説明

セリンエンドペプチダーゼの安定化調製物、その製造および使用

【課題】 診断的方法における試薬としての用途のため、または、治療的用途のために適したセリンエンドペプチダーゼの安定化調製物の提供。
【解決手段】 この調製物は、セリンエンドペプチダーゼに:
a)酢酸アンモニウム、および/または
b)少なくとも1つのポリアミノ酸、および/または
c)グリセロール、ならびに、アスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸、
を存在させてなり、各種の添加剤を加えた結果、この調製物は安定性が改善されそしてそれにより保存期間が改善された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療的用途または診断的方法における試薬としての用途を目的とする調製物の製造の分野に関し、そして特に、各種の添加剤を加えたことにより安定性が改善されそしてそれにより保存期間が改善された、セリンエンドペプチダーゼの調製物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼ(同義語:ペプチダーゼ)は、ペプチド結合を加水分解することができる能力を有する酵素である。プロテアーゼを含有する調製物の安定性は、伝統的に工業的プロセスにおいてプロテアーゼの商業的な適用の可能性を決定するための、最も重要なパラメータの一つである。プロテアーゼの安定性は、それらの製造、分離、精製、保存時および最終的にプロテアーゼを含有する製品の使用においても、考慮に入れなければならない。受容可能な期間にわたっての十分な生物活性を保証するために、他の多くのタンパク質製品と同様に、プロテアーゼを含有する調製物は、通常、冷蔵状態の下で、または凍結乾燥までして保存されている。
【0003】
一般に酵素またはタンパク質の安定化のためには、異なった方策が知られている。安定化方策の目的は、本質的に、タンパク質の変性を避けることである。タンパク質の天然の構造は、一般的に、最も安定な(最も低いエネルギーを有する立体構造)そしてこのタンパク質がその細胞環境下で担っているタンパク質の立体構造であり、または、この分離したタンパク質がその最大の生物活性を有する立体構造である。タンパク質の変性は、アミノ酸配列(一次構造)が変わらないままで、天然のタンパク質の三次元構造の変化をもたらす過程を意味している。酵素の分子構造の変化は、その活性中心の正しい配置に影響を与えそしてこの酵素の不活性化をもたらすだろう。タンパク質分子またはタンパク質分子を含有する調製物の安定化は、タンパク質化学者により、タンパク質分子内の立体構造の変化を避けることを意味するものと理解されている。安定化は、その結果として、天然の構造の保持をもたらし、そしてまた生物活性の保存をももたらす。逆に、例えばプロテアーゼのような酵素の活性の測定により、その天然のタンパク質の構造が完全に保たれているとの結論を導くことができる。
【0004】
医療用製品またはインビトロの診断用製品に関連して、安定性は、通常、製品がその保存またはその使用の期間にわたってその必要な仕様を保持しており、例えば、最も好ましい場合には、その製造時での性質および特徴を維持していることを意味するものと理解されている。
【0005】
タンパク質調製物の安定性の予測のために、加速化安定性試験が多くの場合実施される。これらの試験は、タンパク質製品の化学的または物理的分解が、ストレスを増加させた条件下(例えば、高めた温度、高い大気湿度、光、振盪)で加速化されるように設定される。ストレスを増加させた条件下での安定性試験からは、タンパク質の実際の長期間の安定性に関する結論が導き出せる。このことは類似のタンパク質製品に関する経験を基礎にして、および/または、アレニウスの式もしくは他の確立された数学的モデルを用いて、実施することができる。
【0006】
通常、タンパク質溶液中での分解過程の速度は、典型的な保存条件下(例えば、+2から+8℃)では遅い。温度を上昇されると、分子の運動およびそれらの振動の振幅は増加する。その結果、分子の衝突がより頻繁に起こり、そして分子の分解が増加する。反応速度と温度との間の相関関係は、ファント・ホッフにより、反応速度−温度法則にまとめられた。この法則は、温度が10ケルビン上昇すると、それにより反応速度が2から4倍増加すると述べている。数学的および物理的に、この現象は、反応速度の温度依存性を指数関数であらわすアレニウスの式を用いて記述される。
【0007】
タンパク質の安定性を改善するために、タンパク質製剤に対する安定剤の添加は多くの場合選択される手段である。しかしながら、今日に至るまで、全てのタンパク質について使用できる普遍的な安定化方策を開発することには、誰も成功していない。安定化物質の保護効果は、安定化されるタンパク質の特異的な構造特性に依存していると推測されている。この現象のために、特定のタンパク質のための安定化物質は、主に実証的試験の助けを借りて選択される。使用可能な安定剤は、とりわけ、酸化分解の防止のためには抗酸化剤もしくは還元剤、タンパク分解過程の防止のためにはプロテアーゼ阻害剤、重金属イオンの排除のためのキレート化剤、または微生物増殖の回避のための静菌剤および殺菌剤である。吸着、表面による変性、熱変性、乾燥化ならびに冷凍および解凍の反復のような物理的効果による活性の消失は、しばしば、グリセロール、炭水化物、アミノ酸、親水性重合体または不活性タンパク質の添加により、顕著に減少させることができる。ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)またはオボアルブミンが、多くの場合、凍結乾燥化タンパク質のための安定剤として使用される。このタイプのタンパク質添加剤の仕様の欠点は、例えば、プロテアーゼまたはプロテアーゼ阻害物質のように、実際安定化すべきタンパク質の生物活性に負の影響を与える、生物学的に活性な物質による汚染の可能性である。さらに、大量のアルブミンの添加は、多くの場合、続く所望のタンパク質の物理化学的分析の可能性を排除する。
【0008】
本発明は、セリンエンドペプチダーゼの安定化のための方法を使用可能にしようという目的に基づいている。
【0009】
本発明の意味の中では、セリンエンドペプチダーゼは以下の構造的または機能的特徴を有する酵素である:
I. セリンエンドペプチダーゼは常にペプチド結合を分解する加水分解酵素である;
II. この活性は、酵素の一次構造に関連して、互いに遠く離れているが、活性な触媒中心(「触媒トリアド(catalytic triad)」)における高次構造により近接しており、それらのアミノ酸残基の一つは常にセリン残基である一群のアミノ酸残基に依存している;
III. CまたはN末端からポリペプチドを分解し、そしてそれらの特異性に応じて、トリペプチド、ジペプチドまたは代わりに個々のアミノ酸を遊離する「エキソペプチダーゼ」とは対照的に、セリンエンドペプチダーゼは、タンパク質またはポリペプチドの内部に位置するペプチド結合を分解する;
