説明

セラミックス微粒子の製造方法及びそれに用いられるセラミックス微粒子の製造装置

【課題】微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができるセラミックス微粒子の製造方法及びそれに用いられるセラミックス微粒子の製造装置を提供する。
【解決手段】界面活性剤を含む油性液体で構成された連続相中に、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成された分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成する工程(S100)と、前記生成した微小液滴を回収し、冷却する工程(S110)と、前記冷却した微小液滴を洗浄する工程(S120)と、前記洗浄した微小液滴を乾燥する工程(S130)と、前記乾燥した微小液滴を焼成する工程(S140)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス微粒子の製造方法及びそれに用いられるセラミックス微粒子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分取・分離用カラム充填剤などの用途に数μmから数百μm程度の粒径を有する固体微粒子(以下、単に、微粒子という)が用いられている。
このような微粒子のうち、樹脂で構成された微粒子(以下、樹脂微粒子という)の製造方法としては、交差部を有する微細流路内に2種類の液体(連続相、分散相)を導入して微小液滴を生成し、この生成した微小液滴を、光照射や、加熱、冷却などにより固化させて生成する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
また、樹脂微粒子の製造方法として、微小流路(本願でいう微細流路)で生成した微小液滴を、微小流路構造体(本願でいう微細流路構造体)の外部でビーカーなどに収集して硬化すると、硬化した微小粒子(本願でいう微粒子)の粒径のばらつきが大きくなるという課題を解決するために、微小流路の合流部で微小液滴が生成した直後に光照射や加熱を行って、微小流路構造体内の排出流路で微小液滴を硬化させる技術が知られている(例えば、特許文献2)。
また、前記微粒子のうち、セラミックスで構成された微粒子(以下、セラミックス微粒子という)の製造方法としては、スプレードライ法(例えば、特許文献3)や物理的粉砕法(例えば、特許文献4)等を用いる技術が知られている。
【特許文献1】特開2004−59802号公報
【特許文献2】特開2004−122107号公報
【特許文献3】特開2006−315871号公報
【特許文献4】特開2005−174711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献3、4に記載されているスプレードライ法や物理的粉砕法を用いて製造されたセラミックス微粒子は、真円に近い球状粒子を製造することが困難であり、形状が悪く、また、粒径分布が悪いという問題があった。なお、前記微粒子が球状から外れて形状が悪くなると微粒子としての流動性が悪化してしまうため、この微粒子を例えば充填剤に用いた場合は、その充填性が悪化するという問題があった。また、このようなセラミックス微粒子は、分散性が悪いため、分散性を良くするため各種分級工程が必要とされ、製造工程が煩雑化すると共に、歩留も悪いという問題があった。
また、ゾルゲル法と懸濁重合法や乳化重合法を組み合わせて、粒径がサブミクロンから数十μmのシリカゲルを製造する方法も実用化されているが、この方法では、それ以上のより大きな粒径のセラミックス微粒子を効率よく製造することが難しいという問題があった。
【0004】
更に、前述した特許文献1、2に記載されているような微細流路を用いた微粒子の製造方法では、樹脂微粒子の球状化においては成功しているが、セラミックス微粒子、特に、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を球状化させた例はなく、難しいとされていた。
