説明

セラミックス非破壊検査用染料回収方法及びその回収システム

【課題】セラミックス非破壊検査から排出される染料廃水中に含まれる染料を回収する方法、その回収システム、及び染料吸着剤を提供する。
【解決手段】セラミックス非破壊検査用染料回収方法において、染料吸着剤を充填した吸着剤カラムに染料廃水を導入して染料廃水中の染料を吸着させ、該吸着剤カラムから漏れ出す該染料の量が増大する前に、該吸着剤カラムへの該染料廃水の導入を停止し、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤カラムに導入して、吸着した染料を脱着させて該吸着剤カラムから排出することにより、該染料及び該染料脱着用有機溶媒を回収することを特徴とする染料回収方法、その回収システム、及び染料吸着剤。
【効果】着色汚泥の発生がなく、環境負荷を低減し、処分費用を節減することができると共に、染料回収後の廃水を各種の用水として再利用することを可能とする、染料廃水中の染料の高効率回収技術を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス非破壊検査用染料回収方法、その回収システム、及びセラミックス非破壊検査用染料吸着剤に関するものであり、更に詳しくは、セラミックス非破壊検査後に発生する染料廃水中に含まれる染料を、特定の染料回収システムを用いて、吸着・回収する染料回収方法、その回収システム、及び染料吸着剤に関するものである。本発明は、セラミックス非破壊検査後に不可避的に、且つ大量に発生する染料廃水を高効率に処理して、染料回収後の廃水を非飲食用等として再利用することを可能とすると共に、セラミックス非破壊検査で大量発生する染料廃水の処分問題を根本的に解決することを可能とする新しいセラミックス非破壊検査用染料回収技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製品(焼結体)の非破壊検査には、色が鮮やかな染料が多用されているが、これは、セラミックス製品に亀裂や欠陥が入っていると、製品の品質や信頼性を保証できないことから、製品の亀裂や欠陥を非破壊で且つ簡便に検出する必要があるためである。その検査方法は、例えば、セラミックス製品を検査用染料が入った容器に浸し、その後、該セラミックス製品を水洗するといったシンプルな方法である。セラミックス焼結体に亀裂や欠陥がない場合には、水洗によって染料はほぼ一様に取り除かれる。一方、セラミックス焼結体に、亀裂や欠陥が存在すると、そこに染料が染み込んで除去し難くなるため、水洗後においても、その亀裂や欠陥に染料が残り、その結果として、目視で亀裂や欠陥の有無を判別することができる。
【0003】
染料としては、赤色染料浸透探傷液が多用されている。例えば、セラミックスの表面の欠陥と健全部との識別性に優れ、欠陥を容易に検出できるセラミックス用探傷剤として、水を溶剤の主成分とし、染料0.1〜10重量%と、常温で、固体で且つ35℃以上で流動状になる水溶性有機物0.5〜30重量%を含有する探傷剤が例示される(特許文献1参照)。上記セラミックス製品の非破壊検査において、赤色染料浸透探傷液は、洗浄水で100倍程度に希釈され、それが染料廃水となる。日本のセラミックス産業全体では、概算で、一日当たり5万トン以上の染料廃水が排出されている。また、この染料廃水中には、使用した赤色染料浸透探傷液の量の80%以上が含まれている。
【0004】
現状の染料廃水の処理方法は、以下の通りであり、セラミックス産業の約85%以上が該処理を行っている。即ち、染料の回収は、染料廃水中の染料を粘土系吸着剤に吸着させ、これを高分子凝集剤で凝集沈殿させ、脱水又は濾過処理して行われている。こうした結果、不可避的に着色汚泥が生成する。現状では、該着色汚泥は、産業廃棄物として埋立て処分をせざるを得ず、該着色汚泥の埋立て処分は、環境負荷低減の観点から緊急に解決すべき問題である。その上、この埋立て処分に至るまでの一連の処理経費は膨大な額でもある。
【0005】
従来、上記問題を解決するための先行技術の報告は見当たらない。排水中の染料の除去に関しては、例えば、繊維工業や製紙工業等において使用される染色機械の排出口から排出される染色排水中の染料除去方法、及び同方法に使用される染料除去剤が提案されている(特許文献2参照)。また、複合吸着剤に関して、例えば、特に広汎な被吸着物質に対して優れた吸着能を示し、且つ構成成分単独が示す吸着能からは予想外な相乗的吸着能を発揮するハイドロタルサイト類化合物等の複合吸着剤(特許文献3参照)、或いはシリカ及びチタニアを含有する微細多孔質の酸化物複合体よりなる、特に金属イオン及び各種有機物質に対する優れた吸着能を有する吸着剤(特許文献4参照)が提案されている。
【0006】
しかし、例えば、上記特許文献3で、「従来、活性炭は最も多目的に利用できる吸着剤として広く使用されている。しかしながら、活性炭の吸着能は、例えばカルボン酸類やスルホン酸類などの有機酸類の吸着、メチレンブルーやアマランスなどの酸性染料含有排水の脱色、アルカリの吸着などには不充分である。・・・(以下略)」と述べられているように、対象とする染料によって吸着剤の吸着性能が大きく異なる。即ち、上記特許文献2に記載の染料の用途は、セラミックス製品の非破壊検査用染料とは全く異なるため、特許文献2に記載の染色排水中の染料除去方法及び染料除去剤が、上記セラミックス焼結体の非破壊検査用の染料に有効に働くかどうかは全く不明である。
【0007】
