説明

セラミックス多孔質体及びその透過性能評価方法

セラミックスからなる基材に多数の気孔が所定の気孔率で形成されてなるセラミックス多孔質体である。基材の切断面の平面画像を、画像解析で二値化処理することにより、気孔部1と非気孔部2とに区別し、気孔部1の中央部を通る中央線3を引いた場合に、気孔率(ε(%))と、気孔部1を特定する外形線間の、中央線3に直交する距離の平均値により表される気孔部平均幅(D(μm))と、隣接する分岐点4相互間における中央線3の長さ、及び中央線3の末端5と分岐点4との間における中央線3の長さの平均値により表される気孔部平均長さ(L(μm))と、平均気孔径(D(μm))とが、所定の関係を満たし、DPF等のフィルタを構成する材料として、高気孔率でありながらも十分な強度を保持し、かつ、高捕集効率・高透過率なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス多孔質体に関し、更に詳しくは、DPF等のフィルタを構成する材料として、高気孔率でありながらも十分な強度を保持し、かつ、高捕集効率・高透過率であるセラミックス多孔質体、及びその透過性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン排気ガスのような含塵流体中に含まれる粒子状物質を捕集除去するためのフィルタ(ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF))、又は排気ガス中の有害物質を浄化する触媒成分を担持するための触媒担体として、複数のそれぞれ隣接したセルの複合体を形成するセル隔壁(リブ)と、このセル複合体の最外周に位置する最外周セルを囲繞して保持するハニカム外壁とから構成された多孔質のハニカム構造体が広く用いられている。このような多孔質のハニカム構造体を構成する材料としては、例えば耐火性の炭化珪素(SiC)等をはじめとするセラミックスからなる多孔質材料(多孔質体)が用いられている。
【0003】
また、このようなハニカム構造体としては、例えば、所定の比表面積を有するとともに不純物を含有する炭化珪素粉末を出発原料とし、これを所望の形状に成形、乾燥後、1600〜2200℃の温度範囲内で焼成して得られるハニカム構造の多孔質炭化珪素質触媒担体が開示されている(例えば、特開平6−182228号公報参照)。
【0004】
なお、DPFには、これが搭載されるディーゼルエンジンの燃費に大きく影響する透過率の向上(圧力損失の低減)と、フィルタ自体の耐久性に影響する材料強度の向上とが主として要求される。
【0005】
従来の、多孔質体の特性から透過性能を予測する評価方法に採用されていた理論としては、特に明確なものは提唱されておらず、数学的に考えて最も簡単なモデルとして、多孔質体の透過率が、「(気孔率)×(平均気孔径/2)」と比例関係にあるとの経験則に基づいて多孔質体の透過性能を予測・評価していた。従って、これまで、多孔質体の透過性能を向上させるためには、もっぱら気孔率(例えば、アルキメデス法にて測定した実測値)、及び/又は平均気孔径(水銀ポロシメーターにて測定した実測値)の増大が試みられていた。しかし、多孔質体の高気孔率化は強度低下を伴うとともに、気孔径の拡大は、捕集しようとする粒子状物質(パティキュレート)の捕集効率低下を招くといった問題があり、実質的にはそれぞれの値を増大させるには限界があった。また、前記比例関係は、多孔質体によっては成り立たず、特に気孔率・平均気孔径を増大した一部の多孔質体では、前記比例関係から予測される透過率とすることができず、工学的に実用性のある理論、評価方法等は未だに確立されているとはいえない。
【0006】
具体的には、気孔率が80%を超えるとDPFをはじめとするフィルタとして使用するに際して必要・十分な強度を保持することができない場合があるという問題がある。また、気孔径の拡大は、多孔質体を製造するに際して使用する有機系造孔剤を粗粒化したり、有機中空造孔剤(例えば、発泡樹脂等)を使用したりすること等により大幅に促進されるが、気孔径が100μmを超えると、得られる多孔質体のパティキュレートの捕集効率が大きく低下してしまうという問題がある。更に、気孔率が60%を超える多孔質体の場合、製造するに際して多量の有機系造孔剤を用いるため、一部の造孔剤が凝集してしまい、これを焼成することにより、インクボトル状の粗大気孔が点在してしまうという問題がある。特に、このような多孔質体の平均気孔径を水銀ポロシメーターで評価する場合、その値が大きく上昇してしまうため、上述した評価方法では透過性能(圧力損失)を過大に予測してしまうことがあるという問題があった。即ち、上述した従来の評価方法では、多孔質体を構成する材料系のうちの一部の材料系については相関関係を示すが、それ以外の材料系については必ずしも相関関係を示すとはいえなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、DPF等のフィルタを構成する材料として、高気孔率でありながらも十分な強度を保持し、かつ、高捕集効率・高透過率であるセラミックス多孔質体、及びその透過性能評価方法を提供することにある。
【発明の開示】
【0008】
即ち、本発明によれば、所定の端面を有するセラミックスからなる基材に、前記基材の端面間を連通するとともに分岐を有する多数の気孔が所定の気孔率で形成されてなるセラミックス多孔質体であって、所定の平面で切断された前記基材の切断面の平面画像を、画像解析で二値化処理することにより、前記気孔に由来して特定される気孔部と、前記基材に由来して特定される非気孔部とに区別し、区別された画像上で前記気孔部の中央部を通る中央線を引いた場合に、前記気孔率(ε(%))と、前記気孔部を特定する互いに対向する外形線間の、前記中央線に直交する距離の平均値により表される気孔部平均幅(D(μm))と、前記中央線上の前記分岐に由来して特定される複数の分岐点のうち互いに隣接する隣接分岐点相互間における前記中央線の長さ、及び前記中央線の末端と前記中央線の末端に隣接する前記分岐点との間における前記中央線の長さの平均値により表される気孔部平均長さ(L(μm))と、平均気孔径(D(μm))とが、下記式(1)及び(2)の関係を満たすセラミックス多孔質体が提供される。
