説明

セルロースの溶解および加工

本発明は、創傷ケアに使用するのに適したゲル形成物質の成分の溶解方法で、前記成分をイオン液体と混合する段階を含むことを特徴とする方法に関する。該イオン液体は、三級アミンN−オキシド、N,N−ジメチルホルムアミド/四酸化窒素混合物、ジメチルスルホキシド/パラホルムアルデヒド混合物、および塩化リチウムのN,N−ジメチルアセトアミドもしくはN−メチルピロリドン溶液の群から選択されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学修飾セルロース系材料、特に化学修飾セルロース系繊維、好ましくはゲル形成物質であるものに関する。このような物質は、特に創傷ケアに使用される。
【0002】
粉末状の化学修飾セルロースは、増粘剤としてよく知られている。特に粉末状カルボキシメチルセルロースは、セルロースパルプを、強アルカリ(例えば水酸化ナトリウム)およびモノクロロ酢酸またはその塩と反応させることによって製造される。再生セルロース(ビスコースレーヨン)繊維から、または綿から、カルボキシメチルセルロース繊維を製造するための多くの提案がなされてきた。しかしながら、創傷ケアに使用するのに適した繊維に達する際に、これらの方法について問題が存在する。なぜなら、用途によっては、表面粘着性がなく、かつ繊維機械で加工されるのに十分強い高吸収性繊維が必要とされるからである。しかしながら、創傷ケアに使用するのに適したカルボキシメチルセルロース繊維が、WO 93/12275に記載された方法によって製造されており、それは出発物質として溶媒紡糸セルロース繊維を使用している。しかしながら、この方法は、該セルロースが出発物質に化学的に変換されなければならないこと;続いて該カルボキシメチルセルロースが創傷ケア製品に変換されなければならないこと、および該変換工程が繊維のすべての長さ、特に短い繊維に適していないかもしれないという点でその限界を有している。
【0003】
イオン液体を使用してセルロースを溶解することは、公知である。WO 03/029329には、イオン液体を用いたセルロースの溶解および加工が記載されている。しかしながら、イオン液体は、創傷ケアに使用するゲル形成繊維の溶解にはこれまで使用されていなかった。例えば、化学修飾セルロース、特に水膨潤性であるが不溶性のカルボキシメチルセルロースポリマーの溶解には使用されていなかった。我々は現在、ゲル形成物質のための溶媒を使用することによって、特に最終的なゲル形成物質のイオン溶液または他の溶液を構成する成分を溶解することによって、ゲル形成創傷ケア物質が製造および改変されうることを見出している。驚くべきことに、我々は、カルボキシメチルセルロースポリマーがイオン液体に溶解され、続いて再生される場合、修飾セルロースの特性が該工程によって大きく変化はしないことを見出した。したがって、本発明は、化学修飾セルロースをイオン液体と混合する段階を含むことを特徴とする、化学修飾セルロースの溶解方法を提供する。用語「イオン液体」とは、150℃未満の液体である液体イオン化合物を意味する。
【0004】
このような方法の利点は、溶媒と混合する最終的なゲル形成物質の成分が、繊維状でなくてもよいということである。例えば、該成分は、溶解する前に粉末の形態(例えばカルボキシメチルセルロース粉末)であってもよい。
【0005】
また、いくつかの態様において、化学修飾セルロースを溶液にして、それを、これらに限らないが、繊維、ナノ繊維、フィルム、被膜、気泡、およびスポンジのようないずれの形態に直接加工してもよい。これらの形態はすべて、創傷の治療に使用するのに適している。
【0006】
好ましい態様において、本発明は、化学修飾セルロースのイオン溶液を含む溶液を提供し、その中で、前記イオン液体には、150℃未満の液体である液体イオン化合物が含まれる。
【0007】
さらに好ましい態様において、本発明は、化学修飾セルロースの溶液を、前記イオン液体と混合できる化学修飾セルロースのための液体非溶媒と混合することを特徴とし、前記混合によって、該セルロースおよびイオン液体が固相および液相を形成する、化学修飾セルロースの再生方法を提供する。
【0008】
化学修飾セルロースが、多数の溶媒、例えば、三級アミンN−オキシド、N,N−ジメチルホルムアミド/四酸化窒素混合物、ジメチルスルホキシド/パラホルムアルデヒド混合物、および塩化リチウムのN,N−ジメチルアセトアミドもしくはN−メチルピロリドン溶液、並びにイオン液体として記載した溶媒に溶解されうることが見出されている。イオン液体には、実質的に水の不存在下で陽イオンおよび陰イオンが含まれ、それは150℃未満の温度で溶ける。
【0009】