また、もし有効であったとしても、吸着後、効果的な脱着性能を有するかどうかは不明である。しかも、効果的な脱着性能を有するかどうかは、溶媒として何を用いるかということとも大きく関わり、不明の上に不明を重ねることとなり、結果的に全く予想がつかないという状況に陥る。従って、吸着剤が、セラミックス非破壊検査用染料に対して効果的な吸脱着性能を有していないと、着色汚泥の処理に困るという上記問題が全く解決できないし、また、高価であると、ランニングコストが嵩むという問題も解決できない。
【0008】
また、上記特許文献3には、ハイドロタルサイト類化合物等が、セラミック焼結体の非破壊検査用染料の吸着に効果的であるとの記述がなく、また、それを予想可能とせしめる参考データも全くない。また、仮に、吸着性能があったとしても、上記のように、どの有機溶媒が使用できるか、また、有機溶媒を使用した場合に、効果的な脱着性能を有するかどうかも全く不明である。更に、上記特許文献4に記載されているシリカ及びチタニアを含有する微細多孔質の酸化物複合体よりなる吸着剤についても、セラミックス焼結体の非破壊検査用染料に対して効果的な吸脱着性能を有するかどうか全く不明である。
【0009】
【特許文献1】特開平8−43324号公報
【特許文献2】特開平10−5750号公報
【特許文献3】特開昭58−214338号公報
【特許文献4】特開昭58−24338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、セラミックス非破壊検査用染料の新しい回収技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、セラミックス非破壊検査において排出される染料廃水中の染料を、その吸脱着性能を利用して回収することを可能とする新しい吸着剤及び該吸着剤を用いた染料回収システムの開発に成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、セラミックス製品の非破壊検査用染料に対して効果的な吸脱着性能を有する吸着剤により、染料廃水中の染料を吸着・除去し、且つ吸着せしめた染料を高効率に脱着・濃縮せしめて回収することを可能とする新規なセラミックス非破壊検査用染料の回収方法、及びその回収システムを提供することを目的とするものである。また、本発明は、染料の脱着に際し、少量の有機溶媒を使用して該吸着剤に吸着された染料を脱着・濃縮し、蒸留・分離することより、染料と脱着用有機溶媒の両者を再利用することを可能とする染料及び該染料脱着用有機溶媒の回収方法及びその回収システムを提供することを目的とするものである。
【0012】
また、本発明は、セラミックス製品の非破壊検査用染料に対して効果的な吸着及び脱着性能を有する新規多孔質シリカ吸着剤を提供することを目的とするものである。また、本発明は、該多孔質シリカ吸着剤カラムと活性炭カラムを組み合わせることにより、該染料廃水から染料を100%吸着除去することが可能な染料回収方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、着色汚泥を発生させず、その埋立て処分を不要とし、それによって、環境負荷を低減せしめ、且つ該着色汚泥の埋立て処分に至る一連の費用を節減することを可能とすると共に、染料回収後の廃水を非飲食用等として再利用することを可能とするセラミックス非破壊検査用染料の新規回収技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)セラミックス非破壊検査用染料回収方法において、染料吸着剤を充填した吸着剤容器に染料廃水を導入して染料廃水中の染料を吸着させ、該染料廃水の排水後に、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤容器に導入して、吸着した染料を脱着させて該吸着剤容器から排出することにより、該染料及び該染料脱着用有機溶媒を回収することを特徴とする染料回収方法。
(2)セラミックス非破壊検査用染料回収方法において、染料吸着剤を充填した吸着剤カラムに染料廃水を導入して染料廃水中の染料を吸着させ、該吸着剤カラムから漏れ出す該染料の量が増大する前に、該吸着剤カラムへの該染料廃水の導入を停止し、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤カラムに導入して、吸着した染料を脱着させて該吸着剤カラムから排出することにより、該染料及び該染料脱着用有機溶媒を回収することを特徴とする染料回収方法。
(3)前記染料及び染料脱着用有機溶媒を、蒸留により分離・回収する前記(1)又は(2)に記載の染料回収方法。
(4)染料廃水を吸着剤容器又は吸着剤カラムに導入した後に、活性炭を充填した活性炭カラムに導入する前記(1)又は(2)に記載の染料回収方法。
(5)前記染料吸着剤が、多孔質シリカである前記(1)又は(2)に記載の染料回収方法。
(6)前記多孔質シリカの比表面積が、150m/g以上である前期(5)に記載の染料回収方法。
(7)前記多孔質シリカの5%水溶液のpHの値が、6〜8の範囲内である前記(5)又は(6)に記載の染料回収方法。
(8)前記染料脱着用有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノールの内から選択された一種以上である前記(1)又は(2)に記載の染料回収方法。
(9)セラミックス非破壊検査用染料回収システムにおいて、染料吸着剤を充填した吸着手段、染料廃水を該吸着手段に送り込む輸送手段、染料脱着用有機溶媒を該吸着手段に送り込む輸送手段、及び該吸着手段に送り込む染料廃水と染料脱着用有機溶媒とを切替える切替手段とを具備したことを特徴とする染料回収システム。
