説明

セリウム及びユウロピウムをドープした蛍光体組成物と、それを含む発光デバイス

【課題】固体発光デバイスに有用な蛍光体材料と、それを含む発光デバイスを提供する。
【解決手段】化学式(1)の化合物を備えた蛍光体であって、
(1)
Aは、Ca、Sr、Ba、Mg、Y、Hf、ランタニド系元素、及びアルカリ土類金属から成るグループから選ばれた1つ以上の元素を含み、Bは、Eu及びCeを含み、Cは、1つ以上の四面体配位の3価の元素を含み、Dは、1つ以上の四面体配位の4価の元素を含み、Eは、N、O、F、C、S、Cl、BrおよびIからなるグループから選択された1つ以上の元素を含み、a+b=1およびc+d=2であり、CaAlSiN型の結晶構造を有することを特徴とする蛍光体と、それを含む発光デバイスを提供する。このような蛍光体を含む発光デバイスは、暖白色光を放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体材料とそれを含む発光デバイスに関し、より具体的には、暖白色光(warm white light)を生じる発光デバイスに有用な蛍光体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードとレーザ・ダイオードは、十分な電圧を印加すると光を発することが出来る固体発光素子としてよく知られている。発光ダイオードとレーザ・ダイオードは、一般的に発光デバイス(LED)と呼ばれる。LEDは、一般的に、サファイヤ、シリコン、炭化珪素、砒化ガリウムなどの基板上に成長したエピタキシャル層内に形成されたp−n接合を含む。LEDによって発生する光の波長分布は、一般に、p−n接合が作製される材料と、デバイスの活性領域を形成するエピタキシャル薄層の構造とに依存する。
【0003】
LEDは、例えば、従来の白熱灯および/または蛍光灯に置き換わるものとして、発光や照明の応用分野に用いることが出来る。
【0004】
それ故に、照明によって照らし出された対象がより自然に見えるように、比較的高い演色評価数(CRI)を有する白色を発する照明光源を提供することがしばしば望まれる。光源の演色評価数とは、光源によって発せられた光が広い範囲の色を正確に照射する能力の客観的な尺度である。演色評価数は、単色光源に対してのほぼ0から、白熱光源に対してのほぼ100までの幅がある。
【0005】
また、特定の光源の色度は、光源の「カラー・ポイント」と呼ばれる。白色光源に対しては、色度は、光源の「白色ポイント」と呼ばれる。白色光源の白色ポイントは、所定の温度に加熱された黒体輻射器(black-body radiator)によって放出される光の色に対応した色度ポイントの軌跡に沿って決まる。従って、白色ポイントは、加熱された黒体輻射器が白色光源の色または色調と整合する温度である、光源の相関色温度(CCT)によって指定できる。白色光は通常、約4000Kから8000Kの間のCCTを有する。4000KのCCTを持つ白色光は、黄色味がかった色を持つ。8000KのCCTを持つ白色光は、より青色がかっていて、「冷白色」と呼ばれる。「暖白色」は約2600Kから3500Kの間のCCTを持つ白色を記述するために用いられ、より赤味を帯びた色である。
【0006】
白色光を作り出すために、異なった色の光を発する複数のLEDが用いられる。LEDによって放出された光は合成されて、所望の強度および/または白色光の色を作り出す。例えば、赤色LED、緑色LED、及び青色LEDが同時に活性になると、合成して出来た光は、要素である赤色、緑色、及び青色の光源の相対強度に依存して、白色、または白色に近い色に見える。しかしながら、赤色LED、緑色LED、及び青色LEDを含むLEDランプでは、要素であるLEDのスペクトル強度分布がやや狭い(例えば、半値全幅(FWHM)で約10−30nm)。その様なランプでも、高い視感度効率および/または演色を達成することは可能であるが、高い効率を得ることが困難な波長領域が存在する(例えば、約550nm)。
【0007】
また、単色LEDからの光は、LEDを蛍光体粒子のような波長変換材料で囲むことによって白色光に変換することが出来る。「蛍光体」という用語は、ここでは、吸収と再放出の間の遅延時間の長短に係わらず、また、含まれる波長の如何に係わらず、1つの波長の光を吸収して異なる波長の光を再放出する任意の材料を指して使われる。従って、「蛍光体」という用語は、ここでは、時には蛍光体および/または燐光体と呼ばれる材料を指して用いられる。一般的に、蛍光体は、短い波長を持つ光を吸収して、長い波長を持つ光を再放出する。それ故に、第1の波長のLEDの発光の一部または全ては、蛍光体粒子によって吸収され、それに応じて第2の波長で発光する。例えば、単一の青色発光LEDは、セリウムをドープしたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)のような黄色の蛍光体で取り囲まれてもよい。その結果できる光は、青色光と黄色光の組み合わせであるが、観測者には白く見える。しかしながら、蛍光体ベースの固体光源から発せられる光のCRIは、最適ではない。このように、このような構成によって発生する光は白くは見えるが、そのような光で照明された物体は、光源の持つスペクトルによって、望ましい色合いを持つようには見えないことがある。例えば、黄色の蛍光体で覆われた青色LEDからの光は、可視光スペクトルの赤の部分にエネルギーが少ないので、物体の赤色はうまく照らされないこともある。その結果、物体は、そのような光源で観察されると不自然な色合いを持つように見えることもある。