イオン液体の陽イオンは、好ましくは環状であり、構造において、以下:
【化1】

[式中、
1およびR2は独立して、C1−C6アルキル基またはC1−C6アルコキシアルキル基であり、並びに
3、R4、R5、R6、R7、R8およびR9(R3−R9)が存在する場合、これらは独立して、ヒドリド、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシアルキル基またはC1−C6アルコキシ基である]
からなる群から選択される式に対応する。イオン液体の陰イオンは、ハロゲン、擬ハロゲン、またはC1−C6カルボン酸イオンである。2つの異性体の1,2,3−トリアゾールが存在することは留意されるべきである。陽イオン形成に必要でないすべてのR基がヒドリドであることが好ましい。
【0010】
イオン液体の陰イオンは、好ましくは、ハロゲンイオン(塩素イオン、臭素イオンまたはヨウ素イオン)、過塩素酸イオン、擬ハロゲンイオン、例えばチオシアン酸イオンおよびシアン酸イオンまたはC1−C6カルボン酸イオンである。擬ハライドは一価であり、ハライドの場合に類似する特性を有する。擬ハライドには、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、雷酸イオンおよびアジド陰イオンが含まれる。1〜6個の炭素原子を含むカルボン酸陰イオンは、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、ヘキサン酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、シュウ酸イオン、乳酸イオン、ピルビン酸イオンなどで例示される。
【0011】
修飾セルロースの溶解のために、我々は、以下のイオン液体が特に好ましいことを見出した:
ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド
1−ブチル−1−メチルピロリジウムジシアンアミド
N−ブチル−4−メチルピリジニウムジシアンアミド
【0012】
ゲル形成物質とは、浸出液を取り込むと、湿って滑りやすくなり、またはゼラチン質となり、そのため該物質が創傷に付着する傾向が低下する吸湿性物質を意味する。ゲル形成物質は、浸出液を吸収しても、その構造の完全性を保持している型であってもよく、または浸出液を吸収すると、その形態を失い、構造を持たないゲルとなる型であってもよい。
【0013】
本発明の工程によって製造されるゲル形成物質には、化学修飾セルロース系繊維、好ましくは溶媒紡糸ナトリウムカルボキシメチルセルロース繊維、特にPCT WO/9312275に記載されたカルボキシメチル化セルロース繊維が含まれる。セルロース系繊維は、好ましくは、グルコース単位あたり少なくとも0.05 カルボキシメチル基の置換度および少なくとも10cN/texのテナシティ(tenacity)を有する。
【0014】
本発明は、次に以下の実施例によって記載される:
実施例1
イオン液体である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを、70℃の水浴中に置いて溶かした。約0.1グラム程度のWO 93/12275の特許に記載された繊維またはアクアソーブ(Aquasorb)(ヘラクレス社(Hercules Inc)によって製造)を、20ml シンチレーションバイアルに量り分けた。十分に溶けたイオン液体をバイアルに加えて、1重量%のポリマーの最終濃度を得た。蓋のないバイアルを電子レンジ中に置き、最大電力で5秒間加熱した。バイアルを取り出し、溶液を混合した。ポリマーの全溶解に達するまでこれを繰り返した。
【0015】
溶液の試料を、21ゲージ(guage)の針を有するシリンジから過剰のIMS(ポリマーのための非溶媒)の中に押し出すことによって、溶液を紡糸する。凝固した繊維を、濾過によって回収した。
【0016】
該溶液の試料を、端部が平坦な(flat ended)25ゲージの針を通してフィードし、正の20kVの電荷を針に加えることによって、繊維を電界紡糸しうることもまた明らかとなった。接地板までの距離は15cmであった。
【0017】
押し出された繊維の試料を溶液A(塩化ナトリウム/塩化カルシウム溶液 BP)で水和させ、それは出発物質のポリマーに類似する特性を示した。
【0018】
実施例2
イオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いて、WO 93/12275の特許に記載された繊維の2重量%の溶液を製造し、商標アクアセル(Aquacel)(登録商標)の下で販売した。繊維の塊(flock)を周囲温度(必要なら加熱)で溶媒中に分散させて、溶液を形成する。