IV. セリンエンドペプチダーゼは非可逆的にフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)によって阻害を受け、これはPMSFが活性中心のセリン残基をスルホニル化するからである;
V. セリンエンドペプチダーゼは非可逆的にジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)によって阻害を受け、これはDFPが活性中心のセリン残基をリン酸化するからである。
【0010】
国際純正応用化学連合(IUPAC)および国際生化学連合により企画された、国際酵素分類システム(=E.C.)に従って、各酵素は、4つの数字から成るE.C.番号を付与されている(www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzymeを参照)。
上記の特徴を有するセリンエンドペプチダーゼは、酵素クラスE.C. 3.4.21にまとめられる。各ケースにおけるこのクラスの個々のメンバーは一つの追加番号を含んでいる。セリンエンドペプチダーゼE.C. 3.4.21の酵素クラスの現在知られているメンバーを表1に列記する。
【0011】
表1
E.C. 3.4.21.1 キモトリプシン
E.C. 3.4.21.2 キモトリプシンC
E.C. 3.4.21.3 メトリジン
E.C. 3.4.21.4 トリプシン
E.C. 3.4.21.5 トロンビン
E.C. 3.4.21.6 血液凝固因子Xa
E.C. 3.4.21.7 プラスミン
E.C. 3.4.21.9 エンテロペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.10 アクロシン
E.C. 3.4.21.12 アルファ−リテックエンドペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.19 グルタミルエンドペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.20 カテプシンG
E.C. 3.4.21.21 血液凝固因子VIIa
E.C. 3.4.21.22 血液凝固因子IXa
E.C. 3.4.21.25 ククミシン
E.C. 3.4.21.26 プロリルオリゴペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.27 血液凝固因子XIa
E.C. 3.4.21.32 ブラキウリン
E.C. 3.4.21.34 血漿カリクレイン
E.C. 3.4.21.35 組織カリクレイン
E.C. 3.4.21.36 膵臓エラスターゼ
E.C. 3.4.21.37 白血球エラスターゼ
E.C. 3.4.21.38 血液凝固因子XIIa
E.C. 3.4.21.39 キマーゼ
E.C. 3.4.21.41 補体因子C1r
E.C. 3.4.21.42 補体因子C1s
E.C. 3.4.21.43 C3/C5変換酵素(古典的)
E.C. 3.4.21.45 補体因子I
E.C. 3.4.21.46 補体因子D
E.C. 3.4.21.47 C3/C5変換酵素(代替型)
E.C. 3.4.21.48 セレビシン
E.C. 3.4.21.49 ヒポデルミンC
E.C. 3.4.21.50 リソシマル(lysosymal)エンドペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.53 エンドペプチダーゼLa
E.C. 3.4.21.54 ガンマ−レニン
E.C. 3.4.21.55 ベノムビンAb
E.C. 3.4.21.57 ロイシルエンドペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.59 トリプターゼ
E.C. 3.4.21.60 スクテラリン(scutelarin)
E.C. 3.4.21.61 ケキシン
E.C. 3.4.21.62 スブチリシン
E.C. 3.4.21.63 オリジン
E.C. 3.4.21.64 プロテイナーゼK
E.C. 3.4.21.65 サーモミコリン
E.C. 3.4.21.66 テルミターゼ
E.C. 3.4.21.67 エンドペプチダーゼSo
E.C. 3.4.21.68 組織プラスミノゲン・アクチベータ
E.C. 3.4.21.69 プロテインC(活性型)
E.C. 3.4.21.70 膵臓エンドペプチダーゼE
E.C. 3.4.21.71 膵臓エラスターゼII
E.C. 3.4.21.72 IgA−特異的セリンエンドペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.73 ウロキナーゼ・プラスミノゲン・アクチベータ
E.C. 3.4.21.74 ベノムビンA
E.C. 3.4.21.75 フリン
E.C. 3.4.21.76 ミエロブラスチン
E.C. 3.4.21.77 セメノゲラーゼ
E.C. 3.4.21.78 グランザイムA
E.C. 3.4.21.79 グランザイムB
E.C. 3.4.21.80 ストレプトグリシンA
E.C. 3.4.21.81 ストレプトグリシンB
E.C. 3.4.21.82 グルタミルエンドペプチダーゼII
E.C. 3.4.21.83 オリゴペプチダーゼB
E.C. 3.4.21.84 カブトガニ凝固因子C
E.C. 3.4.21.85 カブトガニ凝固因子B
E.C. 3.4.21.86 カブトガニ凝固酵素
E.C. 3.4.21.87 オンプチン
E.C. 3.4.21.88 レプレッサーLexA
E.C. 3.4.21.89 シグナルペプチダーゼI
E.C. 3.4.21.90 トガビリン
E.C. 3.4.21.91 フラビリン
E.C. 3.4.21.92 エンドペプチダーゼClp
E.C. 3.4.21.93 プロタンパク質変換酵素1
E.C. 3.4.21.94 プロタンパク質変換酵素2
E.C. 3.4.21.95 ヘビ毒V因子アクチベータ
E.C. 3.4.21.96 ラクトセピン
E.C. 3.4.21.97 アセンブリン
E.C. 3.4.21.98 ヘパシビリン
E.C. 3.4.21.99 スペルモシン
E.C. 3.4.21.100 シュードモナペプシン
E.C. 3.4.21.101 キサントモナペプシン
E.C. 3.4.21.102 C−末端プロセシングペプチダーゼ
E.C. 3.4.21.103 フィサロリシン
【0012】
セリンエンドペプチダーゼの大部分は、動物またはヒト由来であり、分泌され、そしてN末端シグナルペプチドを有する。そうしたN末端シグナルペプチドを有するセリンエンドペプチダーゼは最初にN末端にプロペプチドを有する前駆体として合成される。そうしたセリンエンドペプチダーゼの活性化の過程で、このN末端プロペプチドが分解されるが、プロペプチドの完全な分解は活性化に必ずしも常に必要ではなく、いくつかのケースでは、プロペプチドはその分解後も、ジスルフィド架橋を介してこのプロテアーゼの重鎖に結合したままである。それでもなお、前駆体の分解はタンパク質分子内での構造変化をもたらし、それによりプロテアーゼの活性中心が活性状態に変換される。