(10)前記染料及び染料脱着用有機溶媒を蒸留により分離・回収する蒸留手段を配設した前記(9)に記載の染料回収システム。
(11)前記吸着手段の下流に活性炭カラムを配設した前記(9)に記載の染料回収システム。
(12)前記染料吸着剤が、多孔質シリカである前記(9)に記載の染料回収システム。
(13)前記多孔質シリカの比表面積が、150m/g以上である前記(12)に記載の染料回収システム。
(14)前記多孔質シリカの5%水溶液のpHの値が、6〜8の範囲内である前記(12)又は(13)に記載の染料回収システム。
(15)前記染料脱着用有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノールの内から選択された一種以上である前記(9)に記載の染料回収システム。
(16)セラミックス非破壊検査用染料吸着剤であって、該吸着剤が、多孔質シリカからなり、その比表面積が150m/g以上、該多孔質シリカの5%水溶液のpH値が6〜8の範囲内であることを特徴とするセラミックス非破壊検査用染料吸着剤。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、セラミックス非破壊検査用染料廃水中の染料を、安定且つ安価に吸着せしめる吸着剤を使用し、該吸着剤を充填したカラム(吸着剤カラム)を用いて染料廃水中の染料を吸着せしめ、しかる後に、該染料脱着用有機溶媒を該吸着剤カラムに送り込むことにより、該有機溶媒によって、吸着した染料を該吸着剤カラムから効率良く抽出することを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、回収した染料を含む染料脱着用有機溶媒を蒸留することにより、染料及び該染料脱着用有機溶媒を分離回収し、回収した染料及び該有機溶媒を共に再利用すること、また、吸着剤カラムと共に活性炭により、染料廃水中の染料をほぼ完全に吸着し、回収すること、また、染料吸着剤として、多孔質シリカからなり、その比表面積が150m/g以上、該多孔質シリカの5%水溶液のpH値が6〜8の範囲内である吸着剤を用いること、更に、染料脱着用有機溶媒として、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノールから選ばれる一種以上を使用すること、を好ましい実施態様としている。
【0016】
即ち、本発明の第1の態様では、セラミックス非破壊検査用染料回収方法において、染料吸着剤を充填した吸着剤容器に染料廃水を導入して染料廃水中の染料を吸着させ、該染料廃水を排水した後に、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤容器に導入して吸着した染料を脱着させて該吸着剤容器から排出することにより、該染料と共に該染料脱着用有機溶媒を回収することを特徴としている。
【0017】
また、本発明の第2の態様では、セラミックス非破壊検査用染料回収方法において、染料吸着剤をカラムに充填した吸着剤カラムに染料廃水を導入して染料廃水中の染料を吸着させ、該吸着剤カラムから漏れ出す該染料の量が増大する前に、該吸着剤カラムへの該染料廃水の導入を停止し、しかる後に、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤カラムに導入して吸着した染料を脱着させて該吸着剤カラムから排出することにより、該染料と共に該染料脱着用有機溶媒を回収することを特徴としている。
【0018】
また、本発明は、セラミックス非破壊検査用染料回収システムにおいて、染料吸着剤を充填した吸着手段、染料廃水を該吸着手段に送り込む輸送手段、染料脱着用有機溶媒を該吸着手段に送り込む輸送手段、及び該吸着手段に送り込む染料廃水と染料脱着用有機溶媒とを切替える切替手段とを具備したことを特徴とするものである。
【0019】
更に、本発明は、セラミックス非破壊検査用染料吸着剤であって、該吸着剤が、多孔質シリカからなり、その比表面積が150m/g以上、該多孔質シリカの5%水溶液のpH値が6〜8の範囲内であることを特徴とするものである。
【0020】
本発明において、セラミックス非破壊検査から排出される染料廃水から分離・回収されるセラミックス非破壊検査用染料としては、特に限定されるものではなく、任意のセラミックス非破壊検査用染料が対象とされる。該検査用染料としては、好適には、例えば、レッドマークR−3B(NT)W−1プラス型水洗性浸透液(栄進化学(株)製)、スーパーチェックU−G III型水洗性浸透液(マークテック(株)製)、カラーチェックFAW−3型水洗性浸透液((株)タセト製)が例示される。
【0021】
本発明においては、セラミックス製品の非破壊検査用染料の吸着剤として、多孔質シリカ、特に、比表面積が150m/g以上であり、多孔質シリカの5%水溶液のpHの値が6〜8の範囲内のものが好適に使用される。多孔質シリカ吸着剤の粒径は、小さすぎると圧損が大きくなり、一方、大きすぎると吸着・脱着効率が低下する。しかしながら、カラム方式の場合には、カラムに導入する染料廃水の流量により、また、バッチ方式の場合には、処理時間により、多孔質シリカによる該染料の吸着・脱着能力が異なるので、多孔質シリカの粒径を一律に限定することはできないが、50μm〜5mm程度の粒度のものが好適に使用される。多孔質シリカ吸着剤の吸着性能と共に重要なことは、該吸着剤の性能、粒径、比表面積、pH等の特性がばらつかず安定して大量に、且つ安価に供給されることである。本発明で好適に使用される多孔質シリカとしては、一例として、例えば、キャリアクトQ−6型多孔質シリカ、キャリアクトQ−10型多孔質シリカ、キャリアクトQ−15型多孔質シリカ(富士シリシア化学(株)製))が例示されるが、これらに制限されるものではなく、これらと同等ないし類似の多孔質シリカであれば同様に使用することが可能であり、市販製品を入手して使用することができる。