【0008】
従って、この分野では、改良型蛍光体材料と、それを含んだ暖白色LEDへのニーズは引き続いて存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1,696,016号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0075629号明細書
【特許文献3】米国特許出願第11/749,258号明細書
【特許文献4】米国特許第6,201,262号明細書
【特許文献5】米国特許第6,187,606号明細書
【特許文献6】米国特許第6,120,600号明細書
【特許文献7】米国特許第5,912,477号明細書
【特許文献8】米国特許第5,739,554号明細書
【特許文献9】米国特許第5,631,190号明細書
【特許文献10】米国特許第5,604,135号明細書
【特許文献11】米国特許第5,523,589号明細書
【特許文献12】米国特許第5,416,342号明細書
【特許文献13】米国特許第5,393,993号明細書
【特許文献14】米国特許第5,338,944号明細書
【特許文献15】米国特許第5,210,051号明細書
【特許文献16】米国特許第5,027,168号明細書
【特許文献17】米国特許第5,027,168号明細書
【特許文献18】米国特許第4,966,862号明細書
【特許文献19】米国特許第4,918,497号明細書
【特許文献20】米国特許出願公開第2003/0006418号明細書
【特許文献21】米国特許出願公開第2002/0123164号明細書
【特許文献22】米国特許出願第10/659,241号明細書
【特許文献23】米国特許出願第11/563,840号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、単一の青色発光LEDが黄色の蛍光体によって取り囲まれると、青色の光と黄色の光の組み合わせが観測者には白色に見えることが知られている。赤色を発する蛍光体粒子を加え、光の演色性を改良して、すなわち、光がより暖かく見えるようにしてもよい。例えば、典型的には520−580nmと590−640nmの範囲に最大発光波長を有するそれぞれ黄色と赤色の蛍光体を混合して、混濁物としチップ上に堆積させるか、電気泳動法によって一緒に堆積させてもよい。例えば、特許文献1は、Eu2+をドープしたCaAlSiN蛍光体が、約600から約640nmの範囲の発光スペクトルを持つ赤色蛍光体を生成することを開示している。更に、特許文献2は、Ce2+をドープしたCaAlSiN蛍光体が、約500から約700nmの範囲の発光スペクトルを持つ黄色の光を生成することを開示している。このように、暖白色光を生成するために、例えば、2つの上記の蛍光体の粉末を、物理的に混合してLED内に含ませることが出来る。
【0011】
しかしながら、黄色と赤色の蛍光体粒子の混合には課題も存在する。具体的には、2つの蛍光体の累積損失に基づいて決定される蛍光体の変換効率は、1つだけの種類の蛍光体が用いられる場合の変換効率に比べて低下することがある。また、長い方の発光波長の蛍光体の励起曲線は、広く、かつ短いほうの発光波長の蛍光体の発光曲線と重なり、その結果、再吸収が起こることがある。
【発明の効果】
【0012】
ここでは、蛍光体として有用であり、また、上記の課題のいくつかを低減または除去することが出来る化合物を提供する。本発明の実施形態では、+2価の酸化状態にあるユウロピウム(Eu2+)と+3価の酸化状態にあるセリウム(Ce3+)の両方を共ドープしたCaAlSiN蛍光体が提供される。CaAlSiNを、CeとEuの両方の発光体で共ドープすると、図1に提供した発光スペクトルのシミュレーションによって示されるように、約500から約700nmに亘る発光バンドを持つ蛍光体が提供される。更に、CaAlSiN結晶構造内の原子を置換することは、ここで開示される他の無機化合物も、約500から約700nmの範囲の光を発し、青色発光固体ダイを含むLEDに用いられると、暖白色光を発生することが出来るような効果を持つことができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のいくつかの実施形態によれば、化学式(1)の化合物であって、
(1)