【0013】
セリンエンドペプチダーゼはまた、特に、血液凝固II因子 (F II)、VII因子 (F VII)、IX因子 (F IX)、X因子 (F X)、XI因子 (F XI) およびXII因子 (F XII) を含む。活性型では、これらの因子は「a」の付加により識別される:IIa因子 (F IIa、トロンビン)、VIIa因子 (F VIIa)、IXa因子 (F IXa)、Xa因子 (F Xa)、XIa因子 (F XIa) およびXIIa因子 (F XIIa)。本発明は、以下の血液凝固因子による例示で説明されるが、しかし、本発明の範囲がこの群に制限されることはない。
【0014】
分離されたまたは豊富化された血液凝固因子の調製物が、治療のためのおよび診断のための目的で必要とされる。1またはそれ以上の血液凝固因子の先天的または後天的な欠損により引き起こされる疾患の治療において、患者は失われた血液凝固因子(1つまたは複数の)を濃縮形態で含有する調製物により補完される。この場合、血液凝固因子は製薬的に受容できる調製物の一成分である。診断の分野では、血液凝固因子、好ましくは、活性型血液凝固因子は、患者検体中の生物活性または分析物の定量的または定性的な測定のための試験的方法で必要な試薬の一成分として用いられる。例として、アンチトロンビンまたはヘパリンの測定のための発色試験の方法で使用される、F Xaまたはトロンビンを含有する試薬が挙げられる。
【0015】
試験キット、試薬または治療的に適用可能な製品に関連して、特に、試験キット、試薬または治療的に投与されるための製品の個々の成分を、即使用可能な液体調製物として利用できるようにすることが望ましく、その理由は、例えば凍結乾燥製品の再構成のような追加の作業工程をそれにより避けることができ、そして、さらに誤りの原因を減少させることができるためであり、その誤りの例には、物質の不十分な溶解、不正確な溶媒または溶媒量の使用、および凍結乾燥粉末の溶液または懸濁液の調製における汚染のような、試験全体の方法の品質および安全性に対して不都合な作用を有する可能性のあるものが挙げられる。さらに見過ごしてはならないことは、誤って再構成された治療剤の投与によりもたらされる可能性のある患者の健康面での危険性である。液体試験試薬または液体医薬製品の開発において特に重要な基準は、例えば+15から+25℃の間である室温または+2から+8℃の間である冷蔵温度におけるような保存条件下にて、液体状態でできる限り長期(少なくとも数ヶ月)となるべきだと考えられている保存期間である。
【0016】
例えば活性型血液凝固因子のような、活性型酵素を含有する、即時使用可能で、長期安定な液体調製物の提供は、多くの活性型酵素が固有の不安定性により特徴付けられるために、特に問題を起こしやすい。例えば、活性型F Xaは、不活性型F Xと比較して、不安定な酵素であり、それにより、精製F Xaの触媒活性は保存期間と共に減少していく。この理由により、例えば、トロンビンまたはFXaのような活性型血液凝固因子を含有する試薬は、現在までのところ、主に凍結乾燥形態で提供されそして使用直前に、水もしくは緩衝液のような適切な溶媒中で溶解することにより再構成されるか、または、それらは冷凍状態で保存されそして使用直前になって初めて融解される。
【0017】
文献からは、血液凝固因子調製物は各種の添加剤の添加により安定化できることが知られている。例えば、精製したウシF Xaの場合、水に溶解したF Xaについては、50% (v/v)グリセロールを加えそして−20℃で保存して、少なくとも5ヶ月間の安定化が達成され、一方、イミダゾール緩衝液中で+4℃で保存したF Xa調製物では、1週間後に当初の活性の90%しか保持されていなかった[Bajaj, S. P.およびMann, K. G. (1973) Simultaneous purification of bovine prothrombin and Factor X. J. Biol. Chem. 248, 7729-7741の7736頁の右欄を参照]。DE 43 25 872 C1には、ウイルスを不活性化したF Xa調製物が記載され、そこでは代わりにショ糖またはヒトアルブミンで処理されているが、長期の安定化では凍結保存されている。+37℃では6週間の保存期間にわたってF Xaの活性のどのような変化も観察することはできなかった。EP 680 764 A2には、ウイルス不活性化タンパク質調製物の製造方法が記載され、そこでは安定化される例えばF Xaのようなタンパク質は脂質小胞と組み合わされ、安定化添加剤は用いられていない。特許文献EP1153 608 A1には、1またはそれ以上の血液凝固因子を含有し、そして安定剤の添加により滅菌操作(pasteurization)中に活性を失わないように保護されているタンパク質溶液が記載されている。糖類ならびに/または、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸およびその塩、およびグルタミン酸およびその塩のようなアミノ酸の添加により安定化させるとして記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、液体状態で長期にわたって安定な、セリンエンドペプチダーゼを含有する調製物を使用可能にするという目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、特許請求の範囲に記載された本発明の方法および物件を使用できるようにすることにより達成される。
【0020】
本発明は所望の純度および濃度の調製物として存在する少なくとも1つのセリンエンドペプチダーゼを含有する調製物を提供する。好ましくは、この調製物中に存在するセリンエンドペプチダーゼは、精製されたセリンエンドペプチダーゼである。精製セリンエンドペプチダーゼは、このセリンエンドペプチダーゼが天然に存在するまたは遺伝子組換え技術によって産生される有機体の原材料から、セリンエンドペプチダーゼの精製を可能にすることができる、当業者が適切と考えるどのような方法によっても得ることができる。このセリンエンドペプチダーゼの所望の純度に従って、炭水化物、脂質、核酸、タンパク質および/または他の生体分子のような不純物の分離を可能にする精製方法が用いられる。セリンエンドペプチダーゼを得るための原材料は、例えば、動物もしくはヒトの組織、もしくは体液(例えば、血液、血漿、血清、リンパ液)、動物もしくはヒトの細胞培養物の上清、もしくは溶解物または、組換えセリンエンドペプチダーゼを発現している真核細胞もしくは細菌や真菌のような微生物の培養物であっていい。タンパク質を精製するための良く知られている方法の例としては、クロマトグラフィー分離方法、例えばイオン交換、ゲル濾過、疎水性相互作用またはアフニテイクロマトグラフィーが用いられる。さらに、分取用ゲル電気泳動、分取用等電点電気泳動、クロマトフォーカシング、沈殿法および超遠心法もまた、タンパク質抽出物からのタンパク質の精製のために使用することができる。