【0022】
多孔質シリカ吸着剤(以下、吸着剤と言う。)の単独使用では、染料廃水中の染料を完全に吸着・除去することは困難であるため、吸着剤と活性炭との併用が好適である。上記吸着剤カラムから溶出する染料廃水は、僅かに着色している。この僅かな着色が問題にならない場合には、活性炭カラムを通す必要はなく、そのまま廃水として、例えば、水洗トイレ等に再利用可能である。しかし、僅かな着色でも問題になる場合には、活性炭カラムを通すことが好適である。活性炭カラムは、僅かな着色が問題にならない場合であっても、万が一、吸着剤カラムから染料が漏れだした場合の補助として、また、上記のように、より一層の染料廃水中の染料の除去に効果的に使用される。活性炭は、用途により多くの種類があるが、本発明においては、特に限定されるものではないが、例えば、水処理用で、且つ安価なものが好適である。その一例として、ヤシコールS活性炭(太平化学産業(株)製))が例示される。
【0023】
図9に、多孔質シリカ吸着剤カラムと活性炭カラムを併用した試験装置及び試験結果を示す。吸着剤カラムの下流側に活性炭カラムが接続された試験装置を構築し、染料廃水をこれらのカラムに連続して導入した。各カラムの入口及び出口で、染料廃水の吸光度を510nmの波長で測定すると、処理前の染料廃水の吸光度は3.12であるのに対し、吸着剤カラムを通過した染料廃水では吸光度が0.04となった。これは、該吸着剤カラムを通過した染料廃水の吸光度は当初の約1%であり、約99%の染料が染料廃水から除去されたことを示している。この処理された染料廃水を、更に、活性炭カラムに通すと、活性炭カラムから排出された染料廃水は、無色透明の溶液で、吸光度は、ほぼゼロとなり、ほぼ完全に染料廃水から染料が除去されていた。
【0024】
セラミックス非破壊検査用染料に対する活性炭の吸着特性は、多孔質シリカ吸着剤の吸着特性とは著しく異なるものである。例えば、図10に示すように、破過容量以上の染料廃水を導入すると、漏れ出す染料の濃度はだらだらと穏やかに増加する。また、図11に示すように、活性炭に吸着された染料の脱着曲線が漸近線のようになり、脱着の終点がはっきりしない。活性炭のこうした吸着特性は、活性炭が、セラミックス非破壊検査用染料を回収するための吸着剤としては適していないことを示している。従って、活性炭カラムは、上記のように、多孔質シリカ吸着剤カラムの下流側に配置し、主吸着剤を補完する補助的吸着剤として用いることが好適である。
【0025】
吸着剤カラムに吸着された染料廃水中の染料を、染料脱着用有機溶媒により脱着して、回収することができる。本発明で使用される染料脱着用有機溶媒としては、染料を吸着した吸着剤から該染料を脱着する能力を有するものであれば特に制限はない。その好適な例としては、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノールが例示される。図2に、これらの染料脱着用有機溶媒による脱着試験の結果を示す。図2に示すように、上記有機溶媒では、いずれも、その導入量がある値に到達した時点で、吸光度が急激にほぼゼロにまで低下するので、この時点において、染料の脱着が完全に終了する。また、上記有機溶媒のいずれを用いても、30ml以下の少ない導入量で、吸着剤に吸着された染料を完全に溶出させることができる。中でも、1−プロパノールが脱着特性に優れ、13mlの導入量で完全に染料を溶出させて、最も高濃度の染料を回収することができるが、有機溶媒の取扱いの簡便さ、安全性、毒・劇物であるか否か等を考慮すると、これらの中で、エタノールが最も好適である。
【0026】
本発明において、染料廃水中の染料の吸着・脱着方法には、大別して2つの方法がある。一つはカラム方式であり、もう一つはバッチ方式である。カラム方式の場合は、上記吸着剤を充填せしめたカラムに染料廃水を導入する。該染料が吸着剤カラムから漏れ出す量が増大する前に、染料廃水の導入を止める。別口から染料脱着用有機溶媒を導入する。吸着剤カラムから吸着した染料を溶出させ、別容器等に注ぐ。このとき、染料脱着用有機溶媒の流れの方向は、染料廃水と同じでも逆でもどちらでも良い。染料廃水と染料脱着用有機溶媒の吸着剤カラムへの導入は、例えば、三方コック、或いは個別の切り替え弁等を設け、それらにより切り替えれば良い。一方、バッチ方式の場合は、染料廃水を蓄える容器内に上記吸着剤を入れ、その中に染料廃水を注ぐ。所定の時間経過後に該容器内の廃水を排水する。その後、染料脱着用有機溶媒を該容器に注ぎ、再び所定の時間が経過した後に排液する。こうした作業を繰返すことにより、染料廃水を処理する。
【0027】
なお、吸着剤カラムを通過した染料廃水は、僅かに着色しているため、必要に応じて、更に、活性炭カラムを通過させる。その結果、染料廃水は無色透明で、非常にきれいな状態となる。もし、僅かな着色が問題にならない場合には、活性炭カラムを通す必要はない。こうして、吸着剤カラム、又は吸着剤カラム及び活性炭カラムに染料廃水を通した後に、下水に流しても良いし、例えば、水洗トイレ用の水等として再利用することも可能である。
【0028】
一方、染料脱着用有機溶媒により吸着剤カラムから抽出された染料は、該有機溶媒中に高濃度で存在する。従って、蒸留操作を用いて、該有機溶媒を除くことにより、容易に、高濃度の染料として回収することができる。回収した染料は、初めて使用する染料に混入させて使用しても良いし、回収染料のみからなる非破壊検査用染料として使用しても良い。また、蒸留操作により、染料脱着用有機溶媒も同時に回収することができる。回収した該有機溶媒も同様に再利用することができる。該吸着剤カラムを繰返し使用すると、染料の漏れ出す量が増大するまでの染料廃水の導入量(以下、破過容量)が低下するので、注意が必要である。
