説明

セラミック電子部品とその製造方法

【課題】本発明は硼珪酸ガラス中に閉気孔が緻密で均一に分布されたセラミック電子部品とその製造方法を提供することによりセラミック電子部品の誘電率を安定化することを目的とするものである。
【解決手段】本発明は、セラミック焼結体1と、前記セラミック焼結体1の表面あるいは内層に設けられたAg電極2とを備え、前記セラミック焼結体1は、硼珪酸ガラス相内に、複数のフィラー5と、複数の閉気孔4と、複数の開気孔3とを設けた構成とし、前記閉気孔4は、前記硼珪酸ガラス相中に均一に分布されていることを特徴とするセラミック電子部品であって、これによって、セラミック電子部品の誘電率を安定化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばUSBやHDMIなどの高速インターフェースのさらなる高速化にともない放射ノイズ対策が問題となっている。そこで、この放射ノイズの原因となるといわれているコモンモードノイズをコモンモードノイズフィルタで除去する。例えば、このコモンモードノイズフィルタにおいては、低誘電率のセラミック材料が求められる訳であるが、その理由は以下によるものである。
【0003】
コモンモードノイズフィルタは2本のコイルを同じ向きに巻いたものである。通常、電流をコイルに流すと磁場が発生し、自己誘導作用によりブレーキ効果が起こる。コモンモードノイズフィルタは、2本のコイルで構成されており、両者の相互作用を利用してコモンモードノイズ電流の通過を阻止する。具体的には、2本のコイルにコモンモードノイズの信号電流を流すと、両者は同じ方向に流れるため、コイルに発生する磁束は合成されて強めあう。そしてその結果、自己誘導作用による起電力により、より強いブレーキ作用が働き、コモンモードノイズ電流の通過を阻止することができる。
【0004】
この時、2本のコイルを近づけることによりコイルに発生する磁束を合成し、強めあうことでより強いブレーキ作用を働かせ、コモンモードノイズフィルタとしての機能をより良好に発揮させたい。しかしながら、2本のコイルを近づけるとコイル間の浮遊容量が高くなってしまう為、共振現象が発生し、信号電流の通過が阻害されてしまう。そこで、2本のコイル間の距離を短くし、かつ、コイル間の浮遊容量を小さくするために誘電率を低くすることが必要である。
【0005】
商品としては誘電体の誘電率がコイル間でばらつくと、コイル間の浮遊容量がばらつき、結果としてコモンモードノイズフィルタとしての特性がばらつくという問題が起こる。また、その他の高周波デバイスや高速伝送ライン用基板などにおいても、信号の伝播速度が速く、信号を効率良く伝送できるLTCC材料として、誘電率が低いセラミック材料が望まれているが、これらのセラミック材料においても、誘電率がばらつくと特性が安定しない。そこで、セラミック材料の誘電特性のばらつきを抑えたい。
【0006】
ここで、誘電率を低くするために無機発泡剤を用いてセラミック焼結体内部に気孔を設けたセラミック電子部品とその製造方法が知られている(例えば下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−193691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したように特許文献1のような方法で製造しても、Ag電極と同時焼成した際、閉気孔は均一に分布せず、Ag電極近傍に気孔が集まるため、Ag電極近傍のみ誘電率が低くなり、その結果としてセラミック電子部品の誘電特性がばらついてしまっていた。
【0009】
内部に2層以上のAg電極を備えた電子部品においては、Ag電極間で形成されるコンデンサ容量値を勘案して設計がなされるため、該容量値の安定化が、電子部品の特性の安定化に不可欠である。ここで、該容量値Cは、次の式で示される。
【0010】
C=ε0・εr・S/d(ε0:真空の誘電率、εr:セラミック材料の誘電率、S:電極面積、d:電極間距離)。
【0011】
電子部品内部で生じるコンデンサ容量値を安定させるため、電極面積S及び電極間距離dが一定値となるよう、製造プロセスの最適化が図られるが、その両者をいかに安定させようとも、セラミック材料の誘電率がばらつくと、コンデンサ容量値のばらつき、ひいては電子部品の特性のばらつきは避けられない。
【0012】