Aは、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ランタニド系元素、および/またはアルカリ土類金属(II族)を含み、Bは、Eu2+とCe3+とを含み、Cは、少なくとも1つの四面体配位の3価の元素を含み、Dは、少なくとも1つの四面体配位の4価の元素を含み、Eは、N、O、F、C、S、Cl、Brおよび/またはIを含み、a+b=1およびc+d=2であり、CaAlSiN型の結晶構造を有する化合物が提供される。
【0014】
本発明の特定の実施形態では、aは0.7から1.3の範囲であり、bは0.01から0.3の範囲であり、いくつかの実施形態では0.05から0.2の範囲である。cは0.5から1.5の範囲であり、dは0.5から1.5の範囲であり、eは2.5から3.5の範囲である。
【0015】
更に、いくつかの実施形態によれば、化学式(1)の化合物は、約0.5μmから約30μmの範囲の平均粒径を有する粉末として存在する。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、蛍光体は、500から700nmの範囲の最大発光波長を有する。該蛍光体が、約380nmから約480nmの範囲の波長の輻射で照射されたときに最大発光波長が生じる。さらに、いくつかの実施形態では、最大発光スペクトルの半値全幅が約120nmから約200nmの範囲である。このような蛍光体は、約60から約100%の範囲の変換効率を有する。
【0017】
また、本発明の実施形態によれば、いくつかの実施形態では、化学式(1)の化合物である蛍光体と発光素子とを含む発光デバイスが提供される。本発明の実施形態によれば、発光源は、約380から約470nmの範囲の波長で光を放出し、蛍光体は、発光素子から放出される光の少なくともいくらかを吸収し、約500から約700nmの範囲の波長で最大発光を示す光を放出する。光の半値全幅は、約120から約200nmの範囲である。更に、発光デバイスによって作り出される光は、少なくとも80の演色評価数(CRI)を有し、約2500から約4500Kの範囲の相関色温度を有する。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態による発光デバイスは、散乱層、不活性層、および/または発光層のような他の要素も含む。
【0019】
本発明は、本発明の実施形態を示す添付の図面を参照して、以下により完全に記述される。しかしながら、本発明はここに述べる実施形態だけに限定されると捉えるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が完璧で完全であり、本発明の技術範囲を当業者に完全に伝達するために提供するものである。図面においては、明瞭性のために、層や領域の厚さは誇張して描かれている。全体を通して、同様の番号は、同様の要素を指している。ここに用いられるように、用語「および/または」は、関連して列挙された事項の1つ以上の任意の、及び全ての組み合わせを示すものである。
【0020】
ここに用いられる用語は、特定の実施形態を記述するためだけのものであり、本発明を限定しようとするものではない。ここで用いられる単数形の定冠詞は、文脈から明瞭にそうではないと判断される場合を除いては、複数形も含むものと意図されている。更に、「備える」および/または「備えている」という用語は、本明細書において用いられるときは、述べたれた特徴物、整数、工程、操作、要素、および/または部品の存在を特定するものであり、1つ以上の他の特徴物、整数、工程、操作、要素、部品、および/またはそれらの集合が存在すること、または追加されることを排除するものではないと理解されたい。
【0021】
層、領域、または基板などの要素が他の要素の「上に」あるまたは「上に」拡がっていると言われたときに、それは他の要素の直接「上に」ある、または「上に」拡がっていてもよいし、または介在する要素が存在してもよいということは理解されよう。対照的に、ある要素が他の要素の「直接上に」ある、または「直接上に」に拡がっているといわれたときは、介在する要素は存在しない。ある要素が他の要素に「接続している」または「結合している」と言われた時は、他の要素に直接「接続している」または「結合している」場合もあるし、介在する要素が存在する場合もあるということも理解されよう。対照的に、ある要素が他の要素に「直接接続している」または「直接結合している」と言われた時は、介在する要素は存在しない。本明細書を通じて同様の番号は同様の要素を指している。
【0022】
「第1の」、「第2の」などの用語が、ここでは、色々な要素、部品、領域、層、および/または区画を記述するために用いられているが、これらの要素、部品、領域、層、および/または区画は、これらの用語によって制限されるべきものではないと理解されたい。これらの用語は、単に、1つの要素、部品、領域、層、または区画を、他の領域、層、または区画と区別するために用いられる。このように、本発明の教示するところから逸脱することなしに、以下に記述する第1の要素、部品、領域、層、または区画は、第2の要素、部品、領域、層、または区画と呼ぶこともできよう。
【0023】