200≦ε×(D/2)/L …(1)
L≦D/2 …(2)
【0009】
本発明においては、透過率が、5×10−12以上であることが好ましく、1×10−11以上であることが更に好ましい。
【0010】
本発明においては、セラミックスが、アルミナ、ムライト、コーディエライト、窒化珪素、及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0011】
本発明においては、4点曲げ強度が、10MPa以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、所定の端面を有するセラミックスからなる基材に、前記基材の端面間を連通するとともに分岐を有する多数の気孔が所定の気孔率で形成されてなるセラミックス多孔質体の、ディーゼルパティキュレートフィルタの構成材料としての透過性能の優劣、及び前記透過性能の優劣の要因を明らかにすることができる評価方法であって、前記セラミックス多孔質体を所定の平面で切断することにより得られる前記基材の切断面の平面画像を、画像解析で二値化処理することにより、前記気孔に由来して特定される気孔部と、前記基材に由来して特定される非気孔部とに区別し、区別された画像上で前記気孔部の中央部を通る中央線を引いた場合に、前記気孔率(ε(%))と、前記気孔部を特定する互いに対向する外形線間の、前記中央線に直交する距離の平均値により表される気孔部平均幅(D(μm))と、前記中央線上の前記分岐に由来して特定される複数の分岐点のうち互いに隣接する隣接分岐点相互間における前記中央線の長さ、及び前記中央線の末端と前記中央線の末端に隣接する前記分岐点との間における前記中央線の長さの平均値により表される気孔部平均長さ(L(μm))と、平均気孔径(D(μm))とが、下記式(1)及び(2)の関係を満たすときに、前記セラミックス多孔質体がディーゼルパティキュレートフィルタの構成材料として優れた透過性能及び気孔形状を有すると判定するセラミックス多孔質体の透過性能評価方法が提供される。
200≦ε×(D/2)/L …(1)
L≦D/2 …(2)
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1(a)】図1(a)は、本発明のセラミックス多孔質体の透過性能評価方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図1(b)】図1(b)は、本発明のセラミックス多孔質体の透過性能評価方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図1(c)】図1(c)は、本発明のセラミックス多孔質体の透過性能評価方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図2】図2は、「ε×(D/2)」の値に対して透過率をプロットしたグラフである。
【図3】図3は、「ε×(D/2)/L」の値に対して透過率をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
本発明のセラミックス多孔質体の透過性能評価方法は、所定の端面を有するセラミックスからなる基材に、基材の端面間を連通するとともに分岐を有する多数の気孔が所定の気孔率で形成されてなるセラミックス多孔質体の、DPFの構成材料としての透過性能の優劣、及び前記透過性能の優劣の要因を明らかにすることができる評価方法であり、セラミックス多孔質体を所定の平面で切断することにより得られる基材の切断面の平面画像を、画像解析で二値化処理することにより、気孔に由来して特定される気孔部と、基材に由来して特定される非気孔部とに区別し、区別された画像上で気孔部の中央部を通る中央線を引いた場合に、気孔率(ε(%))と、気孔部を特定する互いに対向する外形線間の、中央線に直交する距離の平均値により表される気孔部平均幅(D(μm))と、中央線上の分岐に由来して特定される複数の分岐点のうち互いに隣接する隣接分岐点相互間における中央線の長さ、及び中央線の末端と中央線の末端に隣接する分岐点との間における中央線の長さの平均値により表される気孔部平均長さ(L(μm))と、平均気孔径(D(μm))とが、下記式(1)及び(2)の関係を満たすときに、セラミックス多孔質体がDPFの構成材料として優れた透過性能及び気孔形状を有すると判定する評価方法である。また、本発明のセラミックス多孔質体は、このようなセラミックス多孔質体の透過性能評価方法により判定・評価される、下記式(1)及び(2)の関係を満たすセラミックス多孔質体である。以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
200≦ε×(D/2)/L …(1)
L≦D/2 …(2)
【0016】
本発明の評価方法を実施するに際しては、まず試料となるセラミックス多孔質体を切断して所定の切断面を出す。このとき、切断面を均一な平面とするために、適宜、切断面を研磨してもよい。なお、試料となるセラミックス多孔質体(本発明のセラミックス多孔質体)は、セラミックスからなる基材に、その端面間(一端面から他端面までの間)を連通するとともに分岐を有する多数の気孔が形成されてなるものである。
【0017】