上述のように閉気孔が内部に均一に分布されておらず、Ag電極近傍部と遠位部で誘電率が異なる場合、Ag電極間の容量値を設計通りに制御することは極めて困難であり、誘電率の局所的なばらつきを抑えることが望まれる。
【0013】
そこで、本発明はAg電極と同時焼成した場合においても、閉気孔が緻密で均一に分布されたセラミック電子部品とその製造方法を提供することによりセラミック電子部品の誘電率を安定化することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そしてこの目的を達成するために、本発明は、セラミック焼結体と、前記セラミック焼結体の表面あるいは内層に設けられたAg電極とを備え、前記セラミック焼結体は、硼珪酸ガラス相内に、複数のフィラーと、複数の閉気孔と、複数の開気孔とを設けた構成とし、前記閉気孔は、前記硼珪酸ガラス相中に均一に分布されていることを特徴とするセラミック電子部品とすることで、Ag電極からセラミック焼結体へAgが拡散することを防ぎ、これによって所期の目的を達するものである。
【0015】
なお、本発明におけるセラミック電子部品の好ましい様態の一つによれば、前記フィラーはSiO2系フィラーからなることを特徴とするものである。
【0016】
また、上記セラミック電子部品の製造方法は、硼珪酸ガラス粉末に、フィラー、無機発泡剤、少量のAgを添加、混錬し、前記セラミック焼結体を成形後、このセラミック焼結体をAg電極と共に空気中で焼成するセラミック電子部品の製造方法であって、前記無機発泡剤の分解完了温度が、前記硼珪酸ガラス粉末の屈服点以上であることを特徴とするものである。
【0017】
さらに、前記無機発泡剤としてCaCO3とSrCO3の少なくとも一方を添加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明は、セラミック焼結体と、前記セラミック焼結体の表面あるいは内層に設けられたAg電極とを備え、前記セラミック焼結体は、硼珪酸ガラス相内に、複数のフィラーと、複数の閉気孔と、複数の開気孔とを設けた構成とし、前記閉気孔は、前記硼珪酸ガラス相中に均一に分布されていることを特徴とするセラミック電子部品とすることによって、セラミック電子部品の気孔率を安定化させることができ、その結果として誘電率を安定化させることができる。
【0019】
また、本発明は、AgあるいはAgを主原料とする電極(例えば、Ag−Pt、Ag−Pd等の合金)とセラミック焼結体を大気中で同時焼成することで、Ag電極とセラミック焼結体との密着性を高めることができる。より詳しくは、Ag電極直下にも開気孔ができることにより電極がこの気孔内に入りこみ、より密着性を高めることができる。
【0020】
そして、前記フィラーをSiO2系フィラーからなることとすることによって、セラミック焼結体の誘電率を低く保ちつつ、焼成後の定型性も保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1のセラミック電子部品の要部構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態1について説明する。
【0023】
まず、図1に示すように本実施の形態1のセラミック電子部品はセラミック焼結体1と、その表面上にAg電極2とを備え、前記セラミック焼結体1は開気孔3と、閉気孔4と、フィラー5とから構成されている。そして、閉気孔4はセラミック焼結体1内に均一に分布している。
【0024】
次に、硼珪酸ガラスの組成について以下に述べる。
【0025】
本実施の形態1では結晶化率が90%以下の硼珪酸ガラスを使用することが望ましい。なぜなら、結晶化率が90%を超える結晶化ガラスは、軟化点以上での粘度の低下があまり大きくなく、開気孔3と閉気孔4の形成が阻害されるため、本発明にかかる効果を得られないおそれがあるからである。
【0026】
そして、上記硼珪酸ガラスのガラス組成はSiO2、B23に加え、Al23、ZnO、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物より選ばれるいずれか1種類以上含有する材料からなることが望ましく、特にアルカリ土類金属酸化物、乃至アルカリ金属酸化物を含有することが望ましい。また、環境への悪影響を考慮し、PbOは実質的に含まないことが望ましい。
【0027】
さらに、ガラス屈服点は550℃以上、750℃以下が望ましい。なぜなら、550℃未満の場合、焼成時の変形が著しく、また、耐薬品性が劣るためメッキ等のプロセスで問題が生じるからである。また、750℃を越えた場合、Ag電極2と同時焼成可能な温度域での緻密化が不十分となるからである。