【0021】
本発明は、少なくとも1つのセリンエンドペプチダーゼ、ならびに、さらにa)酢酸アンモニウム (CH3COONH4) 、またはb)少なくとも1つのポリアミノ酸、またはc)グリセロール、ならびにアスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸、またはd)添加剤a)b)およびc)のすべての所望の配合物、を含有する調製物に関している。
【0022】
a)酢酸アンモニウムの単独での添加、b)少なくとも1つのポリアミノ酸の単独での添加、c)グリセロールならびにアスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンおよびグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸の単独での添加、ならびに、添加剤a)およびb)、またはa)およびc)、またはb)およびc)、またはa)およびb)およびc)の組合せの添加が、セリンエンドペプチダーゼの安定化をもたらすことが判明した。驚くべきことに、本発明による調製物は、液体状態でより高い安定性を有し、それにより、記載した添加剤が存在しない対応する調製物より長期の保存能力を有している。
【0023】
本発明の調製物の安定性を測定するために、加速化ストレス条件下での安定性試験を行った(例えば、実施例1を参照)。調製物の安定性は、温度+52℃で、液体状態で調べられた。本願における安定性とは、調製物の生物活性の保持を意味している。調製物の安定性が高ければ、含有するセリンエンドペプチダーゼの生物活性の消失はより少なくなるか、または含有するセリンエンドペプチダーゼの分解生成物の数が少なくなる。
【0024】
例えば、液体状態での本発明の調製物中のセリンエンドペプチダーゼF Xaは、+52℃の保存温度で、48時間で50%未満の活性消失を示すことが観察された。アレニウス式を用いて、他の温度で予測される調製物の安定性が、+52℃での調製物の安定性から、おおよそ推定することができる。アレニウス式によれば、+52℃の安定性から、おおよそ推定された+2℃での試料の安定性は、およそ32倍増加し、すなわち、このことにより、例えば、+52℃で2日間インキュベーションした後で測定された活性が、たった+2℃の保存温度では約64日後であってもなお期待できる。活性の消失の測定のために、調製物に含有されるセリンエンドペプチダーゼの活性が、時間t0、すなわち液体調製物の製造直後に一度、そして、さらに、+52℃でこの液体調製物を所定の期間経過後、好ましくは48時間経過後の少なくとも1つの時間に測定される。活性の消失は、時間t0で測定された活性(100%に対応する)と+52℃でこの液体調製物を保存した後で測定した活性を比較することによって得られる。例えば、F Xaを豊富化形態で含有する調製物の安定性の測定のためには、例えば、F Xaのタンパク分解活性が発色ペプチド基質の分解により測定されるような方法が適切である(実施例1を参照)。
【0025】
本発明の好ましい実施態様は、少なくとも1つのセリンエンドペプチダーゼおよびさらに安定化のために酢酸アンモニウムを含有する調製物に関する。そうした調製物はさらにグリセロールまたはさらに、アスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸を含有してもいい。
【0026】
本発明の他の実施態様は、少なくとも1つのセリンエンドペプチダーゼおよびさらに安定化のために少なくとも1つのポリアミノ酸を含有する調製物に関する。そうした調製物はさらにグリセロールまたはさらに、アスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸を含有してもいい。
【0027】
酢酸アンモニウムが本発明の調製物に加えられる場合は、酢酸アンモニウムは、最終濃度で、25〜1000mM、好ましくは400〜1000mM、特に好ましくは700〜1000mM、存在する。
【0028】
ポリアミノ酸が本発明の調製物に加えられる場合は、これは好ましくはポリ−L−グルタメートおよびポリ−L−アスパルテートからのポリアミノ酸である。ポリアミノ酸は、最終濃度で、1〜10mM、好ましくは2〜10mM、特に好ましくは2〜5mM、存在する。
【0029】
本発明の調製物の様々な実施態様は、グリセロールを含有できる。グリセロールが本発明の調製物に加えられる場合は、このグリセロールは好ましくは、最終濃度で、0.5〜50体積%、好ましくは10〜50体積%、特に好ましくは30〜50体積%、存在する。
【0030】
本発明の調製物のさらなる実施態様は、アスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの1またはそれ以上のアミノ酸を含有することができる。ヒスチジンおよびグリシンの群からのアミノ酸が本発明の調製物に加えられた場合は、ヒスチジンまたはグリシンは好ましくは、最終濃度で、10〜250mM、好ましくは25〜200mM、特に好ましくは100〜150mM、存在する。アスパラギン酸およびその塩、ならびにグルタミン酸およびその塩の群からのアミノ酸が本発明の調製物に加えられた場合は、アミノ酸またはその塩は好ましくは、最終濃度で、10〜1000mM、好ましくは400〜1000mM、特に好ましくは500〜800mM、存在する。
【0031】
驚くべきことに、セリンエンドペプチダーゼを含有する調製物へのアミノ酸リシンの添加は、本発明の他の1またはそれ以上の添加剤とのあらゆる組合せにおいて、上記のアミノ酸とは反対に、不安定化作用を有することが発見された。それゆえに、特に、リシンは、好ましい本発明の調製物の実施態様には添加されない。
【0032】
本発明の調製物の他の実施態様はさらに、好ましくはショ糖およびトレハロースの群からの1またはそれ以上の非還元糖を含有することができる。非還元糖が本発明の調製物に加えられる場合は、この糖は好ましくは、最終濃度で、20〜500mM、好ましくは50〜400mM、特に好ましくは200〜300mM、存在する。
【0033】
なお、さらなる添加剤、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、イオン性または非イオン性界面活性剤(例えば、トライトン(R)(Triton(R))X-100、ツイーン(R)(Tween(R))20、ブリジ(R)(Brij(R))35)、プロテアーゼ阻害剤、塩類(例えば、Ca2+イオン)、ヘパリン、アルブミン、殺細菌性、殺真菌性または殺藻性作用を有する保存剤(例えば、アジ化ナトリウム、カトーン(R)(Kathon(R))、メルガール(R)(Mergal(R))等)などのような添加剤を、そうした成分の存在が本発明の調製物の安定性を減少させないか、または特定の目的のための調製物の使用に悪影響を与えない場合には、本発明の調製物に加えることができ、したがって、特に、治療で使用することを意図している本発明の調製物においては、製薬的に受容できない添加剤は避ける必要がある。