【0029】
次に、本発明の多孔質シリカ吸着剤を吸着剤について説明すると、後記する実施例の吸着試験において、吸着剤カラムに破過容量以上の染料廃水を導入すると、漏れ出す染料の濃度が急激に増加する結果を得た。こうした吸着剤の特性は、吸着分離用の吸着剤として好適のものである。本発明の吸着剤が、染料廃水中の染料濃度、染料廃水のカラムへの単位時間当たりの導入量、及び吸着温度を変化させた破過試験において、また、繰り返し脱着を行った後においても、同様の吸着特性を示すことは、本発明の吸着剤が、吸着条件等の変動に対しても優れた適応性を有していることを示している。更に、本発明の吸着剤は、染料脱着用有機溶媒がある導入量に達すると、溶離液中の染料濃度は急激にゼロに近づく脱着特性を有しているが、このことは、該吸着剤は、脱着可能な吸着剤として好適であること、染料廃水中の染料を、効率良く、不純物を含まない状態で分離・回収できること、を示している。
【0030】
吸着カラムに導入する染料廃水の流量(流速)は、吸着剤カラムの破過容量に影響を与え、該流量が増大すると、破過容量が減少する。減少割合は高くはないが、単位時間当たりの処理量は許される範囲内で少なくすることが好適である。
【0031】
吸着時の温度、即ち、染料廃水の温度が、吸着剤カラムの破過容量に与える影響は大きい。例えば、5℃から35℃までの範囲では、吸着剤カラムの温度が高いほど破過容量が大きくなり、吸着剤カラムが35℃における破過容量は、5℃における破過容量の2倍にも達する。従って、吸着剤カラムの温度、即ち、染料廃水の温度はできるだけ高く、変動しないように管理することにより、吸着剤の吸着量を高く、安定に維持することが重要である。
【0032】
染料廃水中の染料濃度が高いほど破過容量が大幅に減少する。しかし、例えば、0.5〜1.5%の範囲の染料廃水濃度では、染料濃度と破過容量の積(この値は、吸着する染料の量に比例する。)は、ほぼ一定であるので、該吸着剤カラムへの染料の吸着量が、染料廃水濃度に依存する度合いは小さい。そのため、染料廃水中の染料濃度と、カラムへの導入量の積の値に基づいて工程管理を容易に行うことができる。
【0033】
本発明の吸着剤は、耐熱性を有し、750℃までの熱処理では破過容量が減少することはない。一方、1000℃で熱処理した吸着剤を充填したカラムの破過容量は、元の30%以下となり、1000℃付近での熱処理により吸着剤の吸着性能は低下する。
【0034】
通常の吸着剤による廃水処理では、吸着剤を再生して繰り返し使用している。熱処理を施さなかった吸着剤を充填したカラムを用いて吸着・脱着を繰り返すと、破過容量は順次減少する。一方、1000℃で熱処理した吸着剤を充填したカラムを用いて同様に吸着・脱着を繰り返すと、破過容量は減少するが、1000℃で熱処理した吸着剤は、破過容量が低下する割合は小さい。
【0035】
本発明は、セラミックス非破壊検査で排出される染料廃水中の染料を、該吸着剤に吸着せしめた後、染料脱着用有機溶媒により染料を脱着させることにより、着色汚泥を生成することなく染料の回収を行うと同時に、染料廃水の浄化を行うことを可能とした点に特徴を有するものである。本発明により、環境負荷が低減され、回収した染料及び染料脱着用有機溶媒を、セラミックス非破壊検査に再利用することが可能となり、また、染料廃水中の染料が完全に吸着除去された浄化水を得ることが可能となる。
【0036】
また、本発明では、吸着剤に吸着された染料を、少量の染料脱着用有機溶媒で完全に脱着できることから、高濃度の染料溶液を得ることができ、その後の精製、分離操作を行う上で大きな利点となる。更に、本発明の吸着剤は、吸脱着の繰り返し耐久性と、熱処理後の安定した吸着性能を有し、従来の活性炭等の吸着剤にはない耐熱性と、耐久性を有する。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)セラミックス製品非破壊検査から排出される染料廃水中の染料を、吸着剤による吸着、脱着により高効率で回収することができる。
(2)セラミックス非破壊検査用染料に対する効果的な吸着及び脱着性能を有する多孔質シリカ吸着剤を提供することができる。
(3)吸着剤に吸着された染料を、染料脱着用有機溶媒により効率良く脱着し、且つ蒸留することより、染料と染料脱着用有機溶媒の両者を再利用することが可能となる。
(4)吸着剤カラムの下流側に、活性炭カラムを設置することにより、染料廃水中の染料を、ほぼ完全に吸着除去することができる。
(5)従来、染料廃水中の染料を回収する際に生じていた着色汚泥の発生がなく、その結果、その埋め立て処分が不要であり、環境負荷を低減せしめ、且つ着色汚泥の埋め立て処分に至る一連の廃水処理経費を節減することが可能となる。
(6)染料回収後の廃水を非飲食用として再利用できる。
(7)染料回収後の廃水を排水処理設備に送り、一般排水として廃棄できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
本実施例では、吸着剤評価用の染料廃水として、R−3B(NT)W−1プラス型水洗性浸透液(栄進化学(株)製)を水道水により100倍に希釈したものを用いた。吸着剤として、キャリアクトQ−10型多孔質シリカ(平均粒径:0.1mm、比表面積:約290m/g、ボア体積:1.30ml/g、密度:0.36g/cm、5%水溶液のpH:7.1:富士シリシア(株)製)を用いた。該吸着剤を、内径10mm、長さ100mmのカラムに充填し、カラム温度35℃の下、該染料廃水を毎分3mlの流量で該吸着剤カラムに導入した。