図1(a)〜図1(c)は、本発明のセラミックス多孔質体の透過性能評価方法の一実施形態を示すフロー図である。前述の切断面の平面画像を、例えばスキャナー等の画像取込み手段を使用してPC(パーソナルコンピュータ)をはじめとする計算機に取り込む。取り込まれた平面画像を、所定の画像解析の手法により二値化処理して、図1(a)に示すような白色部分の気孔部1と黒色部分の非気孔部2とに区別して抽出する。このとき抽出される気孔部1とは、セラミックス多孔質体の気孔に由来して特定される部分をいい、非気孔部2とは、セラミックス多孔質体の基材に由来して特定される部分をいう。気孔部1と非気孔部2とを抽出した後、この画像上で、図1(b)に示すような気孔部1の中央部を通る中央線3を引く。なお、この中央線3は、平面画像上の気孔部1に所定の画像処理手法を適用することにより、一画素分の幅をもつ細線として抽出される(引かれる)ものである。
【0018】
次いで、試料であるセラミックス多孔質体の気孔率(ε(%))、気孔部平均長さ(L(μm))、気孔部平均幅(D(μm))、平均気孔径(D(μm))の、四種類のパラメータを特定する。気孔率(ε(%))は、画像解析、即ち、画像全体の面積に対する、気孔部1の面積の割合を算出することにより特定することができるが、アルキメデス法にて測定した値を用いてもよい。但し、本発明において前記式(1)に代入されるε(%)の値は、アルキメデス法により測定される値である。また、気孔部平均長さ(L(μm))は、図1(c)に示すように中央線3上の分岐に由来して特定される複数の分岐点4のうち互いに隣接する隣接分岐点相互間における中央線3の長さ、及び中央線3の末端5と中央線3の末端5に隣接する分岐点4との間における中央線3の長さの平均値により表される値である。更に、気孔部平均幅(D(μm))は、気孔部1を特定する互いに対向する外形線間の、中央線3に直交する距離の平均値により表される値であり、図1(c)中の両端矢印部分の幅を意味する。具体的には、中央線3上の各画素から気孔部1を特定する外形線までの最短距離の2倍の値を算出し、全画素についてのそれらの値を平均することにより算出することができる。
【0019】
本実施形態では、これら四種類のパラメータ(ε(%)、D(μm)、D(μm)、及びL(μm))が下記式(1)及び(2)の関係を満たす場合、即ち、ε(%)、D(μm)、及びL(μm)により算出される「ε×(D/2)/L」の値が200以上、及びLの値がDの値の1/2以下である場合に、試料であるセラミックス多孔質体がDPFの構成材料として優れた透過性能及び気孔形状を有すると判定・評価する。また、本発明のセラミックス多孔質体は、これら四種類のパラメータ(ε(%)、D(μm)、D(μm)、及びL(μm))が下記式(1)及び(2)の関係を満たすものである。
200≦ε×(D/2)/L …(1)
L≦D/2 …(2)
【0020】
上述した四種類のパラメータのうちの、気孔部平均幅(D(μm))は、中央線上の各画素から、非気孔部と気孔部の境目である外形線までの最短距離を2倍した値の全画素についての数平均であるため、従来の水銀ポロシメーター等を用いて測定し、体積平均として得られる平均気孔径(D(μm))の値のように、点在するインクボトル状の粗大気孔を過大評価することのない、気孔の数を基準とした平均値により表されるパラメータである。即ち、気孔部平均幅(D(μm))を用いれば、透過率の実測値との相関性を高いものとすることができ、対象とするセラミックス多孔質体の透過性能をより厳密に評価することができる。なお、上述してきた評価方法を実施するための画像解析に用いるアプリケーションソフトとしては、例えば、Image−Pro Plus(商品名)(MEDIA CYBERNETICS社製)等を挙げることができるが、本発明においてはこのアプリケーションソフトを用いることに限定されるものではない。
【0021】
また、上述した四種類のパラメータのうちの、気孔部平均長さ(L(μm))は、気孔の形状に関するパラメータであり、この値が小さいセラミックス多孔質体は、水銀ポロシメーターにて測定される平均気孔径の値が同一であっても、より細かく枝分かれした気孔が形成されていることを意味する。即ち、本発明にいう気孔部平均長さ(L(μm))とは、セラミックス多孔質体内の気孔の枝分かれの頻度を表すパラメーターであるため、この値が小さければ、より優れた気孔形状を有するセラミックス多孔質体であると評価することができる。
【0022】
更に、「ε×(D/2)/L」の値が、セラミックス多孔質体の透過率の値と高い相関性を有するため、前記式(1)及び(2)の関係を満たす本発明のセラミックス多孔質体は、DPFの構成材料として優れた透過性能及び気孔形状を有すると判定されるものであるために、高気孔率でありながらも十分な強度を保持し、かつ、高捕集効率・高透過率なものである。なお、DPFの構成材料としてより優れた透過性能を有するセラミックス多孔質体を提供するといった観点からは、「ε×(D/2)/L」の値は、220以上であることが好ましく、240以上であることが更に好ましい、なお、「ε×(D/2)/L」の値は、理論的には高い値であるほど好ましいが、DPFの構成材料として必要な強度、及び捕集効率を発揮させる等の観点からは、実質的には3500以下であればよい。
【0023】
本発明のセラミックス多孔質体においては、DPFの構成材料として十分な透過性能を発揮させるといった観点から、その透過率が5×10−12以上であることが好ましく、1×10−11以上であることが更に好ましく、1.5×10−11以上であることが特に好ましい。なお、本発明にいう「透過率」とは、Darcy則により定義され、フィルタ材料における単位面積あたりの流体の流れ易さを示す値(但し、材料内における流体の流れが層流である)をいい、下記式(3)により表される値をいう。また、本発明においては透過率の上限は特に限定されず、理論的には高い値であるほど好ましいが、実質的な製造可能性や捕集効率を発揮させる等の観点からは、2.0×10−10以下であればよい。
P=(V×W×S)/L …(3)
【0024】
(但し、上記式(3)中、Pは透過率(×10−12)、Vは供給流体の静粘性係数(mPa・s)、Wは試料(セラミックス多孔質体)の厚さ(μm)、Sは供給流体の平均流速(m/s)、Lは圧力損失(kPa)を示す。)