【0034】
本発明の調製物のpHは6.5〜9.5の間、好ましくは7.4〜8.5の間、そして特に好ましくは8.0であっていい。
【0035】
本発明の調製物の好ましい実施態様は、動物またはヒト血液凝固因子の群からの、特に、F II、F VII、F IX、F X、F XIおよびF XIIから成る群からの血液凝固因子、またはF IIa、F VIIa、F IXa、F Xa、F XIaおよびF XIIaから成る活性型血液凝固因子の群からの、セリンエンドペプチダーゼを含有する。さらには、ウシ由来の血液凝固因子が好ましい。
【0036】
本発明の調製物の他の実施態様は、補体因子C1r、C1s、補体因子Dおよび補体因子Iを含む動物またはヒトの補体因子の群からのセリンエンドペプチダーゼを含有する。
【0037】
本発明の調製物の他の実施態様は、1またはそれ以上の表1に記載されたセリンエンドペプチダーゼを含有する。特に好ましい実施態様は、キモトリプシン、トリプシン、プラスミン、アクロシン、カテプシンG、血漿カリクレイン、組織カリクレイン、膵臓エラスターゼ、白血球エラスターゼ、C3/C5変換酵素(古典的)、C3/C5変換酵素(代替型)、スブチリシン、プロテイナーゼK、活性型プロテインC、組織プラスミノゲン・アクチベータ、ウロキナーゼ・プラスミノゲン・アクチベータ、フリン、カブトガニ凝固因子C、カブトガニ凝固因子B、カブトガニ凝固酵素、および、ヘビ毒V因子アクチベータ、から成る群からのセリンエンドペプチダーゼを含有する。
【0038】
本発明の添加剤の安定化作用により、本発明の調製物は好ましくは液体形態で使用することができる。それにもかかわらず、本発明の調製物は凍結乾燥することも可能である。この目的で、場合によっては、凍結保護作用を有するさらなる安定化剤を本発明の調製物に加えることができ、その例には、マンニトールのような多糖類、または血清アルブミンのようなタンパク質、またはポリゲリン、ゼラチン誘導体、またはポリオールが挙げられる。
【0039】
本発明のさらなる目的は、豊富化形態でセリンエンドペプチダーゼを含有している、本発明の安定化調製物の製造方法、または、セリンエンドペプチダーゼを含む調製物の安定化方法に関している。そうした方法は、さらにa)酢酸アンモニウム (CH3COONH4) 、またはb)少なくとも1つのポリアミノ酸、またはc)グリセロール、ならびにアスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸、またはd)添加剤a)b)およびc)のすべての所望の組合せ、のいずれかが、セリンエンドペプチダーゼを含有している調製物に加えられていることが確実であれば、どのような方法であってもいいと理解すべきである。好ましい実施態様では、このために、セリンエンドペプチダーゼを含有する水溶液を、1またはそれ以上の本発明の添加剤を各場合に含有する1またはそれ以上の溶液と混合する。他の実施態様では、このために、セリンエンドペプチダーゼを含有する水溶液を、1またはそれ以上の本発明の添加剤を含有する1またはそれ以上の可溶性固形物と混合する。他の実施態様では、セリンエンドペプチダーゼを含有する凍結乾燥物を、既に本発明の1またはそれ以上の添加剤を含有している再構成媒体中に溶解することができる。
【0040】
本発明はさらに、a)酢酸アンモニウム、ならびに/またはb)ポリアミノ酸、ならびに/またはc)グリセロールならびにアスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジン、およびグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸を、セリンエンドペプチダーゼを含有する調製物の安定化のために使用することに関している。
【0041】
本発明のさらなる目的は、分析的もしくは診断的方法において、または生触媒的製造工程において、または治療目的のために、セリンエンドペプチダーゼを含有する本発明の安定化調製物の使用に関する。好ましい使用は、分析物の測定のための、または、例えば、凝固時間による血液もしくは血漿検体の凝固能力のような生物活性の測定のための、試験的方法における、本発明の安定化調製物の試薬としての使用に関する。
【0042】
本発明の1つの実施態様は、洗剤の製造方法または動物飼料の製造方法における、皮製品の製造方法または有機合成方法においてラセミ混合物を分離するための方法における、スブチリシンを含有する安定化調製物の使用に関する。
【0043】
本発明のさらなる実施態様は、細胞上清中のタンパク質の分解および/または細胞もしくは組織からの核酸の遊離のための方法における、または、プリオンタンパク質(スクラピー等)の同定のための方法における、プロテナーゼKを含有する安定化調製物の使用に関する。
【0044】
本発明のさらなる実施態様は、タンパク分解酵素の不活性型前駆体(チモーゲン)を酵素的に活性化するための方法における、フリンを含有する安定化調製物の使用に関する。
【0045】
特に、F II、F VII、F IX、F X、F XIおよびF XIIから成る群からの、および/またはF IIa、F VIIa、F IXa、F Xa、F XIaおよびF XIIaから成る群からの、少なくとも1つの動物またはヒト血液凝固因子を含有する、本発明の安定化調製物の好ましい使用は、血液または血漿検体中の凝固および/または線溶パラメータの測定のための試験方法における試薬としての使用である。このタイプの調製物の試薬としての使用の例は、FXaまたはF IIa(トロンビン)を含有する本発明の調製物の使用である。F Xaを含む試薬は、凝固診断の各種の試験方法、例えば、患者検体中のアンチトロンビンまたはヘパリンの測定の試験方法において使用される。F Xaを基にした試験方法の実施態様は、例えば、特許文献EP 216 179 B1(実施例2)およびUS 5,308,755(実施例2)に記載されている。これらの方法は、検査する患者検体が、特に、過剰のF Xaで処理され、そして検体中に含まれるアンチトロビンまたはヘパリンのF Xa阻害作用を、例えば発色性基質を用いて、インキュベーション段階後に残存するF Xaの活性を測定することで、決定できるという一般的な試験原理に基づいている。F IIa(トロンビン)を含む試薬は、また、凝固診断の各種の試験方法、例えば、クラウスによる凝固可能なフィブリンの、トロンビン時間の測定の試験方法において、または代わりにアンチトロンビンもしくはヘパリンコファクターIIの測定の試験方法において、使用できる。