【0019】
紡糸口金(Spinneret)の形態を通して、または400ジェット(jet) 直径74ミクロンの平行側面(parallel sided)キャピラリーまたはまっすぐな側面(straight sided)の円錐形の注入口を有する同じキャピラリー、または双曲線状に曲がった注入口のコーン(inlet cone)を有する同じキャピラリーを通して溶液の試料を押し出すことによって、溶液を紡糸した。ドープ速度(dope velocity)は2m/分〜10m/分で、過剰のエタノール(ポリマーのための非溶媒)の中に紡糸した。凝固した繊維を、濾過によって回収した。
【0020】
生じた繊維は、乾燥した繊維が平均直径15ミクロンであり、水和状態が平均直径38ミクロンであった。
【0021】
実施例3
イオン液体である1−エチル,3−メチルイミダゾリウムアセテートを用いて、ヘラクレス アクアロン(Aqualon) A−500の2重量%の溶液を製造した。該粉末を周囲温度(必要なら加熱)で溶媒中に分散させて、溶液を形成する。
【0022】
紡糸口金(Spinneret)の形態、または400ジェット(jet) 直径74ミクロンの平行側面(parallel sided)キャピラリーまたはまっすぐな側面の(straight sided)円錐形の注入口を有する同じキャピラリー、または双曲線状に曲がった注入口のコーン(inlet cone)を有する同じキャピラリーを通して溶液の試料を押し出すことによって、溶液を紡糸した。ドープ速度は2m/分〜10m/分で、過剰のエタノール(ポリマーのための非溶媒)の中に紡糸した。凝固した繊維を、濾過によって回収した。
【0023】
生じた繊維は、乾燥した繊維が平均直径29ミクロンであり、水和状態が平均直径189ミクロンであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷ケアに使用するのに適したゲル形成物質の成分の溶解方法で、前記成分をイオン液体と混合する段階を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
該ゲル形成物質がゲル形成繊維である、請求項1の方法。
【請求項3】
該ゲル形成繊維が修飾セルロース繊維である、請求項2の方法。
【請求項4】
該イオン液体が、三級アミンN−オキシド、N,N−ジメチルホルムアミド/四酸化窒素混合物、ジメチルスルホキシド/パラホルムアルデヒド混合物、および塩化リチウムのN,N−ジメチルアセトアミドもしくはN−メチルピロリドン溶液の群から選択される、請求項1〜3のいずれかの方法。
【請求項5】
該創傷ケアに使用するのに適したゲル形成物質の成分が、カルボキシメチルセルロース粉末である、請求項1〜4のいずれかの方法。
【請求項6】
化学修飾セルロースのイオン溶液を含む溶液。
【請求項7】
該イオン液体が、三級アミンN−オキシド、N,N−ジメチルホルムアミド/四酸化窒素混合物、ジメチルスルホキシド/パラホルムアルデヒド混合物、および塩化リチウムのN,N−ジメチルアセトアミドもしくはN−メチルピロリドン溶液の群から選択される、請求項6の溶液。
【請求項8】
該化学修飾セルロースがカルボキシメチルセルロース粉末である、請求項6および7の溶液。
【請求項9】
化学修飾セルロースのイオン溶液を、前記イオン液体と混合できる化学修飾セルロースのための液体非溶媒と混合し、前記混合によって、該セルロースおよびイオン液体が固相および液相を形成することを特徴とする、化学修飾セルロースの再生方法。
【請求項10】
化学修飾セルロースのイオン溶液を、該イオン液体と混合できる化学修飾セルロースのための液体非溶媒の槽の中に紡糸し、前記紡糸によって、該セルロースおよびイオン液体が繊維相および液相を形成することを特徴とする、化学修飾セルロースの電界紡糸法。

【公表番号】特表2010−510405(P2010−510405A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537700(P2009−537700)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004488
【国際公開番号】WO2008/062209
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(509146126)コンバテック・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】CONVATEC TECHNOLOGIES INC
【Fターム(参考)】