【0025】
なお、本発明にいう「平均気孔径(D(μm))」とは、水銀ポロシメーターにて測定した実測値をいう。また、本発明においてはL(μm)/D(μm)比の値の下限は特に限定されないが、実質的には1/10以上であればよい。
【0026】
本発明のセラミックス多孔質体においては、基材を構成するセラミックスが、アルミナ、ムライト、コーディエライト、窒化珪素、及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。基材がこれらのうちの少なくとも一種を含むセラミックスにより構成されたセラミックス多孔質体は、DPFを構成する材料として好適である。
【0027】
また、本発明のセラミックス多孔質体においては、4点曲げ強度が10MPa以上であることが、十分な強度を発揮することができるために好ましく、12MPa以上であることが更に好ましく、15MPa以上であることが特に好ましい。なお、本発明においては、4点曲げ強度の上限は特に限定されないが、実質的な製造可能性等の観点からは100MPa以下であればよい。
【0028】
次に、本発明の更なる詳細について、セラミックス多孔質体の基材を構成する骨材として炭化珪素、結合材として金属珪素を使用する場合の製造方法の一例を挙げつつ説明する。製造に際しては、まず、骨材となる粒子状の炭化珪素と、結合材となる金属珪素とを含む原料混合物を調製する。これらの原料には鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、又はカルシウム(Ca)等の微量の不純物を含有する場合もあるが、そのまま使用してもよく、薬品洗浄等の化学的処理を施して精製したものを使用してもよい。調製した原料混合物に、凝集しても焼成後に気孔部をインクボトル状に粗大化させることなく、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔を多方面に連結するのに有効と思われる造孔剤と、焼結助剤(例えば、焼成しても無くならない無機マイクロバルーン(凝集してもインクボトル状の粗大気孔を形成しない)と、これを焼成時に溶融して連通孔を形成させるアルカリ土類金属を含む化合物)とを添加した後、必要に応じて有機バインダ等の成形助剤を添加し混合及び混練して成形用の坏土を得る。
【0029】
無機マイクロバルーンは、原料混合物に添加することにより造孔剤としての作用を示すものであり、かつ、焼成しても無くならないものであるため、その一部が凝集した場合であっても、透過率が向上しないにもかかわらず無為に気孔率・気孔径を増大させて多孔質体の強度・捕集効率を低下させるインクボトル状の粗大気孔を形成させないものである。この他、炭化珪素粒子、及び/又は金属珪素粉をスプレイドライヤー等で中空のバルーン(SD顆粒)とし、これを同様に、焼成しても無くならない造孔剤として用いてもよい。なお、この際、造孔剤の全てを凝集しても焼成後に気孔部をインクボトル状に粗大化させることなく、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔を多方面に連結するのに有効と思われる造孔剤にしてもよく、有機系の造孔剤と併用してもよい。得られた坏土をハニカム形状等をはじめとする所定の形状に成形し、得られた成形体を仮焼して成形体中の有機バインダを除去(脱脂)した後、本焼成を行うことにより、セラミックス多孔質体を得ることができる。
【0030】
なお、無機マイクロバルーンを使用する場合、原料混合物に、アルカリ土類金属を含む化合物を同時に添加してもよい。アルカリ土類金属を含む化合物とは、これに含まれるアルカリ土類金属が、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)からなる群より選択される少なくとも一種である化合物をいい、更に具体的には炭酸ストロンチウム(SrCO)や酢酸カルシウム(Ca(CHCOO))といった、仮焼又は本焼成の際に酸化又は分解されることにより、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)からなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属の一酸化物となる化合物である。この化合物を添加することにより、無機マイクロバルーンは本焼成の際に溶融して、気孔部をインクボトル状に粗大化させることなく、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔を多方面に連結させた高気孔率な多孔質構造を形成する。更に、この場合、溶融物は炭化珪素粒子及び/又は金属珪素の表面及び/又は周辺において、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、及びアルカリ土類金属を含む酸化物相を形成する。この酸化物相の適当量が、炭化珪素及び/又は金属珪素の表面及び/又は周辺に存在することとなるため、炭化珪素粒子間のネッキングを補助し、高気孔率であるにもかかわらず、高強度なセラミックス多孔質体を得ることができる。
【0031】
また、凝集しても焼成後に気孔部をインクボトル状に粗大化させることなく、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔を多方面に連結するのに有効と思われる造孔剤のサイズ、添加量等を適宜調整することにより、得られるセラミックス多孔質体の気孔率、気孔径を調節して、ディーゼルパティキュレートフィルタの構成材料として好適な多孔質体を作製することができる。なお、無機マイクロバルーンを使用する場合、無機マイクロバルーンの組成、アルカリ土類金属を含む化合物の種類や添加量のパラメータによって、無機マイクロバルーンの溶融する温度、及び形成される酸化物相は変化する。従って、これらのパラメータにより、焼成温度や、得られるセラミックス多孔質体の酸化物相を予め知ることができるため、目的とするDPF等の使用条件に応じて材料設計、及びこれに対応する製造設計を柔軟に調整することができる。