更に、特許文献2に記載されているように、微小流路の合流部で微小液滴が生成した直後に光照射や加熱を行う場合は、微小液滴が生成される前に分散相が硬化しないように、様々な工夫(光照射の場合はマスク、加熱の場合は断熱材等)を施さなければならず、微細流路構造体が煩雑化してしまうという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができるセラミックス微粒子の製造方法及びそれに用いられるセラミックス微粒子の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミックス微粒子の製造方法は、界面活性剤を含む油性液体で構成された連続相中に、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成された分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成し、前記生成した微小液滴を回収し、冷却した後、前記連続相成分を除去し、その後、前記微小液滴を焼成することを特徴とする。
このような構成を備えることで、微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができる。
【0007】
詳しくは、本発明に係るセラミックス微粒子の製造方法は、界面活性剤を含む油性液体で構成された連続相中に、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成された分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成する工程と、前記生成した微小液滴を回収し、冷却する工程と、前記冷却した微小液滴を洗浄する工程と、前記洗浄した微小液滴を乾燥する工程と、前記乾燥した微小液滴を焼成する工程と、を備えたことを特徴とする。
このような構成を備えることで、微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができる。
【0008】
前記ゲル化剤は、寒天を好適に用いることができる。
このような構成を備えることで、前記生成した微小液滴を冷却する際、急速に微小液滴を硬化させることができるため、微小液滴の形状を悪化させることがなく、真円に近い状態で強固な球状ゲルを形成することができる。
前記ゲル化剤に、寒天を用いる場合には、前記微小液滴の生成は、加熱環境下で行うことが好ましい。
このような構成を備えることで、寒天を含む前記分散相が微小液滴生成前に固化されるのを防止することができ、効率よく微小液滴を生成することができる。
【0009】
本発明に係るセラミックス微粒子の製造装置は、界面活性剤を含む油性液体で構成された連続相中に、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成された分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成する微細流路構造体と、前記微細流路構造体内に前記連続相を供給する連続相供給部と、前記微細流路構造体内に前記分散相を供給する分散相供給部と、前記微細流路構造体で生成した微小液滴を回収する回収部と、前記回収部で回収した微小液滴を冷却する冷却部と、前記冷却部で冷却した微小液滴を洗浄する洗浄部と、前記洗浄部で洗浄した微小液滴を乾燥する乾燥部と、を備えることを特徴とする。
このような構成を備えることで、微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができる。
【0010】
前記ゲル化剤に寒天を用いる場合には、前記微細流路構造体、前記連続相供給部及び前記分散相供給部を加熱する加熱部を更に備えていることが好ましい。
このような構成を備えることで、寒天を含む前記分散相が微小液滴生成前に固化されるのを防止することができ、効率よく微小液滴を生成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができるセラミックス微粒子の製造方法及びそれに用いられるセラミックス微粒子の製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、図面を参照して、詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るセラミックス微粒子の製造方法を示す各工程のフローチャートである。
本発明に係るセラミックス微粒子の製造方法は、図1に示すように、最初に、周知の微細流路構造体を用いて微小液滴を生成する(S100:微小液滴生成工程)。
この微小液滴生成工程S100では、周知の微細流路構造体の微細流路内に連続相と分散相を例えば別経路で供給し、前記連続相と前記分散相が合流する合流部で、前記連続相中に前記分散相が送り込まれることによって、前記分散相が連続的にせん断され、真円に近い球状の形状を有し、かつ、単分散性に優れた前記分散相で構成された微小液滴を生成する。
【0013】