これらの試験方法は、F IIa(トロンビン)の所定の量を検査する患者検体に加えて、そしてフィブリン形成を凝固時間の形態で測定するか、または、トロンビン基質の分解を測定する、という事実に本質的に基づいている。アンチトロンビンを測定するためのF IIa(トロンビン)に基づく試験方法の1つの実施態様は、例えば、特許文献EP 216 179 B1(実施例1)に記載されている。従来のXa因子またはF IIa(トロンビン)調製物の安定性の欠損により、F XaおよびF IIa(トロンビン)を含む試薬は主に凍結乾燥物として使用されている。本発明のF XaまたはF IIa(トロンビン)調製物の良好な安定性により、液体状態で比較的長期にわたって保存できる、本発明のF XaまたはF IIa(トロンビン)調製物の試薬としての使用は、有利である。調製物の試薬としての使用の他の例は、細胞性プロテアーゼ阻害物質であるα1−アンチキモトリプシンの測定方法における、キモトリプシンを含有する本発明の調製物の使用であり、このことは、例えば、特許文献EP 216 179 B1(実施例5)に記載されている。
【0046】
本発明のさらなる目的は、セリンエンドペプチダーゼの定量的または定性的測定を目的とする試験方法における、コントロールまたは標準溶液としての、セリンエンドペプチダーゼを含有する本発明の安定化調製物の使用に関している。この一例は、好ましくはF II、F VII、F IX、F X、F XIおよびF XIIから成る群からの、および/またはF IIa、F VIIa、F IXa、F Xa、F XIaおよびF XIIaから成る群からの動物またはヒト血液凝固因子を含有するコントロールまたは標準として、本発明の安定化調製物の、主に、それらの因子の1つの濃度または活性を測定するために用いる試験方法における使用である。例えば、F XまたはF Xaを含有する本発明の調製物は、患者検体中のF XまたはF Xaの濃度または活性を測定するために用いられる方法において、標準またはコントロールとして使用することができる。適切な活性測定法または免疫測定法により患者検体中で測定された活性または濃度は、次に、平行するバッチ中で測定された標準またはコントロールの活性または濃度と比較される。患者検体の測定値と、所定の量または活性のセリンエンドペプチダーゼを含有する標準またはコントロールの測定値との比較は、患者検体中のこのセリンエンドペプチダーゼの評価を可能にする。
【0047】
本発明のさらなる目的は、診断的試験方法の実施で使用するための試験キットに関する。1またはそれ以上の試験成分を含むことができる、本発明のそうしたキットは、好ましくは液体調製物の形態で、セリンエンドペプチダーゼを含有する本発明の調製物を含有することによって識別される。好ましくは、試験キットは、診断的試験方法を実施するために必要な、少なくとも1つのさらなる成分を含んでいる。セリンエンドペプチダーゼの阻害剤を測定するために使用される発色性試験方法(上記の、F Xa、トロンビンおよびα1−アンチキモトリプシン試験を参照)の場合は、好ましくはさらなる試薬が試験キット中に存在しており、それは例えば、それぞれのプロテアーゼから分解される発色性基質を含む試薬である。患者検体中のヘパリンを測定するための方法で使用する試験キットは、さらにアンチトロンビンを含む試薬を含む。患者検体中のアンチトロンビンの測定法に使用される他の試験キットは、ヘパリンを含む試薬をさらに含むことができる。さらに、本発明の試験キットは例えば、1またはそれ以上の緩衝溶液、1またはそれ以上の検量用溶液、または1またはそれ以上のコントロール溶液を含むことができる。例えばプロテアーゼ阻害剤のような生物活性のパラメータを血漿検体中で測定する方法で使用することを意図している試験キットは、好ましくは、1またはそれ以上の検量用血漿、または1またはそれ以上のコントロール血漿、例えば正常および/または異常な血漿を含むことができる。
【0048】
本発明のさらなる目的は、本発明の安定化調製物の治療剤としてのまたは治療剤の製造のための使用に関している。好ましくはF II、F VII、F IX、F X、F XIおよびF XIIから成る群からの、および/または対応する活性型血液凝固因子の群からの、少なくとも1つの動物またはヒト血液凝固因子を含有する調製物の、凝固障害の治療のためまたは対応する治療剤の製造のための使用が好ましい。F Xおよび/またはF Xaを含む、本発明の調製物は、例えば、凝固系の欠損を有する患者の治療または対応する治療剤の製造のために適している。
【0049】
以下の、実施例は、本発明の方法を例示するために用いられ、限定として理解されるべきではない。
【0050】
図の説明
図1
図1は、+52℃で48時間インキュベートしたF Xa液体調製物における種々の濃度での酢酸アンモニウムの安定化効果を図示したものである。検体中に含まれるF Xa活性を、発色性F Xa基質の卵割により、t=0時間、1時間、6時間、24時間および48時間で測定した。t=0時間で測定した活性を100%に等しいと設定した。後の時点で測定した活性はこれと比較した。F Xa液体調製物中の酢酸アンモニウムの存在下でF Xaの熱安定性が酢酸アンモニウムを含まないコントロールに比較して増大していることが明らかに理解できる。安定性の増加は濃度依存的であり、すなわち酢酸アンモニウム濃度が高くなれば安定性効果も増大する。
【0051】
図2
図2は、+52℃で48時間インキュベートしたF Xa液体調製物における種々の濃度でのポリアミノ酸ポリグリタメートおよびポリアスパルテートの安定化効果を図示したものである。検体中に含まれるF Xa活性を、t=0時間、1時間、6時間、24時間および48時間で測定した。t=0時間で測定した活性を100%に等しいと設定した。後の時点で測定した活性はこれと比較した。F Xa液体調製物中のポリアミノ酸の存在下でF Xaの熱安定性がポリアミノ酸を含まないコントロールに比較して増大していることが明らかに理解できる。安定性の増加は濃度依存的であり、すなわちポリアミノ酸濃度が高くなれば安定性効果も増大する。
【0052】
図3
図3は比較実験を記載しそして+52℃で48時間インキュベートしたF Xa液体調製物における種々の濃度でのアミノ酸リシンの不安定化効果を図示したものである。F Xa液体調製物中のL−リシンの存在下でF Xaの熱安定性がL−リシンを含まないコントロールに比較して減少していることが明らかに理解できる。安定性の減少は濃度依存的であり、すなわちL−リシン濃度が高くなれば不安定化効果も増大する。本発明の安定化物質に対して、F Xa液体調製物にL−リシンを添加することは安定化作用を持たないだけではなく、反対の作用、すなわちF Xaの不安定化さえもたらす。
【0053】
図4