【0032】
また、無機マイクロバルーンを使用する場合、炭化珪素と金属珪素との合計量100質量部に対して、無機マイクロバルーンを、5〜30質量部添加することが好ましく、10〜30質量部添加することが更に好ましい。5質量部未満では造孔効果が発揮されない場合があり、30質量部超では形成される酸化物相の量が多すぎるために焼成体が縮んでしまい、造孔効果があまり発揮されなくなる場合があるために好ましくない。なお、更に気孔率を向上させたい場合は、有機系の造孔剤と併用することもできる。
【0033】
更に、無機マイクロバルーンを使用する場合、焼成時に溶融させるために、アルカリ土類金属を含む化合物を添加することが好ましい。添加する量は、セラミックス多孔質体を焼成する温度で無機マイクロバルーンが溶融するに十分な量であって、かつ、溶融物の粘度が低すぎて焼成体が縮んでしまわない程度の量である。具体的には、例えば、無機マイクロバルーンとしてE−SPHERES SL−75(ENVIROSPHERES社製)を選択した場合、無機マイクロバルーンの添加量100質量部に対して、アルカリ土類金属を含む化合物を、無機マイクロバルーンに予め含有されるアルカリ土類金属を含めて、アルカリ土類金属の一酸化物換算で10〜100質量部添加することが好ましく、特に、コーディエライト、アノーサイト、ストロンチウム長石(SrAlSi)、セルシアン(BaAlSi)といった耐熱衝撃性、耐酸化性、及び強度向上に有効な酸化物相(長石)を析出させるといった観点からは、無機マイクロバルーンの添加量100質量部に対して、アルカリ土類金属を含む化合物を、アルカリ土類金属を含む化合物に含まれるアルカリ土類金属がマグネシウム(Mg)である場合に酸化マグネシウム(MgO)に換算して10〜25質量部、カルシウム(Ca)である場合に酸化カルシウム(CaO)に換算して14〜35質量部、ストロンチウム(Sr)である場合に酸化ストロンチウム(SrO)に換算して26〜64質量部、バリウム(Ba)である場合に酸化バリウム(BaO)に換算して38〜95質量部、それぞれ添加することが更に好ましい。なお、アルカリ土類金属を含む化合物の添加量が、アルカリ土類金属の一酸化物換算で10質量部未満では無機マイクロバルーンが溶融し難くなる場合があり、100質量部超では余剰分が残留して焼成体が縮んでしまい、造孔効果が発揮されなくなる場合があるために好ましくない。
【0034】
なお、アルカリ土類金属を含む化合物は、アルカリ土類金属を一種類のみ含有してもよく、複数種類含有してもよい。アルカリ土類金属を含む化合物を添加する際は、アルカリ土類金属を含む化合物を一種類のみ添加してもよく、複数種類添加してもよい。複数種類添加する場合は、添加する量を互いに異ならせてもよく、等分してもよい。これらのアルカリ土類金属を含む化合物と無機マイクロバルーンを坏土に共存させて焼成することにより、本焼成の際に無機マイクロバルーンを溶融させて、気孔部をインクボトル状に粗大化させることなく、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔を多方面に連結させた高気孔率な多孔質構造を形成することができる。
【0035】
このように、凝集しても焼成後に気孔部をインクボトル状に粗大化させることなく、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔を多方面に連結するのに有効と思われる造孔剤を使用することにより、有機系の造孔剤等を使用した場合に問題となる造孔剤の凝集が生じても、粗大気孔を生じる可能性が極めて低いために、流体の漏れを生じる可能性が低く、含塵流体中のパティキュレート等を効率よく捕集することができる。また、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔が多方面に連結するために、同じ気孔率、平均気孔径であっても、より優れた透過性能(透過率)をもつセラミックス多孔質体を提供することができる。また、無機マイクロバルーンを使用した場合、溶融した酸化物相が小さな微細孔部を充填するために、粒子状の炭化珪素粒子間のネッキングを補助し、強度を向上させることができる。更に、酸化物相内に、コーディエライト、アノーサイト、ストロンチウム長石(SrAlSi)、及びセルシアン(BaAlSi)等を析出させることにより、更に耐熱衝撃性、耐酸化性、及び強度を向上させることができる。なお、この場合、使用するアルカリ土類金属を含む化合物は、効率的な酸化物相の形成、及び入手・取扱い容易性等の観点からアルカリ土類金属の一酸化物や炭酸塩等が好ましい。
【0036】
なお、仮焼は金属珪素が溶融する温度より低い温度にて実施することが好ましい。具体的には、150〜700℃程度の所定の温度で一旦保持してもよく、また、所定温度域で昇温速度を50℃/hr以下に遅くして仮焼してもよい。また、所定の温度で一旦保持する手法については、使用した有機バインダの種類と量により、一温度水準のみの保持でも複数温度水準での保持でもよく、更に複数温度水準で保持する場合には、互いに保持時間を同じにしても異ならせてもよい。また、昇温速度を遅くする手法についても同様に、ある一温度区域間のみ遅くしても複数区間で遅くしてもよく、更に複数区間の場合には、互いに速度を同じとしても異ならせてもよい。
【0037】
得られるセラミックス多孔質体を、これに含まれる耐火性粒子(粒子状の炭化珪素)が金属珪素で結合された多孔質構造とするためには、焼成時に金属珪素を軟化させる必要がある。金属珪素の融点は1410℃であるので、本焼成の際の焼成温度は1410℃以上とすることが好ましい。更に最適な焼成温度は、微構造や特性値から決定される。但し、1600℃を超える温度では金属珪素の蒸発が進行し、金属珪素を介した結合が困難となる場合があるため、焼成温度としては1410〜1600℃が適当であり、1420〜1580℃が好ましい。