この微小液滴生成工程S100で用いられる連続相は、界面活性剤を含む油性液体で構成されている。なお、該油性液体に界面活性剤が含まれていない場合には、分散相を連続的にせん断する際、真円に近い球状の微小液滴を連続的に生成することが難しい。前記油性液体は、例えば、イソパラフィンを用いることができる。また、前記界面活性剤は、例えば、ソルビタントリオレエートを用いることができる。前記連続相は、例えば、油性液体に対して界面活性剤が4wt%程度含まれるものを用いることができる。
また、この微小液滴生成工程S100で用いられる分散相は、冷却によりゲル化(固化)するゲル化剤と、セラミックス原料とが含まれる水性液体で構成されている。
【0014】
前記ゲル化剤は水性のものが用いられ、後述する焼成工程において燃焼、気化するものであれば、その材料は特に限定されないが、ゲル化速度が速く、少量で大きなゲル化強度を得られる点から寒天を用いることが好ましい。特に、寒天から精製された高純度アガロースが純度の面でより好ましい。
寒天は、数%という小量でも、冷却することで急速に強固なゲルを形成することができるため、後述する冷却工程において、微細流路構造体を用いて生成された真円に近い球状の微小液滴の形状を悪化させることなく、真円に近い状態で容易に強固な球状ゲルを生成することができる。
【0015】
前記セラミック原料は、セラミックス超微粒子が用いられる。ここでいう超微粒子とは、最終的に製造されるセラミックス微粒子よりも粒径が小さいものをいい、例えば、nmオーダーから数μm程度の粒径をもつ1次粒子或いは2次粒子を有する微粒子をさす。なお、前記セラミックス超微粒子は、前述したゲル化剤に所定量分散、混合させることができれば、特にその材料は限定されないが、バインダとなるゲル化剤(例えば、寒天)に含まれるカーボンを除去することが必要であるならば、酸素含有雰囲気で焼成可能な酸化物系セラミックス材料を用いることができる。また、ゲル化剤(例えば、寒天)に含まれるカーボンの数%の含有を許容できるものであれば、非酸化物系セラミックス材料も適用可能である。特に、水溶性カーボンブラックや炭化物金属系のセラミックス超微粒子を用いる場合には、前記カーボンを原料の一部として使用するため好適に適用が可能である。なお、ここで用いられるセラミックス超微粒子は、周知の方法(例えば、湿式合成法や物理的粉砕法等)により生成されたものを用いることができる。
【0016】
なお、ゲル化剤として、寒天を用いる場合には、前記微小液滴生成工程S100における微小液滴の生成は、加熱環境下で行うことが好ましい。このような構成とすることで、寒天を含む分散相が微小液滴生成前に固化されるのを防止することができ、効率よく微小液滴を形成することができる。
なお、ゲル化剤として、寒天を用いた場合には、前述したように加熱環境下で行うことが好ましいが、加熱環境下で行うかどうかは、ゲル化剤の材料に応じて適時設定される。
【0017】
また、前記周知の微細流路構造体は、例えば、断面方向の幅及び高さが20〜1000μm程度の微細流路が形成されたものが用いられる。また、前記微細流路構造体は、微小液滴の形成に用いられる分散相が水性であるため、微細流路の内面は疎水性であることが好ましい。前記微細流路の内面が親水性である場合には、微細流路内の分散相の流れに悪影響を及ぼし、真円に近い球状の微小液滴を生成することが難しい。
【0018】
次に、生成した微小液滴を回収し、冷却する(S110:微小液滴冷却工程)。
この微小液滴冷却工程S110では、微小液滴生成工程S100の微細流路構造体内で生成した微小液滴を、微細流路構造体の外部へ排出して、例えば、回収容器を用いて前記連続相と共に回収し、回収した微小液滴を冷却する。なお、前記分散相には冷却により固化するゲル化剤が含まれているため、冷却することで、微小液滴内に含まれるゲル化剤が固化し、これによって、微小液滴全体が固化されて球状ゲルとなる。
【0019】
このように、微小液滴冷却工程S110では、微細流路構造体で生成した微小液滴をその外部で回収し、回収した微小液滴を冷却するため、微細流路構造体自体が煩雑化することが無く、かつ、微細流路構造体を用いて生成された真円に近い球状の微小液滴の形状を悪化させることなく、真円に近い状態で容易に強固な球状ゲルを生成することができる。
なお、微細流路構造体内で生成した微小液滴を微細流路構造体内で冷却して固化させる場合には、微小液滴が生成される前に、微細流路内に供給した分散相が固化しないように、新たに、加熱手段等を設ける必要があり、微細流路構造体自体が煩雑化してしまうため好ましくない。