更に、「下の」または「底に」および「上の」または「頂上の」のように、相対関係を表す用語は、ここでは、図示されたような、1つの要素の他の要素に対する関係を記述するために用いられる。相対関係を表す用語は、図に描かれた方向に加えて、デバイスの他の方向を包含するものであると意図されていると理解されよう。例えば、図の中のデバイスがひっくり返された場合には、他の要素の「下側に」あると記述された要素は、他の要素の「上側に」向くであろう。例として用いた用語「下に」は、それ故に、図の特定の方向に依存して「下に」と「上に」の両方の方向に拡げることが出来る。同様に、図の中の1つにあるデバイスがひっくり返されたときは、他の要素の「下に」または「下側に」と記された要素は、他の要素の「上に」に向くであろう。例として用いた用語「下に」「下側に」は、それ故に、「上に」と「下に」の両方の方向に拡げることが出来る。
【0024】
本発明の実施形態は、ここでは、本発明の理想化された実施形態を表す概略図である断面図を参照して記述される。それ故、たとえば、製造技術および/または公差の結果として、図示の形状からの変形が予想される。このように、本発明の実施形態は、ここに図示した領域の特定の形状だけに制限されていると捉えるべきではなく、たとえば製造工程から生じる形状の変形を含むべきである。長方形として図示され、記述されたエッチング領域は通常、丸まったり、曲がったりしている。このように、図示された領域は、概略的であり、その形状はデバイスの領域の正確な形状を表すことを意図されていないし、本発明の技術範囲を制限しようとするものでもない。
【0025】
別に定義される場合を除いて、ここに用いられる(技術用語および科学用語を含む)全ての用語は、本発明が属する分野の通常の技術を持つ人に共通して理解されるようなものと同じ意味を持つ。普通に用いられる辞書で定義されているような用語は、本明細書及び関連技術分野の文脈の中での意味と矛盾することのない意味を持っているものと解釈されるべきであり、ここに明確に規定される場合を除いては、理想化されたり、過度に形式的な意味に解釈されたりするべきものではないと理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】シミュレートされた発光スペクトルを示す図であり、◇はCe3+ドープのCaAlSiN、□はEu2+ドープのCaAlSiN、○はCe3+及びEu2+ドープのCaAlSiNを示す。
【図2】本発明のいくつかの実施形態による蛍光体材料を含む発光デバイスを示す図である。
【図3】本発明のいくつかの実施形態による蛍光体材料を含む発光デバイスを示す図である。
【図4】本発明のいくつかの実施形態による蛍光体材料を含む発光デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、蛍光体として有用な新しい化合物が提供される。具体的には、本発明のいくつかの実施形態は、暖白色固体発光デバイスに有用な蛍光体材料を提供する。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、化学式(1)の化合物であって、
(1)
Aは、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ランタニド系元素、および/またはアルカリ土類金属(II族)を含み、Bは、Eu2+とCe3+とを含み、Cは、少なくとも1つの四面体配位の3価の元素を含み、Dは、少なくとも1つの四面体配位の4価の元素を含み、Eは、N、O、F、C、S、Cl、Brおよび/またはIを含み、a+b=1およびc+d=2であり、CaAlSiN型の結晶構造を有する化合物が提供される。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、aは0.7から1.3の範囲であり、bは0.01から0.3の範囲であり、いくつかの実施形態では0.05から0.2の範囲である。cは0.5から1.5の範囲であり、dは0.5から1.5の範囲であり、eは2.5から3.5の範囲である。
【0030】
特定の実施形態では、A、B、C、Dおよび/またはEの各グループの元素は、より特定のグループの元素から選ばれてもよい。例えば、本発明のいくつかの実施形態によれば、Aは、Mg、Ba、Srおよび/またはCaを含んでもよく、特定の実施形態では、AはCaを含んでもよい。更に、特定の実施形態では、AはSrとCaを(Srのモル分率)+(Caのモル分率)=1、すなわちχ(Sr)+χ(Ca)=1となるような比率で含んでもよい。他の例として、本発明のいくつかの実施形態では、Cは、A1、B、Ga、P、In、Sc、Y、Gd、Luおよび/またはZrを含んでもよく、特定の実施形態では、CはAlを含んでもよい。更に他の例では、本発明のいくつかの実施形態では、Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zrおよび/またはHfを含んでもよく、いくつかの実施形態では、DはSiを含んでもよく、特定の実施形態では、CはAlを含み、DはSiを含み、c+d=2の関係がある。更に、いくつかの実施形態では、Eは、N、C、S、Cl、Br、Iおよび/またはFを含んでもよく、いくつかの実施形態では、EはNを含んでもよく、特定の実施形態では、EはOとNを(Oのモル分率)+(Nのモル分率)=3、すなわちχ(O)+χ(N)=3となるような比率で含んでもよい。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、蛍光体材料は、約0.1から約20%の範囲であり、いくつかの実施形態では、約0.5から約20%の範囲である濃度でEuとCeとがドープされたCaAlSiNである。