【0038】
なお、セラミックス多孔質体の基材を構成する骨材として炭化珪素、結合材としてコーディエライトを使用する場合にも、上述してきた、骨材として炭化珪素、結合材として金属珪素を使用する場合の製造方法の一例に準じて行えばよい。具体的には、まず、骨材である炭化珪素に、凝集しても焼成後に気孔部をインクボトル状に粗大化させることなく、ある程度均一な気孔幅をもつ連通孔を多方面に連結するのに有効と思われる造孔剤(例えば、焼成しても無くならない無機マイクロバルーン、及び/又は、炭化珪素粒子粉をスプレイドライヤー等で処理した中空のバルーン(SD顆粒))と、これを含むコーディエライト化原料(マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)を含む化合物)と、必要に応じて、有機バインダ及び水とを添加して、混合及び混練し、可塑性の坏土を得る。無機マイクロバルーンを使用する場合、無機マイクロバルーンは、コーディエライト化原料のアルミニウム(Al)源及び珪素(Si)源の一部として用られるが、これ以外の材料を、アルミニウム(Al)源及び/又は珪素(Si)源として添加してもよい。無機マイクロバルーン以外に用いるアルミニウム(Al)源としては、不純物が少ないという点で酸化アルミニウム(Al)若しくは水酸化アルミニウム(Al(OH))のいずれか又はこれらの両方を含有するもの等を挙げることができる。なお、更に気孔率を向上させたい場合は、有機系の造孔剤と併用することもできる。
【0039】
コーディエライト化原料に含まれるMg源の一部又は全部として水酸化マグネシウム(Mg(OH))及び/又は炭酸マグネシウム(MgCO)を用いることが好ましい。水酸化マグネシウム(Mg(OH))及び/又は炭酸マグネシウム(MgCO)は、焼成により形成されたコーディエライト中に残存する成分が少なく、得られるセラミックス多孔質体を、より高気孔率とすることができるといった効果を示す。なお、水酸化マグネシウム(Mg(OH))及び/又は炭酸マグネシウム(MgCO)を用いることに起因する前述の効果に実質的な影響を与えない量で、タルク等をマグネシウム(Mg)源として併用してもよい。
【0040】
得られた可塑性の坏土を適当な成形方法により、所望の形状、例えばハニカム形状等に成形する。この成形は、押出し成形法、射出成形法、プレス成形法、セラミックス原料を円柱状に成形後貫通孔を形成する方法等で行うことができ、中でも連続成形が容易であるとともに、コーディエライト結晶を配向させて低熱膨張性にできる点で押出し成形法で行うことが好ましい。
【0041】
次いで、得られた成形体を仮焼して成形体中に含まれる有機バインダを除去(脱脂)した後、本焼成を行う。仮焼は、コーディエライトが溶融する温度より低い温度にて実施することが好ましい。具体的には、300〜600℃程度の所定の温度で一旦保持してもよく、また、所定温度域で昇温速度を50℃/h以下に遅くして仮焼してもよい。
【0042】
仮焼の雰囲気については、酸化雰囲気でもよいが、成形体中に有機バインダが多く含まれる場合には、仮焼中にそれが酸素で激しく燃焼して成形体温度を急激に上昇させることがあるため、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気で行うことによって、成形体の異常昇温を抑制することが好ましい。この異常昇温の抑制は、熱膨張係数の大きい(熱衝撃に弱い)原料を用いた場合に特に好ましい。なお、例えば有機バインダの添加割合が、主原料に対して20体積%以上である場合には、前述の不活性雰囲気にて仮焼することが好ましい。
【0043】
炭化珪素がコーディエライトで結合された組織を得るためには、コーディエライトを軟化させる必要がある。コーディエライトの軟化点は約1400℃であるので、本焼成の際の焼成温度は1400℃以上とすることが好ましい。更に最適な焼成温度は、微構造や特性値から決定される。但し、1500℃を超える温度ではコーディエライトの融点を大きく超えることになり、焼成収縮が大となって所望の微構造を得ることが困難になることから、焼成温度としては1400〜1500℃が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
平均粒径33μmの炭化珪素(SiC)原料粉末と、平均粒径5μmの珪素(Si)粉末とを、質量比で80:20の組成となるように配合し、この粉末100質量部に対して、表1に示す質量部のフライアッシュバルーンを添加した。次いで、上記フライアッシュバルーンを溶融するに十分な量のアルカリ土類金属を含む化合物、及び有機バインダーとしてメチルセルロース6質量部、界面活性剤2.5質量部、及び水24質量部を加え、均一に混合及び混練して成形用の坏土を得た。得られた坏土を、押出成形機にて外径45mm、長さ120mm、隔壁厚さ0.43mm、セル密度100セル/平方インチ(16セル/cm)のハニカム形状に成形し、次いで、500℃で5時間、脱脂のための仮焼を行った後、非酸化雰囲気において1450℃で2時間の焼成を行い、ハニカム構造のセラミックス多孔質体(実施例1)を作製した。
【0046】
(実施例2)
フライアッシュバルーンに加えて、更に有機造孔剤(デンプン(平均粒径50μm))を20質量部添加すること以外は、前述の実施例1と同様の操作によりハニカム構造のセラミックス多孔質体(実施例2)を作製した。
【0047】
(実施例3)