【0040】
該吸着剤カラムから排出される染料廃水の吸光度を、波長510nmで測定した。本実施例において、該吸着カラムから排出される廃水の吸光度から、約99%の染料が該染料廃水から除去されることが確認された。この方法により、該吸着剤カラムの破過試験を行ったところ、導入量約700mlまで破過しないで、安定に染料を吸着できること、即ち、破過容量が、約700mlであること、が分かった。その結果を、実施例2及び3の結果と共に図1に示す。
【0041】
また、該吸着剤カラムに、450mlの該染料廃水を導入し、該染料廃水中の染料を該吸着剤カラムに吸着させ、その後、同じく、35℃でエタノールを毎分3mlの流量で該吸着剤カラムに導入したところ、僅か17mlのエタノールの導入量で、吸着した染料をほぼ完全に該吸着剤カラムから溶出させることができた。その結果を、他の有機溶媒の場合と共に図2に示す。エタノールに溶解して該吸着カラムから抽出された染料は、蒸留により、容易にエタノールと染料とに分離回収することができた。また、回収した染料及びエタノールは、何れも、初回利用染料及び同エタノールと遜色なく、再利用することができた。
【0042】
以上のように、本発明により、高効率に染料廃水から染料を吸着除去し、その後、染料脱着用有機溶媒により、染料を高濃度に濃縮して取出し、更に、蒸留操作により、染料と染料脱着用有機溶媒を効率よく回収することができた。
【0043】
実施例2〜3
本実施例では、比表面積が異なる他は実施例1で用いた吸着剤とほぼ同様な特性を有する多孔質シリカを吸着剤として用いて、実施例1と同様にして、破過試験を行った。実施例2では比表面積530cm/gの吸着剤(Q−6)を用い、実施例3では比表面積220cm/gの吸着剤(Q−15)を用いた。これらの吸着剤の細孔容積、密度、及び5%水溶液のpHはほぼ同じであった。それぞれの多孔質シリカ吸着剤カラムの破過容量を表1に、破過試験結果を図1にそれぞれ示す。この試験結果から、吸着剤の比表面積が大きくなるに従って破過容量が上昇傾向を示すことが分かった。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例4〜14
吸着剤カラムによる吸着条件の適正化のために、導入する染料廃水の流量、吸着剤カラム(染料廃水)の温度、及び染料廃水の濃度を変え、また、吸着剤を熱処理して、破過試験を行った。更に、熱処理を施していない吸着剤、及び1000℃で熱処理を行った吸着剤について、繰返し破過試験を行い、その耐久性を評価した。それらの結果を表2、3及び図3〜8に示す。
【0046】
即ち、表2、及び表3には、実施例1〜14の破過試験の設定条件と、破過容量を示す。図3には、吸着剤カラムに導入した染料廃水の導入量と吸光度との関係、図4には、吸着剤カラム(染料廃水)の温度と吸光度との関係、図5には、染料廃水中の染料濃度と吸光度との関係、図6には、吸着剤の熱処理温度と吸光度との関係、図7には、熱処理していない吸着剤の吸脱着の繰り返し回数と吸光度との関係、図8には、1000℃で熱処理した吸着剤の吸脱着の繰り返し回数と吸光度との関係をそれぞれ示す。更に、実施例1と同様に、450mlの染料廃水を導入した吸着剤カラムについて、エタノール、メタノール、アセトン、1−プロパノール、及び2−プロパノールを用いて、吸着染料の脱着特性を評価した。その結果を図2に示す。
【0047】
(1)吸着剤カラムに導入する染料廃水の流量の影響
図3に示したように、流速3ml/分では、破過容量が700ml、流速9ml/分では破過容量が550mlであり、染料廃水の流量を増大させると、吸着カラムの破過容量が減少する。従って、単位時間当たりの処理量は、許される範囲で少なくした方が該吸着カラムにとって好適である。
【0048】
(2)吸着時のカラム温度の影響
図4に示したように、吸着時のカラム温度、即ち、染料廃水の温度が該吸着剤カラムの破過容量に与える影響は大きい。野外で現実にあり得る温度として、5℃から35℃までの範囲で、該吸着剤カラムの破過容量を測定した。その結果、温度が高いほど破過容量が大きく、該吸着カラムの35℃における破過容量は、5℃の場合の破過容量の2倍にも達した。従って、夏には冬の2倍以上、逆に言えば、冬は夏の1/2以下の染料廃水の導入量で該吸着剤カラムは破過するために、季節に応じた対策を講じる必要がある。
【0049】
(3)染料廃水中の染料濃度の影響
図5に示したように、染料廃水中の染料濃度を、0.75%から1.5%の範囲で変化させて、吸着剤カラムの破過試験を行ったところ、染料濃度が0.75%での破過容量は1050ml、染料濃度が1.5%での破過容量は500mlであり、染料廃水中の染料濃度が高いほど破過容量が減少した。しかし、この範囲の染料排水濃度(0.5〜1.5%)では、染料濃度と破過容量の積(吸着する染料の量に比例する)は、ほぼ一定であるので、該吸着剤カラムへの染料の吸着量の染料廃水濃度依存性が小さいことが分かる。
【0050】
(4)吸着剤の熱処理温度の影響
図6に示したように、250℃〜750℃の範囲で熱処理した吸着剤を充填したカラムを用いて、破過試験を行ったところ、これらのカラムの破過容量は、熱処理を施さない場合と殆ど同じであった。一方、1000℃で熱処理した吸着剤を充填したカラムの破過容量は、約200mlであり、他の吸着剤カラムの破過容量の30%以下であった。
【0051】
(5)吸着剤の繰り返し使用に対する耐久性
