本:実施例1、2)、BiAlを含まないセラミックシートと共に巻回されたテープ状前駆体線材(比較例1)、BiAlを含まないセラミックシートと共に巻回されたテープ状前駆体線材と単体のBiAl粉末(比較例2)。これら4本を別々の炉で熱処理する。条件的にはいずれも同じであり、830℃で20時間、酸素分圧が8kPaで大気圧下の条件で熱処理を行う。
【0037】
(1次熱処理後の臨界電流値測定)
熱処理されたテープ状線材を、付着物を拭き取りながら解体する。解体されたテープ状線材の臨界電流値を測定する。実施例1と2は同じものなのでこれらに関しては実施例1のみを測定する。巻き始め(内側:0m地点)の位置、中央位置(500m地点)、巻き終わり(外側:1000m地点)の位置の3点において、それぞれ1mの長さの臨界電流値を測定する。臨界電流値は、温度が77Kで、自己磁場中において測定する。臨界電流値は、10−6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とする。その結果を表1に示す。
【0038】
(2次熱処理)
臨界電流値測定後、厚みが0.23mmとなるよう再度圧延工程(2次圧延)を施す。圧延されたテープ状線材のうち、実施例1、比較例1、比較例2は1次熱処理と同じ条件でパンケーキコイル状に巻回される。すなわち、実施例1はBiAlを含むセラミックシートと共に巻回する。比較例1はBiAlを含まないセラミックシートと共に巻回する。比較例2はBiAlを含まないセラミックシートと共に巻回され、単体のBiAl粉末を配置する。実施例2は、この2次熱処理においてBiAlを含まないセラミックシートと共に巻回する。巻き方は1次熱処理と同じになるよう、0m地点が内側とされている。これら4組のテープ状線材に対し、同じ条件830℃で50時間、酸素分圧が8kPa、全圧30MPaで別々に熱処理する。
【0039】
(2次熱処理後の臨界電流値測定)
2次熱処理されたテープ状線材を、付着物を拭き取りながら解体する。解体されたテープ状線材の臨界電流値を1次熱処理後と同様に測定する。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果を分析する。まず1次熱処理後の線材において、どのような形であれBi蒸気の発生源と共存させた線材(実施例1、比較例2)では、最大臨界電流値が100Aを超えている。これから、炉中にBi蒸気発生源が存在していることが臨界電流値の向上に効果があることがわかる。但し、ばらつきといった観点においては、単体のBiAl粉末が配置された比較例2では、最大値、最小値の差が20A以上ありばらつきが大きい。本発明のセラミックシートを用いれば、1次熱処理だけでも100A以上の臨界電流値を均一に有する長尺Bi2223酸化物超電導線材が得られる。
【0042】
2次熱処理後の線材においても、本発明のセラミックシートを用いて熱処理された実施例1が、均一で最も高い臨界電流値を有している。但し、2次熱処理では、本発明のセラミックシートを用いない実施例2でも、ほぼ同等な性能が得られている。これは1次熱処理時、すなわち前駆体粉末からBi2223相を発生させる段階で超電導部分からBi元素の揮発が大きく、2次熱処理(Bi2223相同士を強固に結合させる処理)では、Bi元素の揮発が小さいことに起因すると考えられる。よって1次熱処理でBi元素の揮発を抑え込めば、高い臨界電流値が均一に得られることを示唆している。よって、少なくとも1次熱処理時に本発明のセラミックシートを用いればよいと言える。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】前駆体線材を熱処理する際にパンケーキコイル状にした状態を模式的に表した斜視図である。
【図2】図1中のAA’断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 パンケーキコイル状体
11 超電導テープ材
12 セラミックシート
13 巻き枠
14 熱処理用冶具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi2223酸化物超電導線材の製造において、前駆体Bi2223酸化物超電導線材と共に巻回されて熱処理されるセラミックシートであって、前記熱処理中にガス化して消失するバインダと、セラミック繊維と、Biを含む酸化物とからなることを特徴とするセラミックシート。
【請求項2】
前記Biを含む酸化物はBiAlであることを特徴とする請求項1に記載のセラミックシート。
【請求項3】
前記セラミック繊維はアルミナ繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックシート。
【請求項4】
マグネシア粒子および/またはジルコニア粒子をさらに含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のセラミックシート。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のセラミックシートと、前駆体Bi2223酸化物超電導線材を共に巻回し、熱処理することを特徴とするBi2223酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のBi2223酸化物超電導線材の製造方法により製造された、Bi2223酸化物超電導線材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−289502(P2009−289502A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138830(P2008−138830)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】