なお、この微小液滴を冷却する温度は、使用するゲル化剤により適時設定されるが、ゲル化剤に寒天を用いた場合には、10℃以下に冷却することが好ましい。
また、この微小液滴冷却工程S110では、生成した微小液滴を回収しながら冷却してもよく、回収した後、冷却してもよい。なお、早急に冷却処理を施すことが好ましいため、生成した微小液滴を回収しながら冷却したほうが好ましいのは言うまでもない。
【0020】
次に、冷却した微小液滴(球状ゲル)を洗浄する(S120:微小液滴洗浄工程)。
この微小液滴洗浄工程S120では、微小液滴生成工程S100で使用した連続相成分(界面活性剤を含む油性液体成分)、特に、界面活性剤成分を除去する。主たる方法としては、例えば、微小液滴が回収され、冷却された回収容器内にエタノール等の溶剤を供給して、該容器内で、微小液滴と共に回収された連続相を前記溶剤に置換する。また、この処理を行うことで、微小液滴に含まれている水分も前記溶剤に置換される。
【0021】
次に、洗浄した球状ゲルを乾燥して球状セラミック成形体を得る(S130:微小液滴乾燥工程)。
この微小液滴乾燥工程S130では、微小液滴洗浄工程S120で使用した溶剤を除去する。主たる方法としては、例えば、前記溶剤に置換した該回収容器内の溶剤を、減圧下により真空乾燥を行うことで、蒸発させて除去する。これによって、球状セラミックス成形体が得られる。
【0022】
最後に、乾燥させた球状ゲル、すなわち、球状セラミック成形体を焼成する(S140:微小液滴焼成工程)。
この微小液滴焼成工程S140では、前記球状セラミック成形体を焼成することで、球状セラミック成形体内に含まれるゲル化剤が焼成、気化されて、前記ゲル化剤が球状セラミック成形体内から除去され、セラミックス原料の固体成分のみとなった球状セラミック焼結体が得られる。
【0023】
この焼成を行う際に用いられる雰囲気ガス、焼成温度は、使用する前記ゲル化剤及びセラミックス原料の材質によって適時設定されるが、ゲル化剤として寒天を用いた場合には、酸素雰囲気ガス中で焼成することにより、前記寒天を球状セラミック成形体内から好適に除去することが可能である。また、寒天に含まれる金属不純物の除去を目的とする場合は、水素雰囲気中で焼成することも効果的である。
また、分散相に使用するセラミックス原料の材質や粒径によって、焼成温度を制御することにより、製造されるセラミックス微粒子の構造を多孔体から緻密体まで任意に制御することが可能である。
【0024】
以上のように、本発明に係るセラミックス微粒子の製造方法は、上述した各々の工程を備えているため、微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができる。
なお、前述した微小液滴洗浄工程S120を行わず、直接回収した微小液滴を焼成した場合には、各微小液滴同士が凝縮、結合してしまい、微小液滴自体の形状が大きく悪化してしまうため、好ましくない。
なお、微小液滴洗浄工程S120後、微小液滴乾燥工程S130前に、微小液滴洗浄工程S120で洗浄した球状ゲルに油性成分を被膜する工程を更に備えることが好ましい。
【0025】
この油性成分を球状ゲルに被膜する方法としては、例えば、微小液滴洗浄工程S120において、エタノール等の溶剤に置換された回収容器に、例えば、イソパラフィン等の油性成分を供給し、前記溶剤を前記油性成分に置換することで行う。
その後、油性成分を被膜させた球状ゲルに対して微小液滴乾燥工程S130を行い、前記溶剤成分及び油性成分を除去した後、前記微小液滴焼成工程S140を行うと、微小液滴焼成工程S140における球状セラミック成形体の形状の悪化を防止することができ、より球状のセラミックス微粒子を得ることができる。
【0026】
次に、前述したセラミックス微粒子の製造方法に用いられるセラミックス微粒子の製造装置を説明する。図2は、本発明の実施形態に係るセラミックス微粒子の製造装置を説明するための概念図である。
本実施形態に関るセラミックス微粒子の製造装置1は、図2に示すように、微小液滴生成部10と、微小液滴回収部60と、微小液滴冷却部90と、微小液滴洗浄部100と、微小液滴乾燥部120とを備える。
【0027】
微小液滴生成部10は、連続相中に分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成する微細流路構造体20と、微細流路構造体20内に連続相を供給する連続相供給部30と、微細流路構造体20内に分散相を供給する分散相供給部40とを備える。微小液滴生成部10は、例えば、図2に示すように、プラスチック製の板状基板15上に各々固定された構成を備えている。