図7に示したように、熱処理を施さなかった吸着剤を充填したカラムを用いて、40回の染料廃水の吸着及びエタノールでの脱着試験を行ったところ、破過容量は、当初の約43%に減少した。一方、図8に示したように、1000℃で熱処理した吸着剤を充填したカラムを用いて、80回の同様な吸脱着試験を行ったところ、破過容量は、当初の50%以上を保っていた。些かではあるが、1000℃の熱処理は、吸着剤の耐久性の向上に好ましい操作である。
【0052】
(6)吸着した染料の脱着に及ぼす有機溶媒の影響
図2に示したように、吸着剤カラムに450mlの染料廃水を導入した後、染料脱着用有機溶媒による該吸着剤カラムからの染料の溶出試験を行った。その結果、エタノール以外にも、アセトン、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノールのいずれの有機溶媒を用いても、30ml以下の少ない導入量で、吸着した染料を該吸着剤カラムから完全に溶出させることができた。これは、吸着剤に吸着した染料を染料脱着用有機溶媒中に高濃度で抽出できることを意味する。この効果は、後の蒸留等による染料と染料脱着用有機溶媒の分離を容易にするものである。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
実施例15
以上の実施例では、吸着剤カラムのみを使用した場合について説明したが、本実施例では、更に活性炭カラムを使用した場合について説明する。活性炭としては、ヤシコールS型活性炭(30〜60メッシュ(0.50〜0.25mm)、太平化学(株)製)を用いた。これを、内径10mm、長さ100mmのカラムに充填し、カラム温度35℃の下で使用した。
【0056】
試験方法及び試験結果を図9に示す。実施例1と同じ吸着剤カラムの下流側に活性炭カラムを接続して試験装置を構築した。各カラムに、染料廃水を順次導入し、染料を吸着させた。各カラムの入口及び出口で、染料廃水の吸光度を510nmの波長で測定した。カラムに導入前の染料廃水の吸光度は3.12であるのに対し、吸着剤カラムを通過した染料廃水の吸光度は0.04であり、該吸着剤カラムを通過した染料廃水の吸光度は、当初の染料廃水の吸光度の約1%であった。これは、約99%の染料が染料廃水から除去されたことを意味する。更に、この染料廃水を、活性炭カラムに通すと、該活性炭カラムから溶出する染料廃水は、無色透明の溶液(吸光度は、ほぼゼロ)であった。これは、ほぼ完全に染料廃水から染料が除去されたことを意味する。
【0057】
比較例1
本比較例では、実施例1の吸着剤カラムの代わりに、実施例15で用いた活性炭カラムを単独で用いた。その他の条件は、実施例1と略同じである。染料廃水を該活性炭カラムに通すと、活性炭が染料を吸着するが、実施例1〜14の吸着剤カラムと比較して、その吸着挙動は著しく異なった。図1に示すように、吸着剤カラムでは破過容量以上の染料廃水を導入すると、漏れ出す染料の濃度が急激に増加した。一方、比較例の活性炭カラムでは、図10に示したように、破過容量以上の染料廃水を導入すると、漏れ出す染料の濃度はだらだらと緩やかに増加した。
【0058】
また、図11に示したように、比較例の脱着処理においては、脱着曲線が漸近線のようではっきりせず、実施例1〜3では、30ml以下の少量の染料脱着用有機溶媒により該吸着剤カラムから染料をほぼ完全に溶出できることと比べ、その12倍の容量である360mlの染料脱着用有機溶媒を導入しても、依然として該活性炭カラムから染料を完全に溶出させることができなかった。
【0059】
また、図12に示したように、導入する染料廃水の流量が毎分3mlから9mlとなると、破過容量は400mlから100mlと減少した。これは、該活性炭カラムの破過容量の流量依存性が、本発明の実施例の吸着剤カラムのそれと比較して著しく大きいことを意味する。また、図13に示した、濃度0.75%の染料廃水を該活性炭カラムに導入した場合の、染料廃水中の染料の濃度と破過容量の積は、約900(破過容量:1200ml)であったのに対し、濃度1.5%の染料廃水を導入した場合の積は、約450(破過容量:300ml)であった。
【0060】
これは、該活性炭カラムでは、染料廃水中の染料の濃度が高くなるに従って、該活性炭カラムに吸着される染料の量が急激に減少することを意味する。以上のように、活性炭カラムを単独で使用すること、及び/又は本発明の吸着剤カラムより前段階で、染料廃水中の染料の回収カラムとして使用することは、効果的ではない。
【0061】
以上、実施例及び比較例において、カラム方式について詳述したが、これらの基本構成をバッチ方式に適用しても、同様な染料廃水の処理を行うことができる。カラム方式とバッチ方式との大きな違いは、カラム方式では、染料廃水を連続的に吸着剤カラムに導入するのに対し、バッチ方式では染料廃水をある一定の時間吸着剤の入った容器に止めておき、しかる後に、排水し、その後、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤の入った容器内に導入して、しかる時間経過後に、排液し、回収するところにある。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上詳述したように、本発明は、セラミックス非破壊検査用染料の回収方法、その回収システム、及び染料吸着剤に係るものであり、本発明により、セラミックス非破壊検査で不可避的に排出される染料廃水中に含まれる染料を、ほぼ完全に回収し、再利用することを可能とすると共に、従来技術のように、着色汚泥の発生とその産業廃棄物としての処分の問題が生起しない、新しい染料回収方法、及びその回収システムを提供することができる。また、本発明により、セラミックス非破壊検査用染料に対する特異的、且つ優れた吸着及び脱着性能を有する該染料吸着用新規多孔質シリカ吸着剤を提供することができる。