平均粒径33μmの炭化珪素(SiC)原料粉末と、フライアッシュバルーンを含まないコーディエライト化原料粉末とを、質量比で80:20の組成となるように配合し、この粉末100質量部に対して、表1に示す質量部のフライアッシュバルーンを添加した。次いで、有機造孔剤(デンプン(平均粒径50μm))を20質量部、更に、有機バインダーとしてメチルセルロース6質量部、界面活性剤2.5質量部、及び水24質量部を加え、均一に混合及び混練して成形用の坏土を得た。得られた坏土を、押出成形機にて外径45mm、長さ120mm、隔壁厚さ0.43mm、セル密度100セル/平方インチ(16セル/cm)のハニカム形状に成形し、次いで、500℃で5時間、脱脂のための仮焼を行った後、酸化雰囲気において1420℃で2時間の焼成を行い、ハニカム構造のセラミックス多孔質体(実施例3)を作製した。
【0048】
(比較例1)
フライアッシュバルーンとアルカリ土類金属を含む化合物を添加しないこと以外は、前述の実施例1と同様の操作によりハニカム構造のセラミックス多孔質体(比較例1)を作製した。
【0049】
(比較例2)
フライアッシュバルーンとアルカリ土類金属を含む化合物を添加しないこと、及び有機造孔剤(デンプン(平均粒径50μm))の添加量を30質量部とすること以外は、前述の実施例2と同様の操作によりハニカム構造のセラミックス多孔質体(比較例2)を作製した。
【0050】
(比較例3)
フライアッシュバルーンとアルカリ土類金属を含む化合物を添加しないこと、及び発泡樹脂(アクリロニトリル系プラスチックバルーン(平均粒径50μm))を15質量部添加すること、並びに有機造孔剤(デンプン(平均粒径50μm))の添加量を15質量部とすること以外は、前述の実施例2と同様の操作によりハニカム構造のセラミックス多孔質体(比較例3)を作製した。
【0051】
(比較例4)
平均粒径142μmのムライト(3Al・2SiO)原料粉末と、平均粒径3μmの結合材粉末(BO、SiO)とを、質量比で75:25の組成となるように配合した。次いで、有機バインダーとしてメチルセルロース6質量部、界面活性剤2.5質量部、及び水24質量部を加え、均一に混合及び混練して成形用の坏土を得た。得られた坏土を、押出成形機にて外径45mm、長さ120mm、隔壁厚さ0.43mm、セル密度100セル/平方インチ(16セル/cm)のハニカム形状に成形し、次いで、500℃で5時間、脱脂のための仮焼を行った後、酸化雰囲気において1000℃で2時間の焼成を行い、ハニカム構造のセラミックス多孔質体(比較例4)を作製した。
【0052】
(比較例5)
フライアッシュバルーンとアルカリ土類金属を含む化合物を添加しないこと、及び発泡樹脂(アクリロニトリル系プラスチックバルーン(平均粒径50μm))を40質量部添加すること、並びに有機造孔剤(デンプン(平均粒径50μm))の添加量を40質量部とすること以外は、前述の実施例2と同様の操作によりハニカム構造のセラミックス多孔質体(比較例5)を作製した。
【0053】
【表1】

【0054】
(物性値評価)
作製した各セラミックス多孔質体について、以下に示す物性値を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
[気孔率]:アルキメデス法にて測定した。
【0056】
[平均気孔径]:水銀ポロシメーターにて測定した。
【0057】
[4点曲げ強度]:JIS R1601に記載の方法に準拠し、室温条件下で測定した。
【0058】
[透過率]:パームポロメーター(PMI社製)にて測定した。
【0059】
[捕集効率]:単位時間当りに一定のパティキュレートを発生するエンジンを使用してその出口側に濾紙を配設し、フィルタ(セラミックス多孔質体)を付けないときに濾紙に堆積するパティキュレートの質量を100とした場合において、フィルタ(セラミックス多孔質体)を付けたときに濾紙に堆積するパティキュレートの質量を差し引いた値を捕集効率(%)として算出した。
【0060】
(画像解析)
画像解析用アプリケーション(Image−pro Plus(商品名)(MEDIA CYBERNETICS社製))を使用して、各セラミックス多孔質体の画像解析を実施した。具体的には、まず作製した各セラミックス多孔質体の任意の部分を切断するとともに切断面を研磨して、その平面画像をPCに取り込み、二値化処理して、図1(a)に示すような白色部分の気孔部1と黒色部分の非気孔部2とに抽出した。次いで、この画像上で、図1(b)に示すような気孔部1の中央部を通る中央線3を引き、気孔部平均幅(D(μm))、及び気孔部平均長さ(L(μm))を測定・算出した。得られた結果を表2に示す。また、「ε×(D/2)」の値に対して透過率をプロットしたグラフを図2に、「ε×(D/2)/L」の値に対して透過率をプロットしたグラフを図3に示す。なお、図2、図3中の斜線は、プロットした点に基づいて描いた線形近似曲線である。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、実施例1〜3のセラミックス多孔質体は、比較例1〜5のセラミックス多孔質体に比べて、十分な強度・捕集効率を示すとともに高い透過率を有するものであることが明らかである。また、比較例4のセラミックス多孔質体は、その平均気孔径(D(μm))の値が大きいものであるにもかかわらず、その透過率は低いことが明らかである。これは、気孔部平均長さ(L(μm))の値が他のセラミックス多孔質体に比して大きいこと、即ち気孔の枝分かれが少なく、導入された流体が独立した1本の長い気孔部内を蛇行して流れなければならないためであると考えられる。これに対して、実施例1〜3のセラミックス多孔質体は、これらの気孔部平均長さ(L(μm))の値が比較例1〜4のセラミックス多孔質体に比して小さい、即ち気孔の枝分かれがより細かく、導入された流体が複数の気孔部内をより自由度の大きい状態で透過することができ、最も圧力損失の低くなる流路を選択できるために、高い透過率を有するためであると考えられる。
【0063】