【0028】
微細流路講造体20は、図2に示すように、連続相を供給する連続相供給口21と、連続相供給口21から延びる第1微細流路22と、分散相を供給する分散相供給口23と、分散相供給口23から伸び、第1微細流路22と任意の角度をもって繋がる第2微細流路24と、第1微細流路22と第2微細流路24と繋がり、前記連続相供給口21から供給した連続相と、前記連続相中に前記分散相が送り込まれることによって生成される微小液滴とが流れる第3微細流路25と、前記第3微細流路25を流れる連続相及び微小液滴を排出する排出口26とを備える。
【0029】
本実施形態で係る微細流路構造体20は、図2に示すように、第1微細流路22と第3微細流路25が直線的に繋がっており、第2微細流路24は、第1微細流路22及び第3微細流路25に対して各々90度の角度をもって繋がったいわゆるT字型の構成のものを用いて説明するが、本発明に係る微細流路構造体20は、連続相中に分散相が送り込まれることによって微小液滴が生成される構成を備えていればよく、図2に示すような構成に限定されるものではない。
【0030】
微細流路講造体20は、例えば、第1の板状基板の表面に前記第1から第3微細流路となる溝部を周知の方法(エッチング、レーザー加工等)で形成し、第2の板状基板上に前記連続相供給口、分散相供給口及び排出口となる貫通口を周知の方法(機械加工、レーザー加工等)で形成し、第1の板状基板と第2の板状基板とを前記溝部と前記貫通口とを合わせるように接合することで製造することができる。
微細流路構造体20に用いられる材質としては、前記溝部や前記貫通口が形成可能であって、かつ、ある程度の耐薬品性を備えていれば、特に限定されない。微細流路構造体20は、例えば、石英、ガラス、Al23、YAG等のセラミックス、シリコン、樹脂等で構成されている。なお、本実施形態では、ガラスを用いた例で説明する。
【0031】
連続相供給部30は、図2に示すように、連続相を所定量保持すると共に、保持された連続相を、例えば、供給管33を介して微細流路構造体20の連続相供給口21に供給する連続相供給装置37(例えば、注射器)で構成されている。この連続相供給装置37には、例えば、連続相の供給量を制御可能な図示しない制御部が設けられている。なお、連続相供給装置37に保持される連続相は、前述したように、界面活性剤を含む油性液体で構成されている。
【0032】
分散相供給部40は、図2に示すように、分散相を所定量保持すると共に、保持された分散相を、例えば、供給管43を介して微細流路構造体20の分散相供給口23に供給する分散相供給装置47(例えば、注射器)で構成されている。この分散相供給装置47には、例えば、分散相の供給量を制御可能な図示しない制御部が設けられている。なお、分散相供給装置47に保持される分散相は、前述したように、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成されている。
なお、前記分散相に含まれるゲル化剤に、寒天を用いる場合には、微小液滴生成部10全体、すなわち、微細流路構造体20、連続相供給部30及び分散相供給部40を、例えば、50℃程度に加熱する加熱部が更に設けられていることが好ましい。加熱部は、例えば、図2に示す板状基板15内に埋め込んだ加熱ヒータ50より構成することができる。
このような構成とすることで、前記分散相に含まれるゲル化剤に、寒天を用いる場合には、微小液滴が微細流路構造体20の合流部29で生成される前に該ゲル化剤を含む分散相が固化してしまうのを防止することができる。
【0033】
微小液滴回収部60(以下、単に、回収部60という)は、例えば、図2に示すように、微細流路構造体20で生成された微小液滴70と、微小液滴70と同時に流れる連続相75を、微細流路構造体20の排出口26に連結された排出管65を介して回収する回収容器(例えば、ガラス製のビーカー)で構成されている。
微小液滴冷却部90は、例えば、図2に示すように、回収部60を冷却するための、氷93を有する氷水97を保持した金属製の保持容器で構成されている。
微小液滴洗浄部100は、例えば、図2に示すように、回収部60に回収された連続相75を回収部60から排液する図示しない第1の排液手段と、連続相75を排液した回収部60内にエタノール等の溶剤105を供給する図示しない溶剤供給手段と、回収部60内に供給された溶剤105を回収部60から排液する図示しない第2の排液手段とを備える。
【0034】