【0028】
ここで、ガラス屈服点とは、ガラスの棒状サンプルを用い、TMA測定((株)リガク製 TMA8310にて測定)を行った際の膨張から収縮に転じる温度である。
【0029】
また、本実施の形態において無機発泡剤はCaCO3またはSrCO3が望ましいが、CaCO3とSrCO3を混合して用いてもかまわないし、600℃から1000℃で分解するものであれば、各種炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などが使用可能であり、例えば、BaCO3、Al2(SO43、Ce2(SO43などがあげられる。そして、上記発泡剤の分解完了温度は600℃から1000℃、より好ましくは700℃から1000℃のものが好適に使用できる。分解完了温度がこの範囲内であれば、昇温過程で発生したガスが前記セラミック焼結体1に好適にトラップされる。
【0030】
ここで、分解完了温度とは、発泡剤として用いる原料粉末のTG−DTA測定((株)リガク製 TG8120にて測定)を行い、そのTGチャートにおいて減量の完了する温度である。
【0031】
なお、無機発泡剤の添加量は3wt%以下が好ましい。3wt%以上になると、大多数の開気孔3と閉気孔4がお互いの繋がった、いわゆる連通気孔となるため、吸水率が高くなってしまうからである。
【0032】
そして、セラミック焼結体1に添加するAgは硼珪酸ガラスに対して1〜3%程度がよい。1%より少ない場合、上記Ag電極からの拡散抑制効果が不十分となり、3%より多い場合、セラミック焼結体1の電気絶縁性が劣ることとなるからである。なお、セラミック焼結体1内へのAgの導入は、セラミック焼結体1を構成するガラスを溶融法により作製する際にガラス中に均質に溶かし込んでおくことが望ましいが、フィラーとガラス粉末を混合する際に、Ag微粉末或いはAg含有塩微粉末を混合して焼成することでも達成し得る。
【0033】
ここで、セラミック焼結体1にAgを少量添加するのはAg電極2からの拡散を妨げるためである。Agはイオン半径が小さいため、ガラスネットワーク内部に取り込まれやすく、また、ガラス融液中を移動しやすい元素であるが、あらかじめセラミック焼結体1内にAgイオンを均質に入れ込んでおくことでAg電極2からセラミック焼結体1へのAgの移動を抑制することができる。また、セラミック焼結体1中にAgを少量添加することで焼結時にガラス融液の粘性が下がり、流動性が高まることで硼珪酸ガラス相中に閉気孔4を均一に分布することが可能となる。
【0034】
また、本実施の形態において、Ag電極2を形成する導体にAgを用いたが、Agを主原料とする、例えば、Ag−Pt、Ag−Pd等の合金と同時焼成することも可能である。
【0035】
さらに、本実施の形態においてAg電極2の形成方法は特に限定されるものではなく、通常用いられるスクリーン印刷などの印刷法を用いてAgペーストにより形成しても良いし、転写法を用いてAg箔により形成しても良い。
【0036】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0037】
(1)図1に示したセラミック電子部品の作製
本実施例のセラミック焼結体1は、AgあるいはAgを主原料とするAg電極2(例えば、Ag−Pt、Ag−Pd等の合金)との一体同時焼結を可能とした低誘電率である低温焼結セラミックである。
【0038】
まず、屈服点600℃の硼珪酸ガラス(SiO2−B23−Al23−MgO−CaO−K2O系ガラス)と、石英(SiO2)フィラーと、無機発泡剤(CaCO3またはSrCO3)と、Ag粉末を(表1)に示す所定の比率で秤量し、その混合物を主成分とするセラミックグリーンシートを、該混合物のスラリーを用いてドクターブレード法により成形した。
【0039】
次に、このセラミックグリーンシートを複数枚積層し、セラミックグリーンシート積層体を作製した。そして、このセラミックグリーンシート積層体表面に、Agペーストを用いて、ライン幅150μmのミアンダパターンを印刷したものと、Agペースト塗布しないもの、各々の積層体を作製した。このシート積層体を大気中で焼成した。
【0040】