【0032】
当業者なら理解するであろうが、「CaAlSiN型」という用語を用いることは、CaAlSiNと同じ基本構造、配位及び格子パラメータを持つ結晶構造を指すという意味であるが、いくつかの実施形態では、化学式(1)において、グループA及びBの元素がカルシウムの結晶学的サイトを置換し、グループCの元素がアルミニウムの結晶学的格子サイトを置換し、グループDの元素がシリコンの結晶学的格子サイトを置換し、グループEの元素が窒素の結晶学的サイトを置換するように、他の元素がカルシウム、アルミニウム、シリコン、および/または窒素のサイトを置換することが出来る。いくつかの実施形態では、化学式(1)の化合物は、Cmc2空間群を持つ斜方晶系の結晶となり、a=9.80Å、b=5.65Åおよびc=5.06Åの程度の格子定数を持つ。
【0033】
化学式(1)の化合物は多結晶粒子として存在し、本発明のいくつかの実施形態では、化学式(1)の少なくとも1つの化合物は、約0.5μmから約30μmの範囲の平均粒径を持つ粉末として存在する。更なる実施形態では、化学式(1)の化合物は、単結晶材料として存在し、例えば、特許文献3に開示されているような発光デバイスに用いられている。
【0034】
上記したように、本発明のいくつかの実施形態によれば、蛍光体は、500から700nmの範囲の最大発光波長を有する。更に、いくつかの実施形態では、蛍光体が、約380nmから約470nmの範囲の波長の輻射で照射されたときに最大発光波長が生じる。さらに、いくつかの実施形態では、最大発光スペクトルのFWHMが約200nm未満である。
【0035】
このように、青色発光光源とともに用いると、本発明のいくつかの実施形態による蛍光体は、(たとえば80以上という)比較的高いCRIと、(例えば約60%から約100%という)向上した変換効率と、低減した再吸収とを有する暖白色光を提供する。更に、本発明の実施形態では、2500から約4500Kの範囲のCCTを有する暖白色光が提供できる。さらに、このような蛍光体材料は、たった1種類の蛍光体が用いられるという製造上の利益を提供し、異なる蛍光体材料間の粒子直径を整合させることは必要なくなる。
【0036】
本発明の実施形態によって提供される蛍光体は、任意の適当な方法で合成できる。たとえば、いくつかの実施形態では、Ca、Sr、Alおよび/またはSiのような金属元素は、化学量論的な量に秤量され、CeおよびEu源と混合され、酸化または加水分解のような劣化を最小化/防止するために不活性雰囲気中で粉砕される。混合物は、そこで、窒素(N)、窒素/水素混合 (N/H) および/またはアンモニア(NH)ガス流の中で、たとえば、約1450℃から1600℃の範囲の温度まで加熱される。他の実施形態では、同様の工程が用いられるが、金属の代わりに、SrN、Ca、AlN、Si、Si(NH)、SiOおよびSi(NH)のような金属窒化物が用いられる。さらに、いくつかの実施形態では、金属と金属窒化物の混合物が用いられてもよい。
【0037】
他の実施形態では、化学式(1)の化合物の単結晶が、任意の適当な方法で形成されてもよい。たとえば、いくつかの実施形態では、チョクラルスキー成長法によって形成されてもよい。チョクラルスキー型の方法は、無機材料の小さな種結晶を、同様の溶融材料で満たされた坩堝の中へ入れ、次いで、回転させながら融液から種結晶をゆっくりと引き上げることによって、大きな単結晶、またはボール(boule)を生成する方法である。いくつかの実施形態では、単結晶が、MOCVD、MBEなどのような単結晶薄膜成長技術を用いて形成されてもよい。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、化学式(1)の少なくとも1つの化合物と、発光源とを含む発光デバイスも提供される。
【0039】
発光源は、発光ダイオード、レーザ・ダイオード、および/または他の半導体デバイスであって、シリコン、炭化珪素、窒化ガリウム、およびまたは他の半導体材料を含んでもよい1つ以上の半導体層と、サファイヤ、シリコン、炭化珪素、および/または他のマイクロエレクトロニクス用の基板を含んでもよい基板と、金属および/または他の導電層を含む1つ以上の電極層とを含む半導体デバイスを含んでもよい。半導体発光デバイスの設計と製作法は当業者にはよく知られており、ここでは詳しく記述しない。
【0040】