また、図2と図3との比較からも明らかなように、セラミックス多孔質体の透過率は、「ε×(D/2)」(図2)に比して「ε×(D/2)/L」(図3)の方がより密接な比例関係にあることが明らかである。従って、「ε×(D/2)/L」の値を指標としてセラミックス多孔質体の透過性能の優劣を判定する本発明の評価方法によれば、対象とするセラミックス多孔質体の透過性能を、従前の評価方法ではなし得なかった良好な精度で、簡便かつ容易に判別・評価することができる。更に、単に透過性能の優劣を評価するだけでなく、その透過性能の優劣の要因となるパラメーターを気孔率、気孔径だけでなく、気孔の形状からも評価することができるために、L≦D/2を満たすセラミックス多孔質体をDPFの構成材料としてより優れた気孔形状をもつ多孔質体であると判別・評価することができる。即ち、本発明の評価方法を採用しつつ所定の条件を満たすように作製したセラミックス多孔質体は、高気孔率でありながらも十分な強度を保持し、かつ、高捕集効率・高透過率なものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明のセラミックス多孔質体は、所定の切断面の平面画像を画像解析で二値化処理することにより、気孔部と非気孔部とに区別し、気孔部の中央部を通る中央線を引いた場合に、気孔率(ε(%))と、気孔部平均幅(D(μm))と、気孔部平均長さ(L(μm))とが所定の関係を満たすものであるため、DPF等のフィルタを構成する材料として、優れた透過性能及び気孔形状を有するものであり、高気孔率でありながらも十分な強度を保持し、かつ、高捕集効率・高透過率であるという特性を備えている。
【0065】
一方、本発明のセラミックス多孔質体の透過性能評価方法によれば、所定の切断面の平面画像を画像解析で二値化処理することにより、気孔部と非気孔部とに区別し、気孔部の中央部を通る中央線を引いた場合に、気孔率(ε(%))と、気孔部平均幅(D(μm))と、気孔部平均長さ(L(μm))と、平均気孔径(D(μm))とが所定の関係を満たすときに、そのセラミックス多孔質体がDPFの構成材料として優れた透過性能及び気孔形状を有すると判定するために、高気孔率でありながらも十分な強度を保持し、かつ、高捕集効率・高透過率なセラミックス多孔質体を製造するための指標とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の端面を有するセラミックスからなる基材に、前記基材の端面間を連通するとともに分岐を有する多数の気孔が所定の気孔率で形成されてなるセラミックス多孔質体であって、
所定の平面で切断された前記基材の切断面の平面画像を、画像解析で二値化処理することにより、前記気孔に由来して特定される気孔部と、前記基材に由来して特定される非気孔部とに区別し、区別された画像上で前記気孔部の中央部を通る中央線を引いた場合に、
前記気孔率(ε(%))と、前記気孔部を特定する互いに対向する外形線間の、前記中央線に直交する距離の平均値により表される気孔部平均幅(D(μm))と、前記中央線上の前記分岐に由来して特定される複数の分岐点のうち互いに隣接する隣接分岐点相互間における前記中央線の長さ、及び前記中央線の末端と前記中央線の末端に隣接する前記分岐点との間における前記中央線の長さの平均値により表される気孔部平均長さ(L(μm))と、平均気孔径(D(μm))とが、下記式(1)及び(2)の関係を満たすセラミックス多孔質体。
200≦ε×(D/2)/L …(1)
L≦D/2 …(2)
【請求項2】
透過率が、5×10−12以上である請求項1に記載のセラミックス多孔質体。
【請求項3】
透過率が、1×10−11以上である請求項1に記載のセラミックス多孔質体。
【請求項4】
前記セラミックスが、アルミナ、ムライト、コーディエライト、窒化珪素、及び炭化珪素からなる群より選択される少なくとも一種を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミックス多孔質体。
【請求項5】
4点曲げ強度が、10MPa以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載のセラミックス多孔質体。
【請求項6】
所定の端面を有するセラミックスからなる基材に、前記基材の端面間を連通するとともに分岐を有する多数の気孔が所定の気孔率で形成されてなるセラミックス多孔質体の、ディーゼルパティキュレートフィルタの構成材料としての透過性能の優劣、及び前記透過性能の優劣の要因を明らかにすることができる評価方法であって、
前記セラミックス多孔質体を所定の平面で切断することにより得られる前記基材の切断面の平面画像を、画像解析で二値化処理することにより、前記気孔に由来して特定される気孔部と、前記基材に由来して特定される非気孔部とに区別し、区別された画像上で前記気孔部の中央部を通る中央線を引いた場合に、
前記気孔率(ε(%))と、前記気孔部を特定する互いに対向する外形線間の、前記中央線に直交する距離の平均値により表される気孔部平均幅(D(μm))と、前記中央線上の前記分岐に由来して特定される複数の分岐点のうち互いに隣接する隣接分岐点相互間における前記中央線の長さ、及び前記中央線の末端と前記中央線の末端に隣接する前記分岐点との間における前記中央線の長さの平均値により表される気孔部平均長さ(L(μm))と、平均気孔径(D(μm))とが、下記式(1)及び(2)の関係を満たすときに、前記セラミックス多孔質体がディーゼルパティキュレートフィルタの構成材料として優れた透過性能及び気孔形状を有すると判定するセラミックス多孔質体の透過性能評価方法。
200≦ε×(D/2)/L …(1)
L≦D/2 …(2)

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/009922
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512027(P2005−512027)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010473
【国際出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】