図4は、+52℃で48時間インキュベートしたトロンビン液体調製物における種々の濃度での酢酸アンモニウムの安定化効果を図示したものである。検体中に含まれるトロンビン活性を、t=0時間、1時間、6時間、24時間および48時間で測定した。t=0時間で測定した活性を100%に等しいと設定した。後の時点で測定した活性はこれと比較した。トロンビン液体調製物中の酢酸アンモニウムの存在下でトロンビンの熱安定性が酢酸アンモニウムを含まないコントロールに比較して増大していることが明らかに理解できる。安定性の増加は濃度依存的であり、すなわち酢酸アンモニウム濃度が高くなれば安定性効果も増大する。
【0054】
〔実施例1〕
酢酸アンモニウム、ポリアミノ酸またはグリセロールおよびアミノ酸の添加による本発明のF Xa液体調製物の製造、ならびにそれらのストレス条件下での熱安定性
ヒトF Xを得るために、ヒト血漿から得られたプロトロンビン複合体凍結乾燥物を溶解
し、そして25% (w/v)硫酸アンモニウムを加えてプロトロンビン複合体調製物のタンパク質を沈殿させた。沈殿したタンパク質混合物を遠心分離により上清から分離し、再懸濁し、そしてクエン酸三ナトリウム塩二水和物緩衝液(4.0g/l)、pH 6.5に対して透析した。透析された液を続いてデキストラン硫酸−セファロース材上でのクロマトグラフィーに付した。F Xは、クエン酸三ナトリウム塩二水和物緩衝液(pH 6.5)中で塩化ナトリウムの勾配により、プロトロンビン複合体の残余のタンパク質成分から分離した。F Xを含む画分を合わせて、6g/Lのトリスヒドロキシメチルアミノメタンおよび0.6g/Lの塩化カルシウム二水和物を含む緩衝液(pH 8.0)の10倍体積に対して透析した。F XからF Xaへの活性化は、Xa因子のプールの1LあたりRVV(ラッセルヘビ毒)を5mg加えて行い、続いて室温で終夜インキュベーションした。このようにして得られたF Xaを硫酸アンモニウム沈殿法により濃縮し、そして30g/Lのトリスヒドロキシメチルアミノメタン、60g/Lの塩化ナトリウム(pH 8.0)中に回収した。保存のために、F Xaを含むタンパク質溶液を続いて凍結乾燥した。凍結乾燥物はF Xaを1mgあたり2U含み、この1U単位は1mLの正常血漿中に含まれている酵素の量に相当する。
【0055】
各ケースにF Xa凍結乾燥物の2mgを緩衝液1(トリス/塩酸を19ミリモル/L、NaClを67ミリモル/L、CaCl2を81ミリモル/L、pH 8.0)の5.4mL、またはさらに1またはそれ以上の本発明の安定化物質を含有する緩衝液1中に溶解し、そして続いて低分子量ヘパリンのフラグミン(R)(Fragmin(R))(1000U/ml; ファルマシア、カラマズー、米国)の1.35μL、およびアプロチニン(1.4mg/ml)の31.7μLを用いて処理した。F Xaの保存溶液の最終濃度は0.73U/mLであった。
【0056】
加速化ストレス条件下での本発明の調製物の安定性を試験するために、各ケースで2つの試料を、1またはそれ以上の本発明の安定化物質を特定の濃度で含有する本発明のF Xa液体調製物のそれぞれから調製した。全ての本発明のF Xa試料および、F Xaを同じ緩衝液に含んでいるが本発明の安定化物質は添加していないF Xaコントロール試料を、熱ブロック中で+52℃において、少なくとも48時間インキュベートした。
【0057】
試料中のF Xa活性の測定のために、各ケースで80μLのアリコットを時間t=0、すなわち緩衝液1中にF Xa凍結乾燥物の溶解直後そして+52℃まで暖める前に、および次に+52℃で種々のインキュベーション時間に採取し、そしてF Xa活性を自動凝固分析器のシスメックス(R)(Sysmex(R)) CA-7000(シスメックス株式会社、神戸、日本)で測定した。このために、凝固分析器により、それぞれのアリコットを最初に緩衝液の40μLを用いて希釈した。+37℃で12秒間インキュベーションした後、基質試薬(Z−D−Leu−Gly−Arg−ANBA−メチルアミド、1.5mM)の80μLを各試料に加え、そして次にこの混合物を+37℃でさらに84秒間インキュベートした。F Xa依存性の発色団ANBA(5−アミノ−2−ニトロ−安息香酸)の産生を、自動凝固分析器で、温度+37℃および波長405nmにて記録し、そしてそれからの吸光度の変化をF Xa活性の測定値としてΔOD/分であらわして、測定した。特定のF Xa液体調製物の2つの試料に関して同時に測定した結果を平均した。
【0058】
F Xa液体調製物中でのいくつかの本発明の安定化剤の様々な組合せの安定化効果を表2および3に示した。時間t=0において、発色性F Xa活性試験を上記のように行って、そしてF Xa活性を、ΔOD/分で表す減衰(extinction)の変化により定量化した。+52℃でのインキュベーション後24時間目および48時間目に、各試験バッチの残存するF Xa活性を測定し、減少%を時間t=0での活性と比較して決定した。各ケースでt=24時間目または48時間目での、本発明の安定化剤を含まないコントロール試料の測定値における減少%(「コントロール」)と本発明の調製物の測定値における減少%(「試料」)からの比(活性減少コントロール/活性減少試料)の算出により、本発明の組成物の安定化効果が例示される。比>1は加えた物質または物質配合物の安定化効果を示し;比<1は加えた物質または物質配合物の不安定化効果を示し;比=1は加えた物質または物質配合物が安定性にはなんら効果がないことを示す。
【0059】
表2からわかるように、グリセロールとアスパラギン酸ナトリウムおよび/またはグルタミン酸ナトリウムとの組合せの存在はF Xa活性を、それら個別の添加剤の存在下の場合より顕著に優れて安定化している。さらに酢酸アンモニウムを添加すると、安定化効果はさらに大きく増加する。
【0060】
表3からは、F Xa活性が、酢酸アンモニウム存在下で、そして特に酢酸アンモニウムとアスパラギン酸ナトリウムおよび/またはグルタミン酸ナトリウムとの組合せの存在またはグリセロールとの組合せの存在下で、酢酸アンモニウムの不在下と比べてより良く安定化したことが明らかである。
【0061】
安定性試験のさらなる結果を図1〜3および付随する図の説明に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
〔実施例2〕
L−リシンの添加によるF Xa液体調製物の製造およびそれのストレス条件下での熱安定性(比較実験)
実施例1の実験と同様に、F Xa調製物を異なった濃度のアミノ酸L−リシンを含有する緩衝液1を用いて作成した比較実験を、実施した。L−リシンの不安定化作用を図3および付随する図の説明で示した。
【0065】
〔実施例3〕
酢酸アンモニウムの添加による本発明のトロンビン液体調製物の製造
商業的に入手できるトロンビン凍結乾燥物を用いた。これは、ヘパリン、マンニトール、NaClおよびアプロチニンを加えた凍結乾燥ウシトロンビンであった。この凍結乾燥物を、緩衝液2(トリスを12g/L、NaClを9g/L、pH 8.2)中、またはさらに種々の濃度で酢酸アンモニウムを含有する緩衝液2中で溶解した。こうして得られたトロンビン調製物は1mLあたり約4〜5IUのトロンビンを含んでいる。
【0066】