例えば、本発明のいくつかの実施形態による発光デバイスは、炭化珪素基板上に製作された窒化ガリウムベースのLEDおよび/またはレーザ構造のような構造を含んでもよい。 このようなデバイスは、本件特許出願人によって製造販売されている。本発明は、特許文献4−19に記載の活性領域を備えたLEDおよび/またはレーザ構造と一緒に用いるのが適当であろう。他の適当なLEDおよび/またはレーザ構造は、特許文献20、および21に記載されている。さらに、特許文献22に記されたような蛍光体が被覆されたLEDも、本発明のいくつかの実施形態に使用するために適している。LEDおよび/またはレーザは、発光が基板を通して起こるように動作するように構成されてもよい。そのような実施形態では、たとえば、上記の特許文献21に記載の基板は、デバイスからの光出力を増大するためにパターン化されてもよい。更に、本発明のいくつかの実施形態による化学式(1)の化合物は、上記の特許文献3と23に記されているLEDにおいて有用である。
【0041】
図2は、本発明のいくつかの実施形態による固体発光デバイスの断面図である。図2に示すように、化学式(1)の蛍光体化合物を含むことができる予備形成体(preform)100は、固体発光ダイ110から放出される光の少なくともいくらかを通過させるように構成される。別の言い方をすれば、予備形成体は、固体発光ダイ110からの輻射に対して透明である。接着層などの層140が、予備形成体100および/またはダイ110上に備えられてもよく、この層は、予備形成体100と固体発光ダイ110とを相互に、接着剤で貼り付けるように貼り付け、予備形成体100と固体発光ダイ110とを相互に光学的にも結合させる。いくつかの実施形態では、化学式(1)の蛍光体化合物は、予備形成体100の中に、柔軟性のある(flexible)、または柔軟性のない(inflexible)材料の中に分散された粒子として存在する。本発明の他の実施形態によれば、以下に記述するように、他の光学素子も備えることができる。
【0042】
上述したように、予備形成体100は、柔軟性のある、および/または柔軟性のない材料を含んでもよい。柔軟性のある材料の例は、シリコーン・ベースの室温加硫(RTV)ゴム材料および/または、例えば、ダウ・コーニング(Dow Corning)、信越、ヌシル(NuSil)、GEなどから広く入手可能なシリコーン・ベースの高分子材料である。柔軟性のない材料の例は、ガラスである。層140は、ダウ・コーニング、信越、ヌシル、GEなどから入手可能な熱硬化性シリコーン・ゲルまたはゴムのような透明エポキシ、および/または他の任意の透明エポキシであってもよい。いくつかの実施形態では、予備形成体は、ほぼLEDダイの面のサイズであり、例えば、約1000μm×1000μmであり、厚さは、約15μmから約75μmの間である。しかしながら、他の実施形態では、他の寸法でもよい。
【0043】
また図2に示すように、固体発光ダイは、陰極120aのような電極パッドを含んでもよく、予備形成体100は、(不図示の)いくつかの実施形態では、切れ込み、穴および/または、外部電極パッドCを露出させるために構成された他の空隙を含んでもよい。しかしながら図2に示すように、いくつかの実施形態では、予備形成体100は通過することなく、層140を通過するロー・プロファイル・ワイヤ・ボンド130が用いられる。これらの実施形態では、接着/結合層140と予備形成体100をダイ110の上に置く前に、ワイヤ130は、陽極120bまたは陰極120aに接続される。ロー・プロファイル・ワイヤ・ボンドの実施形態は、予備形成体100における切抜き(cutout)を不要にする。このことは、組立工程中の予備形成体の位置合わせを容易にする。
【0044】
さらに、本発明のいくつかの実施形態では、発光デバイスは、予備形成体の表面に塗布された散乱層を含む。いくつかの実施形態では、該散乱層は、ZnO、Ti0、A1、Sr0および/またはZr0を含む。更に、当業者は理解するであろうが、反射器、不活性層および/または発光層のようなLED内に用いられる他の要素も、本発明の実施形態による発光デバイスに用いてもよい。
【0045】
いくつかの実施形態によるパッケージされた発光デバイス200が、図3に示される。LEDパッケージは、LEDパッケージを外部回路に電気的に接続するために、電気的リード線、電極、または配線も含む。図3に示したLEDパッケージ200では、LEDチップ212は、半田付けや導電性エポキシによって、反射カップ213の上に搭載される。1つ以上のワイヤ・ボンド211が、LEDチップ212のオーミック電極を、反射カップ213に取り付けられた、あるいは一体構造になっているリード線215Aおよび/または215Bへ接続する。
【0046】
反射カップは、化学式(1)の化合物を有する蛍光体のような波長変換材料を含むエポキシ樹脂のような封止剤材料216で満たされてもよい。LEDによって放出される光(1次光)の少なくともいくらかは、蛍光体によって吸収され、それに応じて2次光を放出する。LEDチップ212によって放出された1次光と蛍光体粒子によって放出された2次光とが組み合わさって複数の波長を持つ光を生成し、それが観測者には1次光または2次光とは異なる色を持つものと認識される。