前記図示しない第1の排液手段、前記第2の排液手段は、例えば、回収部60を固定しながら傾斜させて連続相75又は溶剤105のみを回収部60から排液する図示しない排液装置を用いることができる。
前記図示しない溶剤供給手段は、例えば、回収部60の周辺に設けられ、溶剤を所定量保持すると共に、保持された溶剤を、回収部60内に供給することができる図示しない溶剤供給装置で構成されている。
すなわち、微小液滴洗浄部100では、回収部60に回収された連続相75は、溶剤105に置換され(図2(a))、その後、回収部60から溶剤105が排液される(図2(b))。
このように、微小液滴洗浄部100では、前記第1、第2の排液手段及び前記溶剤供給手段を備えているため、これによって、回収部60内に存在する連続相成分、特に、界面活性剤成分を除去することができる。
【0035】
また、微小液滴洗浄部100は、溶剤供給手段により回収部60に溶剤105が供給された後、溶剤105を攪拌する図示しない攪拌手段や、回収部60に振動を付与する図示しない振動手段を設けてもよい。このような攪拌手段や、振動手段を設けることで、回収部60内に存在する連続相成分を除去する効率が向上する。ただし、前記図示しない攪拌手段や振動手段を備える場合には、それによって、回収部60に収容されている球状ゲルを破壊しないように、その限度において、前記攪拌手段及び抵振手段を設けることが必要である。
微小液滴乾燥部120は、例えば、減圧下により真空乾燥を行う図示しない乾燥機で構成されている。微小液滴乾燥部120では、例えば、図示しない乾燥機を用いて、図2に示すように、回収部60に残存する溶剤105を完全に蒸発させて除去する。
なお、微小液滴乾燥部120は、前記乾燥機ではなく、回収部60を加熱する図示しない加熱ヒータで構成されていてもよい。
【0036】
以上のように、本発明に係るセラミックス微粒子の製造装置は、上述した構成を備えているため、微細流路構造体が煩雑化すること無く、真円に近い球状の形状を備え、かつ、単分散性に優れ、セラミックス単体の固体成分のみで構成されたセラミックス微粒子を容易に製造することができる。
また、本発明に係るセラミックス微粒子の製造装置は、微小液滴洗浄部100で洗浄した微小液滴を油性成分で被膜する図示しない油性成分被膜部を更に備えていることが好ましい。
【0037】
油性成分被膜部は、例えば、回収部60内に油性成分を供給する図示しない油性成分供給手段と、回収部60内に供給された油性成分を回収部60から排液する図示しない第3の排液手段で構成されている。
前記油性成分供給手段は、例えば、回収部60の周辺に設けられ、油性成分を所定量保持すると共に、保持された油性成分を、回収部60内に供給することができる図示しない油性成分供給装置で構成されている。ここでいう油性成分は、前述したように、例えば、イソパラフィンを用いることができる。
前記第3の排液手段は、例えば、回収部60を固定しながら傾斜させて油性成分を回収部60から排液する図示しない排液装置を用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
(実施例1)
図2に示すようなセラミックス微粒子の製造装置を用いてセラミックス微粒子を製造した。
幅及び高さが200μmであり、内面が疎水性である微細流路を有するT字型の微細流路構造体内に、連続相として、界面活性剤(ソルビタントリオレエート)を含むイソパラフィンを、分散相として、水、寒天及び一次粒子の粒径が50nm〜100nmであるリン酸カルシウム粉が分散混合された水性液体を各々供給して、前記分散相で構成された微小液滴を微細流路構造体内で生成し、前記生成した微小液滴及び前記連続相をビーカーで回収して、氷水により冷却して球状ゲルとした。
【0039】
次に、ビーカーに回収した前記連続相を排液した後、エタノールを前記ビーカー内に供給して、球状ゲルを洗浄し、前記ビーカー内に含まれる連続相成分を除去した。エタノール洗浄後、前記ビーカーを70℃程度に加熱し、前記ビーカー内のエタノール成分を蒸発させた。
最後に、球状ゲルのエタノール成分を蒸発させて得られた球状セラミック成形体を、加熱炉に投入し、酸素雰囲気ガス中、600℃で、1時間焼成することにより、セラミックス微粒子を製造した。
図3に、実施例1で製造したセラミックス微粒子のSEM写真を示す。
図3に示すように、実施例1で製造されたセラミックス微粒子は、真円に近い球状の形状を備えていることが確認された。
【0040】
(実施例2)