得られたセラミック焼結体サンプルのうち、Agペーストを塗布せずに焼成したサンプルに関し、乾燥重量を測定後、水中で脱泡処理し、水中重量及び含水重量を測定した。それら重量値を用いてアルキメデス法による比重を算出すると共に、吸水率を算出した。併せて、閉気孔率及び開気孔率も算出した。なお、閉気孔率とは閉気孔体積を全体積で除したもの、開気孔率とは開気孔体積を全体積で除したものである。
【0041】
それらセラミック焼結体サンプルの比重、吸水率、開気孔率、閉気孔率を(表1)に併記した。
【0042】
なお、本実施例で作製したセラミック焼結体サンプルは例えばフェライト、さらには特性の異なる一種のセラミック材料との一体同時焼結も可能である。
【0043】
(2)誘電率測定
得られたセラミック焼結体サンプルのうち、Agペーストを塗布せずに単体で焼成したサンプルに関しては、片面を鏡面研磨し、誘電率を測定した。また、Agペーストを塗布して同時焼成したものに関しては、Ag電極2形成側を研磨してAg電極2を除去した上で、鏡面研磨し、誘電率測定に供した。両サンプル共に、鏡面研磨面をプローブに真空吸着させ、近接場法にて6GHzにおける誘電率を測定した。なお、測定n数は各20点とし、その平均値及び標準偏差を算出した。その結果を以下の(表2)にまとめた。
【0044】
10GHz程度の周波数帯域で使用するデバイスを考えた場合、誘電率3程度の材料を適用するのであれば、誘電率のばらつきはプラスマイナス0.1までに抑えたい。それ以上ばらつくと設計が極めて困難になり、また歩留まりも大きく低下してしまう。そのため、誘電率3程度の材料においては、誘電率の標準偏差は0.05以下が望ましい。本実施例1のセラミック電子部品においては、この範囲内にばらつきを留めることが可能である。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
上記(表2)より、試料番号6〜8のようにセラミック焼結体1中に発泡剤、Ag粉末を1%添加したものにおいて、単体で焼成したものとAgと同時焼成したものの標準偏差はほとんど変化がなく、誘電特性が安定しているといえる。
【0048】
一方、試料番号2〜4は、セラミック焼結体1中にAg粉末を添加しておらず、Agとの同時焼成を行うと、標準偏差が大きくなっている。よって、誘電特性がばらついているといえる。
【0049】
以上より、閉気孔が緻密で均一に分布されたセラミック電子部品の誘電率は安定化しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、硼珪酸ガラス中に閉気孔が緻密で均一に分布されたセラミック電子部品に関するものであり、これにより誘電率が安定化したセラミック電子部品を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 セラミック焼結体
2 Ag電極
3 開気孔
4 閉気孔
5 フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック焼結体と、前記セラミック焼結体の表面あるいは内層に設けられたAg電極とを備え、前記セラミック焼結体は、硼珪酸ガラス相内に、複数のフィラーと、複数の閉気孔と、複数の開気孔とを設けた構成とし、前記閉気孔は、前記硼珪酸ガラス相中に均一に分布されていることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記フィラーはSiO2系フィラーからなることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
硼珪酸ガラス粉末に、フィラー、無機発泡剤、少量のAgを添加、混錬し、前記セラミック焼結体を成形後、このセラミック焼結体をAg電極と共に空気中で焼成するセラミック電子部品の製造方法であって、前記無機発泡剤の分解完了温度が、前記硼珪酸ガラス粉末の屈服点以上であることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記無機発泡剤としてCaCO3とSrCO3の少なくとも一方を添加することを特徴とする請求項3に記載のセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−187772(P2011−187772A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52680(P2010−52680)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】