【0047】
組み立て物(assembly)の全体が、透明な保護樹脂214の中に封止され、レンズの形にモールドされ、LEDチップ212から、および/または封止剤材料216中の蛍光体粒子から放出された光をコリメート(collimate)する。
【0048】
他のLEDパッケージ300が、図4に示される。図4のパッケージは、より多くの熱を発する高出力動作に向いている。LEDパッケージ300では、1つ以上のLEDチップ322が、プリント回路基板(PCB)の搬送板323のような搬送板の上に搭載される。 金属反射器324が、エポキシまたは半田付けによって搬送板323上に搭載される。金属反射器324は、LEDチップ322の周囲を取り囲み、パッケージ300からそれたLEDチップ322からの光を反射する。反射器324は、LEDチップ322に対する機械的な保護機能も果たす。1つ以上のワイヤ・ボンド接続311が、LEDチップ322上のオーミック電極と搬送板323上の電気配線325A、325Bとの間に形成される。搭載されたLEDチップ322は、次いで、エポキシ樹脂および/またはシリコーンのような封止剤326で被覆される。封止剤326は、チップの環境的、機械的保護を果たすと同時に、レンズとしても作用する。封止剤材料326は、波長変換のための、化学式(1)の化合物を有する蛍光体を更に含む。
【0049】
また、本発明のいくつかの実施形態によれば、約380nmから約470nmの範囲の波長で光を放出するように構成された発光素子と、発光素子から放出された光の少なくともいくらかを吸収するように構成された蛍光体とを含み、蛍光体は、約500から約700nmの範囲の最大発光波長を有する光を発し、蛍光体から放出される光のFWHMは、約120から約200nmの範囲である発光デバイスが提供される。いくつかの実施形態では、蛍光体は、化学式(1)の化合物であってもよい。いくつかの実施形態では、蛍光体は、約80より大きいCRIを有する暖白色光を提供し、約60%から約100%の範囲の変換効率を有する。更に、本発明のいくつかの実施形態では、2500から約4500Kの範囲のCCTを有する暖白色光が提供される。
【0050】
多くの異なる実施形態を、上記の説明と図面に関係してここに開示した。実施形態のすべての組み合わせと準組み合わせ(subcombination)をそのまま記述して図示することは、甚だしくくどく、かつ惑わせるものであろうと理解される。従って、添付の図面および本明細書は、ここに記述した実施形態と、それらを作り、利用する方法と工程との全ての組み合わせと準組み合わせを完全に文章化した記述を構成しているものであり、そのような全ての組み合わせまたは準組み合わせに関する請求項をサポートしているものであると理解すべきである。
【0051】
図面と本明細書において、本発明の実施形態を開示した。専門用語を用いたが、それらは一般的かつ説明目的のみに用いており、限定しようとするものではない。本発明の技術範囲は、添付の特許請求の範囲に述べられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)の化合物を備えた蛍光体であって、
(1)
Aは、Ca、Sr、Ba、Mg、Y、Hf、ランタニド系元素、及びアルカリ土類金属から成るグループから選ばれた1つ以上の元素を含み、
Bは、Eu及びCeを含み、
Cは、1つ以上の四面体配位の3価の元素を含み、
Dは、1つ以上の四面体配位の4価の元素を含み、
Eは、N、O、F、C、S、Cl、BrおよびIからなるグループから選択された1つ以上の元素を含み、
a+b=1およびc+d=2であり、
前記化合物は、CaAlSiN型の結晶構造を有することを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記aは、0.7から1.3の範囲であり、
前記bは、0.01から0.3の範囲であり、
前記cは、0.5から1.5の範囲であり、
前記dは、0.5から1.5の範囲であり、
前記eは、2.5から3.5の範囲であること
の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記bは、0.05から0.2の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記Aは、Mg、Ba、Sr、およびCaからなるグループから選ばれた1つ以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記Aは、Caを含むことを特徴とする請求項4に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記Cは、Al、B、Ga、P、In、Sc、Y、Gd、Lu、およびZrからなるグループから選択された1つ以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記Cは、Alを含むことを特徴とする請求項6に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記Dは、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、およびHfからなるグループから選ばれた1つ以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項9】