【0063】
本発明は、従来技術において不可避的に発生する着色汚泥の排出がなく、その埋立処理を必要とせず、染料廃水から分離した浄化水を各種の用水として多角的に再利用することができる、低環境負荷型の新しい染料回収システムを提供することを可能にするものとして高い技術的意義を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1〜3で用いた破過に至る吸着剤の吸着評価試験結果を示す。
【図2】実施例1で用いた吸着試験により、染料廃水を450ml導入後の各種離脱溶媒による脱着試験結果を示す。
【図3】実施例1、4及び5で用いた破過に至る吸着剤の吸着評価試験結果を示す。
【図4】実施例1、6、7及び8で用いた破過に至る吸着剤の吸着評価試験結果を示す。
【図5】実施例1、9及び10で用いた破過に至る吸着剤の吸着評価試験結果を示す。
【図6】実施例1、及び11〜14で用いた破過に至る吸着剤の吸着評価試験結果を示す。
【図7】実施例1で用いた破過に至る吸着剤の吸着評価の繰返し回数の影響の試験結果を示す。
【図8】実施例14で用いた破過に至る吸着剤の吸着評価の繰返し回数の影響の試験結果を示す。
【図9】実施例15の吸着・回収システム構成を示す。
【図10】比較例で用いた破過に至る活性炭の吸着評価試験結果を示す。
【図11】比較例で用いたエタノールによる活性炭からの染料の脱着試験結果を示す。
【図12】比較例で用いた活性炭の破過に至る吸着評価試験結果を示す。
【図13】比較例で用いた活性炭の破過に至る吸着評価試験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス非破壊検査用染料回収方法において、染料吸着剤を充填した吸着剤容器に染料廃水を導入して染料廃水中の染料を吸着させ、該染料廃水の排水後に、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤容器に導入して、吸着した染料を脱着させて該吸着剤容器から排出することにより、該染料及び該染料脱着用有機溶媒を回収することを特徴とする染料回収方法。
【請求項2】
セラミックス非破壊検査用染料回収方法において、染料吸着剤を充填した吸着剤カラムに染料廃水を導入して染料廃水中の染料を吸着させ、該吸着剤カラムから漏れ出す該染料の量が増大する前に、該吸着剤カラムへの該染料廃水の導入を停止し、染料脱着用有機溶媒を該吸着剤カラムに導入して、吸着した染料を脱着させて該吸着剤カラムから排出することにより、該染料及び該染料脱着用有機溶媒を回収することを特徴とする染料回収方法。
【請求項3】
前記染料及び染料脱着用有機溶媒を、蒸留により分離・回収する請求項1又は2に記載の染料回収方法。
【請求項4】
染料廃水を吸着剤容器又は吸着剤カラムに導入した後に、活性炭を充填した活性炭カラムに導入する請求項1又は2に記載の染料回収方法。
【請求項5】
前記染料吸着剤が、多孔質シリカである請求項1又は2に記載の染料回収方法。
【請求項6】
前記多孔質シリカの比表面積が、150m/g以上である請求項5に記載の染料回収方法。
【請求項7】
前記多孔質シリカの5%水溶液のpHの値が、6〜8の範囲内である請求項5又は6に記載の染料回収方法。
【請求項8】
前記染料脱着用有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノールの内から選択された一種以上である請求項1又は2に記載の染料回収方法。
【請求項9】
セラミックス非破壊検査用染料回収システムにおいて、染料吸着剤を充填した吸着手段、染料廃水を該吸着手段に送り込む輸送手段、染料脱着用有機溶媒を該吸着手段に送り込む輸送手段、及び該吸着手段に送り込む染料廃水と染料脱着用有機溶媒とを切替える切替手段とを具備したことを特徴とする染料回収システム。
【請求項10】
前記染料及び染料脱着用有機溶媒を蒸留により分離・回収する蒸留手段を配設した請求項9に記載の染料回収システム。
【請求項11】
前記吸着手段の下流に活性炭カラムを配設した請求項9に記載の染料回収システム。
【請求項12】
前記染料吸着剤が、多孔質シリカである請求項9に記載の染料回収システム。
【請求項13】
前記多孔質シリカの比表面積が、150m/g以上である請求項12に記載の染料回収システム。
【請求項14】
前記多孔質シリカの5%水溶液のpHの値が、6〜8の範囲内である請求項12又は13に記載の染料回収システム。
【請求項15】
前記染料脱着用有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノールの内から選択された一種以上である請求項9に記載の染料回収システム。
【請求項16】
セラミックス非破壊検査用染料吸着剤であって、該吸着剤が、多孔質シリカからなり、その比表面積が150m/g以上、該多孔質シリカの5%水溶液のpH値が6〜8の範囲内であることを特徴とするセラミックス非破壊検査用染料吸着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−229605(P2007−229605A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53750(P2006−53750)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】