加速化ストレス条件下でのトロンビン調製物の安定性を試験するために、各ケースで2つの試料を、酢酸アンモニウムを含有する、本発明のトロンビン液体調製物のそれぞれから調製した。全ての本発明のトロンビン試料および、トロンビンを同じ緩衝液に含んでいるが酢酸アンモニウムは添加していないトロンビンコントロール試料を、熱ブロック中で+52℃において、少なくとも48時間インキュベートした。
【0067】
試料中のトロンビン活性の測定のために、各ケースで175μLのアリコットを時間t=0、すなわち緩衝液2中にトロンビン凍結乾燥物の溶解直後そして+52℃まで暖める前に、および次に+52℃で種々のインキュベーション時間に採取し、そしてトロンビン活性を自動凝固分析器のシスメックス(R)CA-7000(シスメックス株式会社、神戸、日本)で測定した。このために、凝固分析器により、それぞれのアリコットを最初に反応緩衝液の24μLと混合した。+37℃で180秒間インキュベーションした後、基質試薬(Tos−Gly−Pro−Arg−ANBA−イソプロピルアミド、2mM)の33μLを各試料に加えた。トロンビン依存性の発色団ANBA(5−アミノ−2−ニトロ−安息香酸)の産生を、自動凝固分析器で、温度+37℃および波長405nmにて記録し、そして減衰(extinction)の変化をトロンビン活性の測定値としてΔOD/分であらわして、測定した。特定のトロンビン液体調製物の2つの試料に関して平行して測定した結果を平均した。
【0068】
安定性試験の結果を図4および付随するこの図の説明に示した。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】+52℃で48時間インキュベートしたF Xa液体調製物における種々の濃度での酢酸アンモニウムの安定化効果を示す。
【図2】+52℃で48時間インキュベートしたF Xa液体調製物における種々の濃度でのポリアミノ酸のポリグリタメートおよびポリアスパルテートの安定化効果を示す。
【図3】+52℃で48時間インキュベートしたF Xa液体調製物における種々の濃度でのアミノ酸のリシンの不安定化効果を示す。
【図4】+52℃で48時間インキュベートしたトロンビン液体調製物における種々の濃度での酢酸アンモニウムの安定化効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセリンエンドペプチダーゼを含む調製物であって、その中に、
a)酢酸アンモニウム、および/または
b)少なくとも1つのポリアミノ酸、および/または
c)グリセロールと共に、アスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸、
が存在する、調製物。
【請求項2】
請求項1に記載の調製物であって、その中に:
a)酢酸アンモニウム、および/または
b)少なくとも1つのポリアミノ酸、
を含み、さらにグリセロールが存在する、調製物。
【請求項3】
請求項1に記載の調製物であって、その中に:
a)酢酸アンモニウム、および/または
b)少なくとも1つのポリアミノ酸、
を含み、さらに、アスパラギン酸およびその塩、グルタミン酸およびその塩、ヒスチジンならびにグリシンから成る群からの少なくとも1つのアミノ酸が存在する、調製物。
【請求項4】
酢酸アンモニウムが、最終濃度で、25〜1000mM、好ましくは400〜1000mM、特に好ましくは700〜1000mM、存在する、請求項1〜3のいずれかに記載の調製物。
【請求項5】
ポリ−L−グルタメートおよびポリ−L−アスパルテートの群からの少なくとも1つのポリアミノ酸が存在する、請求項1〜4のいずれかに記載の調製物。
【請求項6】
ポリアミノ酸が、最終濃度で、1〜10mM、好ましくは2〜10mM、特に好ましくは2〜5mM、存在する、請求項1〜5のいずれかに記載の調製物。
【請求項7】
グリセロールが、最終濃度で、0.5〜50体積%、好ましくは10〜50体積%、特に好ましくは30〜50体積%、存在する、請求項1〜6のいずれかに記載の調製物。
【請求項8】
ヒスチジンおよびグリシンの群からの少なくとも1つのアミノ酸が、最終濃度で、10〜250mM、好ましくは25〜200mM、特に好ましくは100〜150mM、存在する、請求項1〜7のいずれかに記載の調製物。
【請求項9】
アスパラギン酸およびその塩ならびにグルタミン酸およびその塩の群からの少なくとも1つのアミノ酸が、最終濃度で、10〜1000mM、好ましくは400〜1000mM、特に好ましくは500〜800mM、存在する、請求項1〜8のいずれかに記載の調製物。
【請求項10】
さらに少なくとも1つの非還元糖が存在する、請求項1〜9のいずれかに記載の調製物。
【請求項11】
存在するセリンエンドペプチダーゼが、F II、F VII、F IX、F X、F XI、F XII、F IIa、F VIIa、F IXa、F Xa、F XIaおよびF XIIaから成る群からの動物またはヒトの血液凝固因子である、請求項1〜10のいずれかに記載の調製物。
【請求項12】
存在するセリンエンドペプチダーゼが、C1r、C1s、補体因子Dおよび補体因子Iから成る群からの動物またはヒトの補体因子である、請求項1〜10のいずれかに記載の調製物。
【請求項13】
存在するセリンエンドペプチダーゼが、以下の群:キモトリプシン、トリプシン、プラスミン、アクロシン、カテプシンG、血漿カリクレイン、組織カリクレイン、膵臓エラスターゼ、白血球エラスターゼ、C3/C5変換酵素(古典的)、C3/C5変換酵素(代替型)、スブチリシン、プロテイナーゼK、活性型プロテインC、組織プラスミノゲン・アクチベータ、ウロキナーゼ・プラスミノゲン・アクチベータ、フリン、カブトガニ凝固因子B、カブトガニ凝固因子C、カブトガニ凝固酵素、および、ヘビ毒V因子アクチベータ、に由来する、請求項1〜10のいずれかに記載の調製物。
【請求項14】
調製物が液体である、請求項1〜13のいずれかに記載の調製物。
【請求項15】
凝固パラメータの測定のための試験方法における、請求項11に記載の調製物の使用。
【請求項16】
アンチトロンビンの測定のための試験方法における、F XaまたはF IIaを含む、請求項11に記載の調製物の使用。
【請求項17】
ヘパリンの測定のための試験方法における、F Xaを含む、請求項11に記載の調製物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−222169(P2007−222169A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−43181(P2007−43181)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(398032751)デイド・ベーリング・マルブルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (36)
【Fターム(参考)】