前記Dは、Siを含むことを特徴とする請求項8に記載の蛍光体。
【請求項10】
前記Eは、N、C、S、Cl、Br、I、および/またはFを含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項11】
前記Eは、Nを含むことを特徴とする請求項10に記載の蛍光体。
【請求項12】
前記Aは、Sr及びCaを含み、χ(Sr)+χ(Ca)=1であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項13】
前記CはAlを含み、前記DはSiを含み、c+d=2であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項14】
前記EはO及びNを含み、χ(O)+χ(N)=3であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項15】
前記化学式(1)の前記化合物は、約0.5μmから約30μmの範囲の平均粒径を有する粉末として存在することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項16】
前記Eu及びCeは、約0.1重量%から約20重量%の範囲の濃度で前記化合物中に共存することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項17】
500から700nmの範囲の最大発光波長を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項18】
前記蛍光体が、約380nmから約480nmの範囲の輻射で照射された場合に、前記最大発光波長が生じることを特徴とする請求項17に記載の蛍光体。
【請求項19】
半値全幅が、約200nm未満であることを特徴とする請求項18に記載の蛍光体。
【請求項20】
請求項1に記載の前記蛍光体と、
発光源と
を備えたことを特徴とする発光デバイス。
【請求項21】
前記蛍光体は、シリコーン封止剤の中に分散されていることを特徴とする請求項20に記載の発光デバイス。
【請求項22】
前記発光源は、約380から約470nmの範囲の波長で最大発光を示す輻射光を放出し、前記蛍光体は、前記発光源から放出される光の少なくともいくらかを吸収し、約500から約700nmの範囲の波長で最大発光を示す光を放出することを特徴とする請求項20に記載の発光デバイス。
【請求項23】
前記蛍光体から放出される光の半値全幅は、約120から約200nmの範囲であることを特徴とする請求項22に記載の発光デバイス。
【請求項24】
少なくとも80の演色評価数(CRI)を有することを特徴とする請求項20に記載の発光デバイス。
【請求項25】
約2500から約4500Kの範囲の相関色温度を有することを特徴とする請求項20に記載の発光デバイス。
【請求項26】
約60から約100%の範囲の変換効率を有することを特徴とする請求項20に記載の発光デバイス。
【請求項27】
前記蛍光体の表面に塗布された散乱層を更に備えることを特徴とする請求項20に記載の発光デバイス。
【請求項28】
前記散乱層は、ZnO、Ti0、Al、Sr0および/またはZr0を含むことを特徴とする請求項27に記載の発光デバイス。
【請求項29】
前記蛍光体の表面に塗布された不活性層または発光層を更に備えることを特徴とする請求項20に記載の発光デバイス。
【請求項30】
約380nmから約470nmの範囲の波長で発光するように構成された発光素子と、
前記発光素子から放出された光の少なくともいくらかを吸収するように構成された蛍光体であって、約500から約700nmの範囲の最大発光波長を有する光を放出する蛍光体と
を備え、
前記蛍光体から放出される光の半値全幅が、約120から約200nmの範囲であることを特徴とする発光デバイス。
【請求項31】
前記蛍光体の変換効率は、約60から約100%の範囲のであることを特徴とする請求項30に記載の発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−132917(P2009−132917A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−292371(P2008−292371)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(592054856)クリー インコーポレイテッド (468)
【氏名又は名称原語表記】CREE INC.
【Fターム(参考)】