前記エタノール洗浄後、前記エタノール成分を蒸発させる前に、ビーカー内に、界面活性剤を含まないイソパラフィンを供給して、洗浄した球状ゲルをイソパラフィンにより被膜させた。その後、前記ビーカーを70℃程度に加熱し、前記ビーカー内のイソパラフィンを蒸発させて球状セラミック成形体を得た。最後に、得られた球状セラミック成形体を加熱炉に投入し、酸素雰囲気ガス中、600℃で、1時間焼成することにより、セラミックス微粒子を製造した。
その他は、実施例1と同様な方法で行った。
図4に、実施例2で製造したセラミックス微粒子のSEM写真を示す。
図4に示すように、実施例2で製造されたセラミックス微粒子は、実施例1のものよりも、真円により近い球状の形状を備えていることが確認された。
【0041】
(比較例1)
前記エタノール洗浄後を行わないで、その他は、実施例1と同様な方法でセラミックス微粒子を製造した。
その結果、微小液滴を生成し冷却した時点では、真円に近い球状の形状を備えていたにもかかわらず、焼成後においては、各々の微粒子同士が凝縮してしまい、真円に近い球状のセラミックス微粒子を得ることが出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係るセラミックス微粒子の製造方法を示す各工程のフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態に係るセラミックス微粒子の製造装置を説明するための概念図である。
【図3】実施例1で製造したセラミックス微粒子のSEM写真である。
【図4】実施例2で製造したセラミックス微粒子のSEM写真である。
【符号の説明】
【0043】
1 セラミックス微粒子の製造装置
10 微小液滴生成部
20 微細流路講造体
30 連続相供給部
40 分散相供給部
50 加熱部
60 微小液滴回収部
90 微小液滴冷却部
100 微小液滴洗浄部
120 微小液滴乾燥部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を含む油性液体で構成された連続相中に、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成された分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成し、前記生成した微小液滴を回収し、冷却した後、前記連続相成分を除去し、その後、前記微小液滴を焼成することを特徴とするセラミックス微粒子の製造方法。
【請求項2】
界面活性剤を含む油性液体で構成された連続相中に、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成された分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成する工程と、
前記生成した微小液滴を回収し、冷却する工程と、
前記冷却した微小液滴を洗浄する工程と、
前記洗浄した微小液滴を乾燥する工程と、
前記乾燥した微小液滴を焼成する工程と、
を備えたことを特徴とするセラミックス微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化剤は、寒天であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記微小液滴の生成は、加熱環境下で行うことを特徴とする請求項3に記載のセラミックス微粒子の製造方法。
【請求項5】
界面活性剤を含む油性液体で構成された連続相中に、冷却によりゲル化するゲル化剤とセラミックス原料とが含まれる水性液体で構成された分散相が送り込まれることによって微小液滴を生成する微細流路構造体と、
前記微細流路構造体内に前記連続相を供給する連続相供給部と、
前記微細流路構造体内に前記分散相を供給する分散相供給部と、
前記微細流路構造体で生成した微小液滴を回収する回収部と、
前記回収部で回収した微小液滴を冷却する冷却部と、
前記冷却部で冷却した微小液滴を洗浄する洗浄部と、
前記洗浄部で洗浄した微小液滴を乾燥する乾燥部と、
を備えることを特徴とするセラミックス微粒子の製造装置。
【請求項6】
前記微細流路構造体、前記連続相供給部及び前記分散相供給部を加熱する加熱部を更に備えていることを特徴とする請求項5に記載のセラミックス微粒子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−184890(P2009−184890A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28402(P2008−28402)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】